命改変プログラム
伸びて凹んでモチモチに
リズムよく刻まれる杵が餅を叩く音。米の輪郭が消えていき、餅へと変貌していくのが見て取れる。冬だってのに、汗かいてきた。餅つきって結構な重労働だよね。
「ほらほらスオウ、もうちょっとだよ。ラストスパート」
「お前は楽だからそんな事が言えるんだよ日鞠」
「え〜こっちも結構大変なんだよ。餅熱いし」
そう言って頬を膨らませる日鞠。まあ確かに蒸気をモワンモワン上げてる餅は熱そうではあるよね。けど触るの一瞬じゃん。こっちは常に思い杵担いでるんだ。しかもそれを振り回すってしんどいぞ。
「けどほら、やっぱりスオウとが一番連携やりやすいしね。安心するよ。下手したら手潰れる恐怖があるんだからね」
「こっちだってそれには気をつけてるよ」
流石に日鞠の手を潰すとか出来ない。優秀な日鞠の手だからな。きっと生産性が僕とは段違いだろう。けどアレだよね。これだけギリギリでやってるのに、餅つきで手を砕いたって聞いたこと無い様な気がする。やっぱりそれなりに緊張感を持ってやるからかな。
まあリズムを取れれば、そうそう当たるなんて事無いだろうけどね。どこかのパフォーマンス的に超高速でやるとか以外はさ。日鞠の家は毎年やってて、僕も毎年参加させられてるから、実際日鞠となら目を瞑ってても出来そうな気はする。
案外こういうのって、初心者が危ないもんね。リズムとかタイミングとか取りづらいし。
「けどこれだけ居るわけだからな。もっと分散していいだろ? 実際お前なら誰とでも上手くやれるだろうし」
「私はそんな軽い女じゃないよ!」
「そういう意味じゃねーよ」
餅つきだっての。まあわかってるだろうけどね。取り敢えず杵を水が溜めてあるバケツに先端を浸す。そして誰に変わって貰おうかと物色する。
「いやいやもっと二人の共同作業がみたいですぞ!」
「そうだそうだ!」
ヒューヒューと冷やかしの声が響く。皆餅待たずに食いまくってるけど、腹に入りそうにないよね。まあどうせ近所に配ったり、正月の雑煮とかに使えばそれなりになくなるだろうから問題なさそうだけどね。
しかもラオウさんいるしね。あの人が殆ど食っちゃいそうな気もするな。よし、決めた。
「はい! 私やってみたいです!!」
僕が指名するよりも早く真っ直ぐに手を伸ばしたのは摂理だった。いや、何考えてるのあの子? 無理だろ。
「いやいや、重いぞこれ?」
「そういう問題? 車椅子からじゃ届かないよ」
「いや、それも違うくないか?」
二人でそんな事を言ってると摂理がなんだかとても睨んできてた。なんでそんな怒ってるんだよ? やっぱ日鞠か……嫉妬とか? 僕もそこまで鈍くないからね。初めて出来た友達だもんね。もっと構って欲しいんだろう。
自分も実際日鞠が誰か特定の奴に構ってると認めたくはないけど、少し苛ついたりはする。誰にだって構うのが日鞠なんだけど、それを分かっててもな。日鞠は僕にとっては特別だから……そして摂理にとってはそれは僕なんだろう。秋徒の奴でも良さげだけど、秋徒には恋人いるしね。
それになんだかんだ一番関わったのは僕自身。その責任は取らないと行けない。ムーと睨んでる摂理を見て息を吐く。しょうがない。
「じゃあちょっとやるか?」
「まあ折角病院を出たんだしね。餅つきは一年に一回だし、これを逃すと来年だからね」
「アンタ達……この箱入りがそんな物持てるわけ無いでしょ?」
「夜々さん酷い! わ、私持てますから!」
摂理はバカにしたような天道さんに抗議する。けど天道さんはそれを黙って無視してワインを喉に流し込んでた。
「むむースオウ!」
「はいはい」
実際、摂理の細腕じゃ杵とか持てないとは思う。だって最近やっと箸を持てるようになったとか言ってたのに、杵とか無理ありすぎるしね。多分摂理の想像してる百倍は重いぞ。でもまあ、手を貸すつもりだからどうにか成るだろうって事で車椅子を庭の方に用意する。
けど部屋の方に入って、ソファーからどうやって連れてこようか迷う。だってこれってどうやっても抱えるしか無いじゃん。なにそれ……許されるの? だって女の子だよ。
「早くスオウ、餅冷めちゃうよ」
「お、おう」
日鞠に急かせれたから、腰を落として摂理の肩に触れる。
(でも、ここじゃ抱えられないな)
そう思って脚に……でもここでもじゃあやっぱり腰? 迷ってたら脚をスリスリしてた。
「スオウ……なんかヤラシイ」
顔を逸しつつ、ちょっと頬を染めてる摂理にそう言われた。しまった、寧ろやらしくない様にしようとしてやらしくなってしまってたとは!! 取り敢えず弁解しないと。
「違うんだ。気を使ったんだよ。どこ抱えればいいのかなって……」
「お、お姫様抱……お姫様だっこがいいな」
どこのファンタジーだよ––とか思ったけど、どう抱える事も微妙だし、ここはそれでもいいかも……と思える。摂理なら絵に成るだろうしね。それに案外アレって、体との接触は少ない部類じゃないだろうか? だって背中に抱えた方が全部触れてるよね?
