命改変プログラム

ファーストなサイコロ

湧き上がる衝動

「ううううわああああああああああああああああああ!!」


 後ろから迫る攻撃に叫びは止まらない。タバコの煙みたいな物を吐き続ける不気味な植物で覆われたバトルフィールドは視界も悪くて、胸も直ぐに苦しくなって最悪。しかも足元には根が張ってて注意しないとあぶなっ!? って言った側から!!


「ぬめぽ!?」


 変な声を出して地面を転がる自分。そんな自分に直ぐ様迫ってくる攻撃。煙が漂ってるから分かりづらいけど、青っぽい光を帯びた矢がさっきから飛んできてるんだ。


「綴君!」


 会長の声。自分を助けようと……でもあの矢さっきから派手に爆発してる。下手に庇うと会長までやられてしまうかも……そう思ったけど、会長は武器なんて帯刀せずに信じれない事をやった。自分を飛び越えた彼女は絶妙のタイミングで向かってきた矢に手を添える。
 そして勢いそのままに回転して向かってきた軌道に寸分の狂いなく投げ返した。そして直後遠くから「ぐああああああ!!」という声が。そしてドサッと言う何か重いものが落ちた音も聞こえた。でも敵の数は自体は減ってない。倒してはいないって事だろう。
 一応敵チームのHPバーは表示されてる。それによると今攻撃を返されたのはドンチェとか言う奴みたいだ。まあ向こうの名前なんて知る必要はないけど。


「大丈夫? 直ぐに立って綴君」
「あっ、はい。ありがとうございます」


 手を差し伸べてもらって立ち上がる自分。いつも頼もしい会長だけど、今はいつもの二倍位頼もしく見える。いや、本当は自分達が守らないと行けないんだけどね。でも自分も含めた四人にはそんな余裕がない。
 だって実際、殆ど喧嘩なんかもやったことないような面子だ。本気で襲われる……そんな事に直面したら体なんてガチガチだ。ゲームだってわかってる……でも向こうの殺気も、攻撃の衝撃もここでは直に伝わるんだ。
 足が竦んで当然だよね。会長は流石だな。全然平気そうで羨ましい。


「会長、また行き止まりです!」
「そっか、やっぱり範囲は初期のエリア5つ分……いや、縦に少し伸ばしてあるのかな? でも横にはそれほど広くない。煙で惑わされてるけど、校庭程度だと思っていい。遠距離からの攻撃は多分数人が回してる……かそれか全員? 今止まってるのは警戒してるのか、それとも一人での攻撃だと思わせたいか」
 ブツブツと何か言ってる会長。勝つ手段を本気で考えてるんだろうな。会長案外負けず嫌いだし。それに勝つと宣言して負けた所なんか見たことない。でもこの圧倒的不利な状況……敵が全員遠距離から殴り殺しにしてくる腹積もりならますますヤバイような。
 だって自分達には遠距離攻撃出来る奴はモブリのルミルミさんしかいないよ。いや、装備を変えれば一応弓が自分達にも用意はされてる。用意はされてるけど……ここはLRO、ガチで引いて照準定めて当てなきゃいけないとなると……当たる気がしない。
 それにただ飛ばした矢と、スキルで強化された矢なんて比べるべくもないよ。一体会長はどうやって勝つ気なんだ? 自分達にはまだ一つもスキルがない。これって殆ど丸腰で武器を持った相手に挑んでる用な物だよ。


「エリアは把握したわ。奴らの出方ももう充分でしょう。ここからよ、本当のバトルは」


 そう言う会長はやっぱり一点の曇りもない。大丈夫、何も不安に思うことなんかない。この人に付いて行けば間違いない……そう思わせてくれる。既にバトル開始して十分経ってる。半分だ。そろそろ反撃に転じないと不味い。
 そういえば、どうして会長は制限時間を設けたんだろうか? 勝つ算段があるのなら、時間は多いほうが良いはず。今の自分達の攻撃力なんかたかがしれてる。もしかしたら順調に行ったとしても、削りきれるかわからないような……そうなると勝利は無くなる。
 だって勝利条件は敵プレイヤーの全滅だ。それは自分達にとってはとても厳しい条件。逆に向こうにはとても甘い様に思える。


「ああいう奴らの思考は単純、弱者と思ってる者を蹂躙したいのよ。私達が哀れに逃げる様を見てきっと大爆笑してたでしょうね。でも一回反撃したし、向こうもカチンと来たかも。力の違いを見せつけようとしてくるでしょう」
「ど、どうするんですか会長!? 勝てるんですか?」
「負けるつもりはないよ」


