命改変プログラム

ファーストなサイコロ

一が加わる変化

 結局日鞠の奴が何をしてるのか、あんまり聴けてない事がしこりなのか、学校についてもちょっと集中力を欠く有り様だ。まあそもそも学校ではあんまり集中なんてしてないんだけど……


「ちょっと、聞いてるの?」
「ん? ああ、悪い」
「はぁ」


 あからさまに聞こえるようなため息。何やってんのコイツ? 的なニュアンスがとっても感じれる。やっぱり嫌われてるのだろうか? いや、この学校の大半の奴にはよく思われてないのはわかってるんだけどね。
 けどこの人、えっと鈴鹿さんはどうなのか今まで分からなかったんだけど、やっぱりそうなのかな? そもそも喋った事もなかったから、気不味いよね。僕は基本クラス内では明確というか、無意識というかでハブられる対象だからね。そして彼女も敵意とかはないだろうけど、一人で居ることを好むタイプ。
 つまりはタイプは違えど、クラス内でのヒエラルキー的には大体同じ。そんな二人を一緒にしてもコミュニケーションなんて取れる訳ないじゃん。さっきからなんか空気重いんだよね。


「え、えっと、ほらスオウ早くしないと授業始まっちゃうよ。ごめんね鈴鹿さん。私のせいで」
「いえ、それは別に……しょうがい事だし。しょうがなくないのは彼だから」


 つまりはさっさと階段の上まで摂理を運べ––と、そう言う事だな。全部を一階内で完結出来れば良いんだけど、流石にそれは無理。どうして男女のサポートを付けたのかは、つまりはこういう事のようだ。
 この学校にバリアフリーなんて優しい言葉は無い。車椅子では階段は上がれないからね。そのサポートを女子に負かせるのは負担だ。摂理は軽そうに見えるけど、それでも絶対的に四十から五十キロはあるだろうし、女子が担いで昇るのは大変だよね。


「えっとじゃあ……どう担げば良いんだ?」


 何が正解なのかわからないな。変な所を触るわけにも行かないし……でもこっちが引き寄せないとだよな? 脇を持って高い高いの要領で車椅子から引き剥がすか? でもそれじゃあその後どうするかって問題が……腕の力だけじゃ辛いよね。やっぱりまたお姫様だっこが無難か。見た目的に恥ずかしいけど、触れる部分は一番まともだしな。


「じゃあ行くぞ摂理」
「ひゃあ! スオウどこを弄って……」


 まさぐってって……その言い方卑猥だからやめてくれない。別に下心がある行為じゃないんだからさ。脚の裏側に手を通さないと担げないじゃん。そりゃあ周囲から見たら、スカートの中に手を伸ばそうとしてる変態に見えなくもないかもしれないけど、さっさとすればそんな誤解は受けないんだから余計な事は言わないで欲しい。
 慌ただしく移動してた生徒達もだんだん減ってきてる。教室前にはまだそれなりに人が居るけど、皆始業のチャイムが鳴るのを念頭に置いて既に行動してる。こっちも急がないと、ほんとに遅れちゃうよ。


「いいから黙って担がれろ。遅れたくないだろ?」
「だってだって、なんかソワソワするし……前じゃ恥ずかしいって言うか……」
「じゃあどうしろと?」
「いいから早くしてくれない? 男なら指一本で女子くらい抱えなさいよ」
「どんな無茶ぶり!?」


 いや、もしかして鈴鹿さん的にボケたのか? そう思って表情を読み取ろうとする。いや違うな。だって表情変わってない。てか、この人……殆ど表情変わらない。仮面でも貼り付けてるのかって感じ。


「取り敢えず背中を向けて屈んでよ」
「こうか?」


 僕は要求通りに車椅子の前に背中を向けてかがむ。すると摂理はんしょんしょと両手を使って両サイドの手すりを使って近づいてきてボテっと僕の方に倒れてきた。背中に感じる柔らかい感触。そしてふわりと舞う様に広がる摂理の良い香り。
 それに一瞬硬直してたらズルっとずれ出した摂理が首の両側から伸ばしてた腕を咄嗟に組んで僕の首を羽交い締めにして落ちないように踏ん張った。