それに比べてお姫様抱っこは腕だけじゃん。案外男側にメリット無い抱え方だよ。
「そうだな……じゃあそれでいっか」
脚と肩に手を伸ばして「よっ」と勢い良く掲げる。すると案外すんなり抱えれた。ちょっとびっくり。摂理は想像以上に軽かった。
(てか、軽すぎじゃね?)
ちょっと心配に成る軽さ。LROならまあこんな物か……と流せるんだけど、リアルだからね。まあずっと眠ってた訳だし、体重が戻りきってないのかも。流石にこれが標準な訳ないよね。
「お前、ちゃんと食べてるのか?」
「食べてるよ。けどちゃんと固形物食べれる様になったのはここ数週間だけど……前は吐いてたから……ってちょっ、今の無しで!」
なんだか恥ずかしそうに顔を隠す摂理。別に恥ずかしがるような事でもなかった気が。ずっと食べ物を体内に入れてなかったんだし、いきなり普通の食事とかはやっぱり体が受け付けなかったりしたんだろう。
あんまり僕には言わなかったけど、色々と苦労してたんだろうな。僕は摂理を抱えて庭の方に、そして車椅子に乗せるよ。
「ほら、支えてるからもってみな」
「う……うん––––うにゃっ!?」
杵を差し出して摂理が持ったと確認した所で少し力を弱めた。すると一気に杵が自重で沈んだよ。慌てて力を入れなおす。
「これ……お箸何本分あるの?」
「さあ? 数百本位?」
それじゃあ足りないかな? けどそもそもお箸と並べるものじゃないよ。まあ摂理にとってはお箸がここ最近でようやく持てたようになった物なのかもしれないけど……
「そんな……こんなに重いなんて」
まさか本当に箸が持てたからこれも持てるとか思ってた訳じゃないよね? 大きさから段違いだろ。それに箸は軽く作ってあるのが普通だけど、これはそう言う配慮があるのかはわからない。ある程度の重さは必要だしね。
勢いと重さでもち米を潰して練って米事態の形を無くしてるんだ。あんまり軽くしようとは思ってないよね。まあ持てないのは想定済みだ。
「ほら、ちゃんと支えてるから握って」
「う、うん」
ちゃんと両手で握らせてそして杵を上の方に持っていく。摂理の力はマジで入ってるのかどうかわからないレベル。けど多分入ってるんだろう。握るので精一杯って感じだ。逆にこっちがちゃんと力を掛ける所で掛けてないせいで思ったよりもキツイってまである。
やっぱりちゃんとこういうのって、持つ部分を持つからある程度重さを気にせずに振れるってのがあるよね。そのセオリーから外れると途端にズッシリと来る。けどまあ摂理には経験としてちょっと突いてもらうだけだし、頑張れ僕。
「じゃあ行くぞ」
「うん!」
「よし、頑張れ摂理ちゃん。ハイ!」
日鞠が餅を引っ張ってその部分を中央に持ってくる。そしてそこを目指してゆっくりと杵をおろした。ペタン––と言う音はせずに、寧ろムニャラと言う感触だけが伝わる感じ。てか寧ろ摂理の力だけじゃ押し返されてる様な気もしなくもない。恐るべき餅の弾力。けど摂理はなんだか目を輝かせてた。「ほわーーー!」ってな感じに成ってる。
「もう一回! もう一回!」
「はいはい」
キラキラした目でそう言って来る摂理は小さな子どもみたいだ。自分は餅に降ろされた杵をもう一度持ち上げる。
「おお〜餅が伸びてるよスオウ!」
「そりゃあ餅だからな。伸びもするさ。寧ろ伸びる事こそ餅が餅である照明じゃね?」
「凄い伸びてるよ!」
どうやら摂理は凄く興奮してるようだ。まあ楽しそうで何よりではある。周りの皆も一緒に掛け声して、「せーの」「ほい」と何回か連続で餅を叩いた。
「じゃあそろそろ代わるか。次は誰が……」
実際今のは突けてないし、手っ取り早く終わらせる為にはラオウさんが一番だな。けどあの人の場合、寧ろその力で臼や杵を破壊しないか心配だ。人間の常識では考えちゃいけない人だからね。
まあでも彼女もさっきからソワソワしてるからね。ちょくちょくこっち見てるし、きっとやって見たいんだろう。日本に来て実際どれくらいなのかとか知らないけど、きっとこういう事はやったこと無いんだろう。
それならラオウさんにも楽しんで貰わないとね。日頃お世話にも成ってるし。
「よし、ラ––」
「クリスちゃんもどうかな? 楽しいよ」
摂理の声が僕を遮って発せられた。いや、まあクリスも確かに外人だし、やった事なさそうだけど……興味あるのかあの子?
