命改変プログラム

ファーストなサイコロ

1553 校内三分の計編 163

「姫、どうぞあーん」「姫、お口が汚れてしまってます」「姫」「姫……」

 私は白米と、そして集められたおかずをぱくつきながら、「うざっ」とか思ってた。いや、ここではこのくらいは普通だ。なんというか……本当に私はお姫様なのだ。「姫」という呼称も、ただの愛称……なんかじゃなく、実際、ここの皆は私をお姫様扱いしてくれる。
 それ自体はとても満たされるんだけど……さすがにこうも色々とされるとね。いやありがたいけど……まさにこれがお姫様みたいな感じもするけど。

 私はただ座ってて、すべてを周りの人たちがせかせかとやってくれる。大昔の貴族とか王族とかそんな気分を味わえはする。お世話されてると、前は罪悪感? っていうか自分の無力感的なものを味わって嫌になってた時期もあった。病院にいたときなんかはそうだったと思う。
 面目ないな……とかごめんなさい……って思ってたと思う。けど、今はちょっと違う。私には積極的にそうしたいと思われるだけの魅力があるんだなってわかってる。だからまあ、罪悪感ってのはない。ただちょっと……面倒だからね。でもここも私は変わったのだ。

「こんなペースじゃお昼休み終わっちゃうよ。自分で食べる」
「……姫がそういうのなら、よしなに」

 私はここでは何を言っても肯定されるのだ。過剰な接待が鬱陶しく感じれば、ただちゃんというのである。わがままになるのである。以前の私なら、これだけよくしてくれる人達を傷つけたくない――って思ったことだろう。
 でもそうじゃない。彼らが優先したいのはあくまでも、私の気持ちなのだ。それを遠慮して言わずにいると、どんどんと彼らは過剰になっていく。私がきっと満足してないと感じるんだろう。それはそれで危険なのだ。
 だからあんまりにもうっとおしくなったらちゃんと言ったほうが彼ら、彼女たちのためなのだ。そして自分の……ね。

「姫……今朝のことなんですが」

 一人で箸を使ってお弁当を進めてた私に、倉敷さんはそんなことをいってきた。

「今朝のこと? 化粧してたことかな?」
「はい」
「似合ってなかった?」
「そんなことはないよ。とても……うんいつも君は地上に舞い降りた天使のように可憐だけど、今朝はまるで世界を照らす女神のようだった」
「……どうも」

 この人の口は勝手にきざったらしいことを言う仕様なのかな? 実際そうだとおもうけど……なにせ私を見るたびにこんな感じだし……別に気分を害することはない。褒められてるわけだしね。けど、こう……体の奥がむずがゆくなるんだよね。奇麗やかわいいなんて言葉はとうに言われ慣れてるけど、こうやって堂々と漫画の中のようなセリフを言われると……ね。

「ですが、それはあの男の為……なのですよね? 昨日、彼にはクリスとの関係が疑われましたし」

 愁いを帯びた表情になる倉敷さん。それをみて、周囲の女子たちが「ほふっ」となった。ほふっとは何かというか、なんか見惚れて、思わず口からほふっという空気がでる現象だ。

 え? よくわからない? 推しがいたらきっとわかるだろう。確かに倉敷さんの憂い顔は少女漫画のヒーローが愁いを含んでやりそうな表情だよね。
 一コマぶち抜いてるよ。

(みんな、スオウの事には思うことがあるんだよね。でも私は私だし……みんなの為にスオウを諦めるなんてできないよ)

 みんなか私を慕ってくれてるのはわかってるし、守ってくれてるのは知ってる。でもだからって私は一番欲しいものを諦めるなんてことはしない。だって私は、わがままに生きるのだから。

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