命改変プログラム

ファーストなサイコロ

相互間エリアバトル

 部屋の中は真っ暗で、冷え込んでるのか体がブルっと震えたよ。暖房……付けるの忘れてたな。風なんて引いたら洒落にならない。あれ? でも、風とかLROでも影響するんだろうか? ちょっと疑問。
 体は別の物に成ってるわけだから、もしかして体調不良とか影響しないのかな? よく分からない。そうだとするなら、体調悪い時には積極的にLROに入れば、苦しまなくていいのかもしれない。
 取り敢えずエアコンのスイッチを押して稼働開始。直ぐに暖かな風が狭い部屋を満たしてく。部屋は暗いまま……なんとなく灯りを付ける気分でもない。リーフィアのゴーグル部分は光ってるから読めるしね。まああんまり視認性は良くないけど。簡易的な物だから仕方ない。
 今、LROという世界は閉じられてるから、部屋のパソコンでその動向や盛り上がりを探るとか出来ない。世間一般にはまだ再び稼働開始したとか知られてないしね。だから仮想生活に繋がったリーフィアでないとアクセス出来ないんだ。


「流石に向こうは人が多くなってきたからか、盛り上がってきてるな」


 掛け金はどんどん跳ね上がってる。明日の決戦はそれだけLRO内でも重要視されてるって事だ。会長も言ってたけど、自分達の所と相手側のエリアが統合されれば一気に上位に食い込める。そうなると更にエリアバトルは活性化して、その覇権争いが盛り上がる事に成るだろう。
 少なくとも、会長はまだずっと先を見据えてる気がするしね。大体六・四くらいで向こう側が勝つと予想する人が多いみたい。それでも結構競ってる方だとまだ感じるけどね。内容を読んでいくと、会長の手腕が評価されてるから劣勢でももしかしたら––って思う人が多いようだ。
 そもそもテア・レス・テレスは劣勢をひっくり返すって有名だからね。なんたって自エリアでのエリアバトルなんてしたことないし。こっちはいつだって何が待ってるか分からない場所へと飛び込んでいく側だった。そしてそれを成してきたから、それが評価されてるようだ。


 けど厳しい意見もある。経験不足にスキル不足、急ぎ過ぎてる感が否めないとかなんとか。これまで上手くやれてたのは、運が良かっただけ……なんて意見も。それにどうやら、スレを読んでくと、自分達と末広さんたちのやり方の違いが鮮明に浮き彫りに見えてくる。
 実際、自分達と彼女達との差は数週間か、下手すれば一週間程度の差しかない。その差はゲームで見れば多いのか少ないのか微妙だけど、エリアだけで見れば自分達の差は多分殆どなかった。彼女達も同じくらいのエリアバトルをしてきたのは明白で、だからこそあそこまでに成ってる。 そしてここには彼女達のチームとエリアバトルした人達とかも居るようだ。まあまだそんなに多くないしね。


(けど、エリアバトルしたらその傘下に入ってる筈では?)


 と真っ先に思った。けど、どうやら自分の最低限のエリア以上を持ってるのなら、そこだけをエリアバトルの賭けに出すことも出来るようだ。毎回毎回全てのエリアを賭けてた自分達って一体……いや、それも会長の戦略何だけどね。餌は大きい方がいいに越した事はないもんね。そうしないと誰も相手に成ってくれないし。自分達は全てのエリアを賭けて、しかも不利な戦場に出向くことでエリアバトル事態を招いてたわけだ。しかもエリアが広くなればなるほど、その効果は大きい。
 もしかしたら勝てるかもと思わせれれば、乗ってくるんだからね。多分普通はもっと対等な条件を提示する物なんだと思う。でも会長は口も上手いからね。考えてみれば今まで戦ったチームは全部がエリア全てを賭けてた。
 だからこそここまで一気にエリアを拡張出来た訳で……どれだけ調子よく相手を乗らせてたんだろう。自分達テア・レス・テレスは結構LRO界隈では謎の組織っぽい印象を保たれてるよう。エリアだってバトルで使ってないし、戦った相手は全て吸収……実は自分達の情報が外に漏れないような施策を会長は打ってたようだ。
 だからこそ、末広さん達も自分達の情報が欲しくてあの話に乗ったと……中に居るだけじゃ分からない事も見えてくる。てか、こういうことはもっと早くから出来たんだけどね。自分はスレを追いながらため息を付くよ。