「な、なによそれ。ライスケーキ? 変なコトやるデスね。日本人って」
「こうしなきゃ作れないんだよ。それに行事だからね。一年に一回くらいしか無いよ。クリスちゃん観光かなにかでしょ? 思い出に成るよ」
「私は別に観光というかデスね……」
「違うの? じゃあずっと友達でいれる? 時々遊んだりしてくれる?」
「そういえば観光でしたデス」
おい、今明らかに面倒だからそういったろ。まあ友達とか摂理が一方的に言ってるだけだし、別に非難する気もないけどね。そこはほら、二人の問題だし。でもまだクリスの事情とか聞いてないんだよね。
なんでこんな寒空の下で震えてたのかとか、その怪しい格好はなんだ……とか。実際素性一切知らないしね。けどそれなりに溶け込んで、さっきから料理バクバク食ってるんだよ。気に入ったのかな?
「クリスちゃん、餅って美味しいんだよ。つきたては一番。更に自分でついたら割増だよ! やってみない?」
日鞠の奴が優しくそう言ってニコニコしてる。そしてそれに便乗しておじさん達が美少女のつきたて餅を喰う為に煽るよ。
「遠慮することはないよ。何事も若い内は経験さ」
「そうそう、金髪少女の餅つき姿ってのを見てみたいなあ」
「いよっ大統領!!」
一人変な煽りしてる人がいるけど、きっと既に酒が入ってるんだろう。皆で断れない雰囲気を作ってるような……いきなり場違いな場に居る彼女にこれは酷かもしれない。知らないおじさん達に煽られてたりしたら嫌だろう。
そう思ってやんわりと断ることも出来るよって言おうと思ったけど、腕まくりをしながら彼女はこっちに歩いてくる。
「しょうがないデスね〜」
あれ? 案外ノリノリなのかな? なんか口元ニヤついてるぞ。こういうのきらいじゃないのかも知れない。そもそも料理バクバク食ってたしな。
「って、あっちょっとストップ」
「なんデスか?」
何故に僕にはそんな鋭い眼光を向けてくるのこの娘? 何かしたっけ? 寧ろされた記憶ならあるんだけど、この娘が不快に成るような事をした記憶が無い。まあ取り敢えずスリッパをクリスの足元に出してやる。
「ほらこれ。何も履かない訳には行かないだろ?」
「そういえば、靴無いデスね。今だけは感謝しときます」
今だけとはどういう事なのか? まあそんなずっと感謝される事でもないけどね。あんまり深く考えなくてもただ日本語に不慣れなだけかも知れない。外人さんだしね。そう思っとこう。
「持てるのか?」
「ふっ、舐めるなデース」
クリスはバケツに入ってた杵をラクラクと持ち上げた……と思ったら、よろめいた。
「なかなかの重さデスね」
「けど凄いよクリスちゃん。片手で持ち上げれるなんて考えられない。そんな細いのにな〜」
「鍛え方が違うんデスよ。摂理のは脂肪。私のは筋肉デース」
「ひど〜い!!」
なんか案外仲良くやってる二人である。摂理の奴はコミュ症かと思ってたけど、病院にずっと居て、誰とも接触がなかっただけで、別段コミュニケーションが下手って訳ではないのかもしれない。
まあLROでもリハビリしたしな。それにここは知り合いばかりだし、安心感とかあるのかも。知らない人がいっぱいの中で自分らしくしようとするのは緊張するけど、知り合いがいる場所で、一人二人の知らない人が混じったらちょっと優しくしてあげようみたいな感覚のアレか。
「教えようか?」
「御免無用デース。見てたからわかりまーす」
御免無用なんて言葉あったかは知らないけど、取り敢えず手は出すな––ということらしい。まあそれなら……ということで摂理と共にちょっと離れる。
「いいデスか?」
「いつでもどうぞ」
二人の目がキラーンと光った気がした。そして勢い良くクリスが杵を振るう。ペタンと盛大に響いて、持ち上げた時に日鞠が餅を返す。そして更にペタンと響く。それがリズムよく続いてく。確かに普通に出来てる。降り出したら軸もブレずに安定した手つき。
「まだまだスピード上げるデスよ!」
「どうぞ、ご自由に」
そう言って更に加速するクリス。女であのスピードは凄いな。すぐバテそうだけど、結構な速さだ。周りからも「おお」と言うどよめきが聞こえる。それは勿論彼女の想像以上の身体能力もあるだろうけど、その光景がね。キラキラした金髪を靡かせて異文化のイベントをこなす美少女はいいものである。
