命改変プログラム
過去からの贈り物
光が納まると、僕達の周囲には人が居た。さっきまで誰も居なかったはずの人。それは第一研究所の連中であり、治安部の人達であり第四研究所の所長とフランさん。そしてクリエ。後はインテグの奴。
まあインテグは今の所、クリエに張り付いて動いちゃいないけど……僕やロウ副局長が居ない所を見るに、今はこの真の零区画の機能を使って飛び出した後って事なんだろう。って事はもうすぐの筈だ……もうすぐ、魔鏡強啓零項の扉が開く。
そう思ってると、中央にある金色のゴーレムが動き出す。そしてその背中合わせの場所には残り二つの像が透けて見えてた。それはやっぱりリンクしてるって事だよな。ざわめく周囲。ゴーレム達はその腕を伸ばしてそれぞれを組んでいく。こっちから見てる分には三体が揃って見えるから、それほど違和感はない。
けど……別の場所、残り二体を据え置いた地下の方で見ると「一体何が起き始めたんだ!?」って感じだったけどな。この時向こうでは腕が空間突き破ってたしな。だけどここから、ブリームスに溢れてた力の解放が始まるんだよな。するとこの場所が激しく揺れ始めた。
突然の事に皆びっくりしてる。そしてそれは当然僕達もだ。一応こっちにも影響はあったんだな。多分いま、外のほうではブリームスが輝きだしてる筈だろう。飽和してた錬金の力を消化する為に。でも今回はただ消化するんじゃない。
そのためだけに光ってるんじゃないんだよな。積層魔法陣は発動し、大きな流れが意図的に形作られてる。それは魔鏡強啓零へと至る道だ。すると、狂った様な笑いが聞こえきた。
「フェフェッ……フェフェフェフェフェフェ……フェ〜フェッフェッフェッ!!」
変な声で笑うそいつは第一研究所の統括。このブリームスの研究者の頂点に位置する狂った爺さんだ。そう言えば……だけど、本当にこいつらは何がしたかったのかそこら辺はまだ判明してないような?
魔鏡強啓零項の為にどっかにこの後消えるはずだけど、その後に起きたブリームス消失は、こいつらの所業なのだろうか? そうぽかったはずだけどさ、実際どこまで第一の算段だったのかはわかってないんだよな。
だって途中から全てを持ってったのはレシアの奴だったろ。アイツが……あの何もかも気怠そうにしてた奴が、実は全てを裏から操って錬金の力を……積層魔法陣を……三つの研究所の役割を奪って、そして創りだしたのがあの黒い法の書。
過去は変えることは出来ない。それはここでも同じだ。僕達は今、過去に居る。でも、本当に時間を飛び越えた訳じゃない。光の速度を追い越した訳じゃない。僕達はただ、LROという世界に残ってた情報を、愚者の祭典というアイテムで拾ってその時間の空間を作り出しているだけだ。
「さて、行くであるぞお前たち」
その言葉で統括の周りに第一の研究者達が集まってくる。その様子を見たセスさんがこういう。
「一体何を?」
「何とは愚かな質問であるな。君ともあろう者がだ。我等の目的はわかってるであろう。魔鏡強啓零項への到達。その準備が今整ったのである。我等第一はこれからその扉を開いて向こう側へ行く」
「そ、それなら私も!!」
図々しくも名乗りを上げたのはやっぱり所長。でも確かにんな話を聞いたら、研究者として同行はしたいだろうな。けど、この後も所長はこの場所に居たはずだ。となると––
「残念だが君では役不足であるよ。零項に手を掛ける資格はない」
「なっ……貴様!」
告げられた言葉にカチンと来たのか、所長は思わず詰め寄ろうとする。だけどそこでセスさんが所長を止めた。
「やめろ。お前が手を上げて良いような方じゃない」
「そんなの知ったことか。知る権利位分けてもいいだろう。優秀なら誰もが知ったって、抜きん出れるのだから問題なんて無い筈だ! それとも怖いのか? 我等第四研究所が!!」
「おい!」
流石は所長、こんなバトルやってたのか。でも研究者としてここは退けないよな。なんせ目指して来た場所に行けるんだ。待っときます––なんて納得出来ないよな。それに所長の言うことはある意味最もの様な気もする。
第一には天才があつまってるんだろう? それなら、第四とか怖くもない筈。同じスタートに立ったってぶっちぎれる自信があるのなら、別に連れて行っても良いような気はする。自分たちが開発した事とかを独占するのはわかるけど、それは全てじゃなくていいだろう。
元になるようなものは公開して広く広めるべき。そうした方が裾野が広がるだろうに……
「フェッフェッフェッフェ、怖い? 第四研究所が? ファファファッファファファ! 奢るな小僧!! 理解も出来ない物を広めてどうするのである? 貴様らには零項は理解出来ない代物である。我等が! 我等しか分からなぬ。理解出来ぬ!
