命改変プログラム

ファーストなサイコロ

恵みの不理解

 昼休みになると体育館に香ばしい匂いが立ち込める。商店街の方のあんちゃん達が持ち寄った食材で色々と作ってる様だ。イベントで振る舞う物の試食だと言ってたから、どうやら新商品のよう。
 体育館の外の方では渡り廊下を渡って、体育館と校舎の中間にある給食センターの方へ白衣を来た生徒が給食を取りに来てる。そんな光景を眺めてると、なんだか懐かしいな……って思う。給食の匂いよりも体育館から発せられる匂いの方が強いのが感傷を妨げるけど、こういう事をやってたな〜って思うよ。


「何見てるの?」


 僕が体育館の段差に座ってると上から覗きこんでくる日鞠。その手には紙の皿に乗った料理がある。それはご飯にハンバーグみたいなのが乗ってて目玉焼きが……何か見たことある料理だな。ハワイアン系で見たことあるぞコレ。
 これを新作とか言う気か? 売れないだろ。だけどそんな事は顔に出さずに視線を給食着に身を包む小学生達に向ける。


「わ〜懐かしいね。給食って制度は素晴らしいよね」
「そうか? あんまり上手くないのもあっただろ」
「スオウ、それも含めて給食だよ。バランス考えてあるんだから。それに良いメニューの時はその日が楽しみだったり、クラスのテンションが高かったりしてそういうのが良いんじゃない」
「それは……まあ同意するけどな」


 給食にやたら命賭けてる奴とかいたよ。大盛り要求したり、個別なデザートがある日に誰かが休んでたりすると、じゃんけん争奪戦になったりね。高校では弁当だから、親の弁当に文句言う奴しか見ないけどね。


「ふふ」
「なんだよ?」
「ううん、そういえば給食の鍋、スオウがひっくり返した事とかあったよね? それでクラスの子達と対立しちゃったんだよね」
「そんな事あったか? 覚えてないな」


 そう言って僕は日鞠の視線から逃げるように顔を逸らす。


「ええ〜あったよ〜。しかもその日のメニューはカレーだったからね。もう大変だったよね。けどスオウは「カレー程度でぎゃあぎゃあ騒ぐな」とか睨みつけて言うものだから、皆から嫌われちゃって」
「あれは陰謀だったんだよ。解決しただろ」
「まあそうだけど、皆は犯人の事は知らないじゃない。今でも田村くんとかは根に持ってるかもね」
「田村ってだれだっけ?」


 記憶に無いなそんな奴。


「給食をいつも人一倍ガツガツ食べてた、体の大きな子だよ。いつもマイマヨネーズ持ってきてたじゃない」
「ああ〜なんか思い出しそう」


 そういえばそんな面白い奴が居た気がする。


「アイツ確か白米にもマヨネーズ掛けてたよな?」
「掛けてたね」
「アレ見るといつも気色悪くなって、睨みつけてたな」
「そんな事やってたから、スオウの前でビクビクしてたんだね。直接は言ってこなかったけど、田村くんも相当アレには来てたと思うんだよね」
「確かにアイツには悪いことをしたな。まあそれも犯人のせいだけど」


 故意にやったわけでもなし、悪いとは思っても謝る気はないな。それにもう会うことも無いだろうし。田村くんの事はひっそりと忘れることにするよ。


「スオウが折角人間性って奴を取り戻した貴重な時間と場所だよ。その関わりは一生ものだと思うけどな」
「それなりに感謝はしてるよ。ここで関わった皆にはね。けど……」
「けど?」
「いや、いい。それよりもそれ、僕の分はないのか?」
「私がこんなに食べると思う?」


 日鞠は両手にそれぞれ持ってるからまあ僕の分なんだろうなってのは分かってた。とりあえず片方を受け取る。でもこれ結構重そうだし、飲み物とか欲しく成るよね。給食みたいな牛乳は別に要らないけど、お茶的な……


