命改変プログラム

ファーストなサイコロ

未知の花

 閑散とした店内。響き渡る控えめなBGMは客が少ないから自然と耳に入ってくる……その程度だ。楽しそうな家族が二組程度と、恋人か友達かわからない男女のペアがもう一組。そして今、俺達がこの閑散としたファミレスに合流したわけだ。
 俺達は店内の隅っこの席の前に立ってる。そしてそこに居る先客に会うことが目的。帽子を目深に被って、膝の上に載せた荷物を大事そうに抱えてるその人こそ、LROでテッケンと名乗る人物……その人の筈だ。……筈だよな?
 実際ちょっと自信が無くなってきた。本当にこの人なのか……そもそもまだ返事貰ってないしな。でも……俺の目が狂ってないとしたら、この人は……その、なんというか性別が……その、どうやら思ってたのと違うような。
 帽子で顔を隠してるけど、この時期の服装だと大体わかってしまうぞ。頭を体を繋ぐうなじ部分は帽子内に纏められた髪が邪魔せずに見える。それはちょっとドキッと鼓動が高鳴る感じにいい塩梅だ。
 Tシャツから覗く二の腕は細く白いし、胸辺りはふっくらしてるように見える。短パンから伸びる太腿も魅力的。てか……どう見ても【女】だろこれ? 俺は取り敢えず日鞠の奴の腕を強引に取ってちょっと後方を向かせることに。
 てか堂々と覗きすぎだろ。まだ返事してないのに、めっちゃガン見してたぞ。お前の自信はどこから湧いてくるんだ。


「おいおい、ほんとにあの人がテッケンか? 顔は分からないが、どうみても女……だろ?」
「別にその可能性がなかったわけ無いでしょ。秋徒が知ってるのが『彼』だったとしても、こっちでは『彼女』って事は十分に考えられるじゃない。それにこの店の中で、彼女以外に候補居る? 
 一時間前から居るんでしょ。消去法でいっても彼女しか居ないじゃない」
「それは……そうなんだけどさ」


 残りは家族連れと男女のペア……家族連れはどう考えてもあり得ないとしても、男女のペアならギリギリ行けないこともないような。こっちが一人よりも二人だと思ったように、テツの奴だってそう思ったとしても不思議じゃない。
 それならあの微妙な距離感の男女はあり得るのでは? 


「ないない」
「なんでそう言える? 誰だって一人は心細いものだ。知り合いと来てたっておかしくない」


 俺の言い分は正しい筈だ。今度ばかりはやすやすと論破されたりしないぞ。だってテツの奴が女なんてそんな……俺は信じない。きっとあの男女ペアの方の男に違いない。思ってたよりもチャラいけど、女よりはイメージ的に……いや、性別的に正しい。


「だから無いわよ」
「だからなんでだよ」


 バカを見るような目でそんな事言うなよ。あり得なく無いだろ。なんだか微妙な感じじゃないかあの二人。男の方も女の方も、モジモジしてるし。


「あれは恋してるんでしょ。まあただどっちも意識してるってだけかも知れないけどね」
「コレだから女は……なんでも恋と結びつけるなよな。二人してどうやってこっちに声掛けようか迷ってるんだよ。お前が全然違う人に声を掛けるものだから、出づらく成ってるんだ」
「そう思うなら、アンタが声かけてあげなさいよ」
「それは……」


 そう言われると躊躇するっていうか……候補ってだけだしな。それに男の方は目が泳いでるけど、こっちを見たりしてる訳じゃない。やっぱ関係ないのかな? 


