命改変プログラム

ファーストなサイコロ

可能性の貪欲者

 二つが対になった双剣は薄い緑色の風を煌めかせて纏い、悠然とそこに立ってる奴に寄り添ってるように見えた。それは前にも一度見たことある姿だ。圧倒的で……圧巻の姿が思い浮かぶ。そしてその正体の可能性。本当は口に出したくも無かった名前を口にした。


(さあ行きなさい。ここはその子に任せてね)


 声を掛けた主は反応せずにかわりにさっきから頭に響く声が行動を促す。結局の所……目の前のこいつは……本当にあいつなのか? 会長は違うと、そんな事あるわけないと言ってたけど、このタイミングで来そうな奴。会長の為にここまで掛けれる奴と言ったら自分は他に知らない。
 それに前の事件を解決したのなら、傭兵に対抗しうる力だって、アイツは持ってるはず。


「はは、なんだお前? 今どこから現れた!!」
「––ふっ」


 僅かに吐いた息とともに二刀の剣士は敵を吹き飛ばした。そして追撃すべく脚に力を込めて一足でまるで飛ぶかの様に進んでいく。あれもきっと風が後押ししてるんだろう。


「なめるなあああああ!!」


 傭兵はそんな叫びと共に、アイツを迎え撃つために本気を出す気のようだ。コンパクトに収まってた武器が成長するかの様に刀身を伸ばし、その見た目が凶悪に成ってく。そして双方の武器がぶつかるとその衝撃で周囲が破壊されそうな程だった。


「っつ……これが……」


 これが上位の戦い。自分達の戦闘とは規模とかがまるで違う。それにスピードも目で追えないよ。本当にこれが人の戦いか? 衝撃は見えなくところで響き、暴風が彼らの戦闘の軌跡を描いてる。入り込む余地なんか自分にはまるでない。


「なんなんだよ……一体。なんで……お前なんだ」


 一番頼りたくない奴だ。一番認めたくない奴だ。だってアイツを認めたら、会長にとって自分達は、やっぱり必要ないみたいじゃないか。皆が嫉妬してる。アイツの位置に。だから仲良くしようとする奴は居ないんだ。
 それでもやっぱり誰もが気付いてる。自分達の学校の生徒なら誰もがだ。会長はアイツを信じてるし、二人の間には誰も入り込めない何かがある。繋がってる……どんな事よりも強い何かで。もしもアレが……今目の前で戦ってくれてるアレがアイツじゃなくても、それでも、自分は思ってしまったんだ。
 それってさ、わかってるからなんだ。会長の一番になんて成りたいなんて大層なことを自分は思ってなんかないけど、それでも会長に求められる自分では有りたいと思う。けど会長は自分達よりも、アイツを強く……信じてる筈なんだ。
 それは自分達をあの人が無碍にしてるとかじゃない。そんな訳は絶対にない。あの人はどんなに小さくても、優しさを掛けてるくれる人だ。けどさ、あの人に自分達が優しさを届けるのは難しいと思うんだ。会長が本当の意味で頼ったりするのってやっぱりアイツで……アイツしか居ないんじゃないかって……そんな事を思うから、家の学校の生徒はアイツが嫌いだ。
 ただの嫉妬だけど……それでもそう思わずには居られないんだよ。


(これでいいじゃない。望む様にならないのが世界でしょ。それでも、君の可能性は続いてる。さあ、どうするの?)
「どうするって……」


 頭に響く声は問いかけてくる。ここで悔しさと共に歯ぎしりしておくか、行動を起すか。


「そんなの決まってる!」


 顔を上げて振り返る。見据えるのは敵が侵入してる城。何をやればいいのか……それはまだわからない。状況も不明だしね。けどまだ続いてるこの命。思いっきり使えるのがLROという場所の筈だ。
 リアルでは命の掛かる場面で自分なら二の足を踏むだろうし、逃げ出すかも知れない。リアルなら……ね。だってそれは本当意味での『死』が待ってるかもしれないから。けどここは何度でも挑戦できる。そのチャンスがあればだけど。そして今、自分にはその可能性を与えられた。まだ引けない。諦め切れない。それなら迷う理由なんてないんだ。


