命改変プログラム
聞こえぬ声の叫び
編み込まれたスレイプニールの道を蹴って、コーラリウスドラゴンに取り付く。だけどそこで予想外の事が起きた。近づく度にちょっと感じてたけど、取り付いてそれは謙虚に現れる。コーラリウスドラゴンに触れた足が凍る。
コーラリウスドラゴンの周囲には常に冷気が漂っててその冷気は発してるコーラリウスドラゴンが一番強い。触れただけでこの有り様。足が動きやがらない。本当なら頭頂部に行きたかったんだけど……別にどこでも同じかも知れない。
頭に近いって理由で頭頂部がよさ気な気がするけど、法の書はそいつの頭に侵入してる訳じゃないしな。それに柊達へ干渉した時だって別に頭を経由した訳じゃない。デカイから、頭部分に乗れるからそうしなくちゃみたいな心理が働くけど、実際問題、ここできっと問題はない筈だ。
そんな事を考えてる間に膝部分まで凍ってきてる。
【スオウ、急がないとあっという間にカチンコチンですよ】
「わかってるさ」
 グラグラしてるけど、逆に凍ってることで落ちることはない。ドラゴン自身は下の人達が気を引いてる様だし、柊の奴は何かやってるけどそれが何か分からない以上、気にしてても仕方ない事だ。そもそも反撃なんかも出来ない訳だし、やれることをやるしか無い。
「行けるか苦十?」
【そんなドラゴンの相手なんて一人で済ませてください。こっちは世界の改変にどうにかこうにか割り込めそうなピースがようやく揃った所ですよ。それに急がないと、扉が完全に閉じてしまうかもですし】
「そんなのわかってる。だからこいつを」
【その程度の存在、一人で掌握出来ますよ。多分ね。こっちは扉を開く準備してるんでどうにかしてください】
それから何度呼んでも返事しやがらねぇ。あの野郎……でも事前に準備だけはって事だろうしな……それに時間稼ぎもやってくれるって言うんだ文句は言えないか。やっぱり柊達のコードを抜けたのが大きかったか。
ここからなら周囲の状況がよく分かる。どうやらモンスターの大軍に押されてきてた外周側も持ち直しつつあるようだ。内側は依然厳しいようだけど、てかどこもかしこも派手にやってるから中央側の方が損害が酷い。
でも今までの様に一方的って訳じゃない。やりあえてる……そう見える。百合・蘭・ヒマワリの三人に多勢だけどさ、それでも今までは一方的な展開だった。それが渡り合えてるんだ。かなりの進歩だろう。
ホント……今しかないな。僕は頭の中で法の書を開く。
「苦十の奴が居なくったって、こんな単細胞そうな奴、僕一人で!」
手を掲げるとその上に広がる作り上げた陣。それはさっき作り上げた奴だ。これでコーラリウスドラゴンに侵入する。僕はその陣をこいつの体に叩きつける。その瞬間頭に入り込む情報。けど次の瞬間、自分を飲み込むもうとするコーラリウスドラゴンのイメージが襲いかかってきた。
「っつ!?」
僕は思わず侵入した思考を後退させる。何だ今の? もう一度、今度は慎重に、扉をゆっくりと開いて、その隙間から覗く様に糸を手繰る。するとその正体がわかった。情報の隙間をくまなく行き来して張り巡らせれてるそれはセキュリティコード。
つまり今のイメージの中のコーラリウスドラゴンは、侵入してきたウイルスと言う僕を排除しようとしたセキュリティって事だろう。セキュリティなんて相手にしてる暇は無いんだけどな……けど、なんて凶暴なの仕込んでんだよ。
このタイプはアレだろ……ただ守るだけじゃなく、侵入してきたウイルスを辿ってその本体まで破壊しようとするタイプじゃなかろうか。ウイルス返しみたいな物だ。多分さっきそのまま食われてたら、自分自身が危なかった。
まさか柊の奴が僕への対策とこれを仕込んだのだろうか? そうなると柊の奴はかなり賢いな。ヒマワリには悪いけど、やっぱり頭の出来が違う様だ。でもここで引いてる訳にはいかない。グリンフィードと連絡が取れない以上、こいつを使って上空へ……大丈夫、やれるさ。
苦十の奴は補助してくれないけど、僕にはアビスのペンもそれに今までの情報とその理解はここにある。食い尽くしてくるセキュリティが相手なら、それよりも早く食いつくすだけだ。
「はぁ〜ふう〜」
僕は大きく呼吸をして、頭の中で四つのアイテムのリンクを確認する。法の書にラプラス、愚者の祭典、そしてアビスのペン。目を開き、開いてた手を閉じ、その中の一本を陣の中央へ。それは勿論アビスのペンが嵌ってる右の人差し指だ。
この陣は魔鏡強啓と神の力を複合させた物で、いわば零の一歩先だ。けど基本でしかない。これをベースにいくらだって変化させる事が出来る!