「そうだ。だからこういう時の為に連絡手段があるんじゃないか。これで簡単に確かめられるぞ」


 俺はスマホを取り出して電話を掛ける。この中に居るのは確実なんだ。電話を鳴らして取った奴が、つまりはテッケンということになる。俺は緊張しながら発信をする。するとどこからともなくプルルという音が。


「わわっ」


 そう言って携帯を取りこぼした彼女。キー付きの古いタイプの携帯には今まさに掛けてる俺の名前が表示されてた……


「確定ね」


 日鞠のそんな言葉に、俺は「ああ」と返しながら通話を切る。鳴り響いてた音がやんで、再び店のBGMが耳に入ってくる。俺は携帯を取って席に座ってる彼女へ目をやる。彼女は何故か膝の上に抱えた荷物を強く抱きしめて震えてる。ボーイッシュな格好してる割には、可愛らしい姿だ。
 なんかキュンキュンするな。でもやっぱりどうあってもテツには見えないんだよな。俺はハッキリ言ってスオウ達よりも長くテツの事を知ってる。その経験則で、この子はやっぱりテツじゃないような気がするんだ。
 向こうでの印象に囚われ過ぎてるだけなのだろうか? でもな~、男が女を女が男を演じてるってのはLROでは稀にって言うかそれなりにあるわけだけどさ、付き合いが長ければどこかでボロは出るものなんだよな。
 なんたってLROをやる奴は短くても十数年はその性別で生きてきた筈だからな。いきなり性別を変えたって、普段はともかく突発的な時には性別とは違う反応が出てしまったりするものだ。
 だけどテツの場合はそんな所を見たことは一度もない。それが女と思えない理由でもある。どこかでボロは出るものだろうに……それが一回もだぞ。実はこんな女の子としか思えない姿をしてるけど、やっぱ男じゃないのか? とか思う。
 最近はこうも言うじゃないか。


『こんな可愛い子が女の子の訳がない』


 とか。いや、狂ってると思ってたけど、今の俺はそう思い込みたい心境なんだよ。だってテツが女なわけがない…………と自分の中だけでは思ってたからな。


「諦め悪いわよ秋徒。どう見ても彼女は女。その事実を受け入れなさい」
「んぐぐ……」


 俺は今までのテツとの冒険を思い出す。それは男の友情を育んできた時間の筈だった。時に助け合い、時に励まし合い、手を取り合って困難を乗り越えてきた。一度全てを投げ出した後に初めて知り合ったナイーブな時期に付き合ってくれた気のいい奴だったんだ。
 俺はさ、LROでの初の親友とも言える奴だとテツの事を思ってたよ。でもその正体が女だとすると……今までの様に付き合えるかどうか。コレまでの思い出も少しだけ違った見方になってしまいそうだ。
 男同士だと思ってたからこそ……ってのがあるじゃないか。いや、まあ性別が違ってたからって今までの評価が変わることはないけどさ、こっちの気の持ちようってのがな。


(くそっ)


 俺はもうウダウダ悩むのをやめる事に。結果はほぼ見えてるけど、俺は直接席に座る彼女へと質問をぶつけることに。さっきも日鞠の奴が言ってたけど、ちゃんとした答えは貰ってないからな。俺は荷物を抱えて縮こまってる彼女のすぐ近くに立つ。その瞬間ビクッと彼女は反応した。なんだか気弱そうな人だ。さっきからこっちをチラチラ伺ってたけど、近くに立った途端に顔を下に向けて、小刻みに震えてる。
 なんだか自分が威圧してるのか? って感じに思えてくるな。悪いことをしてるような……でも軽くここまで怯えられてショックみたいな。でも見ればみるほどにやっぱテッケンとは思えないんだよ。
 でももう悶々と迷うのはやめだ。答えはここにあるはずなんだからな。


「すみません。失礼ですけど、あなたはLROでテッケンと名乗ってるプレイヤーの方ですか? 自分は『世田谷 秋徒』。LROでのプレイヤー名は『アギト』と言います。こっちの奴は『日鞠』って言うんですけど、まあ気にしないでください」
「何その投げやりな自己紹介? 適当すぎでしょ。もっと色々と言うことあるでしょ」
「いやねーよ」


 だってテツはお前の事知らないし。名前くらいは知ってるけど、その程度なんだ。変にややこしくしないためにも今は、この程度で我慢しとけよ。


「むー秋徒のバカァ」


 不満たらたらそうに頬を膨らませてそう呟く日鞠。自己紹介なんてもっと打ち解ければ自然と知っていって貰えることだ。それで良いだろ。まあ実際リーフィア受け取ったら速攻で帰るから打ち解ける暇なんてないと思うがな。
 まだまだ茨城までは日鞠の手は伸びそうにない。人生は長いんだから高校時代は地元とその近隣の街位を制覇してろ。


