命改変プログラム

ファーストなサイコロ

満漢全席の恐怖

「うっぷ……」


 大量の朝食(というか満漢全席並の飯)を平らげた俺の腹はとてつもなく重くなってた。いや、ちゃんと他の奴の分まで心配って残そうとしたんだ。だけど、シスターラオウはそんな心配を簡単に振り払ってくれたよ。
 彼女はちゃんと大量に食材を用意してた。それにまだまだ作ってたしな。おかしいよあの人……目の前に満漢全席があるのにまだまだ作ってるんだもん。自分の感覚を基準に料理を拵えないでほしい。誰もがあの人みたいにエネルギーは貯蓄しようとしてるわけじゃないからな。


「秋徒って無駄に体でかいだけよね」
「……」


 向かいの席に座る日鞠にそんな事を言われても言い返す余裕が無い。てかなんでお前はそんな細いのに俺よりも余裕な顔をしてるんだよ。意味が分からん。こいつの腹の中はどうなってるんだよ。異次元か? どう見ても俺よりも胃とか小さいはずなのに……痩せの大食いとかテレビでもよく見るけどさ、宇宙神秘よりももっと身近な神秘じゃね? 
 おかしいだろこれ。食べた質量どこに放り投げてるんだよこいつら。そう思ってると何故か最後にホットケーキが五枚重ね直径十五センチ位のがこんもりバターと蜂蜜付きでやってきた。


(え? なにそれ? デザートってレベルでももうねーよ)
「わぁ〜大きいですね」
「そうですか? これでも小さくした方なんですが、やはり小さいと火加減が難しいですね。勢いで焼けません」
「勢いは大事ですもんね」
「ええ、刻々と情勢が変わる戦局では勢いがある時に一気に攻めるのもまた一手です」


 おかしい……こいつ等の会話おかしい。てか日鞠の奴はまだ入るのか? マジでどこに納めてるんだよ。


「どうぞお召し上がりください」


 そう言ってフォークをこちらにくれるラオウさん。これはデザートなんだし、拒否は許される……かも知れない。俺は顔を下に向けたまま言ってみる。


「ちょっと……もう十分かなと……」


 その瞬間カンッっと甲高い音を立ててテーブルに落ちる銀色のフォーク。え? 何その反応? 身構えてたんだけど、なんか想像と反応が違うぞ。


「そう……ですよね。これ以上こんな私が作った無骨な料理なんて食べたくないですよね。頑張ってデコレーションしてみたんですが、やはり私にはそういうセンスが欠けてるようです」


 指を隠すように手を合わせるラオウさん。よく見ると絆創膏が一杯……


「それは……」
「ナイフの扱いなら大丈夫なんですが、この国の包丁は切れ味も使い勝手よくて……ついつい肉を切ってみたく成るんです」


 は? ごめん、言ってる意味がよくわからない。なんだかこの人と会話してると、節々でズレた回答が帰ってきて頭が混乱する。え〜とつまりはその絆創膏は……


「これは自分で切って手当しただけです。私の肉をいとも容易く裂くとは大した物です」


 何に対してこの人が頬を染めてるのか……俺には理解できない。ようは切れ味に惚れ惚れしたって事なんだろうけど……自分で何回自分の指を切ってるんだよ! 怖いわ!! てか恐ろしいわ!! 普通幾ら切れ味よくて試し切りしたいな〜ってなっても自分を傷つけようとは思わないだろ。


「これが確実に精度を確かめれる一番の方法です。指は生成能力高いんですよ? それに戦場では武器の性能と状況は常に把握して置かなければ命取りになります」
「ここは戦場じゃないんだけど……」
「いいえ、ここは既に戦場です」


 きっぱりとそう言い返された。しかもなんか声に迫力があったような……シスターラオウの顔はまるで影が入ったように印象的に見える。言うなれば劇画チックみたいな。


「既にこの場所は包囲されてます。敵は政府という巨大組織を後ろ盾にした機関。その手にあるは権力と言うなの揉み砕く力。それに抗うのに私達は驚くほどに弱い。奴等は舌なめずりをしてるんですよ。私達などその気になればいつでも吹き消せる灯火でしかないと舐めてる。
 しかしそれはありがたい事でもあります。私達はその時まで泳がされるのなら、準備の期間は少なからずあるのですから。私達の戦力ははじめから風前の灯火ですが、それでも戦いを挑んでる以上、ここは戦場であって然るべきです」


