声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

114 私、主演だった。

「あのあの~、私思うんですけど~」

 来た……と私はまた思った。今は色々と愛西さんのラジオの構成をしって、それにそれぞれに意見を出し合ってる。まあ私たち素人が何を言うんだと思うところだけど、いろいろな意見を交わし合うのは大切だと言うことだ。それに何か大きく愛西さんの案を崩すわけじゃない。
 私たちの意見は提案なのだ。一応キャラの掛け合いのキャラとかは仮だし、後は色々と企画を自分たちでも提案したりだね。

 そしてすぐに前に出てくる浅野芽衣。すぐに意見を言うなんてとてもヤル気があると思うじゃん。

「ちょっと匙川先輩に頼りすぎっていうかぁ? もっとラジオならリスナーとの掛け合いとか有った方がいいですよ~。私がお便り紹介したいです~」
「それは勿論、やるさ。だがそこも普通のお便りコーナーでは面白くないだろう。声優ではなく、キャラを出す意味を見いだしたんだよ」
「だから、質問もその週のキャラの掘り下げとかをメインにやるんですか?」
「ああ。そのラジオの出演キャラは事前にSNSなどで告知しておいて、そのキャラへの質問を集めておく。それを匙川がキャラとして返してく形だな。お前の役目はちゃんと質問を読むことなんだから日本語勉強しとけよ」
「大丈夫です。私、日本語以外喋られませんから」

 あっけらかんとそう言い放つ浅野芽衣。こいつ、愛西さんがそう釘を刺す意味わかってる? 結構信頼されてないぞ。いや、浅野芽衣はかんじゃったりした方が、目立って良いとか思ってるのかもしれないけど……そういうことするとこの人普通に怒りそうだけどね。

 最初はあんなにヤル気無かったのに、一度やるとなればちゃんとするところはやはりプロだ。

「でも流石に匙川先輩が苦しくなってきたら、私が助けたりしちゃったりしても良いんですよね? ラジオなんだから、無言とかダメですもんね」
「まあ、それはそうだが……」

 そう言って何やら浅野芽衣が私に向かって目をパチパチとしてくる。なにかな? 目にゴミでも入ったのかな? それはお気の毒に。てかさっきから、その言質を取ってから私にウインクしてくるの何? その暗に「わかってるよね?」的な圧力を掛けてくるの止めてくんない? しらんし。

「浅野さん、快く受けてくれたことは感謝してますが、これはあくまでアニメのラジオなので主演の匙川がメインで行くのには変わりませんからね」

 主演……今マネージャーが私が主演って言ったよ。よく考えた確かにその通りだった。何せ声優は私一人でやってるアニメである。私以外に主演声優なんていないのだ。なら……ならば……それって私が主演って事じゃん!! 今更だが、気付いた。

「わかってますよ~。けど、それって違いますよね? 主演は匙川先輩じゃなく、あくまでキャラ。私の名前は紹介しても、匙川先輩の名前は言わなくても良いんですよね?」
「それは……そうだが」

 くっ、浅野芽衣の正論に私は密かに傷つく。けど、その通りなのだ。一応私はアニメのクレジットでは名前が出てる。だから出しても別に良いんだけど、ラジオも結局キャラを前面に押し出して行く構成だ。それに私も納得してるし、その方がいいと思ってる。
 だから私はラジオでキャラの名前は名乗っても、自分の名前『匙川ととの』とは名乗らない方向だ。なので浅野芽衣の言うとおりなのだ。だからここで傷つくのはお門違い。お門違いとはわかってるのに、やっぱり私のちょっとした羨望というか、憧れが潰えて傷つく。自分で言う分にはいいよ。けど、なんか浅野芽衣に言われると傷つく。何これ? 私はちょいちょい傷つきながら、この会議を進めてく。

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