命改変プログラム

ファーストなサイコロ

理不尽な扱い

「ふあ〜あ」


 漏れ出る大きな欠伸。それは今日何度目かの物だった。そして視線の先に居る摂理の奴は頭がカックカクと上下に揺れてた。摂理の奴も相当眠いようだな。でもアイツの場合、教卓の真ん前だからな。流石にあの席で寝ることは出来ない。
 だけど僕は後方で窓側の好立地の場所だ。教科書を盾にして睡眠を取ることが出来る。しかも授業は英語。女の先生が発音する英語が意味不明で睡眠の魔法に思えてきてる。これはそう……僕の意思じゃない。
 英語という魔法が悪いのである。だから寝ちゃうのはしょうがないのだ。ウトウトとする脳内。瞼は重く、開いている事が出来ない。暖房も心地よくて、睡眠の環境は整ってると言って良いだろう。てな訳でおやすみなさい––と頭で呟いて僕は睡魔に身を任せた。


「先生……」
「どうしのかな桜矢さん?」
「あの、ちょっと今日は体調が……保健室に行ってきても良いですか?」
「しょうがないですね。それでは担当の人頼めますか?」
「ああ、鈴鹿ちゃんは授業を受けててください。この位二人も要らないですよ。スオウ君だけで十分です」
「そうですか? それもそうですね。それでは頼めますか? ちょっと」


 何か意識の向こうでそんなやりとりが聞こえた様な気がしたけど、多分気のせい––イダッ!?


「つう〜〜」
「何寝てるんですか? さっさと起きて桜矢さんを保健室に連れて行きなさい」


 衝撃と共に強制的に目覚めさせられたら何故か英語教師の厳しい視線が降り注いでいた。さっきまで意識の遠くで聞こえてた声……あれは幻聴じゃなかったのか。チラッと摂理の方を見ると、クスクスと笑ってやがる。
 アイツ僕だけが寝ろうとしたのに気付いて妨害工作してきやがったな。そうは行くか。


「先生、そういえば今日は僕も体調がですね––」
「五分以内に戻って来なさい。そうしないと君だけ課題が二倍です」
「––そんな理不尽だ!」


 酷い教師が差別とかあんまりだ。僕は速攻で抗議したよ。


「理不尽も何も君は今さっき寝てたじゃない。しかも普段から不真面目だし、そんな生徒には厳しくあたって当然です」
「うぐぐ……」


 確かに普段から不真面目というところは否定しようもない……けど、それは英語が睡眠の特性を持ってるからであってそれは僕のせいではないというか……でもそんな事を言ったところで言い訳だと言われるのがオチである。
 こうなったらやり返すまでだ。わざわざ僕が運んで何故に摂理にだけ快適なベッドを提供せねばならないのか……そんなのは認めれない。しかもこのままだと僕だけ課題が倍だし……そもそもあのしてやったりみたいな顔を見てると腹が立つしな。


「先生、摂理は別に具合が悪い訳じゃないと思います。寝たいだけです。よって保健室に行く必要はないと思われます」
「どうしてそう思うの?」
「それは––」


 あれ? ここで僕が摂理と住んでるんですって言うのは不味いのではないだろうか? ただでさえ日鞠と幼馴染ってだけで立場ないのに、更に摂理と同棲ってやっかみ受けるに決まってるじゃん。
 特に男子から。摂理の奴は容姿が飛び抜けてるからな。日鞠は普通よりも可愛いけど、普段は三つ編みメガネで目立つことはない素朴さだから、男子は信仰心だけでついて行ってる。けど摂理は分かりやすい。
 分かりやすくて、強烈だ。そんな美貌を誇ってるのが摂理。多分雑誌やテレビに出てる芸能人なんかともきっと退けは取らないし、上回ってるかもしれない。時々油断してるとハッとなる。
 花が咲いた瞬間の瑞々しさ、蝶の最初の羽ばたき、一瞬を永遠に切り取りたいと思わせる程の魅力。それがアイツにはあって、それはきっと男を狂わせる類の物だと思う。
 それになんとなく庇護欲そそるし、既にお世話係でかなり恨まれてるしね。ここで同棲の事実が明るみに出れば、もしかしたら本当に僕は校内の男子に刺されるかもしれない。それは困る。僕的にも、そして相手的にもね。
 僕達が同棲してるという確定的な情報は開かせない。そしたら心象的な事しか言えなくなる。それは結局相手にとっては予想であり推測……僕の言葉は無駄になる可能性高いし、更に心象悪くしそうな気もする。
 僕の内申点がどのくらいかわからないけど、決して高くないのは想像できる。いや、まだ一年だし、これからどうにでもなりそうだけど、でも盛り返せる要素がな……きっと三年間日鞠は会長職に付いてるだろう。
 そうなるとアイツはきっとうなぎ登り的な三年間なわけで、それに相対するとしたら僕の内申はこれかもどんどん下がり続けることに……進学できるかな? 不安になってきた。けど、何も言わなかったら、課題が二倍……それは嫌だ。将来も大事だけど、目先の事も大切だよ。
 課題に追われるとLROの方に行けないしね。てな訳で批判は覚悟で、言葉は続けよう。せめて課題二倍は取り消して貰わないと。


