命改変プログラム
壊れた物が繋ぐもの
「破損してるアイテムが何かに使えるの?」
「それは分からないが、ここに表示されてるアイテムはこれだけだ。何か意味があるのかも知れないじゃないか」
「意味ね……」
日鞠の奴はそう言って繋いである俺のリーフィアを見つめる。そしておもむろに被りやがった。
「アイテム表示!」
「おい、何やってんだよ」
「アイテム表示よ。アイテム! どんな物か確かめたいじゃない。なんでうんともすんとも言わないのよ!」
キーキー五月蝿いな。動くわけ無いだろ。他人が起動できないようにちゃんとなってるっての。何てたってリーフィアは頭の信号を色々と受け取ってるんだぞ。そこにはプライベートな物が色々とあるかも知れないだろ。
実際リーフィアにどれだけのデータとかが残ってるのとかは分からないが、簡単に他人が見れるようにしてあるはずない。だってそれだと個人情報の取り扱い云々に引っかかるだろ。
「それは分かるけど、普通起動くらい出来るんじゃない?」
「まあ起動くらいは出来るな。一般的には。脳波の違いで登録者じゃないとゲストルームに行くみたいな事は聞いたことある。まあ他人に使わせたこと無いから本当のところはわかんないけどな」
「じゃあ何で今は何もならないの?」
「PCとかで弄ってるからじゃないか? 今の状態で他人に使わせるのは不味いと判断してとか」
「機械の癖に、私を門前払いするとは良い度胸ね。要は脳波を秋徒と同じにすればこいつを笑いものに出来るわけか……ふふ」
おいおい、まさか日鞠の奴、俺の脳波に自分の脳波を合わせようと? どうやってだよ。てか、俺でさえ自分の脳波とか知らんわ。それを合わせるとかまず無理だろ。幾ら日鞠の奴が凄いやつでも、流石に人外って訳でもないんだしそれは……だけどどうやら日鞠の奴は本気の様だ。
頭に被った人のリーフィアの側面をグリグリしながら「はぁぁぁぁぁ」とか息を吐きながら目を閉じて集中してる。いやいや、そんな事で脳波弄れるか! てか、絶対無理……
の筈だよな? なんだか日鞠なら……となまじあいつの事を知ってるから思ってしまう自分がいる。
いやいや、でも流石のアイツでも脳波はどうしようもないだろ。だって脳波だぜ? 何をどうやれば良いのかなんてさっぱりだろ。
「日鞠ちゃんは脳波まで操作できるんですね」
「んな訳ないと思うぞ」
愛の奴が自分のリーフィアを両手で抱えて、感心しながらそういったから、取り敢えず否定しておいた。愛はなんでもかんでも信じすぎだ。純粋なのはいいけどさ、実際LROでは結構それで痛い目もあったわけだし(大半は俺のせいだけど)そろそろ一つ疑う事を覚えた方がいいかも知れない。
信じることは大切だ。だけど疑う事だって自分を守る上では大切なんだ。この世界も向こうの世界も、誰も彼もが良い人なワケじゃない。そして愛は可愛い。悪い虫に直ぐに目を付けられると思う。
まあ今までは家の力とかあったんだろうけどさ、それに守られてばっかも行かないだろ。俺だって守って行きたいし、だけど流石に愛の家程のガードが出来るわけじゃない。自分を守っていくためには、疑うことだって大切だ。
(あれ? なんか俺の思考変な方向に行ってないか?)
