命改変プログラム

ファーストなサイコロ

可能性の拡張

 丸く囲まれたテーブルに既に席についてる二十人位の人達。その人達は僕達が入って来ても微動打になどせずに、真っ直ぐにまるで機械かのような佇まいだった。それに全員が全員リーフィアつけてるから、それもなんだか不気味に見える要因かも知れない。
 てか始まる前にまでつけとく必要あるのか? と思う。なんかちょっと引いちゃうんですけど。それに顔も良く見えないしな。ある意味それが狙いな人達も居たりするのかな? まあ苦十のヤツを見るためにはリーフィアが必須ってのが一番だろうけど、ここに集まってる人達は調査委員会の中でも……いや、もしかしたらその範囲にとどまらずに色々と重要な人物が集まってるのかも知れない。
 このプロジェクトの中心というか、中枢の人達が––だ。僕なんかに顔を晒した所で何も出来はしないんだけど、まあ向こうの都合もあるんだろう。そもそも白衣っぽいの着てるの二・三人って所がな……後は全員スーツだからまさになんか大人な会議がはっじまるよー……みたいな雰囲気で重苦しく感じてるのかも。


「ではお二人は……いえ、お三方は中央の方へどうぞ」


 東雲さんがわざわざ苦十の奴も入れてそう言ってくれる。だけど肝心のあいつは、日鞠にダイブしてから見てないんだよな。幾ら呼んでも姿見せなかったし。プライドが傷付いて捻くれてるのかも知れない。
 機嫌治そうにも、あいつの事なんか殆ど知らないから、なんと声を掛ければもいいかわかんなかったから放置してた訳だけど(色々とやることもあったし)でもここからはアイツが絶対に必要だからな。なんとかして出てきて貰わない……と––


【じゃあ二人共お先に行きますね】


 普通にそう言って円の欠けた部分から中央へと進み出る苦十。この野郎、別に何とも思ってなかったのか? 普通に出てきやがったぞ。まあ気にしてたとしても、それを見せるような間柄にまで成ってる訳でもないだけかもしれないけどさ。


「取り敢えず出てきてくれたんだから良かったじゃない」
「……そうですね」


 確かに天道さんの言う通り出てきてくれたんだからそれでいいか。LROは色々と切羽詰まってるからな。苦十の奴はLROと直接的な関係はないようだから、後回しでも……僕達二人も中央に進み出る。そして三つ並んでる椅子に僕と天道さんは別れて座った。何故なら中央部分には既に苦十の奴が陣取ってたからだ。これってある意味リーフィア無かったら、僕と天道さんが仲悪いからそれぞれ離れて座ったように見えるよね。
 まあこの場でそんな見方する人は居ないだろうけど。


 僕達が席に付くと、重い空気が更に重く成ったような……てか誰か早く初めて欲しい。リーフィア越しでわかりにくいけど、なんか嫌な視線を感じる。誰も彼も自分の両隣の奴らとゴニョゴニョと何か話してて、会議の体を成してないぞ。
 そう思ってると東雲さんも中央に進み出て来てこういった。


「さて皆さん、緊急の要請に応じてくださってありがとう御座います。ですがこれはこれからの私達……いえ、この国のしいては世界を大きく変えるかも知れない事案なので、勝手な判断は出来かねると判断しました。
 リーフィアを通して見えているでしょう。その者の言葉を自分たちの耳で聴き、自身で判断をしてください。お願いたします」


 するとざわざわとする音が一層大きく成った気がする。自身で判断する……それが出来る人達……なのだろうか? すると円の中の一人がゴニョゴニョと言うよ。


「き、君ね、判断と言っても流石にここだけの判断で動くとなると……それに万が一、取り返しの付かない事態になった時は誰が責任を取るんだい?」
「そうですねぇ……そうならないように頑張りましょう」


