命改変プログラム

ファーストなサイコロ

一つ一つの時間

 カツン、カツーーーンと、響く古びた階段を踏みしめる音。暗い螺旋状の階段がずっと下まで続いてる。奈落に向かって果てしなくだ。僕はそこを何も考えずにただ降りていく。誰に誘われる訳でも無いけど、自分はきっと下に行かなきゃいけない気がしてたんだ。
 何も考えず……何の思いも持たず、ただこの先の深淵こそが自分の居場所だとどこかで分かってるから。


(戻ってきてしまった……)


 そんな事をぼんやりと考えてた。元々僕はここに居たんだ。だから結局、ここが僕の居る場所なのかも知れない。それにもう、戻る意味なんて……


「スオウ! おい起きろ!!」
「んん……」


 耳元で叫ばれる声に僕が強引に引き戻された。目を開けると、太陽の光が眩しく差し込んで来る。微かな振動を感じて、窓の外の風景は流れて行ってる様に見える。


「車?」
「帰ってるんだ。俺達の街に。ケジメ付けるためにな」


 ケジメ? あれから一体秋徒達は何を話して何を決めたのだろうか? ケジメと言ったよな……その言葉は安易には使ったりはしないだろう。秋徒達はこの騒動……と言うには余りにも大きくなりすぎた事件に終わりを見出したって事だろうか?
 窓の外の建物を過ぎる度に、その隙間から昇りかけの太陽の陽射しが差し込む。この時期で太陽が昇りきる前に行動するって、一体今は何時なんだろう。僕は勝手に窓をあける。すると珍しく爽やかで涼める風が入ってきた。
 ぼんやりとしてた頭を目覚めさせてくれる風だ。早朝の静かで、一度夜を経てリセットされた空気が体中に満たされる。やっぱりエアコンでは感じれない爽やかさがあるよな。この時期のこの空気は貴重だ。
 夜も熱帯夜が多いから、そうそう起きてる間に感じれる物じゃない。差し込む太陽の眩しすぎる程の陽射しが、これから再びこの星をガンガン温めていくんだろうなってわかるし、ホントこの空気は少しの間だけだ。


(あれ?)


 そんな空気に浸ってると、あることに気付いた。よく考えると、この車に乗ってるの僕と秋徒と愛さんと後は運転手さんだけだ。メカブとかタンちゃんとか、ラオウさんや他に居た黒服の人達は一体どこに?


「おはようございますスオウ君。目覚めのコーヒーなどいかがですか?」


 そう言って差し出されて来たのは、缶コーヒーなんて安っぽいものじゃなく、ちゃんとしたカフェでテイクアウト出来るカップに入ったコーヒーだった。流石金持ちは缶コーヒーなんて物お呼びじゃないらしい。
 まあだけど、こっちとしてはなんでもいいんだけどね。昨日はあのまま寝たせいでよくよく考えると腹に何も入ってない。コーヒーでもなんでもありがたいよ。そう思ってると更に今度は洒落な包み紙に入れられたサンドイッチが出てきた。


「お腹減ってるだろうと思って、これもどうですか?」
「ありがたいです」


 受け取って包を開けるとコンビニの薄っぺらいサンドイッチじゃなく、焦げ目が入ったパンから、具材がたんまりと入ってるのが見える。正面だけで詐欺ってるサンドイッチとは明らかに違う。野菜も瑞々しい色してるし、まさに出来立てって感じだ。
 口に頬張るとレタスのシャキッとした感触と、トマトの酸味、水分がパンに染みない様に塗られたバターのお陰でそれぞれが活き活きとしてるように感じる。ウマウマだ。かぶり付いてると、HPが回復していく様な気がする。


(ちょっとLROに浸り過ぎたかな……)


 実際完全に落ちてたんだからな。その間は勿論何も口に入れてなかった訳で、コーヒーとサンドイッチが体に染みるように入ってく感覚がある。すると何かが頬を流れる感覚が……