 ゴクッと、俺は思わず唾を飲み込んだ。戦場って……そんなふうには考えて無かったな。でもこの人はここが戦場と当たり前に思ってきてるのか。だからこそ、自分の出番だと。流石に大袈裟では? ドンパチはなるべくやらない予定だぞ。出来るなら……というか、シスターラオウが来なければその可能は限りなくゼロだっただろうな。
 この人以外は戦力なんて無いに等しいんだから、監視してる奴等が動き出したら俺達にそれを止めたりかわしたりなんてきっと無理だろう。その瞬間詰んだことになる。だけどそれは最悪負傷したりはすることはないって事だよな。
 戦場にさえ成り得てなかったんだから。けど……この人にはここを戦場に出来る力がある。腕もある。戦力を持つと「戦い」と言うコマンドが増えると言うことか。今までは「逃げる」とか回避策的に「交渉」とかもあったんだろう。それを駆使して俺達はなんとかかんとかやってた。その時点では力に対して俺達は無力だった。だけどシスターラオウの加入でコマンド「戦い」が追加された訳だ。
 それは心強いと共に、全面対決を覚悟しなければいけない状況になったということではないだろうか? 大丈夫なのか俺達は。普通の高校生なんだぞ。本当に今更だが、分不相応だよな。一介の高校生がやることじゃない。でも誰だったら相応しいのかと問われても答え用もないけどな。
 俺達は関わってしまった。それこそ、もう知らぬ存ぜぬを通せないほどに。だから……俺達がやらなくちゃいけないことに成ってるんだよな。


「ある程度の拉致監禁は正直覚悟してたけど……こっちから打って出るなんてことはないよな? いや、ですよね?」


 この人相手にタメ口とか無理。マジまだ死にたくないし。すると俺の言葉にラオウさんは神妙な面持ちでこう答える。


「現状ではそれは自殺行為でしょう。今はその気ではないです。ですがチャンスがあれば試したい事はあります」
「試したい事ですか?」


 デカイホットケーキを頬張りながら日鞠の奴が横から入ってくる。マジで食ってるよこいつ。その食ってるもの、どこに送ってるんだ。


「ええ、スオウさんは捕虜に成ってるのでしょう?」
「捕虜というか……まあ間違ってないですけど……」


 なんだかこの人が使う言葉は節々から物騒さが臭うな。まあ拉致も捕虜もそんな変わりはないけどさ。


「皆さんは奪還作戦は考えてるんですか?」
「奪還––」
「––作戦」


 俺と日鞠がそれぞれラオウさんの言葉を復唱する形になった。けど奪還作戦なんてそんな……ハッキリ言ってそんな余裕は無かったな。考えもしなかった。リアルであの組織相手にアプローチ出来る事なんか無いとおもってたからな。


「幾らなんでもそれは危険だ。向こうは様子を伺ってるだけ。だけどこっちが仕掛ければ、強制的にそれこそ力を行使する理由をやることになる。それにそもそも奪還作戦なんて……どれだけの成功率があるよ……いやありますでしょうか?」


 やばいやばい、なんとか遜ったから許してください。そりゃあ実際この人に反対意見なんて怖すぎるけどさ、あの施設から奪還なんて……考えられねーよ。幾らなんでも危険過ぎる。
 そんな事やったら、犯罪者確定だ。向こうが先に拉致監禁したって言ったって向こうは絶対に大義名分を掲げて正当性って奴を訴えるだろう。そして全ての権力は向こうの物……俺や日鞠やメカブは十代だからまだ少年法だけが僅かだけど守ってくれる希望はあるが、この人やタンちゃんは確実に刑務所行き。それに一番問題なのは愛だろ。
 アイツを犯罪者の仲間になんかしたらあの家は黙ってないだろ。そうなったら破局の未来しか見えないぞ。


