命改変プログラム

ファーストなサイコロ

遠くからの誘い

 大きく振り上げられる腕。ゴツゴツとした無骨なソレは重量感たっぷりで、まともに受け止めたらきっと潰されてしまうだろうなって事が容易にわかる。


(まあ、当たらないけど)


 どれだけ力強く強力そうでもゴーレムの動きは鈍い。スピード自慢の僕には止まって見える位。僕は武器を手にすること無く、横に飛ぶことでその攻撃を避ける。だけどやっぱり強力なだけはあった。その重量級の攻撃は地面を砕き足元をふらつかせる。
 そしてそのふらついた所を狙ってめり込ませた腕を力任せに振るうんだ。地面を抉りながら振るわれた追撃のメインは地面の瓦礫。広範囲に広がるそれを完全にかわす事は難しい。取り敢えずこの瓦礫をやり過ごす為にもセラ・シルフィングに頼るべき。
 僕は両腰にある頼れる相棒へと手を伸ばす。


「うお!?」


 するとその時だ、上空から降り注いだ黒い光球が瓦礫を吹き飛ばしてくれた。そして僕達の間に降り立つのは邪神テトラだ。漆黒の長い髪が舞い、白い布地に金の刺繍をあしらった服が靡いてる。


「テトラ……助かった」
「貴様も来てたか。別に俺だけで何の問題も無かったがな」
「それはそうだろうけど、色々と事情があるんだよ」


 別にテトラを信用してない訳じゃない。寧ろこいつ以上に戦闘力で信頼出来る奴は居ないだろ。なんたって神だし。大抵の奴には負けるわけ無い。シクラ達みたいな反則使ってる奴等意外な。だからこのゴーレムにだって負けるわけ無いだろう。それは確信出来る事だ。


「ふん、まあなんだろうとこのバカに灸をすえてそのガラクタを取り戻せば良いだけだろ」
「それはそうだけど……」


 テトラは赤子の手をひねる程に簡単だと思ってるだろうけど、僕はちょっと引っ掛かってる部分がある。するとゴーレムの後方に居る白衣の子供がワナワナと震えながら声を出す。


「バカにバカって言われた……バカの癖にバカの癖にバカの癖にバカの癖にバカの癖にバカの癖にバカの癖にバカの癖にバカの癖に––」


 おいおいどうしたんだアイツ? 怖いよ。アレか、自分の事を超優秀と思ってて僕達は平々凡々のクソとしか思われてないから許せないのかも知れない。だけどテトラはそんな言葉を意に返さずこう言うよ。


「バカでもなんでも、貴様の小さな抵抗もここまでだ」
「そうだな。お前だってこいつの実力知ってるはずだろ。あの時第一研究所に居たのならさ。それなら下手に抵抗しない方がいい。ハッキリ言って人の命なんかゴミとしか思ってないぞこいつ」


 まあホントにそう思ってるのかは知らんが、脅しくらいはしといた方がいいだろ。それに邪神だし、その程度普通に思っててもおかしくない。てか、今は知らんけど思ってたろ。


「ゴミか……でも君達に僕は殺せないよ。そして手出しも出来ない。何も出来ない」
「やってみるか?」
「やればいい。その大切なゴーレムがどうなってもいいのならね」


 自信満々でそう言うそいつは「ほれほれやってみ」と挑発してくる。


「ハッタリだ」


 テトラの奴はそう言って、その拳に力を集める。黒い靄が拳から溢れてきて、禍々しさを放ってる。その様子を見てそいつは唾を飲み込む。強がっては居るようだけど、やっぱり恐怖はあるようだ。
 まあこんな場面馴れてなんかいないだろうしな。最初見た時なんか丸まってたし……多分本当はかなり無理してる。じゃあなんでそこまでして……って事になる。僕達は曲がり何にも、この街の存続に協力してる筈なんだけど……まあ僕達がここから出て行けば彼奴等も追ってきそうだけどさ。でも今やそれは無いだろう。
 原因は僕達でも、一緒に戦ったんだ。そこには何か生まれてる筈だろう。きっと。テトラに見据えられてガクブルなそいつは、それでも必死にこういう。


