命改変プログラム

ファーストなサイコロ

確率の掌握

「まあ、派手に行こっか☆ レシア姉行くよ」
「ふぁ〜あ、眠いんだけど。これ以上の過剰労働は私死ぬよ。ここまで付き合ったんだから、もう充分でしょ」
「まったく、別に寝ててもいいけど、私達の確率は下げないでよね☆」
「余裕だよ。だって私、寝てても誰にも負けないもん」


 掲げた手とともに、花の城が広げる陣とは別の物が空に描かれる。そして黒い穴が現れたと思ったらそこからこれまた邪悪そうなドラゴンが大量のワイバーンを引き連れて降りてくる。どんだけ数を増やす気だよ。


「うわ〜なんだか不味そうだね」


 そう言ったヒマワリの奴がさっさとピクの体から離脱して行きやがった。相手してたアイリやテッケンさんは結構ボロボロだ。それなりに通用する様になったと言っても、やっぱり数人程度でどうにか出来る奴等じゃない。
 しかも無制限に増やせるモンスターどもが向こうには居る。まあ無制限かは正直分からないが……取り敢えず大量に駒として使えるのは事実だろう。


「仲間は呼べたようだな。これからどうするんだ?」
「テトラ……そうだな……」


 これからか。シクラ達に通用する陣を手にしたくらいじゃ戦局を逆転することは出来ない。それなら当初の予定通りに狙い行く必要がある。だけどそれには……完全にマザーへアクセスする必要がある。
 そしてそれは当然リスクもある。でも既に改変の最終段階に進んでる様だし、マザーは既に……いや、それなら一時間なんて猶予はいらないだろう。さっさと改変してしまえばいいんだ。多分最後の抵抗をマザーもしてるんだと思う。
 どこかにチャンネルは残されてるだろう。けどそれを開くことを、シクラの奴も狙ってるのかも知れない。姿を表してない奴等もいるし、それが不気味だ。まだ何かを狙ってる……そんな気がする。
 そしてその何かの可能性として一番高いのはマザーだろう。マザーが落ちる時、LROは落ちる。けど、このままならどの道終わる。それならやってみるしかない。


『苦十、マザーへの道は見えるか?』
『魔境強啓零も法の書もある。けど、マザーへの道へはまだ至れませんね』


 まだ無理か……自分だけで出来るだろうか? 法の書と魔境強啓零……これらがあれば……とも思うけど、それを世界全体に伝えるには色々と問題がある。結局僕だけの意思という命令系統だけじゃ弱い。確かに今の僕は普通のプレイヤーとかよりも一段階位上位の権限を得てるだろう。でも、それだけだ。全てを掌握してるわけじゃないんだ。全てはやっぱりマザーが持ってる。そしてマザーに一番近い存在は多分セツリの奴。アイツのコードを覗ければ……その為に必要なのは。


(花の城……彼処にきっとセツリは居る……よな?)


 普通に考えれば彼処に居るだろう。シクラの奴のコードも得たいけど、一時間という制限を考えたらどっちかに傾倒する他ない。けど、安々と花の城への侵入を奴等が許すわけもない。


「早くしろ、もうすぐあのデカブツが出てくるぞ」
「プランはある。だけどお前達それを許すか?」
「意味がわからんな。さっさと言え」


 テトラは神だ。この世界を創った一人––と成ってる。今まで協力してくれてるけど、これを聞いたらどうするのかはわからないな。それに他の皆も……でも言わないわけにも行かないか。


「僕は……僕も世界を変えるつもりだ。そうしないとシクラ達には勝てない。けどそれはお前の創った世界を壊すことだし、今この世界の皆がどうなるのか正直分からない。この世界をこの世界のままにしておきたいけど、どこまで変えればいいのか……それでもいいか?」
「何を今更。あんな奴等に世界をくれてやるくらいなら、貴様の方がまだましだ」
「テトラ……リルフィンもいいのか?」
「ふん、俺はこの世界の精霊だ。別の世界に成ればどうなるかわからん。だが、お前でなければ主には再び会えないんだろう? それなら選択肢などないな」
「あいつも来てくれるといいんだけどな」


 全くリルフィンの奴はローレが大好きだな。けど確かにローレに会う為にはこっちしかないか。シクラ達はプレイヤーを完全排除しようとしてるしな。他の人達は許してくれるだろうか?


