命改変プログラム

ファーストなサイコロ

1171

「ちょっと待ちな」

 そう言ってオズワルドの肩に手をのせてるおばちゃん。けどきっと乗せてるだけじゃない。なにやら鎧からギシギシという音が聞こえるし、かなり力を込めてる。おばちゃん……切れてる? まあそれでもあんな丈夫そうな鎧を素手で悲鳴を上げさせるって異常……やっぱりあのおばちゃん只者じゃない。

「なんだ?」

 けどオズワルドは別段気にした風もない。スーツの奴の方が切れそうだったが、おばちゃんの人にらみにしり込みしたようだ。弱い……確かこのスーツの奴がこの騎士寮では一番偉いはずでは? まあ確かにあのおばちゃんはアイツよりも強そうだが。

「なんだ? じゃないよ。仲間が困ってるのにあんたは助けもださないのかって言ってんだよ」
「そんな事か。エズ、私はそんな些事にかかわってるほど暇ではないんだ」
「些事……だって?」

 ヤバイ……何がヤバイっておばちゃんの体からほとばしる赤いオーラがヤバイ。完全にブチ切れてる。おばちゃんはここの寮の騎士達を自分の子供の様に思ってる。まあ学生寮ではないんだし、それはどうか? と思うが、実際そうらしい。だから仲間であり、家族であるはずの騎士達を見捨てるような言い方に切れた。

「あんたいつからそんな奴になったんだい!!」

 どごん! という音が響く。すると彼女の拳が壁にめり込んでいた。

「エズ、聞け」
「何が聞けよ! 仲間を見捨てる様な奴の言葉に貸す耳はないよ!!」

 そう言って壁から抜いた拳を今度こそオズワルドへと向けるおばちゃん。俺とアイリはとっさに動いた。

「ちょ!? あんた達!!」
「落ち着いてください!」
「そうです、オズワ――大団長様は何か言いたいようですし」

 危うくオズワルドと言いかけるアイリ。その言葉に一瞬オズワルドが反応した? けど鎧は彼の表情を分厚く隠してる。わからない。俺達はここにいる誰よりも……いやもしかしたらおばちゃんよりは下かもしれないが、取り合えずオズワルドがどう言うやつか知ってる。

 多分、これまでの経験上、性格とかまでは変わってないはずだ。オズワルドはこのアルテミナスでは前から重要人物だし、そういうNPCはこの生まれ変わったLROでも大幅な変更はされてない。状況とか歴史とかがところどころ変わったりしてるが、性格はそうじゃない筈。
 なら、こいつはただ言葉が足りないだけだ。だって前からそうだったし。一瞬、俺達もこいつもそっち側……とか思ったが、違う。こいつは誰よりも騎士に誇りを持ってる奴で、騎士道精神を体現してる存在の筈だ。なら、仲間を無暗に見捨てるなんてしない。
 絶対だ。

「大団長様、何かしっかりとした対策があるんですよね? 仲間を見捨てる様なことはしないですよね?」

 俺は確認するために矢継ぎ早にそういう。無礼にもほどがあるだろう。けど、この鬼を止めるにはオズワルドの口からそれを言わせるしかない。この堅物にちゃんとだ! まったく面倒くさい奴だよまったく!!

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