 ザバンくんは一番ガタイゴツイのに不安気な様子。まあ全員だけど……ウンディーネって女性ならまだ人が見えたけど、男性はなんか亜人というか……ガタイゴツくて肌青くて鱗が微妙にあって尾びれやヒレが見えてちょっと間違えばモンスターだよね。
 中二病こじらせたヤツっぽいけど、スレイプルで良かったと思える。


「負けるつもりはないって……会長!」
「まあまあ、大丈夫だよきっと。私達は楽しんでいこう! だってこれはゲーム何だからね。楽しんだ者勝ちだよ」


 そんな脳天気な会長の言葉はどこか自分達の心を軽くした気がした。自分達は勝手にコレが重要な任務なんだと思い込んでた節がある。ゲームというよりも使命というか……会長と共に、何か大きな事が出来るんだという事にプレッシャーを感じてたのかも。でも会長の口からゲームだと––楽しんで行こう––と言ってもらえた事で、ちょっと肩が軽くなる。自分達はホント……会長に依存してる。
 高校生なのに……彼女だって高校生なんだ。それは変わらない……けど、ただの高校生じゃない事は自分達が一番わかってる。そんな会長と最高のゲームを楽しめる。そう考えると、ずっとドキドキしてたのがワクワクに変わる気がする。
 自分は拳を強く握って会長に問いかける。


「勝つためには……自分達は何をすればいいんですか?」


 会長は無邪気な笑顔を見せて自分達に今、考えたであろう作戦を授けてくれる。それはやっぱり会長らしく突拍子もない物で、上手く行くかどうかなんて自信は無かった。でも会長には微塵の不安も見えない。だから自分達はその背中に迷わずついていける。




 再び激しい攻撃が始まる。だけど自分達の方には来てなくて、別方向から音はしてる。会長達が上手く引きつけてくれてるんだろう。やっぱり会長の言った通りのようだ。


『多分奴等はスキルでこの煙の中でも私達を認識出来てる。でもそれは多分そんな高性能じゃない。最初期に手っ取り早く相手の位置を把握できる力と言ったら温度くらい。敵は私達の温度を観てる筈。だからルミルミと綴君はルミルミの魔法で体温下げてて。
 それで狙われにくくなるはずだから』


 そう言われてモブリが最初から装備してる杖についてる魔法の一つ『アイス』で温度を下げた。これはもうなんか攻撃になんか全然使えない代物だったよ。だって冷たい冷気を起こす魔法で、その冷気の威力と言ったらね…サブっと思わせる程度。
 多分もう何段階か強化されれば吹雪とか起こせる代物なんだろうけど、今の段階じゃ余り使い道がない魔法だ。これよりもファイヤは火の玉自体出せるから攻撃向きだ。まあそれの活用時はまだちょっと先だけど。
 会長の予想通りにこっちは狙われてない。今の内にやることをやっとかないと。


「後、二分で会長達が移動して来るからね!」


 ルミルミが小さな腕をパタパタしながらそう言ってくる。わかってるよ。焦らせないで欲しい。初めてなんだから緊張するじゃないか。さっき自分達にはまだスキルがないと言ったけどあれは間違いだった。ウンディーネやスレイプルには種族固有のスキルがあるんだって。それを使って自分は重要な役目を果たさなければいけない。
 皆から受け取った初期から用意されてる矢はそれぞれ十本ずつだった。五人分を受け取ってるから自分のアイテム覧には五十本の矢がある。まあだけど所詮は最初から用意されてる安物。これをこのまま使ったところで、効果的な攻撃なんて出来ない。矢として使ったところで、自分達には当てる技術もないし……だからスキルを使って効果的になり得る物に変えるんだ。
 それが自分には出来る。スレイプルの自分には最初から鉱石操作のスキルがある。これを使えば、矢の鏃部分だけを変える事が出来るらしいんだ。まあそのスキルも初使用だし、そんな大層な物が作れる訳もない。
 でも初期装備の矢の鏃程度なら、今の自分の鉱石操作のスキルでも扱えるらしい。この矢が大層なものだったらきっと自分のスキルの練度では何も出来なかっただろう。でも、矢もスキルも両方初期のままだから初期の自分でも扱えるのだ。
 アイテム覧から矢をワンセット十本取り出してスキルを使用して鋭利な鏃を丸くする。それは案外簡単で、スキル発動させた手が青く光ったら、それでこねれば粘土みたいに成ってくれたよ。丸めた鏃部分には会長から渡された細い糸を押し込んでそれぞれの糸を絡めて繋がった状態に。
 それを周囲の適当な場所にばらまく。そうしてる合間に敵の攻撃の振動が徐々にこっちに迫ってるような……会長達がこっちに移動して来てるんだろう。


