命改変プログラム

ファーストなサイコロ

彼らの居場所

 スオウの奴は未だLROの中に居るから仕方ないとして、残り二つの破損アイテムはこっちに強制排除されたテッケンとシルクが持ってるはずだ。二人と接触して……いや、別に接触なんてする必要ないか。
 この世界はなかなか便利だ。遠くの人とも自由に話せるし、自分が出向かなくたって、物を運んでくれるサービスはいくつもある。そもそもこのアイテムは実在なんかしてないしな。データなら、その中でのやり取りが可能だ。
 それこそ一瞬で。


「取り敢えずテツとシルクに連絡取ってみるか」


 リアルで何やってるかとか全然知らないけど、この時間じゃ迷惑とか無いよな? 実際向こうだって色々と気にしてるはずだしな。あの二人が気にしてない筈はない。きっと独自に動いてる筈。
 すると愛がこう言ってくるよ。


「秋君、その二人との連絡は既にセラが取ってる筈です。二人共色々と情報を集めてくれてる筈なんです。だからセラから通して貰いましょう。連携取ってるんですからね」
「そっか……じゃあ頼む」
「はい」


 愛は素早くメールを打って送信する。するとものの数秒で返信が来た。流石愛の忠臣セラ。そして更に数十秒待ってると更にメールの着信が鳴り響く。


「二人共そのアイテムは確かに持ってるそうです。でも……」
「でも?」
「今はマイルームにも入れないじゃないですか。ですからアイテム交換とかは出来ないみたいだと」
「何?」


 俺もアイテムを選択してみる。そういえば使用ってのはあったけど、交換はなかったな。そもそもLROはそこら辺にちょっと厳しいからな。厳しいというか、制約が多いというか。まあLRO内なら別段困る程の事は無いんだけど、LROのデータは基本持ち出しとか出来ないからな。
 アイテムの交換もフレンド限定のサービスだ。まあリアルマネーでのアイテム売買とか色々と問題があるからなんだろうと思ってたけど、LROを少しだけ深く知り始めた今は、ただそれだけじゃないのかも知れないと思えるかも。
 マイルームはLROとは違うけど、一応ダイブはしてる。ただLROという世界に行ってないだけで、あれもダイブした中なんだよな。そこで思い出すのはタンちゃんの言葉だ。タンちゃんはLROが既存のネットワークに繋がってないといった。
 厳密には末端部分は触れてるらしいけど、普通にあるPCとかからだと、中まで入り込む事は不可能だと。もしかして今、フレンド同士でもアイテム交換が出来ないのは、ネットワークの問題じゃないか?
 ネットワークなんて一度接続してしまえば殆ど何もしない部分で意識なく使えるのが普通だから気にも止めてなかったけど、どうやらこのリーフィアには既存のネットワーク以外のネットワークがあるらしいからな。
 でもこれを手にして最初にやった設定はやっぱり普通にWi-Fiの設定だった。だからこそ、誰もが既存のネットワーク利用を疑いもしなかった訳だが、実はそうじゃなく、LROは別のネットワークを利用したどこかにその世界を置いている。
 それは多分だけど、フルダイブという事を実現する為に必要なことだったのかも知れないな。実はフルダイブやってるネットワークと既存の電気ネットワークは相性が悪いのかも。
 要はアイテムの交換もフルダイブ下での限定条件だった。それはLROにつながるネットワーク限定だったのかもしれない。だからフルダイブ出来ない今はアイテム交換も出来ない。そういうことか?


「ネットワークを介したアイテム交換が出来ないんじゃ……後は直接リーフィアを受け取るしか……」
「郵送というのは?」
「それじゃあ時間が掛かり過ぎるだろ。一日はどうしても掛かるし、関東じゃないならもっと掛かることになるぞ」
「でもそもそも関東圏じゃないと、どっち道そう簡単には行けませんよ?」


 確かにまあそうだな。てか二人はどこに住んでるんだろう? そんな疑問が浮かんでると、案の定日鞠の奴も愛に同じことを聞いてた。


「お姉様、その二人の居住地はどこですか?」
「セラに確認をとって見ましょう。近くなら良いんですけど……でも最悪日本国内でも、飛行機を使えばなんとかなります」
「飛行機代は結構馬鹿にならないだろ」


