命改変プログラム
まだ負けてない
「残念だけど、ここを乗り越える見込みが出てきたよ。アンタのお陰でな!!」
「ふん、平民が調子乗るなよ!!」
無様に避けることしか出来ない癖にデザイアの奴はやけに強気だ。こいつが戦闘をしたことないのは既にわかってる。幾らなんでもそれなら自分だって勝てるさ! 更に間合いを詰めて剣を向ける。
腕で顔を隠す様にして叫びを上げるデザイア。既に攻撃を見ようともしないなんて愚策。素人がやりがちな事だ。それじゃあ次の一手にも繋がらない。
(これなら––)
自分は奴が目を瞑ってる隙に狙いを変える。そう、元々自分の狙いはデザイア自身じゃない。こうやって壇上に上がったのはトイ・ボックスを壊すためだ!! まあここでデザイアを自分が倒して勝利を取る……って言う選択も有りだけど、この人がグランドマスターキーを持ってるかはわからない。
その鍵を持ってなかったら、この人を倒しても意味は無いんだ。状況に応じての臨機応変な対応は大切だけど、ブレちゃいけない事がある。そしてその最たるものが何か……自分はちゃんとわかってるつもりだ。
自分達に必要な人……絶対に失っちゃいけない人が居る。だからその人を救える状況に持って行くことこそが最善。その人が居れば、勝つことは出来るんだ。だから迷わず自分は目指す。玉座の隣に置かれたテーブルにあるトイ・ボックスへ。
「これで!!」
力一杯込めた剣を振り下ろす。だけどその剣はトイ・ボックスから溢れだした蔦に阻まれた。そしてそこから数本が自分に向かって伸びてくる。
「くそっ!」
一本を切って、直ちに後方に逃れる。どうやら一定距離離れれば本体の蔦は無闇に襲いかかって来ることはない様だ。けど……これは……
「くはははは! どうした平民? トイ・ボックスを貴様程度がどうにか出来ると思ったか? 面白い物を見せてやるよ」
そう言ってデザイアはトイ・ボックスへと近づいていく。そしてこういった。
「トイ・ボックスよ、この王が分かるな。力を貸せ」
するとトイ・ボックスから伸びる一本の蔦がデザイアの片腕に巻き付いた。そして凶悪な顔をして剣を後ろに引く。
「スキル『ゼットスラッシュ』」
輝きを称える刀身がZの軌跡を描いて自分に襲いかかる。喉元に突き刺さる寸前に剣でブロックしたけど、更に後ろに押し戻される。
「っつ……くっ」
腕がビリビリと痺れる。あんなスキルをアイツ持ってたのか? そう思いつつ前方を見ると、今度は奴の足元に魔法陣が現れてた。そしてこちらに向いてる手の先に集う炎。
「どんどん行くぞ。『ファライア』」
放たれた炎は大きく広がって向かってくる。避けきれない! 自分は鉱石を取り出して自身の前に壁を作り出す。
(これでなんとか……)
だけど次の瞬間、目の前の壁に亀裂が走る。
「はっはああああ! こんな脆弱な壁、壁とも言えねええよ!!」
「っつ!?」
そんな言葉と共に、破壊された壁の瓦礫が舞い散る。壁を破壊した奴の体は変な蒸気を発してて、皮膚が全身赤い感じに成ってる。このスキル……前にも見たことある。無理矢理に発達させた筋肉から浮かび上がる血管。
これは一時的に自分の肉体全体をブーストするスキル。戦闘を一度もこなした事がないような奴が得られるスキルじゃな––
「づあああああああ!!」
横っ腹に叩きこまれた拳に吹き飛ばされた。壇上を転がってけど、寸での所で剣を床に刺して止まった。
「がっはぁはぁ……」
