命改変プログラム

ファーストなサイコロ

絶対に狂わない時間

「動ける者は集合して最終防衛線を築くんだ! 負傷者の搬送を急げ!!」


 屈強な男の人がそう叫んでた。多分、戦線を指揮してる人なんだろう。中にばかり集中して、周囲のモンスターは殆ど任せっきりだったからな……ここまで戦線が後退して来たって事はそれなりの犠牲者もきっと……それに見たところ、沢山の非戦闘員の方達もいっぱいだ。
 元々、非戦闘員の人達まで錬金アイテムの手袋で戦闘員にして戦ってた訳だけど、流石にお年寄りや子供にまでそれをさせる訳にはいかない。人間再生を選り好みも出来なかった訳で、お年寄りは見るからに多いな。
 人間再生はその人の歴史の蓄積を利用してる訳だし、子供は基本的に居ない。復活出来た子達は、たぶんこの時代の子達だけだろう。指輪はその人の死と共に回収される。それなら、年寄りの比率が大きくなるのはしょうがない。
 それにここはずっと隔絶された街だったんだ。戦争とかに巻き込まれて来なかったわけだし、晩年の果てが多いはず。まあそれでも四・五十代が多い感じだから戦力には成ってるようだけど。戦力に加えられない人は本当にヨボヨボな感じというか……待てよ。
 僕はローレを目指しながらも周囲に視線を向ける。何代目でもいいから統括の奴を探す。けど見えない。やられたか? けど結構しぶとそうな連中だったし、それは無さそうだけど……そう思ってると空のモンスターに向けた攻撃が見えた。
 流石に手も足も出ない状態を放置してるわけにも行かないもんな。あそこら辺に居そうな気がするけど、ここから離れるのは……


「うおおおおおおお、行くぞ助手。これ以上の侵攻を許すわけにはいかん。俺達のアイテムで奴等の弱点を引きずり出す! そうすれば数で負けててもまだどうにか出来る筈だ!」
「分かった。そういえば……アイツは無事かしら。まあ全然心配はしてないけど」
「……セスの奴か? アイツがこんなモンスター共にやられるわけはない」


 所長の奴はなんだかんだ言ってセスさんの事は認めてる。フランさんも嫌ってるというよりも、許せない事がある––みたいな事なのかも。四方から迫るモンスター共に対して一番近そうな方に向かって言ってる所長達がこっちを見る。


「不本意だが、ここは任せてやる。まあ直ぐに俺の発明で一掃して助力に来てやるから期待しとくんだな!!」
「そりゃあ楽しみだ。なあ!」
「なんだ?」
「…………いや、頼む!!」


 僕は言いかけた言葉を飲み込んで、二人を送り出す。これはあんまり大声で言うのはどうかと思ったんだ。だから頭の向こうの奴に相談する。




『なあ苦十、人間再生で再生された人達は、本人なのか?』
『彼等は元々がデータですよ。だからデータを復元したと思えば本人です。けど、人が全く同じ人間を遺伝子操作で作って、そこに同じ記憶を植えつけたとして、それを本人と認められるか……ですね』
『彼等は人間再生された事を知ってる』
『そうですね。だから今を生きてる人達を庇うような行動を取ってる。彼等……既に晩年を過ごした人達は自分を偽物と認識してるのかもしれませんね。スオウ達にとっては同じデータですけど、彼等にとっては、自分達は指輪に蓄積された記憶から再現されただけの存在でしょうからね。きっと魂というものはないと思ってるんでしょう』


 この世界の人達はこの世界に生きてるからな。テトラとか精霊達は、この世界の真実を知ってるけど、他の人達はそうじゃない。だから自分達が元からデータなどとはおもってないんだ。