そう思ってると、日鞠の奴がズボッと勢い良くリーフィを抱え上げた。頭から抜けたリーフィアを見つめて、次に俺を睨んでこう言ってくる。
「思考を馬鹿にすれば秋徒の脳波と同じになると思ったんだけど、無理っぽい」
「おい、それは完全に俺を馬鹿だと蔑んでるよな」
マジで包み隠さず馬鹿って言ったよな。そりゃあお前基準では俺なんかバカの部類だろうけど、それ言ったら世の中の大半が馬鹿になるわ。すると俺の代わりに愛が日鞠に言ってくれる。
「日鞠ちゃん、秋君はバカなんかじゃないですよ!」
「そうですねお姉様。ただ単に知能が低いんでした」
変わってねぇぇぇぇぇ!! 何一つとして変わってねぇよ!! 寧ろなんかちょっと的確に言われて心が抉られたわ!! 馬鹿ってなんかてきとうに言ってる感があって、冗談なんだな––って思えるけど、知能ってちゃんと知ってなきゃ出なくね。
そして普段からそう思ってたって事だよな? 俺はこいつのせいで人を疑う事を覚えたと思う。最初中学で会った時は大人しそうな見た目にコロッと騙されそうだったからな。何てたって中学はセーラー服だったし、日鞠の奴はいつの時代だよって感じのメガネに三つ編み装備だったからな(今でもそうだけど)。
スカートの丈も今より全然長くて膝さえ見せないくらいだった。俺は本当に一瞬、ゲームの中から出てきたんじゃないのかこれ? とか思った。だってあんなのこのご時世に絶滅危惧種というか、既に滅んだと思われててもおかしくない格好だ。
誰だって気になるだろ。スッゴク大人しそうに見えたから、クラスで虐められたりするんじゃないか? とか、そうなった時は守ってみたりして––とか、だけどいやいや、やっぱり俺が積極的に絡んで友達の輪を広げるってのはどうだろう? とか色々と妄想も膨らんでた。
でもそんな事を考えてる間に、日鞠はその見た目も相まってクラス委員長なんかを最初のHRで押し付けられてた。しまった〜と俺は思ったよ。こんな大人しそうな子がガキから大人の階段を登りだした傍若無人で血気盛んな小学生上がりのモンスター数十人を纏められる訳がない。
既に笑いが交じる拍手で晒しあげられてた日鞠はこの時妙に大人しかった。それは後々にスオウの奴とクラスが違ったショックだと分かったんだが、あの時の俺はそんな男がいよう者など思いもしなかったわけだ。
だって彼女は黒髪でメガネで三つ編みでしかもスカートが長いんだもん! 俺はこの頃から既に実家の床屋で対人関係を鍛えてたからな、昨今の子供に見られる人見知りなんて都市伝説だと思うほどに積極的だったんだ。
なんせ小学生時は常に人だかりが出来る位の人気者だったからな。どっかの地区に俺と同じかそれ以上の人心得てる奴が居るとか聞いたことはあったけど、小学生時は地区が違えばそうそう会うこともなく、俺は俺の学校で天下とってたから自身に満ち溢れてた。
中学でも俺の人気は間違いない……その自信はあった。なんせ結構な数の人数はこの学校に流れてたからな。地盤が既に出来上がってるような物だ。けど新しい門出の一歩にまずは、この大人しそうな子を救うのも良いかと思った。
それに副委員長なんて物は結局誰もがやりたがらないものだ。このままだと先生がまた適当に、今度はきっと男子から選ぶんだろう。そうして嫌々組まされた二人は嫌な中学生活をスタートさせる……来る日も来る日も雑用だ。
そうなったら、この子の中学生活は最悪なものになると思った。大人しい子が雑用を押し付けられて、そっちに時間を取られて友達も出来ず孤立してく……それは居心地の良い雰囲気を好む俺には嫌なことだった。だから皆の拍手のなか、俺は立ち上がって自分で副委員長に立候補した。するとどうだろう、皆の拍手はさっきまでの冷やかしから温かいものに変わってた。
