命改変プログラム

ファーストなサイコロ

無の集合体

 ボヤける視界、頭がなんだか重く感じる。すると頭が前のめりに倒れて行ってガツンと、何かにぶつかってしまう。伝わってくる衝撃は一点に集中してってよりも周りに分散する形で頭全体に響いてきた。それもその筈、僕の頭はリーフィアで守られていたんだからな。でもそれなりにはやっぱり痛い。


「スオウくん? 大丈夫?」
「ええ……おかげで目が覚めました」


 目は覚めた。けど、かなり強烈にぶつけたからリーフィアが無事か心配になる。だって今ので壊れでもしたら最悪だろ。多分これ代替効かないと思うんだ。今時の機器はバックアップとか取ったりする物だろうけど、リーフィアは今どきなのか分からないからな。
 今時––よりも進んでる機器だ。ネットに接続してあるんなら、自動でサーバーにバックアップを取ってたりしてもおかしくはない。でも今運営は停止してる。そもそもバックアップがあるかもわからないというか、運営は殆ど運営してなかったような感じだしな。
 よくよく考えたら、運営が停止してるのにLROというゲームだけは動き続けてるってかなりおかしいよな。LROだから……で済ませてたけど、電源を切っても消えない世界があるんだ。だけどその世界に繋がるのはこのリーフィアだけ。
 それも僕のデータを持ってるのはこのリーフィアだけだ。壊れてもらっちゃ困る。秋徒の奴が言ってたけど、やっぱり端末ごとにデータは保存してあるようだからな。僕はペタペタとリーフィアに触れる。


「大丈夫、見た目は変化ないわ」
「そっか、とりあえず中身も別段おかしくはなってない…………」
「どうしたの?」


 天道さんの言葉が耳に入ってきては反対側からスルーと出てく。なんでそんな事になるのかは明白だ。だってリーフィアの狭いゴーグル部分になんか変なのが映ってた。変なの……それはまさに変なのだ。
 僕は思わずそのゴーグル部分を一度収納してみる。すると勿論アイツは見えない。そしてもう一度下ろすとそこにはやっぱりアイツが居た。簡素な情報表示しかしない部分だからあいつの特徴の虹色の髪が真っ白に見えてるけど、あの黒目しかなさそうな目は更に黒々して見えるからやっぱ強烈。
 間違える訳がない……あれはどう見ても『苦十苦来』だ。だけどなんでここに? いや、どうやって? するとアイツは僕の視線に気付いたのか、その怪し気な目を細めて笑った。そして次の瞬間消える。幻覚? まだ当夜さんにダイブした影響が頭に残ってるとか? うんうん、きっとそうだろ。
 確かにあいつの事は気になる。でも、今はそれどころじゃないし、このまま消えてくれてた方がありがたいよな。


『まったく、女の子をそんな無碍に扱うだなんて、心までブサイクなんですか君は? 残念ですけど、私は幻覚などではありませんよ』


 嫌な声がはっきりと聞こえる。なんで声が聞えるんだよ? 怖い。どう考えてもこっちに存在してない筈の幽霊みたいな存在な癖して、これだけハッキリ声が聞こえるだなんて……あり得ない。


『いえ、あり得ないってリーフィア被ってるじゃないですか。それのおかげですよ。だからリーフィア被ってない他の方々には私の声は届いてないでしょう』


 なるほど、確かに他の人達は誰もこの声に反応はしてない。てか、そういう事じゃない! 僕は声が聞こえてきた方に顔を向けた。すると顔面ドアップな顔がゴーグル一杯に広がった。


「うわっ!?」


 思わずそう叫んで僕は仰け反った。すると周りからなんだか痛い人を見るような視線が……


「ちょっと、スオウ君が変に成ったわよ。どう責任取ってくれるのよ!」
「いやはや、何か向こうで精神にダメージを受けたのかも知れませんね。まあ何が起こるか分からないリスクは承知の上で彼も行ったのですから、我等に責任を押し付けられても困りますよ」


 やれやれという感じでそう言う細目のおっさん。てか僕が心の病に侵されてるみたいな事言うのやめてくれないかな。そうじゃないから。……こいつさっき僕に声が聞こえてるのはリーフィアを被ってるからだと言ったよな? って事は他の人達もリーフィアを被れば、こいつの声が聞こえるし、見えるのでは?
 いちいち説明するのは面倒だからな……百聞は一見に如かずって言うし、多分ここにはリーフィアだってあるだろう。こいつを見てもらえば、僕が変になった訳じゃないと分かってもらえるだろう。


