命改変プログラム

ファーストなサイコロ

1246

 僕は一瞬にして会長の眼前に来た。皆が会長に注目してた。僕の行動に気付いてた奴はきっといない。会長自身、僕の行動を視界で追ってた様子はなかったし、今でもそうだ。それはそうだ。ちゃんと最新の注意を払ってた。

 雷帝武装やオリジンに絶対の自信はあるが、相手はあの会長なんだ。幾ら警戒したって足りないなんて事はない。僕は会長の視界の外から、オリジンに切り替え回転を加えて二つのフラングランで二つの剣線を会長の体に刻む。

(入った!!)

 それは確実な感触だ。今までオリジンをプレイヤーに向かって使うのはなるべく控えてた。なぜならオリジンは破壊の力だからだ。オリジンはコードを……データを壊す。そんなのプレイヤーに向けて、キャラのデータ自体が壊れるとか……そんなの恐ろしいじゃん。
 最悪何が起きるかわからない。もしかしたら、そのキャラではもうプレイ出来なくなる可能性だってある。そうったらそのプレイヤーから恨まれたりしそうだしね。僕って顔がリアルと同じだからね。最悪特定されて復習とかされても……とか思ってた。
 けど会長は知り合いだし、それにオリジンしかないと思った。こいつを止めるにはそうじゃないと無理だって確信めいた思いがあったんだ。オリジンで切り裂いた部分が黒く表示され……いやもしかしたら表示されてないのかもしれない。虹を染みこませたみたいな衣をだったからその切り裂いた部分だけが、やけに目立つ。そしてそれは広がって行ってる。

「ありがとう。オリジン……これで来るって思ってたよスオウ」

 ポツリと聞こえたその声に、見えた口元に、ゾクッとした。僕は更にフラングランをたたき込むべく回転を強める。けどそれはかなわなかった。会長の着てた十二単が膨張したみたいに広がって僕を優しく押し返したからだ。面で広がったそれを避ける事は不可能で、更にやけに柔らかくて、オリジンで切り裂いたとしても、意に返してない感じだった。

「くっ!」

 結局十二単に最後まで優しく下がらされた。なんだあれ? 別に体には何も異常はない。ただ距離を置くだけの装置か何かだったのか? いや……そうじゃない。どうやらあの十二単、テア・レス・テレスの奴らは押し出してない。寧ろ守ったみたいだ。周囲のテア・レス・テレスの奴らに向かってこちら側の奴らが攻撃をしてた筈だ。どうやらあの十二単がそれらの攻撃を全部受け止めてしまったらしい。

 そして大きくステージ自体が組み変わっていく。会長は自身の周囲に仲間達を集めて、そしていくつか上下で分けられてた比較的大きな戦場になってた部分をつなぎ合わせて一つの大きなステージにして、その周囲に階段やら、足場だった物が乱雑に配置される。こっちの仲間達はなんか四隅に集中してるな。

 テア・レス・テレスの面々は中央に集まってる。僕とローレはテア・レス・テレスに比較的近い位置に降り立つ。
 不思議な事にテア・レス・テレスの奴らはこちら側を全く見てない。奴らの視界の先には会長がいて、どうやら敵であるはずの僕たちに背中を向けても問題ないらしい。隙だらけで、今のうちに攻撃すべきなんじゃ? と思うが、誰も動けない。

 下手に動いて何かが起きるのかもしれない……という先入観、というか単純にこれは恐怖かもしれない。会長という存在が僕たちに、この混合チームに得体の知れない恐怖を蔓延させて行動を阻害してるんだ。

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