「ぼ、僕を殺せばそのゴーレムは自動で破壊される。そしてその命令はいつだって実行出来るんだ。つまりお前達は僕に手出しは出来ない」


 そういう事か。統括がコードを仕込んだとか言ってた時点で、何か自爆系の奴で保険を掛けてるかもしれないと思ってたけど。やっぱりそうだったか。
 てか、やらない訳無いよな。僕達にとってこのゴーレムが最後の鍵だ。古の技術で作られたこのゴーレムを壊した後に復元する技術はきっと無い。それなら、このゴーレム自体が有効な人質だ。だけどどうやら、テトラは別に動揺なんてしてないようだ。


「貴様は本当の恐怖を知ってるか?」
「なんだよ突然? そんな脅しに踊らされたりしない! そこから一歩でも動く気配を見せたら、指示を送る」


 切り札を出して少しは安心したのか、そいつは強気に出てる。確かに普通はそれでいい。別に間違っちゃないだろう。けどこいつはそこらの人間じゃないぞ。絶対何かヤバイこと考えてる。


「その指示はどれくらいだ?」
「は?」
「どれくらいの速さで出せる? 俺が貴様を半殺しにするよりも早いのか。なあ……少年」
「っつ!?」


 その瞬間テトラの拳だけが靄の中に消えて、そいつの目の前に瞬間移動してた。そういや、そう言う事も出来るんだっけか? 完全に先手を取ったな。自分と僕達の距離をそのまま計算してるから、こうなる。
 テトラも十分反則級の能力持ってるからな。まあここじゃ力が自由自在って訳でもない様だけど、それでもああいう一部なら消耗も少なくて済みそうだしな。しかもただの人間を殺すのは、テトラに取っては造作も無いだろう。
 それこそ、力なんて込めなくてもやれそうだしな。そして当の油断大敵な彼は眼前に現れた手の恐怖に歯をガチガチ鳴らして冷や汗ダラダラだ。だけどそれだけで終わらせはしないのがテトラこと誰もが恐れる邪神なのだった。


「さあ、どうした? 早くゴーレムを壊さないと、貴様の四肢が分離することになるぞ。大丈夫心配するな。死にはしないさ。ただ、死ぬほうが楽だったと思うだけだ」


 テトラの奴の瞳が鋭く光るのが見えた。それは容赦無い目だ。非道で残酷さを魅せつけるような、鈍い光を内包してる。そしてその言葉と圧力にやられたのか、そいつは息が乱れていって、目玉があらぬ方向を向いてドサッと地面に倒れた。
 その瞬間、しっかりと立ってたゴーレムも地面に膝を着く。どうやら操縦者? が気絶したから、起動が止まったみたいだな。僕達はホッと息を付いて倒れたそいつに近づく。


「やりすぎたんじゃね?」


 結構酷い顔してる。普通にしてれば、まだ可愛気が残る顔してるのに、今では白目を向いて泡吹いてるから完全にラリった人みたいに成ってる。気持ち悪い光景だ。


「他にやり用があったか? 貴様では迫力不足だろ」
「まあ確かに僕にはお前ほどの凄みはないな」


 そこは素直に認めよう。威厳とか凄みとかで神に勝負挑む気には成れないよな。


「いやいや、流石だな。二人共」
「ロウ副局長」


 なんでここに? 統括のごますりの仕事があるだろ。僕のそんな視線を察したのか、ロウ副局長はこう言うよ。


「はは、統括は早く実証したいんだよ。だから早くしてこいとケツを叩かれてね」
「社会人って大変だ」
「はは、中間は特にね……」


 まさかLROでそんな生々しい事情を聞くなんて思わなかった! そんなのリアルだけで十分なのに……ゲームには夢と希望だけで良いよな。まあそれを言ったら今のLROは絶望色の方が強いから失格だろうけどな。
 バランスなんて有ってないよう物だから……