『なあ、それなら人間再生されたこの時代の人達と昔の人達との違いはなんだ? ハッキリ言って、同じように人間再生されたはずだぞ。ようは人間再生された時点で、誰もが偽物になってるんじゃないのか?』
『私にもそこら辺はわかりかねますね。肉体の有無とか? 情報の新鮮度とかじゃないですか? 今の時代の人達は人間再生されても自分達を偽物だとは認識してないようですし、何か違いがあるんでしょう。
 てか、今は人間再生よりも、時間操作の弊害です。それに花の城も止めないとですし、終わった事に気を揉んでる場合じゃないですよ』
『わかってるけど、モンスター共がこれ以上入り乱れて来たら厄介だ。それを防ぐためにも、善戦してもらわないと……その為に人間再生がデータの再現なんだとしたら、わざわざ年寄りじゃなくて、いいんじゃないかと思ったんだよ。
 また人間再生は出来ないから、既に消えた人達は無理だけど、今戦ってくれてる人達を若返らせることが出来れば、それは戦力増強だろ』


 そもそも人間再生って都合の良い年齢で復活出来る物じゃないのか? 出来るか出来ないかというよりも、きっとそれを目指してた筈だ。だって復活出来ても、体ガタガタじゃ意味が無いからな。それを考えると、人間再生は死んだ時の年齢じゃなくても良い筈なんだ。


『確かに出来れば多少はマシですね。けど、再生させた後に出来る物じゃないような……』
『う……』


 その可能性は高いな。再生後じゃ流石に難しいか……こういうのは再生前に細かく設定するのが定石か。


「スオウ、お前はローレを目指せ。俺達はそれぞれ、召喚獣達に加勢する!!」
「ああ、分かった」


 アギトやテッケンさん、それにアイリが地上で戦闘を繰り広げてるヒマワリと蘭の所へ向かう。相手をしてるのはイフリートやノーム。


「俺は空に行こう。あのシクラとか言う奴は神を舐め腐ってるからな」


 テトラが向かう空にはシクラに柊、それにレシア。けどレシアの奴は戦闘に参加せずにシャボン玉みたいなのに入って寝てる。相手してるのはリルフィンにエアリーロ。それにリヴァイアサンだっけ? 細長くねウネッてるのも居る。
 けど空には他にも黒竜に多数のワイバーンも居るからな。混戦してるよ。ナチュラルに空を飛べるのがテトラだけと言うのは痛い。セラやノウイが居れば、まだ空中戦も出来たんだけど……いや、アイツ等を責めることは出来ない。
 今やることは悲観することじゃない。それぞれが全力を尽くす……それしかない。僕の視線の先には百合とローレ。百合も地上に居るわけだけど、そのヒマワリや蘭とは離れてる。いや、離されてるんだろう。
 ローレの奴が召喚獣達を使って他の奴等を百合から離してる。けど一対一なら勝てるかと言うと厳しい。と言うか、より厳しいんだ。


「ローレ!」


 僕はふっとばされて来たその小さな体を地面を滑りながら受け止める。


「なんだ……生きてたんだ」


 こいつ……どうして既に死んだと思ってたんだよ。まだ生きてるっての。僕は受け止めたボロボロの少女にこう言うよ。


「案外元気そうだな」
「当たり前でしょ。この程度……うっ」


 立ち上がろうとした所で膝が崩れるローレ。その姿を見て百合が言うよ。


「無理しない方がいいんじゃないかな〜どう見てもボロボロよ貴女〜」


 いつもよりもねっとりとした声に聞こえる。そんな百合は傷なんてない。多分一方的にローレがやられてるんだろう。


「お前……勝算があるんじゃなかったのかよ?」
「五月蝿いわね。さっさと手を貸しなさい」


 わぉ、プライド投げ捨てるの速いな。いや、元から目的の為にはなんだって利用する奴か。


「手を貸しに来たんだし、それは別にいいけど……なんでそんな一方的にやられてるんだよ? 時間操作の戦い方はどうした?」


 偉そうに言ってたろ。するとローレは歯ぎしりしながらこういった。


「やってるわよ。正直、時間操作だけなら私が上ね。だからこそ、世界の時を二分出来てるわけだし。けど、厄介なのは寧ろあのふざけたカスタネットよ」
「カスタネット……」


 どう見ても強力そうな武器には見えないけどな。良く知ってる赤と青のやつじゃなく、もっと過度に装飾されてるから、やっぱり基調性とかは高そうではある……けどカスタネットだ。まああの赤と青の奴って実はカスタネットじゃないとか聞いたことあるような無いような。
 だからもしかしたらアレもカスタネットの形状をした別の物なのかも。いや、カスタネットかどうかは別にどうでもいいか。


