命改変プログラム

ファーストなサイコロ

植物の恐怖

「なっ!? ちょっあんたそれ!」
「本当なのか!?」
「二人共声が! しー」


 自分の動作に声を荒らげた二人が慌てて自制する。前を見ると後方の何人かは怪訝そうに振り向いたけど、それだけだ。前方の班は興味を示しては居ない。ホッと胸を撫で下ろす。




「済まない、少し驚いてしまった」
「そうよ、なんでそれを早く言わない? 会長も知ってるのか?」


 ルミルミさんがハッと気付いたように睨んでくる。全く、この人は自分の中のモブリの姿を覆させまくるよ。もっと可愛らしく有って欲しいよね。自分の背中に乗って楽してるばかりか、首に腕を回して落としにでもかかろうというのか?
 モブリの短い腕でも、背中側から密着してやれば首位なら腕を回せるっぽい。女子とこんなに密着してるのに、全然嬉しくないとはこれ如何に? そもそもルミルミさんは自分の中で女子じゃないか。


「知ってますよ。会長には何か考えがあるんだと思って言わなかったんです」
「うぐぐ……こいつが知ってて私が知らないなんて……殴らせろ」
「それはただの八つ当たりじゃないですか」
「悪いの? 綴の癖に」


 やっぱりこの人苦手だ。簡単に殴ったりするものじゃないよ。ましてや一応女子なんだし。まあこの人は自分の事をそうは思ってないのかもしれないけど。種族をクジで決めなかったら、もっとゴツイのに成ってたんじゃなかろうか?
 モブリは男も女も小さくて可愛らしいからコレに収まってるけど、この人の本性的には全く合わないよね。


「君しかその事実は知らなかったと? じゃあ今向こうに行ってしまった君達のチームの面々は………」
「純粋に向こうに魅力を感じたんですかね?」
「違うっての。一応奴等の事を気をつけろ––って事は会長から聞いてた。だから何人かは向こうに送ったってだけ」


 あれ? 今ちょっとだけ優しくされた? いや、どうなんだろう?


「へへ、まあ姉さんの事だし、何かあるとは信じてえよな。実際、俺ら親衛隊としては一刻も早くここを抜けだして姉さんのところへ向かいたい訳だが……どの位保つと思うか貴様等?」


 そう言ったのは一番最初に自分達がエリアバトルした不良というかチンピラと言うかそんな印象だったやつ。まあ今も風体こそそこまで変わっては無いけど、何故か勝手に会長の親衛隊を名乗ってる。
 まあ単純な力とか経験なら自分達よりも上だしね。だから強いとも限らないけど。でも別段会長はそれを認めてるわけでもない。黙認はしてるけど。取り敢えずそれくらい会長を慕ってるからか、会長の安否が心配なようだ。まあそれは自分達も一緒だけどね。
 会長がやられたらこのバトルはきっと終わるだろう。何処かにグレートマスターキーを隠してるとかありえそうだけど、会長はあれで小細工はあんまりしないからね。あの人は他人の小細工を堂々と踏みつけて乗り越えていける人だ。あくまで会長は正々堂々なんだ。


「アンタ達を親衛隊なんて認めた覚えはないけど……会長が心配なのは一緒だ。会長ならそう簡単に殺られる事はないと思う……が」


 ルミルミさんは歯ぎしりしながらそう言う。そしてその不安や悔しさのせいか、歯ぎしりだけじゃ抑えきらずに首に回された腕が締まってるんですけど……


「敗北の鐘が鳴ることを考えても仕方ないさ。彼女が知ってて彼等を野放にしにしたということは、こういう最悪の状況も考えてた筈。そしてそれを乗り越えられると君に託したんだと思う」
「自分に––ってそろそろ首締めるのはやめてください!」
「ふん……認めない」


 この人このまま落す気かよ! そうこうしてる内に通路を抜けて広い空間に出た。だけどそこに感嘆を上げる程の光景はない。まあ単に凄いな〜とは思うけど、胸を打たれる要素はないよ。古ぼけた絵画、床の大理石は割れて、全体が苦すんでるように見える。
 トイ・ボックスの影響で一気に廃墟っぽく成った影響だろう。でも……何故にこうなったんだろう? トイ・ボックスの影響? でも昨日は別に……