 東雲さんのその発言に一層ザワザワと言う雑音が大きくなった。皆さん今の東雲さんの発言に相当不満があるようだ。まあそりゃそうだろう……誰も責任なんて物は取りたくないんだろう。職失ったりするのは嫌だろうからね。
 誰も彼もいい歳したオジサンっぽいし、家庭とかありそうだもんな。でも……当事者としてはこういう態度を見てると苛つく所がある。天道さんは流石大人なだけあって、何とも思ってなさそうに微動打にしない。だけど僕は内心「そんな事言ってる場合か!」と思ってた。
 自分の身が大切なのは理解するよ。だけど、アンタ達は世間からみたらLROに捕らわれた人達を救うって名目で集められたはずだろ。それなら救うことをもっと真剣に考えて欲しい。全員で協力すればまだ可能性があるかも知れない––それが見えてきたんだ。でもそれなのに……これからどうやって助け出そうと話合う前に、自分たちの身の安全を真っ先に口に出すのはどうなんだよ。


「君、それは無責任過ぎやしないか? もしも万が一が起きてしまったら我々が世間から攻撃されるんだぞ」
「ですが皆さん、それぞれに責任ある立場ですよね? ですからこそ、判断が出来ると思い集まって貰った次第です。何も責任の所在を今求めたりしたいわけじゃない。私が出来るのは皆さんを繋げて円滑に情報を循環させる事です。それが私の責任で役目。
 皆さん優秀なのですから、それぞれの役割を目一杯果たしてくれればいいじゃないですか。失敗は怖ろしい……ですから全力を尽くしましょうと提案します」


 東雲さんのその言葉でザワザワとしてたこの場に静寂が訪れる。皆さん自分がどれだけ恥ずかしい事を言ってたか自覚したんだろうか? てかやっぱりここに集まったのはそれなのに責任ある立場の人達なんだな。だからこそ責任に敏感なのかもしれないな。誰もがその部署というか……そういうところの責任者クラスなのかも知れない。
 責任者は責任を取るのが役目だもんね。最近は責任とってる責任者とかあんま見ないけど。するといきなりぱちぱちと耳に届く静かな拍手。それはどうやら苦十の奴が鳴らしてるようだった。


【素晴らしいじゃないですか。やってもいないことに、やれないを呈すよりやるべきことに全力を注ぎ込む。どう考えても後者の方が可能性が有りますよ】


 なんだこの可能性マニア。いや、賛同はするけどさ、多分ここの人達は、不確かな可能性だけじゃ、踏み出せない人達ばかりなんだと思う。社会や会社に適応していくって事は、リスクは最小限にするべきだと植え付けられるものなのかもしれない。
 よくわからないけど……リスクばっかりも取っては居られないだろうしな。


「それじゃあ聞くが……成功する可能性はどの位なんだ? そもそも全てをその子供に預けると言うのが無理がある」


 その言葉と共に注がれる僕への懐疑的な視線。それはまあ、ご尤もだとは思う。自分でもさ、全部を押し付けないでと思うもん。やるよ……勿論全力でやる気だ。だけど、フォローはお願いしたい! 自分だけの力なんてたかがしれてる。だからこそ、こうやって優秀であろう、人生経験も自分よりも豊かであろう方々を頼ってるんだよ。
 わかってほしいよな……戦ってるのはアンタ達だけじゃないって事。そしてきっと覚悟なら、僕達のほうが出来てる。


【可能性ですか……そうですねぇ、それは今のままでは数%といったところじゃないでしょうか? ハッキリ言ってそれだけ状況は絶望的です】
「はっ……はははは。数%だと? そんなのやるだけ無駄な数字じゃないか! ねぇ、皆さんもそう思いますよね?」