「で、どうやばいぃぃぃ!?」


 よく分からない内に体の中に振動が伝わってきて、それが激しくなったと思ったら、内側から爆発するようにして体がその場で飛んだ。


「がっ! あああああああ!?」


 地面に落ちて手足をじたばたさせて悶絶する僕。なんだ今の? まるで内蔵が弾けたような……実際口から血も溢れて来るし、内側をやられたのは間違いない。けどどうやって。


「まだまだ来るわよ。時を上手く共振させなさい」
「時を共振? つっ––づああああああああああああああああああ!?」


 今度は二度・三度と続けて内部で爆発が起こった。おかしな感じで体が弾ける。その部分に目を向けると、青紫の気味悪い色が皮膚に広がってる。法の書使ってないのに、視界が赤く染まってる。内部を破壊されてるから、溢れだして来てるんだろう。


「ちょっと、教えてあげたんだからちゃんとやりなさいよ」
「あんな説明で何をやれって……」


 よく見たら外傷だけじゃなく、同じような青あざが至る所に見える。何回も何回もこんなのをローレは食らってたのか。その割には余りHP減ってない様にみえるが……こっちは流石に不味いな。後一回でも喰らえば終わるかも。
 奴等の攻撃にしては極端な威力がある攻撃じゃないようだけど、今までの積み重ねを回復出来てない僕には効きまくってるよ。シルクちゃんは後方から全体を見回して真っ先に僕に回復魔法をしてくれてるようだけど、如何せんバンドロームがラプラスへと変化した時から、回復を僕の存在は受け付けてない。
 だけどいつまでもギリギリの状態じゃ……でもラプラスを解除してしまったら、権限が一つ下がる事になりそうなんだよな。出来る事が減ってしまうと困る。簡単にバンドロームからラプラスにシフト出来れば問題ないんだけど、今解除したら二度とラプラスには出来ない気がするんだよな。
 そもそも自分自身でラプラスに出来た訳じゃない。けどこのままじゃ……


『スオウ、良い方法が有りますよ』
『苦十? なんだよいい方法って』
『上手く行くかはわかりませんが、私の存在とスオウの存在、その二つを使ってシステムの裏に回りましょう。上手く行けば、ラプラスのままで回復魔法を使えるように成るかもしれない』


 そんな事が可能なのか? けど、そんな事ができるかも知れないのなら、やらない手はない。このままじゃどう足掻いても残り時間を残して僕は死ぬだろう。それは許されない事なんだ。


『どうやればいい?』
『出来ますか? 目の前の奴の攻撃も防ぎながらじゃないと逝きますよ』
『やるしかないだろ!』
「ローレ、わかりやすく、それでいて簡潔に対策教えろ」
「我儘な奴ね。それにさっきのが一番簡潔。奴はあのカスタネットみたいなので特定の時を震わせてる。時間が狂った一部分は正常に動作せず、その差異は時の振動で増幅されて体にダメージを刻むのよ。
 だからそれを抑えるには自分でその時の振動を止めるか、自身の時をその時の振動に共振させるのが効率的って訳」
「なるほど––で、お前はどっちを取ってるんだよ」
「いったでしょ、私は共振させてるのよ。完全に抑えるには停止させるのが一番だけど、そっちに力を振り切る訳にはいかないもの。合わせる位は造作も無いわ」


