命改変プログラム

ファーストなサイコロ

どうにかなるさ

 魔鏡強啓零項の扉は開かれ、ブリームスの街には変化が訪れようとしてる。世界から忘れ去られてしまってたこの街に、世界が感心せざる得ない何かが起きようとしてるのかも……だけどそれが自分達の為に……いや、この世界LROの為にプラスに成ることなのかは、まだ分からない。
 きっとそれは、それには、誰かの選択が、誰もの選択が混ざり合い色々な思いが混ざり合った先に辿り着くのだろう。一人の意思で、僕の意思だけでどうにか成るなんて自惚れはない。だからこそ僕には味方が必要なわけだしな。


 ざわめく周囲。無理もない。第一の連中は消えて、ブリームスは全体で輝きだし、そして何よりも再び襲撃を始めた敵の存在は大きい。魔鏡強啓零項の扉が開いたからといっても、それで今すぐどうにか出来るって代物じゃない様だし、第一の統括は粘っとけって言ってたからな。
 それがどれだけ難しいか……だけど手を拱いてる訳にも行かない。他にも気になる事は無くはないけど、早く行かないとブリームスの人々がやばそうだ。


「テトラ!」
「そうだな。俺達しかいないだろうな。全く人使いが荒い」


 愚痴をこぼしつつも穴の下まで歩いてくるテトラ。するとロウ副局長がこっちに寄ってきた。


「どうする気だ? まともにやりあっても勝てないだろう?」


 考えたくない事をそうズバリと言わないで欲しい。だけどまあ事実ではある。あの黒い奴にもそうだけど、姉妹の一人であるあのやる気ない方にも勝てそうに無いよな。なにせアイツ、黒い奴を簡単にあしらってたしな。それにまだ手の内が謎のまま。一番厄介だ。
 二人同時に現れてるとしたら、かなり厳しい戦いになるかも……でもその可能性は大きいよな。わざわざ一人ずつで現れる事も無いんだし……どう考えたって二人で攻めてきた方が効率的にいい。それに確実だ。
 だけどあいつ等協調性って奴がないからな。姉妹同士なら連携取れるようだけど、あの黒い奴に限ってはそれはない。それに姉妹の中でもここに来てるアイツはなんか一番性格的に協調性なさそうというか……つまりはどっちも協力しようとする気はあんまりない奴等だったな。
 それならもししたら一人だけの可能性も……だけどそれはそれで厄介というか。何をやってるのか気になるしな。寝ててくれればいいんだけど……流石にここまで事態が進んでる状態でそれはないだろうしな。
 悩ましい所だ……二人揃ってたら、抑えるのも時間を稼ぐのも難しい。かと言って一人なら深読みしてしまって戦闘への集中が……


「勝つ必要はないじゃない。上手く気を引いてやり過ごしてればいい。そうでしょ?」
「まあ、そうだな」


 消えた第一の奴等がその役目を全うしてくれるのなら……それでいいんだけどな。期待していいんだよな? 僕は誰かに答えを求める様に、拘束されてる少年に目を向けた。


「ふん、俺が何言ったってそれを素直にお前達は受け止めないだろ。自分達がどれだけ愚かだったか、気づいた時には遅い」
「貴様!」


 近くに居た人が少年の言葉に突っかかる。だけどそれを気にせずに最後の抵抗……というか最後通告の様にこちらに向けて言葉を発する。


「いいか、魔鏡強啓の扉が開いたのはこのさいしょうがない。だけど統括達の野望に必要なものはまだこの地に残ってる。三つの研究所……それを破壊すればいい」
「そんな事をしたら、襲ってきてる奴等を倒せないじゃないか!! あの人達はその為に行ったんだろう!」