 苦十の言葉を聞いたその人が、周りをけしかけるようにそう言った。でも確かに、そう思うのも無理は無い数字だ。けど……嘘じゃない。実際その位だろう。いや、寧ろ苦十でも盛った方かも知れない。一%以下位が妥当の様な……ここの人達は数%で絶望するだろう……けど僕は数%で望みを持てる。
 それはきっと力の差をこの身で嫌というほど分かってるから……絶望的な差を僕は知ってる。そこには可能性なんて物を感じる事は出来なかった。だけどそれは……僕一人での場合だ。人一人の力なんてたかが知れてて、幾ら優遇されてたとしても、世界のルールにさえ縛られない彼奴等相手には届かない。
 それをこの身を持って知ってるんだ。だからこそ、必要なんだ。何も知らない……誰かじゃない。僕達の様な子供じゃない。一人の様な個人じゃない。僕には見える。彼等の心が後ろへと遠のいていくのが。繋ぎ止めないといけない。ただ利用するだけ……そう思ってたけど、やっぱりそれじゃ駄目なんだ。僕達なんかは、それぞれで挑んだって勝てるわけない。仲間か仲間じゃないかの線引なんて僕達にはやってる余裕なんてないんだ。
 だから……全部を味方につけるんだ。そうじゃないと戦えない。僕は静かに立ち上がる。


「確かに僕なんかに何かを賭ける価値なんかきっと無い。僕は何も特別じゃないし、人より優れた部分なんか何もない。だけど……それでも諦めきれない奴等が居るんです。それは誰よりも大切な奴で、僕が助けないと行けない奴……正直、僕のこの二つの手じゃ、きっとそれが……その二人が限界で、その二人も難しい。
 秋徒の奴にも愛さんにもどうしても救いたい奴がいて、そして天道さんにも……僕達は大切な人達を諦めきれないから、そんな数%にだって希望を見つける。その為に手を取り合うんです。だけどそれでもきっとまだ足りない。‘みんな’は救えない。
 皆さんはLROに捕らわれた人達を救うために集まったんですよね? それなら……‘みんな’をお願いします。手を貸してください。全部いっぺんに救うために、皆さんの責任を果たすためにも、僕達だけじゃ数%でも、貴方達が協力してくれたら可能性が広がる。だから……諦めないでください!!」


 自分の下げた頭に、どれだけの重みがあって、どれだけそれが伝わるのかなんて分からない。だけど下げないと伝わらない事があるのなら、それを恥ずかしいだなんて思わない。自分の為には躊躇っても、大切な物の為なら自分なんて捨てられる。
 捨てられないのは……繋がりだ。


「殊勝な態度で行くのね。でも、小細工なんて大人がするものだし、いいかもね」


 そう言って天道さんも頭を下げてくれる。本当はもっと違った。もっと違うようにしようと思ってた。だけど……僕は勝手に変えた。でもそれでも、天道さんは受け入れてくれた。口にしなくても、伝わる思いは確かにある。
 口にすれば伝えれる思いはいっぱいある。そして伝えきれない思いは、行動で示すしかないんだ。


「頭を下げれてもねぇ……責任とは子供が思ってるほどに軽くはないし、犠牲をこれ以上増やすような事はしたくはない。安全にどうやればLROから犠牲者を救い出せるのか、それを少しずつでも我々は手繰り寄せれればそれで……」
【そんな可能性はない】


 響き渡る声は大人達の堅実な道を切り裂く。堅実で逃げ腰な道を崩壊させる。苦十の言葉は紛れも無くそれだけのインパクトがあった。


「君……おかしいだろ。そんな可能性が無いなんて……」
「ええ、そうですよ。可能性がなくなる事なんて理論上あり得ないんですよ。危険を犯すことよりも、現状維持だって大切な……あっ」


 嫌な言葉が漏れた。それはきっと言っちゃいけなかった筈の言葉だろう。静まり返るこの場。誰もが僕達から視線を外す。おいおい、現状維持でもいいのかよ。まあ限りなく遅い進みしか期待してないってことかも知れない。それでもいつかは……ってな考えなのだろうか。
  するとフォローするように東雲さんが口を開く。


「現状維持を良しとしてるわけではないんですよ。ただ慎重を気さなければいけないんです。既に犠牲者は君達も見ての通り、ここから更に被害を拡大させることは出来ない。それこそ責任問題ですからね。
 幸いLRO側が扉を閉めたので、それ以降の犠牲者は居ませんが、これ以上増やすわけには行かないんです」
「だけど……慎重を気してると言っても、なんの成果も挙げられないんじゃ意味は無い。成功する見込みが責めて半分もあれば、我々も考えるのですけど」
「確かに、半分は欲しい……」
「けど結局半分の確率に賭ける事が出来るのか? 誰が行くんだ? そこの子供とお仲間だけか? それも問題だ」


