命改変プログラム

ファーストなサイコロ

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 森を抜けて渓谷をかける。そしてさらに山を越えなければいけないとか、さすがに今日で精霊のところにたどり着くのは無理なのではないだろうか? LROはリアルに負けてないくらいに広い。
 いくら僕自身がスピード自慢だからって限界あるし。どこか街が村でもあれば……


「もう少し行くと村があるからそこまで頑張りなさい。まああと二つくらい村経由しないとたどり着かないけどね」
「そこまでかよ」
「言ったでしょ、精霊は田舎者だって」


 確かにそうだな。少し前は否定したけど、これじゃあ否定できない。どんだけ辺境にいるんだよ。既に時間は11時を回ってるな。やっばり今日だけでたどり着くのは無理がありそう。


「お前、何時までできるんだ?」
「別に何時でも? リアルは気合で回すものでしょ。そしてこっちも気合で回す」
「いつか倒れるぞお前」


 何その気合さえあれば何だってできるみたいな理論。それただ気合で誤魔化してるだけだけだかんな。絶対やばいって。


「大丈夫よ。こっちも向こうも使える駒はいっぱいいるからね。私自体は早々動かなくても問題ない」
「本当かそれ?」


 最近ローレに駒がいっぱいって話、見栄なのじゃないかと疑ってる。だってこいつが使ってる駒とか見たことなくね? そもそも求心力そんなないような? 前の時動かしてたのだってNPCだったじゃん。
 そもそもがローレがプレイヤーといるところとか見たことなくない? こいつ友達いないんじゃね? 


「どういう意味よ? 私のカリスマ性が疑わしいとでも言いたいわけ?」


 ……カリスマ性とか自身でいうとかもう痛々しい。本当にそれがあるやつって意識せずに人が集まってるんじゃないかな? ほら、かつての人の国の代表のおっさんとかさ、アイリもそうだとは思う。
 ローレは確かに凄いやつだ。そこは疑いようはないと思う。でも凄いから人が集まってくるかって言ったらそうじゃない。だってそうだろう。天才の周りには常に人がわいわいしてるかって言ったらそうじゃないだろう。
 凄い人にはおかしな人も多いからね。どっちかっていうと、ローレもそのおかしな部類に入りそうな……


「なんか失礼なこと考えてない?」
「いやーまあお前は凄いよ。うんうん」


 そう言ってる言葉自体に嘘はない。うん、嘘はないよ。


「あれ?」
「どうしたの?」
「いや、あれは……」


 何か見える。辺りは真っ暗で月明かりくらいしか照らすものなんかないんだけど、僕の目には問題ない。確かスキルには暗視とかいうのもあったらしいけど、それ使わずに僕の目は夜を見通す。
 本当どうなってるんだろうか? でも今はそんなことじゃない。今一瞬、人が見えたような? しかも何かから逃げてた感じ……


「ローレ見えるか?」
「見えるわけないでしょ。私は楽してるんだから」
「さいですね……」


 ふてぶてしさ満点だなこいつ。いっそ清々しいわ。


「いや、向こうでモンスターから逃げてる人たちがいてさ」
「助けたいってわけ?」
「まあ、見つけちゃったし」
「あんたは目の前で困ってる人がいたら何でも助ける主人公体質なわけね」


 なんか言い方に棘ないか? しかも主人公体質とかやめろ。恥ずかしい。


「別にそんなんじゃないけど、楽してるだけなんだから文句言うなよ」
「文句なんて言わないわ。助けたいならご自由に」


 いちいち含みをもたせた言い方をするやつだ。もやもやしながらも僕は逃げてる人を襲うモンスターを一瞬で切り伏せる。思ってたけど、この剣かなり強い。切れ味が気持ちいい。
 これでもう安心……とか言おうとしたけど、その人たちは僕が音もなくモンスターを倒したせいで気づいてない。未だ必死に逃げている。しかも闇雲に走ってるからか、逃げる先々で違うモンスターを引っ張ってる。


「おい! ちょっ! まっ!」


 トレインしちゃってるモンスターを倒しながらも声をかけようとする。でも向こうは必死過ぎて全然全く聞こえてない。次々と増えるモンスター。あれ? 楽そうだったのにめっちゃ大変になってるぞ。


「ガンバレー、やっちまえー」


 背中から聞こえるそんな気楽な声に軽く殺意を覚える今日この頃だ。

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