怖いなどでない。我等第一にしかその能力がないのである!」
シワくれた顔の奥の瞳に見える炎。その炎に怯むのが所長だ。だけどそんな所長に変わって出てくるのがフランさんである。いいコンビだ。
「能力って、確かに私達には実績も何もないですけど、能力であなた達第一に劣ってるなんて思ったことは一度たりともありません!」
「助手……」
フランさんのその言葉に思わず頭を抱えるのはセスさんだ。「この二人は何を言ってるんだ」的な顔をしてる。統括の機嫌を損ねるのは不味いと、彼は思ってるんだろう。なんだかんだいって、この三人は友達みたいだもんな。心配してくれてるんだろう。
「ふぇっふぇ、どれだけ幻想を抱こうとも、誰がそれを信じてくれるであろうか? この街の皆は、我等に、この第一研究所に未来を託してくれてるのである。もしも貴様らが手を上げた所で、この街の誰が、我等第一よりも第四を選ぶであろうか? それが全てであるよ。
何も残したことのない者達に、抱かれる希望などない。お主達せいぜい、お主達を信じる仲間の為に動けばいいのである。小さな小さな信頼を勝ち取っておけ」
統括の言葉に二人共「ぐぬぬ……」と唸ってる。何か反論したいんだろうけど、言葉が出てこないようだ。まあしかたないな。向こうも大概正しかった。第一と第四じゃ、比べ様もない位に信頼や実績の差があるんだろう。
第四だってこの街を救った実績があるんだけど、それはもう結構昔の事のようだし、それにそれがあったのに、まだ第四とかだしな。そもそもそれを無したのはこの二人じゃない。こっちに来たいのであれば、実績を示せ……それはまぁ正論だ。
それに今、この状況の全ては第一の統括に委ねられてる。全ての決定権は統括にある。いくら声を大にして所で、第一至上主義の統括が、流石に錬金の最大の可能性とも言える魔鏡強啓零項までは自分たち以外には見せられないか。
ハッキリ言えば、ここまで所長達を連れてきたのだって統括のサービスみたいな物だしな。これ以上は流石に無理。
「では皆の衆、指輪を掲げよ」
そう言った統括に従って第一の皆さんが指輪を掲げた。そして統括は自信の腕を黄金のゴーレムへと向ける。
「さて、隠し機能の出番である」
ぼそっと聞こえたそんな声。僕は苦十と頷き合う。見逃せないぞここは。僕達が進むために必要な情報だ。僕達も手にしなきゃいけない。魔鏡強啓零項を。
「ふぇっふぇっふぇ」
「っ!?」
統括に近づいてみるとびっくりした。何故なら、統括の眼帯が開き望遠レンズみたいに飛び出して、そしてその周りには幾つもの目みたいなのがギョロギョロとしてる。やばいよこれ。もしかして隠し機能って指輪じゃなく、こっちか? 流石に僕にはこんな機能ないぞ。どうする。そう思ってると苦十の奴が統括の肩に手をおいた。こいつは何にだって溶け込む、なれる。そして得られる。だからきっと何かを得てるんだろう。
まあこの場合、盗んでるって言ったほうが正しいような気もするけどね。そう思ってると、統括の指輪から今までとは違う紫系の光が粘っと垂れてきた。そしてそれは拡散して、第一の他の研究者の指輪に移る。
あれかな? 識別? だってそうしないと、所長の奴がこっそりと指輪掲げても行けそうだもんな。それを防止するための策かも知れない。苦十の奴はまだ手をおいたまま。こっちには何のサインもくれない。
するとここでちっちゃなちっちゃなクリエが声を出した。
「ねえおじちゃん。おじちゃんはちゃんと助けてくれるんだよね? 救ってくれるんだよね?」
「…………ふぇっふぇ、ああ、勿論であるよ」
振り返らずにそう言った統括。でも背中を向けたままってのは……僕は気になって前に回って見た。こういう時って大抵、動かない物だけどさ、今の僕は誰にも見えてないからね。それに色んな事を確認しに来てるんだ。小さな事も見逃せない。
「げっ……」
横に回って見えた顔はそれそれはもうなんというか……って顔だった。いや、元々マッドサイエンティスト顔してるから、汚い顔を歪めて、もしかしたらコレが統括の笑顔––なのかも知れない。けど確かにこれは見せられないかな。
流石にクリエの奴も泣いちゃうかもしれないしね。でもやっぱどこか邪悪を感じるというか……すると統括の奴は小声で何かをぶつぶつと言い出す。気づくとそれと全く同じように苦十の奴の口が動いてた。その様に注視する僕。苦十の奴の唇はピンク色でふっくらツヤツヤしててなんかやらしいな。
それに比べて統括の奴の唇は色も紫色だし、カサカサだし、しわしわだし……なんて差。いや、比べるのもおかしいだけど、何を言ってるのか理解しようと注視するなら、自然と苦十の方に行っちゃうよな。
不気味な奴だけど、見た目が悪い訳じゃないし、部分部分はマジ女だもんな。そう思ってると、再び金色のゴーレムが動き出す。統括が口ずさんでるのは呪文的な何か……なんだろうか? でも錬金で呪文って今まで無かった筈だけど……けどあれか、昔の錬金はハイブリッド方式だったようだし、魔法の名残が残っててもおかしくはない。