「おい、スオウ……確かにソレ美味かったけど、泣くほどか?」


 なんか隣に居る秋徒に若干引かれてた。秋徒の膝の上には何やら大きな袋がある。なんだあれ? てかこっちもビックリだよ。なんで自分は涙を流してるのかよくわからない。すると運転手さんがこういった。


「はは、何も食べて無かったんでしょ? それなら涙が出てもおかしくはありませんよ。空腹時に腹に入る物は、とてつもなく美味い。体の全てが欲してる訳ですからね。生きられるって事を噛み締めて、涙が出るんですよ」


 ようは僕自身が生を噛み締めてるって事か……生きてて、それに喜びを感じてる。本当に昔のままなら、涙なんて流れる筈はない。だってあの頃は、そんな感情知らなかったんだから。


「なんだか説得力ありますね」


 年の功って奴か? そう思ってると、運転手さんは昔を懐かしむ様な声で応えてくれた。


「そりゃあね。今の子達は食べ物に困るなんて経験はしたこと無いだろうけど……昔はこの国も貧乏だったんだよ。教科書でしか知らない歴史じゃない。私は直にその時を生きてきたんだ。ひもじい思いもいっぱいしたよ」
「生きてるからこそ、出る涙なんですね」


 運転手さんもきっと、同じような経験があるんだろう。だからこそ言える言葉。響く言葉がある。僕はまだ生きてる……生かされたんだよな。そして、心もある。僕はがっつくようにしてサンドイッチを頬張って、コーヒーを飲み干した。そして両手を合わせて「ごちそうさまでした」をした。
 腹をさすって満たされた幸福感––を感じたい所だけど、ハッキリ言って育ち盛りの高校生には少し物足りない。ましてやその前は何も食べて無かったんだしな。だけど、腹以上に満たされた物がある。
 車窓が過ぎる。食事も終わって一段落の中、僕は一呼吸置いて言葉を紡いだ。それはこっちに戻ってきてからの受動的な言葉じゃなく、こっちから行く能動的な言葉だ。


「秋徒……昨日、何を決めたんだ?」


 僕のその言葉に、秋徒は素早く反応してこちらを見る。僕は真っ直ぐに見つめ返してやるよ。


「ふん、ようやくか。少しは立ち上がったようじゃん」
「まあ……生きてるからな」


 漠然としてるけど、今の僕にはまだ残ってるんだ。自分って奴が……だから––


「そうだな。まず俺達は次の行動を決めた。俺達は俺達のLROを取り返したいんだ。そしてそれが出来れば、囚われた人達もきっと開放される。それにはやっぱりセツリやあの姉妹をどうにかするしか無い。
 現実問題、リアルではこれ以上はもうどうしようもないからな。技術的な事で優秀な研究者と機材を山程揃えてる調査委員会に及べる訳ないんだ。それならもう、方法は一つだろ」
「秋徒……それに愛さん、まさか……」


 こっちでの手は尽くしたのなら、向こうに行くしか無い。確かにやっぱり囚われた人達を救うには、LROを……あの姉妹をどうにかしないと多分意味は無いんだと思う。外からじゃ、限界がある。


「ジェスチャーコードでフルダイブは出来るんだ。何でLROまで行けないのかは分からないけど、俺達はジェスチャーコードを一斉に試す事にした」
「それって……危険じゃないのか?」
「危険だな。ジェスチャーコードでダイブした日鞠は戻って来なかった」


 !!––その言葉は胸に突き刺さる。ジェスチャーコード……そうか、それが日鞠を奪ったのか。


「でも秋君は戻って来ました。それにもう時間もないですしね。私達は危険だとわかってても、ジェスチャーコードしか賭ける物がありません」
「––って、あの場に居た全員でダイブする気なのか?」
「ええ、なるべく多いほうがいいですから」


 それは……リスクが高いような。それにあの場の全員がLROやってたのか? ハッキリ言って今のLROはある程度の経験者じゃないと入る意味が無い様な……最早バランス崩壊してるからな。それに今のLROに入れたとして……そこで死んだら一体どうなるのか……入れたとしても、出口の扉は閉ざされてるんだ。
 秋徒や愛さんはまだいい。二人共強いからな。けど……経験者でもない人たちは……そもそも今からアカウント作って、キャラ作成なんて無理なんでは?