HPを結構持って行かれた。しかも今の衝撃……かなり強力な物だった。足に来てる……
「ちょっと! 何やってる! しっかりしろおおおお!!」
外野の人達の声が聴こえる。しっかりね……やってるよ。けどいきなり強く成ったんだ。いや、違う……かな? 多分、デザイア自身が強くなったんじゃない。その証拠に攻め方は滅茶苦茶だ。力でのゴリ押し……それしか感じない。でも、その力が問題。
奴にあんな力は無かったはず。スキルは少しは持ってたとしても、戦闘特化のスキルは戦闘でしか上がり得なかったりする。それなのにそれをデザイアが持ってるのはおかしい。こいつは戦闘なんてしたことないはず。
「はは、驚いてるようだな。これぞ王の特権。必死に汗をかくのは平民の仕事。王たる俺は献上されるのを待てばいいだけだ」
「献上? 搾取してるだけだろ。反乱起きろ……」
「喜びとしれ。貴様等の力が俺の血肉に成ることをな」
「そんな圧制……糞食らえだ!」
そう叫んで自分はスキルを剣に与える。こっちだって基本のスキル位あるんだ! コイツ自身が強くなった訳じゃないのなら、今までと同じように攻めれば、隙は作れる!! ––そう考えた。けどデザイアは一歩も動かずに自分の剣を止めた。いや、正確には阻まれた。
自分の剣はデザイアに届いてない。
「これは……」
「そう障壁だ。まあそこまで強力な物でもない……が、貴様には充分のようだな。どうやら貴様、仲間内でも弱い方だな」
その言葉が心に刺さる。こう直接言われると結構来るものがある。わかってるし、仕方ない事だし、しょうが無いと自分に言い聞かせてたけど、こいつに言われると落胆感が半端ない事になるよ。
「ならさぞ、仲間の攻撃も堪えるだろうな!!」
すると再び光が奴の剣に集う。そしてすごい速さで体に何回もその切っ先を叩きこまれ続ける。そこまで強力な訳じゃない。一撃必殺というよりも、削るためのスキル。吹き飛ばされる事はないけど、これ以上下がると壇上から落ちてしまう。
けどこのスピードじゃ横に逃れる事も出来なくて……少しずつだけど確実にHPが減っていく。血が流れ出る体じゃない……でも攻撃を受けた部分からは欠片の様な物がこぼれてるように見える。ダメージを受けた所がオブジェクト化してるんだろう。このまま手を拱いてたら駄目だ……後ろの方に集ってきてる皆の声が聴こえる。手を伸ばしてるのは、落ちないようにって事だろうか?
「はははははははははは! 最初の威勢はどうした? コレが俺と貴様の差だ。与えられる者と、拾い集める者の差。惨めだな。だが安心しろ、貴様等はこの戦いで負けても死ぬ訳じゃない。俺の血肉に成るだけだ。
それを喜びとして受け入れろ」
「誰が!!」
見開いた目で見るのはこいつじゃない。後ろにも横に逃れられない。いいやそもそも逃れるって思考が間違ってた。逃げて来たんだよ。ここまで自分達は……だからもう逃げ場なんてない。逃げることなんて出来ないんだ!!
床を蹴って自分が選択した道は正面。自分は正面のデザイアに迫る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ううううわっわ!?」
攻められる事にはとことん馴れてないデザイア。ここで自分が突っ込んでくるとは思ってなかったんだろう。甘いよ。窮鼠猫を噛むって諺知らないのか? 追い詰められたら、鼠だって猫を噛もうとするんだ! 諦め悪いんだ……なんだって!!