「……あ、ああのぉぉ」
「ん? なんか言ったか日鞠?」
「私? スオウって言ったよ」
「なんでこのタイミングでだよ」
「心の中でね。一日百回いうのが日課だから」


 意味が分からん。それはもう自分に対する変な暗示ではないのか? 無理矢理にスオウを思ってる……とする。まさかここに来てこいつのスオウに対する気持ちが偽りだった説が急浮上。
 て、そんな事じゃないんだよ。日鞠の奴に思わず聞いたけどさ、さっき聞こえた声は日鞠のとは違ってたような……


「け……携帯……その……」
「えっ? あっ君か」


 どうやら喋ってくれたのは席に座ってる彼女らしい。テツと思われる彼女は下を向いたままか細い声を出してる。


「ご、ごめんなさい」
「どうして謝るんだ?」
「ごごご、ごめんなさい。ごめんなさい」
「いや、だからさ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 どうしようか……何を言っても「ごめんなさい」しか返ってこない気がする。今までそれなりに女って生物と接触してきたけど、ここまでいきなり「ごめんなさい」を連発されたのは初めてだ。
 本当になんだか悪い事を自分がやってるんじゃないか? と思えてくるな。心が傷んでしまう。下手に声もかけれないぞ。どうしたら……取り敢えず携帯言ってたし、テーブルに彼女の落とした携帯を置くことに。
 そして俺は速攻で手詰まった。いや、だがこんな場面だから今までの経験を活かすべきだろ。コミュ力はある方だと俺は自負してるんだ。一時期人間不信になりかけた事もあったが、俺はそれも乗り越えて今や彼女さえもゲットして新たな自分に開花したと言っても過言じゃないからな。
 この程度じゃおれないぞ。こういう子は変にフォローしても、自分のせいにして行ってしまうから、フォローよりもまずは軽いジョークから入るべきなんだ。てな訳で、俺は軽くまずは笑ってみる。そこから軽いジョークをかまそうじゃないか。思わず「ふふっ」程度の笑いが起きる奴をズバッとな。


「ははっ、そう言えばもう夏も終わりだというのに熱いですよね? ほんと毎晩寝苦しくって大変で。LROやってる間は良いんですけど、ログアウトして戻ってきた時なんかもう、感覚が一気に大気の熱を感じちゃって汗を吹き出すんですよね。
 特に俺なんか脇から汗がダバーっとこうダバーっとまるでションベンかってくらいにハハッ」
「……………」
「はははっ……」


 ヤバイ、なんだか店がつけてるクーラーの設定温度が二度は下がった気がする。クスリともしないし! やっぱりこう言うタイプの女の子に下世話な話は合わなかったか。


「アンタ……食事処でなんて汚らしい発言してるのよ。秋徒の不潔」


 くっ、言い返せない。流石に場所も考慮するべきだったか。これは俺には珍しい凡ミスだ。席に座ってる彼女は、更に腕に抱えてる荷物に力を込めて縮こまってしまってる。まるでコレ以上そんな話聞きたくない……みたいなアピールに見える。
 くそ、でもまだだ。彼女を安心させない事には話も出来ないからな。俺は傷を追った心を奮い立たせて、もう一度気さくな声をだす。


