命改変プログラム

ファーストなサイコロ

流されてく

 自分の姿形を決めて最初に降り立った大地は素っ気無い所だった。四角く狭い白い空間。そこに絵本にでも出てきそうなちゃっちい家と、少し盛り上がった地面。そして小川に木が一本……自然をがちょっとだけ有ります的な場所だ。


「……あれ?」


 なんか感動がない。LROってこんな物? だって伝え聞く所ではそれはもう凄い物だって聴いてたよ。息づく世界がそこにはあると……そう聞いてた筈なんだけど……


「でもそれって前のLROか。色々と仕様を変えられたのかな?」


 流石に前のままで再稼働––とかは出来ないだろうしね。でもこれは規模を縮小し過ぎではないだろうか? 何をすれと? 畑とか耕せばいいのだろうか? 農業体験型のゲームに生まれ変わったとか? 
 でも土の部分もちょっとだしな……そもそも種も何もないっての。ウインドウを見てもアイテムは皆無だ。そんな事を思ってると陽気な音と共に、ウインドウから機械的な声が聞こえてきた。




『ログインありがとうざいます。これから生まれ変わったLROを楽しんで貰うためにチュートリアルを開始いたします。よろしいですか?』
「あっ、なるほど。流石に説明あるんだ」


 まあ確かにチュートリアル位ないとね。けど実は簡易的説明は会長から聞いてる。でもまあシステム的な事は全然で、合流の仕方位なんだけど……会長は最初に降り立つ場所のドアから『集いの街 ニューリード』へ行き、中央広場で待ってると言ってた。
 ドアってこの空間ではあの家のドアしか見当たらない。あれであれば直ぐに行けそう……チュートリアルってどの位掛かるかも分からないし、ゲームの仕様は後々分かっていけばいい物だろう。自分的には会長を待たせたりするのとかあり得ないからね。急いで待ち合わせ場所に行きたい気持ちが勝ってる。てな訳でチュートリアルは拒否する。


「よろしくないです。いつでも確認出来ますよね?」
『はい、チュートリアルの確認は意思だけで可能です。疑問が湧いたら『これはなんだっけ?』とお思いください』
「すごっ、ハイテクだ」


 まさかウインドウを開かなくてもいいとは……ゲームも進歩したな。手間がないとはありがたい。でもたいけんした事ない事は一度体験したくなるよね。とりあえず自分は家に近づいて『これなんだっけ?』と思ってみた。
 すると視界に家のランク? みたいなのが見えて、後は材料とかも現れた。そして頭に説明も流れる。


『これはホームです。プレイヤーの思いのままに増築改修を行うことが可能です。特殊な仕掛けを施したり、プレイヤー同士でもっと特別な物にできたりもします。それは全てあなた次第。標準装備として、ドアには空間転移が出来るように成ってます。
 初期の状態では種族の故郷と集いの街ニューリードへの転送が可能です。転送可能な場所はフレンド登録や、LRO世界の各地にあるドアを開くことで順次増えて行きます』


 なるほど、つまりはこのドアはかなりの便利アイテム……言うなればどこでもドアと言う訳か。あれ? でも行き先はどうやって選ぶんだろう? と思ったら、再び解説が入る。


『ドアノブに触れた状態でノブを回すと目的地が選択できます。選択した目的地の箇所を維持したままドアを開いてください』


 懇切丁寧な説明ありがとうございます。ってな訳で、早速ニューリードなる街を選んでドアを空けた。扉の向こうに室内は見えない。光だけがキラキラある。その中に恐る恐る自分は足を踏み入れた。






「うおっ!?」


 一歩––の向こうは別の場所だった。青い空が天高く広がって、日本とは違う建物が均一な高さで並んでる。通行人は多種多様で大抵の人が武器を帯刀してる。車は見えず、時折見える乗り物は、大きな狼だったり、足が逞しい鳥みたいなのとかだ。
 でもそれは個人用……なのかな? 複数で乗っては居ない。そう云うのはないのかと思ったけど、カタツムリが連結してるような胴長の乗り物が見えた。カタツムリのあの殻の部分が乗り物になってて前と後ろにそれぞれ頭がある。
 それには沢山の人が乗ってる。そんなに早くはなさそうだけど、安全運転ではあるようだ……あれ?


