命改変プログラム
私達の戦い
暗かった視界がひらけてく。遠くに点の様にしか見えてなかった世界。意思を奪われてたから、ずっと自分と言う存在は暗闇に閉じ込められてた。だけど最近は時々ふと自分を出すことが出来る様に成って来た。
世界が不安定に成って来たおかげだろうか。頭を振って意識をハッキリと保つ。視界を下げるとそこにはスヤスヤと私の膝で眠るセツリの姿が。この子は全く……この花の城の外では世界を賭けた戦いが行われてるというのに……しかもその中心の筈なのに……全く他人事ですね。
「ごめんなさい。私はシクラ達の様には考えられない。このまま夢の中だけでゆっくり死なせるだなんて嫌なの」
シクラ達はこの子にとっての辛いことや嫌な事を全部排除して、優しい世界をつくろうとしてる。それは確かにこの子の望んだことなのかもしれない。リアルには辛いことがいっぱいだったから……だから逃げ出したくなる気持ちは仕方ない。
ここは逃げ場所であっても別にいいとは思う。どう活用しようと、それはその人の勝手だ。けど大抵は戻ってもの。一時的な逃げ場所……セツリの場合は長いけど、それでも私はいつか……この子をリアルに戻すことになる––そう思ってた。
私は元々、こっちでのセツリのお世話役。この子が来るのを心待ちにして、そしていつだって笑顔でまた送り出す。それが私の役目だったから、シクラ達とは相容れない。シクラ達は元からセツリの願いを叶えるために生み出された存在。私は桜矢当夜のアシストみたい存在だった。
だから願うことは違う。
セツリの頬に流れる髪を耳の後ろに流す。綺麗な子…本当に。初めて会った時、印象としては暗かったけど、その見た目の華やかさに私は天使だと思いました。あの頃は感情らしい物の殆どはプログラムでしか無かったはずだけど、それでも今まで続いてる思いは本物。
「私はいつだってセツリの味方です。だから、厳しいことも言います。生きてください。そして幸せになってください。それがこんな私が願う。ただ一つの夢」
セツリをベッドに一人残し、私は部屋の外へ。後の事はクーに頼みます。あの子は頼りになる。私がおかしくなってることに気付いてるだろうに、離れていかない。色々と苦労を掛けてごめんなさい。
だけど、願わくば最後まで、こんな私を見捨てないで居てくれると嬉しい。今の私には、貴方しかいないから。そう思ってると、扉の向こうから「くー」と鳴き声が聞こえた。それは不思議と「ガンバレ」と聞こえた気がした。
流れそうになる涙をこらえて、私は歩き出す。
いつまでこっちに出てられるかは分からない。だから急がないと。花の城は世界を書き換えるシステムを走らせてるようだ。既にその進捗率は七割を超えてる。スオウ達も頑張ってるようだけど、流石にシクラ達相手だと分が悪い。だけどここで私がそれを止めるなんて事も出来ない。法の書とセツリの権限を使ってのシステム改変。
それには私自身は介入できない。だから私が今出来る事は何か……そんな事を思ってると、花の城に辿り着くプレイヤーが一人。
「あれは……」
だれだっけ? よく覚えてない。それよりも問題はシクラ達が来ちゃった事––と思ったけど二人は早々に戦場へ戻った。どうやら、彼はそこまで問題視されてないようだ。って事はその程度の存在って事だろう。ここまで来れたのだから、何かあるんだろうけど……そう思いつつ、観察してると、扉の前に来た彼は一瞬で後方に。
「あのスキル」
使えるかも知れない。そう思った。ともかくこのままじゃ世界は改変され、セツリは永遠の引き篭もりになってしまう。そうなるとリアルのセツリの体との繋がりは消えてしまうだろう。それは彼女の死にほかならない。
歩調を速めて私は城の地下に。ここでは昨日まである儀式が行われてた。そのせいでずっとセツリはお眠。そして今、世界に重ねてる新たな世界の根源はここ。法の書を組み込まれた欲望は、既存の世界を食い尽くし、新たな世界の糧にする。
無数の魔法陣が回り、光の線が幾重にも螺旋を組んで張り巡らされてるその場所の中心に奴は居る。私の来訪に直ぐに気づいたのか、そいつは目を開けて睨んでくる。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ! 何のようだよ。自分を悲観して食って欲しく成ったか? いいぜ、骨の髄までしゃぶってやるよ!!」
相変わらず下品な奴。こんな奴と摂理に同じ空気を吸わせるとか耐え難い。倒せやしないし、いまさら止まりもしないだろう……けど、またいつ消えるかもしれない自分は、今やらなきゃいけない。取り出した札に力を送る。