「まあでも、後悔なんかしてても始まらないし、向こうの情報を集めて自分でも作戦を立てる!」


 だいたいずっと会長任せだったからね。大規模戦闘ともなると、会長一人で全てを賄うってのも無理かもしれないし、自分でも考えておくことは大切だろう。向こうの情報を纏めると––


チーム名『鯨とミジンコ』構成人数約三十人弱。リーダー「デザイア」 エリア成熟度は2.5(これは良く分かってない。トップテンに入ってる所でも5を超える所はないとかなんとか、ちなみに自分達のエリアは1.3)そして基本守り重視の戦い方を得意としてる。


––てな具合。エリアの範囲とかは出てない。まあ一度見たから大体イメージは湧くよ。それなりだ。広さは自分達のエリアが勝ってる。でも成熟度は負けてるわけで、多分どれだけエリアを成長させてるかとかが反映されるんだろう。
 自分達はバトルばっかりでエリア事態にはあんまり手をつけてないからね。ここで重要なのは守り重視って事だね。スレを見ても、あの城を落とした所は無さそう。自分達の所よりもエリアが狭いのはあの城にリソースを取られただけじゃなく、基本彼女達が自分達のエリアに相手を招く戦法を取ってるからこっちほど一回のバトルでのエリア拡張がそれほどでもないのかも。
 でも自分達のところへ招くなんてどんな餌を用意しての事か……と思ったら、どうやら彼女達は相手には拡張エリアだけを要求して、自分達は全エリアを提示してる様だ。しかも自分達の人数は敢えて、相手よりも少なくしてエリアバトルを受けてるとか。
 自分達だって数だけは相手と対等にしてるのに……それだけあの城を抜かれない自信があるって事か。どう考えてもあの城を崩せるかどうかに明日の決戦は掛かってる。


「思ったけど、人数はこっちよりも結構少ないな」


 それは意外。同じかそれ以上と思ってたのに……でもここの情報を集めるとそれも納得ではある。自分達は全エリアを賭けて丸ごと飲み込んで広がったチームだ。だけど向こうはエリアだけを要求してのバトルも多かった事だろう。きっとその差。
 人数が少ないってのはちょっとした安心材料。けどスレを見ると、こんな意見をいう人も。


『傭兵雇えば解決じゃね? そのくらいの資金は持ってそうだけど』
『確かに鯨とミジンコは攻めが弱い印象だからそこを雇った傭兵に任せれば……』


 想像したくないけど、想定しなきゃ行けない事だった。確かに守り重視の布陣で今までは良かっただろうけど、明日のバトルは両エリアに行き来出来るんだ。それはつまり、自分達は補給を受けながら城を攻略できるって事になる。
 守るだけじゃ向こうだって駄目だとわかってるだろう。勝利条件が何かわからないけど……リーダーを倒す事なら、お互いのエリアにリーダーは置くだろう。それが普通だし、そうなったら向こうだって攻めこまずには居られない。
 人数も少なく、あんまり攻めるのが得意じゃないのなら、それを得意とする奴等を雇うって事も考えられる。だってこれはエリアを全てなくすかどうかの瀬戸際。もしかしたら他の終わらせ方もあるのかもしれないけど、どっちのリーダーも吸収するつもりだろうし、全てを賭けてやるのなら、出し惜しみなんてする必要はない。