「ようはとにかくこのゴーレムを運べば良いだけだろ?」


 そう言ってテトラの奴は片手で軽々と自分よりもかなりデカく重いはずのゴーレムを持ち上げる。なにそれ? 重力操作でもしてんのか? まるで綿の様に持つなよ。僕にも出来るんじゃないか? って一瞬思っちゃうだろ。
 だけどそこで「僕も僕も」なんて言っちゃ駄目なんだ。絶対に無理だからな。だから僕は悔しさを表しながら舌打ちする。


「ちっ」
「なんだか勝手に批難されてる気がするんだが」
「そう言う事もあるだろ。人間は嫉妬深い生き物なんだよ。他人が出来る事を羨むんだ。知ってるか? 隣の家の芝生は青いって言うだろ? だから別に羨ましくなんか無いぞ」
「それはツンデレと言うやつか?」
「違うわ!」


 どこからそんな言葉仕入れて来たんだよ。何、LROでも萌えとか蔓延してんの? ラノベとかあるのか? 


「落ち着きたまえ。運んでくれるのならありがたい事だろう。確かに君の言いたいこともわかるが、人は不得意を補うよりも得意を伸ばすほうが言い。得意が個性だ」
「その得意な個性で第一研究所の人達と渡り合えるんですか?」
「…………………さあ、早く地下へ行くぞ!」


 完全にスルーされた。まあそれは聞かない約束––というか暗黙の了解みたいなものか。第一と第二じゃ才能って奴が違うんだよね。


「ゴーレムは俺が運ぶが、そっちはどうするんだ?」
「そっち? ああ」


 そう言われて思い出した。そう言えばこいつも運ばないと行けないんだよな。すると二人の視線が僕に注がれる。いや……まあわかってたけどな。テトラは重量級のゴーレムを任せてるし、ロウ副局長は研究者だけに体力とか貧弱そうだからな。
 消去法で僕しかいない。僕は白目を向いたそいつを取り敢えず背中に乗せる。背がちっちゃいだけあって案外軽い。これなら楽そうだ。


「よし、ではこっちだ」


 そう言ってロウ副局長が先陣を切って走りだす。ここに来た時の様に地下への出入り口を使えれば便利なのに……と思ったけど、あの場所からしか利用できないのかも。僕は仕方なくその背中に付いてくよ。






「はぁはぁはぁ……」


 暫く走ってると明らかにロウ副局長の息が上がってきた。どれだけ軟弱なんだ。数分しか経ってないぞ。


「大丈夫ですかロウ副局長?」
「この……位……どうってことは……ない……」


 息も絶え絶えとはこの事だな。なんで何も負荷かかってないロウ副局長が一番に疲れてるんだよ。ホント研究者って奴は体力ないな。アレだろ、研究の後にいつもキャバクラとかに行って酒飲みまくってるから体にガタが来てるんじゃないだろうか?


「しょうがない、貴様も運んでやろうか?」


 邪神の癖に優しさを見せるテトラ。だけど大の大人が流石にそれは恥ずかしいのか、拒否した。けど既にバテバテだからな……最初は一番前だったのに、今じゃ一番後ろだ。このままじゃ時間がかかってしまう。
 多分僕とテトラが急げば、それこそものの数分でつくと思う。だけどこのままロウ副局長に付き合ってたら数十分は掛かりそうだ。そんな時間掛けてたら背中のこいつが目覚めるかも。そうしたら色々と厄介な様な……


「このままじゃこいつが起きるかも……」
「その時はまた脅せばいい。いや、恐怖が染みこんでればその心配は無いと思うがな」


 確かにテトラが近くにいる間は、それでも大丈夫……か? けどどっちにしろ、起きる前にこのゴーレムを台座に納めるべきではある。


「なあロウ副局長、僕達先に行っていい? 後からゆっくり来ればいいよ」
「ふっ、ふざけるな! お前達に独断の権利なんて無いんだぞ」
「けど、どうせ今も見られてるんじゃないか?」