 色々とどんどん声が増えていく。討論というか議論の熱が入ってきたようだ。それぞれの立場も要求もあるようだからな。人数が多いと足並みを揃えるのも難しいはず。


【皆さん的外れですね。さっきも言ったはずですよ。悠長にして得られる可能性など無いと】


 周囲の熱を切り裂く低く鋭い声が再び振り下ろされる。そしてきっと苦十の奴は僕と天道さんが立った事で空いた二つの椅子に腕を伸ばし、足を組んでふんぞり返る。おいおいどこの裏社会のボスだよってポーズ取ってるぞ。これで葉巻でも加えてたら完璧だな。
 そう思ってると、ふと目が合った僕に対してウインクをして来た。なんだ? 「任せとけ」みたいな感じか今の? ここは苦十に頼るしか無いか……頭を下げて誠意を示す……だけどそれだけで思い通りになるほど、いい人ばかりでもなければ、受け入れれる立ち場の人達ばかりでもない。僕達の可能性を示して、心を動かすことだって勿論必要だろう。
 悠長にやる時間がない……その根拠があるのなら、選択肢は限られる。成果が必要じゃない訳がないし、誰もが戻れなくその時が直ぐそこまで迫ってるのなら、それを被害者家族に隠すのは……そして当然それをしれば、行動を求める。
 まあここの人達が隠し通して、最終的に被害者を衰弱死に持って行かないとも限らないけど……出来るだけLROとリーフィアを研究したいが為に。そうなると本当に被害者が実験動物になるな。それは最悪の事態……全てを諦めた上で体裁だけ取り繕う……そんな事は許しちゃいけない。苦十にはあるのか? 僕達が手を取り合える案が?


【皆さんはどうやら分かってないようですね。単純にどうあれLROは手の届く、いいえリーフィアがあれば行ける場所にあると思い込んでる。それにスオウという存在も貴方達にとっては都合の良い材料なのでしょうね。
 スオウが居ればLROへの道が繋がる。中のデータも定期的にでも取れるだろうという考えがある。子供の機嫌を取って懐柔するなんて容易いと、そんな腹黒い心が見えますよ】


 僕の視線から逃げてく周りの大人達の視線。苦十の言葉はあながち的外れちゃ居ないようだ。まあ分かってたけど……手を取り合おうと譲歩すること、それはこの人達には都合いいだろう。だけどそれでも本気で協力を一回だけでもしてくれればそれで良かった。
 もしもその一回で失敗して、何度も何度も期待もされずにLROに飛び込む事になっても、それが思惑どおりでも、最悪だけどいいんだよ。
 そんな事を静かに思ってると、誰かが会話の続きを促した。


「腹黒いとは心外だが……今大事なのはそこじゃない。君の言葉から察するに、LROへはいけなくなるのかな?」
【そうですね。LROは繋がりを断とうとしてるます。世界を改変すると言うことは全てが変わるということですよ。どうして今までのように手が届くと思えるんですか? もしもLROが改変されたらその時点でゲームオーバーです。
 LROは消え去り、リーフィアはその存在意義を無くしてしまう。そして当然、捕らわれた人達は永久に戻ってこない。そしてついでにこの国の思惑も貴方達の価値も一気に無く成ってしまいますね。次の職探しでも頑張ってください】


 全然同情なんかしてない感じの口調で苦十はそう言ってのけた。堂々とした不遜な態度が、そこに偽りはないみたいな感じを醸し出してる気がする。だからか、誰も苦十に言葉は掛けずに近くの人達と話し始める。
 切羽詰まった事で方向性が変わるだろうか? いや変えなきゃいけない! 僕は喋る言葉を考えずに口を開こうとした。するとその時大きな笑い声が響き渡った。