「んがっ!? ……がっはっ!」


 僕は羽交い締めにされながらもなんとか反動を付けて立ち上がる。そして背を丸めて摂理をしっかりと背中にのせて、両足を掴んでバランスを取った。


「ふう、もうちょっと練習が必要だね」
「もう少し近くにしゃがむべきだったな。まあなんとか成ってよかったよ」


 摂理がこれでいいのならまあ僕的には文句ないよ。だってお姫様だっこよりも全然役得だしね。背中に感じる柔らかな感触は癖になりそうだよ。こう……押し付けれられてる感がたまらない。女の子ってなんでこうも柔らかいのか……ドキドキするよ。


「ほらちゃちゃっと上がってよ。車椅子も上に上げなきゃいけないんだし」
「ええ! 鈴鹿さん持って来てくれないの?」


 こういうのは分担作業だよ。僕が摂理を運ぶから、鈴鹿さんは車椅子を運んだほうが効率いいよ。


「そんな事言ったってもう既に両手いっぱいだし……そもそもそんな重そうなの私の筋力じゃ無理よ。そんな体力無い」


 ハッキリとそう言って拒否を示す鈴鹿さん。どうして先生も日鞠もこの子に頼んだんだよ。もっと社交性の高い女子もいたろうに、何故に彼女なのか……理解出来ない。鈴鹿さんも友達少なそうだし、摂理の最初の友達に成れるポジションを与えたかったとか? 
 実は鈴鹿さんの救済処置も兼ねてるのかもしれない。でもこの人……ホント本だけが友達みたいな感じだからな。数日、一緒にいてわかったのは、彼女が常に本を読んでるということ位だ。
 しかも毎日本は変わってるみたい。ブックカバーついてるから外装では判断できないんだけど、チラチラと見えてた内容というか、文体で違う作者なのかな? ってのは大体わかる。今の僕の眼なら一瞬で開いてるページの文字が入ってくるんだよね。
 でもチラチラ目に入ると、場面々々が飛んでるから、なんか凄く消化不良のようで胃もたれする感じ。目に入るをやめたいんだけど、なんか自然と入ってくるんだよね。無駄に目が冴えてる感じだよ。


「しょうがないよスオウ。鈴鹿ちゃんは私達の教科書とか持ってくれてるんだし。それに私の車椅子重いからやっぱり女の子一人じゃ……」
「それもそうだな……」


 摂理の車椅子は普通のと結構違うからな。電動で動くし、普通の車椅子の様にシートは青で、フレームが素朴で、両側に地力で回すための取っ手がついたタイヤがむき出しでついてる……奴じゃない。
 なんか外装で覆われてタイヤとか見えないし、シートはふかふかで、背もたれにはリクライニング機能まである。椅子の下には簡単に付け替えできるバッテリーと収納部分。動きはとてもスムーズで不快な音なんか一切無い。それなのに時速は最大四十キロは出るようだ。坂道もラクラクの馬力も備えてる。
 この学校がバリアフリーなら、僕達の助けなんか要らない程の高性能車椅子だ。腕を置く部分と補助の人が押す後方の背もたれ上部には液晶画面があってバッテリー残量とか、どのくらいの速度を出してるとかわかりやすい表示もしてある。これはついでにタイヤの摩耗具合とかもわかってるらしいし、座ってる人の脈とか色々な事を測ってるとか。
 多分摂理の体に異常が出たら知らせてくれたりもするんだろう。後はGPSも付いてたかな?  専用のアプリを使えば位置もわかる。それにそのアプリで車椅子事態を操作する事だって可能だ。ちょっと離れた所に置いてた時に、簡単に引き寄せられて便利。これでもかって感じで機能てんこ盛りの車椅子だ。だからその分、重くなるのは仕方ないか。確かに鈴鹿さんじゃちょっとね……どうせなら歩けたらな……そしたら階段だって平気だったのに。
 流石にそこまでは技術は発展してないか。そう思ってると、階段の上の方から顔を出す奴が––