「ワンモア、ワンモア」


 指を一本立ててそう言いつ、今度は目線を合わせる為にも俺も向かいの席に腰掛ける。やっぱり見下ろす感じは良くないと気付いたんだ。見下ろすと威圧してる感じになるからな。打ち解けるにはやはり同じ目線が一番だ。
 でも彼女は俺が座ったのにビックリしたのか、そそくさと移動してくよ。まあ通路側に居たのが窓際に寄っただけなんだけどな。凄い人見知りなのか? なんだかだんだん「だからこそ」なのか? と思えてきたかも。
 テツの奴があんなに気さくで良い奴なのも、こっちでの自分じゃ出せない物を全面に出してるから……って事があり得そうだと思える。リアルでの自分があまりにも恥ずかしがり屋だから、LROでは性別も変えて全く別の存在に成り代わって、全く別の自分を演じてる。
 しかもその演じてるって部分が、他のニワカとはこの人は違うのかも知れない。だからこそ、全く同じ存在だなんて思えない––のかも。全ては推測だけどな。取り敢えず今は彼女との距離を縮める会話が必要だ。


「コホン、え〜とさリーフィアってあるじゃん。頭に被るLROに行くための必需品。あれってヘビーユーザーほど長くつけてるから既に俺なんかある意味付けてない事の方に違和感があったりするんだよね。
 そんな俺だからか分からないけどさ、ずっとやっててやっとでログアウトするじゃん。そんな時はフラフラなんだよ。身も心もやっぱり疲れる。てか、派手に動き回れる分、もうこっちの体が重く感じるレベルっていうかさ。そんな感じなんだよ。
 でもこれから寝るにしても疲れた体を一度サッパリさせたいと思うじゃん。そこで風呂にでも入ろうかって思うわけだ。服を脱いでスッポンポンで湯船に浸かって一息をつく。まさに至福の時間だ。顔にもお湯を浴びせてサッパリしよう……そんな折にふと気づくんだ。なんと服は全部脱いでもリーフィアだけはつけたままだった事をね。
 自分の体からリーフィアだけはログアウトしそこねた––みたいな」


 ドヤ顔。今の俺ドヤ顔だぜ。どうこれ。クスクス笑えるレベルの小噺じゃね? 落ちも完璧だろ。実はずっと暖めてたんだ。LROやってる奴にしか通じないからな。あるあるネタだと思うんだけど。流石に風呂まではいかなくても、それに近いことは誰しもが一度は体験するだろ。


「ドヤ顔で自分の馬鹿さを披露して気は済んだ秋徒?」
「どういう言い草だそれ!? お前言葉の暴力って知ってるか?」


 酷すぎだろこいつ。俺が必死に彼女の心の壁を取り除こうと足掻いてるってのに、その言い草はない。そう思ってると日鞠の奴は彼女と同じソファに腰掛ける。その瞬間彼女はビクッと反応する。誰にでも反応するんだな。
 てか日鞠の奴はさり気に逃げ道塞いだな。手堅い奴だ。


「ごめんなさい。彼の頭の悪さは生まれつきなの。許してあげて。哀れだから」
「誰が哀れだ。誰が」


 ズケズケと言ってくれるな。俺を出汁にして彼女に近づく気か? だけどそう簡単な物か。俺の懇親の噺でもクスリともしなかったんだからな。


「でも彼は別に自分の馬鹿さをただ披露したわけじゃないんだよ。自分は馬鹿だけど、楽しく人生生きてるって伝えてくれたの。こんな自分でもって……だからアナタはもっと自信を持っていいんだよ。
 ほら見てみて。馬鹿なのに全然悲観してない。笑ってやっていいですよ」


 そう日鞠がいうと、彼女はチラチラとこちらを見出した。そして荷物に顔をうずめて肩を震わせだしたぞ! 絶対に笑ってるよなそれ!? ええ〜俺はそんな気で今の噺をしたわけじゃないんだけど……納得行かない。
 けどこれで彼女が少しでも楽になるのなら……俺は喉に突っ掛かる言葉を飲み込む事に。だけど俺と目が合うと途端に「ごめんなさい」が口をつくんだよな。俺は笑顔で「気にしないでいい」って事を伝えることに。喋っても返ってくる言葉はどうせ一つだからな。


「大丈夫だよ。そんなに怯えなくて」


 そう言って日鞠の奴が彼女をギュッと抱きしめる。おいおいそれはズルいだろ。同性だから出来ることで、男同士だと気持ち悪い絵面になるだけの行為だぞ。それをいとも容易く絵になる様にしやがって……


「ごめんなさい。私……私……テッケンさんじゃないんです」
「ふぇ!?」
「は?」


 俺達二人は揃っておかしな声を上げた。いや、だって……ええ!? 日鞠はゆっくりと抱擁を解いてこういった。


「ごめんなさい。その色々と無関係な人に意味不明な事を言ってしまって……」
「えっと……その違うんです。私は彼じゃないけど、無関係じゃなくて……」


 んん? 無関係じゃない? じゃあなんだ?