「壁を登ってる?」


 地面をノロノロ行くのかと思ったら、建物の壁を登りだして屋根の上へ。するといきなり加速してあっという間に消えてしまった。


「なに……あれ?」


 カタツムリってあんなに早く進めるんだ。どっかに加速装置でも付いてるみたいだったけど……一体どれくらいの広さがあるか知らないけど、つまりはああいうのを利用しないと行けないくらいに広いって事だろうか。
 LROの街はリアルの街並に広いって聞いたことあるしな。自転車とか、手軽に乗れる物はないのだろうか? 便利だと思うんだけどな。


「えっとまずは広場だっけ。そこに行かないと」


 カタツムリの事は置いといて、とりあえず会長に言われた場所を目指さないとだな。マップがあるかな〜とウインドウをみるけど、マップは白紙だった。いや、一応ここらへんの名前は出てる。どうやら走破していくとどんどん解除されてく仕様のようだ。


「この場所はニューリード西門前か」


 となれば東西南北それぞれの出入口がありそうだな。そして中央広場となれば、それらが合流した地点と言う事になるだろう。真っ直ぐに大通りを歩いて行けば付くかな? と思い歩き出す。門の向こうに見える世界にも興味はあるけど、会長との合流が先だ。
 多分きっと、これから壮大な冒険が待ってるだろうからね。ここは我慢。自分は街の中心部に向かって歩き出す。


 歩く度に思う。ここは本当に仮想世界なのか? と。確かに目に映る人々は色々とリアルでは見れない様な人達でいっぱいだ。節々に見える植物とかもそう。リアルでは見たことない変なのいっぱい。
 でも……肌に感じる空気や、自分の嗅覚に入ってくる何か香ばしい匂い。絶え間なく吸って吐く空気の循環。この世界で自分は既に血肉を感じてる。生きてるような……そんな気がしてくる。なんかちょっと怖いな。リアルってなんだっけ? と思いそう。
 だってここも……その生きてるって感じる。すれ違う人達も、道端でたむろってる人達も、家の中にいる人達も、なんか生き生きとしてるというか……プレイヤーかそうじゃないかとか、ハッキリ言って分かんない。
 これって眠ってる人にリーフィアを被せて、ここは異世界です––って言えば多分信じるよ。いや、マジで。そのくらい違和感がない。全てが咬み合ってちゃんと回ってる様に見える。


 自分は周囲をマジマジと見つめながら歩いてた。だって全てが珍しいんだ。それにその全てを感じる事が出来る。画面の向こうにあって手が届かなかった世界に……今自分は居る。そう思うと、ついつい歩くスピードも落ちて、良く立ち止まったりしてしまう。


「こんな凄かったんだ」


 素直にそんな言葉が漏れた。自分だって人並みにゲームは好きだ。てか、あんまり友達も居ないし、ゲームをする時間は多い方。けど、LROに手を出さなかったのは怖気づいてたから。だって自分の体を動かして、モンスターと対面して戦うとか、怖すぎじゃん。
 憧れはあったけど、ちょっとひねくれてたんだよねあの頃は。そしてLROがやばくなってきたら「ほら、どうせこんな事になるんだろうと思ってた」とか内心勝ち誇ってた。賢い奴はそうそう飛びつかないんだよ––とか言ったりみたりしてさ。
 けど……今ここに来て、自分はその愚かさを痛感してる。リアルと変わらない感覚で、異世界の様な場所を縦横無尽にどこまでも冒険できる。これって誰もが夢見てきた事じゃないか。まさかここまでとはホント思ってなかった。
 あの事件は怖かったけど……怖気づかずにここに飛び込んでたら、もっと早くに何かが変わったかもしれない。そう思わせるだけの世界だよここは。なんて立ってこの自分がテンション上がりまくりだもん。
 ガラスの向こうで実演してる変な料理さえも美味しそうに見えるし……実際漂う匂いはお腹を刺激してきやがる。