それかあえて、残してるとかね。難易度高めに設定するために、マイナーな事を残してるってのは時々あるよね。
そして金色のゴーレムはその硬そうな体……厳密には頭部分を上へ向けるそして開いた口。顎が外れたんじゃないかと思うほどにズレた口から何か野太い声––いや、詩が響く。それは合唱の様に聞こえる。一人の声じゃない。元からゴーレムに組み込まれてたんだろうか? すると台座の上方に何かが出現しだす。空間が歪んで、パレットの上で絵の具を混ぜたみたいに成ってる。
三体のゴーレムが手を結ぶその上方……空間を超えて繋がってるゴーレムが新たなる空間を繋げてるのか? あれが魔鏡強啓の扉?
「ではしばし行ってくるである」
そう言った統括が足を踏み出すと、その足は地面の数センチ上で止まる。そして体を持ち上げて逆の足を前へ。その足もまた地面よりも高い位置で止まった。これはきっとあるんだろう。見えないけど、そこには階段らしきものが。
そして第一の研究員達はそんな統括の後に続く。
【なにやってるんですか? 我々も続きましょう】
「お前……情報はとれたのか?」
【勿論。後は魔鏡強啓の最大の謎に迫るだけです】
いつの間にか統括から離れてる苦十。そして触れてた手をゴシゴシと拭いてるし……やめろよな。流石にあんなマッドサイエンティストでもそれはちょっと可哀想だぞ。
「なあ、僕達もちゃんと行けるのか?」
【それは問題ないでしょう。私達はここには存在してない。見てるだけ、なんですよ。まあ私は、色々と出来ますけどね】
「存在してないから、あの空間の向こうに行くのも自由って訳か」
【ええ、ついていく事自体は自由ですよ】
そう言って苦十の奴も第一の後に続く。自由だと行っても扉が開いてる状態じゃないと行き来は出来ないだろうからな。第一の最後の人が入った直後に扉が消えたら大変だし、ピッタシとくっついていかないとな。
僕も苦十に続いて見えない階段に足を掛ける。するとその時だ。
『スオウ』
自分を呼ぶ声が聞こえた……そんな気がした。普通にこの時間の僕を誰かが呼んだのかもしれない。けど……今の声、どこか聞き覚えがあるような気が……すると今度はどこから視線を感じる。僕は周囲を見回すよ。
声なら、広がってく物だから、どこかの僕に向かって言ってたら、こっちの僕にはふんわりとしか伝わらない物だけど、視線はそうは行かないだろ。明らかに今……見られてる気がした。そんな訳ない筈なのに……今、ここに居るこの時間の皆には僕の事を認識する事なんか出来る筈ないんだ。それなのに、見られてる? 僕は街の地図と映像が出てる場所に視線を移す。するとそこにはこの時間の僕達のいる場所映像、そしてもう一方のゴーレムの方の映像に、主要な場所の映像がそれぞれ出てる。
その中には人気の無くなった街ミニゴーレム達が繰り出してるのが見て取れる。
「ミニゴーレム……そういえば……」
そういえば町中に突如出現した石塚みたいな物……あれって多分このミニゴーレム達だよな? それはまあいいんだけど、あの時、なんだかこっちを見てたミニゴーレムが居たような。
【どうしたんですか? 早く行かないと置いて行かれますよ】
「わかってる……わかってるんだけど」
【気になることでも? しかし、この先はとても重要です。これからを左右するほどに】
「それもわかってるよ」
全部わかってるさ。魔鏡強啓零項は逆転の為の一手だ。見逃すわけには行かない。これを逃したら、きっと詰むだろう。チェックメイトを自分で宣言する様な物だ。わかってる……優先順位くらい。
でも、自分のどこかがモヤモヤざわざわするのも本当なんだ。けどこれはただの直感で、理路整然と説明できるような物じゃない。納得なんてさせれない。だけど次の瞬間、苦十の奴はこういった。
【可能性を感じるんですか? それなら別に行ってもいいですよ】
「いいのか?」
びっくりだな。でもそういえばこいつ可能性マニアだから、それっぽく言えば大丈夫だったかも知れない。でも自分でもこの直感を信じて行動したほうがいいのか迷ってるから、結局はそう言って貰わないと動けなかったかもしれない。
【別に、どうせスオウじゃ理解は出来ないでしょうし】
「それは……否定出来ないけど……」
もっとまともな理由を言えよ! 悲しくなっちゃうだろ。そもそもLROの文字さえまともに読めないしな。魔法も理解してない! 錬金なんてさっぱりだ。その僕が、錬金の最高峰、神に迫る力を目指せる魔鏡強啓零項を理解とか……出来る訳ないな。
【だから他に感じる可能性があるのなら、行けばいい。私はスオウのその可能性を嗅ぎ分ける嗅覚みたいなのも信じてますので】
「お前……褒めてるのか貶してるのかわからないな」
なんだよ嗅覚って……僕は犬か?