まあ服装が残念だけどね。それ以外は完璧だ。
「ど……どうですか? 金髪舐めるなデスよ」
別に誰も舐めちゃいないけど、息切れ起こしながらこっち見てくるクリス。しょうが無いからスゴイスゴイと頭撫で撫でしてやった。
「ちょっ! 気安く触るなデスよ!」
「もう、なんなんだよ一体」
褒めて欲しそうだったからやってやったのに……すると何故か摂理まで怒り出す。
「そうだよスオウ! 女の子の髪に気安く触るなんてデリカシーが無いです!!」
「はいはい、うん、これはもう十分じゃないか日鞠」
「そうだね。秋徒籠持ってきて」
「へいへい」
細長い籠に餅を移してテーブルの方に持っていく。籠には予め小麦粉が敷いてある。そして皆で大きな餅を小さく丸める作業の始まりだ。これなら力もそう要らないし、摂理にも出来るだろう。
「よし、とうとう私の本気を見せる時が来たね」
「そりゃあ楽しみだー」
「なんか気持ちが全然篭ってないんだけど」
ムーと頬を膨らませる摂理。そんなやりとりしながら摂理をテーブルの方の椅子に移すよ。一番近いところに摂理は座らせる。そのほかの皆は立って作業だ。
「さて、では私は食事に戻りましょうかね」
「は〜い、次の餅米よ〜」
「んにゃ!? まだあるんデスか?」
日鞠のお母さんが炊き立ての餅米を木造の四角い昔ながらの箱ごと運んできた。そして臼に転がして、餅米が引っ付かないように包んであった白い布を取る。モワンと白い蒸気が立ち上るよ。
「ツヤツヤデスね」
「ふふ、貴女も同じくらいツヤツヤよ。まだ後一つあるから頑張って」
「まだ……」
日鞠のお母さんは空箱をもって家に消えていく。そしてガックリうなだれてるクリスの元にラオウさんが行った。
「何をうなだれてるんですか? もっと楽しみましょうよ。一緒に」
「ラオウさんもやってくれるんですか? これなら早く出来そうですね」
「ええ、ご助力致します」
ラオウさんが杵を持つとやけに小さく見える不思議。まるで力士が普通サイズの茶碗を持つとミニチュアに見える現象だな。あれ? あれってそんな軽いの? とか錯覚しそうだ。
「ふ、ふん、やりたければ一人でどうぞ。私は疲れました。食べ物食べたいデス」
「そうですか。まあその程度の筋肉では仕方ありませんね」
そう言って自分の筋肉をムキムキさせるラオウさん。いや、それ自慢になるかな? 女子相手に。けどどうやらクリスには効果があったようだ。
「筋肉なんて無駄につければいいって物じゃないんデスよ。それを証明してあげます」
二人して火花を散らす。そして互いに臼を間に入れて立って、そして杵を振り上げる。
「待って。まずはある程度まで餅米をこねます。はい、二人共杵を中に入れて二人で交差するように動かして」
「あっ、はい」
「了解デス」
二人の気合などなんとやら……日鞠が上手く二人をコントロールしてる。まあアイツに任せとけばどうとでも成るだろう。心配なんて露ほどもいらない。
「ほらほらスオウ見て! 上手く丸まったと思わない?」
「おうって、お前粉ついてるぞ」
小さな子どもの様にはしゃいでる摂理は顔についた粉なんて気にもとめてない。全く……僕が優しく拭いてやるよ。ほんと楽しそうだ。けど楽しそうなのは摂理だけじゃない。周りで餅をこねくり回してるみんなそうだよ。
「餅を丸めるなんていつ以来だろうか?」
「高校とか?」
「大学でもやってましたよウチは」
「なんだか童心に返った気になるね」
大人な人達も昔を懐かしんでるって感じ。確かにこういうのって縁なかったらとことんやらないよね。そもそも自分の家で餅をついてる家庭がどれほどあるか。
「餅つきってパフォーマンスじゃないんですね。ちゃんと丸めて食べる所までやるなんて初めてです」
「えっ? マジなの愛? 貧乏人の行事?」
「そんな事はないと。ただ、私の家はなんでもやってくれるから。私はただ用意されたものを頂くだけだったもの」
「楽そうでいいけどな」
「味気ないですよ。こういうのの方が楽しい。うん、楽しいよ」
なんだか良い雰囲気になってる二人。まったくこんな人前でイチャイチャしちゃって。仲直りしたのかね?
「ああ〜〜フフタル!!」
その場に響くメカブの声。何事かと思ったら、フフタルの奴の口から餅がはみ出してる。一体何があった?