「いいぜえ、さあこいよ。この縛りを解くのなら、覚悟しておけ。貴様等もあの女も、俺が食い尽くす。今の俺なら、それが出来るぜ!!」
危険な賭けだ。だけど、賭ける価値がある仲間が私にはいる。もう仲間だなんて思ってないだろうけど、それでも信じて託せる人達。
「やってみなさいよ。私は食えても、摂理はアンタなんかの食事にはさせない! あの子には戻る場所がある!!」
「それを望んでないのはアイツだろ。アイツこそ本当の闇。奴を食えば、もっともっと深くに––ががっぎゃぎゃぎゃ!!」
耳障りな笑い声。殆ど会わせてなんか無かった筈なのに、こいつはこの数日の数回でセツリの事を見ぬいたつもりらしい。そして密かに狙ってたと。どこまでも深い欲望を持ってる奴だから……別段、驚くことじゃない。
けどやっぱり少しは不安になる。今のこいつを私一人で抑えるのは難しい。だけどここに組み込まれたままじゃ、穴と成らない。獲物は来てくれたんだし、上手くやれば……私は空気を大きく吸う。
そして展開してたお札を一斉に周囲に放った。派手な爆発が起こる。だけどダメージは見られない。何も変わらない。けど……
「うざったい縛りが多少緩んだか。だが良いのか? 俺を開放するって事は、あの女の危機だぞ」
「言ったでしょ。アンタをセツリの所へはいかせないって」
爆煙の向こうから聞こえる声。姿は見えないけど、奴は自由に成ったようだ。それでもこの儀式とのリンクが途絶えた訳じゃないし、行動範囲も限られる。けど、城の中であれば、多分問題ない。てか、城の外へはやれない。
流石に外に出られると、この儀式事態の異常をシクラ達に察せられるかもしれない。そうなったら不味い。だけどこいつが儀式と繋がってれば、多少の遅延が起こってもシクラ達には気づかれないだろう。
だから私の役目はこいつをセツリの所へは行かせず、尚且つ外にも出さない。大丈夫、こいつは自身に起こってる事をそこまで理解してる筈はない。そして単純だからこそ、目の前の事しか見えない奴だ。獣と同じ。餌をぶら下げれば、それしか見えなくなる。最短のルート共に、奴と彼を––
「くっ!?」
狂った斬撃が私の服の裾を持っていく。更に追撃して迫った攻撃に一気に部屋の外へ吹き飛ばされた。私程度の力じゃ、今の奴の攻撃は防ぎようがないみたいだ。
「ぎゃっは––ははは! 面白え事になんだかぁ……頭に壊し方が浮かんでくる様だ。世界と同時に、お前も前座で壊し尽くしてやるよ!!」
「やれる物なら……やってみなさい!!」
更に周囲に無造作にお札を放って爆発を起こす。
「一体どこを狙ってやがる? 全然ちげえぞこらあああああああ!」
爆煙の中、何故か奴の攻撃は正確に私を捕らえてくる。奴の攻撃に抉られた部分はその部分のデータが消失したかの様に真っ白に成ってしまってる。
(爆煙の意味はなかった? ……いや、意味はある。私の事は見えてても、周囲の事は分かってないかもしれない。私が見えてれば、獲物だけを見るのが獣。奴が迷いなく私を追ってこれるって事。前向きに捕らえましょう)
それに爆煙のお陰で、攻撃事態もまだ避けやすい。爆煙を切り裂いて来るんだから、その揺らぎでギリギリのタイミングでも避けれる。致命傷は割けれる。
「っつ!」
だけどそんなに何度もその脅威に晒される余裕もないのは事実。足を削られ過ぎると動けなくなりそうだし、単純にHPの削られ方も危険だ。私はある程度反撃しながら、目指すべき場所へ動き出す。
「はぁはぁ……」
そろそろタイミングを計らないと。目指すべき場所はもうすぐ。問題は新しい獲物にこいつが食いつくかどうか……その為には私は一度倒さされた方がいい。そうなれば満足して次の獲物に移るだろう。
しかも近くに都合よく獲物がいるなら、まずはそいつを……と成るのが奴の心理。ありったけのお札を使っての存在の写し。コレならなんとか騙せるだろう。
取り敢えず更に爆煙を濃くして、その場を整える。
「いつまで逃げる気だよ。どこまで行ったって同じだ。お前も他の奴等も全部食いつくす!! 俺はそんな存在だ。恨むんならシクラの奴を恨むんだな!!」
「アイツはアイツで役目を果たそうとしてるだけ。アンタだってそうなんでしょうけど、生憎こっちはみすみすやられる訳には行かないのよ。それにただ逃げてるだけ? 単細胞の誰かと一緒にしないでくれるかしら」
その瞬間、周囲に輝く魔法陣が複数。まあ爆煙で何かが光ってるようにしかみえないだろうけど、この爆煙は至る所にお札を仕込むためでもあった。