(それじゃあ頑張ってね)
「……一つ聞かせくれ。君は誰だ? それにアイツは……」


 派手にドンパチ繰り広げてるアイツがスオウの奴かそうじゃないとしても、この頭に話しかけてる奴とは別々だってのは確定的に明らかだろう。だってあんな派手で恐ろしく人外染みた戦いしてるのに、この余裕はないだろうしね。
 そもそも今戦ってる奴は体格的に男っぽいし、頭に響く声は女の声だ。同一人物とは思えない。それに今、この場に介入出来る事もそもそも謎だ。他人のエリアにはそうやすやすと入れはしない。招待でもされたのならまだしも、けど誰がこんな奴と知り合いだと言うんだ。それに今はバトル中だ。
 実は会長が隠してた戦力? けど会長はアイツはスオウの訳ないと言ってたしね……それに、これは勘だけど、会長はアイツをここ、つまりLROに近づけないようにしてるような気がしなくもない。
 だってアイツだって生徒会だ。それに経験から考えて、会長がどんな目的だろうと、アイツが居ることはメリットに成る得ると思う。それを敢えてやらず……というか、ここ数週間、まともに姿も見てないんだけど……色々と今までを考えるとそうとも思える。


(知った所で無意味じゃないかしら? 辞める人にはね。まあそれでも、関わっては来るだろうけど)
「だからどういう事なんだ?」


 意味深な言葉しか喋らない奴だ。モヤモヤする。まあつまりはまともに喋る気は無いって事なんだろうけど……しょうがない、けどこれだけは確かめさせてもらおう。激しい攻防が二人の間では続いてる。
 吹きすさぶ風、飛び散る火花、砕け舞っていく周囲の物体。そんな中、取り残さたような自分は一人、姿見えないその誰かを見据えるように空を仰いでこう問うた。


「君は……君達は味方なんだと思っていいんだな」
(う〜ん、それはどうかな? けど、ひとつ言えることはこっちにも目的があるってこと。そして私も自分に可能性を宿らせたいの)
「可能性を宿らせる?」


 意味が分からない。いや、ほんとに。けど、今の言葉の感じは、軽くあしらってるって感じでも無かった気がする。自分の様な繊細なビビリは、他人の言葉のニュアンスなんかには敏感に成るものなんだ。
 だから何なと無くだけど分かる。節々から流れ出る心の機微というか、息遣いというか……そういうので真剣かどうかくらいは見抜けるよ。


(君は生きてるって何だと思う? 私も生きたいな思ってね)
「まるで今は死んでるかのような言い方だな」


 まってやだ、怖い。実はこの声幽霊なのか。そういえば、前にLROには大量の幽霊というか死霊が居るとかなんとか……そう言う噂が流れた様な気がする。ここは不確かな場所にある世界だから、そう言うのが集まりやすいんだとか。
 どっかの霊媒師とかは天国はここだったんだ……とか言い出してた気もする。笑われてたけど……まあ科学の末の仮想正解みたいなものだからね。天国とかあの世とかはオカルトの世界だから、ある意味相反してるもんね。


(死んじゃ無いよ。けどあんまり生きてる実感もない。私は曖昧なの。だから可能性に惹かれる)
「可能性を求める事が生きてるって事になると?」
(さあ、けど……見せられたからね。そして魅せられたの。だから今度は自分でも––って思うでしょ?)




 思うでしょ? って言われてもね。何の事か分からないし、答えようがない。


(けど今のままじゃね……ちょっと活気が足りないよね。プレイヤーもだけど、システム側も)


 システム側? システムの活気とは一体……それにプレイヤー側は徐々にだけど盛り上がりだしてると思う。その仕掛け人は間違いなく会長だろう。システム側はまあ……分かんないけど。


(やっぱりまだピースが足りないんだよね。彼には是が非でも戻ってきて貰わないと)


 最後に僅かに女は笑った。その声だけ、悪寒が背筋に走った。良からぬ事を企んでるのかもしれない。やっぱり敵? そんな事を思ってると、別方向から、光が走ったように見えた。直後、耳をつんざく様な大轟音と共に閃光が光る。
 まさに雷が落ちた時の様な感じだった。なんか内臓が迫り上がった感じ……視界が戻ってくると、なんか敵が増えてた。傭兵がもう一人……