腰が引けたデザイアの剣を弾いて自分はその横を素通りする。あくまでも自分の狙いはトイ・ボックスだ。
「またか、お前じゃトイ・ボックスは壊せねーよ!!」
「確かに、自分は弱い。自分は……弱い。自分は弱い……から、こうするんだ!!」
近づいた自分に伸びる蔦。自分はそれをかわすために姿勢を更に低くして床を蹴る。自分の事は言われるまでもなく自分が一番よく知ってる。自分の力じゃトイ・ボックスは壊せない。だから自分はトイ・ボックスの乗ってるテーブルの脚を斬る。
元々細い一本足のテーブルだった。だからそれに苦労はない。そして止まる暇なんかないから、無理矢理な感じで足で斬ったテーブル事、トイ・ボックスを皆の方へ蹴った。
「後は頼む皆!!」
自分が蹴った方向にはデザイアも居る。奴が妨害できたら終わり……けどデザイア自分の期待を裏切ってはくれなかったよ。あいつはジャンプしてトイ・ボックスを取ろうとした。けど、トイ・ボックスを見ながら位置調整した時にその長いマントを短めに踏んだんだろう。飛ぼうと膝を曲げて足が地面から離れるよりも前にマントに首を引っ張られてすっ転んでくれた。
そしてそのままトイ・ボックスは壇上の外へ。皆のスキルの光が一斉に空中のトイ・ボックスへと集中した。ボスッ……と落ちる黒焦げたトイ・ボックス。そしてそのまま灰に成って消えていく。
「ぬあ……あぁ……」
情けない声を出すデザイア。これでトイ・ボックスの呪縛は消えた。会長の元へ––
『会長、無事ですか? 状況は克服しました。今からそっちに』
『う〜ん、流石に間に合いそうもない……かも』
会長の声に余裕がない。もう見つかってしまったのかも知れない。確かにここから一気にエリアに戻る事は出来ない。間に合いそうもないのは事実……けど希望はある。
『会長、アレは?』
『起動してないよ』
やっぱり。そりゃそうだ。一つは裏切り者が持ってたんだからノルマを達成してるわけない。てか、そいつはどこに? 城の地下にでも落とされてるとしたら駄目だ……流石に探しに行く時間なんてなんてないぞ。
アレが起動してれば……会長を救えるのに……
「あのう、これが必要なんですか?」
そう控えめに言ったのはニーナさん。彼女の手には一枚の紙切れが……中央には赤いインクがしみてる。
「どうしてそれを……」
「あの裏切り者が押し付けてきました。用途は言いませんでしたけどね」
あいつが? 一体どういう心境の変化? そういえば会長は話してたよね……何かちょっとでも揺さぶられる事があったのかもしれない。だからこうやってチャンスを残したのかも……
「はははははは! 今更もう遅い!! どの道奴は終わりだ!!」
立ち上がったデザイアが高笑いを響かせてそう言う。会長の周りに何十人居るかわからないけど、確かに一斉に来られたら一瞬で終わるだろう。
『会長……なんとか持ちこたえてください! 必ずアレを起動させます!!』
『うん、頑張ってみるよ』
「ニーナさん、それ貰います!!」
自分は駆け出して紙を強引に受け取った。
「城門は開いてないぞ! どうする気だ!? すり抜けの紙ももうない!」
「大丈夫、それよりもそこの奴を頼みます!!」
キースさんにそう言ってデザイアを頼む。変な事されても困るしね。どんどん迫る謁見の間の扉。実際コレを開いて大丈夫なのか……本当の所はわからない。けど、迷ってる場合じゃないから一気にぶつかって……と思ったら近づいたら勝手に開いてくれた。
どっかにセンサーでも付いてるのだろうか? でもありがたい。そのまま階段に出る。眩しいくらいの内装が広がってる場内。どうやらこれが通常の状態って事だろう。蔦はない……自分は一気に数段飛ばして階段を駆け下りて二階へ、そして更に一階へ行って外へ出る。だけどここはまだ城門の内側だ。急いで自分が入ってきた門の前へ……と走ってる途中で遠目に数人の仲間の姿を見た。アレかな> トイ・ボックスから開放された人達だろうか? どうやら気を失ってる用で動いてない。
本来なら大丈夫か確かめに行きたい所だけど、今はその時間がない。後で助けに来よう。それが出来るようにするのが自分の役目。そこまでこの戦いを終わらせないのも大切だ。
「はぁはぁ」
たどり着いた城門。自分は鉱石を取り出して扉に近づく。そして鉱石をスキルで液状にして隙間から外側へ。入る前に一つだけ、地面と同化させてた奴がある。それを今ここで使おう。
