命改変プログラム

ファーストなサイコロ

再び吹く

「はっはっは––」
「あっちです〜こっちです〜」
「いや、どっちだよ!」
「あっちです?」


 何故に疑問形? 僧兵の奴の苛々が伝わってくるな。もっと自信を持っていって欲しいのは確かだけどね。だって頼りはお前だけなんだからな。頭の上に乗ってる小人はなんだかハッキリしない。こいつらは記憶力が悪いのかな? でもそれじゃあ色々と雑用だって支障がでるよな。
 ただこういうキャラだと思いたい。こいつら全員どこかぽわぽわしてるし。それになんだかんだいっても最終的にはちゃんと指示はしてくれるからな。きっといけずなんだろう。


 そんなちょっと頼りない指示に不安になりながらも僕と僧兵は足を止める事は出来ない。薄暗く無機質な通路を短い足でせっせと走る。どこからあの恐竜型のロボットが出てくるかとか正直不安だけど、全部が所長達のところに集まってる可能性を信じるしか無い。
 まあそれはそれで困るんだけど……だけどこっちだって丸腰じゃない。流石は優秀な第二研究所の職員達だよ。急ごしらえとはいえ、出来たアイテムは一つじゃなかったんだから。それにそこまで頼りには成らないけど僧兵も居るし、どうにかきっと出来るだろう。


「お戻りでう––うぅ〜」


 僕は頭の上の小人の口を急いで塞いだ。だってわざわざ僕達の事を報告する様に声を出そうとするんだもん。ほんとぽわぽわしすぎだろ。てか変な繋がりが切り離されて物理的にまともな建物になってるからな、案外早く辿りつけた。
 それにポワポワしてる割にはやっぱろ指示は的確だったようだしな。この体の小ささもある意味良かったのかも知れない。この薄暗さに溶けこむように移動できたしな。第一の統括とかには知られてない様だ。
 第一の小人にも接触しなかったし、不幸中の幸いだな。外の騒動に誰しもが感心を寄せてるから当たり前か。覗きこむと比較的広い空間に大量の恐竜型のロボットがひしめき合ってる。映像で見るよりも多く見えるな……てか直接見るとヤバイ多さだ。自分が小さいからかも知れないけど、全部が自分より大きいって怖いな。


「おい、ちゃんと現状を確認するぞ」


 そう言って僧兵が肩を指さしてる。乗れって事か。僕は僧兵の肩に足を乗っけて立ってもらう。そして僕もその上で立つ……けど––


「見えね〜」


 マジモブリちっちゃいよ。二人足しても一メートル超えた程度しか無いだろこれ。視線は高くなったけど、恐竜型のロボットの足しか見えなかったのが後頭部くらいが見える様になっただけだ。


「やっぱ無理か……」
「こうなったら位置は推察して動くしか無いか。こいつらの向きから大体わかるし、行けるだろ」


 それに映像も一度見てるし、あれから変わってるとは思えない。


「ちょっ、隠れろ」


 僕の指示で咄嗟に通路に身を翻す僧兵。いや〜危ない危ない。デカイ奴がこっち向くんだもん。そう言えば、あのロボットって小人達が操縦かなんかしてるんだっけ? でも数体位出てきたよな? あれってどういう風に操縦してるんだ? 
 しかも出てきた時なんか液体だたような……多分僕達が想像してる操作方法じゃないんだろうな。あの体のどこかにコクピットがあって……とかじゃないんだろう。それでもいいと思うけど……小人サイズなら小さなロボットの方にも乗れるだろうしな。
 でも実際はきっと全然違う操作体系だよね。なんか自分をとかしてるって感じ? まあわかんないけどさ。待てよ……


「おい、お前も同じような出来ないのか?」
「同じような事ですか〜?」


 僕の言葉に小人は首を傾げる。こいつに伝えるには言葉が足りなかったか。


「えっと、つまりはお前も小人なんだし、同じようにあのロボットを操縦できないのかって事だよ。いや、別に乗っ取る必要はない。次々と乗り換えて中の同類共を混乱させたりさ」
「う〜ん、やってみるですか?」


 それはやろうと思えば出来るって事か? それが出来ればこの包囲網を崩す事も容易かもしれないよな。デカイ奴に入ってもらって、そいつが暴れてくれれば、そこには隙がデキる。だから確定情報が欲しい。


「やれるのか?」
「やれないです〜」
「やれないのかよ」
「でもやってみるです〜」


 ええ!? それでもやってみるってなんで? 可能性はあるってことか? 止めようと思ったけど、小人は何故か迷いない速度で歩いてって既に僕の手が届く位置から離れてた。楽天的な癖に行動力だけあるってある意味怖いぜ。大丈夫なのかあいつ? 