「誘われてたのよアンタは!!」
輝きを増してた魔法陣。だけどそれが一気に成りを潜めた。力を感じれない? そしてダン! ––とすぐ近くで聞こえる床を踏む音。爆煙がそいつを避けるように広がると、目の前に鎌を構えた奴の狂気の顔があった。
「はぁ〜〜〜」
臭い息鼻の回りに広がった。そして奴はじっくりゆっくりと口を広げる。
「誘われた? そうしてやっただけだ。いつだって貴様を殺せた。そして今、殺す」
逃げなきゃ行けなかった。だけど奴がゆっくりと喋る間も、体は何かに縛られた様に動かなかったんだ。そしてそのまま私の体は奴の鎌に裂かれた。
「がっはっ……ぎゃっはははははははははははははははは!! やめられねえ!! こんな愉快な事やめられねええええなああああああああああああああ!! ぎゃはははははははははははははははは!! さて次はセツリィィィィイ……アイツはもっといい声で泣いてくれそうだ。ん––これは……がはっは、前菜の次はオードブルもありか。
メインディッシュはその後でも遅くない」
「…………………………………………………………………………………………………んっ––かっはぁ……はぁ」
通路の向こうに奴が消えたのを確認して息を漏らす。危なかった。入れ替わって無かったら今頃私自身がこの身代わりの様になってただろう。もっと良く切り刻めば流石の奴でも気付いただろうに、酔いしれてくれたから助かった。
それに流石は獲物を見つける感覚は鋭敏。入ってきた奴にも気付いてくれた。まあだからこそ、そっちに誘導してきた訳だけど。もしもセツリの方へ行こうとしたら、無茶でも何でもやるしか無かった。
取り敢えず、自分も通路を進む。状況は見ておきたい。それにどれだけやれるのか……もしかしたらもう倒されてるかもしれないけど……
(そうだったらちょっと困るわね)
せめて三分くらいは持って欲しい。もう花の城の完全侵食まで五分を切ってるし、地上の方だって最後の追い込み掛けてるはず。セツリを食わせるなんて論外だけど、奴も感覚的には時間を意識てる筈だ。
だって新しい世界に奴の居場所はない。元々、元のLROを壊すためだけの存在。それを成せば、このシステムと消滅するようになってる。世界を食うことに優越感を覚えてるようだけど、それは自分自身を食ってる事も同じ。
でもだからこそこいつはセツリという存在に多大な魅力を感じてる。だってその存在を奪えれば、新たな世界でも生きられる……所か、中心になれる。奴は今の獲物を食ったら、速攻でセツリに向かうだろう。
あの子は弱い。実際には凄い力に守られてるけど、それを使う心の強さが足りない。だからあんな凶悪な奴を前にすれば、体よりも先に心が食われてしまうだろう。抵抗なんて出来よう筈もない。
そうなって再びあの場所に戻られたら最悪。穴は塞がれてしまう。そして誰も望まなかった世界が出来上がる。それを防ぐためにも、姉妹の力を結集して、法の書を融合させられた奴を縛ってたわけだけど、同じ分類の力の私なら案外簡単に干渉が出来たの誤算だろう。
それに私の意識は完全に封じられてると、シクラ達も思ってただろうしね。だけどここに来て私は自分を取り戻した。それは偶然か、それとも何かの力が作用したのかは分からない。でもどこかで聞こえる気がする。あの子を守ってという声が。
真っ暗に染まった広間。普段なら日がいっぱいに差し込む場所。流石に今は日がいっぱいとはいかないけど、それでもこの闇は異常。奴の仕業? それともシクラ達が施してた仕掛けだろうか? そんな中、派手な音が聞こえてる。
つまりはまだ戦闘は続いてる。間抜けな声と下品な声が聞こえてた。
「自分は! 絶対に皆の力に成ってみせるッス!!」
「ぎゃははははは! 逃げることしか脳がない貴様に何が出来る! 一発でも向かってきてみろ! ほら、何もしないでやるぞ」
ガシャンと聞こえた。武器を捨てた? けどそれは完全な誘いなのは明らか。でもきっとこの空間に二人は閉じ込められてる感じだろう。奴事態は出ることも簡単だろうけど、相手にしてる人にとっては、脱出方法なんてわからない。
ここで考えられる彼の思考は、この闇からの脱出方法として、奴を倒すか、それか奴が動かない内にこの空間自体を壊そうとするか……普通は後者を選択する。今までの戦闘を経験してるのなら力の差は感じてる筈。だけど……
「やああああああああああああああああ!!」
「ぎゃがが!! そんな震えた拳の癖に、よく向かってきた。面白え! お前もおもしれええええ!」
まさか前者に!? 信じれない。ヒマワリ並のバカなの?