「よし、それじゃあ君達は上層階を頼むよ」
「ああ、分かった」
「何、大丈夫さ。ここを一刻も早く抜けて会長の下へ急ごう」


 自分は今にも背中を蹴って殴りかかりに行きそうなルミルミさんを押しとどめた。気持ちは分かる。けどそれを今やっちゃ駄目だ。不敵に最後に笑って自分の下に集った人達に指示を飛ばす奴。
 自分達も取り敢えず階段を上がって三階部分を目指す。話し合うにしても、こいつらの目の届く範囲では不味いからね。二階に上がり少し奥に行くと、大きな階段があった。一階部分は半円状の階段が二個あったけど、ここはデカイのが一個ある。けどその階段は三階部分を通り越して更に上に続いてる? これって……


「この階段はアレですかね? 何か特別な?」
「この階段で行けるのは謁見の間だけなんじゃないかな? だから幅も広く、装飾もされてる。一本道に成ってるのは、色々と警備の理由に寄るところもあるだろう」
「ですよね。じゃあ、ひとまず別の階段を探しますか?」
「気には成る……けどね」


 確かにキースさんの言うとおり気には成る。謁見の間ともなれば城の中でも顔の様な場所。王の居座る場所だからね。まさにこの城の中心とも言えるだろう。思ったけど、あの傲慢不遜な向こうのリーダーはどうしたんだろうか?
 あいつ……えっとなんだっけ? まあいっか。取り敢えず向こうのリーダーは自身から動くような奴じゃなかった。会長とはまるで真逆のタイプ。部下に全て任せて自身は玉座でふんぞり返ってるようなやつだ。
 だからもしかしたら……


(いや、でもやっぱりそれはない……よね?)


 自身の考えも自分で否定する。だってそれはない。幾ら向こうの大将が動きたがらない奴だからって、今もこの城に居るなんて事はないだろう。でもそう思うとね……「そんなこと無い」と思える事が起こりえそうな気もしなくはない。
 だって自分達は嫌でも頭を使う。そんなに良い頭じゃなくても良い頭でも生きてる以上、考えを放棄なんかしない。それに勝つためなら尚更だ。頭を使って勝利を掴もうとする時、誰だって相手の裏をかこうとするはずだ。
 だからこそ、ありえないがありえないのかも……でもな〜リスク高いし。取り敢えずは玉座以外を見てからだな。


 自分達はデカイ階段をスルーして通路を奥に進む。すると普通に上に続く階段があった。そこを上がって取り敢えず三階へ。


「四階への階段はないのな」
「どこかに離れて設置してあるんでしょう」


 リアルでは階段は一箇所にまとめてあるのが普通だけど、ゲームって良く離されてたりするよね。あれは何なんだろう? やっぱり簡単に上に行けないようにするためなんだろうか? エリアを探索させたい制作側の都合とか? 
 けどここは何でも自由なエリアだ。城の内部だって思い通りの筈……敵の人達は普通にここを使ってるはずなのに。わざわざ非効率的にする必要もない様な気はするけどね。それとも実は城ってのはこういう造りが普通とか? まあこういう城リアルで入ったこと無いからわからないけど……防犯的なのもあるのかな? やっぱり城って戦乱期の遺物だしね。


「まあここまでくれば大丈夫だろう。どうする?」
「そうだな……取り敢えずあの裏切り者を粛清するか」


 ルミルミさんは相変わらず物騒だな。まあそうしたいのは山々ではある。けどそれにキースさんは何色を示すよ。


「それは難しいだろう。向こうは同じチームが揃ってる。固まってられると不意打ちなんて出来ないぞ」
「せめて、どうやって中を探索してるとかがわかれば……」
「向こうは三人ずつに分けて探索してるみたいだ」
「何故にそれが分かるんですか?」


 こっちから向こうの状況は見えないはずだけど……するとルミルミさんは一枚の紙を取り出した。


「私達にはこれがある。って、アンタは貰って無かったっけ? サボり野郎が」


 くっ……この人には言われたくない。それにサボってた訳じゃない。色々とあったんだ。


「それで他のメンバーと連絡が取れるって訳ですか?」
「まあ、そんなもんだ」


 ? ちょっと含みを感じる言い方だな。取り敢えず向こうに行った生徒会メンバーから裏切り者共の行動を伝えて貰えればこっちから動ける。


「けど向こうも流石に会長直属のメンバーには警戒してる。スリーマンセルの中に向こうのメンバーを入れてるみたい。監視なのかもな」
「そうなったら下手な行動は取れないか」