 リーフィアの為だけに来てもらう訳にも行かないし、こっちが行くのも……


「私のポケットマネーで大丈夫です。その位の貯金はあります。でもどうしても時間は掛かりますし、やっぱり近くであれば良いですけど……」


 愛はあんまり飛行機代とかは気にしてないみたいだな。あくまでも時間のほうが気がかりっぽい。流石金持ちのお嬢様。飛行機代って片道だけで数万するじゃん。それを気にしないって……しがない普通の高校生の俺にはとても出来ないことだな。
 いや、普通に働いてる人だって、流石に数万円飛行機と一緒に飛ぶのは痛いよな? いったいどの位貯蓄があるんだろう? 気になるけども、怖くて聞けないよな。だって数百万で済むとなんとなく思えない。数千万くらい普通に有りそうだ。もしかしたらそれでも済まないかも……俺が高校、大学を卒業して就職した後に得る生涯賃金よりもすでに愛は持ってる……とか有り得そうだし。
 そうだったら俺と一緒になる意味は? とか思うよな。いやお金の為に一緒に居たい訳じゃないけどさ……稼げないのはダメだと思うわけだ。愛が今までどんな生活してきたか、まだまだ全然知らない部分は多いけど、そこに制約を付けなくちゃいけないようになるのは男として格好悪い。
 だからこそ、俺は稼げる男になりたいんだ。サラリーマンじゃ無理だよな〜。そう思ってると愛のスマホが振動する。来たか。一体あの二人はどこに住んでるんだろうか?


「愛に寄るとテッケンさんは案外近いです。茨城の方ですね。シルクさんはかなり距離がありますね……島根の方らしいので」
「茨城と島根か……」
「茨城は電車でいけるけど、島根は新幹線でもかなり時間が掛かるかな。てか島根は交通の便が……空港ありましたっけ?」


 島根の人に怒らそうな事を日鞠が言ってる。でも確かに交通の便がな……てか誰もが島根の場所すぐに分かる? 知ったかぶりしてるんだけど……でも大体の場所はわかるぞ、中国地方だったよな。やっぱ遠い。ほとんど九州じゃん。
 茨城はギリ関東だからいいとして、島根は遠すぎる……


「やっぱり全部あった方が良いんだよな?」


 俺はPCにつきっきりのタンちゃんにそう聞いてみる。さっきからずっとPCに張り付いてるな。一度落ちたのがよっぽど嫌だったんだろう。中身の確認とかをしてるんだろうか? 実際そうそう中身のデータが破損なんてないけどな。最近のPCではさ。これだけ揃えてるんなら、バックアップだって当然とってあるだろうし。この部屋PCとそれに付属する機器類が所狭しと並べられてるからな。
 それ以外にはダンボールごと積まれてるお菓子類とコーラの1.5リットルケース多数。目の前に自販機あったからそこで買ったらしいコーヒーの空き缶もある。ガサゴソしたらゴキブリが出てきそうだな。
 この部屋、基本カーテン閉めっぱなしで光源はディスプレイの光だけで暗いからゴキ達の姿が見えないだけで、この時期は絶対にヤバイと思う。オフィスの間取りで窓はいっぱいあるんだからもう少し光取り入れても良いと思うけどな……見たくないのかも知れないな。
 でも案外ゴミはちゃんとゴミ袋に入れらてはいるんだよな。積まれてるのはダンボールってだけで、ゴミは入り口近くに纏めらてる。


「それはそうだな。やっぱり揃ってるほうが万全だ。何が起こるかわからんからな。向こうの世界は謎が多い。世界から外された小さなピース。その希少性に賭ける為にも、全てがほしい。
 だからさっさといけ、我がサーヴァント達よ!」
「誰がサーヴァントだ」


 お前の下僕になった覚えはない。でも結局今のままでは使用できないし、行くしかない訳だけどな……すると愛がこう言ってくれる。


「シルクさんの方へは私が行きます。秋君はテッケンさんをお願いします。あっ、勿論お金は出しますよ」
「い、いらないっての。そのくらい自分で出せるから」
「でも……」


 まだ高校生だけど、流石にその位のお金はあるっての。茨城なんて島根に比べれば目と鼻の先だ。数万も行かないだろうし……俺は財布の中身がどれくらいあっただろうかと思案する。
 すると日鞠の奴が俺の不安を消し去る事を言ってくれた。


