命改変プログラム

ファーストなサイコロ

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「退け! 死ぬぞ!!」

 そんな言葉が届くはずないとわかってても言わずにはいられない。少しでも届いて、洗脳されてる騎士の力がちょっとでも弱まれば隙をついて巨大な木『ベネジュラージャ』へと切り込める。でも何も心に響かない言葉では洗脳された奴を動揺させることは叶わない。

 そんな時、光が戦場を駆けた。ベネジュラージャの動きが止まる。あれは……

「アイリ!!」

 あれはアイリの切り札のスキルだ。今のアイリはとても曖昧な状態になってる。一時的に体を物質から解き放ち、エネルギー体となって全ての力を攻撃へと転化させるスキル『転身星霜』だ。火力不足なアイリにそれらを与えてくれる強力なスキルだが、勿論デメリットもある。

 まずあれは時間制限つきだ。最大三分しかあの状態になれない。それに三分間はどんな攻撃もアイリを透過するが、それは攻撃が当たってないわけじゃないって事もみそだ。三分後にそのダメージはバッファされる。しかも数割増しで。

 けどアレをアイリがやったという事は、ここが勝負所と判断したという事だろう。今の状態なら風帝武装をやってるスオウとだってアイリはやり合えるだろう。まああいつの場合時間制限なんてないが……

「す……凄い……」

 そんな言葉を漏らす騎士がいる。けど、ボケっとしてるばあいじゃない。今はアイリがベネジュラージャを翻弄してるが、ベネジュラージャがいくらあの巨体に対して、そこまでステータスが高くないといっても、一人で削り切るには厳しい。

「次から次へと面倒な事をしやがって! さっさとくたばりやがれ!!」

 そんな言葉を漏らすのは洗脳された騎士たちの武器にまとわりついてる泥だ。口を作って悪態をついてやがる。こいつ自体はただ武器にくっついてるだけだから別にどうでもいい。多分武器を強化してるが、そこまで重要じゃない。

「あっ、おい!」

 打ち合ってた洗脳された騎士たちか、向きを変えた。多分本体がアイリを脅威と感じたんだろう。洗脳された騎士たちをアイリの排除に動かした。それもかなりなりふり買ってない。全部の騎士を使ってる。このチャンスを生かすしかない!!

「全員出来る限りの高火力のスキルをあの木にぶつけるんだ!! あれはここで倒す!!」

 俺はそう叫んだ。実をいうとこの部隊、偉い奴らは既に死んでる。指揮官はそうだし、副指揮官だって取り巻き野郎だったから既にお陀仏だ。だから指揮系統は滅茶苦茶だ。まあ元々指揮官の奴はあほだったが、比較的まともな、副指揮官も既にないから強く言える立場の奴がいない。

 俺は個の中では下っ端だ。けど、軍に一番染まってない。そこに遠慮なんてない。今のアイリはそうそうやられはしない。それだけの力を与えるスキルだ。だから俺達はアイリのその力に火力を上乗せしたほうがいい。補助じゃなく、力を重ねるんだ。全員のありったけなら、あのベネジュラージャを倒せる!!

 俺も武器を滾らせる。いきなり俺の指示に従うなんて皆が納得することじゃない。けど、その覚悟を俺自身が見せれば、騎士は付いて来てくれるだろう。ここに残ってる奴らはあまねく、ちゃんとした騎士なのだから。だから俺は真っ先に走る。覚悟を見せるんだ!! 

 俺の行動に一人、また一人と動き出す。そしてそれぞれのスキルを俺達は一斉に解放した。

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