命改変プログラム

ファーストなサイコロ

四川の合流

 吹きすさぶ黒い力の本流。それがぶつかり合う度に地面は抉れ、建物は破壊されて行く。あの黒い奴が出しゃばってきたせいで、せっかく取ってた第一の人質が使えなくなった。これじゃあ研究所内部の何処かに居る所長達がまたまた危なくなる。てか成ってる。
 まあだけど……


「うおおおおおああああああああらあ!」


 黒いあいつは第一の異空間から落ちた箱の一つを持ち上げる。おいおい、あの中にはもしかしたら所長達が居るかも知れないのになんて事を……そう思ってるとテトラの奴が箱に向かって突っ込んだ。そして勢い良く踏みつけて、まるでゴキブリを潰すかの如く黒い奴ごと箱を地面に減り込ませる。
 おいおい、お前までそんな事をやるのかよ! あの黒い奴はこっちの事情なんかしらないから仕方ないけどさ、テトラお前は違うだろ。中に所長達居たらどうするんだよ。まあテトラに取っては所長とかは面識ないし、どうでもいいんだろうが、クリエいるからな。それ忘れんなよ。
 その光景を見て、統括が支配してる様な小人から「うぬおおおおおおお!!」なる叫びが上がってた。興奮とかじゃない。多分これは悲鳴だろう。まるで「なんて事を!!」ってな感じが伝わってきたもん。
 するとその時、減り込まされた箱に一閃の太刀筋が入る。だけどテトラの奴はそれをかわして既に空中に居た。そして続け様に箱に亀裂が入ると、黒い奴が切り刻んだ箱を吹き飛ばして飛び出して来る。


「はっはー!!」


 激しい肉弾戦に移行する二人。その衝撃が爆発音みたいに響き渡る。テトラの奴はそうそう負けたりはしないだろう……しないだろうけど、不安はある。コードを一度取られたテトラは既に対策というか、その力を糧にされてる可能性が高い。
 今は五分に見えるけど、このままじゃどこでその均衡が崩されるか分からない。一人で相手にさせるには奴等は不確定要素が強過ぎる。


「居たぞー!」
「うん?」


 なんだかゾロゾロと集まってくる人が……その服装は皆さん同じ服っぽい。だけど色が違うな。青いのは治安部だとは判明してる。だけど他に灰色っぽいのや赤いのも居る。多分この街の軍隊みたいなのが総出してるからゴチャゴチャしてるんだろう。それだけの敵だしな。彼等は周りに展開して、何かを組み立て始めてる。切り札か何かか? だけどこのままじゃヤバイな。
 色々とさ、このままじゃ僕達にとって良い方向に転ばないというか……アイツを止める為には第一も協力して僕達だってそれに協力したほうが多分良い。けど箱の中ではまだ第一と所長達が戦ってる状態……もしもこのままこの人達とテトラの活躍でなんとか成ったとしても、その後が問題だろ。第一研究所に侵入した大犯罪者としてこっちも槍を向けられる事になる。それよりも共通の敵を倒した戦友に成ったほうが、得るものは大きい。でもな……


「なんなんのだアレは? 街に発せられてた避難命令はアレが原因であるか。くっ四号は仕方ないのである。おい! こちらにも犯罪者が居るであ––」
「ちょっと黙ってようか?」


 僕は小人の口を塞ぐ。だけどどうやらそれはあんまり意味のない行動だったらしい。


「おい貴様等! 第一研究所も今大変な状況である。奴等を捕まえろ。そしてさっさと奴をここから離すのである!」


 あの野郎、僕が口を塞いだ小人から別の小人に出力先を移しやがった。確かによくよく考えれば、その位自由自在の筈だよな。別にこいつにこだわりがあったわけじゃないんだ。たまたまテトラの奴が掴んでたから、こいつを出力先に選んでただけ……都合が悪い時はいつだってそれを変える事なんか簡単に出来る。
 てか、あの集団にも敵認定されるのはちょっと……


「すみませんが今はそちらに人員を割くわけには行きません。既に奴によってこちらの半数がやられてる。それよりも奴と戦ってる者は何なのですか? 味方なのですか?」


 小人が喋りかけても別段驚くこともなくそう聞き返したのは赤い服の兵隊さんだ。指揮取ってる人なのか、それなりの威厳を感じる。ちょび髭のお陰かもしれないけどね。まあだけど、彼の疑問はもっともだ。それに味方と思ってくれるのはありがたい!