これがこのクラスの良い一歩になったと確信した。俺が日鞠の方を見ると、なんだかポケーと呆けて見てたから「おいおい恋の始まりか?」とか思った。その後に先生が「クラス委員長達に抱負でも」とか言うから俺たちは教壇まで行く事に。
その時も日鞠は一向に立ち上がらずに俯いたまま、俺がリードしないと、と思って席までいって「大丈夫?」と声をかけた。それでようやく顔を上げて立ち上がってくれた日鞠。ホントこの時はドッキリでも仕掛けてたのかって位に、普通の……というかおとなしい子だったんだ。
日鞠は差し出した俺の手をちょっと掴んで一緒に歩いてくれた。教壇前まで行っても、日鞠の奴は喋る気配がなかったから俺が抱負を語ったよ。だけど先生は日鞠にも何か言わせたいらしくて、背中を押してた。
ちょっと強引だな––とも思ったけど、最初が大切なのもわかってた俺は、日鞠の手を握って「大丈夫、一人じゃないから」って言ってブイにした指を見せてやったんだ。すると大きなため息と共に、日鞠もこう言ってくれた。
「君、お節介なんだね。ふふ、良いじゃん」
その時初めて俺は日鞠の笑顔を見た。それにズキュンと来たのは一生胸にしまっておくと今は決めてる。知られるわけには行かない事実だからな。まあ今となっては過去だけどさ……やっぱり本人たちに知られるのはちょっとな。
だけど実際しおらしかったのはここまでだったわけだ。日鞠は俺のお節介で、気持ちを切り替えてしまってた。次の瞬間宣言したのは、生徒会長就任を目指す事と、学校改革のマニフェストだったわけだ。
この瞬間からあれ? って俺は思い始めてた。だけどこれも時にある、慣れないことをやらせてしまった故の暴走なんだと俺は思うことにして目をそらした。実際みんなもポカンとしてたからな。だけど日鞠相手にその対応は完璧に間違いだったんだ。
何故なら日鞠は次の日にはどうやってか生徒会の『仮役員』になってた。そしてメガネで三つ編み、スカート長いのは変わらないけど、クラスの雑用も先生の手伝いも積極的にこなしてた。昨日と同じ人物とは思えなかったよ。
でもそれは喜ばしい事だって思えたのも事実。俺の一言がきっかけだったのかな? とかも思えたしな。けどそんな余裕は直ぐに……具体的には一週間で消え去った。こいつが普通じゃないとわかるのに、たった一週間で良かったわけだ。
授業は先生を打ちのめす程に博識だし、メガネの癖に体育も活躍、音楽では絶対音感とか披露して、ピアノをあっさり弾いてしまう始末。でもここまではまだ「生徒」という領域を出ない活躍だ。この位で俺の驚愕を理解してもらっちゃ困る。さっき授業では教師を打ち負かすって言ったけど、それでも教師の評判はすこぶる日鞠の奴はよかった。
てか中一の時のクラスではもう普通の光景だったしな。まあ日鞠とバトル教師も居たには居たけど、それはそれで授業が盛り上がるだけだったからな。日鞠の奴はどうやらアフターケアをしっかりやってたようだ。良く教師の手伝いもしてたし、向こうを立てるのも忘れちゃなかった。
そんな訳で教師にどんどん気に入られていって、そのオーバースペックでクラスでも人気者。凄い一年が居ると、そんな噂はあっという間に学校中に広がってた。もうこの入学三日後には最初の面影なかったかもしれない。
でも俺は無理してるんだ……とか無理矢理思って、クラスの仕事はなるべく引き受けるようにしてたよ。だってかなりの量の仕事をやってたからな日鞠のやつは。生徒会の手伝いに教師の手伝い。それに授業終わりに要点解説とか。それには他のクラスから人が押し寄せる程の好評ぶりだった。
そんな制度がいつの間にか導入された俺達の中学の進学先は、この二年後に大きく上昇する事になる。平凡な中学から有名高校への進学合格率が飛躍的にアップする。まあそれは後の話なんだが、そんなこんなで日鞠の奴は、着実に中学での地位って奴を確立して言ってた。
