声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

130 お金ってあればあるだけ飛んでくもの

「酷い目に遭ったぜ」
「自業自得だ」

 バッシュ・バレルは昨夜の事をソファーに寝転がって振り返ってる。結局あの後、こいつが負けた分を立て替えて解放して貰ったんだよね。これで完全に自分に頭上がらなくなったな。まあでもこいつは作品で納得出来ない事があったらずかずか言ってきそうだが……それを求めてるからそれはまあいい。

 けどかなり額を払ったから、それ以外ではイヤとはいわせない。本当にこいつどんだけ負けたんだよっ思った。まあなんとかカードで払う事が出来た。それはバルクさんに渡されたカードで……じゃない。自分のカードでだ。流石に人のカードであんな大金を出すのはためらわれた。まあバルクさんなら気にしないだろうが、それでもね。

「ちゃんと返せよ」
「わかってる。映画を大ヒットさせてそれでチャラな」

 こいつ……自分が作る物が絶対に受けない訳ないという自信しかないみたいだ。まあ確かにこいつは自分だけで……言うのはこいつの率いてるチームの面々に失礼だが、その集団もこいつの才能のサポートをするためにあるようなものだ。だから実質、こいつの才能一つでここまで来たのは確かなんだよな。
 だから自信過剰になるのもわかる。それに確かに映画が大ヒットすれば、今回払った額なんてのははした金になるだろう。なにせハリウッドである。日本の邦画の規模とは訳が違う。大ヒットすれば、数千億円の規模の金を稼ぎ出すのだ。

 でも流石に最初からそんな大ヒットは難しいと思ってる。なにせこっちは新作だし無名だ。集客力がぶっちゃけない。ならどこで集客力をつけるかと言うと、それは俳優になる。日本でもよくやる『あの人が主演!』とかいう謳い文句である。

 それをすれば、その俳優のファンはとりあえず見に来てくれるだろう。でもそれに難色を示してるのが、バッシュ・バレルである。こいつ、映画の撮影の機材とかロケ地とか、セットとかにほとんどの金を使う気である。俳優なんてのは、大物を使う必要性なんてなくて、寧ろこの映画で大物にしてやるぜ! って息巻いてる。まあそれも悪くない。悪くないが……それにうんと言えるかと言えばそうじゃない。

 確かにこれが百パーセント、バルクさん出資の映画ならそれでも良かったかもしれない。けど、一番金を出してるのは彼でも、そのほかにもお金を出してくれてる人たちはいる。その人達は別に善意でお金を出してる訳じゃない。映画を作ってそれを公開して、そしてその興行収入の何割かを貰って利益を出そうとしてるんだ。つまり自分たちは投資先な訳だ。

 このままじゃ、全く無名の……まあバッシュ・バレルはそれなりに有名だが、それでも限定的だ。それに映画なんて初めてな訳で、ネームバリューとしては弱い。昨夜は自分を知ってる人にあったが、あれはジュエル・ライハルトがオタクだったから自分の事をしってただけで、大多数の人はしらないだろう。

 それに自分の本もまだ全世界に流通してる訳じゃない。そうなると更に……ね。なら全世界で顔が売れてるハリウッドスターを使うべきなんだ。でもハリウッドスターの起用額はそれこそ日本の俳優とかの比ではない。それこそ一人で億を持ってく連中である。

 バッシュ・バレルが無駄だという気持ちもわかる。けどね……

「今夜はどうする? また行くか?」

 行くってのはカジノだろう。こいつは昨夜の事を懲りてないらしい。けど今日はカジノはなしだ。

「いや、昨日知り合った人に劇場のチケットをもらってる」
「なに? 女か?」

 こいつは直ぐに男か女か聞くな……ガツガツしすぎだろう。

「男だよ。劇場俳優らしい。その人が自分の本のファンらしくてさ」
「つまり、売り込んで来たと言うことか。おおう、この劇場かなりの奴だぞ。そこで出来るとなると……今夜は決まりだな」

 何やら色々と察してにやっと笑うバッシュ・バレル。いや、お前が決めたわけじゃないからね。

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