命改変プログラム

ファーストなサイコロ

925

 どんどんと人が、プレイヤーが集まってくる。彼らはここに遊びにきてる訳で、そりゃあ何か楽しそうな事が始まったとすれば、逃げずに集まってくるのは道理だった。逆にNPCの人達は逃げてる。彼らはここに住んでるからね。
 そんてそんな見世物状態なんか気にもせずに奴はくる。だよね。あいつフード被ってるしね! 風のうねりが僕に向かって振り下ろされる。

「うおおおお!」

 僕はそんな奴の風のうねりを叩ききる。今までは負け続けてた。けど、少しずつ……少しずつこいつとの距離を縮めてきた自覚はある。風を切り裂くには風しかない。僕はフラングランに風を纏わせてる。けどセラ・シルフィング程のうねりじゃない。

 もっと静かな……けどするどい風だ。僕はそのまま奴の体に三連撃を叩き込む。大きくのけぞる奴。けど更なる追撃は出来なかった。なぜなら奴から爆発的な風が吹き出たからだ。体が飛ぶ……それどころかこのレスティアの街のいろんな物が飛んだ。

「そろそろ……だな」
「?」

 何か、奴が言った。不気味な事を……そう思ってみてると、奴が向かってくると動き出す前に見えた。その体の動き一つ一つが流れとして、どういう行動につながるのかがわかる。驚異的な速さだった。風を操ってるからできるゼロから一足飛びの最高速。

 でも見えてるなら避ける事は簡単だ。更に回避するだけじゃなく、奴の振りの隙間にフラングランを差し込む。

「づうううう、やはり見えてるか!?」

 すぐにバレたか。自分でもここまで見えるのは初めて事だが……なぜ奴にはそれがわかったのか?

「だがやりようはある」

 奴の風がうねりから解放された。そしてその風達が奴の体に集まっていく。あれは……

「風帝武装『カガン』」

 風帝武装は風だからこそ、曖昧だ。けど……やつの体をおおうその風は既に一つの鎧にしか見えない。黒を基調とし、鱗の様な部分には赤い色がみえた。そして何故かしっぽとかある。あれが風帝武装? と思うが、本人がそういってるのならあれが風帝武装の完成形なのかもしれない。

「自慢の目で見えるといいな」

 鎧のせいで籠ったように聞こえたその声は、いろんな方向から聞こえた。目の前にいるのに、目の前にいない。何を言ってるかわからないかもしれないが、こいつは今……三人いる。

「風帝武装!」

 僕も風を集める。緑の風が僕の体に柔らかに絡みつく。何とか初撃は交わしたが、三人どころじゃなかった。無数に奴が迫ってくるような感覚。どういうことだ? 僕は逃れる為に上へ上へと風を蹴って登っていく。

 けどいる。体に刻まれる傷の度にHPが減っていく。こんなにも……まだまだ差があったのか? もっと近づけたと思ったのに……

(オリジンなら)

 その考えが僕の中で生まれる。けど……ここは日鞠のエリアだ。オリジンは……エリアを壊す。破壊する。オルガトもいないじゃつかえない。てか、そろそろテア・レス・テレスが来てもおかしくない筈では? そんな事を思ってたせいか、一瞬反応が遅れた。

「新たな力は使わないか。なら、調べよう。お前のコードの変化が俺には重要だ」

 そういって奴は僕の首元にかみついてきた。予想外過ぎて意表を突かれた。だってセラ・シルフィングで攻撃するかと思ってた。けど実際は噛みつき。その勢いは凄くて、肉を割く音が僕には聞こえていた。そして噴き出す血。

「なっ……に?」

 赤い鮮血が地面に落ちていく。食われた部分を抑えると液体があふれ出てて暖かかった。その手を見ると……赤い血がべったりとついている。そんな……だってLROには規制がかかってて血の表現はない筈……

「オリジンか」

 そう奴が言ったのが聞こえた。「やめろ!!」そういうよりも早く、奴は再びその単語を発する。

「オリジン」

 

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