「みんな、納得してるんだよな?」
「勿論ですよ。メカブやラオウさんは意気込んでましたよ」
「ああ……」


 あの二人はまあ、なんとなく想像できる。ラオウさんはもしかしたらそのままでも十分LROで通用するかも知れない。でもメカブは辞めといた方が良いような気が凄いするな。あいつ、どうやったら張り切れるんだよ。色々と間違ってると思う。
 それとも実はLROへのアカウントを持ってるのか? 


「リーフィアはどうするんだ?」


 皆自分のを持ってるのか? それともどこかで買うとか……いや、今の状況じゃ出荷なんかされてないんじゃ。在庫があっても、売ってくれないだろ。販売禁止位には成ってる筈……


「それなら大丈夫ですよ。家の系列の販売店にある在庫を確保します。数十人分位はあります」
「流石金持ち」


 僕達学生からしたらかなり高価な物なんだけど、愛さんにとってはそうでも無いんだろうな。でも本当にそれは大丈夫なのか……いや、大丈夫じゃないかもなんて事はこれに納得した人達は知ってるんだよな。
 そこでふと僕は思った。


「そう言えば……どうして皆そこまでするんだ……」


 そこまでする義理あるのか? 知り合いが戻ってこないとか家族が巻き込まれたとかなら十分な理由だけど、そういう人達ばっかりじゃないだろ。数人は知り合いが居てもおかしくない……でも全員なわけはない。
 それでもそこまでして付き合ってくれるって……どうして?


「それは信頼です」
「信頼?」


 信頼って……誰と誰の? いや、秋徒とか愛さんとかラオウさんとかメカブは、まだ分かる。知り合いだし、友達だし、親友だ。だけど、そうじゃない人達だって居る。昨日見た限りで、喋ってもない人達が居る。そんな人達とは信頼なんて物があるわけが……


「お前だけが、繋がってる訳じゃないだろ」


 ぼそっとそう言ったのは秋徒だ。そしてそれに愛さんが続く。


「そうですよ。貴方を信じる私を、私を信じるあの人達が信じてくれてるんです」
「それは……」


 僕は途中で口を噤んだ。言葉が出なかった訳じゃない。出しても意味ないと思った。繋がりとはそう言う事なんだろうと思ったから。なんか過大評価されてる気がするけど、その人達が信じてるのは僕ではないし、愛さんとかに何言っても、笑顔で返されそうな気がする。
 喜ばしいことなんだと思う。こんな自分には過ぎた信頼だ。今の自分にはそれをどうやって得てきたのかイマイチわからないんだけど……積み重ねた結果なら、自分を褒めてもいいのかな。関係ない人達まで巻き込むのは正直どうかと思うけどさ……僕は自分の非力差を知ってるからね。
 もう知らしめられたと言っても過言じゃない。そんな僕にはその信頼を背負えるのかは分からない。だけど……少し戻って来た気持ちはまだ終わりじゃないと言ってる。


「後三日」
「いきなりなんだそれ?」
「やっぱり忘れてるのか。この休みも後三日で終わりだぞスオウ。このままだと不味いだろ」
「確かに……宿題全くやってないな」
「そんなボケいらねえよ。日鞠が居ないとか知られたら暴動ものだぞ」


 確かに……だからわざわざこの雰囲気の中でボケをかましたのに。身近な危険が直ぐそこまで迫ってるじゃないか。どう考えてもあの街に居られなくなりそうだよな……僕は嫌でもあの家しか帰る場所が無いというのに……