「余計な気を揉むな。皆お前を信じてるさ。一度無くした物を取り戻してくれたんだ。貴様の自由にすればいい。邪神の俺が言うのもなんだがな」


 テトラの言葉に背中を押される感じがある。確かに皆に聞いて回る暇なんかない。信じてくれてる……のだとしたら、シクラ達を退けて、やることをやるしかない。世界をどう変えるかとか、実際は良くわからないし、元に戻せる保証もないんだけどな。


「分かった。シルクちゃん、ピクを花の城へ!」
「はい!」


 上から出てる黒くデカイドラゴンは取り敢えず後回しだ。けど周りには既にワイバーンっぽいモンスター共が居る。それをなぎ払いつつ、花の城を目指す。すると御札から声が聞こえてきた。


『あの城へ行く気ね。確かにあれは怪しい。けど、下の奴等だけじゃ厳しいわよ』
「ああ、だからグリンフィードには制空権をとってほしい。ピクとテトラもこっちに居たほうがいいかもな。シクラ達の足止め、頼みたいし」
「でもそれならどうやって彼処に?」


 ピクを操ってるシルクちゃんが困惑した声を出す。確かにさっき花の城へ––と言っておいてこれだからな。でも考えたら、こっちに戦力を残しておくべきだろ。取り敢えず、シクラ達に追いかけて来られると不味いし、あのドラゴンも放っておくことは出来ない。
 制空権を取るには空を飛べる奴等が必要だし、それにシクラ達の足止めならテトラは欠かせない。なんたって神だ。その力はお墨付き。


「機を見てリルフィン、頼む。ある程度近づいたら乗り換えるよ」
「待てスオウ。お前一人で行く気か!? その狼みたいなのそんなに乗れないだろ」


 アギトの奴が慌ててそう言ってくる。確かにリルフィンにはここに居る皆を収容するサイズはない。


「一人でって、一応リルフィンには来てもらうことにはなるぞ。それに精霊だからそれなりに役には立つ」


 結構中途半端な強さなんだけどな。なんでこんなに中途半端なのか……やっぱりローレの奴と分けた力が関係してるのか……けど、その力、今は戻ってておかしくはない筈なんだけどな。そもそもプレイヤーが排除されたんだからな。
 けどローレの代わりにNPCがその役にはまったらしい事をノエインから聞いたからな。もしかしたらそっちにそのまま引きずられたのかも知れない。けどそうなったら取り戻しようがない。つまりはリルフィンはいつまでもこの中途半端なままって事だ。
 そろそろこいつの本気の本気を見てみたい頃合いなんだけどな。叶いそうもない。


「俺は付いてくぞ。ここにはあの黒い奴が居ない。花の城の内部に居る可能性が高いだろ。アイツを倒さないとガイエンは目覚めない!」
「それなら私も行きます!! ガイエンは私達の友人です!」


 アギトに続いてアイリもそう言ってきた。二人共ガイエンの事は譲れないだろうからな。それにガイエンはキッカケにされたんだ。あの黒いのを倒す以外に開放の手段は確かにないかも知れない。シクラ達は最悪、倒さなくても状況をひっくり返す事が出来るかもしれないけど、あの黒いのの場合はそうじゃないかも。けど……


『クリエも行くよ!!』


 いきなり御札から轟いたそんな声。けど流石にクリエはな……難しい。


「危険だ。お前を守れる余裕なんてないんだ。テトラの側にいろ」


 そっちの方が万倍安全だろう。なんだかんだ言ってテトラはクリエを守るだろうしな。けどクリエの奴は譲らない。


『やだよ! クリエだって役に立つ。そう言ったもん!!』
「役に立つって言ったって……」


 具体的に何が出来るのか。戦闘は出来ないしな……確かにクリエの力は基調だけど、使いづらいというか、使いこなせてないというか……必要な場面はあるだろうけど、危険な場所に連れてっていいのか。どこだって危険なんだけど、今の僕じゃクリエを守れないのが不安なんだ。
 今の僕は守られる側に成ってしまってる。だから……そう考えてた時、左右に挟むように飛び込んできた奴等の姿が目に入る。


「避けろ!!」


 咄嗟にそう叫ぶ。接近してたピクとグリンフィードは一斉に別方向に方向転換する。なんとか蘭とヒマワリの攻撃は避けれた。けど、その直後世界が灰色に染まった。それは全てが停滞した世界。百合の奴の時間操作だ。


「くっそ!」


 僕は法の書を使い、時を巻く。灰色の世界は色を取り戻して再び動き始めた。だけど、その直後、雪の結晶の爆発にさらされた。爆発なのに、その爆風を食らった場所が凍りついて行きやがる。まさか、時を進ませるのも織り込み済みで罠を張られてた?
 勢いがガクっと落ちるピク。すると爆煙を吹き飛ばして、ヒマワリの奴が迫ってくる。そしてグルグル回すその拳はヒマワリの花を背に掲げてた。