「何を言ってる!? 奴等の仲間はこの第一研究所に侵入してる犯罪者である! 味方なわけはない! それよりも早く奴等ごと全員を取り押さえるである!!」
「ですが……」
「貴様この第一研究所がどれほどの価値を内包しておるかわかって居るのか!? 我等こそこの街の宝である!! 何よりも優先して守るべきは我等とこの場所! それなのにこの場所を戦場にしてどうするか!」


 兵隊さんの言い分なんて待たずに捲し立てる第一統括。確かに第一研究所に蓄積された研究成果とその研究員達はこのブリームスの宝と言って差し支えないだろう。だけどさ、彼等だって必死にやってるんだと思うぞ。
 だって既に半数がやられてるって言ってた……そんな相手に逃げずに立ち向かってるだけ立派だろう。必死に彼等はこの街を守りぬこうとしてる。


「出来る事なら貴方の言葉は聞き入れたい! だが、今の我々にはそんな余裕はないのです! それにあの化け物と渡り合ってる人は貴重だ。例え味方では無くても、我々が無闇に手出しは出来ません」
「それならそこの小さいのを使え。それに中に入ったネズミも追い詰めてある。貴様等はあの二人をこの場から離すことだけを考えろである。取り敢えず今はそれで妥協してやろう」
「つまりはあの二人が同士討ちか、消耗しきった所を狙えと?」
「それが一番効率的である!」


 その言葉を受けて兵隊さんは考えこむ。確かに下手に手出ししてもやられるだけかもしれないからな。効率的って言えばそうだろう。けど、それには大きな穴があるぞ。奴等は知らない……だけど僕達は知ってる事がある。
 それは多分このままだとテトラは負けるだろうって事だ。この土地は相性が悪いし、コードも取られてる。テトラの奴は大丈夫そうにしてたけどさ、孫ちゃんやアンダーソンを見てる分だとやっぱり力の回復はあんまり望めないっぽいし、今は互角に見えても多分テトラの方はこのままだとジリ貧の筈だ。
 あいつが倒れたらますます手付けられなくなる……まあ第一に何かとっておきの隠し球でもあるってんなら話しは別だが……だけどそんなのをホイホイ出す奴等でもないだろうしな。
 このまま犯罪者認識されてしまうのは困るし、ここらで僕達だって動き出さないとな。僕は空気を思いっきり吸い込んで二人の間に割り込む声を出す。


「待って!」


 そんな大声にいつの間にか僕達を囲んでた小人達が一斉に丸まった。その間に僕はトコトコとその兵隊さんの方へ。後ろの方から「何する気よ?」とか言いながら孫ちゃんと僧兵が付いてくるけど、その言葉に返してる暇はない。
 僕は兵隊さんを真っ直ぐ見つめてこう言うよ。


「それは駄目だよ! このままじゃテトラは勝てないよ。クリエ達はそれをわかってる」
「何?」
「待て待て、踊らされるなである。別に勝って貰う必要などない。消耗すればいい」
「でもそれじゃ確実じゃない! それに敵はあいつだけだと思ってるの?」


 僕のその言葉に目の前の兵隊さんだけじゃなくその周りの人達まで反応した。てかその言葉が聞こえたであろう人達が僕の事を凝視してきたから流石にちょっと引いたよ。だって目が血走ってるんだもん。


「それはまさか……あの化け物がまだ居ると、そう言いたいのか?」
「居るよ。クリエ達は知ってるもん」
「んなっ……」


 微妙な声を上げて固まってしまった兵隊さん。それは考えたくない可能性だったのかも知れない。でもそれもどうかと思うけどね。目の前のあいつだけ……そう思うのは楽観的過ぎだろう。最悪の想定位してろよ。
 しかもここは普通に訪れれる場所でもない。何か目的があってきたわけで、あの黒い奴は確かに超自然災害的に見えるかも知れないが、そこらのモンスターと同じ部類じゃない。あんな奴は一人しか発生して欲しくないのは分かるけど、一人だけと考えるのは安易だ。


「「「「ああ!!」」」


 すると周りの兵隊の人達からどよめきが起きる。こっちの会話が広がったのか? と思ったけどどうやらそうじゃない。彼等の視線はこっちじゃなく、空に向けられてたからな。その視線が一斉に地上に向けられたって事は……つまりは––