「自分は弱いっす。敵に見つかったら逃げるが鉄則。罠でも逃げるっす。だけど、どうやらこの闇は危険っす。空間系なら自分に破るすべはない。幾ら無謀でも、こうするしか無かったんすよ」
「そうか、なかなか面白い力があるようだ。安心ろ。貴様の全て食い尽くしてやるからよ!」
「うっ! うあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
轟く悲鳴。その存在を食いだしたんだろう。かなりちょこまかと動く力を持ってたようだし、一発貰ってとらえたと言う所だと思う。このままあの人が消えるのは不味い。もう少し……いや、それ所か、地上の方も、レシアが花の城の空間と世界の確率を握ってる範囲じゃこの短い時間で辿り着くことは難しい。
穴は空いてる……スオウがこれまで得てきた物なら、それで介入できるかもしれない。後は距離の問題。やっぱり彼の力が切り札に成る。私は外から闇の空間を壊した。そして一斉に奴に向かって札を放つ。
激しい爆発と共に目が点君が転がった。
「貴女は……誰っすか?」
「そんなのどうでもいいじゃない。今はこの城を落とす事が大事。ねえ貴方、その力で花の城自体を地上に近づけられない?」
「そっ、それは無理っす! そんな巨大な鏡はだした事ないっすよ」
「そう……だけど、出した事ないって事は出せるかもしれないって事でしょ?」
「ポジティブっすね!?」
驚かれた。でも可能性自体はある筈。レシアの可能性への介入も別世界扱いのこの場所なら影響はない。
「でもそれが自分に唯一できることなら……やってみたいっす。けど自分には圧倒的に力が……」
「そこはなんとかしましょう。力の源はある。あそこに」
そう言うと爆煙を吹き飛ばしてタイミング良く奴が現れるやっぱり無傷。
「まさか生きてやがるとはなぁ。最後の暇つぶしだ。目一杯相手してやるよ!」
今度は黒いぬめりの様な物が広がる。これは奴の純然たる力の本流だろう。それから幾つもの手が伸びてくる。
「ゴメンっす」
完全に包囲されと思ったけど、次の瞬間には奴の背後を取ってた。凄い……コレなら! 私は高速詠唱とお札で奴の黒いぬめりを吹き飛ばす。だけどそんなのなんともないように奴自身がこっちに向かってきた。一振りで馬鹿みたいな斬撃が私達を襲う。
更には再び広がる黒いぬめりが足を取ったり存在を削ったりしてくる。なんとか致命傷は割けれてるけど……このままじゃ近いうちにあたる。
「ぜはぁ……ぜはぁ……まだ十秒程度っすか」
「多分次の猛攻はかわしきれないわね」
「悔しいっすけど……同意っす」
もう周囲は完全に覆われてる。逃げる場所なんてない。奴が襲ってこないのは舌なめずりしてるからだろう。
「ねえ、君のその鏡、小さくてもいいから奴の内部に出したり出来ないの?」
「それは無理っす。直接生物の中に出現は出来ないんすよ」
「そう……じゃあ小さくして私が奴に直接叩きこむってのは?」
「それなら……けどミラージュコロイドは攻撃出来ないっす」
「でも君と直接繋がってるんでしょ? 奴の力の一部を君に流す。それで巨大な鏡を作って」
「そんな事……出来るかなんて……」
「出来ると信じましょう」
そう言って私は先に動く。手には手鏡程度に小さな鏡。高速詠唱で障壁を重ねがけ。更にお札で周囲を大量に覆った。そしてそのまま突っ込む。こっちに注意を向けさせないといけない。周囲からお札と障壁を泥壁程度に破ってくる腕の数々が私の存在を食い荒らす。
だけど止まれない。そこで一気に前方のお札と障壁が消え去って、肩に突き刺さる奴の鎌。なんとかそこで止めて、手鏡を持った手に残りの力を全て込める。御札が集まりドリルと化す。それを奴の胸に突き刺す。一気に噴き出してくる黒い血。
だけど奴はそこまで苦しんではいない。
「まだまだこんなんじゃ俺を食うことは出来ねえよ!!」
「そう……ね。だけど、これで充分なのよ!!」
仕掛けてたお札が発動する。奴の体に走る光。胸に現れる黒い法の書。そこから単純な力だけを手にした鏡を通して彼へと流す。後は……お願い!!