「行くぞ!!」
再びコーラリウスドラゴンの内部への侵入を試みる。そこは白化粧の雪の結晶が舞う世界。その結晶の一つ一つがこのコーラリウスドラゴンを構成する要素だ。そんな中、僕の存在を感知してか、空間から突然、コーラリウスドラゴン型のセキュリティが口を開けて出現してくる。
容赦無く襲いかかってくるそれに対して僕は右手を向ける。そして紡ぐ言葉と共に、勝手に走るアビスのペン。次の瞬間、コーラリウスドラゴンが雪の結晶となって消えていく。
「掌握。飛べ、コーラリウスドラゴン」
僕の言葉に呼応して雪の結晶に光が走る。そして本体のコーラリウスドラゴンはその羽根を大きく広げて羽ばたきだした。僕の足を凍らせてた氷は溶けて今や自由の身だ。掌握したコーラリウスドラゴンの影響を僕は受けない。
僕は立ち上がり、頭頂部を目指す。やっぱり見晴らしのいいところに居たいからね。だけどその時、コーラリウスドラゴンの奴が急におとなしくなった。どういう事だ? 早く飛び立て。僕はペチペチと頭を叩く。
するとなんだか冷たい筈のコーラリウスドラゴンの体が火照って来てるような……いや、火照ってっていうか……なんか……
「熱い?」
嫌な予感がビンビンする。僕はチラリと目に止まった柊を見る。アイツは今も踊ってる。けど一瞬だけど、こっちを見たのを僕は見逃さない。あの踊りに意味が無いなんて事はないだろう。何かあるんだ。
僕はもう一度コーラリウスドラゴンの中へ入る。するとそこで信じれない物を見た。
「これは……壊れてる?」
そうとしか思えない。さっきまで美しかったコーラリウスドラゴンの内世界は無残な姿に成ってた。僕はどうにかしようと法の書とアビスのペンを走らせるけど、いかんせん、全容を把握してたワケじゃないし、バックアップだってない。
ここから全てを繋ぎ合わせるなんて事が出来るとしたら……それは開発者位しか……そう思ってるとどこかからか、高笑いの様な声が聴こえる。
「ふふ、ふふっ、ふふふ、ふふふふふ」
やっぱり高笑いって程耳障りでは無いけど、どこか不気味に聞こえるそんな声。そしてその姿が曖昧にこの世界に出現してる。見えたり消えたり忙しないけど、間違いないアレは柊だ。
「お前がこれを……こんな事したらコーラリウスドラゴン事態が保たないぞ」
「ふふっ、それが何? この子は道具でしか無いのもの。でも道具を勝手に使われるのは嫌じゃない。だから壊しただけ。どうせ壊れるこの世界なんだもの、何を壊そうがいいでしょ?」
「お前! この世界は壊させないさ」
「そんな事させない。確かに今のスオウは危険。法の書も他のアイテムも勿論だけど、今のスオウの状態が一番危険」
「どういう事だ?」
こいつらが危惧すべきは三種の神器やアビスのペンの方だと思うけど……
「道具は所詮道具でしょ。だからどう使うかは所有者次第。それも……そしてコレも。スオウはもう、私のコードは一瞬で突破するんだね……ホント怖いよ。その可能性」
「何?」
どういう事だ? いや、共通してるところは分かってた。けど、柊の奴のとは違った様な……まあ確かに似てたけど、それは柊が顕現させたからだと思ってた訳だけど、やっぱり仕込んでたのか。コードを自分と似せることで僕がどれだけ早く突破するかを見てたとか。
「スオウは今の自分がどうなってるのかあんまり分かってないようだね。その目……本当に嫌だよ。気持ち悪い」
おい、ちょっと傷ついたぞ。幾ら敵でもんな直接言われたらな……てか何か変わってるのだろうか? 目とか気にして見てなかった。そこら中に氷があったんだから気付いても良さそうだったけど……そこに気を回す余裕は無かったよ。
取り敢えず言い返しておくか。
「そりゃあ悪かったな。けど、そこまで嫌だと感じてくれるって事は脅威に成れたって事だよな?」
「そうだね。だけどこれ以上は…………やらせない!!」
その瞬間強制的に内世界から弾き飛ばされる。そして同時にコーラリウスドラゴンの体全体から氷の棘が飛び出して来た。
「づっ!!」
それは僕が居た頭頂部も勿論例外じゃなく。寧ろ一際大きく逞しい奴が生えてきた位だった。咄嗟に避けようとしたけど、遅かった。頭頂部から斜めに生えた氷は角の様に、そびえ立ち僕の背中を抉った。
折角みんなが繋げてくれた道なのに……乗っ取られる位なら壊して暴れさせるって……確かに得られる結果は柊にとっては一緒なんだろう。だけど実際柊らしくないような気はする。もっと冷めた……というか澄ました奴だった筈。ある意味、こんな投げやりなやり方はしない奴だと思ってた。
それだけ向こうもがむしゃらに成って来た……って事なのかも。下はコーラリウスドラゴンの異常事態にてんやわんやしてるようだ。それに僕が空中に投げ出された事に気付いてる人は居ないだろう。
このままじゃ地面に激突……どうにかこうにか乗り切らないと。ラプラスで風を呼ぶか。後はその風を掴んで操作すれば地面に着地するくらいは出来るだろう。そんな事を考えてると、赤く瞳を輝かせてるトゲトゲになったコーラリウスドラゴンの奴が凶悪な咆哮と共にこっちに向かって突進して来やがった。
「ちょっ!? こんな小物放っとけよ!」
思わず出るそんな言葉。だって僕なんてちっぽけな存在だろ。下の方ではわらわらとお前を狙う奴等が大挙してるってのに、なんでよりによってこっちに来るんだよ。やっぱ目の前にいて目障りだったとか?