「別にお金を使わなくてもいいでしょ? 私達がここまで来た車はあるんだし、それに乗っていけば良いだけじゃない。茨城なら車でいける」
「あっ、なるほど」


 忘れてたぜ。自分がまだ免許とか持ってないから、ついつい移動手段に車が入らないんだよな。そうか、車か……確かに島根は無理だが、茨城なら車でもいけるな。てか……俺は時間を確認する。
 午後六時くらいか……ここに戻ってくるまでもにも結構時間掛かったからな。わざわざ同じルートを通らないようにしたし。


「今から出て戻ってこれるか? いや、俺達は大丈夫だろうけど、愛はどうなんだ? 島根だぞ」


 めっちゃ遠いじゃないか。今から空港に向かって、飛行機で一時間近くかけて行って、シルクと接触して戻ってくる––かなり時間が掛かるような。


「大丈夫ですよ。東京に戻ってくる便は結構遅くまであります。それに事前に合う場所を決めていけば、そんなに時間も掛かりませんよ」
「それはそうだろうけど……でも一人で行かせるってのがな……やっぱり俺も……」
「私は嬉しいですけど、でもお金がそれじゃあ倍掛かりますね」
「うぐっ……」


 ニッコリ笑顔でそう言われた。倍か……それは痛いな。愛にとっては屁でもないかも知れないけど、俺は払えそうもないもんな。一人分の往復運賃さえだ。全て愛に乗っかって……
ってのは流石に気が引ける。俺は日鞠を縋るような目で見る。


「何よ? 一緒に行きたいけど、金無いって目をしてるわよ」


 流石中学からの付き合い。よく分かるな。


「払えないなら行かなきゃいい。お姉様は年上なのよ。島根位一人でいけるわ。お嬢様だからって何も出来ないとか思うほうが失礼でしょ。払って貰うのが嫌なら、諦めなさい。私は貸さないから」


 くっそ……正論過ぎて言い返せない。そもそも日鞠はお金には結構シビアだからな。最初から期待なんか出来なかったか。愛が何も出来ないなんて思っちゃ無いけど……不安はどこまで行っても付きまとうんだよ。しょうがないじゃないか。


「秋徒のそれって、独占欲って言うか不安の表れみたいよね。四六時中お姉さまに付きまとってたい訳? 見苦しいわよ」
「お前にだけは言われくないなそれ」


 四六時中スオウと一緒にいたりしてる奴に言われたかない。そもそもその理屈で言えば、日鞠の奴だって不安があるってことになるぞ。


「私のは独占欲でも不安でも無いんだけどね。そういう域はとっくに超えてるもん。それに最近は全然一緒にいないし。それに私はスオウのやることを縛ったりもしない。秋徒の涙ぐましい貧相な心と一緒にしないで」


 グサグサと来ることを事も無げに言うやつだな。涙ぐましいだけはマジでやめろよ。惨めになるだろ。まあだけどあたってるけどな。俺には自信がない。胸を晴れる物が何もないんだ。自信なんて持ちようがないじゃないか。
 それにそこらから拾ってくる様な自信で愛の横には並べない。それ相応な物が必要だ。そう考えると、それをいつになったら手にできるかなんて……将来ですら怪しいんだ。今の俺に自信なんてあるわけ無いだろ。
 でもここまで言われると悔しいものがある。こいつの自信……一回くらい誰か崩さないかな。今一番の候補はセツリの奴だけど……それにはリアルに戻ってきてくれないといけない。結局こいつを追い込むためにはセツリをこちらに連れ戻さないと行けないのか。
 全然危機感抱いてないみたいだが、俺から見ればスオウの奴はかなりセツリに入れ込んでるとみてるんだけどな。普通はここまで出来ないしな。セツリの奴がリアルに戻ってきて、スオウがセツリに掛かりッきりになったとしても同じことが言えるか楽しみだな。


「秋君どうしますか? 私としては秋君にはテッケンさんの方へ行って欲しいですけど……
日鞠ちゃんはテッケンさんを知りませんし」
「それで言うなら俺もこっちのテツは知らないけどな。結構年行ってたらどうしよう」


 有り得そうだな。テツってあの姿で大人びた感じをかもしてたもんな。十分にありえるぞそれは。俺たちガキを達観して見てたというか……だからこそ、色々と頼りになる奴だったのかも。


「それならそれで頼りになりますよ」
「でもそれなりに年行っててゲーム三昧ってのを考えると……いや、偏見か。それにテツの人柄はちゃんとわかってるしな」
「ええ、あの人なら大丈夫。私もシルクさんはゲーム通りの人だと思います。大丈夫安心してください。ですから急ぎましょう」