「はーっはっはははは! この歳で無職ですか? それは少しばかり困りますね。皆さんもそうではないですか? ここは少し、その可能性とやらに耳を傾けて見るべきではないでしょう?」
「たった数%の可能性に賭けろと言うのか!? バカバカしい! そんなのは可能性などとは言わない。絶望だよ! 失敗を前提にしてるような物だ! その子はもっと有効に使うべきだろ。たった一度の賭けに出るよりも、その子の体や頭、それにリーフィアを調べればもっと貴重なデータが取れる! そこから別の方法が見つかるかもしれない!」


 円形状のテーブルを囲ってる一人のそんな熱り立った言葉に、チラホラと賛成する人達が居る。だけどそれで何か得られるのか? 甚だ疑問だ。てかそんなデータは僕が落ちてる間に取ったのではないだろうか? それで何か得られたのか? 可能性の使い方を間違ってるよ。それは可能性じゃない、ただの身勝手な願望だ。


【もしもデータが何かを示したとして、その解析に何年? 検証に何年? 更に試験に……そして救出に何年掛かるのかしら? ハッキリ言って貴方達が束に成ってもそれは無理。天才と秀才の違い位分かってるんじゃないのですか?
 貴方達が束に成れば一を十にも百にも千にも出来るのでしょう。だけど、零から一を生み出す事は出来ない。LROという一を欲してるのなら、取り返すしかないのです。天才が残したその一を得る可能性に賭けるか、それとも自覚してるであろう無謀に虚しく挑んで、誰も救えずに終わるのか、選んでください】


 この人達が万が一にでもLROやらリーフィアに辿り着くことはないないのだろうか? 無謀って完全に言い切ってるぞ。だけど不思議な事にその事について反論する声は聞こえては来なかった。なんでも出来る……なんだってやれる……そう思えるのは子供の内だけなのかもしれない。この人達はもう大人で、自分に何が出来て何が出来ないのか……それさえも分かってるのかも知れない。
 僕は握りしめた拳を胸に持っていく。


「助けてください……皆を……僕達を!! 必ず成功させてみせます! 僕一人じゃないのなら、僕達だけじゃないのなら、可能性はきっと無限大です!! そうだろ苦十!」
【そうかもですね。可能性領域を開いたスオウが全てを引っ張っていくのなら、可能性の壁を打ち破るかも知れないですから】
「よくわからないけど––って事らしいです!」


 取り敢えず自信満々に言ってみた。すると弱々しい声が、どこかから聞こえてきた。


「君は……怖くないのか? 君が一番危険なんだぞ! 死ぬかもしれない……のに……」


 周りからの視線が刺さる。死という言葉は、いつもならリアルティなんかない冗談みたいな言葉だ。だけどこの空気は違う。死をそこに感じる空気だ。誰も笑ったりしない……茶化したりしない。厳然とそこに死はある。
 それだけの重みを感じる。だけどそれはもう乗り越えた事だ。だから僕の口はスムーズに動いてくれる。


「怖くない……わけなんてない。だけど僕はもう生き返ってるんですよ。だから僕を生き返らせてくれたヤツを見殺しになんか出来ない。僕がここにこうやって生きてるのはそいつのおかげだから、僕は生き続ける間、絶対に助けるって決めてるんです」
「……私だって……助けたくない訳じゃない。助けたく無い訳じゃないんだ!! ただどうしても慎重に成らざる得ない。それだけ危険で謎に包まれてる。それに世間の目もある。大変なんだ我々だって!」


 一人のそんな言葉に漏れ始める不満。


「ああそのとおりだ。マスコミの連中は何も分かってない! それにそのマスコミに簡単に誘導される世論もだ! 簡単に状況はどうなってるのかとか……そんな簡単に何か分かるわけ無いだろ!!」
「それに上だって国家プロジェクトならもっとマシな研究所をだな。設備はいいが狭いだろ!」
「こっちなんてそのマスコミにどれだけ情報規制で動いてるか! どれだけ金を積んでも他人の口を完璧に塞ぐことなんか出来ないんだ!」