(ううん、もっと来る。速く行ったほうがいいわよ。君なんて戦闘の流れでぶつかっただけで死んじゃうからね)


 誰がそこまで……って言おうとしたけど、今のままじゃ確かにそうだ。取り敢えずここから離れた方が良い。色々と気になる事は多くある。でも今は自分達の事を考えないと。負けるわけには行かないんだ。
 自分は負けても良いけど、チームとしてテア・レス・テレスとして負ける訳にはいかない。自分はアイテム覧から回復薬を取り出して口に含みながら走りだす。




 数本の回復薬を空にすると体も全快した。城の内部にはあっけなく入れた。まあ門という門が開け放たれてるし、窓も全開だからね。取り敢えず目立つ正門は避けたけど、それにしても……って感じ。
 まだ、この城の支配は会長の物なのだろうか? いきなりこんな事になったから、奪い取られたのかとも思ったけど、部分的にってだけなのかも。奪われる事も想定して、何かの機能を切り離してたとか。デザイアの奴を欲したのも、その為……それなら納得できる。
 アイツ戦闘とかで役に立ちそうな要素無いもんね。侵入した部屋のドアに近づき、耳を押し付けて外の音を確認する。


(何も聞こえない……よし)


 僅かに扉を開いて今度は目で見る。奥の方にも人の気配はない。やっぱり一階に用はないのかもしれない。奴等が目指してるとしたら会長が居る謁見の間。そこに既に到達してるのだとしたら、急いだ方がいい。
 けど……どこに敵が居るかも分からないこの状況無闇やたらに進むのはやっぱり危険。それに謁見の間に至る道は一つ。そこを敵に抑えられてるとしたら……いや、流石に会長が何も策を要しない訳ない。
 けど向こうは人質を取ってる。それは会長には最強の武器に成る。手出し出来ないし、見捨てる事もしない。考えれば、敵は一人でも人質を取った時点でコソコソなんて。する必要がなくなるのか。堂々と謁見の間に進むことも可能。
 そこまで考えが至るといてもたっても居られなく成る。自分は足音も気にせずに走りだしていた。


(会長……会長……会長!!)
「うお!?」


 通路の先で曲がり角で出くわした。敵!? と思わず思って武器に手を伸ばす。けどそっちに意識が行ったせいで止まるのが疎かに成ってしまって、躓いて壁に体ごと衝突した。




「つうう〜」
「大丈夫かい?」


 敵……じゃない? 敵はこっちの容態を気にかけたりするわけないからね。良く見るとそれはキースさんだった。てか、敵だったらこんな醜態晒した時点で終わってたよ。なんか恥ずかしさがこみ上げて来て、差し出して貰った手を使わずに態勢を整える。


「そうだ! キースさん会長は!? 敵はどうしたん––んぐ!?」


 いきなり口を塞がれた。一体どうして?


「静かに。会長はまだ無事だよ。色々と時間稼ぎをしてるんだ。向こうは人質を取ってるから、長くは持たないが、僅かな時間だけでも稼いでる状況だよ」
「そうですか……」


 取り敢えずまだ会長は無事の様だ。一安心……って感じでもないけど。このままじゃどうにもならないよね。人質が居る限り、手出しできない。どうにかするには人質を開放させる必要がある。でも問題はそれをどうやって成し遂げるか……


「キースさん、敵はどこに? それに人数は?」
「敵の大半は取られた人質数十人を囲むように一階の玄関に居る。そして交渉役に奴等が数人謁見の間の前に。そいつらは袋に入れたルミルミを持ってる」


 袋に入れたルミルミ? 一瞬なんの事だ––と思った。そんなアイテムあったっけ? てね。けどああ、袋に入れられたルミルミさんが人質と成ってるって事ね。理解した。何それ、新しいキャラクター? 想像したらミノムシみたいで可愛いじゃないかと思った。
 まあ敵からしたらモブリなら誰でも……いや違うかも。ルミルミさんだから自分達の側に置いているんじゃ? リアルで自分達の事を知ってるんだ。近いし、僅かだけど交流もある。初期のテア・レス・テレスメンバーが生徒会だとは向こうも知ってるはず。
 情に厚い会長相手だから、親しい人間を側に置いて安全策を取ってるんだ。