「そうね。スオウは取り返したいけど、でもそれは危険が大きすぎると思います。それに調査委員会だってLROの鍵になり得る人物はスオウだって思ってるだろうし……だからこそ一番の関係者である私達を監視してるはず。下手な動きは今は取れません。
 命取りになります。やるのならそれこそ背水の陣でしか……」


 日鞠も俺の意見に賛成のようだ。まあ当たり前だけどな。確かにシスターラオウは強い。ハッキリ言って、人類最強レベルかも知れない。俺は秋葉でこの人の戦いを間近で見て、人間という種族の限界はまだまだ先だなって思ったほどだ。いや、知識的には限界なんてまだまだ先だなって思ってたけど、肉体的にはどうしたって野生の動物達よりも、人間は劣る物。それが当たり前だったじゃないか。
 だけどこのシスターラオウさんは野生動物以上の肉体と、人類の数千年の歴史で積み上げてきた様々な武術や技術までもその身に宿してるんだ。それはなんと漫画でしか見たこと無い様な、気とかまで操っちゃうほどだぞ。
 いや、実際本当に気を操ってるのかは知らないんだけどさ、この人の人間離れした動きはそんな物でも操ってないと説明できないと言うか……LROならな〜「システムグッジョブ」の一言で片付けられるんだが、ここは如何せんまっとうな不条理世界で、地べたを這いつくばって駆けまわるしか出来ないのが普通で当たり前の場所なんだ。
 それなのにこの巨体で信じれないくらい身軽な動きをこの人はやってのける。きっと三階くらいの高さなら、平然と超えれると思うんだ。言いすぎかも知れない? だけど……この人なら……とマジで思える位にこの神に仕える鬼の様なシスターは人智を超えてる。
 しかもそれだけの超身体能力に加えて大量の武器保有。もしも捕まったらテロリスト並の扱いで刑務所に入れられてもこの人は酌量の余地無いと思う。


「背水の陣ですか。戦場ではよくあることです。私は傭兵でしたから、負けることが多い部隊によく居ました。いつもしんがりを務めるのですが、何故か最後には私しか生き延びていない……神様は私だけを生かし続ける。
 辛い試練です。神は私に何を求めてるのでしょうか?」


 うう……話しが重すぎて平和すぎるのこの国の学生が口出せることじゃないだろ。普通なら「そんなバカな」って冗談になるんだが……この人の場合きっと本当なんだろうなって直感でわかる。てか外見でわかる。というかとてもわかり易く信じれる。
 このシスターラオウの風格はそれこそ歴戦の勇士といえると思う。時々LROでも凄いオーラを放ってる奴が居たりしてたんだけど、その人と同等かそれ以上の物をこの人は放ってる。普段は全然そんな事なく、ゴツイシスターがいるな〜くらいで済むんだが、一旦スイッチが入って戦闘モードに移ると、見据えられただけでチビリそうになるもん。
 素人相手に良い気に成ってる日本のヤクザと、本物の戦場を渡り歩いて来た歴戦の傭兵との違いだよな。ヤクザやチンピラってただ汚い顔を近づけて大声で威嚇(大量の仲間でドヤ顔)で自分達は強者だと思い込んでる同じ穴のムジナでしかないけど、この人はたった一人で堂々とそこに立ってるだけでたじろぐ程の迫力がある。『本物』まさにこれが本物なんだろう。


「神様が何を求めてるかはしらないですけど、貴女が今ここに居て、味方をしてくれるのは心強いですよ。私達にとっては貴重な戦力です。頼りにしてます。ですからあまり無謀な策はやめてください。
 これからの方針を決めるのは、タンちゃんが仕事を終えてからでも遅くないですよ。監視をしてる人達は待っててくれてるんですから」
「そうですね……私は所詮傭兵です。指示に従いましょう。その時が来れば、遠慮なく使ってください」


 ラオウさんは暴走することなく引いてくれた。良かった良かった。奪還はしたいけど、リスクが大きすぎるからな。本当にそれしか無いのなら、やるしか無いだろうけど……その時は否応なくこの人のオーバースキルに頼るしか無いだろう。
 張り詰めてた緊張の糸がようやく解れた感じ。どこかに忘れてたホットケーキの匂いが鼻孔に入ってくる。それにスープを煮込む音とかも、聞こえてきて朝食という行為を行ってた事を思い出す。
 そう言えばどうしようかこの大判のパンケーキ。そう思ってると日鞠の奴が、最後に冗談めいた感じでこういった。