「よせ、俺達じゃ見つかるぞ」
「くっ」


 流石に小人サイズでも無いと近づけば見つかるよな。僧兵の言葉に僕は素直に従うよ。だけどドキドキだな。あいつホントに大丈夫か? 僕と僧兵は通路の隅っこからロボットに向かった小人を見つめる。
 するとあいつはコソコソと言うよりも堂々といつもみたいにして、近くのロボットに張り付いた。そして上に登ってく。なんで入んないんだよ。それに何故に登る? 別に登る必要性無いだろ? 


 はらはらドキドキしながら見てると、なんとか登り切った小人がこっちにVサインを送ってくる。いや、いらないからそんなの。さっさと実証しろよ。


「え?」


 すると更に小人は予想外の行動に出た。のほほんとした顔のまま、あいつは他のロボに飛び移ったんだ。だけど飛距離が足りなかったのか、背中からずり落ちそうになってる。


「はわわわわ……」
「あのバカ。どうして余計な事をしようと……」


 ホント僧兵の言う通りだな。今はそこまでしてくれなくて––そう思ってると突如この場所……というか空間というか建物事態に大きな衝撃が伝わって来た。気づいた時には通路の反対側に顔面強打してた僕。ロボット達の方を見ると結構ぎっしり詰まってたからかかなり大惨事みたいな光景に……僕達と同じようにその場からズレてしまってる。てかそのおかげで中央に居た所長達の姿が顕にてるじゃん! 
 どうやら彼等は上手く踏ん張ったようだな。それに衝撃で滑って来たロボットをリルフィンが無理矢理にどかしでもしたんだろう。だからあの場所にとどまって入られてる。もしかしたら全員をリルフィンの意図で繋ぎ止めてたのかも知れないな。
 だって完全な不意打ちの衝撃だったんだ。あれから身を守るって、ハッキリ言って反応速度云々の話じゃない。それに百歩譲ってそれだけの反応をリルフィンは出来るだろうけど、所長とかフランさん……それにクリエも出来るかと言ったら疑問だろ。
 だけど彼等はロボット達と違って端っこに滑ってない……それは皆が踏ん張ったからってよりもリルフィンの糸がもしかしたら張り巡らされてるって考える方が納得出来る。


「くっ、なんだ今の?」


 僕と同じように反対側の壁まで飛ばされてた僧兵が起き上がりながらそう言う。頭を強打したからそこを抑えながら文句ぶつぶつ言ってるよ。でも……これはありがたい。てか、もしかしてと思うが、もしかしたらこれってテトラからのアシストでは? それ考えられるよな。


「確かにかなり痛い思いしたけどさ、これはチャンスだぞ僧兵」
「チャンスだと?」
「ああ」


 頷く僕の視線とぶつかる視線がある。それはクリエだ。クリエも僕に、僕達の存在に気づいてる。今なら行ける……ロボット達は壁際に追いやられてその包囲網は崩れてるんだ。ゴチャゴチャ考えてる場合じゃない。僕は決断して声を上げる。


「行くぞ僧兵!!」
「––––おう!」


 色々と気になることはある。小人は大丈夫かな? とか気がかりだけど、まああの小人の事だ、どうせその内いつも通りの緊張感の無い顔で現れるだろう。だから今は前を見て走れ!
 横倒しに成ってるロボを避けたり、踏みつけたりしながら所長達のいる場所を目指すんだ! するとその時ドガンど激しい音を立ててでっかいティラノ級サイズの奴が無理矢理こっちにその大口を向けてきた。その無理矢理な行動で割り食った他の小型のロボ達が宙を舞って激しく床に転がる。だけどそれが案外上手い具合に僕達の邪魔に……


「スオウ!!」


 僧兵が武器を構えてそう叫んだ。側面には既に大口を開けたロボが迫ってる。間に合わないのか!? まだ数十メートルは離れてる。人型ならこの程度の距離はさほど遠く感じないんだけど、今僕はクリエだ。
 その足の短さのせいで、なかなか近づいた気がしない。そしてモブリの運動能力じゃ、このこの口から逃れる術がない。大きく黒くそして深い口内が迫ってる。その周りには鋭利な牙がメタメタしく輝いてる。あんなので噛まれたらこの体は……僧兵は小さな剣に魔法を付加してるけど、それで止められるのか?
 僕達を狙ってその口が閉じられようとしてる。鋭い歯が頭上に迫る。そして僕達を掠めてその鋭い牙は空気を引き裂くような甲高い音を発した。


「え?」
「何? 外した?」


 僕も僧兵もその音のせいで耳がキンキン鳴ってるけど、驚く理由は同じだと直ぐにわかった。だってなんでアレで外す? そんな馬鹿な事があるだろうか? するとそのロボの鼻先から呑気な声が……