「天道さん、別に変になってはないから。心配しないで大丈夫です。ただなんか口で説明しても面倒だろうから見てもらいたいんだけど……」


 そういいつつ僕は細目のおっさんを見て言いよどむ。


「えっと……あの……おじさん?」
「東雲です。それでなんですか? とりあえず何があったのか、我々は聞きたいのですが?」
「ああ、それは勿論言うよ。だけどその成果? なのかどうかは分からないけど、とりあえず東雲さん、リーフィアってある?」
「リーフィアですか?」


 僕は何も言わずに頷くよ。皆には聞こえてないだろうけどさっきから苦十の奴が「ははぁん、言語力の無さを理解して放棄するんですね。妥当な判断です。君自身が分かってない事など、伝えようもないのですからね」とか言ってた。
 五月蝿い。しかも言い方に刺がある。このままだと僕は見えない相手に喋ったりしちゃう痛い奴に成っちゃうから、さっさとこいつの存在を周知させたいんだっての。しかも簡単で確実な方法でな。その為のリーフィアだ。


「無いんですか?」
「いえ、ありますよ。ですがリーフィアを今更何に使うんです?」
「それは……皆さんに見てもらいたい物があるというか……」
「まさか一緒に当夜さんにダイブするとかですか? どうしても言うのならそれも仕方ないですが、人選の選出に少しばかり時間を頂きたいですね」
「いや、ダイブする程の事じゃないんで。多分リーフィアを被って、初期設定くらいを済ませてもらえれば大丈夫だと思います」
「そうか……ならまあ安全かな。では早速用意させよう」


 そう言って東雲さんはどこぞに連絡を始めた。てか……この人、というかここの人たち全員なんだろうけどさ、ちょっとビビり過ぎじゃないか? 今の反応、明らかに【危険があるならちょっと】––的な事だったよな。
 分からなくはないけどさ、全てを人任せにするのはどうだろうか? 危ない場面は誰かに任せて、自分達は安全なリアルでデータと睨めっこか? 誰だって危険に身を投じたくはないだろうけど、この人達はその分誰かを危険に送り出してるんだ。
 こんな弱腰、逃げ腰じゃちょっと困る。東雲さんは研究者とかじゃないようだけど、ここの研究者達も同じような考えなのは明白だ。安全な所から研究をしたいだけ……


「スオウくん……当夜とは会えたの?」


 真剣な表情で天道さんが僕の瞳を真っ直ぐに見てくる。真剣な目だ。綺麗で力強い。だけど奥には不安が見える。そもそも真っ先にこれを聞きたかった筈だよな。僕が変な女の存在に困惑して可笑しな行動取ってたせいで、なかなか聞けなかったんだろう。
 天道さんは不安なんだ。当夜さんの中で自分が忘れされてないか。身近で見てたからこそ、きっと当夜さんの摂理への想いの深さを知ってる。だからこそ妹の後を追うように行ってしまった彼が自分を忘れてしまっててもおかしくないと怯えてる。
 自分よりも大人な筈だけど……どこか不安気な顔は幼さが垣間見える。だから僕はそんな彼女を見ながら言うよ。


「会えましたよ」
「そう……それで……当夜は……」


 途切れ途切れる毎に弱々しく萎んでく彼女の声。いつもはもっと堂々としてるのに、当夜さんの事になると不安で不安で仕方ないって感じだ。可愛い所もあるよね天道さんって。年上の女の人が弱気に成ってる時ってなんかグッと来るものがある気がする。
 まあ年上かどうかは関係ないかもしれないけどね。とりあえず、天道さんにはこう言おう。


「大丈夫、天道さんが思ってるほど、あの人の中の貴女はきっと小さくない。自信持ってください。戻ってきたら告白しちゃっていいんじゃ無いですか?」
「こ……告白って……そんないきなり……」


 顔が真っ赤になっちゃう天道さん。何この人、可愛いぞ。純情なんだな。でもいきなりって訳でもないよね? ずっと思ってた筈だろうし、当夜さんだって薄々は感づいてると思うんだけど。