『でも確か傭兵の参加にもルールがあったんじゃ?』
『ねーよ。具体的には傭兵なんて物はないんだからな。どこにも所属してない奴等が一時的にそのチームに加わって報酬を得てるからそう呼ばれてるだけだ』
『まあ普通のエリアバトルとかだと少人数で顔合わせた後にエリアに飛ぶから、傭兵を勝手に組み込むとかは難しい。だからお互いにルールを決めて傭兵を使ったりしてるんだ。けど今回はそんな制約はないし、むしろルールがない、エリア同士の接触バトルだ。
 傭兵を幾ら入れようと自由……』
『そんなのズルいだろ!?』
『出来ることを出来るだけやって勝利を得ることはズルくはないだろ。エリアを賭けた戦いだぞ』


 それからズルい・ズルくない論争へと発展して行ってる。こっちからしたら明らかにズルいと思うけど……それをされたってどうすることも出来ないんだよね。それがルール無用の接触エリアバトル。


(でも、本当にルールはないのか?)


 ちょっとそんな事を考えてみる。だってルール無用とか行っても最低限……何かしらはあるんじゃないだろうか? そうじゃないと、色々と問題が起きそうでもあるよ。だって今はまだスカスカだからそうでもないけど、これからどんどんユーザーが増えて、強いチームがエリアを広げていったら、新規のユーザーのエリアがいきなりポツンとその中に現れたりしたりすることもあるんじゃないかな?
 だって初アクセスの場所とかじゃん。今の自分達の初期エリアって。それを考えると、都会とか人が密集してる場所ではその内デカイチームの内部とかに突如初期ユーザーが現れちゃう可能性は高い。
 そうなったらそのユーザーに選択権なんか無いに等しい。それにエリアバトルって後に始めるほどに不利だよね。色々と問題はあると思うんだ。後者の方はまあ何かしら運営が手を打つんだとしても前者はね……途中から初期エリアは空いてるエリアにランダムで––とかになるのだろうか? 
 でもこのエリアバトルって、実はリアルの居場所と連動してるってのもその内売りにするんじゃないかと〜と思ってた。だってやっぱり慣れ親しんだ場所と同じ地域のエリアが与えられるってちょっとは愛着があったりするんじゃないかと。
 自分達の地域を自分達で盛り上げたり出来る。もしかしたらそこから天下を取れるかも……とかちょっとは夢が広がったるするじゃんね。
 だから初期エリアって重要なんだと思うんだ。そこが他のチーと最初から接触してるとか地獄でしかない。だからどこかにルールが……自分はリーフィアからチュートリアルを呼び出して、エリアバトルの項目を確かめる。


「ふむ……」


 けど書いてるあるのは簡易的な事ばかり。そもそもエリア同士が接触してのエリアバトルの記載は限定的だ。と、いうか、妙に改行されてたり、違和感丸出しのスペースが有ったりしてるような……


「これはあれか? 虫食い状態に成ってるんじゃないか?」


 何のために? 実は明確なルール設定を運営がしてなかったとか? いや、流石にそれは考えられない……よね? あとはゲームらしく自分達の力で解禁していけ! とかの類なのかも知れないけど、これってチュートリアルなんだ。
 チュートリアルにまでゲーム要素を持ち込むのはどうかと思わなくもない。ルールの確認くらいさせろよと。


「取り敢えず今わかるルールを確認しよう」


 けどそれもかなり簡素だ。内容的には『エリアが接触した場合にはエリア同士、自由に行き来できる様になります。そこに制限はありません』『二つ以上のエリア間でバトルが発生した場合にはエリアを対価にプレイヤーは復活することが出来ます』『二つ以上のエリア間バトルの勝敗は互いのグレートマスターキーの有無で決まります』『グレートマスターキーを所持したままの他エリアへの訪問は踏み込んだ時点で侵略開始の合図となりますのでご注意を。その時点で、侵略対象のマスターキーに警告が発せられます』


