命改変プログラム

ファーストなサイコロ

幻か現実か

 ボロボロのバトルシップ改めグリンフィードSEXがその機体を犠牲に運んでくれた深い森の中。そんな中で出会った白衣姿の謎の男。そいつは意味不明な事を言って、墜落してるグリンフィードに目を輝かせてベタベタ触ってる。
 どこかで見たような格好……どこかで見たような発言……僕は記憶の中で思い出のページを開いて検索中。だけどその間に、他の奴等がその謎のマッドサイエンティストに突っかかってる。


「おい貴様! 勝手に触れるな。この船は我等がノーヴィスの最新鋭機体だぞ!! 魔鏡強経? なんだそれは? 訳分からない事を言うな!」


 この船の艦長である僧兵がいきり立って詰め寄る。だけど白衣のおっさんはそんな僧兵を見て、逆に目を輝かせて質問をする。


「なるほど! これはノーヴィスの作った産物か。やはり最初に理論を上げた所は強敵だな。だがあちらは宗教上錬金は禁忌に成されてるはずだが? そこら辺はどうなんだ!!」
「ひっ!?」


 余りの勢いに逆に僧兵はビクッとなった。なんか色々と濃ゆい奴だな。服は白いのに……ある意味汚らしいけどさ。結構汚らしいからな。裾の方とか黒ずんでるし。てかテンション上がりすぎだろ。


「貴方、どうして魔鏡強経なんて言葉を知ってるのよ? それはモブリの中でもごく一部しか知らない機密情報の筈だけど」
「え? そうなの?」
「そうね。アンタこそ知ってることに驚きだけど、人間がその言葉を口にするのは信じがたい所があるわ。何故かしら?」


 元老院の長の孫ちゃんとミセス•アンダーソンが知ったか気取ってる中で、僧兵だけはあたふたしてた。まあしょうがないな。あの二人は立場的にも高い場所にいるけど、僧兵は所詮僧兵でしかないからな。
 大多数の一でしか無い。艦長になった程度じゃそれに変化なんてないよな。


「ちょっと私をバカ扱いするの良い加減辞めてくれない? 行き遅れのオバサンの頭の方が問題あるって気付きなさいよ」
「誰が行きおくれよ! 私にはただ釣り合う男が……いえ、こっちは神に仕える身なのよ! そんな物求めちゃいないわね!」


 二人して火花を散らしてる。そんな中、白衣のおっさんは更に機体をベタベタ触ってカンカン叩いて感触を確かめたりしてる。良いのか? 超触ってるぞ。


「おっ」


 そんな事をやってると、おっさんが叩いた箇所からボンッと火花が散った。


「「ちょっとアンタ何やってんのよ!!」」


 孫とミセス•アンダーソンの声が綺麗にハモった。案外息が会うのかも知れないな。当人達は絶対に認めないだろうけど。


「ムハハ! すまんすまん。だが心配するな。ちゃんと直してやる」
「直すって……これがどんな物かわかってるのなら、この国にそんな技術無い事くらい分かるでしょ?」
「そうね、バトルシップを造れるのも直せるのもサン•ジェルクだけよ」


 自信満々に言い切った白衣のおっさんに向かって辛辣な言葉を掛ける二人。まあでもそれは辛辣というか、当然の言葉なんだろうな。この船バトルシップは今までの飛空艇とは全然違う。
 他の国の住人に直す技術があるとは思えないもんな。てか、直せた方が問題だろ。するとリルフィンの奴がこういってきた。。


「外装だけならこの国の技術でも行けそうではあるな。だが問題は内部だ。被害状況は?」
「エンジンの六十二%が負傷。飛べないって訳じゃないが、機動性は著しく落ちてるのが現状です。無理に飛んでも数十分持つかどうかだし、次こそエネルギー暴走が起きるとも限らない。
 やっぱり修理しないと……」


 僧兵の言葉は厳しいものだ。これ以上無理をさせたらグリンフィードはお陀仏になるかも知れない––そう言ってるじゃないか。そんな事……しかもここでは直す術も無い。それじゃあこのままの状態で置いてくことに……


「駄目だよ! そんなの可哀想だもん。ちゃんとグリリンもテトラも元気になってくれなきゃヤだよ!」
「クリエ……」


 グリリンってなんだよ––って一番最初に突っ込みたかったのは秘密にしておこう。グリンフィードをコイツなりの愛称に変えてるんだろう。でも確かにクリエの主張は尤もだ。グリンフィードもテトラもこのままじゃ……僕は背に背負ってるテトラの顔色を伺う。
 別段悪いようには見えないけど、こいつが直ぐに目を開けずに、体にも力が入ってないって時点で異常だからな。テトラの場合は置いてくなんて選択肢皆無だけど、グリンフィードだって出来れば誰も、このままになんかしておきたい訳ないだろう。
 だけどここはノーヴィスじゃない……直せる見込みは……涼やかな風が森の木々を揺らす。けどあんまり気持ちいいとは思えない。だって、ここら辺にはグリンフィードのあげる焦げ臭い匂いが充満してるからな。
 そんな匂いも哀しさを物語ってるみたいでさ、なんだか沈黙が訪れる。するとその時だ。