「さあ、来い!」
その瞬間、引っ張られる様な感覚と共に、自分の体は城門の外にあった。眼下に広がるは城下の街並み。だけどまだ喜ぶには早い。自分は急いで反対側を目指す。脇腹が痛い……幾らかそうでもこれだけダメージを負って走り回るのはキツイな。
「あっ、そうだ」
回復薬とか使えばいいんじゃないか……とこの時点で気づく自分。ホントアホだな。走りながらだって飲めるように成ってるじゃないか。取り敢えず回復すればもっと早く動ける。動機とかもあるけど、基本リアルよりも身軽に動けるのがこの世界だ。
全部を使う訳にはいかない。会長だって追い詰められてるんだ。どんな常態かわからないからね。
「確か中伏あたりだったかな?」
でもそこまで走る時間は……
『会長、これって別に位置とか合わせる必要あるんですか?』
『…………』
返事はない。まさかもう……いや、それはないだろう。そうだったら終わってるはずだ。自分は顔を上げて一番近くの建物に入った。そして床に紙を付ける。すると紙自体が床と同化していって。赤いシミだけが残った。
『会長、言われた事はやりました。会長!!』
その叫びと同時に、一瞬の光の後にボロボロの会長が現れた。自分は慌てて腕を出して彼女を支えた。
「はは……信じてたよ綴君の事」
「自分も会長の事信じてました」
まあ自分が信じるのはあたり前何だけどね。この人は信じれるから。でも自分はそうじゃないと思う。自分のこと、信じてくれたのは嬉しい。そしてその期待に答えれた事が嬉しいよ。会長のHPは風前の灯……本当にギリギリだったようだ。
「これをどうぞ」
残してた回復薬の瓶を渡す。ゴクゴクと勢い良く飲み干す会長。瓶に触れる唇ってなんかエロいよね。危機を乗り越えたからか、こんな事も思える。飲み干した瓶は勝手に消えていく。省エネだけど、なんかもったいなく感じちゃうな。
「ギリギリだったみたいですね」
「ほんと、間一髪だったよ。まあだけど、生きてるから万事オーケーだよ。じゃあ城にいこっか? 制圧してるんでしょ?」
「制圧……出来てるかな?」
急いだから後の事は分かってない。どこまでがトイ・ボックスの力でどこからがデザイアの力だったのかわからないしね。制圧はできてるだろうか? 門が開いて無かったら、どうしよう……いや、会長が居ればすり抜けは出来るか。裏門に付くとやっぱりだけど門は閉まったまま。だけど気持ち良さそうに会長は振り仰ぐよ。
「なかなかいい所だね」
「そうですね。……勝てるんでしょうか自分達は」
「まだ負けてないからね。勝てるんじゃないかな?」
会長はふんわりした感じでそう言った。う〜ん、楽観的ですね。でも不思議だ。会長が居れば、色んな不安がなくなっていく。空に輝く太陽の様に、光を与えてくれる気がする。まだ負けてない……そうだ。自分達はまだ負けてない。
「ふん、平民が調子乗るなよ!!」
無様に避けることしか出来ない癖にデザイアの奴はやけに強気だ。こいつが戦闘をしたことないのは既にわかってる。幾らなんでもそれなら自分だって勝てるさ! 更に間合いを詰めて剣を向ける。
腕で顔を隠す様にして叫びを上げるデザイア。既に攻撃を見ようともしないなんて愚策。素人がやりがちな事だ。それじゃあ次の一手にも繋がらない。
(これなら––)
自分は奴が目を瞑ってる隙に狙いを変える。そう、元々自分の狙いはデザイア自身じゃない。こうやって壇上に上がったのはトイ・ボックスを壊すためだ!! まあここでデザイアを自分が倒して勝利を取る……って言う選択も有りだけど、この人がグランドマスターキーを持ってるかはわからない。
その鍵を持ってなかったら、この人を倒しても意味は無いんだ。状況に応じての臨機応変な対応は大切だけど、ブレちゃいけない事がある。そしてその最たるものが何か……自分はちゃんとわかってるつもりだ。
自分達に必要な人……絶対に失っちゃいけない人が居る。だからその人を救える状況に持って行くことこそが最善。その人が居れば、勝つことは出来るんだ。だから迷わず自分は目指す。玉座の隣に置かれたテーブルにあるトイ・ボックスへ。
「これで!!」
力一杯込めた剣を振り下ろす。だけどその剣はトイ・ボックスから溢れだした蔦に阻まれた。そしてそこから数本が自分に向かって伸びてくる。