一週間で俺はクラスの副委員長として定着してたけど、日鞠の奴はたった一週間でこの学校でその存在を知らない奴がいない奴になってた。俺は完全に出遅れてた。そしてそんなある日言われたんだ。どうせ日鞠のやつは覚えてないだろうが……二人でクラスの雑用を放課後やってる時にこう言ってきた。
「ありがとう秋徒。君が最初に下についてくれたお陰でやりやすかったよ」
ドキンと一瞬下の名前でしかも呼び捨てで呼ばれた事に胸が高鳴った。だけどよく考えたら下についた覚えなんてない。確かに委員長よりも副委員長は役職的には下かも知れない。だけどこういうクラスでの役職に下も上も無いものだろ。
少なくとも俺は同等だと思ってたよ。けど日鞠は違ったようだ……しかも俺を下につけといて自分は人気取りに勤しんだと……今そう言いやがった。俺がいろんな真実から目を逸らしてる間に、こいつは俺を良いように使ってたのか? と思った。この時初めて女って怖いかも知れない……とか思ったんだよな。
でもこのまま舐められっぱなしは男としてのプライドを持ってた俺には出来ないことだった。だからここで宣戦布告でもしてやろうか……と思ったわけだ。どっちがこの学校を統べるに相応しいか––今思うと俺もかなり痛いことを考えてたと思うけど、俺だって小学生上がりのガキだった事をご了承ください。
でも結局そんな宣言がされる事はなかったんだけどな。俺が決意した時には目の前に日鞠いなかったし。ぽつんと放課後の真っ赤に燃える様な夕陽の中で俺だけが突っ立ってた。廊下から聞こえる声にハッとして、廊下に駆けて見たものはこれまた今までの日鞠の印象とは違う顔だった。
嬉しそうに楽しそうに、それこそ年相応の女の子みたいに話してる顔。あんなのはそれこそ入学初日の固まってた以来の衝撃。そして隣には見慣れない男の姿。それは勿論スオウのやつだった。勿論この時はスオウの事は知らなかったけどな。
俺はなんだか日鞠よりもスオウの方にライバル意識がこの時は行ってたかも知れない。てか、普通に腹立ったしな。そしてそれから色々と頑張ったけど、日鞠のやつはそんな俺を鼻にもかけなかった。
(まじで昔からえげつない奴だったなこいつ)
俺は大きくため息を吐く。そして手を差し出した。
「貸せ。いいや、返せ。元々俺のだしなそれ。俺自身がやった方が早いだろ」
「それもそうね。なんだかちょっと痒くなったかも。秋徒菌が移ったかも」
「そんな菌ねーよ!」
てかちょっとしか被ってなかったくせに痒いとか言うな。それに秋徒菌ってなんだ? まさかハゲる菌とか言わないよな。不満な目をしながら俺はリーフィアを受け取る。するとリーフィアからいつもと違う匂いが……具体的にはいつもの俺臭い物とは違う、フローラルな香りが漂ってきた。
日鞠の匂いってやつか……昔の事を思い出してたせいでなんだかちょっと胸がドキドキするな。でもそんな感情を悟られるわけにはいかないから、俺は平常心を保ってリーフィアを被る。目の前のゴーグル部分に光が走ってメニューが現れるよ。
この部分は普段はあんまり気にしないんだけど、今はここでしか表示できないからな。いつもなら自分のマイルームに入るんだけど、それも出来ない今はここでしか情報を確認する事は出来無い。
「取り敢えずアイテムを確認してみるか」
今まで忘れてたけど、あの破損アイテムが鍵かも知れないからな。俺はアイテムと頭に思い浮かべる。するとゴーグル部分の項目が勝手に移動して言って俺が持つアイテム一覧を表示する。いや、これもPCの画面と同じで、殆ど表示も出来てない。取り敢えず下の方にスクロールさせていって『???』を探す。するとあった。このアイテムだけは確かにただの棒線じゃなく、ちゃんと『???』として表示してある。
まあちゃんと……とは呼べないかもしれないけどさ。俺はそれを選択してみる。すると見慣れない言葉が表示されてた。それは『使用』ってやつだ。
(え? これ使えるのか?)
