声の神に顔はいらない。

ファーストなサイコロ

86 北風が盗んでいく

 取り敢えず私達は公園に来てた。夜の公園……その、響きだけでなんか、危ない様な、エロい様な気がする場所だ。
 本当ならファミレスとかカラオケとかが希望というか候補だったんだけど……生憎この駅周辺にはそのどちらもなかった。だからここは本当に東京かと問いたくなったよ。

 東京の駅周辺にカラオケもましてやファミレスも一軒もないなんて信じられなくてグーグルマップを使ってみたが、確かに何もなかったよ。
 いや、厳密には飲食する所はあった。けどそれは居酒屋だったんだよね。篠塚宮ちゃんは現役女子高校生だ。
そんな子を居酒屋に連れてく訳には行かない。それに居酒屋って真剣な話しをする場所じゃなくない?
偏見かも知れないが、周りが酔っ払いばかりの中でそんな話はね。

 まぁ単純に女子高校生をそういう所に連れてく怖さもあるし……残念だけど私では何かあっても宮ちゃんを守る事は出来ないんだ。一駅、二駅くらい行けばファミレスある場所に行けるらしいけど、彼女は未成年だし、なるべくならちゃんと家に返して上げたい。相談がどのくらい掛かるかわからないし、まだ、余裕があるといってもそこは気をつけておきたい。

 だからまぁ、消去法でこんな公園になった。一応街灯がチカチカして怪しい雰囲気を醸し出してるわけでもないし、周囲には民家もある。変な奴が、来ても大声を出せばどうにかなるだろう。声優やってるだけあって、声量には自信あるし。

 私は宮ちゃんと共に公園のブランコに座ってる。ベンチもある公園なんだけど何故か宮ちゃんがブランコに座ったから仕方ない。
 ブランコって絶対二つ一組であるよね。何でなんだろうか? キィキィとブランコの関節部分の音が夜の公園に響く。

(そういえばブランコに座るなんていつぶりだろう?)

 私がそんなどうでもいいことを考えてると、宮ちゃんがポツリポツリとこうなった経緯を教えてくれた。

「今日、私の学校に私のファンだと言う人が現れたんです」

 おう……と思った。ファンの事は大切だ。けどそういうのは常識として駄目でしょう。

「イケメンだった?」

 私はイケメン無罪と言う都市伝説に賭けてみた。それに最近は見た目だけならマシなオタクは、増えてるらしい。

「いいえ、脂ぎった小太りの男性で白のタキシード着てました」
「おぅ……」

 今度は流石に声が漏れた。いやだって……ね。耐えられないでしょ! 関節的に聞いてる私でこれだ……宮ちゃんの恐怖は計り知れない。

「いえ、その人は別に悪い人ではなかったんです」
「悪くはなくてもそれは危ない人だよ!」

 タキシード着て突撃してくるオタクまで寛容に受け入れちゃう宮ちゃんは天使だけど、その認識では危険だ。
 私がちゃんと教えてあげないと――

「いえ、確かに突然名前呼ばれた時は格好も相まって見の危険を感じたんです」

 ――うん、ここまでは正常だね。なにもおかしくないと思う。

「でもその人は私に対して一定の距離をあけてそこからは絶対に近寄って来なかったんです。それに私の事、応援してるって伝えたかっただけらしいんです」
「そのまま帰ったって事?」
「はい」

 うーん、何それ? どう判断すればいいか困るな……

「けど、それだけだとしても……ね」
「そうですね、ちょっとした騒ぎになはなりました。私の友達が通報……とかしちゃったし……」

 友達に罪はないねそれ。その怪しいオタクが悪い。百パー悪い。

「そして色々と騒ぎになったから、親にも連絡が行って……」
「えっと、宮ちゃんは親御さんは知ってるんでしょ? 声優やってるのは」
「勿論です。けど……こんな事が起きたら……次はどうなるか分からないし、それに一人が来たって事はこれから持っと来るかもって……」
「それは……確かに……」

 一人のオタクがやってきたら、その情報は既に拡散しててもおかしくないよね。まあその人は紳士? だったから大事には至らなかったが、本当に危ない奴が宮ちゃんの学校とか特定してる可能性はある。

「それで両親はもうやめた方がいいんじゃないかって……」
「宮ちゃんはなんて答えたの? てか、やめるって電話越しでは言ってたよね? それは親御さんに説得されたって事? でもそれなら駅で簀巻きになってるのおかしい様な?」

 両親といざこざがあった訳じゃないのなら、駅でくるまってる必要性ないよね?。話の流れ的に、オタクに種襲撃されて、それで両親が声優を危険だからやめなさいっていってきて、それに宮ちゃんが反対して、勢い勇んで家を飛び出した……の流れじゃない?

 でもそれだと、電話で聞いた宮ちゃん自身の口からきいた『声優をやめる』という言葉につながらないんだよね。どういうことだろうか? 

「私……くちゅ!」
「やっぱり外は寒いよね。あったかい物奢ったげる」
 
 私はそういってプラン子から立ち上がった。丁度公園の中に自販機がある。そこでホット飲料を買おう。宮ちゃんの話は気になるが、急かす事じゃない。ゆっくりと聞くのがいいはずだ。遠慮する宮ちゃんを制して私は自販機に向かったよ。

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