「もうそんなに成るんだな。いや、でも考えたらまだそんな物なんだって気もする。一ヶ月……それだけの時間じゃなかった様なさ」
「まあ濃かったからな。だけどこのままじゃ終われない……だろ?」


 秋徒のその言葉に、僕はまだ何も返す事が出来ない。気持ちは上がって来てるし、終われないと思う気持ちある。だけど……まだ何が出来るのか分からない。自分は無力さを知った。あのチートの集まり共に、どう挑めば勝てるのか……ハッキリ言って分からない。
 だから心が足踏みしてる。立ち上がったけど……進むための一歩が出せない。でも後ろには皆が居るんだ。逃走経路なんて物はない。そもそも皆は一生懸命支えてくれてる側だ。それらの思いを投げ捨てるなんて出来ない。
 そんな奴に、もう僕はなってしまってるんだ。後ろには行く気はない。けど前に進む事も出来ないから、この場から僕は動けない。
 下を向いたまま俯いてると、車の振動が止まった。だけどそんな事はどうでもよくて……何を言っていいのか分からないからこのままだ。


「秋君、付きました」
「ああ、そうだね」


 話の流れが変わったか? 顔を上げると見覚えのある門構えが見える。その向こうに見える建物もここ数ヶ月、通いつめた姿をしてる。ここは……そうか、僕達の街に戻ってきたようだ。そう思ってると、扉を開けて秋徒の奴が荷物を持って外へ出た。


「それでは秋君、また後で」
「ああ、そっちは色々と大変そうだけど、無理はするなよ」
「それは出来ない相談ですよ。秋君、私にだって頑張れって言って良いんですよ」
「そう……だな。じゃあ頑張れ……ば?」
「はい!」


 秋徒の奴の曖昧な言葉にハッキリと答える愛さん。秋徒の奴はあんまり乗り気ではない……というか、乗らせたくないっぽいな。まあ分からなくもない。これからやろうとしてることはリスクが高い。
 秋徒にとって愛さんは最も大事な人だ。わざわざ危険を犯したくなんかないだろう。だけど愛さんだって止まる気はない様だし、無駄な事が分かってるから秋徒もそう言うしか無い。僕は後部座席から愛さんの横顔を見つめつつこう聞いた。


「愛さん、二人は想い合ってるんだしそういうの大切にして欲しい。僕達の様になんか……なってほしくない。だから––」
「だから、私は仲間外れですか? そんなの嫌です」


 プクーと頬を含ませてこっち可愛らしく睨んでくる愛さん。可愛らしいけど、その瞳は真剣だ。


「私、日鞠ちゃんの気持ちわかります。大切な人とは一緒にいたいんです。例えそれが危険な事であっても、女の子は迷ったりしません。日鞠ちゃんは私ほど単純じゃないし、もっと色々と深く考えて行動してたとおもいますけど、あの娘が走りだしたのはスオウ君の為なのはわかります。
 今の女の子は、待ってるだけなんて嫌なんです!」


 愛さんの目はキラキラして見える。真剣で真っ直ぐで、くすんでた世界に新しい色をくれてる。日鞠以外からも、見える様になってる? すると愛さんが体ごとこっちに乗り出して来て、僕の頬に優しく触れる。


「一緒にいかせてください。一人でなんて背負わないで。日鞠ちゃんも摂理さんもそして他の大勢の人達も、皆で救いましょう。私達は足手まといなんかになりません」
「そんなこと……」


 思ってない。足手まといなんてそんな……一人でここまでこれたなんて思えない。一人だったらきっとさっさと死んでただろう。でもだからこそ、今僕は何が出来るか分からない。けどしなやかな手から伝わってくる温もりは優しいそよ風の様に感じる。彼女の優しさがいっぱいだ。
 なんか包容力って奴が半端無いな。危うく惚れそうだよ。