「いいいいいいいいやああああああああああああああああ!!」


 シルクちゃんが咄嗟に張った障壁を紙切れの様に砕いてその拳がピクに叩き込まれる。ピクの断末魔が響き、それと同時に凄い勢いで地面へ落ちる。地面を抉り、人と建物を吹き飛ばして止まった。なんとか……生きてる。けど、生きてるのが不思議な位の衝撃。きっと飛行機が墜落とかしたらこんな感じなんだろうなってちょっと思ってた。


「みんな……生きてるか?」
「……ええ、なんとか」
「こっちも無事だ」
「僕達も大丈夫だよ」


 皆悪運強いな。まあここまで付き合ってくれてる皆だからな。天道さんとかはどうやらラオウさんが守ってくれた様だ。流石、スキルは無くても頼りになる人である。そう思ってるとピクの体が淡く輝きだして、そして元の姿に戻った。


「ピク! ピク!」


 元に戻る事が出来たんだ……とか思ったけど、今の一撃は相当効いたようだな。かなりピクはボロボロだ。すると近くでドカンと、派手な爆発が起きた。空を見るとグリンフィードの姿もない。つまりは今の爆発はそう言う事だろう。
 僕達の方へはヒマワリの奴が、そして多分グリンフィードの方は蘭の奴が攻撃を仕掛けたんだろう。僕はシルクちゃんの肩に手を置いてこう言うよ。


「少し休ませてあげよう。回復して上げてください」
「はい」


 抱きかかえるシルクちゃんの周囲に魔法陣が広がり、暖かな光に包まれる。取り敢えず、グリンフィード側の無事を確認したい所……


「気を抜くな!!」


 空から聞こえたそんな声。すると空に広がる爆発。テトラの奴が強力な障壁を広範囲に渡って展開して、僕達を守ってくれた様だ。だけど次の瞬間、障壁の一点を抜く攻撃がテトラを貫く。細長い糸の様なその攻撃。
 爆煙の向こうから覗くその攻撃の主はレシア? あの眠たがりがわざわざ動いたのか。テトラには悪いけど、多分力技でヒマワリや蘭なら障壁を砕けただろうに、わざわざアイツが動いた意味は……


「これでいい?」
「さっすがレシア姉☆ ホントその力って楽そうでいいよね」
「頑張る––なんてナンセンスでしょ」


 アイツだけいつもの寝間着姿で全然気合入ってない。けどそれでもクソ強いんだからな質が悪い。レシアの奴はテトラを貫いてる糸をシクラに渡す。そしてそれを勢い良く引っ張るとテトラの奴を自分達の側へと引き寄せる。
 そして左右からテトラへと向かう蘭とヒマワリ。


「次は神か」
「神様はセッちゃん一人でいいもんね。だからもう要らないんだよ!!」
「テトラ!! くそ、リルフィン!!」


 このままじゃテトラまでやられる。リルフィンの奴を呼ぶもその姿はない。周囲を見回すといつの間には建物にめり込んでるリルフィンの姿があった。どうやらあれに耐えてたのはテトラだけだったっぽい。


「私が行きます!! アギト!!」
「アイリ……だが危険……」
「それは侮辱ですよアギト! 彼を失うわけには行かない。そうでしょう!」
「くっ、分かった! 来い!!」


 ふらつく足に力を込めてアイリは駆ける。


「スキル・ウィルハーレン発動!」


 その言葉と共に、華麗に地面を蹴ってまるで羽毛の様にひるがえるアイリ。そしてアギトの剣に足を乗せると同時に上空に向かって振りかぶってアイリを放る。真っ直ぐにテトラへ向かうアイリが、幾重にも煌めく光を発する。だけどその瞬間、再び世界が僕を除いて停滞する。


「こんな小細工幾らしようが!」


 僕はまた直ぐに時を巻く。早く元に戻す。それが肝心だと思ってたからだ。だけど、そうじゃなかった。地面に激しく叩きつけられる二つの物体。それはテトラとアイリだった。二人共深手を負ってる。