「二手に分かれられてるってのは厄介ですね。どっちかを解放しても、それだけじゃ意味が無い」
「やっぱり解放するという考えに至るか。まあそれが当然だね」
「それで、こっちの人数は? まさか二人だけしか残ってないとか言わないですよね?」


 そうだとしたらもう絶望的にも程がある。流石に無理だよそれは。自分あんまり戦力には入らないしね。ホントごめんなさい。


「いや、まだ数十人はどこかに居るはずだ。まあもしかしたらやられてる奴も居るかもしれないし楽観視は出来ないが、どこかにきっと––隠れろ!」


 いきなり手を引かれて、近くの部屋に入った。耳を押し付けると、外側から足音が聞こえる。なるほど、だから隠れたのか。でももしかしたら仲間かもしれない。


「さっき、人質と共に敵は玄関だと言ってましたよね? それならこれは……」
「油断は出来ないよ。確かにもう敵は十分な人質を得てる。無闇に、しかも一人で捜索とかしないと思うけど……ほら、向こうには傭兵がいる」
「ああ、けど大丈夫じゃないですかね?」
「どうしてそう言えるんだい?」


 外の状況はキースさん達は知らないらしい。まあ中も相当大変みたいだったし無理ないか。しかもここまではあんまり振動とかも伝わってないし、微かに音が届いてる程度じゃ無理もない。自分はさっきの事を伝えた。
 勿論頭の中に響いた声は上手くボカしてね。


「なるほど……あの時の二刀の……だがどうして? いや、今はありがたいか。だが、外の奴が傭兵じゃない保証はない。全員が二刀の奴に向かったとも限らないだろう?」
「確かに……そうですね」


 そこまで確認してない……というか出来ないし。何人傭兵を雇ってるかとか知らないからね。もしも近づいてきてるのが傭兵だとしたら……出くわすのは確かに不味い。勝ち目なんてないもんね。けど、仲間なら……このまま彷徨かせておくのも駄目だ。
 時間もないし、早く人数を揃えないと手遅れになる。


––カチャ––


 確かに今、そんな音がした。ヤバイ、ドアノブに手を掛けた様だ。自分はキースさんと一緒に成って慌てふためく。武器に手を掛けたり、声を出さずにジェスチャーで意味不明な事を表現したり。
 けど何も解決にはならない。そうこうしてる内に、ガチャリ……とノブが回って扉が音もなく開き出す。自分達は二人して血の気が引いていく。けどその時思いついた。自分は『命』のポーズをしてキースさんを見て頷く。
 彼は何も分かってないけど、取り敢えず側に来て同じポーズを取った。そこで自分は鉱石を液状にして上から被せる。これで……そう、石像の完成だ!! いや、マジでお願いしま!! てか、仲間であってくれ!!


「ふむ、人の気配がしたと思ったんだが?」


 そう言ってドアを開いたのは残念な事に仲間じゃなかった。長い黒髪に、和装剣士みたいな美女。大きなナギナタを装備し、額に巻いた鉢巻がチャームポイントみたいな感じの人だ。目が細く……というか、みえての? って感じの目だけど、そのおかげでなんか間抜けそうにも見える。
 自分は「このまま行ってくれ」と願うよ。


「しょうが無い他を当たるか––」


 そう言って彼女は踵を返す。ホッと胸を撫で下ろす自分、けど、キースさんはその行動を見逃さなかった。


「伏せろ!!」


 薄い膜だったからちょっと力を入れれば液状の鉱石は剥がれてしゃがむことが出来た。そしてその上をナギナタが軌跡を描いて通って行った。恐ろしい風圧……周りを見渡すと、切れたのはこの部屋だけじゃなかった。届いてない筈の壁までも切り裂いて風穴を通してしまってる。
 ゴクリと思わず唾を飲む。


「あんな不自然な彫像、あるわけ無いでしょ?」


 ですよね〜! ごもっとも。彼女は笑顔のまま、再びナギナタを構える。その姿と気迫に自分は震えが止まらない。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品