「くそっ!」
一本を切って、直ちに後方に逃れる。どうやら一定距離離れれば本体の蔦は無闇に襲いかかって来ることはない様だ。けど……これは……
「くはははは! どうした平民? トイ・ボックスを貴様程度がどうにか出来ると思ったか? 面白い物を見せてやるよ」
そう言ってデザイアはトイ・ボックスへと近づいていく。そしてこういった。
「トイ・ボックスよ、この王が分かるな。力を貸せ」
するとトイ・ボックスから伸びる一本の蔦がデザイアの片腕に巻き付いた。そして凶悪な顔をして剣を後ろに引く。
「スキル『ゼットスラッシュ』」
輝きを称える刀身がZの軌跡を描いて自分に襲いかかる。喉元に突き刺さる寸前に剣でブロックしたけど、更に後ろに押し戻される。
「っつ……くっ」
腕がビリビリと痺れる。あんなスキルをアイツ持ってたのか? そう思いつつ前方を見ると、今度は奴の足元に魔法陣が現れてた。そしてこちらに向いてる手の先に集う炎。
「どんどん行くぞ。『ファライア』」
放たれた炎は大きく広がって向かってくる。避けきれない! 自分は鉱石を取り出して自身の前に壁を作り出す。
(これでなんとか……)
だけど次の瞬間、目の前の壁に亀裂が走る。
「はっはああああ! こんな脆弱な壁、壁とも言えねええよ!!」
「っつ!?」
そんな言葉と共に、破壊された壁の瓦礫が舞い散る。壁を破壊した奴の体は変な蒸気を発してて、皮膚が全身赤い感じに成ってる。このスキル……前にも見たことある。無理矢理に発達させた筋肉から浮かび上がる血管。
これは一時的に自分の肉体全体をブーストするスキル。戦闘を一度もこなした事がないような奴が得られるスキルじゃな––
「づあああああああ!!」
横っ腹に叩きこまれた拳に吹き飛ばされた。壇上を転がってけど、寸での所で剣を床に刺して止まった。
「がっはぁはぁ……」
HPを結構持って行かれた。しかも今の衝撃……かなり強力な物だった。足に来てる……
「ちょっと! 何やってる! しっかりしろおおおお!!」
外野の人達の声が聴こえる。しっかりね……やってるよ。けどいきなり強く成ったんだ。いや、違う……かな? 多分、デザイア自身が強くなったんじゃない。その証拠に攻め方は滅茶苦茶だ。力でのゴリ押し……それしか感じない。でも、その力が問題。
奴にあんな力は無かったはず。スキルは少しは持ってたとしても、戦闘特化のスキルは戦闘でしか上がり得なかったりする。それなのにそれをデザイアが持ってるのはおかしい。こいつは戦闘なんてしたことないはず。
「はは、驚いてるようだな。これぞ王の特権。必死に汗をかくのは平民の仕事。王たる俺は献上されるのを待てばいいだけだ」
「献上? 搾取してるだけだろ。反乱起きろ……」
「喜びとしれ。貴様等の力が俺の血肉に成ることをな」
「そんな圧制……糞食らえだ!」
そう叫んで自分はスキルを剣に与える。こっちだって基本のスキル位あるんだ! コイツ自身が強くなった訳じゃないのなら、今までと同じように攻めれば、隙は作れる!! ––そう考えた。けどデザイアは一歩も動かずに自分の剣を止めた。いや、正確には阻まれた。
自分の剣はデザイアに届いてない。
「これは……」
「そう障壁だ。まあそこまで強力な物でもない……が、貴様には充分のようだな。どうやら貴様、仲間内でも弱い方だな」
その言葉が心に刺さる。こう直接言われると結構来るものがある。わかってるし、仕方ない事だし、しょうが無いと自分に言い聞かせてたけど、こいつに言われると落胆感が半端ない事になるよ。
「ならさぞ、仲間の攻撃も堪えるだろうな!!」
すると再び光が奴の剣に集う。そしてすごい速さで体に何回もその切っ先を叩きこまれ続ける。そこまで強力な訳じゃない。一撃必殺というよりも、削るためのスキル。吹き飛ばされる事はないけど、これ以上下がると壇上から落ちてしまう。
けどこのスピードじゃ横に逃れる事も出来なくて……少しずつだけど確実にHPが減っていく。血が流れ出る体じゃない……でも攻撃を受けた部分からは欠片の様な物がこぼれてるように見える。ダメージを受けた所がオブジェクト化してるんだろう。このまま手を拱いてたら駄目だ……後ろの方に集ってきてる皆の声が聴こえる。手を伸ばしてるのは、落ちないようにって事だろうか?