「くっそ!」
取り敢えずラプラスで簡易的に壁を作り出す。だけどそれはあっけなく壁として機能せずに破壊された。しかもなんだか天候まで荒れてきたような……単純に猛吹雪が吹き始めてる。おいおい、コーラリウスドラゴンの暴走状態はまるで天災の想定になりつつあるぞ。
声にならない声を吐きつつ僕を噛み砕こうとせんばかりにその牙を向けてくるコーラリウスドラゴン。今の僕にそれを防ぐ術はない。錬金だって魔法だって僕は使えないんだ。そして既に武器も無し。対象に介入するには間接的にでも触れないと行けないし……そもそも既にコーラリウスドラゴンに干渉は意味を成さなくなってしまってる。
あと出来る事があるとすれば……
(この存在を消し去る……とか?)
いや、出来るのかそんな事? 法の書とラプラスで大抵の事は出来るかも知れない。僕の頭が理解出来ればだけど……だけど消すとかはどうだろうか? 崩れたコードを全て消去でもすればいいのか? それならある意味一番面倒無さそうな方法の様な……けど、それでいいのか? とも思う。
もしもコードを全て消すって事は、このLROという世界から完全に無くなるって事だ。それは僕なんかがやっていいことか? どこかで綻びが生じたりするんじゃないか? そもそもコーラリウスドラゴンって元々がこの世界に組み込まれた存在なのだろうか?
柊の奴が無理矢理造り出してねじ込んだ様な存在なら、そこに躊躇いなんていらない。けどそうじゃなかったら、そんな迷いが行動を遅らせる。確かめる術なんて無いのに……遠慮する余裕すら無いのに……躊躇った一瞬で、荒々しい牙は僕の体に突き立てられる。
バキン!!
––そんな音が寸前の所で響いた。それは肉や骨を噛み砕いた音じゃない。そもそも僕の体に今以上の痛みは加わってない。何が起こったのかよく分からなかった。けど視界を上に向けると必死に羽ばたく羽が見えた。一体何が僕を助けてくれたんだ? って思ったけど、その「ピ〜ク〜」なる声で分かった。
「ピクか!」
「ピー!」
応答してくれた様に感じる声を出す。こいつ最近いつもいつもどっかに行ってるよな。そしてここぞと言う時に現れる様な……どういう事なんだろうか? でも取り敢えず助かった。目の前からいなくなればコーラリウスドラゴンの奴も無理して僕を追ってくるなんてことは……そう思ってるとコーラリウスドラゴンはその大きな羽を羽ばたかせて地上から浮き、建物の屋根を削りながらこっちに向かってきやがった。
「なんでだよ!?」
おかしい。コーラリウスドラゴンは目的なんてもう無い、ただの暴れるだけの怪物に成ったはずだ。それなのになんでこんなに執拗に僕を追う? まさか……何か残してたのか? 壊した中で、何か一つだけ命令を……
コーラリウスドラゴンの口に白い冷気が集まってる。そしてそれを凝縮した弾をこちらに向かって放ってきた。しかも連続で。ピクはそれを上手く交わしてくれるけど、かわすとその被害はブリームスの何処かに広がる。どうやら当たった物を弾けさせてそして一瞬で凍らせるタイプの攻撃みたいだ。
ブリームスの何箇所かが犠牲になった。そして多分そこに居た人達は巻き込まれただろう。くっそ、このままじゃただ逃げまわるだけでも大被害だ。空に居たんじゃ、地上に居る錬金術士の人達は有効な攻撃手段が無いようだし……このままじゃ不味い。
けどだからと言ってピクで反撃ってわけにも行かない。なんせ体の大きさが数十倍位違う。ピクの炎じゃきっと傷一つつかないだろう。どうすれば……するとピクが何やら「ピーピー」言い出した。
(何かを伝えようとしてる?)
だけど僕にはなんて言ってるのか分からない。シルクちゃんなら分かるのかも知れないけど……インテグの奴みたいに、実はちゃんと言葉を喋ってるのなら、思考間で繋がれるんだろうけど、ピクの場合、思考間で繋がっても聞こえてくるのは「ピーピー」だった。
多分、元々の言葉や思考の違いは埋められないのだろう。そんな風に思って歯噛みしてると、僕の右手が勝手に動き出した。アビスのペンが何かを紡いでる?