「あっ」


 そんな時ふと気付く。ガラスに映った自分の姿。余りにも自然で気づかなかったけど、今の自分は向こうの自分じゃない。


「ちょ、ちょっとイケメンにしすぎたかな?」


 これでも結構地を残したつもりなんだけど、こうやって改めて見ると格好良いって恥ずかしいなって思う。しかも自分の種族はスレイプルとか言うので、この種族は顔に模様の様な物が入ってるのが特徴でそれが中二病っぽい。
 しかもちょっと浅黒い肌で自分では考えられない細マッチョな体型……髪の毛も色々と自由に出来たから最初は長めにしたんだよね。どうせ切ったりして調整もできるし、何よりも勝手に伸びるらしいからね。凄すぎるよLRO。
 まあ一応長い髪をバッサバッサとさして動くのは厄介そうだったから、簡単にまとめてポニーテールに成ってる。自分なんだけど、やっぱり自分ではないみたい。でもこれは自分なんだよね。不思議な感覚だ。
 整形とかしたらこんな感じなのかな? とちょっと思う。そう思ってると、ふと香る匂いに思わず振り返る。


(今の匂い……)


 覚えがある物だった気がした。そしてちょっと懐かしい様な……ガラスから飛び退いて、その香りの方を探す。でも向かってくる人も背を向けてる人達もいっぱいだ。その中で誰なのかなんて分からない。


「気のせい?」


 そもそもリアルと同じ匂いがするか疑問だしね。その人の匂いとかどうやって再現するんだって話しだ。まあこっちで同じような匂いのシャンプーとか使ってれば……ありえるのかな? そんな事を思ってると、いきなり背中に衝撃が走って地面に倒れ込む。


「いっ––つうう」


 一体なんなんだ? と思って振り返ろうとすると、いきなり響く声。


「ああああああああああああ! 俺の折角作ったアイテムがあああああああああ!! どうしてくれるんじゃテメエエエエ!!」
「ええええええ!?」


 アイテム? って何? そこに転がってる安物そうな白い皿の事か? 買えよ!! とは自分は言えない。とりあえずこういう時は謝っておこう。初心者って言えば、見逃してくれるかも……なんか強面だけど、ここは見た目で判断は出来ないし。


「す、すみません。ちょっと意識が前方に言ってまして」


 いや、それは当然か。てか自分悪くないような……でも何故か向こうは一方的にこっちが悪い化のように怒鳴ってくる。


「どうしてくれんだ! ああ!? 俺の努力と汗の結晶だぞ!! 弁償せぇや弁償!!」
「弁償って……自分はまだ初心者で……お金なんて……」


 うう……どうすれば? 流石に周囲も気付いてザワザワしてきたぞ。恥ずかしい……


「それならテメエのエリアを貰おうか!! それでチャラにしてやるよ!」
「エリア?」
「おう、エリア常渡って宣言すればウインドウが開くぜ」
「それで許してくれるんですか?」
「おう、勿論。俺もそこまで小せえ奴じゃないからな」


 後ろの数人……多分この人の連れの奴らがニヤニヤしてる。エリア常渡がなにか分からないけど、どうやら旨味がある事のようだ。それに周囲からはなにやら納得出来無さそうな声がチラホラと入ってくる。もしかしたらこの人達……オンラインゲームに良くいる初心者狩りとかか? そうなると、下手に要求を飲むのは不味いような……


「おい! さっさとしやがれ!!」
「ふゃい……」


 無理です。そんな恫喝されたらミジンコみたいな自分には拒否できないのです。どうやら仲間が周りを威嚇して手出しできないようにしてるようだし、助けが入る望みは薄い。そりゃそうだ。誰とも知らない自分を助ける人なんか流石にここでも居ないよね。


(どうせ、初期の持ち物とか後でどうにもなる……よね。早く会長とも合流しないとだし、ここはさっさとこの人達から開放されないと)


 そんな思考になって自分は「エリア……」と震えた声で口にする。するとその時ふと近くで自分の肩に暖かさが伝わった。


「それは止めた方がいいよ」


 聞き覚えのある声。振り返るとそこには長い黒髪を無造作に垂らす美少女が一人。ホントただ伸ばしただけの様な長い髪。でも……それは艷やかで艶やかで、不思議な光を放ってるというか……取り込んでるというか……そしてその人を見てると、ふとこんな言葉が出てきた。


「会長?」


 どうしてそう言ったのか、ちょっと自分でも分からない。でもなんとなくそう思った。どこか雰囲気似てるし、面影だってある気がする。会長は学校では大体メガネで、三つ編みだけど、自分は三つ編みじゃなく、メガネを取った姿も最近見たからね。
 あの雨乃森先輩から送られてきた寝顔の会長と似てると……思ったんだ。