「俺を殺るとはなかなかだぜ……こいつは白い悪魔……と名付けよう」
「フフタルーーー!!」
いや、お前まさかくおうとしたのかよ。どうやって消化しようと思った? そもそも喉無いだろ。変な演技してないで喉から出さないとマジで故障しかねないぞ。けどなんだかちょっと笑える。
いつもなら冷ややかな視線が降り注ぐ訳だけど、今はちょっとだけ許せる気がするよ。セツリも笑ってるしね。楽しそうに笑ってる。この笑顔を見る度によかった––そう思える。命を賭けた価値は確かにあったんだ。
「ほらほらスオウ、もうちょっとだよ。ラストスパート」
「お前は楽だからそんな事が言えるんだよ日鞠」
「え〜こっちも結構大変なんだよ。餅熱いし」
そう言って頬を膨らませる日鞠。まあ確かに蒸気をモワンモワン上げてる餅は熱そうではあるよね。けど触るの一瞬じゃん。こっちは常に思い杵担いでるんだ。しかもそれを振り回すってしんどいぞ。
「けどほら、やっぱりスオウとが一番連携やりやすいしね。安心するよ。下手したら手潰れる恐怖があるんだからね」
「こっちだってそれには気をつけてるよ」
流石に日鞠の手を潰すとか出来ない。優秀な日鞠の手だからな。きっと生産性が僕とは段違いだろう。けどアレだよね。これだけギリギリでやってるのに、餅つきで手を砕いたって聞いたこと無い様な気がする。やっぱりそれなりに緊張感を持ってやるからかな。
まあリズムを取れれば、そうそう当たるなんて事無いだろうけどね。どこかのパフォーマンス的に超高速でやるとか以外はさ。日鞠の家は毎年やってて、僕も毎年参加させられてるから、実際日鞠となら目を瞑ってても出来そうな気はする。
案外こういうのって、初心者が危ないもんね。リズムとかタイミングとか取りづらいし。
「けどこれだけ居るわけだからな。もっと分散していいだろ? 実際お前なら誰とでも上手くやれるだろうし」
「私はそんな軽い女じゃないよ!」
「そういう意味じゃねーよ」
餅つきだっての。まあわかってるだろうけどね。取り敢えず杵を水が溜めてあるバケツに先端を浸す。そして誰に変わって貰おうかと物色する。
「いやいやもっと二人の共同作業がみたいですぞ!」
「そうだそうだ!」
ヒューヒューと冷やかしの声が響く。皆餅待たずに食いまくってるけど、腹に入りそうにないよね。まあどうせ近所に配ったり、正月の雑煮とかに使えばそれなりになくなるだろうから問題なさそうだけどね。
しかもラオウさんいるしね。あの人が殆ど食っちゃいそうな気もするな。よし、決めた。
「はい! 私やってみたいです!!」
僕が指名するよりも早く真っ直ぐに手を伸ばしたのは摂理だった。いや、何考えてるのあの子? 無理だろ。
「いやいや、重いぞこれ?」
「そういう問題? 車椅子からじゃ届かないよ」
「いや、それも違うくないか?」
二人でそんな事を言ってると摂理がなんだかとても睨んできてた。なんでそんな怒ってるんだよ? やっぱ日鞠か……嫉妬とか? 僕もそこまで鈍くないからね。初めて出来た友達だもんね。もっと構って欲しいんだろう。
自分も実際日鞠が誰か特定の奴に構ってると認めたくはないけど、少し苛ついたりはする。誰にだって構うのが日鞠なんだけど、それを分かっててもな。日鞠は僕にとっては特別だから……そして摂理にとってはそれは僕なんだろう。秋徒の奴でも良さげだけど、秋徒には恋人いるしね。
それになんだかんだ一番関わったのは僕自身。その責任は取らないと行けない。ムーと睨んでる摂理を見て息を吐く。しょうがない。
「じゃあちょっとやるか?」
「まあ折角病院を出たんだしね。餅つきは一年に一回だし、これを逃すと来年だからね」
「アンタ達……この箱入りがそんな物持てるわけ無いでしょ?」
「夜々さん酷い! わ、私持てますから!」
摂理はバカにしたような天道さんに抗議する。けど天道さんはそれを黙って無視してワインを喉に流し込んでた。
「むむースオウ!」
「はいはい」
実際、摂理の細腕じゃ杵とか持てないとは思う。だって最近やっと箸を持てるようになったとか言ってたのに、杵とか無理ありすぎるしね。多分摂理の想像してる百倍は重いぞ。でもまあ、手を貸すつもりだからどうにか成るだろうって事で車椅子を庭の方に用意する。
けど部屋の方に入って、ソファーからどうやって連れてこようか迷う。だってこれってどうやっても抱えるしか無いじゃん。なにそれ……許されるの? だって女の子だよ。
「早くスオウ、餅冷めちゃうよ」
「お、おう」
日鞠に急かせれたから、腰を落として摂理の肩に触れる。
(でも、ここじゃ抱えられないな)
そう思って脚に……でもここでもじゃあやっぱり腰? 迷ってたら脚をスリスリしてた。
「スオウ……なんかヤラシイ」
顔を逸しつつ、ちょっと頬を染めてる摂理にそう言われた。しまった、寧ろやらしくない様にしようとしてやらしくなってしまってたとは!! 取り敢えず弁解しないと。
「違うんだ。気を使ったんだよ。どこ抱えればいいのかなって……」
「お、お姫様抱……お姫様だっこがいいな」
どこのファンタジーだよ––とか思ったけど、どう抱える事も微妙だし、ここはそれでもいいかも……と思える。摂理なら絵に成るだろうしね。それに案外アレって、体との接触は少ない部類じゃないだろうか? だって背中に抱えた方が全部触れてるよね?