「おいおい、もっともっと俺を楽しませろよ邪神!! その名が泣くぞおおお!!」


 その声が変な効果でも発揮してるのか、ビリビリと頭に響く。なんとなく気持ち悪くなると言うか、頭を掴まれて揺さぶられてるような……そんな変な感覚だ。てか奴の前からテトラの姿がない……近くの地面から白い煙が上がってるって事は、そこにテトラの奴は落とされたって事か……


「スレイプニル発射!! これ以上被害を広げては成らない!」


 その言葉で兵隊達が組み上げてた兵器が重厚な音を立てながら細い穴が開いた先端部分が動く。昇順を合わせてそれぞれがドシュシュシュという音を上げた。奴に向かって伸びてく光る軌跡。
 だけど奴は避けようとはしない。その鎌を構えて、溢れ出る力を鎌へと集めていく。禍々しい黒い力の本流……それと兵器から放たれた物が全方位から接近する。その時黒い奴は凶悪な表情と共に「かっはあああああ!!」と唸ってその鎌を振るった。


 奴の放たれた力が接近してた攻撃の軌道を変える。やっぱりああいう物じゃ奴には対抗出来ない様だ。無理矢理でも突き抜けてく力強さが欲しい所だよな。


「あれ?」


 軌道が変わって滅茶苦茶な軌跡を描いてるあの攻撃……だけどまだ爆発とかしないな。グニャグニャになってぶつかり合って爆発してもおかしいのに、そんな事無い。アレは……何を目的にした攻撃だ?
 すると僕よりも小さな小人が同じ光景を見ながらこういった。


「スレイプニルか……確かにアレなら……である」


 そんな声に疑問符浮かべてると、弾かれたと思ったその攻撃が再び奴に向かう。まるで大量の小魚が列を守って動きまわるようなあの光景が空でうねり、黒い奴を捕らえる。けどだからってどうやら爆発したりはしないようだ。鎌を覆い、腕や脚に絡みつき、その行動を縛るように巻ついていく。


「小賢しい! こんなので俺を止められると思うなよ!!」


 そう叫んで唸りを上げる奴の体から黒い力が溢れ出る。まったく、どれだけ無尽蔵な力を持ってるんだよって言いたいな。どうやらあいつにはこの土地の事情とか関係無さそうだ。さすがチート軍団だだな。嫌になる。
 けどその奴を持ってしてもその糸はなかなか切れない様だ。


「スレイプニルは我等が開発した超基幹線維である。その特性は超回復。あれは切るにはその回復を上回る力で切るしかない。だがそれは理論上不可能である!」


 鼻高々に小人を通じてそう告げる第一統括。でもなるほど、切れてない訳ではないのか。こっちが切れたと認識出来る前にあの光る糸は回復してるから、切れてない様に見える。だけど奴ならそんな理論その内超えると思う。
 かなり凄い発明品なんだろうけどさ、常識の範囲内に奴等を抑えこむ事は出来ないんだ。現に既に数本ブチブチ切れてるし……


「なんと……」
「もっと継ぎ足せないの?」
「次弾生成に時間がかかる。五分だ」


 また五分か。なにその時間。錬金の縛りかなんかか? てかそれならもっともっと用意してればいいんではなかろうか?


「これで全部なんだ。そもそもこういう事態で使うものでもないしな。これでも無理矢理引っ張って来たんだぞ」


 なるほど、切羽詰まったから使えそうな物を許可とか取らず引っ張って来たのか。でもお陰で少し時間が稼げそうだな……そう思ってると孫ちゃんが間に入ってきた。


「ちょっとそこのちびっ子。そのスレイプニル以上の物が第一にはあるんじゃない? アンタ達、ヤバイの隠し持ってるでしょどうせ?」
「な……ななななんの事であるか?」


 おい、あるのかよ。分かりやすいぞ。てか孫ちゃんも良くそんな確定してるみたいな感じで言えたね。


「だって当然でしょ。こういうお抱えの研究機関ってのはヤバイ物があるってのがセオリーなのよ」
「それはサン•ジェルクもそうだからって事?」
「まあね」


 向こうは魔法大国だからな……魔法のヤバイ研究でもいっぱいしてるんだろうな。ベクトルは違うが、魔法と錬金は似てるところもあるからな。だからこそ、彼女なら見抜けるものがあるって所か。


「言っとくけど出し惜しみしてもいい事無いわよ。きっとあいつはあんなんじゃ止まらない。それにもう一人は確実に居るわ。そいつはまあやる気無さそうだったけど、そういう奴ほどやる気になると怖いでしょ。
 つまりはもう一人がやる気になる前に奴だけでも殺っておくべき」
「だが君達だけの話しを信じる訳には……確かにあいつの力は計り知れない。スレイプニルでも完全には拘束出来てないようだしな。あれと同じ存在がもう一人……考えたくない」
「考えたくなくとも、それは事実です!!」