「よし、じゃあ次に行くわよ。気付かれるわけには行かないんだから」
「了解」


 自分達は紐だけを握って次の場所へ移動する。最初逃げまわってる時には、あえて中央部分には近寄らないようにしてた。それはエリアでホームがある場所は基本中央で、そこが拠点らしいから、いきなり拠点に攻めこむような事は出来ないよねって事だ。
 会長がエリアの周囲を回ってエリア自体の広さを確かめたのは敵の練度を確かめる為。多分だけど、この新しくなったらしいLROではこのエリアが重要で、その奪い合いがメインなのかも知れない。
 そしてプレイヤーはこの自由なエリアで自分の思い描く事を形にしようとしてるんじゃないだろうか。LROと言う世界での経験やアイテムは多分ここに還元できる。そして会長がここの広さは五人分のプレイヤーエリアを合わせた分っぽいと言ってたのは、このエリアって物の拡張には他プレイヤーからの常渡やら、それこそ侵略という方法でしか成し得ないから。


 まだ五人分しかないのなら、今戦ってる人達はそんなにこの戦い自体には馴れてないのかも。まあそれでも自分達とはLROと言うこのシステム自体への慣れがぜんぜん違うだろうけど。ここで疑問なのって自分達の様な初期エリアしかないプレイヤーが負けてエリアを奪われた場合は、一体どうなるんだろうか?
 強制的に奴等の傘下に入るのか、でもそれすらも拒否されたら、LRO自体から追い出されたり……そう考えるとこの戦いは負けられない物になる。だってここに、この世界に居ないと彼女は探せない。まだ足を踏み入れたばかりなのに、それだけで終わったらたまった物じゃないよ。




「よし」


 餌は巻き終わった。このエリアはそれほど広くはない。それを隠すためにか異様な植物で埋めてるようだけど、その御蔭で隠密行動やりやすかった。敵は中央こそが一番攻められ難いと踏んでるから、そこにデカイ木を備えてその木の上にホームを置いてるよう。
 しかも案外エリアが狭いから、この中央のデカイ木一本で隅から隅までカバーできるんだ。視界の悪いエリアで、頭上を取ってそこから一方的な攻撃を加えての勝利––それが敵さんが思い描く理想の勝利の方程式だったんだろう。
 確かにそれはかなり効果的だと思う。多分他人のエリアでの戦闘ってのは圧倒的に不利が前提なのかもしれない。まあ誰だってエリアを取られたくはないんだろうし、ホームは固めるよね。攻められては守り、誘いこんだら絶対勝利……そういう風に作っていく物なんだろう。まさに蜘蛛の巣みたいにね。


 普通に警戒して周りをウロウロしてたらきっと奴等の術中にまんまとはまってただろう。最初にエリアの広さを確かめたのは正解だったと思う。それで向こうの戦闘経験も、狙いもなんとなくだけど会長にはわかったはず。
 エリアの端に辿り着くのが予想以上にかかってたら、会長は多分最初の一箇所でそれをやめてただろう。だけど案外エリアの端は近くて、それは東西南北そうだった。そして直ぐに中央に行く決心をしたのも大きい。
 そうでないとこの木の存在はわかりづらかったしね。敵は狭い箱に傘を張ってその傘の上に陣取ってる様な物。絶対有利な条件を作り出してる。警戒をするのも大事だけど、虎穴に入らずんば虎児を得ずでもある。
 会長は一つ一つ自身が思いついた可能性を検証して現状を見抜いて行ったんだ。だから奴等は既に会長に見切られてる。自分達のエリアに居ると思ってるだろうけど、それは違う。君達はもう会長の手のひらの上だ。


「ぎゃっはははははは! どうだ? そろそろ降参しないか? もう後五分切ってるぞ。分かったろ、テメエ等に勝ち目なんかこれっぽちも無いってことがよ!」


 上の方からそんな高笑い混じりの声が聞こえてきた。確かに向こうからしたら自分達がそろそろ諦めムードに入ったと思うかもね。絶対有利だと思ってるだろうし、それは仕方ない。間違っちゃ居ないと思う。でもこっちはようやく全部の準備が終わった所なんだ。つまりはこれからが反撃の時。