「そう言えば、私達はラオウさんに何を対価として払えばいいのかな? 傭兵なんですし、必要ですよね? 対価?」
「いいえ、既に私はそれを貰ってますので不要です」


 首を振ってそういった彼女。貰ってるって何を? 何も支払った覚えはないんだが……すると彼女は深く頭を下げてこういった。


「私は何者にも代えがたい物を得ました。それは『友人』です。各地の戦場で傭兵として出向きましたが、その中で仲間扱いされたことはありませんでしたよ。所詮は傭兵ですから……どこに行っても余所者です。
 特に私は腫れ物扱いでしたから」


 なんか悲しい話だな……どんどん胃が重くなって……ってそれは満漢全席のせいか。てかこんな話を聞きながらよく食えるな日鞠は。てかそれ以上やめてくれ。お前が食えるのに俺が食えないんじゃ、なんかおかしいと思われそう。
 食いたくない? とか思われるじゃないか。


「へもそれへも、そひょひひょ達をたすけてたんへひょ?」


 口をモグモグしながら喋るから、意味不明な事になってる。まあなんとなく解読はできるけどな。きっとこう言ってるんだろう『でもそれでも、その人達を助けてたんでしょ?」ってね。そしてどうやらシスターラオウもそんな日鞠の言葉を理解してるようだ。


「そうですね。ですが感謝など……皆死んでいくのですから。悲惨です。悲惨な事が戦場では当たり前で、私が人を保って居られるのはきっと、実は誰とも繋がれなかったからかも知れません。
 誰かと繋がってたら、一緒にどこかの戦場で命を絶っていたかも知れませんから」


 物凄い世界だな……本当に同じ世界の出来事なのかと思ってしまう。だけど実際、この世界にはまだ戦いはあるんだ。中東の方はテロや内乱が頻繁に起こってる。日本でもニュースになるけど、結局それはどこか遠くの世界の出来事と話半分に流すだけだった。
 けど実体験をした人が居るとなると話半分にも流せない。ニュースとは迫力が違う。すると日鞠がゴクリと詰め込んでたパンケーキを飲み込んで、口を吹きつつフォークを置いた。


「そんなに戦場を渡り歩いて、ラオウさんは何がしたかったんですか? 止むに止まれぬ事情があって傭兵に成ったとかですか?」


 ズバッと聞くやつだな。そこ、俺達みたいな平和ボケした国の住人が踏み込んでいい場所か? 俺なら突っ込まないな。だってどう考えても重い話しか返ってこないだろう。それに対して上手く切り返す自信はない。
 だけど日鞠の奴は取り敢えず突っ込んでみるからな。慎重なところと大胆な所のギャップが激しいんだよ。まあこいつなりに見極めての行動なんだろうけどさ……こっちはいつもヒヤヒヤだっての。
 簡単に他人の地雷を踏み抜くんだもん。けどその後、いつの間にか踏み抜かれた奴は日鞠の信者に成ってるという変な法則があるわけだが……シスターラオウはこれまでの一般人とはかけ離れすぎてるからその法則が発動するかわからないぞ。
 大丈夫か? あんまり踏み込んで機嫌を損ねたらエライ事になりそうな………そう思ってるとラオウさんは激しい日差しが差し込む窓を見つめてこう言うよ。


「何がしたかった……ですか。そうですね……私はきっと正義の味方になりたかったんです」
「正義の味方ですか?」
「ええ、弱き民衆の為にその身を盾にする正義の味方です。仲間のためならどんな困難な局面も正面から立ち向かう正義の味方。私は自分の存在をそんな憧れの正義の味方に置き換えたかった。ですが、それは無理だったんです」


 空を見てた顔を伏せてしまうラオウさん。大きい体にどこか哀愁が漂ってるように見える。正義の味方か……どちらというと死神とかの方が似合ってそうだけど、それをいうと流石に殺されるよな。ここは黙っておこう。すると日鞠の奴が椅子の上に立って、さも偉そうにこういった。


