声の神に顔はいらない。
33 二つって事 2
「うへ~おーくれちったー。んお? なんかすっげー不細工がいるぞ~がはははは」
いきなり収録ブースに乱入してきたおっさんが私を指さして豪快に笑ってる。何……これ? 確かに私は不細工だよ。誇れる顔なんてしてないのわかってる。けどここまで面と向かって言われて更には笑われたのは初めてだ。だって日本人って基本奥ゆかしいじゃん。
いじめられてた学生時代はそれこそ良く言われたりしたが、だってあいつらはこっちを踏みにじる為に言葉を選んで言ってたのだ。だからブサイクとかブスなんて当たり前すぎて別段そいつらいわれてもなんともなかった。
だって元から悪意しかない奴らなんて、悪意ある事しかいわないもん。
けどこのおっさんはどうだ? 私とは間違いなく初対面だ。そんな初対面の相手に開口一番ブサイクと言って笑うだろうか? 普通はしないよねそんな事! しかもこの人は別に私に悪感情があった訳じゃないだろう。なにせ初対面だし。
それなのにブサイクといって笑ってる。
「ふぐっ……」
徐に瞳から涙が溢れてきた。ブサイクなんて言われ慣れてる。私は自分がブサイクだってわかってる。けどなんの脈絡もなく、初対面の人にブサイクだって笑わられたら……心にぶっとい槍が刺さった。とめどなく流れ出る涙を見られたくなくて、俯く。けど涙は容赦なく、柔らかい素材の床を濡らす。
「おおうねーちゃん、泣いてるのか? かはははは! 泣いてるぞ!」
目の前が真っ暗になってく感覚。学校を卒業して久しい感覚だ。私の回りを歩き回ってなぶる様に見てくるそいつはとても酒臭い。きっと酔ってる。けど、だからって許せることじゃない。私の呪いノートにこのおっさんもいれておこう。
そんな事を泣きながら思ってると、再びブースの扉が開いて何人かの人たちが入ってきた。
「何やってるんですか大広さん! いないと思ったらこんなに酔って……収録あるって言ってたでしょ!」
「うっしぇええええ! あのお嬢ちゃんが来なくなったんだろ? それでこれだぁ? やる気なんか出るかぁ!」
私はどうやらこの大広と呼ばれた人にとっては「これ」らしい。
「それも大広さんかセクハラばっかりするからでしょう!」
「ちょおおおおと尻触っただけだろー。コミュニケーションじゃろがい!」
「そんな時代じゃないですよもう」
「けっ、こんな奴の尻なんてもめねーぞ」
殺したい。けど、こいつが声を出す度に、私の体は硬直していって、台本に皺が刻まれる。
「取り合えず大広さんはここじゃなくてそっちでしょ。ごめんね。この人の事は気にしないで!」
気にするなって……そんなの無理だ。だって私の心はもうボロボロだよ。その後、まさかだけど収録は再開された。けど、私はいつも通りの声なんかだせなかった。そしてそのせいでさっきの奴が「下手くそだな~」とか「それで声優かぁ?」と酔った声で言ってくる。
なんとあれ……音響監督らしい……私の震えも涙も抄録が終わるまで、いや終わっても止まる事はなかった。
いきなり収録ブースに乱入してきたおっさんが私を指さして豪快に笑ってる。何……これ? 確かに私は不細工だよ。誇れる顔なんてしてないのわかってる。けどここまで面と向かって言われて更には笑われたのは初めてだ。だって日本人って基本奥ゆかしいじゃん。
いじめられてた学生時代はそれこそ良く言われたりしたが、だってあいつらはこっちを踏みにじる為に言葉を選んで言ってたのだ。だからブサイクとかブスなんて当たり前すぎて別段そいつらいわれてもなんともなかった。
だって元から悪意しかない奴らなんて、悪意ある事しかいわないもん。
けどこのおっさんはどうだ? 私とは間違いなく初対面だ。そんな初対面の相手に開口一番ブサイクと言って笑うだろうか? 普通はしないよねそんな事! しかもこの人は別に私に悪感情があった訳じゃないだろう。なにせ初対面だし。
それなのにブサイクといって笑ってる。
「ふぐっ……」
徐に瞳から涙が溢れてきた。ブサイクなんて言われ慣れてる。私は自分がブサイクだってわかってる。けどなんの脈絡もなく、初対面の人にブサイクだって笑わられたら……心にぶっとい槍が刺さった。とめどなく流れ出る涙を見られたくなくて、俯く。けど涙は容赦なく、柔らかい素材の床を濡らす。
「おおうねーちゃん、泣いてるのか? かはははは! 泣いてるぞ!」
目の前が真っ暗になってく感覚。学校を卒業して久しい感覚だ。私の回りを歩き回ってなぶる様に見てくるそいつはとても酒臭い。きっと酔ってる。けど、だからって許せることじゃない。私の呪いノートにこのおっさんもいれておこう。
そんな事を泣きながら思ってると、再びブースの扉が開いて何人かの人たちが入ってきた。
「何やってるんですか大広さん! いないと思ったらこんなに酔って……収録あるって言ってたでしょ!」
「うっしぇええええ! あのお嬢ちゃんが来なくなったんだろ? それでこれだぁ? やる気なんか出るかぁ!」
私はどうやらこの大広と呼ばれた人にとっては「これ」らしい。
「それも大広さんかセクハラばっかりするからでしょう!」
「ちょおおおおと尻触っただけだろー。コミュニケーションじゃろがい!」
「そんな時代じゃないですよもう」
「けっ、こんな奴の尻なんてもめねーぞ」
殺したい。けど、こいつが声を出す度に、私の体は硬直していって、台本に皺が刻まれる。
「取り合えず大広さんはここじゃなくてそっちでしょ。ごめんね。この人の事は気にしないで!」
気にするなって……そんなの無理だ。だって私の心はもうボロボロだよ。その後、まさかだけど収録は再開された。けど、私はいつも通りの声なんかだせなかった。そしてそのせいでさっきの奴が「下手くそだな~」とか「それで声優かぁ?」と酔った声で言ってくる。
なんとあれ……音響監督らしい……私の震えも涙も抄録が終わるまで、いや終わっても止まる事はなかった。
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