「なっ!? アイリ、テトラ……何がどうなってる?」


 アギトの奴が理解出来ないとばかりに狼狽えてた。でも確かにアギト達からしてみれば、そう言う印象だろう。時間が止まった瞬間は皆は分からない。だから瞬きでもした瞬間、二人が地面に激突したと捉えるしか出来ない。
 でも……僕は違う……その筈なのに。正直何が起こったのか、自分でも分からない。どういう事だ? 時間停止は一瞬で解除したはずだ。それなのになんで、攻撃の瞬間を飛び越えて二人はやられてる? 百合の時間操作を出来るだけ早く解除すれば、それだけ影響は少なく成るはず……その筈だろう。
 なんで? どうして? 分からない。


「ふふ」


 色っぽい声が聞こえた。前方を見ると白魔道士みたいな長いローブに身を包んだ百合の奴が、その裾を盛大に翻して目の前に降り立ってた。裾の広がりが収まり、こちらを見据えると同時に、その胸が主張するように揺れやがる。
 なんてけしからん物を……そんな事が一瞬頭を過ぎるけど、振り払って百合を見据える。すると何も言わずに奴はこちらに手を向けた。その瞬間、再び世界は止まる。そしてそれを僕は解除する。すると一瞬で、僕の周囲に居た皆が建物ごと吹き飛ばされてた。
 更に進む度に百合は時間を止める。その度に僕は意地を張るように時を巻く。だけどその度に自分の周りが荒廃してく。誰も居なくなってく。消えていく……人達が居る。


(駄目なのか? どうして通用しない?)


 消えていってる人達は多分、人間再生の……それも今じゃなく、過去の人達。どうやら守ってるようだ。自分達の身を犠牲に、今を生きなきゃいけない人達を。そしてそんな人達に対しても、僕は何も出来ない。
 被害を広げるだけだ。


 世界の色が再び落ちる。誰も動けない筈の世界の中で、自分の周りに立ってる奴等が居た。それは勿論、シクラ達だ。動けてる……動けてるじゃないか。そう言う事か。いや、こいつらに自分達の常識を当てはめちゃいけなかった。行けなかったのに……


「スオウくんはぁ〜確かに私の時間操作を受け付けない。けどねぇ〜、君は時間操作を分かってな〜い。それじゃあ幾ら巻いても、私達の時は重ならないよ〜」


 間延びした、フワッフワした声が耳を擽る。油断してた。あの陣で通用すると……どこか驕ってたのかもしれない。そんな甘い相手じゃないと、散々分かってた筈なのに。この空間に割り込める奴は誰も居ない。つまり助けを期待するだけ無駄って事だ。
 そしてよくわからないけど、ただ巻くだけじゃダメだ。今までは僕をわざと外してたようだけど。もうその必要なんて無く、全員に囲まれてる。今の僕を葬るのは赤子の手をひねる事と同義だろう。


(苦十……おい、苦十?)


 あの野郎、また見捨てやがったのか!? 今頼れるとアイツしか居ないのに!! 何か出来る事はないか……そもそも考え方を変えたらどうだろうか? 今欲しかった一つが直ぐそこにある。それはシクラだ。この距離なら、奴のコードを抜けるかもしれない。
 無謀だ……百二十パーセント、それは失敗するだろう。このメンツがそれを許すはずがない。けど、何もしなくても詰みだ。それなら何か行動を起こすべき。震えるな……こんな場面、何度だった乗り越えてきた。無謀と勇気は違うと言ってきたけど、今はもう無謀を勇気と思うしかないじゃないか。
 心を支えてくれてたセラ・シルフィングはもうないんだ。けど……戦う事をやめる事は出来ない。それを受け入れたら、もう進めなくなるから。


(やれ、やれ、やれ、やれ、やれ、やれ、やれ!!)
「スオウ––––これは!?」


 何か言おうとしたようだけど、シクラの奴の言葉は聞いてなかった。足元に広がる陣が輝き、奴等が警戒を示す。けどその瞬間だ。灰色の世界が誰かの手によって崩壊した。そして僕達の間に差し込まれた一つの杖。豪奢で、複数のクリスタルが輝くその杖には見覚えがある。まさか……これは……そう思った瞬間、その全てのクリスタルが輝きを放った。
 それと同時に地面が波の様にうねりシクラ達を押し流す。僕の周りをドーナツ状に炎が上がる。その炎を増させる様に煌めく風が吹き荒れた。
 そしていつの間にか、目の前には少女の姿がある。金髪の髪に和装のドレス。人の様に見えるけど、その耳はモブリ特有のモフモフだ。


「無様ねスオウ。それとアンタ、そんな悩殺ボディで、私以上の時間操作の使い手なんて、目障りなのよ。潰れなさい」


 間違いない。この偉そうな言葉使い。世界征服までも目論んでた危ないロリっ子。それはローレしかあり得ない。



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