「大丈夫! 貴女は正義の味方になれますよ。だって現に私達は貴女に助けられる存在ですから。そして私達は死にません。正義の味方の助力を借りて、勝利と言うなの勝ち星を掴んで見せます。任せてください!」


 なんか立場逆転してないか? 任せるのは普通正義の味方の方では? でもそんな日鞠の言葉にラオウさんは「共に勝利を目指しましょう」と言って手を差し伸べる。そして二人は固い握手を交わしたよ。そしてふと優しい笑顔を見せて日鞠が更に言葉を紡いだ。


「私達は友達で、仲間で、そして同士です。誰も居なくなったりしませんよ。ラオウさんだけが頑張らなくても、私達は精一杯を紡いで生きてみせます」
「そう……ですね。ただ守るんじゃなく、背中を預け協力しあえる……それは素晴らしい事ですね」


 シスターラオウさんは日鞠の手にオデコを当てて深く礼をしてる。それはまるで、忠誠を誓う騎士のようにも見えるな。美女と野獣……と言っても殺されそうだから胸にしまっておこう。まあどっちも女なんだし、口に出すべきじゃない。




 色々とあった朝食もなんとか済んで(パンケーキは土下座して勘弁してもらいました)俺達はタンちゃんが頑張る上階に。扉をあけて暗い室内に入ると、そこには精魂尽き果てたようなタンちゃんの姿があった。


「ふふ……あはははははは! そう……そこだ……それを走らせればきっと……何が天才だ……人間風情の天才が俺達選ばれた所有者に勝るわけが……ははは!」


 俺はそっと扉を閉めようかと本気で思った。あれは見てはいけない物だろ。だけど何故か女二人は平然と中に入ってく始末! なんでそんな冷静なんだよお前達は!! 肝座りすぎだろ。
 いや、まあどっちも規格外の女だったな。頭痛い……まともな愛が起きてきてくれないかな? 


「タンちゃん、ファビョってる所悪いけど、どうなの? リーフィアは揃ったんだし、破損アイテムはどうなった?」
「ああ? ヤラせてくれたら教えよう。にゃはははははは」


 ヤバイな、なんかキャラが変わってるというか……完全にあっちの世界に言ってるだろあれ。するとシスターラオウさんが拳を握ってタンちゃんに掴みかかろうとする。


「女性になんて事を。そんな事を要求するなんて名誉棄損もいいとこです!」
「まあ待ってラオウさん。タンちゃんは頑張りすぎたんだよ。だからこれくらい許してやらないと。いいよ。でも後でね」
「うっひょおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 椅子をガタガタと揺らすタンちゃんは嬉しそうだ。でもいいのかよそんなこと言って? でも日鞠は全然問題視してないみたいだな。多分どうせまともになった時には覚えてないと踏んでるんだろう。
 まっ、今のタンちゃんの状態は異常だからな。それはあり得る。


「ほら、状況は?」
「なめるなよ! 道は繋がった!」


 何!? 本当か!? 俺マジびっくり。まさか本当にやってしまうとは……インフィニットアートは伊達じゃなかったって事か?


「凄いなおい! これでLROにまたいけるのか」
「……それは、まあ……行こうと思えばだな」
「なんだそれは? 何か問題でもあるのか?」
「道は繋がってる筈だ……三つの破損アイテムは残り一つとリンクを結んでる。そのリンクを広げればリーフィアでLROに行く事は可能……だろう。だが、戻ってこれるかは正直不明……だぴょん」


 だぴょん––ってなんだよ。だけどそれは問題だな……戻ってこれないって事は眠ったままになるってことだ。他のプレイヤーは曲りなりも調査委員会が国の助力を得た施設で万全の態勢で管理されてるだろうから大丈夫だろうけど……ここで眠ったままになったらどうなるんだ?
 どう考えてもやばいよな。まあ愛なら大病院の知り合いとかいそうだし、最悪はその方向か……だけど戻ってこれない……その言葉はとてつもなく重いな。今まで散々、危険があってもLROをやりたがる人はいるって言い続けてた訳だが……直面するとやっぱり躊躇いは生じる。
 恐怖が体を駆け巡る。だけど、今ここでいけるのは俺しか! そう思った時、日鞠の澄んだ声が通り抜けた。


「私に、行かせて」



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