「それは……ですね……そう、朝から元気一杯だったからですよ。ほら僕はお世話係ですからね。良くわかります」
「え〜そうかな〜? なんだか桜矢さん、朝から辛そうだった様に思うけど〜? ねえ」


 そう言って名前も知らない女子が周囲に同調を求めていきやがる。やめろよそういうの。数の暴力って言うんだぞ。くっ、元々味方に成ってくれる人数に差があったか。それは辛そうってか、ただ単に摂理も眠かっただけだっての。
 僕だって同じくらい欠伸してたよ。それなのに摂理は辛そうで、僕は眠そうなのかよ。理不尽だ!


「本当に辛そうにしてる人にそんな事を言うなんて……」


 ヤバイ、先生の目が氷点下に落ちていってる様に見える。ここはなんとかせねば課題二倍じゃ済まないかもしれない。


「ち、違うんです先生。摂理の奴はただ欠伸をしてただけで辛かった訳じゃないんですよ。僕と条件一緒なんです」
「そうやって同情を誘いたいの? 全く、桜矢さんは辛いことがいっぱいあって、今でも体が不自由なのよ。そんな人と条件一緒? 君は最低ですね」


 ゴミを見るような目でそう言われた。そしてそんな先生の言葉に続くようにクラスから誹謗中傷が飛んでくる。くっ、こいつら悪人の首を取ったかの様に勢いづきやがって……これはもう虐めじゃないか?
 PTAに訴えてやる! とか思いながら僕は黙ったまま勢い良く立ち上がる。ガタンと大きく音を立てた椅子に先生はビビったのかちょっと下がった。立ち上がると見下ろす形に成る。そうなるとちょっと先生の勢いが落ちた。
 黙ったまま真摯な瞳で見つめたのが効いたのかもしれない。けどそこは教師、自分の考えが間違ってないと信じるのであれば、生徒に負けるわけにはいかない––という思いからか、眉を吊り上げて睨んでくる。
 そして開いた口から空気を吸い込み、僕を糾弾する言葉が吐き出される––まさにそのタイミングで、僕は机を足場に飛んで摂理の元へ。


「では、お世話係として、こいつを保健室へ連れて行きます!!」


 車椅子を強引に動かして、そのまま教室を僕は飛び出した。戦略的撤退––これに限る。だってあんなの勝ち目ないもん。取り敢えず長い直進廊下を駆け抜けて、保健室やら職員室やら、多目的な部屋がある方に曲がってスピードを落す。


「はぁ……まじ最悪だ」


 教室が見えなくなって僕は大きく息を吐き出してそう呟いた。戻ったら机に落書きとかされてそうだな〜。もしかしたら中身なくなってるかもしれない。まあ流石にそんな事はしないと思いたいけど、教室での肩身は更に狭くなったのは確実だ。
 きっともう僕が教室に入るだけで空気悪くなるまであると思う。これは不味い状況だよね。今まではやっかみは受けてたけど、嫌われてたって訳ではなかった。だから一応空気として存在出来てたのに、これからの扱いはさながらウイルスみたいになるかもしれないと思うと……これはもうため息の一つや二つついたって構わないよね?