「はははははははははは! 最初の威勢はどうした? コレが俺と貴様の差だ。与えられる者と、拾い集める者の差。惨めだな。だが安心しろ、貴様等はこの戦いで負けても死ぬ訳じゃない。俺の血肉に成るだけだ。
それを喜びとして受け入れろ」
「誰が!!」
見開いた目で見るのはこいつじゃない。後ろにも横に逃れられない。いいやそもそも逃れるって思考が間違ってた。逃げて来たんだよ。ここまで自分達は……だからもう逃げ場なんてない。逃げることなんて出来ないんだ!!
床を蹴って自分が選択した道は正面。自分は正面のデザイアに迫る。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「ううううわっわ!?」
攻められる事にはとことん馴れてないデザイア。ここで自分が突っ込んでくるとは思ってなかったんだろう。甘いよ。窮鼠猫を噛むって諺知らないのか? 追い詰められたら、鼠だって猫を噛もうとするんだ! 諦め悪いんだ……なんだって!!
腰が引けたデザイアの剣を弾いて自分はその横を素通りする。あくまでも自分の狙いはトイ・ボックスだ。
「またか、お前じゃトイ・ボックスは壊せねーよ!!」
「確かに、自分は弱い。自分は……弱い。自分は弱い……から、こうするんだ!!」
近づいた自分に伸びる蔦。自分はそれをかわすために姿勢を更に低くして床を蹴る。自分の事は言われるまでもなく自分が一番よく知ってる。自分の力じゃトイ・ボックスは壊せない。だから自分はトイ・ボックスの乗ってるテーブルの脚を斬る。
元々細い一本足のテーブルだった。だからそれに苦労はない。そして止まる暇なんかないから、無理矢理な感じで足で斬ったテーブル事、トイ・ボックスを皆の方へ蹴った。
「後は頼む皆!!」
自分が蹴った方向にはデザイアも居る。奴が妨害できたら終わり……けどデザイア自分の期待を裏切ってはくれなかったよ。あいつはジャンプしてトイ・ボックスを取ろうとした。けど、トイ・ボックスを見ながら位置調整した時にその長いマントを短めに踏んだんだろう。飛ぼうと膝を曲げて足が地面から離れるよりも前にマントに首を引っ張られてすっ転んでくれた。
そしてそのままトイ・ボックスは壇上の外へ。皆のスキルの光が一斉に空中のトイ・ボックスへと集中した。ボスッ……と落ちる黒焦げたトイ・ボックス。そしてそのまま灰に成って消えていく。
「ぬあ……あぁ……」
情けない声を出すデザイア。これでトイ・ボックスの呪縛は消えた。会長の元へ––
『会長、無事ですか? 状況は克服しました。今からそっちに』
『う〜ん、流石に間に合いそうもない……かも』
会長の声に余裕がない。もう見つかってしまったのかも知れない。確かにここから一気にエリアに戻る事は出来ない。間に合いそうもないのは事実……けど希望はある。
『会長、アレは?』
『起動してないよ』
やっぱり。そりゃそうだ。一つは裏切り者が持ってたんだからノルマを達成してるわけない。てか、そいつはどこに? 城の地下にでも落とされてるとしたら駄目だ……流石に探しに行く時間なんてなんてないぞ。
アレが起動してれば……会長を救えるのに……
「あのう、これが必要なんですか?」
そう控えめに言ったのはニーナさん。彼女の手には一枚の紙切れが……中央には赤いインクがしみてる。
「どうしてそれを……」
「あの裏切り者が押し付けてきました。用途は言いませんでしたけどね」
あいつが? 一体どういう心境の変化? そういえば会長は話してたよね……何かちょっとでも揺さぶられる事があったのかもしれない。だからこうやってチャンスを残したのかも……
「はははははは! 今更もう遅い!! どの道奴は終わりだ!!」
立ち上がったデザイアが高笑いを響かせてそう言う。会長の周りに何十人居るかわからないけど、確かに一斉に来られたら一瞬で終わるだろう。
『会長……なんとか持ちこたえてください! 必ずアレを起動させます!!』
『うん、頑張ってみるよ』
「ニーナさん、それ貰います!!」
自分は駆け出して紙を強引に受け取った。
「城門は開いてないぞ! どうする気だ!? すり抜けの紙ももうない!」
「大丈夫、それよりもそこの奴を頼みます!!」