「力を感じるっす! ミラージュコロイド特大版! 発動っす!!」
それから数秒、こちらに変化自体は無かった。だけど奴の法の書が激しく揺れだし、奴自身にも変化が現れる。
「ぐはっ……ぎゃああああああ!! やめろおおおおおおおおおおおおおお!!」
奴の咆哮が耳元で響く。そして鎌に力が込められて私もいよいよ終わりと思った時、彼が突っ込んで一緒に吹っ飛んでいく。
「何を!? いいから逃げなさい!!」
「何を言ってるんすか。一緒に逃げるんすよ!」
そう言って笑顔を見せてくれた彼の胸から、腕が突き抜けてきた。
「あ……れ……はは下手打っちゃったすよ。だけど大丈夫っすよね。スオウくんはやってくれたっす」
そしてオブジェクト化せずに彼はその腕に取り込まれる様に消えていった。
「食わせろ……もっとおおおおもっとだあああああああああああああああああああああああ!!」
奴の目が左右でおかしな動きをしてる。何か起きてる。すると奴がこっちに向かって床を蹴って来た。だけどその時、花の城全体が光に包まれる様に輝き出す。そして一気に全てを覆って行ったんだ。
世界が不安定に成って来たおかげだろうか。頭を振って意識をハッキリと保つ。視界を下げるとそこにはスヤスヤと私の膝で眠るセツリの姿が。この子は全く……この花の城の外では世界を賭けた戦いが行われてるというのに……しかもその中心の筈なのに……全く他人事ですね。
「ごめんなさい。私はシクラ達の様には考えられない。このまま夢の中だけでゆっくり死なせるだなんて嫌なの」
シクラ達はこの子にとっての辛いことや嫌な事を全部排除して、優しい世界をつくろうとしてる。それは確かにこの子の望んだことなのかもしれない。リアルには辛いことがいっぱいだったから……だから逃げ出したくなる気持ちは仕方ない。
ここは逃げ場所であっても別にいいとは思う。どう活用しようと、それはその人の勝手だ。けど大抵は戻ってもの。一時的な逃げ場所……セツリの場合は長いけど、それでも私はいつか……この子をリアルに戻すことになる––そう思ってた。
私は元々、こっちでのセツリのお世話役。この子が来るのを心待ちにして、そしていつだって笑顔でまた送り出す。それが私の役目だったから、シクラ達とは相容れない。シクラ達は元からセツリの願いを叶えるために生み出された存在。私は桜矢当夜のアシストみたい存在だった。
だから願うことは違う。
セツリの頬に流れる髪を耳の後ろに流す。綺麗な子…本当に。初めて会った時、印象としては暗かったけど、その見た目の華やかさに私は天使だと思いました。あの頃は感情らしい物の殆どはプログラムでしか無かったはずだけど、それでも今まで続いてる思いは本物。
「私はいつだってセツリの味方です。だから、厳しいことも言います。生きてください。そして幸せになってください。それがこんな私が願う。ただ一つの夢」
セツリをベッドに一人残し、私は部屋の外へ。後の事はクーに頼みます。あの子は頼りになる。私がおかしくなってることに気付いてるだろうに、離れていかない。色々と苦労を掛けてごめんなさい。
だけど、願わくば最後まで、こんな私を見捨てないで居てくれると嬉しい。今の私には、貴方しかいないから。そう思ってると、扉の向こうから「くー」と鳴き声が聞こえた。それは不思議と「ガンバレ」と聞こえた気がした。
流れそうになる涙をこらえて、私は歩き出す。
いつまでこっちに出てられるかは分からない。だから急がないと。花の城は世界を書き換えるシステムを走らせてるようだ。既にその進捗率は七割を超えてる。スオウ達も頑張ってるようだけど、流石にシクラ達相手だと分が悪い。だけどここで私がそれを止めるなんて事も出来ない。法の書とセツリの権限を使ってのシステム改変。
それには私自身は介入できない。だから私が今出来る事は何か……そんな事を思ってると、花の城に辿り着くプレイヤーが一人。
「あれは……」
だれだっけ? よく覚えてない。それよりも問題はシクラ達が来ちゃった事––と思ったけど二人は早々に戦場へ戻った。どうやら、彼はそこまで問題視されてないようだ。って事はその程度の存在って事だろう。ここまで来れたのだから、何かあるんだろうけど……そう思いつつ、観察してると、扉の前に来た彼は一瞬で後方に。
「あのスキル」
使えるかも知れない。そう思った。ともかくこのままじゃ世界は改変され、セツリは永遠の引き篭もりになってしまう。そうなるとリアルのセツリの体との繋がりは消えてしまうだろう。それは彼女の死にほかならない。
歩調を速めて私は城の地下に。ここでは昨日まである儀式が行われてた。そのせいでずっとセツリはお眠。そして今、世界に重ねてる新たな世界の根源はここ。法の書を組み込まれた欲望は、既存の世界を食い尽くし、新たな世界の糧にする。