「おい、なんで手を取ってるんだよ」
「秋君ヤキモチですか?」
「秋君には勿体無いな」
「お前が秋君言うな。気持ち悪い」


 誰が気持ち悪いだ。まあ自分でも気持ち悪いなって思ったけどね。取り敢えず手にとった愛さんの手を頬から離す。凄くスベスベな手だ。色も白くて、細長くて、なんかほんのり温かくて……手を取るだけでドキドキだ。
 やっぱ何回でも思うけど、秋徒の奴をぶっ飛ばしたく成るよな。だけどまあ、秋徒の奴だからマシかとも思える。僕は手を離して、ドアから外へ。


「愛さん、ありがとう」
「いえ、もっともっと頼ってください」


 そう言って車はゆっくりと発進した。その姿を僕達は二人で見送る。


「さて、帰るか? 一人で帰れるか?」
「子供扱いするな。大丈夫だっての。けど別に報告する奴なんて誰も居ないけどな」


 両親なんてもうずっと顔すら見てない。家に帰ったって僕は一人だよ。


「居るだろ。お前が伝えなきゃいけない人達がさ。日鞠の事はお前がおばさん達に伝えろよ。世話に成ってるだろ」
「うっ……」


 確かに世話に成ってる。それこそ自分の両親なんかよりもずっと。でもだからそれを話すことが辛いというか……


「はぁ、ちょっと入っていこうぜ」
「何をいきなり、不法侵入だ––っておい」


 秋徒の奴は閉まってる校門の柵を登って学校の敷地内へ。学校に入って何するって言うんだ? 別に何かあるわけでも……秋徒の奴はさっさと奥の方へ歩を進めてる。しょうがないから僕も柵を越えて学校内へ。この学校の学生だし、万が一見つかっても言い訳は出来るだろう。


 流石にまだまだ早朝なだけあって誰もいない。いつも賑やかな声で満たされてる学校が静かなのは新鮮だ。そもそもこんな時間に学校来ないしな。


「なんか凄い久々って気がするよな」
「部活にでも入ってればそうでもないんだろうけど、僕達なんかは休みになると学校になるべく近寄らない様にするからな」
「ははっ、確かに」


 そう言いつつ、秋徒の奴は校内への扉をガチャガチャやってる。空き巣か何かか? 狙いは女子の体操服とかか? でも今は休みだし、流石にこの休みでも置いてる奴の体操服は女子でもあっても嫌だな。


「ああ分かった。狙いは女子の上履きか」
「お前は何が分かったんだ?」


 完全に呆れられた。やっぱ違うのか。この流れで流石に女子の上履きなんて眼中に無いよな。そもそもやっぱこの休みだから上履きも持って帰るよな。普段は洗わないんだから、こういう時に洗わないと大変だ。てか思ったけど……


「おい秋徒、あんまり乱暴にやるなよな。警備会社に気付かれるぞ」
「なに!? そんな設備導入してるのか?」
「最近は導入してる学校も多いだろ。ドアの上の方にシール貼ってあるだろ? セ◯ムの」


 それを見て秋徒の奴はゆっくりとドアから手を離す。そしてちょっと怯えながらこっちを見てこういった。


「気付かれてないよな?」
「さあな、どうだろ? 警報とかなってないし大丈夫じゃないか?」
「そうか、あっぶね〜」


 いや、警報が鳴るかどうかは知らないけどな。鳴らずにこっそりと警備会社に情報だけ行くようなシステムならヤバイかも。けど大丈夫だよな。中には入って……


(あれ? 校門を乗り越える事は大丈夫なのか?)


 考えてみたらその時点でアウトじゃね? でも流石に敷地全部を監視なんて出来ないよな。一般家庭ならまだしも、学校となるとその敷地も広い。その広い範囲を全部カバーするのは不可能。だけど校門はその中でも重要度が高いかも……大丈夫かな?