 ここはやっぱり別行動しかないか……流石に二人分の飛行機代出させる訳にも行かないからな。


「日鞠はどうするんだ? またここに残るか? 茨城の方ならついて来ていいぞ」
「私が行ったところでって感じでしょ。そのテッケンさんとか知らないし」


 って事は残るってことか。まあそのほうが色々と有意義かな? ここのほうが出来ることありそうだし……そういうふうな結論につこうとしてると、タンちゃんがこう言ってきた。


「行け」


 PCと色々格闘しながらボソリとそんな風に呟く。


「なんで? 少しでもLROを解析したほうが良いでしょ」
「いいから行け。今からの時間帯はここらに不確定空間が多発しだす。我がインフィニットアートを使っての空間条理の平定下が必要。よって貴様は邪魔だ。平定するまでPC使用は出来ない」


 なんか色々と変な言葉が混じってたけど……ようはまだPCが復旧してないって事じゃないか? そして行って戻ってくるまでには直しとくから、どっか行っとけと––そういうことか。


「手伝おっか?」
「その必要はない。我がPCの内部に触れる事は許されないことだ。ここにはインフィニットアートの秘密も隠されてるからな」


 エロ画像とかだろどうせ。だから女子に居られるときっと困るんだな。プロテクトとかかけてたんだろうけど、さっきのブレーカー落ちで、色々と大変になってるみたいだ。何をさっきからカチカチやってるのかと思ったら、不味いファイルを洗い出してどっかに大量移動でもしてるのかも。
 だってLRO関連やってる時よりもなんだか必死そうだからな。愛は拒否されてこっち見ながら肩をすくめる。


「じゃあしょうがないから秋徒についてってあげる。不安だしね」
「リーフィア受け取るだけなのに、何が不安なんだよ」


 簡単な仕事だろ。敵から奪い返すミッションじゃないんだから余裕だ。


「愛、悪いけど車貸して貰うな」
「ええ、でもまずは空港に向かって貰いますね」


 それは勿論だ。元々愛の車だろ。反対する理由なんてない。するとその時日鞠がポツリという。


「ねえ、二人は付けられてたんだよね?」
「そうだけど、振り切ったぞ」
「そうかも知れないけど、車は変えたほうが良いかもしれないわ。向こうは政府が絡んでる。ナンバーだけでもその気になれば探す事は出来るもの」


 確かにいつまでもあの囮に引っかかってるてのも思えないか。まあレンタカーでいいよな。あに運転手の人に乗り換えてもらえば済むことだ。重ね重ね金が掛かるけど……でも愛は直ぐに動いてくれる。
 運転手の人に連絡を入れてる。


「それじゃあタンちゃん頑張ってね」
「ふん、世界の収束はここに集う」


 どういう返しだ––とか思ったけど、こいつは別にこういう奴だから突っ込むのはやめといた。俺たちは揃って部屋を後にする。すると自販機の下を覗き込むメカブがそこに……


「おい、何やってんだお前?」
「べ、別にお金ないアピールとかしてないんだからね!」


 おいおい、こっちもどういう返しだそれ? この兄妹マジで頭痛くなってくる。それ言っちゃダメだろ。


「お兄ちゃんに貰えよ。それなりに金持ってるんじゃないのか?」


 だって結構高そうな機材揃ってたし、リーフィアも無駄に三個とかあったしな。金ないと買えないだろ。


「アレはだめ。ドケチだもの。はぁ、こっちは働いて疲れてるってのに、労うこともしないんて……」
「何かしてたのか?」


 てっきり飽きて帰ったのかと……


「失礼ね。私は魂を共有するリジェクトと共に、リアルの攻略を着々と進めてきたところよ」
「いや、よくわかんないんだけど……」
「全く、これだから人間は––ちっ」


 舌打ちした。この女舌打ちしたぞ。印象悪いな。金やらないから不機嫌になってるのか?


「簡単に説明するとね––」
「秋君、急がないと飛行機の時間が……」
「ああ、そっか。じゃあ帰ってたら聞かせくれメカブ」
「––ええ!? ちょっと待ちなさいよ!」


 俺たちはメカブの叫びを背に階段を駆け下りる。下には既に一台の車が止まってた。今度のは長くなくて普通の車だ。それに乗り込んで俺たちは破損アイテムを宿してるリーフィアの受け取りに向かう。

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