 最初からこれだけ言えよ––と思った。流石に最初の言葉だけじゃ理解できないだろ。


「合わせることも〜そう簡単じゃない筈だけどな〜。攻撃する度に振動は変えてるし〜なんだか私に見えない奴が手助けしてるのかな?」


 見えない奴……メノウか。そういえば姿見えないしな。てか、元々ローレと同化してるような奴だった筈。自分だけで楽勝風に言ってたくせに、そういうことかよ。


『苦十、そっちは』
『こういう感じですかね』


 頭に流れ込んでくる苦十の考え。コレを同時に……


『二人の息を合わせて行きましょう。まあ振動の方への協力は出来ませんけど』


 そう言って来る苦十の奴。まあアイツにも色々と頼んでるからな。ここからはマルチタスクだな。ただでさえ、頭を酷使してるのに更に使い潰して大丈夫か不安だけど、信じよう。頭の能力は普段は三十パーセント程度しか使ってないって言うしな。
 もしかしたら思ってたよりも全然余力を残してるのかもしれない。でも余力があったとして、マルチタスクが出来るかは別問題かも知れないけど。セラは余裕で出来そうだけど、それは聖典で馴れてるからだよな。
 まあ泣き言を言っても始まらない。自分で言ったんだ「やるしかない」って。頭に浮かぶ三種の神器。そしてそれに加わるアビスのペン。


(待てよ。アビスのペンを上手く使えれば……)


 マルチタスクを簡略化出来るかも。アビスのペンは自動書記みたいな物だ。それを有効活用出来れ––


「っづ!?」


 体に再び振動が伝わって来る。百合の奴はいつの間にか攻撃をしてたようだ。音は聞こえてる。けど、何かズレてるような気がする。振動が体内で増幅されてく。今まで通りにやらせちゃいけない。
 振動に自分の時間を……再び弾け飛ぶ体。


「ちょっ!?」


 ローレの奴が柄にもなく心配してくれた? ありがたい。けど……


「まだ、大丈夫だ」
「あっそ、なら派手に跳んでるんじゃないわよ」


 ちょっと恥ずかしそうにそう言うローレ。僕は弾ける体を地面の上で支えるよ。完璧じゃない……けどなんとか出来た。ローレの奴は杖を一振りして風と炎を同時に起こす。それは煌めくエアリーロの風と猛々しいイフリートの炎だ。
 その二つが相乗効果を生み、百合に襲いかかる。けど、それすらもカスタネットの一叩きで消し去る百合。それでも続けざまに杖を地面に叩く。すると大穴が一気に空いてそこに落ちていく百合。そこに更に穴が開いた分の地面の塊を上から落とす。激しく振動する地面。
 逃げ場なんて無かったはず……けど、百合の奴はそこに居た。


「時が見せる残像ってのもあるんだよ〜」
「ふ、ふん、そのくらい私にだって出来るし」


 おい、声震えてるぞ。けど、やっぱ想像以上……周囲を見ると、どこもかしこも劣勢だ。こいつ等は僕達の想像を軽々超えすぎだろ。どんだけ上に居るんだよ。想像の範囲内での対策じゃだめだ。もっと考えないと。
 ラプラスの移行は進んでる……これが可能なら……


「ローレ、お前はどうやって百合に対抗してるんだ。 お前の時間操作って限定的な物だったろ?」
「無駄口が多いわね。まあいいけど。簡単、私は絶対に狂わない時間を持ってきてるだけ。それだけはアイツにも操作は出来ない」
「絶対に狂わない時間?」


 なんだそれ? いや、時間はそもそも狂わない物の筈だったんだけどな。LROの時間は複数の力によって今はもうメチャクチャだ。その中で絶対に狂わない物なんて……カァン! と美しく響く音。
 ローレの周囲に微細な光が集い出す。


「采配の光、過ぎ去りに思いを集いてその身を顕現させよ。フィアレーゼ」


 集った光が激しく輝く。そしてその光が弾けた瞬間、小さな妖精が現れる。


『大変そうですね〜ローレ。いつも楽しい事ばっかり出来て羨ましい』


 キラキラした声が聴こえる。フィアレーゼは確か最上位の召喚獣だった筈。けど、その強さはまだ見たことない。てか……強いのかアレ?


「おいローレ」
「ちょっと待ってなさい。あのクソに一泡吹かせてやる! フィア!」


 そう言うとフィアレーゼがローレの頭の中に。するとフィアの光がローレに移り、足元に開く花びら。更に背中から蝶の翼の様な物が広がる。それを見て百合の奴が「ふふ」っと上機嫌に笑った。


「まだまだ楽しめそう〜でも、どこまでも行こうと、私の時とは噛み合わないですよ〜」


 その甘ったるい声が、今では不気味で仕方ない。時が回る。動くところと止まる所、切り替わった中で皆が……



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