無数の魔法陣が回り、光の線が幾重にも螺旋を組んで張り巡らされてるその場所の中心に奴は居る。私の来訪に直ぐに気づいたのか、そいつは目を開けて睨んでくる。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ! 何のようだよ。自分を悲観して食って欲しく成ったか? いいぜ、骨の髄までしゃぶってやるよ!!」
相変わらず下品な奴。こんな奴と摂理に同じ空気を吸わせるとか耐え難い。倒せやしないし、いまさら止まりもしないだろう……けど、またいつ消えるかもしれない自分は、今やらなきゃいけない。取り出した札に力を送る。
「いいぜえ、さあこいよ。この縛りを解くのなら、覚悟しておけ。貴様等もあの女も、俺が食い尽くす。今の俺なら、それが出来るぜ!!」
危険な賭けだ。だけど、賭ける価値がある仲間が私にはいる。もう仲間だなんて思ってないだろうけど、それでも信じて託せる人達。
「やってみなさいよ。私は食えても、摂理はアンタなんかの食事にはさせない! あの子には戻る場所がある!!」
「それを望んでないのはアイツだろ。アイツこそ本当の闇。奴を食えば、もっともっと深くに––ががっぎゃぎゃぎゃ!!」
耳障りな笑い声。殆ど会わせてなんか無かった筈なのに、こいつはこの数日の数回でセツリの事を見ぬいたつもりらしい。そして密かに狙ってたと。どこまでも深い欲望を持ってる奴だから……別段、驚くことじゃない。
けどやっぱり少しは不安になる。今のこいつを私一人で抑えるのは難しい。だけどここに組み込まれたままじゃ、穴と成らない。獲物は来てくれたんだし、上手くやれば……私は空気を大きく吸う。
そして展開してたお札を一斉に周囲に放った。派手な爆発が起こる。だけどダメージは見られない。何も変わらない。けど……
「うざったい縛りが多少緩んだか。だが良いのか? 俺を開放するって事は、あの女の危機だぞ」
「言ったでしょ。アンタをセツリの所へはいかせないって」
爆煙の向こうから聞こえる声。姿は見えないけど、奴は自由に成ったようだ。それでもこの儀式とのリンクが途絶えた訳じゃないし、行動範囲も限られる。けど、城の中であれば、多分問題ない。てか、城の外へはやれない。
流石に外に出られると、この儀式事態の異常をシクラ達に察せられるかもしれない。そうなったら不味い。だけどこいつが儀式と繋がってれば、多少の遅延が起こってもシクラ達には気づかれないだろう。
だから私の役目はこいつをセツリの所へは行かせず、尚且つ外にも出さない。大丈夫、こいつは自身に起こってる事をそこまで理解してる筈はない。そして単純だからこそ、目の前の事しか見えない奴だ。獣と同じ。餌をぶら下げれば、それしか見えなくなる。最短のルート共に、奴と彼を––
「くっ!?」
狂った斬撃が私の服の裾を持っていく。更に追撃して迫った攻撃に一気に部屋の外へ吹き飛ばされた。私程度の力じゃ、今の奴の攻撃は防ぎようがないみたいだ。
「ぎゃっは––ははは! 面白え事になんだかぁ……頭に壊し方が浮かんでくる様だ。世界と同時に、お前も前座で壊し尽くしてやるよ!!」
「やれる物なら……やってみなさい!!」
更に周囲に無造作にお札を放って爆発を起こす。
「一体どこを狙ってやがる? 全然ちげえぞこらあああああああ!」
爆煙の中、何故か奴の攻撃は正確に私を捕らえてくる。奴の攻撃に抉られた部分はその部分のデータが消失したかの様に真っ白に成ってしまってる。
(爆煙の意味はなかった? ……いや、意味はある。私の事は見えてても、周囲の事は分かってないかもしれない。私が見えてれば、獲物だけを見るのが獣。奴が迷いなく私を追ってこれるって事。前向きに捕らえましょう)
それに爆煙のお陰で、攻撃事態もまだ避けやすい。爆煙を切り裂いて来るんだから、その揺らぎでギリギリのタイミングでも避けれる。致命傷は割けれる。
「っつ!」
だけどそんなに何度もその脅威に晒される余裕もないのは事実。足を削られ過ぎると動けなくなりそうだし、単純にHPの削られ方も危険だ。私はある程度反撃しながら、目指すべき場所へ動き出す。
「はぁはぁ……」
そろそろタイミングを計らないと。目指すべき場所はもうすぐ。問題は新しい獲物にこいつが食いつくかどうか……その為には私は一度倒さされた方がいい。そうなれば満足して次の獲物に移るだろう。
しかも近くに都合よく獲物がいるなら、まずはそいつを……と成るのが奴の心理。ありったけのお札を使っての存在の写し。コレならなんとか騙せるだろう。
取り敢えず更に爆煙を濃くして、その場を整える。
「いつまで逃げる気だよ。どこまで行ったって同じだ。お前も他の奴等も全部食いつくす!! 俺はそんな存在だ。恨むんならシクラの奴を恨むんだな!!」
「アイツはアイツで役目を果たそうとしてるだけ。アンタだってそうなんでしょうけど、生憎こっちはみすみすやられる訳には行かないのよ。それにただ逃げてるだけ? 単細胞の誰かと一緒にしないでくれるかしら」
