声の神に顔はいらない。
102 ゆめはいつみたっていいじゃない
「何のようだ?」
ピンが再び置かれて弾が戻ってくる間に、彼愛西さんはそう聞いてきた。それに田無さんが応える。
「今日はお仕事のお話がありまして」
「ふん、帰れ。俺はもうラジオの脚本なぞ書かん」
何やら、訳ありそうな声のトーンでそういう愛西さん。彼は無精ひげを蓄えてしわしわのシャツを着て、腕まくりしてボウリングをしてる。どこのサラリーマンが仕事さぼってやってるのかな? って格好である。歳的には四十は超えてそうにみえる。憂いを帯びた瞳には、心底脚本なんて書かないみたいな意思が見て取れる。
何やらイヤな事でもあったのだろうか? まあこんな業界だし、イヤな事なんかよくあるとは思うけど……有能と言われる人なんだよねこの人。しかも大手の事務所からそういう評価をもらってるって事は、仕事なんかどんどん来る筈だ。
私の様に自らオーデションに行き、売り込む必要なんてないんだろうな。そう考えたら、私的には良いご身分って感じだ。声優を指名とかされてみたいよ。まあそんな事が起きたら、色々とたたかれそうだけどね。あの静川秋華だってオーディションに来てたことを考えると、難しいよね。
私がそんなことを考えてると、田無さんが愛西さんにその理由を聞いてた。
「それは何故ですか? こちらに問題があるなら、改善する努力はしますが?」
「ふん、聞いて驚け。俺はプロボウラーになるんだ!!」
私達は一体どんな表情をしてるんだろう。まさかこんなおっさんが、キラキラした目で新たな夢を語るところを聞かせられるとは思ってなかった。確かにプロかな? とは思ったけど……この業界変な人ばかりいるよね。いや、夢見ることを否定はしないけど……
「そうですか。では今回の件なんですが――」
「お前、俺はプロボウラーになるって言ってんだろ!?」
田無さん強い。彼の反応を見るに、別段この人が突飛なことを言うのは今回が初めてって訳でもなさそうだ。
「まあまあ、きくだけ聞いてくださいよ」
そう言って田無さんがこちらに視線を向けてくる。愛西さんは「けっ」と言って戻ってきたマイボール? なのか知らないが、それをタオルで拭いてる。今ならいいんだろうか? 私はマネージャーと視線を交わして、うごきだした。勿論最初に動くのはマネージャーである。私は後ろをついてくだけだ。
「初めまして愛西さん。私どもはウイングイメージ所属のこういう物でして、今回はこの匙川が出演するラジオの脚本を頼めないかと思いまして」
そう言うとマネージャーは私を紹介するように、前を開けた。そしてこちらを見た愛西さんがビクッとした。
「うお、今まで全然気付かなかったぞ。お前……そんなんで本当に声優か?」
それはどういう意味だろうか? 私のような不細工は声優として相応しくないって事だろうか? そもそも声優に顔なんて必要ないはずでは? とかなんとか言いたいことは山ほどあるが、上手く言えるとも思えないし、ぶしつけにじろじろと見てくるこの人に既に苦手意識が出来た私は名前だけ言うのが精一杯だった。
ピンが再び置かれて弾が戻ってくる間に、彼愛西さんはそう聞いてきた。それに田無さんが応える。
「今日はお仕事のお話がありまして」
「ふん、帰れ。俺はもうラジオの脚本なぞ書かん」
何やら、訳ありそうな声のトーンでそういう愛西さん。彼は無精ひげを蓄えてしわしわのシャツを着て、腕まくりしてボウリングをしてる。どこのサラリーマンが仕事さぼってやってるのかな? って格好である。歳的には四十は超えてそうにみえる。憂いを帯びた瞳には、心底脚本なんて書かないみたいな意思が見て取れる。
何やらイヤな事でもあったのだろうか? まあこんな業界だし、イヤな事なんかよくあるとは思うけど……有能と言われる人なんだよねこの人。しかも大手の事務所からそういう評価をもらってるって事は、仕事なんかどんどん来る筈だ。
私の様に自らオーデションに行き、売り込む必要なんてないんだろうな。そう考えたら、私的には良いご身分って感じだ。声優を指名とかされてみたいよ。まあそんな事が起きたら、色々とたたかれそうだけどね。あの静川秋華だってオーディションに来てたことを考えると、難しいよね。
私がそんなことを考えてると、田無さんが愛西さんにその理由を聞いてた。
「それは何故ですか? こちらに問題があるなら、改善する努力はしますが?」
「ふん、聞いて驚け。俺はプロボウラーになるんだ!!」
私達は一体どんな表情をしてるんだろう。まさかこんなおっさんが、キラキラした目で新たな夢を語るところを聞かせられるとは思ってなかった。確かにプロかな? とは思ったけど……この業界変な人ばかりいるよね。いや、夢見ることを否定はしないけど……
「そうですか。では今回の件なんですが――」
「お前、俺はプロボウラーになるって言ってんだろ!?」
田無さん強い。彼の反応を見るに、別段この人が突飛なことを言うのは今回が初めてって訳でもなさそうだ。
「まあまあ、きくだけ聞いてくださいよ」
そう言って田無さんがこちらに視線を向けてくる。愛西さんは「けっ」と言って戻ってきたマイボール? なのか知らないが、それをタオルで拭いてる。今ならいいんだろうか? 私はマネージャーと視線を交わして、うごきだした。勿論最初に動くのはマネージャーである。私は後ろをついてくだけだ。
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