【褒めてるんですよ。可能性というものはどこから降ってくるか分からないじゃないですか。それに気付く人と、気づかない人が居るんです。スオウはきっと気付く人なんでしょう。どうぞ、自分を信じて行動してみてください】
そう言って苦十の奴は第一の後についていく。そして僕は階段から足をおろした。この行動が正しい事なのかはわからない。けど、苦十の奴はあれでも信用は出来る奴だ。可能性ってやつに一番固執してるしな。
それを見る為なら、協力はしてくれる。だから僕は見せなくちゃな。
「でもどうやって外に出るか……」
ここは別位相空間らしいからな。今の存在の僕じゃ単独で飛び越えれないぞ。そう思ってると、セスさん達、治安部の人達が動き出した。どうやら護衛対象がいなくなったし、街の方にまでミニゴーレムが出たから、その対策に外に向かうようだ。
これはチャンス。
「我等も地下への出入口を使って外に行く。君達はどうする?」
「お、俺達はまだ調べる事がある。辿り着いてみせるさ、自力でな!」
セスさんの言葉にそう返す所長。その位の維持は見せてもらわないとな。ってことで僕も治安部の人達にくっついてブリームスの街へと戻った。派手に光る街で、大きく響く音は、僕達があの黒い奴と戦ってるって事だろう。
本当なら、この時に皆が消えるのをどうにかしたい。けど、それは無理で、そしてきっと意味は無い。僕達はここでは負ける。今の時間の僕達はレシアの手のひらの上で踊ってるだけなんだ。だけど、それを未来で覆す。
負けたままで終われない。だからここに居るんだよ。
「はっはっ」
僕は必死に走って戦闘中の場所に近づく。そこら辺であのミニゴーレムに会ったからな。するとその途中で感じる視線。僕は走るのを止める。すると路地からゴロゴロと言う音が近づいてきた。そしてそのミニゴーレムは僕の目の前で止まる。
「まさか、本当に見えてるのか?」
僕のその言葉にミニゴーレムは何も示さない。だけど、その瞳は僕を捉えてるようにしか見えないんだ。周りには沢山の石塚が築かれてるのに、このミニゴーレムだけはそうは成らないし……何かが違う。そうなんだろう。
するとミニゴーレムは再び進みだした。僕はその後についていく。
「ここは……第四研究所」
ミニゴーレムの後を追って辿り着いたのはまたもここだ。ほんとよくよく縁がある。既にどんだけだよと言いたい。実は一番重要は場所なんじゃないだろうか? 僕はそんな文句をつぶやきつつ、ミニゴーレムの後を追う。
我が物顔で上がり込むミニゴーレムは壁に向かって進んでいく。そしてその腕を壁に向かって伸ばして、何かを描いた? するとそれに壁が反応して、空洞が開いた。
「隠し部屋か……」
でもどうしてこのミニゴーレムがこんな事を知ってるんだ? 色々と疑問はあるけど、僕は後についていく。するといつの間にか、前を進んでたゴーレムが崩れてしまってる。一体どうして……と思ってると、後方で激しい光が……まさか、消滅の時がそこまで迫ってるのか!?