「ふふ、みんなポカーンってしてたね」


 諸悪の原因の癖に無邪気に笑ってる摂理を殴りたい。誰のせいで僕がこんなに憂鬱か分かってんのかこいつ。こうやって甲斐甲斐しく世話やく度に、こっちは嫉妬をかってんだぞ。


「でもこうやって授業をサボるってのなんかワクワクするよね」
「サボリ扱い受けてるの僕だけだけどな」
「まあまあ、そんなのスオウにとってはいつもの事じゃん」
「何がいつもの事だよ。僕は学校では大人しくやってるんだ。日鞠の奴が嫌でも目立つから、僕はなるべく人様の迷惑に成らないようにしてたのに……」
「ええ〜でもスオウも凄く目立ってるよね? そういう風に良く聞くけどな〜」
「それは不可抗力なんだよ。日鞠の幼馴染だから、無駄にやっかみを受けてるわけ。基本、僕にとってこの学校の生徒は敵だ。いや、流石に今まではそこまで思ってなかったけど、今日からはそう成るかもしれない」
「そんな敵なんて失礼だよ。皆優しいけどな〜」
「それはお前が転校生で可愛いからだよ。そんなの誰だってチヤホヤする」
「かわっ––うぅ……」
「けどあんまり浮かれるなよ。転校生ってのは最初はチヤホヤされる物なんだよ。それにきっと下心全開の奴だっている。誰しもを良い奴だなんて思う––って聞いてるのか?」
「えへへ〜可愛い〜」


 駄目だこりゃ。摂理の奴は何やらトリップしてる様だ。ホント呑気だな。こっちはこれからの学校生活で胃がキリキリする思いだよ。高校生活はもっと平穏無事に終わると思ったんだけどな……平穏なんて単語、僕とは無縁なのかもしれない。


「ちょっ……まっ……てよ……」


 息切れ切れの声が聞こえて振り返るとそこには鈴鹿さんの姿が。どうやら追ってきたらしい。僕だけで良いって言ったのにね。律儀な人だ。


「来たんだ」
「私も……お世話係ですから」


 そう言ってなんとか息を整える。お世話係なんて嫌がってたんじゃないのか? 女の子は良くわからない。


「あっ、鈴鹿ちゃんだ。鈴鹿ちゃん!」


 そう言って摂理は鈴鹿さんに向かって手を伸ばす。するとなんだか優しげな瞳をしてその手をそっと掴む。え? 一体何が? 鈴鹿さんが摂理の甘えに応えるなんて……どんな心境の変化があったの? 
 いや、まあイヤイヤでもちゃんと色々と世話は焼いてくれるんだよね。彼女もちょっとツンデレっぽい所ある。てか、自分からはあんまり歩み寄らないけど、寄ってきた人は邪険にする訳じゃないのかも。
 まあそれがツンデレなんだけど。




「失礼しまーす」
「ええ、そう……今晩ね。ふふ……楽しみにしてる。奥さんの方は気にしなくていいのよね? ええ、朝まで……ね」


 それなりのボリュームで言ったはずの声はどうやら保健室の先生には届いてない様だ。奥の方で何やら電話してらっしゃるようで。仕事しろよ仕事。けど保健室で常駐してる先生って実際なにやるんだろうな?
 そんなに生徒が来るわけで無いだろうし、来たとしても、サボリか軽い怪我程度だよね。あれ? 超楽な仕事場なんじゃない? そもそも教師って扱いなのか? 授業とかするわけでもなし……


「な、なんだかワクワクする会話だね」
「僕は全然ワクワクしないな。どう聞いても不倫じゃないかこれ?」
「だからワクワクするんだよ。不倫なんてドラマの中だけかと思ってたもん」


 そう言う摂理は必至に会話を聞こうと耳に手を当ててる。こいつもミーハーだな。不倫とかはどうでもいいけど、職場でそんな電話はどうかと……まあそれだけ暇なのかもしれないけどさ。


「桜矢さん不謹慎ですよ」


 そんな摂理を鈴鹿さんがそう言って耳に持ってってた手を下ろさせる。鈴鹿さんはなんだかもじもじとしてるな。秘密の会話っぽいし、聞いてる事に罪悪感でもあるのかもしれない。けど、取り敢えず摂理を寝かせないと行かないし、出て行く訳にもいかないよね。
 てな訳で僕達は再び「失礼します」と言って中に踏み入る。そしてベッドの近くまで行くと、二人を待たせて僕は奥に顔を覗かせる。


「せんせ〜い、ベッド使わせてもらって良いですか?」
「わあ!? ちょっと、入る時はちゃんと声を掛けなさいよ」
「掛けたけど、先生が何やら電話に夢中でいらっしゃったようで……」
「う……聞いてたの? 流石校内嫌われ度ナンバーワンだけあるわね。性格がネジ曲がってるわよ」
「そこまで言われる筋合い無いですけど」