「はいスオウ」


 そう思ってると日鞠の奴はコップに熱々のお茶を注いでくれる。それは日本人的な緑茶だった。なかなかわかってるじゃないか。




「頂きます」


 両手を合わせてそう告げる日鞠に誘われて僕も命に感謝する。そして二人して皿のご飯にスプーンを差し込む。日鞠はスプーンの半分くらいの量をすくって上品に口に運ぶ。多分そのくらいがこぼしたりせずに、それにあんまり口を開けなくていいんだろう。
 ガツガツ気持よく喰うのも良いんだけど、日鞠の奴は見た目的にそんな印象はないから、これがきっと正しいんだろう。それに日鞠の場合、細かく食うけど別に食事が遅いって訳じゃない。いつの間にか大量に食ってるタイプだ。出された物は完食するタイプ。
 見た目的にはそれはちょっとアレ? って思う所なのかもしれないけど、上品に食ってるからか、そこを突っ込まれた所は見たこと無い。当の僕は男らしくガツガツと行くよ。上品? なにそれ? である。まあ下品に見られたくはないけどね。
 最低限のマナーは守るよ。米肉卵となんかこうモリモリ来る感じだ。僕はチラリと日鞠を見るよ。なんかこう……同じものを食べてる筈なのに、食い方で印象って変わるよね。日鞠の奴見てると軽い食べ物なの? と思える不思議。


「う〜んやっぱりこれだけじゃ普通だよね」
「ん……ああ、完全にハワイのアレだよな」


 日鞠の奴と目が合って慌てて目を逸らす。でもホントこれじゃただのロコ◯コ……どこにオリジナル要素があるのか。新メニューでもなんでもないよ。そう思ってると日鞠の奴が何か取り出した。チューブに入ってる白いソース? 


「特性ソースなんだって。これで味にインパクトと深みが増すんだよ。それとこれね」


 更にはタッパーに入ったカレーっぽい何か。色的にカレーだし、開いた時に漂ってきた匂いもカレーだ。けど具は見えない。これもソース感覚で使用する為の物なのか? 具はドロッドロになるまで煮詰めてあるようだ。


「どっちも掛けるのか? どう考えてもそのカレーっぽいのの味になるよな?」
「いいからいいから」


 そう言って日鞠の奴は僕のにもドバーと……ドバーとかけてきた。


「お前な……」
「大丈夫、おいひいよ」


 そう言って微笑む日鞠に誘われて、僕もパクっと一口。すると口いっぱいに広がるカレーの風味。


(おい、やべえよコレカレーの味しかしねぇ)


まさにザ・カレーって感じだよ。まあカレーとして見ればなかなか美味いけどね。あの白いソースのおかげかマイルドだし、家庭では出せない味っぽい感じはある。でもこれはカレーだ。


「おい、新しい部分はどこにいったんだよ」
「実はあの白いのでこの美味しさを実現してるという新しさ」
「カレーである時点で消費者にとっては新しさ皆無だけどな」
「だよね〜」


 そう言いながらも僕達は食を進めていく。不味い訳でもなし、カレーを嫌いな人などいないんだから、選択として間違ってるとは言えないよね。新しい––とか言わなければね。カレーの匂いは周囲の小学生達にも伝わってるようで、何か物欲しそうな視線を感じる。


「今日はハズレの日なのかもな」
「給食はどれも美味しかったけどな。そんなに極端に不味い物は出てこないし」
「それはそうだけど、テンションが上がるものとそうじゃないのは明確にあるだろ。カレーは単純にテンションが上がる方の部類だ。それを目の前で見せられちゃ給食に不満も出るんじゃね?
 もう今から食わせろよってね」


 そもそも放課後に買わせるとか厳しいような? しかも小学生だし。いや近所の方々にも開放するんだろうけど、ここは宣伝かねて給食時に試食品でも持って行くとか良いような気がするぞ。


「でも材料には限界があるんだよね〜」
「おい、人の思考を読むなよ」
「読まなくてもわかるよ。スオウの考えてることだもん」


 日鞠の奴は簡単に言うけど、こっちはそこまで正確にはわからないっての。そりゃあ普通の奴らよりは日鞠の考えてることわかるつもりでは居るけど、全てがわかるほどじゃない。そんな事できたら能力者だろ。
 けど日鞠の奴は今、結構正確に当ててきた。アレかな……僕ってやっぱり単純なのかな? 