 自分の問いかけには応えずに微笑む彼女。だけど彼女の名前を見て自分は確信する。間違いない––と。だってその彼女の名前『カイチョウ』なんですけど。いや、確かに一発で分かる様にするから––って言ってけどさ。それでいいのでしょうか? 役職を付けるのはどうかと。
 でもこの場面でそんな指摘は出来ない。会長に間違いない彼女は奥せずに前に出て……とりあえず地面で割れてる皿をさらに踏み砕いた。ええええ!? だよ。


「消えない。どうやらこれ、そこらで買った安物のようですね。まあ銘も入ってないし、そもそもプレイヤーのスキルで造られた物じゃないのは一目瞭然。逆にこれだけの質素なものをどうやって作るのか教えて欲しいくらいですよ」
「う、うるせえ! そいつが人の物を壊したのは事実だろうが!! ひん剥くぞテメエ!」


 そう言ってガン飛ばして会長を囲む奴ら。あわわ……自分のせいで会長がピンチだ。でも会長は一切物怖じしてない。


「貴方達が言ってるのは無茶苦茶。要求を飲む筋合いは何一つない。そもそもそこらの皿とエリアが同価値な訳ないじゃない。何も知らない初心者を狙ってエリアを楽に手に入れようなんて、早速腐った奴が居るみたいじゃない。
 エリアが欲しければ正々堂々と戦いましょう」
「それは勿論テメエのエリアも同時に賭けるって事だよな?」
「勿論、私は逃げも隠れもしないわよ」
「ふっはははははは! 見たところテメエも初心者じゃないか! いいぜ、面倒だが正々堂々勝ち取ってやるよ」
「上等、そっちの人数に合わせたてあげる。皆!!」


 そんな会長の言葉に、周りのギャラリーから数人が抜け出てくる。皆とっても渋い顔してる。そして自分に向ける目が厳しい。


「か、会長、いきなり実践なんてそんな無茶ですよ!」
「大丈夫大丈夫。見てよ、どうみても雑魚でしょ?」


 確かに奴らからは雑魚っぽいオーラを感じる。端役というか……明らかにチンピラ臭がするけどさ、こういうゲームでは経験って物凄く重要だと思うんだ。それなのに自分達は全員初心者。向こうがどれだけやってるかは分からないけど、どう考えても自分達よりも強いのは明らかだ。
 会長の自信は一体どこから……


「とりあえず今回は私と綴君は絶対参加だから、後は後方支援としてルミルミに固有スキル持ちのザバン君とまあ後は適当にそうだね〜ニーナで。決定〜」


 自分と会長を入れて五人のメンバーが選定された。会長は人で自分はスレイプル、ルミルミと呼ばれた娘はモブリで、ザバンなる奴はウンディーネ、ニーナはエルフ。残った二人は観戦ということで。


「揃いも揃って初心者面してやがるな。今更謝っても遅いぞ」
「あら、それはこっちのセリフじゃないかしら?」
「ふん、強気でいられるのも今のうちだ。俺達『シャドートラウフト』のエリアで食い尽くしてやるよ。エリアバトルエンゲージ!」


 その言葉と共に、奴の周囲に光の環が出てきた。そしてこちらにピコンという音が聞こえてきて『パーティーに招待されてます。参加しますか?』の文字。自分はイエスを押した。すると自分と他のメンバーにも輪っかが現れてた。


「バトルフィールドは俺達のエリアでいいよな。貴様等の方は使え無さそうだしな。時間は無制限で、勝利条件は……」
「待って、時間制限はつけましょう。二十分で。代わりにそっちはスキル上限解除していいわよ」
「良いのか? 貴様等の勝ち目はほぼ無くなるぞ」
「案外優しいのね。でもご安心を。私達は勝つから」
「ふん、いい度胸じゃねえか! じゃあ勝利条件はプレイヤーの全滅でいいよな?」
「どうぞご勝手に」


 まさに『勝った』的な笑みを浮かべるチンピラ共。自分は何がなんだか……そして全ての条件設定が終わったのか、二人は宣言する。


「「バトル・エンカウントオン!!」」


 その瞬間、頭上に現れた扉が大きく口を開いてそこに自分達は吸い込まれていく。浮いたりするんじゃなく、キラキラと粒子状になって吸い込まれてく。周囲に居た人々は何やら盛り上がってるご様子。でもそのご期待に応えられるとは思えない。どう考えてもこれから自分達は初戦闘に向かうんだろうけど、自分達は超初心者……それを考えるとハッキリ言って不安しか自分には無かった。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品