僕は勢いを増して走りだす。その時思わず崩れてしまってたミニゴーレムを踏んでしまった。ゴメン––と思った時、同時に頭に聞こえる声。
そして視界に見える何か……
『持って行ってくれ。あの日の感謝の印だ』
僕は手を伸ばす。でもその瞬間、過去と言う空間が切り裂かれた。全ての光景が真っ白に成って消えていく。気づくと僕達は零区画に戻ってた。そしてそこには刀を構えた凛の姿がある。
「見える見えない、あるない、などそんなしがらみなど関係ない。我の望みの全てを断ち切る刀。それこそが天叢雲剣だ」
まあインテグは今の所、クリエに張り付いて動いちゃいないけど……僕やロウ副局長が居ない所を見るに、今はこの真の零区画の機能を使って飛び出した後って事なんだろう。って事はもうすぐの筈だ……もうすぐ、魔鏡強啓零項の扉が開く。
そう思ってると、中央にある金色のゴーレムが動き出す。そしてその背中合わせの場所には残り二つの像が透けて見えてた。それはやっぱりリンクしてるって事だよな。ざわめく周囲。ゴーレム達はその腕を伸ばしてそれぞれを組んでいく。こっちから見てる分には三体が揃って見えるから、それほど違和感はない。
けど……別の場所、残り二体を据え置いた地下の方で見ると「一体何が起き始めたんだ!?」って感じだったけどな。この時向こうでは腕が空間突き破ってたしな。だけどここから、ブリームスに溢れてた力の解放が始まるんだよな。するとこの場所が激しく揺れ始めた。
突然の事に皆びっくりしてる。そしてそれは当然僕達もだ。一応こっちにも影響はあったんだな。多分いま、外のほうではブリームスが輝きだしてる筈だろう。飽和してた錬金の力を消化する為に。でも今回はただ消化するんじゃない。
そのためだけに光ってるんじゃないんだよな。積層魔法陣は発動し、大きな流れが意図的に形作られてる。それは魔鏡強啓零へと至る道だ。すると、狂った様な笑いが聞こえきた。
「フェフェッ……フェフェフェフェフェフェ……フェ〜フェッフェッフェッ!!」
変な声で笑うそいつは第一研究所の統括。このブリームスの研究者の頂点に位置する狂った爺さんだ。そう言えば……だけど、本当にこいつらは何がしたかったのかそこら辺はまだ判明してないような?
魔鏡強啓零項の為にどっかにこの後消えるはずだけど、その後に起きたブリームス消失は、こいつらの所業なのだろうか? そうぽかったはずだけどさ、実際どこまで第一の算段だったのかはわかってないんだよな。
だって途中から全てを持ってったのはレシアの奴だったろ。アイツが……あの何もかも気怠そうにしてた奴が、実は全てを裏から操って錬金の力を……積層魔法陣を……三つの研究所の役割を奪って、そして創りだしたのがあの黒い法の書。
過去は変えることは出来ない。それはここでも同じだ。僕達は今、過去に居る。でも、本当に時間を飛び越えた訳じゃない。光の速度を追い越した訳じゃない。僕達はただ、LROという世界に残ってた情報を、愚者の祭典というアイテムで拾ってその時間の空間を作り出しているだけだ。
「さて、行くであるぞお前たち」
その言葉で統括の周りに第一の研究者達が集まってくる。その様子を見たセスさんがこういう。
「一体何を?」
「何とは愚かな質問であるな。君ともあろう者がだ。我等の目的はわかってるであろう。魔鏡強啓零項への到達。その準備が今整ったのである。我等第一はこれからその扉を開いて向こう側へ行く」
「そ、それなら私も!!」
図々しくも名乗りを上げたのはやっぱり所長。でも確かにんな話を聞いたら、研究者として同行はしたいだろうな。けど、この後も所長はこの場所に居たはずだ。となると––
「残念だが君では役不足であるよ。零項に手を掛ける資格はない」
「なっ……貴様!」
告げられた言葉にカチンと来たのか、所長は思わず詰め寄ろうとする。だけどそこでセスさんが所長を止めた。
「やめろ。お前が手を上げて良いような方じゃない」
「そんなの知ったことか。知る権利位分けてもいいだろう。優秀なら誰もが知ったって、抜きん出れるのだから問題なんて無い筈だ! それとも怖いのか? 我等第四研究所が!!」
「おい!」
流石は所長、こんなバトルやってたのか。でも研究者としてここは退けないよな。なんせ目指して来た場所に行けるんだ。待っときます––なんて納得出来ないよな。それに所長の言うことはある意味最もの様な気もする。
第一には天才があつまってるんだろう? それなら、第四とか怖くもない筈。同じスタートに立ったってぶっちぎれる自信があるのなら、別に連れて行っても良いような気はする。自分たちが開発した事とかを独占するのはわかるけど、それは全てじゃなくていいだろう。
元になるようなものは公開して広く広めるべき。そうした方が裾野が広がるだろうに……
「フェッフェッフェッフェ、怖い? 第四研究所が? ファファファッファファファ! 奢るな小僧!! 理解も出来ない物を広めてどうするのである? 貴様らには零項は理解出来ない代物である。我等が! 我等しか分からなぬ。理解出来ぬ!