キースさんにそう言ってデザイアを頼む。変な事されても困るしね。どんどん迫る謁見の間の扉。実際コレを開いて大丈夫なのか……本当の所はわからない。けど、迷ってる場合じゃないから一気にぶつかって……と思ったら近づいたら勝手に開いてくれた。
どっかにセンサーでも付いてるのだろうか? でもありがたい。そのまま階段に出る。眩しいくらいの内装が広がってる場内。どうやらこれが通常の状態って事だろう。蔦はない……自分は一気に数段飛ばして階段を駆け下りて二階へ、そして更に一階へ行って外へ出る。だけどここはまだ城門の内側だ。急いで自分が入ってきた門の前へ……と走ってる途中で遠目に数人の仲間の姿を見た。アレかな> トイ・ボックスから開放された人達だろうか? どうやら気を失ってる用で動いてない。
本来なら大丈夫か確かめに行きたい所だけど、今はその時間がない。後で助けに来よう。それが出来るようにするのが自分の役目。そこまでこの戦いを終わらせないのも大切だ。
「はぁはぁ」
たどり着いた城門。自分は鉱石を取り出して扉に近づく。そして鉱石をスキルで液状にして隙間から外側へ。入る前に一つだけ、地面と同化させてた奴がある。それを今ここで使おう。
「さあ、来い!」
その瞬間、引っ張られる様な感覚と共に、自分の体は城門の外にあった。眼下に広がるは城下の街並み。だけどまだ喜ぶには早い。自分は急いで反対側を目指す。脇腹が痛い……幾らかそうでもこれだけダメージを負って走り回るのはキツイな。
「あっ、そうだ」
回復薬とか使えばいいんじゃないか……とこの時点で気づく自分。ホントアホだな。走りながらだって飲めるように成ってるじゃないか。取り敢えず回復すればもっと早く動ける。動機とかもあるけど、基本リアルよりも身軽に動けるのがこの世界だ。
全部を使う訳にはいかない。会長だって追い詰められてるんだ。どんな常態かわからないからね。
「確か中伏あたりだったかな?」
でもそこまで走る時間は……
『会長、これって別に位置とか合わせる必要あるんですか?』
『…………』
返事はない。まさかもう……いや、それはないだろう。そうだったら終わってるはずだ。自分は顔を上げて一番近くの建物に入った。そして床に紙を付ける。すると紙自体が床と同化していって。赤いシミだけが残った。
『会長、言われた事はやりました。会長!!』
その叫びと同時に、一瞬の光の後にボロボロの会長が現れた。自分は慌てて腕を出して彼女を支えた。
「はは……信じてたよ綴君の事」
「自分も会長の事信じてました」
まあ自分が信じるのはあたり前何だけどね。この人は信じれるから。でも自分はそうじゃないと思う。自分のこと、信じてくれたのは嬉しい。そしてその期待に答えれた事が嬉しいよ。会長のHPは風前の灯……本当にギリギリだったようだ。
「これをどうぞ」
残してた回復薬の瓶を渡す。ゴクゴクと勢い良く飲み干す会長。瓶に触れる唇ってなんかエロいよね。危機を乗り越えたからか、こんな事も思える。飲み干した瓶は勝手に消えていく。省エネだけど、なんかもったいなく感じちゃうな。
「ギリギリだったみたいですね」
「ほんと、間一髪だったよ。まあだけど、生きてるから万事オーケーだよ。じゃあ城にいこっか? 制圧してるんでしょ?」
「制圧……出来てるかな?」
急いだから後の事は分かってない。どこまでがトイ・ボックスの力でどこからがデザイアの力だったのかわからないしね。制圧はできてるだろうか? 門が開いて無かったら、どうしよう……いや、会長が居ればすり抜けは出来るか。裏門に付くとやっぱりだけど門は閉まったまま。だけど気持ち良さそうに会長は振り仰ぐよ。
「なかなかいい所だね」
「そうですね。……勝てるんでしょうか自分達は」
「まだ負けてないからね。勝てるんじゃないかな?」
会長はふんわりした感じでそう言った。う〜ん、楽観的ですね。でも不思議だ。会長が居れば、色んな不安がなくなっていく。空に輝く太陽の様に、光を与えてくれる気がする。まだ負けてない……そうだ。自分達はまだ負けてない。
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