 毅然とした声が響く。現れたのは治安部のお兄さんだ。やっぱりいたんだ。見えなかったからやられたのかと思ったよ。だけどあれ? なんだかスッゴク厳しい目で見られてる様な? ついさっきわかれた時はもっと優しげだった筈だけど……


「セスか。今の言葉は本当か?」
「はい。私は彼等と共にアレの仲間と思しき者と接触しました」


 『セス』って言うのか……僕はクリエを作って「お兄さん!」って近づいてみる。するとフイッと顔を背けられた。ショック! そんな……優しかったお兄さんがそんな態度を取るなんて……


「それよりも第一への侵入と言うのは?」
「それはこちらに聞かれてもな。そこのより小さいのに聞いてくれ」


 より小さいのって……つまりは小人か。それを受けてお兄さん改セスさんは統括に事情を尋ねる。


「そのままの意味である。そいつ等の仲間はよもやこの第一研究所の偉大なるデータを盗もうとした不届きな奴等なのだ!」


 そう言って再び映像が出る。てか前から変わってない。一体どれだけ睨み合ってるんだか……するとセスさんはその映像の何かを見て、更に表情を険しくする。なるほど……多分この人が僕達に向ける視線が厳しくなってるのはこれのせいだな。
 まさかこんな事をやってるとは思ってなかったんだろう。知ってしまったんだから、こんな目を向けられるのも当然か……


「どうしてこんなバカな事を……」
「そんな事は今はどうでもいい事でしょ。今はこの危機をどう乗り越えるか。違う?」
「有耶無耶になどさせんぞ! 貴様等にはそれ相応の罰を受けてもらうである!!」


 全く、統括はどうあっても僕達を投獄にぶち込むかしないと許せないみたいだな。いや当たり前だけどさ。でも今の状況をよくよく考えてほしいな。てか孫ちゃんは協力体勢には慎重派だった筈だが……


「今は一時的でも協力体勢は取るべきでしょ。あいつどうせ倒さないと止まらなさそうだしね」
「それはそうだね」
「それにアンタが元に戻るためにも今の状況からの脱却は必要。そして結局は権力よ」


 最後のフレーズは納得できるけど、その意図がわからん。ここでそんな生臭いこという必要あったか?


「どうでもいいからさっさと動け」
「うわ! テトラ」


 どこから沸いてきたんだお前。てかやっぱ結構やられてるな。服とかボロボロだぞ。


「あわわわ……」


 統括が泡吹いた様になってる。こいつには邪神っての伝えてるからな。だけどそれを知らない二人はそれぞれ得も言われない様な表情でテトラを見てる。


「ふん、貴様等の誇る錬金はこんな物か?」


 そう言いつつテトラは僕に目配せをしてくる。「なんだ?」って思ってその方向を見ると、こっちに手を振ってる小人が一人。その手には銀髪の毛が……アレはリルフィンの髪か? まさか僕達が連れてた第二の小人か。どうしてここに……いや、多分向かえに来てくれたんだろう。
 あの場から抜け出せるとしたらあいつしかいない。って事はあいつに付いて行けば皆の場所にたどり着ける。でも小人の近くの箱には出入り口が……するとテトラが黒い玉を大量に出現させる。
 そして浮いて、拘束されてる奴に向かって放った。その光景に誰もが目を奪われてる。だけどその中の小さな一個が、その小人の方の箱に向かったのを僕は見逃さなかったよ。開かれた穴は小さい……だけど十分だ。
 でも今の攻撃で黒い奴はかなりテンションが上がったようで、その力が脈打つように広がってく。その光景に周りが息を飲む。


「今ね。行きなさい」
「孫ちゃん?」
「そいつ貸してあげる」


 そう言って名指しされた僧兵。奴の意思は無いようだ。でもそれって孫ちゃんはここに残る気?


「まあ私の方が役にたつしね。それに今のアンタは一人にしては置けないわ」
「それはまあ、助かるけど……」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫なようにさっさと帰ってきなさい。アンタには私を守る義務があるんだから」


 孫ちゃんのその言葉に拳を握り締める。そして僕を抱える僧兵は穴に向かって走りだす。


「こっちです〜案内するです〜」


 呑気な声を出す小人と合流して、僕達は第一研究所の内部へと再び入った。

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