それは文字だ。しかも今まで紡いできたこっちの文字じゃない。日本語だ。それは途切れ途切れだけどこんな感じだった。
『お願い』『ピクを』『一つに』『きっと出来る』『成長したい』
ピクの言葉を書いてるのか? どういう意味だ? 一つに? 成長? 僕にそれが出来るって事か? でも一つって事は何かもう一つがあるはずそれは……
「逃がさない」
ボソッとしたそんな声がやけにハッキリ聞こえたと思ったら、柊の奴も追ってきてやがった。天扇をこちらに向けて僕達の進行方向の全ての範囲を円状に凍らせ始めやがった。このチートが!! そのまま囲むようにして逃げ場を無くす気か。直ぐ後ろに迫るコーラリウスドラゴン。
止まれば終わりだ。するとピクは一気に直上に上がり始める。確かに抜け出せるとしたらその一点しかない!! 空気が凍って完全に閉じかける寸前に僕達は抜け出す。そして直後コーラリウス
ドラゴンの奴が出来上がってた氷の壁を勢い良く砕いて僕達を追ってきた。
どうやらアイツ、僕以外見えてないようだ。いらない熱視線だな。
「ピーピー!」
すると再びアビスのペンが文字を刻む。『コーラリウス』『成長プログラム』そして最後に『限界』
。その文字と共に、昇ってたピクの勢いが止まった。どうやら限界高度の様だ。これ以上上へは逃げれない。けどきっとコーラリウスドラゴンはもっと上へ行けるんだろう。それなりに小さくなったブリームスが眼下に見えて、ブリームスだけじゃなく周辺の地形もここからなら分かる。
やっぱり戻ってきてる。人の国もある……煙噴いてるけど。だけどそこ以上にブリームス周辺の黒さが異常だ。あれ全てモンスターだって言うのかよ。ブリームスを中心に数キロは黒い物体が蠢いてるぞ。
それでもまだブリームスが落ちてないのは、誰もが皆、過去も今も頑張ってるからだ。
「ピク、お前も頑張りたいんだな?」
アビスのペンが記した文字でなんとなく伝えたい事は分かった。ピクだって戦いたいんだ。僕の言葉に元気にピーと吠える。だけどそれも僕が決めていいことなのか……だってピクは僕のじゃない。所有権はシルクちゃんが握ってる。
「シルクちゃんになんて言う気だよ? お前の変わり果てた姿見たらきっと怒られる」
「ピッピー、ピピーク」
『大丈夫』『ピクが本当に』『役に立つ』『シルクの為』『呼んでくれる』『優しい』書かれた文字を見て、「わかった」と僕は呟いた。多分ピクは僕のやろうとしてることをわかってるんだろう。そして僕のためじゃない、自分のご主人様の役に立てるように、こいつもその時に備えておきたいようだ。それは僕にとっても良いこと。出来るのならこれが最善。プラマイゼロじゃない、ピクと言うプラスとコーラリウスドラゴンというマイナスを組み合わせて零じゃなく一に出来るのなら、それは利点しかない。
コーラリウスドラゴンの奴が為に溜めた攻撃を開始する。これまで以上の大量の冷気の弾。僕とピクはここで二手に別れて一斉に真下のコーラリウスドラゴンへと突撃する。ピクはその小ささと機動性を活かして攻撃をかわしてる。僕は空中に壁を作りながらそれを足場にコーラリウスドラゴンを目指す。
行ける! 奴の攻撃は強力だ。だけど暴走状態の直情的な攻撃は分かりやすい。こちとらスピード自慢何だ。そう簡単に当たってたまるか!!
「ピク! ブレストファイアだ!!」
僕の指示でピクが炎を数発コーラリウスドラゴンの顔面に撃ち放つ。それはダメージ効果を期待した物じゃない。目的は奴の視界を奪うことだ。そしてその間に一気に取り付いて、ピクとコーラリウスドラゴンを––––
「そう上手く行かせない。天上氷雨」
またやけにハッキリと聞こえる声。だけど今度はその姿を見てる暇なんてなかった。後ろで激しい音が弾けたと思ったら、ゴッ! と言う音が頭に響いて視界が酩酊する。一体何が? 体から力が抜けて、最後に取りつくために作り出してた壁に自身でぶつかってしまう。
そこからズルズルと落ちる間に視界にとらえたのは上空から降り注ぐ、大量の氷の雨。どうやらそれは上空に広がった氷を砕いて落としてる様だ。
「一体……いつあんな広範囲に……まさか!」
あれかコーラリウスドラゴンの攻撃。あれが空中で広がって空に氷を広範囲に広げてたのか。それを柊の奴は利用して……ゴッ! ザシュッ! と体に容赦無くぶつかり刺さる氷。それはピクも同じようで、力無く落ちかけてる。
そして以外にもどうやらコーラリウスドラゴンも同じだった。なるほど……用済みって訳か。体がデカイ分、僕達よりも大量の氷をその身に受けて体のパーツを欠損していってる。
「グオオオオオオオオオォォォォォォ!!」
