カッコ付け奮闘記

ファーストなサイコロ

第二話『真実・家族』

 冷たい牢獄だ。そこにおじさんは密かに幽閉されてる。結局おじさんは何も出来なかったんだ。あれから既に四日。きっと外では勝ち上がった一般人達が軍の兵とともに、ドラゴン討伐の特別部隊に加えられてる頃だろう。


「くそ……なんでこんな……アイツの死も結局無駄になってるじゃないか」


 そう言って頭を抱える。すると今日の食事を運ぶ音が聞こえて来た。一日二回のこの食事で何日経ったのか知る事が出来る。


(いつまでもこんな所に居れない。今日は絶対に仕掛ける……そう絶対に)


 そう心に決めたおじさんの手の中には忍ばせておいたナイフが一つある。


(今日こそは……)


 イメージとしては食事を牢の中に入れる時。腕を掴んで引き寄せて首に腕を回してホールド。そしてのど元の隙間にナイフを突きつける。


(イケル……イメージ練習は四日した。今度こそ実行のときだ)


 近寄って来る足音。それに神経を集中させてその時を待つおじさん。


(来い……さあ来い……さあ!」


 目をカッと見開いたおじさん!


「済まんな放って置いて。こちらも今が一番忙しくてな」
「……………」プルプルプル


 完全に意表を突かれた。行き場の無い決意が体から溢れそう。だけどここでしても制圧されるだけ……だからおじさんは震えるしかない。


「どうしたそんなに震えて? 私の事を忘れたか?」
「え?」


 見上げるとそこに居たのはいつもの鎧に身を包んだ無骨な奴じゃなく、騎士総長様だった。その瞬間理性って奴がおじさんの頭から吹き飛ぶ。


「お前はあああああああああああああ!!」


 ナイフを突き立てて襲いかかるおじさん。だけど腕を掴まれて簡単に間接を決められた。


「くっそ!」
「酷いな君は……まあ致し方ないがな。私の事を忘れたか?」
「忘れるか! 忘れてないから、こんなに怒ってんだろうが!!」
「君は昔から変わらないな」
「うおっ!」


 そう言っておじさんを突き放す騎士総長。解放されたおじさんはナイフをもう一度握りしめる。


「止めておいた方がいい。死にたく無かったらな」
「……っ、死にたくなんかねぇよ。だがな、それはあいつだって同じだったんだ。アイツは俺を逃がそうとしてくれた。そのせいでお前に……どうしてだ? どうしてこんな風に成っちまったんだ! お前だって昔は一緒に英雄に憧れてたじゃないか!」
「……昔のことだな。それに青臭い正義も、憧れた夢も、既に無くしたよ。この世界の真実を知ってな」
「真実?」


 おじさんは警戒を怠らない。だけど騎士総長は脅威とも思ってないのか、その場に座り込んで持って来てた酒をドカッと置く。


「まあこんな所でなんだが、少し話をしようじゃないか。旧友との再開だ。まあ四日越しの……だがな」
「そんな気分に見えるか? 確かに昔のお前は友だった。だが夢も誇りも無くしたお前は……」
「友でもないか。なら夢が枯れたおっさんと夢を持ち続ける愚かなオッサンとして語ろうではないか」


 そう言いつつ、騎士総長様は酒をかっこむ。そしてこっちにグラスを投げて来る。一応受け取ったけど……おじさんは同じ酒を煽る気には成れない。だけど近くには行った。話す気はあったから。


「どうして……どうして殺した?」
「殺した? ああアイツか。殺してなどない」
「ふざけるな! 俺はこの目で……この目で見たんだぞ。お前がその剣でアイツを……」
「そうだったか? じゃあ今日圧倒的な戦績で選抜試験を勝ち上がり、宣誓をしたのは誰だったんだろうな?」
「何?」


 騎士総長は映像デバイスを手の平にのせてその時の映像を再生させる。それは確かに、おじさんが知ってる青年の姿を映してた。しかも元気一杯に手を振ってる。満足げな表情。それは自分が知ってる青年である筈なのに、目を疑いたくなる映像だ。


「なっ? え!? --どういうことだ? 確かにお前はこいつを……何かしたのか?」
「何もしてないさ。奴はそう言う存在というだけだ」
(意味が分からない)


 説明が足りないんだ。


「もっと分かる様に言え」
「あれが英雄の正体なんだよ」
「英雄の正体?」
「あいつは……政府が細胞レベルから作り上げた人じゃない生命体だ。全ての能力が我らを凌駕してる。英雄に成る為に作られ育てられた存在だ」
「んな!? そんな……いや、だってお前はアイツを殺しただろ! 凌駕してないじゃないか」
「あれも必要な事だったんだ。この先発試験がなんの為に行われてるのか分かるか?」
「だからドラゴンに挑める者を外からも求める為……」
「はは、挑ませた所で勝者は既に決まってる。英雄は既に作られてるんだからな」
「だ……だけど、あいつが絶対に勝てるって保証がどこにある? 相手はドラゴンだぞ!」
「勝つさ……絶対に。英雄を作り出すシステムにはカラクリがある。それは英雄を用意するだけじゃないからな」
「まさか……」
「流石の君でも気付けるか。その通り、カラクリはドラゴンにもある。あれは世界に一年毎に現れるとされてるが--」
「違うのか?」
「いや、その通りだ。その通りだが、いままで現れた『ドラゴン』と呼称されたモンスターが本物だったと、いつから錯覚してた?」
「何?」