 色々と皆さん大変そうで……完璧な待遇で迎えられてる訳でもない無いんだな。いや、研究者達には完璧な待遇してるのかも知れないけど、だからこそ情報が入ってきやすいのかも。研究なんて物は静かにやったほうがいいのかもしれない。
 なまじ外と簡単に繋がれるからこそ、批判やらなんやらも耳や目に入りやすくて、それがプレッシャーとかに成ってるとかな。だけどこの不満の暴露は意味があるのか……そう思ってるとダン!!っと天道さんが床を踏み叩いた。その音に不満の声がかき消される。


「愚痴愚痴、愚痴愚痴と……一つハッキリさせようじゃない。協力するのかしないのか! 私は当夜を助けたいのよ!」


 彼女の肩までの黒髪が揺れる。大きく叫んだ口からは空気を使い果たしのかゼェゼェと言ってた。でも今のは紛れも無く天道さんの心の叫びだろう。嘘偽りのない真っ直ぐなソレだ。それはきっとただの子供が喚くのとは違う。
 色んな理不尽を知ってる、同じ大人が叫び意味は多分違うんだ。


「どう……すると言うんだ。私達が加わった所で、LROで有効な手立てなんて……」


 心が動き出した。彼等の心は傾いてる。出来ることならある。きっと幾らだって。


「探しましょう。今は苦十もいるし、それにLROから持ち帰ったデータに法の書も有ります。他にも皆さんには僕達にはない、権力とか色々と有りますしね」
【私も欲しいな〜権力】
「お前が言うと怖いんだよ苦十」


 そもそも何に使うつもりだよ。絶対にろくでもない事考えてそうだ。そう思ってると僕達が入ってきたドアじゃない別のドアが開いてそこから、痩せこけた頬の人達がなだれ込んできた。


「スオウくん! 今のは本当かい? 本当に法の書があるのかい!?」
「その声……まさか佐々木さんですか? てか皆さん随分とまあ……」


 軽く引くくらいに悲惨な姿に成っちゃって……でもやっちゃったことを考えればこうなるのも無理ないのかも知れない。犠牲者を多く出して、それが世間にバレたんだもんな。随分叩かれただろう。


「ごめんなさい。僕が上手くやれてれば……」
「それはいいよ。敵は巨大過ぎた。我々の予想を遥かに超える程にだ。マザーにも見捨てられて、もう終わったんだと思ってたよ。けど……法の書があるというのなら……」


 皆さんやせ細った体を震わせてる。それだけ法の書というアイテムは重要だということだろう。シクラも何よりも法の書を優先してたしな。


「有りますよ。それにそれだけでもないです。だから、皆さんの力ももう一度貸してください!」
「……それは違うよスオウ君」
「え?」


 すると皆さんが一歩引いて背筋を伸ばす。そして一斉に頭を下げた。


「「「今度は私達がお願いする番だ。私達にも協力させてくれ!! 責任を取りたいんだ!!」」」


 一斉に頭を下げてくる皆さん。けど……前もお願いする側だった様な。それを突っ込むのは無しか。すると僕が言おうとした言葉を東雲さんがその細目で取っていく。


「勿論そのつもりですよ。貴方達は一番LROと接してたはずですし、多少ながらも開発にも関わってる。その経験を活かしてください。いいですよね?」


 そう言って了承を求めるのは座ってる人達。まあ反対する人達が居るわけはないだろうけどね。佐々木さん達の経験は必要だろう。東雲さんが言ったようにそのスキルは貴重だ。繋がってく……そして広がる可能性。
 今や立ち向かうのは僕達だけじゃない。


【さて、最後のお祭りの始まりですね。最後に大輪の花火を咲かせるのは誰なのか……可能性を私に見せてください】






 燃えたぎる木々が真っ赤に染まる。周囲に充満する煙が肺を犯しつつ、目をも苦しめる。肌を焼くほどの炎がそこら中から燃えたぎってて、そしてそんな中、炎よりも濃ゆい赤い瞳を爛々と輝かせる亀の様な獣人の大軍が暴れてた。
 奴等はかたっぱしから周囲の動物たちを食い散らかしてる。そして当然、現れた僕を見逃すわけもない。僕は腰からセラ・シルフィングを抜く。どうやらこの世界は既に……壊れ始めてるようだ。



コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品