それに比べてお姫様抱っこは腕だけじゃん。案外男側にメリット無い抱え方だよ。
「そうだな……じゃあそれでいっか」
脚と肩に手を伸ばして「よっ」と勢い良く掲げる。すると案外すんなり抱えれた。ちょっとびっくり。摂理は想像以上に軽かった。
(てか、軽すぎじゃね?)
ちょっと心配に成る軽さ。LROならまあこんな物か……と流せるんだけど、リアルだからね。まあずっと眠ってた訳だし、体重が戻りきってないのかも。流石にこれが標準な訳ないよね。
「お前、ちゃんと食べてるのか?」
「食べてるよ。けどちゃんと固形物食べれる様になったのはここ数週間だけど……前は吐いてたから……ってちょっ、今の無しで!」
なんだか恥ずかしそうに顔を隠す摂理。別に恥ずかしがるような事でもなかった気が。ずっと食べ物を体内に入れてなかったんだし、いきなり普通の食事とかはやっぱり体が受け付けなかったりしたんだろう。
あんまり僕には言わなかったけど、色々と苦労してたんだろうな。僕は摂理を抱えて庭の方に、そして車椅子に乗せるよ。
「ほら、支えてるからもってみな」
「う……うん––––うにゃっ!?」
杵を差し出して摂理が持ったと確認した所で少し力を弱めた。すると一気に杵が自重で沈んだよ。慌てて力を入れなおす。
「これ……お箸何本分あるの?」
「さあ? 数百本位?」
それじゃあ足りないかな? けどそもそもお箸と並べるものじゃないよ。まあ摂理にとってはお箸がここ最近でようやく持てたようになった物なのかもしれないけど……
「そんな……こんなに重いなんて」
まさか本当に箸が持てたからこれも持てるとか思ってた訳じゃないよね? 大きさから段違いだろ。それに箸は軽く作ってあるのが普通だけど、これはそう言う配慮があるのかはわからない。ある程度の重さは必要だしね。
勢いと重さでもち米を潰して練って米事態の形を無くしてるんだ。あんまり軽くしようとは思ってないよね。まあ持てないのは想定済みだ。
「ほら、ちゃんと支えてるから握って」
「う、うん」
ちゃんと両手で握らせてそして杵を上の方に持っていく。摂理の力はマジで入ってるのかどうかわからないレベル。けど多分入ってるんだろう。握るので精一杯って感じだ。逆にこっちがちゃんと力を掛ける所で掛けてないせいで思ったよりもキツイってまである。
やっぱりちゃんとこういうのって、持つ部分を持つからある程度重さを気にせずに振れるってのがあるよね。そのセオリーから外れると途端にズッシリと来る。けどまあ摂理には経験としてちょっと突いてもらうだけだし、頑張れ僕。
「じゃあ行くぞ」
「うん!」
「よし、頑張れ摂理ちゃん。ハイ!」
日鞠が餅を引っ張ってその部分を中央に持ってくる。そしてそこを目指してゆっくりと杵をおろした。ペタン––と言う音はせずに、寧ろムニャラと言う感触だけが伝わる感じ。てか寧ろ摂理の力だけじゃ押し返されてる様な気もしなくもない。恐るべき餅の弾力。けど摂理はなんだか目を輝かせてた。「ほわーーー!」ってな感じに成ってる。
「もう一回! もう一回!」
「はいはい」
キラキラした目でそう言って来る摂理は小さな子どもみたいだ。自分は餅に降ろされた杵をもう一度持ち上げる。
「おお〜餅が伸びてるよスオウ!」
「そりゃあ餅だからな。伸びもするさ。寧ろ伸びる事こそ餅が餅である照明じゃね?」
「凄い伸びてるよ!」
どうやら摂理は凄く興奮してるようだ。まあ楽しそうで何よりではある。周りの皆も一緒に掛け声して、「せーの」「ほい」と何回か連続で餅を叩いた。
「じゃあそろそろ代わるか。次は誰が……」
実際今のは突けてないし、手っ取り早く終わらせる為にはラオウさんが一番だな。けどあの人の場合、寧ろその力で臼や杵を破壊しないか心配だ。人間の常識では考えちゃいけない人だからね。
まあでも彼女もさっきからソワソワしてるからね。ちょくちょくこっち見てるし、きっとやって見たいんだろう。日本に来て実際どれくらいなのかとか知らないけど、きっとこういう事はやったこと無いんだろう。
それならラオウさんにも楽しんで貰わないとね。日頃お世話にも成ってるし。
「よし、ラ––」
「クリスちゃんもどうかな? 楽しいよ」
摂理の声が僕を遮って発せられた。いや、まあクリスも確かに外人だし、やった事なさそうだけど……興味あるのかあの子?