「じゃあ、結局小学生達は放課後まえお預けと? こんな匂い漂わせてたら授業に身が入らなくなりそうだな」
「大丈夫だよ。何も用意してないわけじゃないもん。給食自体があるから、メインに成り得る様な物は提供できないけど、デザートとかならちゃんとあるんだ」
「なるほど、確かにあんまり重いものを提供して給食を残されても困るもんな」
「そういう事。デザートも商店街のお店の新作だよ」
「新作……ね」


 それは本当に新作と呼べるものなのか。この料理を見てると不安になる。いや、まあデザートが出るってだけで子供達はテンション上がるだろうけどね。でも次に繋げるためにはあんまりケチケチした物じゃない方がいいよね。
 コンビニデザートとの違いを見せつけないと、こんなものなのか……と思われたら逆効果でもある。だから気合入ってるだろう……と思いたい所だけど、このカレー見てるとな。ロコモコカレーと思えば新しいのかな? 


「日鞠ちゃん、それだけじゃなく、こっちのも食べて見てくれよ」
「それなら家のも良かったら」
「こっちも自信の新作だよ」


 なんだか次々と料理が運ばれてくる。今の奴だけじゃ自分的にはちょっと物足らなかったけど、今ではどうやって消費しようか悩むレベルになっちゃったよ。日鞠に持ってきたんだよね? 量考えろよお前等––と言いたく成る。
 それとも案外僕の事、目に入ってたんだろうか? だからわざわざ多い量を? それはそれでありがた迷惑だけどね。


「どうすんだコレ?」
「う〜んちょっと多いよね。けど大丈夫。もうすぐ援軍が来るからね」
「援軍?」


 なんか嫌な予感がするな。援軍なんて普通は嬉しいはずの言葉だけどさ、駆けつけてくる奴らによってはそうじゃないよね。なんとなくだけど、誰が来るかわかるんだ。援軍の候補はそんなにないしね。
 もしかしたら青年団の他の方々かもしれないけど、既に結構居るのは事実だろう。それに援軍というのなら、こっち側的な感じがする。増援じゃなく、援軍だからね。それなら学校関係者。でも教師が来るわけはないだろう。
 一人二人ならあり得るけどそれじゃあね……生徒は普通に午後も授業がある。となると秋徒達とかはないよね。けどそれは普通の生徒は––って事だ。僕がここに居るのは、偶然もあるけど、生徒会って立場だからってのも多分ある。
 って考えるとだ……日鞠が言う援軍がなんなのか、もうほぼ確定的というか……


「会長〜〜」


 僕がそんな結論にたどり着いてると、こっちに近づいてくる制服の集団が。そして僕が「やっぱり」てな顔をすると同時に、向こうも「げっ!?」てな顔をした。なんでアイツが!? 的な感情を隠そうともしない。
 しかも全員が同じ反応ってどんだけ僕毛嫌いされてるんだよっていうね。けど日鞠は皆が止まってる事もお構いなしにこっちに手招きするよ。


「おお〜い、丁度良かったよ〜」
「会長、生徒会役員只今馳せ参じました」


 そう言って頭を下げる面々。だからお前達は忍者か何かか? そう思ってると、一番最前列に居る奴がギロリとこっちを睨んでくる。それは日鞠を崇拝してる副会長だ。成績も日鞠の次で、運動神経も抜群。派手さは無いやつだけど、知的なメガネとそれなりの身長とイケメンボイスで女子にかなりの人気を誇るいけ好かないヤツである。
 まあ一番のいけ好かない所は僕を目の敵にしてる所だけどね。もう僕なんか眼中にいれないでほしい。


「皆お弁当とかまだだよね? 一緒にこれ食べよう」
「それはありがたいです会長。しかしそこの奴はどういう事でしょうか? 聞いてませんが?」
「もう何言ってるの? スオウだって生徒会の一員だよ? ここに居るのは何もおかしいことじゃない。そうじゃない?」
「それはそうですけど……我々がいるのならこんな奴は必要ないというかですね」
「適材適所だよ。スオウにはこれから大一番があるからね」
「おい、聞いてないぞそんな事」


 初耳である。こっちは適当に手伝って終わったらさっさと帰るつもりだったんだけどな。手伝いも会場設営とかだろうと思って放課後にはパパっと帰ろうと画策してたのに……何やらせる気だよ。


「ほら、皆には事前に打合せた役目があるからね。スオウはそこら辺に入ってないフリー的なポジショニングだから、柔軟な対応が求められるんだよ」
「もう大体柔軟に対応しただろ。メンツも揃ったんだし、帰らせろよ」
「今からだと午後の授業には出てもらわないといけないけどな〜」