そう叫ぶ声にアビスのペンは反応する。『悔しい』––その文字に僕は気力を振り絞って壁を作ってピクへと跳んだ。ぐったりとしてるピクを抱えて僕は自身の直ぐ下に壁を作って、それに乗るんじゃなく、クルッと回って一時的な防御壁と最後の一速のための土台として使う。
「ピク、こいつも可哀想な奴だよな。勝手に呼び出されて、壊されて、最後は僕達と共にお払い箱とはな。悔しい……か、その気持お前の中で晴らさせてやろうじゃないか!!」
僕は真っ直ぐにコーラリウスドラゴンへ突っ込む。そしてそのまま勢い良く奴の口に飲み込まれた。
コーラリウスドラゴンの周囲には常に冷気が漂っててその冷気は発してるコーラリウスドラゴンが一番強い。触れただけでこの有り様。足が動きやがらない。本当なら頭頂部に行きたかったんだけど……別にどこでも同じかも知れない。
頭に近いって理由で頭頂部がよさ気な気がするけど、法の書はそいつの頭に侵入してる訳じゃないしな。それに柊達へ干渉した時だって別に頭を経由した訳じゃない。デカイから、頭部分に乗れるからそうしなくちゃみたいな心理が働くけど、実際問題、ここできっと問題はない筈だ。
そんな事を考えてる間に膝部分まで凍ってきてる。
【スオウ、急がないとあっという間にカチンコチンですよ】
「わかってるさ」
 グラグラしてるけど、逆に凍ってることで落ちることはない。ドラゴン自身は下の人達が気を引いてる様だし、柊の奴は何かやってるけどそれが何か分からない以上、気にしてても仕方ない事だ。そもそも反撃なんかも出来ない訳だし、やれることをやるしか無い。
「行けるか苦十?」
【そんなドラゴンの相手なんて一人で済ませてください。こっちは世界の改変にどうにかこうにか割り込めそうなピースがようやく揃った所ですよ。それに急がないと、扉が完全に閉じてしまうかもですし】
「そんなのわかってる。だからこいつを」
【その程度の存在、一人で掌握出来ますよ。多分ね。こっちは扉を開く準備してるんでどうにかしてください】
それから何度呼んでも返事しやがらねぇ。あの野郎……でも事前に準備だけはって事だろうしな……それに時間稼ぎもやってくれるって言うんだ文句は言えないか。やっぱり柊達のコードを抜けたのが大きかったか。
ここからなら周囲の状況がよく分かる。どうやらモンスターの大軍に押されてきてた外周側も持ち直しつつあるようだ。内側は依然厳しいようだけど、てかどこもかしこも派手にやってるから中央側の方が損害が酷い。
でも今までの様に一方的って訳じゃない。やりあえてる……そう見える。百合・蘭・ヒマワリの三人に多勢だけどさ、それでも今までは一方的な展開だった。それが渡り合えてるんだ。かなりの進歩だろう。
ホント……今しかないな。僕は頭の中で法の書を開く。
「苦十の奴が居なくったって、こんな単細胞そうな奴、僕一人で!」
手を掲げるとその上に広がる作り上げた陣。それはさっき作り上げた奴だ。これでコーラリウスドラゴンに侵入する。僕はその陣をこいつの体に叩きつける。その瞬間頭に入り込む情報。けど次の瞬間、自分を飲み込むもうとするコーラリウスドラゴンのイメージが襲いかかってきた。
「っつ!?」
僕は思わず侵入した思考を後退させる。何だ今の? もう一度、今度は慎重に、扉をゆっくりと開いて、その隙間から覗く様に糸を手繰る。するとその正体がわかった。情報の隙間をくまなく行き来して張り巡らせれてるそれはセキュリティコード。
つまり今のイメージの中のコーラリウスドラゴンは、侵入してきたウイルスと言う僕を排除しようとしたセキュリティって事だろう。セキュリティなんて相手にしてる暇は無いんだけどな……けど、なんて凶暴なの仕込んでんだよ。
このタイプはアレだろ……ただ守るだけじゃなく、侵入してきたウイルスを辿ってその本体まで破壊しようとするタイプじゃなかろうか。ウイルス返しみたいな物だ。多分さっきそのまま食われてたら、自分自身が危なかった。
まさか柊の奴が僕への対策とこれを仕込んだのだろうか? そうなると柊の奴はかなり賢いな。ヒマワリには悪いけど、やっぱり頭の出来が違う様だ。でもここで引いてる訳にはいかない。グリンフィードと連絡が取れない以上、こいつを使って上空へ……大丈夫、やれるさ。
苦十の奴は補助してくれないけど、僕にはアビスのペンもそれに今までの情報とその理解はここにある。食い尽くしてくるセキュリティが相手なら、それよりも早く食いつくすだけだ。
「はぁ〜ふう〜」
僕は大きく呼吸をして、頭の中で四つのアイテムのリンクを確認する。法の書にラプラス、愚者の祭典、そしてアビスのペン。目を開き、開いてた手を閉じ、その中の一本を陣の中央へ。それは勿論アビスのペンが嵌ってる右の人差し指だ。
この陣は魔鏡強啓と神の力を複合させた物で、いわば零の一歩先だ。けど基本でしかない。これをベースにいくらだって変化させる事が出来る!