全然気づかなかったぞ。てか、LROのアイテムは向こうでしか使えなかったはず……だけどせっかく出てるんだ、押してみないわけにはいかない。俺はそれを選択してみる。すると中間のスマホと、接続先のPCの画面が異様な程に輝き始める。
「ちょ!? なんかヤバいわよ!」
確かに日鞠の言うとおりになんかヤバい。今にも爆発でもしてしまいそう……そう思ってるといきなりガシャン! とブレーカーが落ちて真っ暗になった。
「ぬがああああああああああああああああああ!!?」
変な奇声を上げたのはタンちゃんだ。まあブレーカーが落ちるってPC使う人にとっては怖いことだよな。なんせ中のデータがどうなってるか……真っ暗な中でバッテリーを搭載してるリーフィアだけは微かな光を放ってる。
そしてゴーグル部分にはこんな文字が表示されてた。
『このアイテムを実行することは出来ません。条件を満たしてください』
「条件?」
条件ってなんだ? 色々とこのアイテムの情報を探るけど、そんなの一切示されてないぞ。なんの手掛かりもなく、条件を満たせと? それは一体何だ? 破損してるんだから、直せってことだろうか?
けどどうやって……
「おいタンちゃん」
「なんだよ……今俺は息子たちの面倒で忙しいんだ」
ブレーカー上げて、パソコンの再起動を行ってるタンちゃんの声は不機嫌そうだった。まあわからんでもないけど、聞いて欲しい。大切なことだ。
「お前、このアイテム直せないのか? すげー力持ってるんだろ? なんだっけ? インフィニットアート? それでさ」
「ふん、どうだろうな? このプログラムは俺にでさえ理解できない部分が大半だ……」
「それじゃあやっぱ無理って事か……」
そうだよな。理解できない物を治すなんて出来ない事だろ。もしも直せたとしても、ちゃんと直せてるかはわからないしな。形だけを取り繕っただけ……なんて意味ない。
「無理など言ってない。我がインフィニットアートに不可能はない。ただもっと情報をやれ。それは特殊なアイテムなんだよな?」
「そうだな。特殊だとは思う」
「貴様しか持ってないのか?」
「いや、四つ出たからな……俺とテッケン、シルクそれにスオウの奴がそれぞれ一つずつ持ってるはずだ」
その言葉を聞いた時、タンちゃんがピクッと反応したのが分かった。
「スオウの奴も同じアイテムを持ってるのか?」
「ああ。それがどうした?」
「最初に言っただろ。向こうの世界に繋がるアイテムが必要だと。向こうにも同じ物があるのなら、それは好都合だ。しかもたった四つの特殊アイテム。何かしらの繋がりが結ばれてる可能性はある。
もしかしたら、こっちが行くよりも奴を連れ戻すなんてことも……」
「出来るの!?」
日鞠の奴が身を乗り出すようにタンちゃんに迫る。そりゃあ聞き流せない事だからな。しょうがない。
「可能性の問題だ。その可能性もあるかも知れないというだけだ。まだなんとも言えん。取り敢えずそうだな……残り二つの破損アイテムも揃えたい所だ。出来るか?」
「出来るか? なんて言われて出来ないなんて言えないだろ。やらなきゃいけないんだ!」
俺とセツリと愛は頷く。破損アイテム……それをこの場に集めるんだ。
「それは分からないが、ここに表示されてるアイテムはこれだけだ。何か意味があるのかも知れないじゃないか」
「意味ね……」
日鞠の奴はそう言って繋いである俺のリーフィアを見つめる。そしておもむろに被りやがった。
「アイテム表示!」
「おい、何やってんだよ」
「アイテム表示よ。アイテム! どんな物か確かめたいじゃない。なんでうんともすんとも言わないのよ!」
キーキー五月蝿いな。動くわけ無いだろ。他人が起動できないようにちゃんとなってるっての。何てたってリーフィアは頭の信号を色々と受け取ってるんだぞ。そこにはプライベートな物が色々とあるかも知れないだろ。