その瞬間、周囲に輝く魔法陣が複数。まあ爆煙で何かが光ってるようにしかみえないだろうけど、この爆煙は至る所にお札を仕込むためでもあった。
「誘われてたのよアンタは!!」
輝きを増してた魔法陣。だけどそれが一気に成りを潜めた。力を感じれない? そしてダン! ––とすぐ近くで聞こえる床を踏む音。爆煙がそいつを避けるように広がると、目の前に鎌を構えた奴の狂気の顔があった。
「はぁ〜〜〜」
臭い息鼻の回りに広がった。そして奴はじっくりゆっくりと口を広げる。
「誘われた? そうしてやっただけだ。いつだって貴様を殺せた。そして今、殺す」
逃げなきゃ行けなかった。だけど奴がゆっくりと喋る間も、体は何かに縛られた様に動かなかったんだ。そしてそのまま私の体は奴の鎌に裂かれた。
「がっはっ……ぎゃっはははははははははははははははは!! やめられねえ!! こんな愉快な事やめられねええええなああああああああああああああ!! ぎゃはははははははははははははははは!! さて次はセツリィィィィイ……アイツはもっといい声で泣いてくれそうだ。ん––これは……がはっは、前菜の次はオードブルもありか。
メインディッシュはその後でも遅くない」
「…………………………………………………………………………………………………んっ––かっはぁ……はぁ」
通路の向こうに奴が消えたのを確認して息を漏らす。危なかった。入れ替わって無かったら今頃私自身がこの身代わりの様になってただろう。もっと良く切り刻めば流石の奴でも気付いただろうに、酔いしれてくれたから助かった。
それに流石は獲物を見つける感覚は鋭敏。入ってきた奴にも気付いてくれた。まあだからこそ、そっちに誘導してきた訳だけど。もしもセツリの方へ行こうとしたら、無茶でも何でもやるしか無かった。
取り敢えず、自分も通路を進む。状況は見ておきたい。それにどれだけやれるのか……もしかしたらもう倒されてるかもしれないけど……
(そうだったらちょっと困るわね)
せめて三分くらいは持って欲しい。もう花の城の完全侵食まで五分を切ってるし、地上の方だって最後の追い込み掛けてるはず。セツリを食わせるなんて論外だけど、奴も感覚的には時間を意識てる筈だ。
だって新しい世界に奴の居場所はない。元々、元のLROを壊すためだけの存在。それを成せば、このシステムと消滅するようになってる。世界を食うことに優越感を覚えてるようだけど、それは自分自身を食ってる事も同じ。
でもだからこそこいつはセツリという存在に多大な魅力を感じてる。だってその存在を奪えれば、新たな世界でも生きられる……所か、中心になれる。奴は今の獲物を食ったら、速攻でセツリに向かうだろう。
あの子は弱い。実際には凄い力に守られてるけど、それを使う心の強さが足りない。だからあんな凶悪な奴を前にすれば、体よりも先に心が食われてしまうだろう。抵抗なんて出来よう筈もない。
そうなって再びあの場所に戻られたら最悪。穴は塞がれてしまう。そして誰も望まなかった世界が出来上がる。それを防ぐためにも、姉妹の力を結集して、法の書を融合させられた奴を縛ってたわけだけど、同じ分類の力の私なら案外簡単に干渉が出来たの誤算だろう。
それに私の意識は完全に封じられてると、シクラ達も思ってただろうしね。だけどここに来て私は自分を取り戻した。それは偶然か、それとも何かの力が作用したのかは分からない。でもどこかで聞こえる気がする。あの子を守ってという声が。
真っ暗に染まった広間。普段なら日がいっぱいに差し込む場所。流石に今は日がいっぱいとはいかないけど、それでもこの闇は異常。奴の仕業? それともシクラ達が施してた仕掛けだろうか? そんな中、派手な音が聞こえてる。
つまりはまだ戦闘は続いてる。間抜けな声と下品な声が聞こえてた。
「自分は! 絶対に皆の力に成ってみせるッス!!」
「ぎゃははははは! 逃げることしか脳がない貴様に何が出来る! 一発でも向かってきてみろ! ほら、何もしないでやるぞ」
ガシャンと聞こえた。武器を捨てた? けどそれは完全な誘いなのは明らか。でもきっとこの空間に二人は閉じ込められてる感じだろう。奴事態は出ることも簡単だろうけど、相手にしてる人にとっては、脱出方法なんてわからない。
ここで考えられる彼の思考は、この闇からの脱出方法として、奴を倒すか、それか奴が動かない内にこの空間自体を壊そうとするか……普通は後者を選択する。今までの戦闘を経験してるのなら力の差は感じてる筈。だけど……
「やああああああああああああああああ!!」
「ぎゃがが!! そんな震えた拳の癖に、よく向かってきた。面白え! お前もおもしれええええ!」
まさか前者に!? 信じれない。ヒマワリ並のバカなの?