「行くぞ!!」
再びコーラリウスドラゴンの内部への侵入を試みる。そこは白化粧の雪の結晶が舞う世界。その結晶の一つ一つがこのコーラリウスドラゴンを構成する要素だ。そんな中、僕の存在を感知してか、空間から突然、コーラリウスドラゴン型のセキュリティが口を開けて出現してくる。
容赦無く襲いかかってくるそれに対して僕は右手を向ける。そして紡ぐ言葉と共に、勝手に走るアビスのペン。次の瞬間、コーラリウスドラゴンが雪の結晶となって消えていく。
「掌握。飛べ、コーラリウスドラゴン」
僕の言葉に呼応して雪の結晶に光が走る。そして本体のコーラリウスドラゴンはその羽根を大きく広げて羽ばたきだした。僕の足を凍らせてた氷は溶けて今や自由の身だ。掌握したコーラリウスドラゴンの影響を僕は受けない。
僕は立ち上がり、頭頂部を目指す。やっぱり見晴らしのいいところに居たいからね。だけどその時、コーラリウスドラゴンの奴が急におとなしくなった。どういう事だ? 早く飛び立て。僕はペチペチと頭を叩く。
するとなんだか冷たい筈のコーラリウスドラゴンの体が火照って来てるような……いや、火照ってっていうか……なんか……
「熱い?」
嫌な予感がビンビンする。僕はチラリと目に止まった柊を見る。アイツは今も踊ってる。けど一瞬だけど、こっちを見たのを僕は見逃さない。あの踊りに意味が無いなんて事はないだろう。何かあるんだ。
僕はもう一度コーラリウスドラゴンの中へ入る。するとそこで信じれない物を見た。
「これは……壊れてる?」
そうとしか思えない。さっきまで美しかったコーラリウスドラゴンの内世界は無残な姿に成ってた。僕はどうにかしようと法の書とアビスのペンを走らせるけど、いかんせん、全容を把握してたワケじゃないし、バックアップだってない。
ここから全てを繋ぎ合わせるなんて事が出来るとしたら……それは開発者位しか……そう思ってるとどこかからか、高笑いの様な声が聴こえる。
「ふふ、ふふっ、ふふふ、ふふふふふ」
やっぱり高笑いって程耳障りでは無いけど、どこか不気味に聞こえるそんな声。そしてその姿が曖昧にこの世界に出現してる。見えたり消えたり忙しないけど、間違いないアレは柊だ。
「お前がこれを……こんな事したらコーラリウスドラゴン事態が保たないぞ」
「ふふっ、それが何? この子は道具でしか無いのもの。でも道具を勝手に使われるのは嫌じゃない。だから壊しただけ。どうせ壊れるこの世界なんだもの、何を壊そうがいいでしょ?」
「お前! この世界は壊させないさ」
「そんな事させない。確かに今のスオウは危険。法の書も他のアイテムも勿論だけど、今のスオウの状態が一番危険」
「どういう事だ?」
こいつらが危惧すべきは三種の神器やアビスのペンの方だと思うけど……
「道具は所詮道具でしょ。だからどう使うかは所有者次第。それも……そしてコレも。スオウはもう、私のコードは一瞬で突破するんだね……ホント怖いよ。その可能性」
「何?」
どういう事だ? いや、共通してるところは分かってた。けど、柊の奴のとは違った様な……まあ確かに似てたけど、それは柊が顕現させたからだと思ってた訳だけど、やっぱり仕込んでたのか。コードを自分と似せることで僕がどれだけ早く突破するかを見てたとか。
「スオウは今の自分がどうなってるのかあんまり分かってないようだね。その目……本当に嫌だよ。気持ち悪い」
おい、ちょっと傷ついたぞ。幾ら敵でもんな直接言われたらな……てか何か変わってるのだろうか? 目とか気にして見てなかった。そこら中に氷があったんだから気付いても良さそうだったけど……そこに気を回す余裕は無かったよ。
取り敢えず言い返しておくか。
「そりゃあ悪かったな。けど、そこまで嫌だと感じてくれるって事は脅威に成れたって事だよな?」
「そうだね。だけどこれ以上は…………やらせない!!」
その瞬間強制的に内世界から弾き飛ばされる。そして同時にコーラリウスドラゴンの体全体から氷の棘が飛び出して来た。
「づっ!!」
それは僕が居た頭頂部も勿論例外じゃなく。寧ろ一際大きく逞しい奴が生えてきた位だった。咄嗟に避けようとしたけど、遅かった。頭頂部から斜めに生えた氷は角の様に、そびえ立ち僕の背中を抉った。
折角みんなが繋げてくれた道なのに……乗っ取られる位なら壊して暴れさせるって……確かに得られる結果は柊にとっては一緒なんだろう。だけど実際柊らしくないような気はする。もっと冷めた……というか澄ました奴だった筈。ある意味、こんな投げやりなやり方はしない奴だと思ってた。
それだけ向こうもがむしゃらに成って来た……って事なのかも。下はコーラリウスドラゴンの異常事態にてんやわんやしてるようだ。それに僕が空中に投げ出された事に気付いてる人は居ないだろう。
このままじゃ地面に激突……どうにかこうにか乗り切らないと。ラプラスで風を呼ぶか。後はその風を掴んで操作すれば地面に着地するくらいは出来るだろう。そんな事を考えてると、赤く瞳を輝かせてるトゲトゲになったコーラリウスドラゴンの奴が凶悪な咆哮と共にこっちに向かって突進して来やがった。
「ちょっ!? こんな小物放っとけよ!」
思わず出るそんな言葉。だって僕なんてちっぽけな存在だろ。下の方ではわらわらとお前を狙う奴等が大挙してるってのに、なんでよりによってこっちに来るんだよ。やっぱ目の前にいて目障りだったとか?