「な、なによそれ。ライスケーキ? 変なコトやるデスね。日本人って」
「こうしなきゃ作れないんだよ。それに行事だからね。一年に一回くらいしか無いよ。クリスちゃん観光かなにかでしょ? 思い出に成るよ」
「私は別に観光というかデスね……」
「違うの? じゃあずっと友達でいれる? 時々遊んだりしてくれる?」
「そういえば観光でしたデス」
おい、今明らかに面倒だからそういったろ。まあ友達とか摂理が一方的に言ってるだけだし、別に非難する気もないけどね。そこはほら、二人の問題だし。でもまだクリスの事情とか聞いてないんだよね。
なんでこんな寒空の下で震えてたのかとか、その怪しい格好はなんだ……とか。実際素性一切知らないしね。けどそれなりに溶け込んで、さっきから料理バクバク食ってるんだよ。気に入ったのかな?
「クリスちゃん、餅って美味しいんだよ。つきたては一番。更に自分でついたら割増だよ! やってみない?」
日鞠の奴が優しくそう言ってニコニコしてる。そしてそれに便乗しておじさん達が美少女のつきたて餅を喰う為に煽るよ。
「遠慮することはないよ。何事も若い内は経験さ」
「そうそう、金髪少女の餅つき姿ってのを見てみたいなあ」
「いよっ大統領!!」
一人変な煽りしてる人がいるけど、きっと既に酒が入ってるんだろう。皆で断れない雰囲気を作ってるような……いきなり場違いな場に居る彼女にこれは酷かもしれない。知らないおじさん達に煽られてたりしたら嫌だろう。
そう思ってやんわりと断ることも出来るよって言おうと思ったけど、腕まくりをしながら彼女はこっちに歩いてくる。
「しょうがないデスね〜」
あれ? 案外ノリノリなのかな? なんか口元ニヤついてるぞ。こういうのきらいじゃないのかも知れない。そもそも料理バクバク食ってたしな。
「って、あっちょっとストップ」
「なんデスか?」
何故に僕にはそんな鋭い眼光を向けてくるのこの娘? 何かしたっけ? 寧ろされた記憶ならあるんだけど、この娘が不快に成るような事をした記憶が無い。まあ取り敢えずスリッパをクリスの足元に出してやる。
「ほらこれ。何も履かない訳には行かないだろ?」
「そういえば、靴無いデスね。今だけは感謝しときます」
今だけとはどういう事なのか? まあそんなずっと感謝される事でもないけどね。あんまり深く考えなくてもただ日本語に不慣れなだけかも知れない。外人さんだしね。そう思っとこう。
「持てるのか?」
「ふっ、舐めるなデース」
クリスはバケツに入ってた杵をラクラクと持ち上げた……と思ったら、よろめいた。
「なかなかの重さデスね」
「けど凄いよクリスちゃん。片手で持ち上げれるなんて考えられない。そんな細いのにな〜」
「鍛え方が違うんデスよ。摂理のは脂肪。私のは筋肉デース」
「ひど〜い!!」
なんか案外仲良くやってる二人である。摂理の奴はコミュ症かと思ってたけど、病院にずっと居て、誰とも接触がなかっただけで、別段コミュニケーションが下手って訳ではないのかもしれない。
まあLROでもリハビリしたしな。それにここは知り合いばかりだし、安心感とかあるのかも。知らない人がいっぱいの中で自分らしくしようとするのは緊張するけど、知り合いがいる場所で、一人二人の知らない人が混じったらちょっと優しくしてあげようみたいな感覚のアレか。
「教えようか?」
「御免無用デース。見てたからわかりまーす」
御免無用なんて言葉あったかは知らないけど、取り敢えず手は出すな––ということらしい。まあそれなら……ということで摂理と共にちょっと離れる。
「いいデスか?」
「いつでもどうぞ」
二人の目がキラーンと光った気がした。そして勢い良くクリスが杵を振るう。ペタンと盛大に響いて、持ち上げた時に日鞠が餅を返す。そして更にペタンと響く。それがリズムよく続いてく。確かに普通に出来てる。降り出したら軸もブレずに安定した手つき。
「まだまだスピード上げるデスよ!」
「どうぞ、ご自由に」
そう言って更に加速するクリス。女であのスピードは凄いな。すぐバテそうだけど、結構な速さだ。周りからも「おお」と言うどよめきが聞こえる。それは勿論彼女の想像以上の身体能力もあるだろうけど、その光景がね。キラキラした金髪を靡かせて異文化のイベントをこなす美少女はいいものである。
まあ服装が残念だけどね。それ以外は完璧だ。
「ど……どうですか? 金髪舐めるなデスよ」
別に誰も舐めちゃいないけど、息切れ起こしながらこっち見てくるクリス。しょうが無いからスゴイスゴイと頭撫で撫でしてやった。
「ちょっ! 気安く触るなデスよ!」
「もう、なんなんだよ一体」