 一人のそんな反論に、周りの人達は「そうだそうだ」と続く。公表してる話ではそうだからな。三種の神器––とまでは言ってないけど、実は三つの研究所は魔鏡強啓零項で発動する類の物……とは言ってあるんだよね。
 錬金は魔法とは違う。物が無いとその力は発揮されない。だから単純に零項に辿りつけたとしてもそれだけじゃ希望には成り得ないからな。実は三つの研究所が零項に対応した物で、そしてそれを使えば襲ってくる奴等を撃退できる(かもしれない)––ってのが広告として必要だったんだ。
 だからこのブリームスの住人が三つの研究所の破壊を許すわけがない。第一の事を疑ってる人なんか居ないだろうしな。


「ん?」


 ゴロゴロと変な音が聞こえた。雷の音じゃないぞ。地面を擦る音だ。目を向けるとそこにはミニゴーレムの姿がある。今までは執拗に襲ってきてた癖に、途中からさっぱりその報告が無くなったと思ってたら、外に出てたのか。


(待てよ……アイツ等、外に出れるのか?)


 疑問形にしてみたけど、答えは既にそこにある。自分の目が疑いようもない証拠だろう。ミニゴーレムは外に出てるんだ。だけど何故に……別に地下だけの制限があったのかどうかは分からないけど、でも今まではこんな事は無かったはずだよな。
 それはつまり、外に出れる環境に成った……ということじゃないか? そしてそれを成した大きな原因……考えられる事は、魔鏡強啓零項くらいしか……この周囲から沸き立つ光のお陰なのか?


「おい、どうした?」
「いや、ミニゴーレムが外に出てる……ってだけ」


 こっちを見てた様にみえたミニゴーレムは別段襲ってくる事もなく、振り返って何処かへと消えていく。なんだろう……目的でもあるのか? そもそも考えたら、なんでアイツ等は地下で襲ってきてたんだろう? 
 別に強くもなく、数だけ居る感じのアレに守りを任せておくのはちょっとな……確かに数は脅威で、そして完全破壊も出来ないから厄介ではあったけど、一点突破とかなら苦はない感じだからな。
 前の地下調査とかで失敗したのは、じっくり調べるとかだと、ミニゴーレムが厄介になるからだろう。それに魔法を使える奴等もいなかったから、謎解きのキッカケがなかった。同じ場所にずっと留まっての作業とかでは数は脅威だしな。守る物が無くなったから、外に出てきたのだろうか? ミニゴーレムまでもが住人を襲いだすと厄介だな。


 すると再び聞こえる大きな音。グズグズしてたら不味いな。


「どうするんだ?」


 テトラの奴が上へ上がってきてそう言う。どうするも何もな……もしもに備えては居るんだ。だから今は、統括達を切り捨てるとかは出来ない。まあ何か物凄い発見を所長達が早めにしてくれれば、統括達の動きを待つ前に何か出来るかもしれないけどな。
 魔鏡強啓零の扉は開かれた。それの影響が僕の持つ鍵にも無いとは限らないからな。


(そういえば……もう一回くらいは試した方が良いかもな)


 僕は意識を集中して鍵を見定める。その一つを取って、念じてみた。


(法の書よ––––っ!?)


 発動の気配を感じた。だけどそれと同時に、周囲がそれに反応してるのもわかった。法の書を認識してるのか、ブリームスの街は僕の足元に変な模様を展開しようとしてた。だから僕は発動をキャンセルする。
 使えそうな気はするけど、今の街の状況で発動はなんだかヤバそうな気がする。魔鏡強啓零項のオリジナルを有したアイテムだ。なんだか敏感になってそうな今の街では、何がおこるか分からない。


「使えないのか?」
「いや、使えそうな気はする。だけどなんだかヤバそうだ。やっぱり所長達に詳細を見つけてもらってからの方がいいかも。まあ見つかるかはわかんないけどさ」


僕は取り敢えず鍵をもう一方の手で押さえ込みながらそう言う。テトラの奴は自身では見えないはずのその鍵を見るように僕の手を見てた。


「そうだな。そのアイテムは色々と不味そうだからな。下手に使うのは賛成しない。だが、アイツ等が間に合うとも限らんからな。いざとなったら、自分だけを守るためにも使え。そのアイテムなら出来るだろう」
「テトラ……お前」