「おい、大丈夫か?」
「秋徒、ちょうどいい所に」


 ベストタイミングで現れた秋徒。これはいい労働力だ。僕の嫌な笑みを見て何か悟ったのか、秋徒の奴が眉が引く付く。でもここで様子を見に来たって事は手伝ってくれる気があるってことだろう? 観念しろよな。てか、手伝ってくれないとマジで遅れるし……


「秋徒、車椅子を運んでくれないか?」
「そんなことだろうと思ったよ。しょうがないから、急ぐぞ」
「おう」


 秋徒は降りてきて車椅子を気合を入れて持ち上げる。流石は無駄にデカイだけはある。そしてようやく階段を登り出す。




 ––昼休み––


 まだまだ転校生は新鮮で、ここ数日、この時間帯は摂理の周りには人が一杯だ。主に女子。男子は流石に遠くから眺めるくらいしか出来ないようだ。まあ摂理可愛いからね。声かけるには勇気いるよね。


「おはよう皆。摂理ちゃんとは仲良くやってるかな?」
「日鞠ちゃん!」
「ヒマサマ〜〜!!」


 時間違い挨拶とともに現れたの日鞠だ。いつもの様に三つ編みを揺らしてダサいメガネを掛けてる。スカートだって普通の女子生徒よりも長く膝丈位。でも三つ編みやメガネと相まってそこは合ってるんだよね。
 これで逆にミニ・スカートだと違和感あると思う。そんな時代から取り残された様な日鞠のスタイルだけど、あっという間に生徒が摂理から日鞠の方へ流れた。なんかちょっと悲しいな。緊張して殆ど喋れてなかった摂理だけど、誰もいなくなると悲しい目をしてるよ。
 まあ構ってもらえる内が華っていうしね。その間に摂理は友達作ってたほうが良い。向こうから来なく成ったら、摂理の性格的に厳しいだろうしね。
 僕はそんな事を思いながら立ち上がる。


(取り敢えず何か買いに行こう。騒がしくなるだし、静かな所で食べたいしな)


 そんな事を思って日鞠の奴が居る方のドアを避けて後ろ側を目指す。てかなんか顔を合わせづらいというか……よく考えたら恥ずかしい会話したしな。それにやっぱりあの野郎との関係気になるし。でも日鞠は詳しくは教えてくれないだろう。
 それなら聞くだけ無駄……でもこの悶々は雰囲気悪くするだろうから別の場所が良いって事だ。


「皆良くしてくれてるんだね。けっこうけっこう。でも摂理ちゃんはまだ固い感じかな? 皆ここはちょっと落ち着いて、担当者が心を溶かしてくれるのを待ってみない? きっと一人と仲良く成れれば自然と他の皆とも仲良く成れる筈だからね」
「担当者……」