「どうしたんですか茹で上がって? 貴女は本当に直ぐに赤く成りますね。年の割に」
「何よ、アンタみたいに私は荒んだ心してないのよ」
「そうですね。いつまでも夢見る乙女ですからね」


 そう言って小刻みに笑う東雲さん。それにわなわなと震える天道さんだけど、口には出さずにそっぽを向いた。何か言ったらまた返されるだけだと判断したんだろう。これ以上天道さん虐めてもらっても困るし、僕が口を出す。


「それで、リーフィアはどうなったんですか?」
「ああ、それならちゃんと用意して来たよ」


 そう言った彼の手には大きな袋があった。そこからリーフィアを二つ取り出す。


「さて、とりあえず私はやってみますよ。まさか自分が実験体になるとはおもわなかったですが、まあ君を信じてみましょう。私の無事を確認したら、見てる研究者達も追随してくれる」
「重い腰ですね。僕が知ってる研究者達は間違ってても前に進むことにしか興味無い様な奴等ばっかりだった。彼等はちがうんですかね?」


 まあ、研究者がみんなそんな事に成ったら嫌だけどさ。そこまで振り切れてる奴なんて実際は少数派だよな。きっとまだここの人達はマトモなんだろう。その割には大多数の人達を犠牲にしてそうでもあるけど、救う気がない訳じゃないからな。


「そういう人達も居ないわけではないでしょうけど、その素行が許される程に優秀な人はそうそう居ませんよ。よってここには居ないでしょう。皆さん倫理には則ってるようですから」
「倫理ですか……」


 まあいいけどさ。別にここの人達に何かを期待してるわけじゃない。僕達はそれぞれ利用出来そうだと思ってるだけだろ。僕達は少数で殆ど玉砕覚悟の作戦しか無かったわけだし、こっちはこっちでLROへのアクセスに頭打ってたようだからね。
 優秀な研究者達を集めた筈だろうに、それらの束をLROは物ともしなかったわけだ。どんだけだよと言いたい。でも実際、違うんだろうな……ってのは思う。優秀と天才の違い。どっちも凡人からしてみたら凄いけどさ、天才から見たら優秀さえも凡人なんだろう。
 だからどれだけ束になったって辿り着くことは出来ない。隔たれた向こう側に居る者達。どうしてこう……遠いんだろうな。


【どうかしましたか? 世界との隔たりとか感じたかの様な顔をしてますよ】
「うるせぇよ」


 なんか微妙に有ってる所にムカツク。苦十の奴が見えるって事は当夜さんのリーフィアから僕の方に移ってきてるってことなのだろうか? ケーブルを伝って? そして僕のリーフィアに入ってるのか? だから考えが伝わってるみたいな……なにそれ、超嫌なんだけど。
 考えがこの不気味な女に筒抜けって怖すぎる。


【大丈夫ですよ。もしもそっちの考えが筒抜けなら、互いに繋がり合ってるのですから私の考えも筒抜けじゃないとおかしいじゃないですか】


 確かに、でもその上でこっちの情報だけ盗み取るみたいなえげつない事を平気でやってるような気もするんだよな。そういう奴だろこいつ。そもそもどんな存在かは分かってないんだし、こいつの方がよりLROというかそっちの世界に浸透してそうなのは明白で、使い方をわかってるんだとしたら、僕だけの考えが筒抜けになっててもおかしくない。
 だって完全にこいつ僕の心読んでるじゃん。口に出してないぞ。