 この保健医は全く……さっきの会話校長にでも言いつけるぞ。不倫なんかするよりも真っ当に恋愛して嫁の貰い手を探したほうがいいと思うけど。もう確か三十近かったような? 嫁の貰い手なくなっちゃうよ。


「何よその目は?」
「いえ別に……ところでベッド使っていいですか?」
「サボるためなら駄目。さっさと授業に戻りなさい」
「僕じゃないですよ。転校生が気分悪いって言うんで連れてきたんです」
「そう、じゃあちょっと見なくちゃね」


 そう言って椅子から立ち上がる時に「よっこらせ」とか言っちゃうあたり、賞味期限がやばそうだ。そしてこっちに来た、先生は簡単に問診した。良く考えたらこれで摂理もサボリってばれんじゃね? 
 こいつも追い返されたと言えれば、僕の心象も多少は回復するかも? 


「まあそうね。取り敢えず大事をとって寝ときなさい」
「どうして!?」


 どうせ追い返されると思ってたら違ったから思わず声を張り上げた。なんでそうなるんだよ。


「どうしてって、気分が悪いんでしょう。ちょっと横に成ることも必要よ」
「今の問診で本当に気分が悪いとわかったと?」
「さあ、でもそう言われたら休ませるしか無いし」
「はいはい、僕も気分悪いです。ベッドで休眠を取っていいですか?」
「アンタは明らかに元気いっぱいじゃない。さっさと授業に戻りなさい」
「ヤブ医者の癖に何が分かるんですか!? 僕の心は相当傷ついてますよ!」
「はいはい、心の傷ならカウンセリング室に行きなさい。推薦状書いてあげよっか?」
「……いえ、それは遠慮しときます」


 最近の学校にはカウンセリング室というのもあるんだよね。まあそっちは常駐してる訳じゃなく、週に何度か来る程度なんだけど。けどカウンセリングってね……イマイチ信用出来ないっていうか……てか僕が提供して欲しいのは推薦状じゃなくてベッドなのに……


「スオウ、私がスオウの分まで寝ててあげるから……ね」
「何が––ね––だよ。そんな意味のない行為いらねーよ」


 そんなやりとりしてると、居づらそうにしてた鈴鹿さんが僕の背中をちょんちょんと突く。振り向くと僕とは目を合わせないようにしてこう呟いた。


「戻ってこないと、課題は三倍……だそうです」
「…………」


 あの教師、僕に一体なんの恨みがあるって言うんだ。酷い差別を見た。けど流石に三倍は……そんなの真面目にやったら、それだけで今晩潰れるじゃん。いや、明日は英語ないか。それならなんとか?


「課題は明日提出」
「先生、摂理の事よろしく頼みます」
「ちゃんと寝かせてあげなさいよ」
「ああ、はいはい」


 学校のベッドは高さ的にあってないから、摂理一人だと苦労するな。てな訳で僕が抱えてベッドに寝かせてやる。


「まったく良い御身分だな」
「お姫様扱いしていいよ」
「誰がするか。僕だけでもそんな事しないっての」
「ふふ、そうだね」


 何故か嬉しそうな摂理。嫌味だったんだか? まあいいや。課題三倍にされちゃ堪らない。教室には戻りたくないけど、そんな事言ってる場合じゃない。


「じゃあ後は任せてさっさと出て行きなさい」
「分かってますよ。あの先生––」


 ドアの方に二人で歩く中、僕は最後にこう言ってやる。


「何よ?」
「––摂理も居るんで不倫の話はやめてくださいね」
「ちょっ!? なんて事言うのよアンタは!」


 凄い形相で迫ってきたんで僕は急いで外に出て扉を閉めた。そしてちょっと逃げる様に教室側の廊下まで走った。


「はは、ちょっとスッキリしたな」
「君、そんな事やってるから敵が多いのよ。もっと賢く立ち回りなさいよ」


 何故か一緒に逃げてきた鈴鹿さんにそう言われた。これだけでも息が上がったのか彼女は胸の所を抑えてる。


「今更、この学校で立ち回りを考えてもね。寧ろ今までは僕なりに気を使ってた部類なんだけど……」
「なるほど、君は多分根本でヤな奴なんでしょうね」
「なにその評価? 超傷付くんですけど」
「そんな事より早く戻りましょう。私だって無駄な時間は早く終わらせたいんだから」
「無駄なんだ?」
「無駄でしょ。私はね、それなりに将来設計しっかりしてるの。高校で遊んでたら、将来大変な事に成るわよ」