 そうやってニヤニヤつげる日鞠。くっそ……流石に学校に戻るのは勘弁したい所だな。クラス獣の奴らに冷たい視線を向けられる位ならここで生徒会数十人に冷たい視線を浴びせられる方がまだまし。


「会長、彼は成績も芳しくないですし、授業に戻した方がいいと思います。補修とかもみっちりと受けさせましょう」
「でも皆手一杯になるし、スオウにやってもらわない事には困るんだよね」
「自分達では役不足だと?」
「そうじゃなくて、皆には皆の役割がもうあるでしょって事だよ」
「何やらせる気なの日鞠ちゃん?」


 そう言って副会長を押しのけて来たのは雨乃森先輩だ。実質はこの人が会長でも良い筈なんだけど、日鞠に譲ったんだよね。それなら副会長がベストな位置だと思うんだけど、それもアイツに譲った形。
 けど先輩という立場だからか、副会長は雨乃森先輩には結構弱い。それに譲られたって負い目もあるのかもね。


「実はちょっとしたトラブルがあったんです。だからこのままじゃ出し物が一個減ったりしそうなんです。けどスオウがやってくれたらそれも回避出来るかなと」
「なるほど、それでその出し物ってのは?」
「人形劇です」


 ん? それってあのお婆さんのか? ええ? 中止になるかもしれない一大事だったの? 全然そんな事言ってなかったじゃん。てかそれならもっと早くに相談しろよ。勝手に決めないでさ。


「おい日鞠。そういう事はちゃんと言えよな。ちゃんと言えば、ちゃんと手伝ってやるから」
「うん、ごめんねスオウ」
「会長!」
「わっ、何?」
「自分頑張りますから! その役目も何卒! 何卒私めに!!」


 片膝を付き頭を垂れてそう嘆願する副会長。う〜んやっぱりこの人苦手だわ。こんな事に何必至に成ってるんだか。そんなに僕と張り合いたいの?


「まあ、別にこだわりあるわけじゃないし、そっちを手伝えば副会長も余裕出来て出来るんじゃないか?」
「う〜んただの人形劇ならそれでも大丈夫だったんだけど……」


 ただの人形劇じゃないのか? どういう事だよ一体。


「最初はただの人形劇だったよ。けど、お爺さんがぎっくり腰で病院に行っちゃったから、お婆さんには朗読をお願いして人形の操作は私達が引き受けようかなと。それなら、もうちょっと派手に出来るしね。
 てな訳で人形に細工をね」
「また余計な事を。普通に棒やら糸やらで動かせばいいだろ」
「糸とかあれ案外難しいんだよ。棒だと稼働範囲が狭いし、だから簡易骨格を入れて、思考間操作を出来るようにね」
「なんだそれ?」
「リーフィアを使っての遠隔操作だよ」
「なんでお前がそんな物用意できるんだよ?」
「それは秘密かな? でもこれはスオウじゃないと操作難しいかなって思ってるんだよね」


 そんな言葉に再び副会長が反応する。


「なんでソイツじゃないと駄目なのですか? 自分もリーフィアには既に馴れてます。行けます!」
「けど操作する人形は一人一体じゃないんだよ。複数の同時操作はかなり難しいんだよね。それが出来るのは多分私とスオウだけだと思うんだ。勿論装置を用意すれば分担できるけど、それじゃあ弊害が出ちゃうでしょ? 人形劇だけに生徒会の人員を割くわけにはいかないんだから」
「それは……そうです。分かってます。会長はいつだって正しい。だけどそれならば、自分が複数操作をマスターできればいいだけです。やらせてください!」


 そう言ってくる副会長の目には熱い何かが見えてた。流石にそんな目を見ると日鞠も無碍には出来ないようで、「わかったよ」と頷いた。けどその前に……と前置きしてニコッと笑う。


「腹ごしらえしよ」


 そんな訳で生徒会の奴らも加わって僕達は楽しい食事に勤しんだ。特に副会長とは楽しくね。あの野郎僕が箸を伸ばした先の物を尽く掠め取るから、箸をぶつけあうバトルしながらの食事となったよ。


『君には負けない』


 言葉にはしなくても伝わってくるそんな思い。それは面倒でもあり、そしてちょっと羨ましくもあるようなないような……でもやっぱり僕はこいつ嫌いだよ。



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