【読んでなど居ません。乙女の勘ですよ】


 絶対嘘だろこいつ。その真っ黒な瞳で言われても説得力零だよ。こんな感じで苦十の奴に絡まれてたら、いつの間にか二人共設定を終えていたようだった。


「はてさて、まさか見せたい物とはそこのお嬢さんですか? 確かに見えない女性が居たことは驚きですが、彼女は一体何者なのでしょう? 説明して欲しいですね」


 東雲さんの言葉は、はっきり言って僕も知りたい事だらけだよ。説明なんて出来ない。てか、当夜さんの世界で聞き逃した事、ここで話して貰おうじゃないか。


「何者なのあんた?」
【ふふ、そんなに睨まないでくださいよ。同姓に見つめられてもそんなに嬉しくないですから。そうですね〜そこら辺の説明入りますか?】


 なんか過剰に首を傾げる苦十。そんな苦十の奴の面倒そうな態度に天道さんは「当然でしょ」と答える。まあ当然だな。謎のままで済ませられない。苦十みたいな存在はどっちかってーと、シクラ達に近いからな。もしかしたらまさに奴等のスパイって事も……そんな事しなくても向こうが圧勝してるわけだが……でも似た存在だと思うし、なぁなぁでは済ませておけない。
 そもそも当夜さんのあの場所に居たのだって怪しいしな。別段何も無かったけど……寧ろ協力的? だったのかも知れない。でも……だからって安々とは信じれない。実際、当夜さんの世界の住人なのか? と思ってたんだけど、ここに居る持点でそれは無くなったわけだ。当夜さんが生み出してた、当夜さんの世界の住人なら、こんな自由じゃ無いはずだ。
 いや、当夜さんが作ったのならもしかしたらその可能性もあるんだろうけど、でもこいつの言動ってどうもそうじゃない様な感じなんだよな。それに、なんかそう云うのでは表せない何かがあるような……気がしなくもない。
 ちらっとこちらを見てくる苦十。僕はその視線に真剣な瞳で反応する。


【じゃあそうですね。簡単に『私』を伝えましょう。え〜こほん、私は苦十苦来と申します。以後お見知りおきを】
「「「…………」」」


 自己紹介……名前だけ……でそれ以降が続かない。てか静寂が包んでもそれ以上を語る気はないようだ。


「いやいや、簡単過ぎだろ!!」


 思わず突っ込んじゃったよ。それにその情報僕は既に知ってたし。


「新情報プリーズ!」
【ええ? 新情報ですか? そうですね〜私は案外甘いのよりも苦いもの派だったりします】
「好みなんてどうでもいいわ!」
【全く、ワガママですね。甘い人間関係よりも、苦い人間関係の方が面白いじゃないですか?】
「苦いってそう言うものかよ!」


 よく分かんないけど、とりあえずこいつの性格が悪いのは分かるよ。だけどそんなんでもない、性格とかじゃない、存在とかを知りたいんだよ。『苦十苦来』が何者なのかを僕達は知りたいんだ。


「苦十苦来……なんか苦しそうな名前ね。で、当夜の所で出会ったのよね? 当夜のなんなのアンタ? そこら辺をおしえなさい」


 天道さんの声が冷えてる気がする。無理もないか。心配してた彼が実は精神世界で知らない女とよろしくやってたとしたら天道さんが怒髪天になるのも無理は無い。だけど苦十の奴は脅しなんかに怯む様な奴じゃない。
 寧ろその視線が美味しいのかペロリと舌で唇をなめた。その味は甘いのか……苦いのか……僕には分からない。


【そうですか、貴女が天道夜々さんですか。存じてますよ。当夜の記憶は私の中にもありますので。それに私は、ずっと貴女でしたから】
「どういう事?」


 わからないのも無理は無いか。僕は当夜さんの中で何があったのか簡単に説明した。


「なるほど。ダイクラを再現してたのね。スオウがモノミーで、その女が私役……ふふ」


 なんだ? 最後の笑いは嬉しさ……なのかな? てかモノミーって誰だ? そんな名前じゃなかったぞ。てか戸ケ崎志郎って名前だったはずで、モノミーってどこから出てきたんだよ。


【モノミーは戸ケ崎のアダ名ですよ。まあ私が気に入らなかったので命名しなかったから使わなかったんですけどね】
「そんないい加減で良いものなの? 再現してたんでしょ? あの頃を」
【それは違いますよ】


 そう断言する苦十はその色彩豊かな髪を指でくるくると巻きながらこういう。


【私達は再現してた訳じゃない。やり直してたんですよ。彼が望んだ理想のあの頃を。つまりリアルで貴方達と過ごしたその頃は失敗だったんです。残念】


 残念って部分がかなり気に入らなかった様な天道さんは強く拳を握ってる。だけどそれをやってたのは当夜さんな訳で、彼がそう思ってたという事実が天道さんを苦しめてるようだ。