「くっそ!」
取り敢えずラプラスで簡易的に壁を作り出す。だけどそれはあっけなく壁として機能せずに破壊された。しかもなんだか天候まで荒れてきたような……単純に猛吹雪が吹き始めてる。おいおい、コーラリウスドラゴンの暴走状態はまるで天災の想定になりつつあるぞ。
声にならない声を吐きつつ僕を噛み砕こうとせんばかりにその牙を向けてくるコーラリウスドラゴン。今の僕にそれを防ぐ術はない。錬金だって魔法だって僕は使えないんだ。そして既に武器も無し。対象に介入するには間接的にでも触れないと行けないし……そもそも既にコーラリウスドラゴンに干渉は意味を成さなくなってしまってる。
あと出来る事があるとすれば……
(この存在を消し去る……とか?)
いや、出来るのかそんな事? 法の書とラプラスで大抵の事は出来るかも知れない。僕の頭が理解出来ればだけど……だけど消すとかはどうだろうか? 崩れたコードを全て消去でもすればいいのか? それならある意味一番面倒無さそうな方法の様な……けど、それでいいのか? とも思う。
もしもコードを全て消すって事は、このLROという世界から完全に無くなるって事だ。それは僕なんかがやっていいことか? どこかで綻びが生じたりするんじゃないか? そもそもコーラリウスドラゴンって元々がこの世界に組み込まれた存在なのだろうか?
柊の奴が無理矢理造り出してねじ込んだ様な存在なら、そこに躊躇いなんていらない。けどそうじゃなかったら、そんな迷いが行動を遅らせる。確かめる術なんて無いのに……遠慮する余裕すら無いのに……躊躇った一瞬で、荒々しい牙は僕の体に突き立てられる。
バキン!!
––そんな音が寸前の所で響いた。それは肉や骨を噛み砕いた音じゃない。そもそも僕の体に今以上の痛みは加わってない。何が起こったのかよく分からなかった。けど視界を上に向けると必死に羽ばたく羽が見えた。一体何が僕を助けてくれたんだ? って思ったけど、その「ピ〜ク〜」なる声で分かった。
「ピクか!」
「ピー!」
応答してくれた様に感じる声を出す。こいつ最近いつもいつもどっかに行ってるよな。そしてここぞと言う時に現れる様な……どういう事なんだろうか? でも取り敢えず助かった。目の前からいなくなればコーラリウスドラゴンの奴も無理して僕を追ってくるなんてことは……そう思ってるとコーラリウスドラゴンはその大きな羽を羽ばたかせて地上から浮き、建物の屋根を削りながらこっちに向かってきやがった。
「なんでだよ!?」
おかしい。コーラリウスドラゴンは目的なんてもう無い、ただの暴れるだけの怪物に成ったはずだ。それなのになんでこんなに執拗に僕を追う? まさか……何か残してたのか? 壊した中で、何か一つだけ命令を……
コーラリウスドラゴンの口に白い冷気が集まってる。そしてそれを凝縮した弾をこちらに向かって放ってきた。しかも連続で。ピクはそれを上手く交わしてくれるけど、かわすとその被害はブリームスの何処かに広がる。どうやら当たった物を弾けさせてそして一瞬で凍らせるタイプの攻撃みたいだ。
ブリームスの何箇所かが犠牲になった。そして多分そこに居た人達は巻き込まれただろう。くっそ、このままじゃただ逃げまわるだけでも大被害だ。空に居たんじゃ、地上に居る錬金術士の人達は有効な攻撃手段が無いようだし……このままじゃ不味い。
けどだからと言ってピクで反撃ってわけにも行かない。なんせ体の大きさが数十倍位違う。ピクの炎じゃきっと傷一つつかないだろう。どうすれば……するとピクが何やら「ピーピー」言い出した。
(何かを伝えようとしてる?)
だけど僕にはなんて言ってるのか分からない。シルクちゃんなら分かるのかも知れないけど……インテグの奴みたいに、実はちゃんと言葉を喋ってるのなら、思考間で繋がれるんだろうけど、ピクの場合、思考間で繋がっても聞こえてくるのは「ピーピー」だった。
多分、元々の言葉や思考の違いは埋められないのだろう。そんな風に思って歯噛みしてると、僕の右手が勝手に動き出した。アビスのペンが何かを紡いでる?