「くはっ!! くっはははははははははははははははははははははははははははは!!」


 と盛大に笑う声が沈黙をぶち破る。そしてその声の主に僕達は注目する。それは勿論、白衣を着たマッドサイエンティスト(自称)だ。彼は背を見せて笑っていたが、僕達の視線が集まったのを確認したら、その白衣を翻して颯爽とターンした。なんだその演出……そう思ってると決めポーズを取ってこう言う。


「ノーヴィスか、確かに貴様等の魔導は凄い。歴史では叶う訳もないしな。だがこちららとて何も無いわけじゃない。俺達人は神から何も残して貰えなかった種族だ。だがだからこそ、神に縛られない……いや、神さえも超越出来る物を作り出せるのだ!!」
「神を超越ですって?」


 ミセス•アンダーソンが眉毛をピクッと動かして不愉快な顔をする。一番信仰心熱いからな。そして人は一番薄い……よく考えたら相性悪いな。でも実際ミセス•アンダーソンってそんなに信仰心厚かったっけ? ってな印象もあるんだけどな。
 けどミセス•アンダーソンの色んな行動は信仰に沿った物なんだよな。その筈だ。こいつが女神を蔑ろにしたことはないからな。するとアンダーソンに続いて孫ちゃんも言うよ。


「恐れ多いわね。アンタの言ってるのは錬金術でしょ? だけどそれは欠陥魔導じゃない。女神の愛した世界を崩すかもしれない禁忌の術」
「錬金は確かに昔事件があって封印された禁忌だ。だが、可能性をみすみす捨てる事を我等はしない。どんな力も、きちんと研究して確立すれば、それは栄光と繁栄に繋がる道になる。世界の為と成るものだ!
 それを危険だからと禁忌にしたのは教団……お前達は実は恐れただけだろう。錬金が魔導を超えた創造に達せれる事にお前達は恐れて、可能性の芽を摘み取った。女神という威厳が、錬金の成熟で希薄になることを恐れただけだ!!」
「とんでもない被害妄想ね。言いがかりにも程があるわよ! 錬金は確実に危険な代物でしょ。あれは神の造ったバランスを壊す物。制御できる様な物じゃないのよ」


 そんな危険な代物だったのか? なんか結構普通に使ってなかったっけ? 人の怪しい兵隊はさ。それにそんな事を言われると僕の腕の鍵も不安になるんですけど。大丈夫なのこれ? 
 まあコレ頼みだから捨てるとか決して出来ないけどな。あれ? なんかアンダーソン達の言ってること矛盾してるような……こんな状況だからな背に腹は代えられないって奴だろ。そう思っとこ。


「お前達モブリには言うよりも見せた方が早いな。その信仰に染まった頭でもよく理解できる物を披露しよう」


 そう言って白衣のおっさんはゴソゴソと何かを取り出す。それはホース? 材質は知らないが、黒いホースみたいなのを取り出した。長さは一mも無いくらいだ。


「何……それは?」
「このままでは運びにくいからな。コンパクトにしようと思って」


 そう言って白衣のおっさんは先端を口に含み、反対側をグリンフィードにつける。そして一回頬を膨らませて息を吹くと、突然グリンフィードが青い光に包まれる。そして次の瞬間、おっさんが逆に息を吸い込むとキュポッと音を立てて吸い込まれた……様に見えた。僕達ビックリ。目を疑うしか無い。だけどマジでグリンフィードが有った場所はポッカリとしてる。


「これって……何したんだ? 体内に吸い込んだのか?」


 僕は白衣のおっさんに尋ねるよ。


「違うな。ボックス内に送っただけだ。これはそうだな、仮想空間に転送出来る便利アイテムなんだ。魔導の制約も、精神の消耗もない画期的な発明だ。まあ無機物しか送れないがな。
 だが無機物なら、重量大きさに制限はない。どんな物でも一発で吸い込める」


 無機物だけってのは残念だが、重量や大きさに縛られないのは大きいな。それは凄い。僕達が所持してるアイテム欄には一応制限あるしな。魔導だからなのかな? 転送も出来れば最高だったんだけどね。
 あれは制限きついし。一長一短か。


「ふ、ふん、その程度なら魔導でも実現出来るわよ」
「だが人数が必要だろう。これはたったこれ一本だ。神の縛りを確かに超えてるかもしれんが、このアイテム自体に害はない。結局の所、確立されてしまえば魔導も錬金も使い方次第ということだ」
「そこまで錬金の研究が進んでるなんて聞いたこと無いわよ」


