命改変プログラム

ファーストなサイコロ

1050

 ローレさんが来てくれた。白いローブには要所要所に色とりどりの宝石が嵌められてて服の先の所とかはなんだか透けてる。私の安そうな一冒険者の様な服装ではない一目でかなりの力がこもってる高そうな奴だとわかる。

「くっ」

 なんだか服装だけで負けた気がする。

「呆けた顔しちゃって。こっちだって暇じゃないのよ? それね」

 ローレさんは私とマイオさんを一瞥しただけで奥さんの方へと視線を向けた。どうやら本当に忙しいみたいだね。スオウの話だと、部下に仕事をやらせて自分は踏ん反りかえってるだけとか聞いてたけど、見えない所で何かをやってるのかもしれない。

 何となく、泥臭い所を見せない感じなのかなって思う。そういう女だよねこの人は。

「ふーん、ただの霊って訳でもなさそうね」

 なんかローレさんがそんな事を言ってる。見ただけであの人にはなにかわかるのだろうか? すると彼女は一回手を裾の中に入れて杖を取り出す。前に見た事がある様な立派な奴じゃない。なんかハリーポッターで彼等が使ってたようなちょっとみすぼらしい奴だ。

「オルガトは天国への案内人じゃないわよ? それに優しい奴でもない」

 その言葉に奥さんは頷く。

「そう、その想いに免じて願いを聞き届けてあげる」

 何かを納得したのか、ローレさんがオルガトを召喚する。魔法陣から黒い翼に包まれたオルガトが降りてくる。そして丁度いい高さに降りてきたくらいでその両羽が大きく開く。吹きすさぶ風に私たちは腕で顔を庇った。

『じゃじゃーん、俺っちが闇の精霊オルガト。よろしくウェーイ!』

 大きな唇の上に仮面をかぶり、その体にはスーツを纏ってるオルガト。黙ってると凄い威圧を感じる程の精霊なのは確かだ。てか喋ってても近づきたくないと思わせるくらいに威圧感がある。エアリーロとかではこんな事はないんだけど……流石は闇の精霊という事だろうか?

 でも口調がね……威厳なんて一ミリもない。

「ほら、そこの熟女があんたに様があるみたいよ」

 ローレさん……さすがに本人を前に熟女っていうのはどうなの? それに対して「熟れてるのは美味しいんすよ」とか下品な事を言ってるオルガト。大丈夫なのアレ? そう思ってると静かに奥さんが頭を下げる。けどその下げ具合がこれまでとは違う。今までは普通に立って頭を下げてた。

 けど今や彼女の頭は地面とごっつんこしてる。オルガトを前になるべく小さくあろうとするかの様な行動だ。

「あんたまた何か下の? 悪趣味な事はやめなさい」
「何もしてないっすよ。ただ、俺っちは徳が高いっすからね。肉体のない存在は自然とこうなるんすよ」

 徳が高い……あれで!? 徳とは一体なんなのだろうか? 疑問が尽きない。

「さて」

 そういってオルガトが膝を折って奥さんの頭に手を振れる。その瞬間ビクッと彼女は一瞬なったが、それだけ。抵抗はしない。何やら頷いてるオルガト。それを私たちは固唾を飲んで……いやローレさんはつまらなさそに欠伸をしてる。精霊が精霊なら主も主だね。

 奥さんはなかなかに覚悟を持ってるんだけど……

「なるほど、了解したっすよ。その覚悟と愛に俺っちは痺れったす」

 何やらそういって立ち上がるオルガト。そして何やら「くっくっく」と笑い出す。

「いやー本当に、面白い。進んで地獄にいくっすか。ここまでして求めてくれたんだから、俺っちとしては女性から求められたら叶えない訳にはいかないっす――ね」

 そういって何かローレさんに合図を送ってるオルガト。それに無言で頷くローレさん。するとオルガトが軽い口調とは裏腹に優雅にジェントルマンな礼をする。すると彼のすぐ傍の空間に何やら亀裂の様な入っていく。そしてその亀裂は扉の様に開く。
 けどそれを見て私は「ひっ!?」と声だしてしまった。だってその扉には禍々しい牙とかがあって更に滑っとした舌が見えて、中には無数の手が生贄を欲する様に蠢いてる。まさか……あそこに? 奥さんは立ち上がりこちらを見て手を向けてる。すると私のインベントリからいきなり大量の紙が舞い上がった。

 そして彼女はその扉へと食われる様に消えていった。

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