それは文字だ。しかも今まで紡いできたこっちの文字じゃない。日本語だ。それは途切れ途切れだけどこんな感じだった。
『お願い』『ピクを』『一つに』『きっと出来る』『成長したい』
ピクの言葉を書いてるのか? どういう意味だ? 一つに? 成長? 僕にそれが出来るって事か? でも一つって事は何かもう一つがあるはずそれは……
「逃がさない」
ボソッとしたそんな声がやけにハッキリ聞こえたと思ったら、柊の奴も追ってきてやがった。天扇をこちらに向けて僕達の進行方向の全ての範囲を円状に凍らせ始めやがった。このチートが!! そのまま囲むようにして逃げ場を無くす気か。直ぐ後ろに迫るコーラリウスドラゴン。
止まれば終わりだ。するとピクは一気に直上に上がり始める。確かに抜け出せるとしたらその一点しかない!! 空気が凍って完全に閉じかける寸前に僕達は抜け出す。そして直後コーラリウス
ドラゴンの奴が出来上がってた氷の壁を勢い良く砕いて僕達を追ってきた。
どうやらアイツ、僕以外見えてないようだ。いらない熱視線だな。
「ピーピー!」
すると再びアビスのペンが文字を刻む。『コーラリウス』『成長プログラム』そして最後に『限界』
。その文字と共に、昇ってたピクの勢いが止まった。どうやら限界高度の様だ。これ以上上へは逃げれない。けどきっとコーラリウスドラゴンはもっと上へ行けるんだろう。それなりに小さくなったブリームスが眼下に見えて、ブリームスだけじゃなく周辺の地形もここからなら分かる。
やっぱり戻ってきてる。人の国もある……煙噴いてるけど。だけどそこ以上にブリームス周辺の黒さが異常だ。あれ全てモンスターだって言うのかよ。ブリームスを中心に数キロは黒い物体が蠢いてるぞ。
それでもまだブリームスが落ちてないのは、誰もが皆、過去も今も頑張ってるからだ。
「ピク、お前も頑張りたいんだな?」
アビスのペンが記した文字でなんとなく伝えたい事は分かった。ピクだって戦いたいんだ。僕の言葉に元気にピーと吠える。だけどそれも僕が決めていいことなのか……だってピクは僕のじゃない。所有権はシルクちゃんが握ってる。
「シルクちゃんになんて言う気だよ? お前の変わり果てた姿見たらきっと怒られる」
「ピッピー、ピピーク」
『大丈夫』『ピクが本当に』『役に立つ』『シルクの為』『呼んでくれる』『優しい』書かれた文字を見て、「わかった」と僕は呟いた。多分ピクは僕のやろうとしてることをわかってるんだろう。そして僕のためじゃない、自分のご主人様の役に立てるように、こいつもその時に備えておきたいようだ。それは僕にとっても良いこと。出来るのならこれが最善。プラマイゼロじゃない、ピクと言うプラスとコーラリウスドラゴンというマイナスを組み合わせて零じゃなく一に出来るのなら、それは利点しかない。
コーラリウスドラゴンの奴が為に溜めた攻撃を開始する。これまで以上の大量の冷気の弾。僕とピクはここで二手に別れて一斉に真下のコーラリウスドラゴンへと突撃する。ピクはその小ささと機動性を活かして攻撃をかわしてる。僕は空中に壁を作りながらそれを足場にコーラリウスドラゴンを目指す。
行ける! 奴の攻撃は強力だ。だけど暴走状態の直情的な攻撃は分かりやすい。こちとらスピード自慢何だ。そう簡単に当たってたまるか!!
「ピク! ブレストファイアだ!!」
僕の指示でピクが炎を数発コーラリウスドラゴンの顔面に撃ち放つ。それはダメージ効果を期待した物じゃない。目的は奴の視界を奪うことだ。そしてその間に一気に取り付いて、ピクとコーラリウスドラゴンを––––
「そう上手く行かせない。天上氷雨」
またやけにハッキリと聞こえる声。だけど今度はその姿を見てる暇なんてなかった。後ろで激しい音が弾けたと思ったら、ゴッ! と言う音が頭に響いて視界が酩酊する。一体何が? 体から力が抜けて、最後に取りつくために作り出してた壁に自身でぶつかってしまう。
そこからズルズルと落ちる間に視界にとらえたのは上空から降り注ぐ、大量の氷の雨。どうやらそれは上空に広がった氷を砕いて落としてる様だ。
「一体……いつあんな広範囲に……まさか!」
あれかコーラリウスドラゴンの攻撃。あれが空中で広がって空に氷を広範囲に広げてたのか。それを柊の奴は利用して……ゴッ! ザシュッ! と体に容赦無くぶつかり刺さる氷。それはピクも同じようで、力無く落ちかけてる。
そして以外にもどうやらコーラリウスドラゴンも同じだった。なるほど……用済みって訳か。体がデカイ分、僕達よりも大量の氷をその身に受けて体のパーツを欠損していってる。
「グオオオオオオオオオォォォォォォ!!」
そう叫ぶ声にアビスのペンは反応する。『悔しい』––その文字に僕は気力を振り絞って壁を作ってピクへと跳んだ。ぐったりとしてるピクを抱えて僕は自身の直ぐ下に壁を作って、それに乗るんじゃなく、クルッと回って一時的な防御壁と最後の一速のための土台として使う。
「ピク、こいつも可哀想な奴だよな。勝手に呼び出されて、壊されて、最後は僕達と共にお払い箱とはな。悔しい……か、その気持お前の中で晴らさせてやろうじゃないか!!」
僕は真っ直ぐにコーラリウスドラゴンへ突っ込む。そしてそのまま勢い良く奴の口に飲み込まれた。
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