怖いなどでない。我等第一にしかその能力がないのである!」
シワくれた顔の奥の瞳に見える炎。その炎に怯むのが所長だ。だけどそんな所長に変わって出てくるのがフランさんである。いいコンビだ。
「能力って、確かに私達には実績も何もないですけど、能力であなた達第一に劣ってるなんて思ったことは一度たりともありません!」
「助手……」
フランさんのその言葉に思わず頭を抱えるのはセスさんだ。「この二人は何を言ってるんだ」的な顔をしてる。統括の機嫌を損ねるのは不味いと、彼は思ってるんだろう。なんだかんだいって、この三人は友達みたいだもんな。心配してくれてるんだろう。
「ふぇっふぇ、どれだけ幻想を抱こうとも、誰がそれを信じてくれるであろうか? この街の皆は、我等に、この第一研究所に未来を託してくれてるのである。もしも貴様らが手を上げた所で、この街の誰が、我等第一よりも第四を選ぶであろうか? それが全てであるよ。
何も残したことのない者達に、抱かれる希望などない。お主達せいぜい、お主達を信じる仲間の為に動けばいいのである。小さな小さな信頼を勝ち取っておけ」
統括の言葉に二人共「ぐぬぬ……」と唸ってる。何か反論したいんだろうけど、言葉が出てこないようだ。まあしかたないな。向こうも大概正しかった。第一と第四じゃ、比べ様もない位に信頼や実績の差があるんだろう。
第四だってこの街を救った実績があるんだけど、それはもう結構昔の事のようだし、それにそれがあったのに、まだ第四とかだしな。そもそもそれを無したのはこの二人じゃない。こっちに来たいのであれば、実績を示せ……それはまぁ正論だ。
それに今、この状況の全ては第一の統括に委ねられてる。全ての決定権は統括にある。いくら声を大にして所で、第一至上主義の統括が、流石に錬金の最大の可能性とも言える魔鏡強啓零項までは自分たち以外には見せられないか。
ハッキリ言えば、ここまで所長達を連れてきたのだって統括のサービスみたいな物だしな。これ以上は流石に無理。
「では皆の衆、指輪を掲げよ」
そう言った統括に従って第一の皆さんが指輪を掲げた。そして統括は自信の腕を黄金のゴーレムへと向ける。
「さて、隠し機能の出番である」
ぼそっと聞こえたそんな声。僕は苦十と頷き合う。見逃せないぞここは。僕達が進むために必要な情報だ。僕達も手にしなきゃいけない。魔鏡強啓零項を。
「ふぇっふぇっふぇ」
「っ!?」
統括に近づいてみるとびっくりした。何故なら、統括の眼帯が開き望遠レンズみたいに飛び出して、そしてその周りには幾つもの目みたいなのがギョロギョロとしてる。やばいよこれ。もしかして隠し機能って指輪じゃなく、こっちか? 流石に僕にはこんな機能ないぞ。どうする。そう思ってると苦十の奴が統括の肩に手をおいた。こいつは何にだって溶け込む、なれる。そして得られる。だからきっと何かを得てるんだろう。
まあこの場合、盗んでるって言ったほうが正しいような気もするけどね。そう思ってると、統括の指輪から今までとは違う紫系の光が粘っと垂れてきた。そしてそれは拡散して、第一の他の研究者の指輪に移る。
あれかな? 識別? だってそうしないと、所長の奴がこっそりと指輪掲げても行けそうだもんな。それを防止するための策かも知れない。苦十の奴はまだ手をおいたまま。こっちには何のサインもくれない。
するとここでちっちゃなちっちゃなクリエが声を出した。
「ねえおじちゃん。おじちゃんはちゃんと助けてくれるんだよね? 救ってくれるんだよね?」
「…………ふぇっふぇ、ああ、勿論であるよ」
振り返らずにそう言った統括。でも背中を向けたままってのは……僕は気になって前に回って見た。こういう時って大抵、動かない物だけどさ、今の僕は誰にも見えてないからね。それに色んな事を確認しに来てるんだ。小さな事も見逃せない。
「げっ……」
横に回って見えた顔はそれそれはもうなんというか……って顔だった。いや、元々マッドサイエンティスト顔してるから、汚い顔を歪めて、もしかしたらコレが統括の笑顔––なのかも知れない。けど確かにこれは見せられないかな。
流石にクリエの奴も泣いちゃうかもしれないしね。でもやっぱどこか邪悪を感じるというか……すると統括の奴は小声で何かをぶつぶつと言い出す。気づくとそれと全く同じように苦十の奴の口が動いてた。その様に注視する僕。苦十の奴の唇はピンク色でふっくらツヤツヤしててなんかやらしいな。
それに比べて統括の奴の唇は色も紫色だし、カサカサだし、しわしわだし……なんて差。いや、比べるのもおかしいだけど、何を言ってるのか理解しようと注視するなら、自然と苦十の方に行っちゃうよな。
不気味な奴だけど、見た目が悪い訳じゃないし、部分部分はマジ女だもんな。そう思ってると、再び金色のゴーレムが動き出す。統括が口ずさんでるのは呪文的な何か……なんだろうか? でも錬金で呪文って今まで無かった筈だけど……けどあれか、昔の錬金はハイブリッド方式だったようだし、魔法の名残が残っててもおかしくはない。