 今も何とか隙を見て情報を送ってくれてるんだろう。


「なあ、俺達は頭をつかうのは苦手だし、周り見てくるぞ」
「ああ〜うん」


 そう言ったのはいつの間にか会長に飼い慣らされてるチンピラっぽい奴等。確かに頭使うのは苦手そうだよね。さっきからぽけ~としてたし、体動かすのが好きなんだろう。それなら……と思ったけどキースさんが待ったを掛ける。


「いや、それは無駄じゃないかな? どうして裏切ってる彼等が俺達に上の捜索を頼んだのか……それは何もないからじゃないか?」
「「「あっ!!」」」


 他の人達もその言葉に同じ反応を示した。確かに……その可能性は高い。わざわざ疑ってる奴等を目当ての何かがある場所を特定なんかさせるはず無いじゃないか。つまりは上層階にこの現状を破る何かはないって事だ。


「けど、その理論で行くと……やっぱり奴等をボッコボコにするのが一番早いぞ」


 ルミルミさんはその小さな手をぽきぽきと鳴らしてる。ホントこの人血の気多いな。マジで一番モブリに合ってないよ。けど言ってる事は正しい。裏切ってる奴等が自分達を遠ざけたい場所がある……とするのなら、彼等は知ってるはずだ。その場所を。


「落ち着いてくださいルミちゃん。ここではボコボコにすることは余り意味ないですよ。本当に殺せる訳でもないんですから。ね?」
「……それもそうか。ちっ」


 あれ? なんだか女の子二人の会話なのに背筋が寒いぞ。ルミルミさんに話しかけたあの子はキースさんのチームの子なんだろうけど……可愛い顔して結構物騒な事を笑顔で言ったよね? 殺せないから意味は無い……まあ正しいけど。人は命の危機を感じるからこそ、売れる物は全部売ろうとするんだもんね。
 死がないのなら、別に拷問とか戦いあって勝敗を決してもその情報が得られる保証はない。口をどうあっても割らせる方法は、ここでは恐怖じゃないんだ。


「じゃあどうやって奴等からその情報を聞き出せば……だれかそう言うスキルを持ってる人は?」


 自分はそう言って皆の顔を見る。でもそういうスキルはやっぱり特殊だからね。だれも持ちあわせては居なかった。


(どうする……どうすれば……)


 自分は任されたんだ会長に。自分だけが……って訳でもないけど、何か案を出す義務はある。空気が停滞して感じられる。窓も覆われて、外へ通じる扉とかもきっと蔦に覆われてる。滞った空気は蔓延して、重い思考が循環を繰り返す。そんな時だった。振動と共に悲鳴が響く。


「うあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 自分達は顔を見合わせて階段を駆け下りた。二階に降りると、通路の先からウネウネした蔦が見えた。そして僅かに埃っぽい匂いも……すると蔦がいきなり勢いを増して伸びてく。そして再び悲鳴が轟くと、仲間のプレイヤーを拘束して現れた方へと縮んでく。


「くっ! フォローを頼む!!」


 そう言ってキースさんと数人のプレイヤーが飛び出した。それを感じ取ったのか蔦共が彼等へと向かう。けどなんとかそれらを切り裂いて通路の方まで進む。自分達も追いかけてその通路を見つめる。
 すると一つの部屋からうねうねとした蔦が大量に出てきてて、その中に数人のプレイヤーの姿が見て取れた。見て取れた……と言っても何とか……だ。既に彼等は体の大半を蔦で包まれてる。


「なん……で……たす…………け……」


 一人がそう呟きながら手を伸ばして来た。すると後ろから一斉に魔法の光が飛んだ。後ろを振り向くと分かれてたメンバーが集って一斉砲撃をかましてた。その指揮を取ってるのは当然裏切ってるアイツだ。