実際リーフィアにどれだけのデータとかが残ってるのとかは分からないが、簡単に他人が見れるようにしてあるはずない。だってそれだと個人情報の取り扱い云々に引っかかるだろ。
「それは分かるけど、普通起動くらい出来るんじゃない?」
「まあ起動くらいは出来るな。一般的には。脳波の違いで登録者じゃないとゲストルームに行くみたいな事は聞いたことある。まあ他人に使わせたこと無いから本当のところはわかんないけどな」
「じゃあ何で今は何もならないの?」
「PCとかで弄ってるからじゃないか? 今の状態で他人に使わせるのは不味いと判断してとか」
「機械の癖に、私を門前払いするとは良い度胸ね。要は脳波を秋徒と同じにすればこいつを笑いものに出来るわけか……ふふ」
おいおい、まさか日鞠の奴、俺の脳波に自分の脳波を合わせようと? どうやってだよ。てか、俺でさえ自分の脳波とか知らんわ。それを合わせるとかまず無理だろ。幾ら日鞠の奴が凄いやつでも、流石に人外って訳でもないんだしそれは……だけどどうやら日鞠の奴は本気の様だ。
頭に被った人のリーフィアの側面をグリグリしながら「はぁぁぁぁぁ」とか息を吐きながら目を閉じて集中してる。いやいや、そんな事で脳波弄れるか! てか、絶対無理……
の筈だよな? なんだか日鞠なら……となまじあいつの事を知ってるから思ってしまう自分がいる。
いやいや、でも流石のアイツでも脳波はどうしようもないだろ。だって脳波だぜ? 何をどうやれば良いのかなんてさっぱりだろ。
「日鞠ちゃんは脳波まで操作できるんですね」
「んな訳ないと思うぞ」
愛の奴が自分のリーフィアを両手で抱えて、感心しながらそういったから、取り敢えず否定しておいた。愛はなんでもかんでも信じすぎだ。純粋なのはいいけどさ、実際LROでは結構それで痛い目もあったわけだし(大半は俺のせいだけど)そろそろ一つ疑う事を覚えた方がいいかも知れない。
信じることは大切だ。だけど疑う事だって自分を守る上では大切なんだ。この世界も向こうの世界も、誰も彼もが良い人なワケじゃない。そして愛は可愛い。悪い虫に直ぐに目を付けられると思う。
まあ今までは家の力とかあったんだろうけどさ、それに守られてばっかも行かないだろ。俺だって守って行きたいし、だけど流石に愛の家程のガードが出来るわけじゃない。自分を守っていくためには、疑うことだって大切だ。
(あれ? なんか俺の思考変な方向に行ってないか?)
そう思ってると、日鞠の奴がズボッと勢い良くリーフィを抱え上げた。頭から抜けたリーフィアを見つめて、次に俺を睨んでこう言ってくる。
「思考を馬鹿にすれば秋徒の脳波と同じになると思ったんだけど、無理っぽい」
「おい、それは完全に俺を馬鹿だと蔑んでるよな」
マジで包み隠さず馬鹿って言ったよな。そりゃあお前基準では俺なんかバカの部類だろうけど、それ言ったら世の中の大半が馬鹿になるわ。すると俺の代わりに愛が日鞠に言ってくれる。
「日鞠ちゃん、秋君はバカなんかじゃないですよ!」
「そうですねお姉様。ただ単に知能が低いんでした」
変わってねぇぇぇぇぇ!! 何一つとして変わってねぇよ!! 寧ろなんかちょっと的確に言われて心が抉られたわ!! 馬鹿ってなんかてきとうに言ってる感があって、冗談なんだな––って思えるけど、知能ってちゃんと知ってなきゃ出なくね。
そして普段からそう思ってたって事だよな? 俺はこいつのせいで人を疑う事を覚えたと思う。最初中学で会った時は大人しそうな見た目にコロッと騙されそうだったからな。何てたって中学はセーラー服だったし、日鞠の奴はいつの時代だよって感じのメガネに三つ編み装備だったからな(今でもそうだけど)。
スカートの丈も今より全然長くて膝さえ見せないくらいだった。俺は本当に一瞬、ゲームの中から出てきたんじゃないのかこれ? とか思った。だってあんなのこのご時世に絶滅危惧種というか、既に滅んだと思われててもおかしくない格好だ。