それかあえて、残してるとかね。難易度高めに設定するために、マイナーな事を残してるってのは時々あるよね。
そして金色のゴーレムはその硬そうな体……厳密には頭部分を上へ向けるそして開いた口。顎が外れたんじゃないかと思うほどにズレた口から何か野太い声––いや、詩が響く。それは合唱の様に聞こえる。一人の声じゃない。元からゴーレムに組み込まれてたんだろうか? すると台座の上方に何かが出現しだす。空間が歪んで、パレットの上で絵の具を混ぜたみたいに成ってる。
三体のゴーレムが手を結ぶその上方……空間を超えて繋がってるゴーレムが新たなる空間を繋げてるのか? あれが魔鏡強啓の扉?
「ではしばし行ってくるである」
そう言った統括が足を踏み出すと、その足は地面の数センチ上で止まる。そして体を持ち上げて逆の足を前へ。その足もまた地面よりも高い位置で止まった。これはきっとあるんだろう。見えないけど、そこには階段らしきものが。
そして第一の研究員達はそんな統括の後に続く。
【なにやってるんですか? 我々も続きましょう】
「お前……情報はとれたのか?」
【勿論。後は魔鏡強啓の最大の謎に迫るだけです】
いつの間にか統括から離れてる苦十。そして触れてた手をゴシゴシと拭いてるし……やめろよな。流石にあんなマッドサイエンティストでもそれはちょっと可哀想だぞ。
「なあ、僕達もちゃんと行けるのか?」
【それは問題ないでしょう。私達はここには存在してない。見てるだけ、なんですよ。まあ私は、色々と出来ますけどね】
「存在してないから、あの空間の向こうに行くのも自由って訳か」
【ええ、ついていく事自体は自由ですよ】
そう言って苦十の奴も第一の後に続く。自由だと行っても扉が開いてる状態じゃないと行き来は出来ないだろうからな。第一の最後の人が入った直後に扉が消えたら大変だし、ピッタシとくっついていかないとな。
僕も苦十に続いて見えない階段に足を掛ける。するとその時だ。
『スオウ』
自分を呼ぶ声が聞こえた……そんな気がした。普通にこの時間の僕を誰かが呼んだのかもしれない。けど……今の声、どこか聞き覚えがあるような気が……すると今度はどこから視線を感じる。僕は周囲を見回すよ。
声なら、広がってく物だから、どこかの僕に向かって言ってたら、こっちの僕にはふんわりとしか伝わらない物だけど、視線はそうは行かないだろ。明らかに今……見られてる気がした。そんな訳ない筈なのに……今、ここに居るこの時間の皆には僕の事を認識する事なんか出来る筈ないんだ。それなのに、見られてる? 僕は街の地図と映像が出てる場所に視線を移す。するとそこにはこの時間の僕達のいる場所映像、そしてもう一方のゴーレムの方の映像に、主要な場所の映像がそれぞれ出てる。
その中には人気の無くなった街ミニゴーレム達が繰り出してるのが見て取れる。
「ミニゴーレム……そういえば……」
そういえば町中に突如出現した石塚みたいな物……あれって多分このミニゴーレム達だよな? それはまあいいんだけど、あの時、なんだかこっちを見てたミニゴーレムが居たような。
【どうしたんですか? 早く行かないと置いて行かれますよ】
「わかってる……わかってるんだけど」
【気になることでも? しかし、この先はとても重要です。これからを左右するほどに】
「それもわかってるよ」
全部わかってるさ。魔鏡強啓零項は逆転の為の一手だ。見逃すわけには行かない。これを逃したら、きっと詰むだろう。チェックメイトを自分で宣言する様な物だ。わかってる……優先順位くらい。
でも、自分のどこかがモヤモヤざわざわするのも本当なんだ。けどこれはただの直感で、理路整然と説明できるような物じゃない。納得なんてさせれない。だけど次の瞬間、苦十の奴はこういった。
【可能性を感じるんですか? それなら別に行ってもいいですよ】
「いいのか?」
びっくりだな。でもそういえばこいつ可能性マニアだから、それっぽく言えば大丈夫だったかも知れない。でも自分でもこの直感を信じて行動したほうがいいのか迷ってるから、結局はそう言って貰わないと動けなかったかもしれない。
【別に、どうせスオウじゃ理解は出来ないでしょうし】
「それは……否定出来ないけど……」
もっとまともな理由を言えよ! 悲しくなっちゃうだろ。そもそもLROの文字さえまともに読めないしな。魔法も理解してない! 錬金なんてさっぱりだ。その僕が、錬金の最高峰、神に迫る力を目指せる魔鏡強啓零項を理解とか……出来る訳ないな。
【だから他に感じる可能性があるのなら、行けばいい。私はスオウのその可能性を嗅ぎ分ける嗅覚みたいなのも信じてますので】
「お前……褒めてるのか貶してるのかわからないな」
なんだよ嗅覚って……僕は犬か?