 らしくない事を言うやつだ。だけどそれは、今の僕達じゃ勝てないって事をわかってるからだよな。認めたくないだろうけど、目を逸らす事も出来ない事実。けど僕は言うよ。


「一人だけ助かる気なんかない。大丈夫、きっと上手くいくさ」
「……そうだといいがな」


 何の根拠もない強がりだ。でも弱気ばかりを拡散する訳にも行かないだろう。どっちに振れるかわからないのなら、良い方に振れると信じるしか無い。信じれば叶うほどにこの世界は優しくなんかないけどさ、諦めた奴には誰も微笑んじゃくれないだろう。


「孫ちゃん達はクリエ達と合流してくれ。あそこなら安全だろうし、孫ちゃんなら所長達の手伝いも出来るだろ」
「しょうがないわね」


 孫ちゃんなら力に成れるだろう。後は第二の連中も今なら表立って手伝ってくれたりすれば……


「私は君達と共に行くぞ」
「なんでだよ? 危険だぞ。ロウ副局長には零区画で第二の連中を使って欲しいんだけどな」


 効率を考えればそれがきっと一番だ。所長達は文句いいそうだけど、適材適所だろ。ハッキリ言ってロウ副局長とか一緒にこられても守る対象が増えるだけだしな。だけど……


「部下なら問題ない。指示さえ出しておけばな。それよりも地の力では勝てないんだろう。それがわかりきってるのなら、もっと外の力に頼るべきだ」
「外の力ってのは錬金の事か?」


 まあそれしか考えられないけどさ。その僕の言葉にロウ副局長は頷いた。


「そうだ。私がいれば、色々と捻るぞ。本部の方には錬金アイテムが集まってるはずだしな」
「なるほど……」


 確かに真っ向からぶつかるだけじゃ負けるのは確実。錬金アイテムを使ったって勝てる訳じゃないだろう。でもだ……色々と特殊な能力を内包してるそれらがあれば、時間を稼ぐ役には立ってくれるかもしれない。


「よし、それなら一緒に来てもらうぞ。だけど、守る余裕があるわけじゃないからな」
「ふん、その程度、かかか覚悟の上だ」


 その割りには結構震えてるけどな。


「スオウ……俺も行くぞ」
「リルフィン、お前は零区画に行け」
「この程度のダメージ、問題ない。それに貴様は俺が居ないとまともに戦えないだろ」


 確かに空飛び回られたら厄介だな。だけどそれでもやりようはあるさ。それよりも向こうだって確実に安全とは言えないんだ。


「考えてみろ、もう一人いるんだぞ。そいつが零区画を狙ったらどうする? 戦えるのが一人じゃキツイだろうけど、後からアンダーソンも着くだろうし、もしもの時の為だ。その時は守るか逃げるかやってくれ」


 勝てなんて言わない。でも守るのも逃げるのも、一筋縄じゃいかないだろうから、その時の為にリルフィンは必要だ。全部の戦力をこっちに振るわけにはいかない。それに避難所の方にはそれなりの兵隊がいるには居るはずだしな。
 そいつらと連携すればまだなんとか……なればいいな。期待は薄いが、人数的にはそれなりに多いはずだし、零区画にも振り分けるのは必然だろ。


「頼むよリルフィン」
「……仕方ないな。だがそいつはどうするんだ?」


 そいつ……と言うのは今拘束されてる少年か。ニュアンス的に零区画に連れてくとかないわ〜ってなのを読み取ったぞ。確かに一度暴れたし、危険視するのも分かるけど、僕は別にこいつが敵だとは思ってないからな。
 それに少年もなんか不安気な顔でこっち見てるし……ここに置いてくとかは無しな––的な顔だ。流石にそれはしないっての。


「第零区画に一緒に連れてってくれ」


 僕のその言葉に、周りがざわっと反応する。リルフィンとかじゃなく、治安部の人とか第二の皆さんとかだ。第一の連中はなんとなく理解出来たようだったけど、その味方はもういないからな。こうなるのは当然か。