「大体このくらいか……」


 四つ程度とは恐れ入る。けど重要な事も書いてはあった。グレートマスターキーなるものの存在は初耳だ。会長も言ってくれればいいのんに。それとも常識だったのだろうか? けど自分は見たこと無いって事は、最初の段階ではそんなキーは存在しなかったんでは? 
 つまりは二つ以上のエリア間バトルはそのキーが存在してるチーム同士でしか成り得ないとも考えれる。ようは初心者のエリアが中にポンっと出現しても、侵略とかは出来ないってことなのかも。


「グレートマスターキーを持ったまま他エリアへの侵入だけで侵略宣言になるのも気になるな。そのマスターキーにはなにか‘ある’のかな?」


 そういえば会長さっきはその鍵を持っては居なかったって事だよね? 持ってたら直ぐに気づかれるらしいし……てか会長が持ってる……んだよね? つまりは互いに狙うのはその鍵。


「いや、鍵以外を狙う方法もあるにはあるかも……」


 注目はエリアを引き換えにプレイヤーを復活する事が出来るって所だ。これって上手く使えば相手の戦力を削って、最終的には丸裸に出来たりするよね? 敵のヒーラーを全部倒してしまえば、必ずエリアと引き換えにヒーラーを復活させるしかない。
 ヒーラーはチームには必須。そこを崩せば一気に崩壊しかねないからね。それができれば、エリアを犠牲にしてでも体勢の立て直しに図るのは必須。少しずつでもエリアを削って行ければ、いずれは復活もできなくなって詰む事が出来る。
 まあでもどれだけのエリアを犠牲にすれば……とかがわからないのが痛いね。しかもそれを促すと、最終的にこっちが手にするエリアも小さくなるという残念な結果しか残らない。


「お勧めできない方法だな」


 デメリットの方が大きい。まあ敗北––と言う最大のデメリットを受けるよりかはいいけど。


「そもそもこれ、グレートマスターキーをどうしたら勝利に成るんだ? 有無って……曖昧じゃないか? 表現として」


 単純に考えれば相手の鍵の破壊だろう。そうすれば無になるからね。けどそれなら破壊と明記してればいいんではないかと思わなくもない。空白部分も何か気になるし……エリア間バトルはやってみないとわからないことが多そうだ。だからこそ注目度も高いんだろう。


「何か……出来ることを……戦略を……」


 自分には何が出来る? 何も出来ない––と心の片隅からそう囁く悪魔の声が聴こえるけど振り払う。諦めたらそこまで……向こうはどういう戦略で来るだろうか? 会長はどう立ち向かおうと考えてる? 
 頭の中が茹で上がりそうに成るほどに考える。自分は何も特別なんかじゃない……それはよくわかってる。でも何も考えなくなったらそれはもう凡人でも無いんだ。回さないと……頭を––


「回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せ回せまわ––––––––
「しっかりしろ!!」


 すぐ近くで弾ける炎。自分の前には大きな背中。かばってくれた様だ。ここは……


「おいおい、アンタは一応俺達のリーダー何だぜ。ぼうっとしてもらっちゃ困るぜ」
「あ……ああ、ゴメン」
「よし、じゃあとっととあのデカイ城を目指そうぜ」


 リーダー……城……そうだ、もうバトルは始まってる。自分達はエリアを超えて敵側のエリアに居る。聳える巨大な城の城下のその周囲。建物もそんなになく見晴らしのいい格好の的になり得る場所。
 最初の難関はここを無事に抜ける事。城下に入ってしまえば無闇に城からデカイ攻撃は撃てないだろう。
 自分の前に居る長剣に筋骨隆々のイケメンがまさしくリーダーっぽく声を上げる。


「いくぞおおおおおおおおおおおお!!」


 始まったんだ。作戦は? 自分の役割は? 色々と混乱してるけど、忘れた訳じゃない。落ち着け。置いてかれるな。昨日の雨の影響か、ぬめった地面を踏みしめてその背中を自分も追う。



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