 それは何故かちょっと今までとは違う感じの真面目な声。なにかあったんだろうか? まあ高校が将来の為に大切なのはわかるけどね。受験もあるし……でも高一の時くらい忘れてたい事だよそれ。
 鈴鹿さんは息を整えて早足で廊下を進む。僕はその後ろに足取り重く続く。どうしたらここから逃げ出すのが一番の方法か……それを考えてた。


「あっ、スオウ。やほー」
「日鞠? また社長出勤かよお前」


 羨ましすぎる。日鞠の奴は玄関の方からこっちに歩いてきてた。


「はは、羨ましいってスオウだって授業中なのにサボってデートしてるじゃん」
「ちょっ!? デートってそんな……ち、違いますから!! 全然全くそんな事無いです! 桜矢さんをちょっと保健室に寝かせてきただけです」


 珍しく顔真っ赤にして反論する鈴鹿さん。そんなに嫌っすか? いや、まあ不本意だろうけど、そんなに必至に成られるとちょっと男心が傷付くよね。


「保健室って摂理ちゃん大丈夫なの?」
「別に本当に体調悪い訳じゃない。昨日夜更かししたってだけで––」
「ああ、昨日は遅くまで家の電気付いてたもんね」
「え? あのうそれって……」


 しまった!? 日鞠のせいで自然と二人っきりの様な会話をしてしまった。どどどどど、どうしよう。誤魔化さないと。


「そっか、鈴鹿ちゃんは知らないんだっけ? 二人は一緒に住んでるんだよ」
「え? ……えっ」


 なにその目? ゆっくりとこっち見るのやめて欲しい。てか日鞠の奴何言っちゃってるの? 僕はあまりの衝撃に口をパクパクするしか出来ない。


「あ〜でもこの事は秘密にしておいてね。色々とデリケートな問題だから」
「えっと……はい。分かりました。まあ言いふらす気もないですけど……けど––」
「けど?」
「いいネタとして今後活用させて貰います」
「おい!?」
「うん、許可しましょう」
「日鞠お前もか!?」


 女子二人でクスクスと笑い合う。おいおい……女って怖いな。弱み握られたよ!! 僕がズガーンと凹んでると、日鞠の奴が手を合わせて顔を覗きこんでくる。


「そうだ、丁度良いや。スオウ、ちょっと手伝ってよ」
「手伝うって何を?」
「ほら、今日放課後にイベントあるじゃない」
「イベント?」


 そんなのあったっけ? 知らないぞ。


 「アレですよね? 放課後の地域の方との触れ合い会」


 鈴鹿さんが指差す掲示板にはいかにもな手作り感満載のポスターが張ってある。なるほどあれか。


「生徒会が居るだろ」
「スオウも生徒会だよ」
「そうだった!」


 でも全然手伝いとか呼ばれなかったけど? まあ僕は都合の良い時だけの存在だからね。スーパーバイザーみたいな? ちょっと違うか? まあいいや。


「で、何やればいいんだ?」
「それが人形劇をちょっとね。手がたりなくなっちゃって、思ったよりも参加者多くなりそうで」
「なるほど、それでスーパーバイザーの出番って訳か」
「スーパー? まあそういう事だよ」
「よし、やってやろうじゃん」
「何々、今日のスオウ凄く扱いやすいよ」
「はは、何言ってるんだよ日鞠。僕は幼馴染の頼みを断ったりしないっての。どーんと来いだ」


 そんな事を言う僕の事を鈴鹿さんが白い目で見てた。バレてるバレてる。けどここは押し通すよ。止める理由もないしね。このまま教室に戻る位なら、多少面倒でも、そのイベントの手伝いの方がマシ––それが僕の結論なのだ。


「まあいいや。それじゃあ鈴鹿ちゃん、ゴメンだけど、スオウは借りていきますって伝えといてくれるかな?」
「分かりました。それでは」


 そう言って背中を向ける鈴鹿さん。けどそこで最後に日鞠が声を掛ける。


「ありがとう、鈴鹿ちゃんも来てね!」


 彼女は何も反応しなかったけど、日鞠は気にせずに僕の手を取って走りだす。この勢い……いつもの日鞠だな––そう思う。



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