「大丈夫だよ。そいつは今やただの子供だろ? それに一応は今唯一の第一研究員なんだし、その知識とかは零区画の探索に役立つかも知れない」
「貴様がそういうのなら連れてってやろう。だがな、今度怪しい動きを一瞬でもしてみろ……容赦はしないからな」


 リルフィンが瞳を鋭く細めて少年を威嚇する。その迫力に唾を飲み込んだ少年は首を縦に振るう。でもこれで一応どう動くかは確認できただろ。取り敢えずロウ副局長を地上に運んで、三人で本部を目指すことに。
 その時、地下の方からこんな会話が聞こえた。


「そう言えば〇〇の奴はどこいったんだ?」
「こっちも数人見当たらないんだ。トイレか?」
「まあ出す所ないしな」


 いやいや、その結論はどうなんだよ––と言いたかったけど、そんな突っ込みを大声で言えるわけもなくて、進むことに専念する事にした。流石にトイレとは思わないけど……でもそれは考えたくない事なんだ。
 けど少年は言った。もう一度同じ事が起こる。それはもう始まってるのか? だけどそれなら、どういう法則で消えるのか……下手に騒ぐのもどうかと思ったんだよね。不安ばかりが募る中、いきなり消え去るかも知れないとか恐怖を煽るだけだ。
 多分テトラも、そしてロウ副局長も気付いてるとは思うけど、それを口にしないのは何もわかってないからだろう。前の悲劇は三種の神器を無理矢理起こそうとした際に出た力の漏れが影響を与えてた訳だし、今回もそうなら統括達の作戦を拒否るべきだったのかもしれない。
 でも……それは出来なかった。縋ることが出来る案は統括たちしか持ち合わせてなかったからだ。統括の奴はやっぱりこうなるかも知れないことをわかってたんだろうか?


「急ぐぞ」


 僕が色々と考えてると前を走るテトラが手を差し出してきた。うだうだ考えてても統括の本心とは分からないからな……ぶつかるしか無いって事か。僕はその手を取る。


「貴様も早くしろ!」


 その言葉で既にバテバテのロウ副局長もなんとかテトラの手を取る。その瞬間、周囲に黒い靄が立ち込めて視界を遮った。そして靄が晴れると、僕達は建物の屋根の上へ昇ってた。更に続け様に屋根の上を瞬間移動してく。
 そして見えた奴の姿。気味の悪い羽を既に生やしたそいつに向かい、幾つもの光が地上から放たれてる。だけどそれを容易にかわして周囲の建物を次々と破壊して行ってる。


「不味いぞ。第一研究所が危ない!」


 ロウ副局長がそう言う。三つの研究所はそれぞれ中央に近い三方向にある。その中でも第一は重要度高いから一番中央寄りだ。避難所には成ってないけど……あれだけ派手に暴れられちゃあな。てか第一研究所は既に結構弱ってるしな。止めさされたらやばい。


「テトラ、僕をぶん投げろ!!」
「良し!!」


 即断即決してくれたテトラは即効で僕をぶん投げた。真っ直ぐに進む……だけど都合良く奴が直線上に居るわけじゃない。僕はイクシードを発動させて、ウネリを作り出す。片方のウネリを屋根に突き刺して引っ掛ける。弧を描く僕の体は勢いを直線から曲線に変えて奴へと向かう。一捻りを咥えてそして––


「させるか!!」


 ––甲高い音がはぜる。地上に落ちた僕の両腕からは赤い血が滴ってた。奴は勿論無傷だ。


「ようやく来たな。ふひっ––事故って事にしといて良いよな? 弱すぎたから、ついつい勢い余って殺したって事にしてやるよお!!」


 眩しいほどに輝いてるこの街の中で……奴だけが深く沈んで見える。空洞の様な無限の闇。その狂気に再び立ち向かおう。



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