「それってどういう––」
「きゃあ、ごめんなさい」
「こら秋徒、怖がらせないでよ」


 なんか色々と納得行かないな。俺のライフが削られていってるぞ。謝れてるのはこっちなのにな。しょうがないからさり気なく店員さんが置いてった水を口に含むことに。なんかしょっぱい気がしたぜ。


「それでどういう事なんですか?」
「実は……私は代理なんです。彼はこれないから」
「彼女さん?」


 そんな日鞠の言葉に勢い良く首を横にふる彼女。そこまで必死に否定しなくても……


「私たちは兄妹みたいな物なんです。お手伝いしてて。だからこれもその一環……えへへ」


 初めて笑ったな。髪が短いのもなかなか良いかもしれないと思える笑顔だった。でも結構気になる発言してたな。みたいなものってなんだ? でもどうやらそこに日鞠の奴は突っ込まないみたいだ。


「じゃあその荷物が?」
「はい……あの遅れちゃいましたけど、お届け物です」


 そう言って彼女は紙袋を差し出してくる。その中には確かにリーフィアがあった。この中に破損アイテムの一つがあるはずだ。それにしても彼女は代理か。やっぱりテツの奴じゃなかったな。
 でもそれならそうと一言メールしてくれればいいのにな。そんな旨は一文もなかったぞ。その気遣いがないってちょっとおかしいけどな。他の奴ならともかくテツだからおかしく思うだけだけどさ。
 それに意味深な発言もあるし、ここに来れない理由も……何か色々とありそうだ。でも今はそれを詮索してる時間もないんだよな。


「えっとこんなに待たせておいてなんですけど……」
「はい、早く行ってあげてください。私の事は……その気にしないでください。これからはもっともっと自分の時間が長くなりそうですし……」
「うん?」
「いえ、こっちの話しです。行って……ください。……がんばって」


 ちっちゃな声で最後にそう付け加えた彼女。このまま怯えられたままもなんなんで、最後に俺は一歩でも近づくために手を差し出してこう言うよ。


「ありがとう」


 すると恐る恐る小さな手が指先にチョコンと触れる。そして震える声でこういってくれる。


「ここ、こちらこそ……彼と仲良くしてくれて、ありがとうございます」


 ごめんなさいじゃないことに軽く感動を覚えるな。結局名前も聞けなかったけど、最後に日鞠の奴はちゃっかり彼女のメルアドをゲットしてた。よくもまああんなガード硬そうな子が一瞬で教えたな。
 どういうテクニックがあるんだよ? まあそこは女の子同士ってことだろうけど。外に出て車に戻る間に俺は言うよ。


「なんだか事情がありそうだったな」
「そうね。でも事情がない人なんて居ないよ秋徒。私達はだからこそ、どこまで入って良いかを手探りながらでも計るの。そういうものでしょ?」
「お前がそれを言うかって感じだけどな。結構ズカズカ行ってるだろ」
「それでも加減は見極めてるよ。彼女の場合はこれが限界かなって所までいっただけ」


 そう言ってスマホをフリフリする日鞠。そこにはさっきゲットした彼女の名前が表示されてた。『表裏 くれは』どうやらそれがあの娘の名前らしい。


「珍しい苗字だな。ひょうりって読むのか?」
「そうそう。知りたいよね。あの娘の表も裏側も……その内見せてくれるのかな?」
「仲良くなれたら知れるだろ」


 そんな会話をしながら俺達は車へ戻る。今からじゃ帰った時には深夜だな。運転手の人には悪いけど、もうひと踏ん張りしてもらおう。

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