 多分統括は僕達の動向をあの部屋から見てる筈だろう。それなら別にロウ副局長の監視はそこまで重要じゃない。


「それでも……だ。もしもの時、直接貴様達の抑止力に成るのが私の役目だ」
「だけど僕達がその気に成ればやっぱりロウ副局長じゃ止められないと思うよ」
「そんなのわかってる……だが……大人には無理だとわかってても断れない時があるんだ」


 またリアルな……なんかロウ副局長見てると悲しくなるな。僕は遂にその場で足が止まって呼吸を激しく繰り返す彼を見つめる。


(こうやって話してると、やっぱりロウ副局長だな)


 クリエじゃないけど、少し違和感っぽいのを感じる時があったんだけど……どうやら杞憂らしい。ここら辺は中央から離れてて、人も今や避難所だから凄く静かだ。建物の合間を縫う風が、時折甲高い音を出すのも聞こえてくる。


「仕方ない奴だな」


 そう言ってテトラの奴が強引に開いてる片腕でロウ副局長を持ち上げる。


「貴様っ––こんな事は必要ないと!」
「五月蝿い。お前の意見など聞いてない」
「……はい」


 睨み一発でロウ副局長を黙らせるテトラ。流石邪神はやることが荒っぽい。


「行くぞスオウ」
「そうだな」


 僕はアキレス腱を伸ばして準備を整える。そして二人して一気に駆け出す。ロウ副局長の上ずった声が一瞬聞こえたけど、それを置き去りに僕達は建物の間を縫って進む。きっと全然スピードが違うからビックリしたんだろう。
 そもそも最初にロウ副局長のペースに合わせたのが間違いだよな。あれじゃ、平均的な人間の速力しか出せない。ここはLROだぞ。早く走る術なんて一杯ある。


「そう言えば、そいつが裏切る理由は結局なんだったのだろうか?」


 取り敢えず息を整えたロウ副局長がそんな事を言ってきた。確かにそこは結局聞いてない……だけど心当たりはあったし、一応伝えておくか。でも問題が一つ……


「なあ、今の僕達の音声まで向こうに届いてるのか?」
「それは大丈夫だ。音までは拾ってない」
「そっか。それならまあ……伝えるの遅くなったけど、こいつ第一の研究資料の全てを自分の作った錬金アイテム……というか生命体? に写してた。コピーを取ってたんだ。そしてそれを外に持ち出そうとしてた。
 元々第一に不満でも有ったんじゃないか?」
「なるほど。だが第一の待遇はかなり良いはずだが……」


 あれ? 思ってた所には食いつかないのか。目玉の事にもっと突っ込んでくると思ったんだけどな……普通第一研究成果って所に研究者なら食いつきそうな物だろうに。まあでもそこまで重要でもないか。
 それよりも待遇はいいらしいし、それが反逆材料ではないようだな。まあ元からそれはないと思ってたけど……そもそも研究成果を持ち出すなんて重罪らしいし、待遇改善ならボイコットとかストライキの方が簡単だよな。
 重罪人に成ることはない。だけどこいつはそれをした。って事はそれなりの覚悟があったって事だろう。ブリームスには第一の研究成果を狙う輩もいるそうだし、それに流して莫大な富を……とかも考えたけど、目玉の話ではそういう繋がりは無いらしいからな。
 純粋に何か居ても立ってもいられない事でもあったのか……


「なあ、あの第一の統括ってどんな奴なんだ?」


 見た目はマジでマッドサイエンティストその物だけど、実際の所はどうなんだろうか? 僕はよく知らないけど、ロウ副局長はなんか信頼もされてそうだし、良くしってそうだろう。どうなんだ?