褒めて欲しそうだったからやってやったのに……すると何故か摂理まで怒り出す。
「そうだよスオウ! 女の子の髪に気安く触るなんてデリカシーが無いです!!」
「はいはい、うん、これはもう十分じゃないか日鞠」
「そうだね。秋徒籠持ってきて」
「へいへい」
細長い籠に餅を移してテーブルの方に持っていく。籠には予め小麦粉が敷いてある。そして皆で大きな餅を小さく丸める作業の始まりだ。これなら力もそう要らないし、摂理にも出来るだろう。
「よし、とうとう私の本気を見せる時が来たね」
「そりゃあ楽しみだー」
「なんか気持ちが全然篭ってないんだけど」
ムーと頬を膨らませる摂理。そんなやりとりしながら摂理をテーブルの方の椅子に移すよ。一番近いところに摂理は座らせる。そのほかの皆は立って作業だ。
「さて、では私は食事に戻りましょうかね」
「は〜い、次の餅米よ〜」
「んにゃ!? まだあるんデスか?」
日鞠のお母さんが炊き立ての餅米を木造の四角い昔ながらの箱ごと運んできた。そして臼に転がして、餅米が引っ付かないように包んであった白い布を取る。モワンと白い蒸気が立ち上るよ。
「ツヤツヤデスね」
「ふふ、貴女も同じくらいツヤツヤよ。まだ後一つあるから頑張って」
「まだ……」
日鞠のお母さんは空箱をもって家に消えていく。そしてガックリうなだれてるクリスの元にラオウさんが行った。
「何をうなだれてるんですか? もっと楽しみましょうよ。一緒に」
「ラオウさんもやってくれるんですか? これなら早く出来そうですね」
「ええ、ご助力致します」
ラオウさんが杵を持つとやけに小さく見える不思議。まるで力士が普通サイズの茶碗を持つとミニチュアに見える現象だな。あれ? あれってそんな軽いの? とか錯覚しそうだ。
「ふ、ふん、やりたければ一人でどうぞ。私は疲れました。食べ物食べたいデス」
「そうですか。まあその程度の筋肉では仕方ありませんね」
そう言って自分の筋肉をムキムキさせるラオウさん。いや、それ自慢になるかな? 女子相手に。けどどうやらクリスには効果があったようだ。
「筋肉なんて無駄につければいいって物じゃないんデスよ。それを証明してあげます」
二人して火花を散らす。そして互いに臼を間に入れて立って、そして杵を振り上げる。
「待って。まずはある程度まで餅米をこねます。はい、二人共杵を中に入れて二人で交差するように動かして」
「あっ、はい」
「了解デス」
二人の気合などなんとやら……日鞠が上手く二人をコントロールしてる。まあアイツに任せとけばどうとでも成るだろう。心配なんて露ほどもいらない。
「ほらほらスオウ見て! 上手く丸まったと思わない?」
「おうって、お前粉ついてるぞ」
小さな子どもの様にはしゃいでる摂理は顔についた粉なんて気にもとめてない。全く……僕が優しく拭いてやるよ。ほんと楽しそうだ。けど楽しそうなのは摂理だけじゃない。周りで餅をこねくり回してるみんなそうだよ。
「餅を丸めるなんていつ以来だろうか?」
「高校とか?」
「大学でもやってましたよウチは」
「なんだか童心に返った気になるね」
大人な人達も昔を懐かしんでるって感じ。確かにこういうのって縁なかったらとことんやらないよね。そもそも自分の家で餅をついてる家庭がどれほどあるか。
「餅つきってパフォーマンスじゃないんですね。ちゃんと丸めて食べる所までやるなんて初めてです」
「えっ? マジなの愛? 貧乏人の行事?」
「そんな事はないと。ただ、私の家はなんでもやってくれるから。私はただ用意されたものを頂くだけだったもの」
「楽そうでいいけどな」
「味気ないですよ。こういうのの方が楽しい。うん、楽しいよ」
なんだか良い雰囲気になってる二人。まったくこんな人前でイチャイチャしちゃって。仲直りしたのかね?
「ああ〜〜フフタル!!」
その場に響くメカブの声。何事かと思ったら、フフタルの奴の口から餅がはみ出してる。一体何があった?
「俺を殺るとはなかなかだぜ……こいつは白い悪魔……と名付けよう」
「フフタルーーー!!」
いや、お前まさかくおうとしたのかよ。どうやって消化しようと思った? そもそも喉無いだろ。変な演技してないで喉から出さないとマジで故障しかねないぞ。けどなんだかちょっと笑える。
いつもなら冷ややかな視線が降り注ぐ訳だけど、今はちょっとだけ許せる気がするよ。セツリも笑ってるしね。楽しそうに笑ってる。この笑顔を見る度によかった––そう思える。命を賭けた価値は確かにあったんだ。
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