「アンタ、なにやって!」
「それはこっちのセリフだ!! 早くあの蔦を引っ込めてあの部屋の扉を封印する!! そうしないと全員取り込まれるぞ!!」


 その形相に自分は声を出せなくなる。そしてそんな自分を邪魔だと言わんばかりに押しやって前へ出た。


「捕まった奴の事は考えるな!! あの蔦共を押し戻す事だけに全力を捧げろ!! 前衛––––突っ込めえええええ!!」


 その号令と共に、前衛陣がスキルを纏った武器とともに走りだす。そして一斉に蔦共も爆煙の中から飛び出してきた。色とりどりの光とぶつかり合う。蔦共は大量……さっきの顔も言葉もマジっぽかった……それならこれ以上の犠牲を出さない為にもここは奴に乗っとくべきなのかも知れない。


「キースさん! 皆も頼みます!!」


 チームAB全員で蔦共に立ち向かう。前衛隊が蔦を切り裂き押し進み、後衛陣はフォローに回る。前衛の人達は何度となく、蔦共に絡め取られて飲み込まれそうになるけど、その都度、直ぐに周りがフォローに入るよ。
 これ以上の犠牲は出さない……絶対にだ!!


「よし! ソーサラー達撃てええええええええええ!!」
「ちょっ!? まだ前衛が!! みんな伏せろ!!」


 ソーサラー達の魔法の先には前衛達が壁となってくれてる。それなのにそのまま撃てなんて……こいつ! しかもソーサラーの一人が裏切り野郎のチームの一人で、そいつはまさに躊躇いなくその魔法を撃った。
 だからだろう、他のソーサラー達もそれに釣られて詠唱済みの魔法を撃ち放ったんだ。自分の声は前衛のみんなに届いただろうか? それを願いつつ、爆煙に包まれた通路を見据える。するとその時バン!! と何かが閉まる音が聞こえた。


「ミーア! この扉を封印だ!!」
「はい!!」


 ミーアさんは杖を向けて魔法を放つ。するとその大きな扉全体が光を放ち出す。そしてドアノブの所に立方体が現れた。それに杖の先端を差し込んで、何やら呪文を更に唱えて杖を回すと、立方体は赤くなった。


「これで封印完了です」


 それを聞いて扉を押してたキースさんともう一人が息をはいて床に腰を下ろす。けどその時、扉が激しい音と共に膨れ上がって寄りかかってた二人を壁に吹き飛ばす。自分達は慌ててもう一度武器を構えた。
 だけど何度か膨れると静かになった。諦めたのかもしれない。


「けどそうなん分も持ちません。早くこの状況をどうにかしないと…完敗です」


 ミーアさんが深刻そうにそう言う。確かにね……そもそもそう何分も居れはしない。いつ会長がやられるか……わからないもん。きっと総力を上げて敵は進行してるだろう。会長はたった一人だ。既に自分達が閉じ込められて五分程度。
 きっと見つかったら会長でさえ数分と保たないだろう。だって数十対一とか……どれだけ会長が優れてたとしても無理がある。だから自分達は一刻も早くこの状況から抜け出さないと行けない。


「そう……だね。早くここを抜け出さないと。さあ、探索の続きをしよう。危険だからって、休んでる暇はない」


 手を叩いてそう促すのはやつだ。裏切ってる癖になんて白々しい。そしてそのことを既に知ってるミーアさんはこういった。


「どうでしょう? ここからは一緒の方が良いのでは? またこんな事が起こらないとも限りませんし」
「いや……だが……」


 渋い顔をする奴。やっぱり何か重要な場所を奴は知ってる。けどここで自分はこういった。


「そうだね。まだ探したい所が上にあるし、前のままでいいんじゃないかな?」
「えっ? でも……」
「まあまあ、一応自分司令の一人なんで」


 そう言ってお願いする。そして裏切り者の奴にも「それでいいよな?」と了承を取った。色々と皆不満はあるようだけど、なんとか収まって再び自分達は三階への階段を上がる。皆の痛い視線が自分の背中に刺さってるのを感じる。
 確かにこれを期に自分達も下層の捜索に加わる––というのも有りだったかもしれない。けど、それでもどうにか奴等は上手く誤魔化す事は目に見えてるんだ。自分は三階への段を踏んだ後に振り返って皆を見下ろして……そしてこう言ったんだ。


「奴等を追い込む方法を思いついた」


 その言葉と同時に自分は普段は見せない、いや、やったこともない不敵な笑みを浮かべたと自分でもわかったよ。



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