【褒めてるんですよ。可能性というものはどこから降ってくるか分からないじゃないですか。それに気付く人と、気づかない人が居るんです。スオウはきっと気付く人なんでしょう。どうぞ、自分を信じて行動してみてください】
そう言って苦十の奴は第一の後についていく。そして僕は階段から足をおろした。この行動が正しい事なのかはわからない。けど、苦十の奴はあれでも信用は出来る奴だ。可能性ってやつに一番固執してるしな。
それを見る為なら、協力はしてくれる。だから僕は見せなくちゃな。
「でもどうやって外に出るか……」
ここは別位相空間らしいからな。今の存在の僕じゃ単独で飛び越えれないぞ。そう思ってると、セスさん達、治安部の人達が動き出した。どうやら護衛対象がいなくなったし、街の方にまでミニゴーレムが出たから、その対策に外に向かうようだ。
これはチャンス。
「我等も地下への出入口を使って外に行く。君達はどうする?」
「お、俺達はまだ調べる事がある。辿り着いてみせるさ、自力でな!」
セスさんの言葉にそう返す所長。その位の維持は見せてもらわないとな。ってことで僕も治安部の人達にくっついてブリームスの街へと戻った。派手に光る街で、大きく響く音は、僕達があの黒い奴と戦ってるって事だろう。
本当なら、この時に皆が消えるのをどうにかしたい。けど、それは無理で、そしてきっと意味は無い。僕達はここでは負ける。今の時間の僕達はレシアの手のひらの上で踊ってるだけなんだ。だけど、それを未来で覆す。
負けたままで終われない。だからここに居るんだよ。
「はっはっ」
僕は必死に走って戦闘中の場所に近づく。そこら辺であのミニゴーレムに会ったからな。するとその途中で感じる視線。僕は走るのを止める。すると路地からゴロゴロと言う音が近づいてきた。そしてそのミニゴーレムは僕の目の前で止まる。
「まさか、本当に見えてるのか?」
僕のその言葉にミニゴーレムは何も示さない。だけど、その瞳は僕を捉えてるようにしか見えないんだ。周りには沢山の石塚が築かれてるのに、このミニゴーレムだけはそうは成らないし……何かが違う。そうなんだろう。
するとミニゴーレムは再び進みだした。僕はその後についていく。
「ここは……第四研究所」
ミニゴーレムの後を追って辿り着いたのはまたもここだ。ほんとよくよく縁がある。既にどんだけだよと言いたい。実は一番重要は場所なんじゃないだろうか? 僕はそんな文句をつぶやきつつ、ミニゴーレムの後を追う。
我が物顔で上がり込むミニゴーレムは壁に向かって進んでいく。そしてその腕を壁に向かって伸ばして、何かを描いた? するとそれに壁が反応して、空洞が開いた。
「隠し部屋か……」
でもどうしてこのミニゴーレムがこんな事を知ってるんだ? 色々と疑問はあるけど、僕は後についていく。するといつの間にか、前を進んでたゴーレムが崩れてしまってる。一体どうして……と思ってると、後方で激しい光が……まさか、消滅の時がそこまで迫ってるのか!?
僕は勢いを増して走りだす。その時思わず崩れてしまってたミニゴーレムを踏んでしまった。ゴメン––と思った時、同時に頭に聞こえる声。
そして視界に見える何か……
『持って行ってくれ。あの日の感謝の印だ』
僕は手を伸ばす。でもその瞬間、過去と言う空間が切り裂かれた。全ての光景が真っ白に成って消えていく。気づくと僕達は零区画に戻ってた。そしてそこには刀を構えた凛の姿がある。
「見える見えない、あるない、などそんなしがらみなど関係ない。我の望みの全てを断ち切る刀。それこそが天叢雲剣だ」
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