 敵もこっちが降参を宣言する為か、一時的に攻撃を止めてる。ずっと動き回っててボロボロの会長達は荒い息を吐きながらも地面に膝はつかない。でも結構危ない所までHP減ってる会長意外の二人がヤバイな。なんとか立ってる状態かも……でもここまでやってくれたんだ後は任せてくれていい。


「何言ってるのかな? まだ戦いは終わってない。どっちにファンファーレが鳴り響くのかは最後までわからないわよ」
「ははっ、いいぜ。その強気な心をへし折って踏み砕いて泣きながらごめんなさいさせてやるよ!!」


 そう言い放った敵さん方の居るであろう場所に強い光が集ってる。どうやら本気の攻撃が来そうだ。でもこれは––そう思った時、会長が言い放つ。


「後ちょっと、踏ん張っていこっか皆!」


 その瞬間ルミルミが用意してたファイアを握ってた糸を伝わせて放つ。糸を伝ってその炎は周囲にばら撒いた元鏃の小さな鉄球に送られる。自分が握る鉄のチョビっと熱いけどここは我慢。敵は温度で自分達を観てる……なら、この瞬間奴等には自分達の数が尋常無く増えた様に見えてる筈。
 そしてそれを証明するように、奴等の攻撃の光は木全方位に降り注いだ。それでも充分脅威。でも、そこに自分達が入ればの話だけどね。
 既に自分達は避難してる。でも会長だけは違う。全方位に展開した事で奴等の攻撃も薄くは成ってる。だからそこを付いて会長は木へ向かう。


「会長!」
「頼んます!!」
「日鞠ちゃん!!」


 それぞれ会長に送る声援。だけど自分は息を飲むことで精一杯。だって最後の締め……それは自分の役目。激しい攻撃の中を軽やかな身のこなしで進み、木をスピード落とさずに登り出した所で見えなくなった。どうやって登ってるかとかは謎なんだけど、そこは会長だし、なんでもありな気がする。
 少しすると攻撃は止み、激しい攻撃の余波で周囲に漂ってた煙が隅っこまで追いやられてた。自分達は草の中から、身を出す。そして頭上を仰いだ。まだ上の方は煙でよくは見えない。けどその時、ボン! と言う音が何回か聞こえたと思ったら、煙から落ちてくる奴等の姿が。予定通り……会心の一撃の為に無駄に輝いたのが仇になったな。あれでハッキリしてなかった奴等の居場所がわかったんだ。
 会長は真っ直ぐ、最短で奴等のいる場所に向かえた。まさか登ってくるとは思ってなかっただろう奴等は虚を付かれて木の上から落とされる羽目に。最悪全員バラバラな方向に来ると覚悟してたけど、これなら!! 奴等の無様な叫びが木霊する中、会長が自分に向かって言い放つ声が鋭く響く。
 それはとても美しくて、凛々しくて、安心できる。震えなんて消え去る信頼感。


「決めちゃえええええええええ!!」
「はい!!」


 握った糸を伝ってスキルをとおす。この糸は全ての鉄球と繋がってる。それを再び鉱石操作で集わせて、創りあげるのは五本のデカく鋭利な槍。地面から突き出すように出来たそれを見て奴等は吠える。


「貴様等ああああああああああああああああああああああああ!!」


 助かったよ、アンタ達の地面に這った根に守られてたからこそ、最後まで繋がれてたんだ。そのお陰で脆弱な自分のスキルが通った。アンタ達は見誤ったんだ。確かに自分達は初心者だ。けど、それでもあの人は、会長はただの初心者なんかじゃないと言うこと。


 嫌な音と共に、奴等は自分が作り上げた槍に貫かれる。それは実際、直視したくない光景だった。そしてその瞬間奴等のHPは一気にゼロへと落ちた。あの高さからの落下スピードでの串刺し。それはまさに絶命を意味してたんだ。
 残り一分を残して、自分達の頭上にファンファーレが鳴り響く。その陽気で心高ぶらせる音楽のせいか分からないけど、体育祭でも文化祭でも盛り上がりの輪からどうしても外れてた自分が真っ先に両手を空に突き上げて、そこに他の皆が覆いかぶさって来た。
 皆と心から分かち合う事が自分にも出来た。初めての気持ちが込み上がる。震えが止まらない。


(勝ったんだ……これが自分達の……初勝利!!)

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