 ミセス•アンダーソンは必死に喰らいつくな。でも確かに、錬金の研究は苦戦してるとかじゃなかったっけ? でも今のこのおっさんの話だと、まるでもう錬金という技術が確立寸前まで来てるような……そんな言い方だったような。


「それはそうだろうな。この地『ブリームス』はずっと前に隔絶された秘密の場所。その存在は表では忘れ去られてるだろう」
「ちょっと待て……今、なんて言った?」
「この地は忘れ去られてるだろう––」
「組み合わせるなよ。この地の……名前の方だ」


 僕の耳に届いた言葉が確かなら……それって––


「『ブリームス』か? この地は学術都市として名を馳せた地だ」


 その言葉に僕の心が震える。『ブリームス』だって? その街を……僕は知ってる。


「どうした?」
「ブリームスね……そんな街あったかしら?」
「だから忘れ去られてると言ってる。だが知ってる奴も居るとは驚きだ」


 そう言っておっさんは僕を見る。忘れされた街? あの灼熱のアキバでの紛争で、僕達はブリームスという街を救った筈。既存のLROに存在しない街で、システムの端っこで当時の運営が四苦八苦してやったイベントだと思ってたけど……それが本編の方に関わってきてると?
 てか、考えてみればこの鍵に移された三つのアイテムはその時のイベントで手に入れた物だ。システムの端っこな訳のイベント……じゃなかったと言うことか? アキト達はその街は確か廃墟になってるとか言ってなかった?
 でもそれがこうやって存在してるって事は僕達の功績……いや、忘れ去られてるってこのおっさんは言ってる。それなら、はじめから存在はしてたのかも。ただ、まだ誰にも見つけられてなかっただけ。
 けどそれはそれでどうだろう? サービスが始まって一年と少し……そのあいだに誰にも存在を知られないなんてあるか? 噂くらい出るだろう。もしかしたらあったのかも知れないけど、ダメだな……僕じゃあ確認のしようもない。
 今はどういう訳か全く外部とのアクセス手段がないもんな。


「おい、ブリームスはどうして存在を隠してるんだ? 消失しなかった筈だろ?」
「––っぬ!」


 白衣のおっさんは僕の言葉に目を丸くする。そこまで知ってるのに驚いてるって感じ。てかもしかしてだけど、このおっさんはあの所長の……子孫か何かか? めっちゃダブるんだけど。


「まさかそこまで知ってるとはな……まあなんだ、ここでは茶も出せんし、街の方に行くか? その方が誰もが納得できるだろう。その背中の奴も治療をしたほうが良さそうではないか」
「それもそうだな……」


 確かにいつまでもこんな森の中で語ってても意味は無いかもしれない。こいつの言ってることが本当かどうか、確かめる為にも僕達は街にいくべきだろう。それに本当にブリームスが存在してるのだとしたら……色々と揉めたばかりの人の国にお世話になるよりはいいと思う。
 アキバでのイベントの時はここが錬金関連の場所なんて思いもしなかったけど、どうやらこの街は世界で一番錬金の研究が進んでるようだしな……表の人の国に行くよりも、いろんな情報があるだろう。
 そもそもバンドロームの箱も法の書も愚者の祭典もこの地で手に入れたアイテムだ。この地以上の適材地など存在しないだろう。そう思ってると、警戒してる二人がこんな事を……


「ちょっと待ちなさい。そいつが政府機関に関わってないと言い切れるの? 本当は全てウソで、私達を誘い込むのが目的だとしたら……」
「そうね。オバサンの意見に賛同はしたくないけど、錬金なんてろくでもない物に手を出した連中の言うことをあまり簡単に信じない方がいいわ」


 二人の言葉に足を止める。確かに実際、この地が外に忘れされてるんだっけ? それを確かめる術はないな。この白衣のおっさんが人の国の回し者って線はあるにはある。街についたら実は兵隊が一杯……なんて事になったら大変だな。


「どうやってアンタを信じれば良い?」
「そうだな……言葉で何を言っても証明にはならないだろうな。この地は忘れされてると言っただろ。それはつまりこの地自体を隔離してるということだ。この森には簡単には入れんし、簡単には出れない。試してみるといい」
「よし。リルフィン、テトラを頼む」
「やめろ、俺が行く」


 僕がスピードに自信があるからさっさと確かめようと思ったんだけど、リルフィンはテトラを受け取らずに走りだす。あいつ、どれだけこいつが嫌いなんだよ。酷いな。草をかき分けて行くリルフィンの姿を消えるまで見つめてる。そして数分か……それとも数秒か……消えた方向を見つめてると、普通にリルフィンの奴が戻ってきた。