「呼ばれてないけど飛び出てじゃじゃ〜〜〜〜ん。間一髪です〜〜〜」
「お前!? なんで?」


 鼻先から滲み出るように出てきたのはあの小人じゃん。本当にいつ通りののほほんとした顔で現れたな。こいつらに関しては心配なんてホント必要ない様だ。


「あわわ〜〜ってなったら、こいつが居たから入ったです〜。良かったですか〜?」
「良かったなんて物じゃない。最高だ!」
「イエェ〜イです〜」


 どうやらさっきの衝撃でふっ飛ばされた時に偶々このデカイのに接触出来た用だな。そして中に入って多分こいつが狙いをズラしてくれたんだろう。こいつが居なかったら今頃僕達はこのティラノの腹の中だったろう。
 マジでグッジョブ! 小人は鼻先から完全に出て僕の頭に乗っかる。すると異物を排除したからか、また再び動き出そうと鼻息を吐き出した。もう一度喰われかける訳にも行かないから、さっさとクリエ達の元に行かないとな!
 向こうも走ってきてくれてる。態勢を立て直し始めたロボ軍団もそれを阻止しようと……してるのかは知らないが勢い良く走りだし始めてる。


「行くぞ僧兵! 急げ!!」
「ああ……急がせてやる!!」


 そう言って僧兵の奴は僕の背中に何かを付ける。それは三角形の無機質な物だ。いや、待てよこれって……


「第二の奴等が作ってくれたアイテムだ。説明は受けてるだろ? なら前を向いてろ!!」
「ええ!? ちょっま–––」
「うおおおおおおおおおらぁ!!」


 そのアイテムに向かって僧兵は自分の武器を振りかぶって殴り当てた。背中に響く衝撃。その直後にゴゴゴゴゴと微細な振動が響き次の瞬間、僕の体が浮いた。空気にぶつかって、皮膚が後ろに引っ張られる感覚が……


「うばべべべべべっべべぇえええええええ!!」


 なんて噴射力!! その勢いを制御出来ず体がぐるぐる廻る。だけど……そうだな。このくらい強引じゃないと、小さな僕が合流する前に妨害がまた入るかもしれない。だから、これは必要な事だったんだ。それを僧兵は判断した。
 流石にクリエ達は僕の突然の加速……と言うか発射に驚愕してこちらに来る足を止めてる。僕は回る世界の中で蛇を取り出し、それを強く握り締める。


「クリエええええええ! 口開けろおおおおおおおおおお!!」
「えっ……えええええええええええええあがっ!?」


 蛇をクリエの––というか僕の口に突っ込んでも勢いそのまま。でもわざわざ止まってる暇もないから僕も双頭のもう片方の頭を口に含む。すると色が代わり質感が本物の様になって、そして喉の奥に進み入って来る。
 吐き気がこみ上げる。そしてその直後に視界が暗転した。そして次に気づくと、目の前には小さなクリエの姿が。僕は踏ん張りを聞かせて勢いを殺しにかかる。そして壁が迫る中、徐々にその勢いはなくなっていった。勢いが完全に消えた所で僕は蛇を口から抜く。そして自分の体を確かめる。


「クリエ、大丈夫か?」
「うん……クリエ頑張ったよ」


 そう涙目になりながら言うクリエ。僕はその頭を優しく撫でてやるよ。


「ああ、良くやったな。偉いぞクリエ。ここからは僕に任せろ」


 そう言ってる間にデカイ奴が何体か迫ってくる。地面を凹ませながら重量級の姿が迫ってくるのはやっぱり凄い圧迫感がある。でも……クリエの体の時の様な不安はない。だって僕の腰には頼りになる相棒があるんだからな!


「イクシード」


 風のうねりが奴等の足を砕く。支えを失ったロボは地面に勢い良く転がった。そしてもう一回確かめる様に腕を振るう。その際うねりが壁を無造作に破壊した。それを威嚇と取ったのか、周りの他のロボが動きを止める。
 風が……懐かしい風が吹いてる。でも……


「ここは狭いな」


 そう言って僕は上を見る。そして二つのうねりを重ねて天井に向ける。天井にぶつかったうねりはその壁を破壊して空を目指す。そして感じる眩しい光。薄暗いこの建物内で、僕の頭上にだけ降り注ぐ光だ。


「さあ、行くぞお前等!」


 僕達は二つのピラミッド型のアイテムを使ってそれぞれ三人ずつに別れて穴から外へ脱出した。単純な衝撃増幅装置みたいな物だから、上手く使えば色々とヒネるアイテムだ。それを僕とリルフィンに渡して、外へ。
 中も大変だったけど、でも……外も大概だな。テトラと黒い奴が再びぶつかり合ってる。でも今度は僕は無力じゃない。それが何よりも大きなことだ。世界を流れる風を感じながら、僕は自らの敵を見つめる。

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