「まあ、誰しもやり直したいとは思いますよ。特に学生時代など輝いてますからね。後悔では無くてもいつまでも続けばいいと思った時期ではないですか?」
「なによそれ……慰めてるの?」
「いいえ、独り言です」
 東雲さんがその細い目を頑なに天道さんには向けずにそう言った。案外向かい合う事を恥ずかしがる人なのだろうか? だけどそんな東雲さんの言葉で持ち直したのか、天道さんは再び苦十に向けて口を開く。


「確かにあの頃は楽しかった。楽しかったけど、良い終わり方をしたかって言われると、そうじゃないかもしれない。でも、アンタみたいなぽっと出の奴に否定されたくないわよ! 何者なのよ苦十苦来。答えなさい」


 力強い声がこの広い空間に響く。そしてそれを真正面から受けた苦十の奴は体を横に向けて、無駄に足音を響かせるように歩き出す。カツーンカツーンと、響き渡る足音。でもその音はきっと、僕達の頭の中だけでしか響いてないんだろう。


【何者……でもないですよ私は。私の存在に名前などありません。この苦十苦来というのは、なんとなく自分に合ってるかな? と思って付けただけ。認識してくれる人が現れたので固有名詞があったと方が有になれる思いまして。
 無から有になるために付けた名前です。ですから私は元は無なのです。どういう存在かと聞かれれば無だったとしか答えようがありません】


 …………ちょっと、何言ってるのか分からない。つまりはなんだ? 当夜さんが作り出したとか、そういうのじゃないって事か? 


「貴女はLROに……リーフィアとかから発生した物ではないと?」
【う〜ん、それは難しいですね。それも有りと言えば有りですよ。発祥はしてないけど発生はしたかもしれない。貴方達のつけてるソレは可能性を拡張するものですから。私と言う存在を無から有に出来たのは可能性が広がったからです。
 それならば、私はリーフィアやLROと無関係では無いのかもしれない】


 くっそ、ややこしいな。つまりはどういう事なんだよ。東雲さんもその細い目と眉が繋がっちゃいそうだぞ。よく分からない存在なのは間違いないんだろう。それなら、ややこしい事はこの際どうでもいい。ハッキリとさせておきたい事だけを聞こう。


「苦十、お前は僕達の味方なのか? どうなんだ?」


 大切なのはそれだろ。こいつの存在は多分シクラ達の方が近い。だけどもうシクラ達姉妹は出揃ってる。それならばこいつはやっぱり関係ないんだろう。演技してるとかでもなさそうだ。別に敵・味方に分けるつもりなんてないけどさ、協力してくれるのかどうかは知っておきたい。


【そうですね〜、私的にはLROとかそこら辺はどうでもいいんですよ。興味あるのは人です。その存在の可能性。スオウはその可能性を見せてくれそうな気がするので付いてきたんですよ。もうあの人は駄目ですしね】


 駄目? それって当夜さんの事か? 駄目って一体? 超天才だぞ。きっと人類の誰よりも可能性を秘めた人だと思うんだけど……それを駄目って。そしてそれを聞いて黙ってないのが一人いる。


「ちょっと、駄目って一体何よ?」
【その通りの意味ですよ。当夜はもう駄目なんです。だから私は色々と受け取ってます。役に立てますよ。伝言もありますし】


 伝言だと!? それ早く言えよ!! 寧ろ真っ先に言えよ! てきとうな話ばっかしやっがて。


「伝言って?」


 その言葉をいうと、苦十の奴は歩くのをやめてこちらを振り返った。そして静寂が深まるのをまつようにして、勿体つける。十分に勿体つけて僕達が苦十の口に釘づけに成ってると、ようやくその口が動き出す。
 そしてその言葉が入ってくる前に声に驚いた。


【勝てないぞ】


 その声は紛れも無く当夜さんの声その物。驚いた……けど、苦十ならこのくらい出来るか。より正確に伝えるためにわざわざ声まで再現してるのかも知れない。僕達は驚きを噛み殺して言葉に耳を傾ける。


【LROという世界では決してあの姉妹に、そして摂理には勝てない。だから世界を変えろ】


 世界を……変える? そんな……そんな途方も無い様な事をどうやって? その時頭に浮かぶのはどんな姿かも分からないマザー。光の集合体みたいな姿が僕の中で浮かび上がってた。LROを完全に掌握するためにシクラ達もマザーを目指してる。
 それなら世界を改変するために、僕達はマザーを目指さないと行けないのかもしれない。



「命改変プログラム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く