「まあ仕方ないか。お前一応生徒会だろ? 鍵とか持ってないのかよ?」
「んあ? ああ、お前も知ってるだろ。僕はただの雑用だっての。鍵なんて知らん」


 そもそも生徒会連中には嫌われてるし。無理矢理日鞠が引っ張って来た奴って印象だからな……よく思われてないんだよね。そもそも厳密には生徒会かどうかさえ怪しいというか……それであまり仕事も出来ないし、やる気もないしで距離が縮まる事は無かったな。
 溝は深まった気はするけど。ヤバイな……マジで日鞠が戻れなかったら、僕ここの生徒に殺されるんじゃね? アイツの人気は異常だからな。


「しょうがないか。じゃあ外側をブラブラするか」
「何の為にだよ……」


 僕はそう言いながら秋徒の奴についていく。二人で校舎を回って部活塔を経てグラウンドに出ると、汚れたボールが目に入った。荷物を置いてその硬式球を気にせず手にとった秋徒の奴が言ってくる。


「キャッチボールでもやるか?」
「やらない」
「そう言わずにホレ!」


 投げられたボールが回転して向かってくる。すると不思議な事が起こった。回転するボールがスローモーションに見える。ボールの網目までも視認できるんだ。これなら受け止める事なんかかんた……そう思ってると鼻から鼻水が垂れてくる様な感覚がする。それに気を取られた瞬間だ。ボールが顔面にヒットした。


「っつうううううううううう!!」
「おいおい、マジかよスオウ。そんな体張ったギャグしなくてもいいぞ」
「そんなんしてねーよ……そもそもいきなり投げるから……」


 いや、どう考えても対応は出来た筈。でもなんか鼻から……僕は痛む顔面を抑える手を退ける。するとそこにはビッチョリと赤い液体が……


「流石硬球だな」
「ぶつけた分際でなんだその言い草は! ちょっとは心配しろ!」
「だけど鼻血くらいじゃ死なんし」


 あの野郎……死ななくてもリアルは痛いんだぞ。いや、LROも痛いけど……取り敢えず地面に転がるボールを無視して蛇口の方へ。水を出して顔と手を洗う。流れ出てた鼻血は直ぐに止まった。汚れも直ぐに洗ったお陰で綺麗に落ちた。幸いな事に服には付いてないっぽい。


「ん……あれ?」


 なんかズキズキ痛む部分が違う様な。鼻に直撃したような気がしてたけど、痛むのは頬骨の方の様な? けどあたった場所が違うのなら……あの鼻血はどうして? 


「おい、まだ鼻血出てるのか?」


 秋徒の奴が心配してそう声を掛けてきた。一応は悪いとは思ってるのか? 取り敢えず大丈夫の旨を伝えようと蛇口を捻って後ろへ振り返る。するとそこには今までと違う世界がみえた。光が線になって七色に見える。それを受けた地面が色を変えて反射された色達が世界を染めてく。
 それは綺麗……なんてものじゃない。めまぐるしく変わる風景が痛いくらいに入って来て頭が回るような……


「おいどうした?」


 ふらついた僕を心配して近づいてくる。


(なんだ……秋徒の力の流れが毛細血管を流れる様に見える?)


 てか光が全身を駆け巡っていく様が血管を浮き上がらせてる様でスッゲー気持ち悪い。小さな力の移動やらその反発で生じる僅かな肉体へのダメージなんかも見えて、一瞬に置ける情報量が多すぎる。
 多すぎる……そのせいで頭がパンクしそうで……


「スオウ! お前また鼻––––」
「へっ?」


 鼻まで聞こえた。顔を下に向けて見ると地面に変な色の染みが見える。色を把握できない。何なんだろう……そう思ってると突然フッと電源が落ちたかの様に世界が暗く染まった。秋徒の声が遠くで聞こえる。そしてもう一人誰かの声も……そう思ってると真っ暗な周りで次々と人物の映像が移り変わってく。
 何が起きてるのかよくわからない。だけど一つの人物の姿が現れた所で止まってなんとなく察した。この声の主……それを指してるのかなって。真っ暗な中で浮かび上がる初老の老人。それはこの学校校長先生だ。



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