 そう言って視線は二つに別れる。つまりは僕と鈴鹿さんだ。明らかに不安そうな声が聞こえてくる。


「取り敢えずスオウくんはなんか癪だよね」
「うんうん」
「あの子は……あの子自身が氷河みたいな感じだけど……」
「大丈夫大丈夫。なんとかなるよ」


 お気楽そうなのは日鞠のやつだけで、皆はなんとかなるとか思ってなさそう。てか癪とか酷すぎだろ。もう僕の事ならなんでもかんでも癪になるレベルかよ。


「摂理ちゃん、一緒にお昼食べよう。鈴鹿ちゃんとスオウもね」
「あ〜僕なんか超腹下してるんだよね〜。こりゃあもう昼休み中トイレかな〜? マジもうやべ〜」


 取り敢えず逃げの態勢に入るよ。だってね……


「私も別にそこまで付き合う義理はないと思うんです。貴女が居れば私なんて要らないでしょ」


 よしよし彼女もそう言ってるんだし、ここは解散だろう。無理矢理は良くないしね。


「全く二人共素直じゃないね。摂理だって二人とお弁当食べたいよね?」
「わた……しは……」


 チラチラとこっちを見る摂理。けどなかなか言葉は出てこない。


「はっきり言っていいんだよ。互いに遠慮しちゃうといつの間にか離れちゃう物だよ。だから時にはわがまま言ってみるのもありなんだよ。誰も摂理の事嫌いじゃないから」


 そんな言葉を受けて摂理は顔を上げる。そしてグッと力を込めて口を開けるよ。


「私……スオウや鈴鹿ちゃんともっと仲良く成りたい……よ」


 萎んで行ったけど、その声は一応教室内には響いたようだ。だからかな……男子の殺意と、女子の批判が僕に集中する。おい、鈴鹿にも行けよ。不公平だろ。摂理が来てから、僕の学校での立場がますます悪くなってる気がしてならない。
 しかも前に行こうと後ろに行こうと地獄なんですけど〜女子の奴等がヒソヒソとサイテーサイテーいうから、昼飯一緒にしたら、男子には恨まれるし、女子の声を無視したら、更に陰湿な事をしてきそうだ。
 そろそろ本気で転校を考えた方がいいかもしれないな。でも転校ってなんか逃げたみたいで嫌な気もする。こんな狂信者共に屈するとか嫌だよ。自分が一番まともだって思ってるもん。


「だめ……かな?」
「私と仲良くしたっていい事ないですよ。本以外に興味ないし」
「な、なら私も本読みます。眠たくなるけど頑張ります!」
「無理して読んでくれなくていい。まあ学校じゃ仕方ないし付き合うけど……」


 鈴鹿の奴、案外あっさりと折れやがって。ツンなら最後までツンを通せよ。実は友達が欲しいんですキャラとか使い古されてるぞ。


「スオウは? 勿論いいよね?」


 笑顔で圧力を掛けてくる日鞠。そっちにだって気を使ってるのに……まあ日鞠的にはあの野郎は全然問題無いんだろう。後ろめたさとか皆無っぽいし……それならまあ良いんだけど。


「取り敢えず昼飯買ってくる。弁当ないし」


 日鞠の奴が朝帰りしたせいでな。てか、摂理が来てから家に来る頻度は減ったんだけどね。夜はまだ良く作りに来てくれるけど、朝はほぼ無い。流石に三人になって大変になったから? それとも家族が増えたから自分の役目は終わったと思ってるのか……まあ案外日鞠が来なくても朝はどうにか成ってる。
 天道さんが食パンとかハムとか卵とかやけに良い所のをこだわって常備してるからね。パンでもなんとかなるな〜って印象だよ。問題は昼……やっぱり弁当は有りがたかったと思う。朝もパン、昼もパンじゃな……なんか味気ない。夜は潤沢になった資金で、日鞠が来なければ出前でオーケーなのは中々良いんだけどね。
 昼に出前とか教師じゃないと無理だしね。弁当じゃないと凝ったものは食べれないよ。


「それなら問題ないよ。作ってきたから」


 そう言って日鞠は背中のバックを揺らす。社長出勤してきたから、余裕があったのかな? まあそれなら……と思ったら、クラス内の男女ともに、歯ぎしりするほどに悔しがってる光景が……ミスったな。今までの弁当は家で貰ってたからな、気付いてない奴も居たかもしれないけど、ここまで堂々と言っちゃうとね。
 僕が日鞠の弁当を……手作り弁当を食べるって事が悔しくて堪らない連中が一杯だ。こんな中じゃ絶対に気持よく食べれない。


「おい日鞠、どこか静かな所を要求する!」
「そうだね……じゃあついてきて」


 そう言って日鞠は摂理の車椅子を押す。それに僕と鈴鹿は続く。それに秋徒の奴も何気についてきやがる。まあ助かるからいいけどね。色んなクラスからの視線から逃れるように、僕たちは一階の端っこ側の会議室へと招かれた。
 そこでようやく昼食を開始する。いつもと違うメンバーを一人交えて、いつもとちょっと変わった雰囲気の中でワイワイと楽しくね。



「命改変プログラム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く