「うっ……ん……そうだな」


 歯切れの悪い言葉が出かかってると、背中に抱えてる奴がモゾッと動いた気配がした。これはヤバイ! 多分起きる。


「テトラ!」
「任せろ」


 僕の声でテトラがまだ起きかかってるそいつに圧力を掛ける。すると無意識下でもそれに反応したのか、体がブルっと震えたのが分かった。そして薄目が空いてく中で、低い声でこう告げる。


「下手な事はしないことだ」


 その瞬間意識がハッキリ目覚めたのか、僕の服を強く握り締めるのが分かった。そして異様に息が荒い。これならまあ、大丈夫だろう。


「なあお前、どういうつもりなんだ? あの目玉もそうだけど、今回の行動もそうだ。下手したら極刑だぞ」


 僕はそんな言葉を前を見たまま言った。まあ相手は背中だし、走りながらだから、これ以外に無いんだけどな。すると背中の奴は震える口をカチカチ言わせながらこういう。


「お前達こそ……なんで気付かないんだ。これが本当に冴えたやり方だと思ってるのか? インテグの内部の資料は見たんだろう?」


 インテグ……一瞬なんの事かと思ったけど、そう言えばあの目玉そんな名前だったな。内部の資料といえば第一の研究成果とかの全て……実際僕自身は内部見てない。てか理解できないし。


「僕は見てないな。だけど第二の研究員達が今も色々とやってると思うぞ。それがどうした?」
「第二程度じゃやっぱり無理か……印をつけてた筈なんだけどな……」


 印? そんなのがあったのか? てか何か目的があるならもう言えよ。詰んでるんだからな。


「何の事なんだ? 何かあるのなら教えろ」
「駄目だ。そいつは信用出来ない」


 そう言ってロウ副局長をそいつは見る。ああ〜確かに統括と仲良さそうだったしな。反逆者であるこいつが信用できなくて当然か。


「第二は大丈夫だよ。僕達を第一に潜り込ませる為に協力してくれたしな。基本仲間だ」
「……分かった。確かにこうなったら仕方ない。実力行使も無理だったし……お前達は外から来た奴等だからな」


 そう言って小さく息を吸い込んで吐くと、言葉の続きを紡ぎだす。


「第一には……いや、あの統括には恐ろしい計画があるんだ。お前達はどうやってあの化け物共を追い払うか知ってるか?」
「それは確か、魔鏡強啓第零を開いてとか言ってたろ? それには多分近づいてると思うぞ。真の零区画にもいけたしな」


 どうでもいいけど、こいつちっちゃいくせに僕達全員にタメ口だな。いや、ほんとどうでもいいけどさ。そこは重要じゃないし……もっと大切な内容が語られそうだから、我慢しとくよ。


「零区画まで……じゃあいよいよだな。今頃多分記憶を漁ってるはずだ」
「記憶?」
「真の零区画には多分、この指輪のデータが全て保管されてる。そしてそれはこの街で生まれた人達の全ての記憶だ。その中にはきっと深く魔鏡強啓に関する事を知ってる記憶だってあるはずだ。錬金術師が遥か過去から夢見てた事を実現する為に、蓄積されてきた記憶だからな」


 それを聞いて、僕はポツリと言葉が漏れる。


「人間再生……」
「まともな頭してるじゃないか。そうだな、ホムンクルスの創造だ。だけど、そこまでやる気は統括にはない。奴は欲しがってるんだ、全ての知識を自分の元へ。そして繰り返そうとしてる。あの悲劇を」


 悲劇……それって––するとその時ガシッと力強く揺さぶられた。


「止めないと駄目だ!! このまま統括の言う通りに事を進めれば、このブリームスは魔鏡強啓の扉の向こうに喰われるんだ!!」


 耳に突き刺さる言葉に、思わず足が止まる。悲劇とか喰われるって言葉で思い浮かぶ、あの時のイベントの事。すると視界の端に白い布が靡いてるのが見えた気がした。だけどそれは気のせいだ。今のこの街には、あの時の所長はいない。
 だけど……同じ事が起こるかもしれない。こいつの言葉だけで全てを信じるなんて出来ないけど……でも、ここまでしたこいつの全てがデタラメだとも思えない。人の気配が既に消えてる周囲で、カンッカンっと甲高い音が虚しく響いては消えていく。



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