「自分は弱いっす。敵に見つかったら逃げるが鉄則。罠でも逃げるっす。だけど、どうやらこの闇は危険っす。空間系なら自分に破るすべはない。幾ら無謀でも、こうするしか無かったんすよ」
「そうか、なかなか面白い力があるようだ。安心ろ。貴様の全て食い尽くしてやるからよ!」
「うっ! うあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
轟く悲鳴。その存在を食いだしたんだろう。かなりちょこまかと動く力を持ってたようだし、一発貰ってとらえたと言う所だと思う。このままあの人が消えるのは不味い。もう少し……いや、それ所か、地上の方も、レシアが花の城の空間と世界の確率を握ってる範囲じゃこの短い時間で辿り着くことは難しい。
穴は空いてる……スオウがこれまで得てきた物なら、それで介入できるかもしれない。後は距離の問題。やっぱり彼の力が切り札に成る。私は外から闇の空間を壊した。そして一斉に奴に向かって札を放つ。
激しい爆発と共に目が点君が転がった。
「貴女は……誰っすか?」
「そんなのどうでもいいじゃない。今はこの城を落とす事が大事。ねえ貴方、その力で花の城自体を地上に近づけられない?」
「そっ、それは無理っす! そんな巨大な鏡はだした事ないっすよ」
「そう……だけど、出した事ないって事は出せるかもしれないって事でしょ?」
「ポジティブっすね!?」
驚かれた。でも可能性自体はある筈。レシアの可能性への介入も別世界扱いのこの場所なら影響はない。
「でもそれが自分に唯一できることなら……やってみたいっす。けど自分には圧倒的に力が……」
「そこはなんとかしましょう。力の源はある。あそこに」
そう言うと爆煙を吹き飛ばしてタイミング良く奴が現れるやっぱり無傷。
「まさか生きてやがるとはなぁ。最後の暇つぶしだ。目一杯相手してやるよ!」
今度は黒いぬめりの様な物が広がる。これは奴の純然たる力の本流だろう。それから幾つもの手が伸びてくる。
「ゴメンっす」
完全に包囲されと思ったけど、次の瞬間には奴の背後を取ってた。凄い……コレなら! 私は高速詠唱とお札で奴の黒いぬめりを吹き飛ばす。だけどそんなのなんともないように奴自身がこっちに向かってきた。一振りで馬鹿みたいな斬撃が私達を襲う。
更には再び広がる黒いぬめりが足を取ったり存在を削ったりしてくる。なんとか致命傷は割けれてるけど……このままじゃ近いうちにあたる。
「ぜはぁ……ぜはぁ……まだ十秒程度っすか」
「多分次の猛攻はかわしきれないわね」
「悔しいっすけど……同意っす」
もう周囲は完全に覆われてる。逃げる場所なんてない。奴が襲ってこないのは舌なめずりしてるからだろう。
「ねえ、君のその鏡、小さくてもいいから奴の内部に出したり出来ないの?」
「それは無理っす。直接生物の中に出現は出来ないんすよ」
「そう……じゃあ小さくして私が奴に直接叩きこむってのは?」
「それなら……けどミラージュコロイドは攻撃出来ないっす」
「でも君と直接繋がってるんでしょ? 奴の力の一部を君に流す。それで巨大な鏡を作って」
「そんな事……出来るかなんて……」
「出来ると信じましょう」
そう言って私は先に動く。手には手鏡程度に小さな鏡。高速詠唱で障壁を重ねがけ。更にお札で周囲を大量に覆った。そしてそのまま突っ込む。こっちに注意を向けさせないといけない。周囲からお札と障壁を泥壁程度に破ってくる腕の数々が私の存在を食い荒らす。
だけど止まれない。そこで一気に前方のお札と障壁が消え去って、肩に突き刺さる奴の鎌。なんとかそこで止めて、手鏡を持った手に残りの力を全て込める。御札が集まりドリルと化す。それを奴の胸に突き刺す。一気に噴き出してくる黒い血。
だけど奴はそこまで苦しんではいない。
「まだまだこんなんじゃ俺を食うことは出来ねえよ!!」
「そう……ね。だけど、これで充分なのよ!!」
仕掛けてたお札が発動する。奴の体に走る光。胸に現れる黒い法の書。そこから単純な力だけを手にした鏡を通して彼へと流す。後は……お願い!!
「力を感じるっす! ミラージュコロイド特大版! 発動っす!!」
それから数秒、こちらに変化自体は無かった。だけど奴の法の書が激しく揺れだし、奴自身にも変化が現れる。
「ぐはっ……ぎゃああああああ!! やめろおおおおおおおおおおおおおお!!」
奴の咆哮が耳元で響く。そして鎌に力が込められて私もいよいよ終わりと思った時、彼が突っ込んで一緒に吹っ飛んでいく。
「何を!? いいから逃げなさい!!」
「何を言ってるんすか。一緒に逃げるんすよ!」
そう言って笑顔を見せてくれた彼の胸から、腕が突き抜けてきた。
「あ……れ……はは下手打っちゃったすよ。だけど大丈夫っすよね。スオウくんはやってくれたっす」
そしてオブジェクト化せずに彼はその腕に取り込まれる様に消えていった。
「食わせろ……もっとおおおおもっとだあああああああああああああああああああああああ!!」
奴の目が左右でおかしな動きをしてる。何か起きてる。すると奴がこっちに向かって床を蹴って来た。だけどその時、花の城全体が光に包まれる様に輝き出す。そして一気に全てを覆って行ったんだ。
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