「うお!? 何故にお前達がここにいる?」
「はっ? 僕達は動いてないぞ。それよりもどうだったんだよ?」
「動いてない……俺はただ真っ直ぐ走り続けただけだ。だからこそお前達が前に現れたから驚いたんだ」
「それってつまり……」
「どうやらこの森からは簡単に出れないと言うのは本当らしいな」


 みたいだな。でもそれでも今初めて共同戦線でも組んでるかの様な孫ちゃんとミセス•アンダーソンは諦めない。


「街があるんでしょう? そこの奴等がグルになって大規模魔法を展開させてるとも限らないわ。人でも数十人集まればそのくらいは……」
「そうね。合唱魔法は家の十八番だけど、出来なくはないかもね」


 いいのかよそれで。そこはもっとプライド持てば? なんか妥協して行ってるぞ。目が合うおっさんと僕。警戒はしてるけど、このおっさんに親しみを感じる僕としては普通に付いて行っていいんだけどな。
 てかそもそもブリームスの街並み気になるし……本当にここにブリームスがあるのか、それを早く確かめたい。でもこの二人がな……いつもいがみ合ってる癖して、こんな時だけなんで息合ってるんだよ。
 これ以上何で証明をすれば……法の書とかを見せるとかはどうだろう? それを知ってれば……いや、よく考えたら神隠しを起こしてたこの三つのアイテムは所長達には見せてない様な……見たかも知れないけど、ほんのちょっとだからな。
 それが後世まで伝わってるのか保証はない。それにケチつける事も出来なくはないしな。今のこの二人なら絶対になんかケチつけるだろうし……そう思ってるとクリエが二人の前に歩き出す。


「お姉ちゃんもアンダーソンもどうしちゃったの? 付いて行こうよ。だってあの人ちょっとおかしいけど、悪い人じゃないってクリエ思うよ」
「クリエ、貴方にはまだ人の真意を見ぬくことは出来ないわ」
「そうね、お子ちゃまは黙ってなさい」
「ブー!」


 ふくれっ面に成るクリエ。ある意味、子供の方が直感的に本性見抜いたりするけどな。するとお子ちゃま呼ばわりされたクリエは大きな声でこう言うよ。


「じゃあじゃあずっとこのままここに居るの!? そんなのやだよ!! 二人はどうしたらいいか考えてるの!?」


 クリエの癖にご尤もなこと言ったな。確かに否定するのは簡単だ。だけどこれからの構想もなく否定されてはかなわないな。僕達には今、頼るべき奴がこのおっさんしかいないんだ。
 クリエに痛い所を突かれた二人は思案する。そして苦し紛れにこう言うよ。


「そ……そんなの当然でしょ。取り敢えずこの森からの脱出は必要ね。脱出方法はそこの人間が知ってるでしょう。ボコって吐かせれば問題解決よ」
「そうね、その通り」


 呆れてものも言えないとはこの事だな。お前ら本当に慈愛を掲げてる宗教の信者か? と言いたい。ボコるって……つかっていいのかよそんな言葉。荒っぽ過ぎるだろ。


「おい、なんだか身の危険を感じるぞ」
「確かにな……」


 まさか本当にやるとは思えないけど……そう思ってるとアンダーソンは胸に光る十字架に手をかける。おいマジか?


「なあに大丈夫。大人しく言うことを聞けば神もやさしく微笑んでくれるわよ」


 怖いよ! なんだその言葉。武器を取りながら微笑むとなんだか怖い! 


「くっ、ここは一時退却が無難か!」


 そう言って白衣のおっさんは逃げ出した。おいおい、まじかよ。


「逃さないわよ!!」


 展開した十字架と共にその後を追うアンダーソンと孫ちゃん。止めようと声をかけるけど、こいつら聞きゃしない。それよりも「アンタ達もさっさと捕まえなさい!」とか言うんだもん。


「アイツ、バトルシップを持ったままなのよ。このまま逃がすなんてあっちゃならないの。私の命令……聞けるわよね?」
「うっ……サーイエッサ!!」


 そう叫ぶのは僧兵だ。流石兵隊。上官というか、お偉いさんには逆らえないか。だけど実際地の利は向こうにあった。それはそうだろう、こっちはまだこの森に迷い込んだ程度だ。向こうは庭みたいなものだろ。




 ––てな訳で結局見失ったわけだけど、ガミガミ小言を言われる中、歩き続けてると、開けた場所に出た。大きな外壁に囲まれたその向こうに、わいわいがやがやとした喧騒が聞こえる。外壁の大きく開いた扉……その上がアーチ状に成ってて、そこに書いてある文字をリルフィンの奴が読む。


「ブリームス……か」


 ここがスマホの小さな画面でしか見たことなかった幻の街『ブリームス』。

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