 おじさんは騎士総長の言葉がわからなくなってきてる。


「その予兆があってから現れるまでには猶予がある。その間に仕掛けれるんだ。その手段を政府は確立してる。本当の英雄は最初の一人だけだ。それ以降は全てこの国に寄って干渉されたドラゴンが召還されてるに過ぎない」
「そんな事が……」
「国家規模の魔法だ。それにそんな難しい事をやってる訳じゃない。空に出来るあの黒い穴がエネルギーを持ち、異界のドラゴンを召還する。だからこの国はあの穴のエネルギーを別の方向へ誘導する術を開発したんだ。
 適当なモンスターを事前に捕獲して、後は魔法の発動と共に、そのモンスターを制約付きで穴へ転送させれば、穴のエネルギーを与えられて巨大化と凶暴化した『ドラゴン』と呼ばれる脅威に変貌を遂げる。
 だがそのドラゴンには事前の制約魔法である程度の干渉が出来る。それで必ず倒せるドラゴンと言う脅威のハリボテが完成するんだよ」
「そ……そんな……じゃあこの世界に英雄は?」
「居ない」
「世界を滅ぼす脅威は!?」
「そんな物、遠の昔に解決済みだ。そして君が気にするあの青年も作られた存在と言ったろ? あれは全ての経験を吸収する。この先発試験はあれに、様々な経験を詰ませる為だけの興行でしかないんだよ」
「嘘……だろ? そんな……」


 おじさんは縋る様な目で騎士総長に詰め寄る。倒れる酒。そしてグラス。トプトプトプトプ--と薄暗い牢屋に酒が染み渡る。


「それはこの国が強くあるため。そして色々と都合が良いからだ。君がこの話を信じたく無い気持ちは分かる。だがこれは真実だ。ドラゴンなんて化け物に、毎度毎度勝てる程、世界はそんな甘く作られてなんか無いんだ。本当はな」
「くっ……くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 おじさんは壁に拳を突き立てて叫ぶ。叫ばずにはいられない。ずっと夢見てた英雄は虚像だったんだ。


「……これからお前は何をするんだ?」
「別に世界を滅ぼしたい訳じゃない。民衆に危害は加えないさ。だが真実は知ってもらう。世界に英雄なんていない。それは民衆の希望を壊す物かもしれんが、このまま騙され続けるのも不憫だろう。用意はずっと進めて来た。こんな茶番は今年までだ」


 大きく酒を煽って、立ち上がる騎士総長。


「すまんな。夢を壊して。だが君ももう良い歳だ。現実を見て、堅実に生きてくれ。これは返しておくよ。チケットも用意した。明日までにこの地から離れる事を薦めるよ」


 そう言って騎士総長様は扉を開けたまま出て行った。おじさんの足下には武器が置いてある。おじさん愛用の武器だ。求めてた物は戻って来た。だけど……おじさんの心にはぽっかりと穴が空いたみたいだった。


「英雄は……いない。ずっと夢見てた英雄はもう……いないんだ」




 待ちをずっとフラフラするだけで、青年が本当に生きてるのは確認出来た。どこもかしこも、青年のポスターみたいなのが映し出されてる。ドラゴンを倒す前から英雄みたいな物だ。確かにこんなのおかしいのかもしれない。だけど誰も疑問に思う者なんかいない。だって今までもこれで良かったんだから。
 電車のチケットと共に、お金まで用意してくれてた騎士総長様。それを使って駅のホームで憂鬱な気持ちで電話をかける。ダイヤル式の公衆電話を回して、受話器から呼び出し音が響く。


「はい、もしもし。あっ、お父さん」
「よう娘」


 映像として映し出されたのは我が家の風景と愛する娘の姿だ。


「もう、どうしたのよ。ちゃんと結果は報告してねって言ってたのに……そりゃあね、言い辛いの分かるよ。だけどこっちは心配しちゃうんだからね」
「ご……ごめん」


 ほんとお母さんに似て美人なしっかりさんに育ってくれて……なんだか娘の顔を見てるだけで涙が出て来るな。


「お父さんなんだかちょっとおかしいよ? いつもは来年があるんだ~って強がるのに?」
「いや……もう良いかなって。もう十分やった様な気がする。俺の年じゃもう限界なのかもしれない」
「お父さん……それ本気なの?」


 おじさんは小さく頷く。するとさっきまでとは違う冷たい声が聞こえた。


「あっそ、じゃあもう帰ってこなくていいから」


 ガシャンという音と共に途切れる通話。ええええええええええ!? だ。お金を急いで入れてもう一度掛け直す。


「はいもしもし?」
「なななな、なんで切っちゃうんだ!」
「え~とどちら様ですか? 私貴方みたいな人知りません」
「お父さんだよね!? 貴方なんて止めてお父さんと呼んでくれ!」
「お父さん? 私の知ってるお父さんはそんな格好悪くないです。確かにダサいし年の割に夢を捨てきれない人だけど……限界をきめるのは自分だっていつも言ってる。夢を追いかけるその姿だけはかっこ良かった……でもそれすらも捨てるのなら、私達との約束も忘れたのなら、戻ってこなくていい!!」


 ガチャーンと再び切れた。ツーツーツーと、寂しい音が受話器の向こうから響いてる。


「約束……」


 思い出す娘と息子の声。流れ出る列車。それをおじさんは見送った。



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