誰だって気になるだろ。スッゴク大人しそうに見えたから、クラスで虐められたりするんじゃないか? とか、そうなった時は守ってみたりして––とか、だけどいやいや、やっぱり俺が積極的に絡んで友達の輪を広げるってのはどうだろう? とか色々と妄想も膨らんでた。
でもそんな事を考えてる間に、日鞠はその見た目も相まってクラス委員長なんかを最初のHRで押し付けられてた。しまった〜と俺は思ったよ。こんな大人しそうな子がガキから大人の階段を登りだした傍若無人で血気盛んな小学生上がりのモンスター数十人を纏められる訳がない。
既に笑いが交じる拍手で晒しあげられてた日鞠はこの時妙に大人しかった。それは後々にスオウの奴とクラスが違ったショックだと分かったんだが、あの時の俺はそんな男がいよう者など思いもしなかったわけだ。
だって彼女は黒髪でメガネで三つ編みでしかもスカートが長いんだもん! 俺はこの頃から既に実家の床屋で対人関係を鍛えてたからな、昨今の子供に見られる人見知りなんて都市伝説だと思うほどに積極的だったんだ。
なんせ小学生時は常に人だかりが出来る位の人気者だったからな。どっかの地区に俺と同じかそれ以上の人心得てる奴が居るとか聞いたことはあったけど、小学生時は地区が違えばそうそう会うこともなく、俺は俺の学校で天下とってたから自身に満ち溢れてた。
中学でも俺の人気は間違いない……その自信はあった。なんせ結構な数の人数はこの学校に流れてたからな。地盤が既に出来上がってるような物だ。けど新しい門出の一歩にまずは、この大人しそうな子を救うのも良いかと思った。
それに副委員長なんて物は結局誰もがやりたがらないものだ。このままだと先生がまた適当に、今度はきっと男子から選ぶんだろう。そうして嫌々組まされた二人は嫌な中学生活をスタートさせる……来る日も来る日も雑用だ。
そうなったら、この子の中学生活は最悪なものになると思った。大人しい子が雑用を押し付けられて、そっちに時間を取られて友達も出来ず孤立してく……それは居心地の良い雰囲気を好む俺には嫌なことだった。だから皆の拍手のなか、俺は立ち上がって自分で副委員長に立候補した。するとどうだろう、皆の拍手はさっきまでの冷やかしから温かいものに変わってた。
これがこのクラスの良い一歩になったと確信した。俺が日鞠の方を見ると、なんだかポケーと呆けて見てたから「おいおい恋の始まりか?」とか思った。その後に先生が「クラス委員長達に抱負でも」とか言うから俺たちは教壇まで行く事に。
その時も日鞠は一向に立ち上がらずに俯いたまま、俺がリードしないと、と思って席までいって「大丈夫?」と声をかけた。それでようやく顔を上げて立ち上がってくれた日鞠。ホントこの時はドッキリでも仕掛けてたのかって位に、普通の……というかおとなしい子だったんだ。
日鞠は差し出した俺の手をちょっと掴んで一緒に歩いてくれた。教壇前まで行っても、日鞠の奴は喋る気配がなかったから俺が抱負を語ったよ。だけど先生は日鞠にも何か言わせたいらしくて、背中を押してた。
ちょっと強引だな––とも思ったけど、最初が大切なのもわかってた俺は、日鞠の手を握って「大丈夫、一人じゃないから」って言ってブイにした指を見せてやったんだ。すると大きなため息と共に、日鞠もこう言ってくれた。
「君、お節介なんだね。ふふ、良いじゃん」
その時初めて俺は日鞠の笑顔を見た。それにズキュンと来たのは一生胸にしまっておくと今は決めてる。知られるわけには行かない事実だからな。まあ今となっては過去だけどさ……やっぱり本人たちに知られるのはちょっとな。
だけど実際しおらしかったのはここまでだったわけだ。日鞠は俺のお節介で、気持ちを切り替えてしまってた。次の瞬間宣言したのは、生徒会長就任を目指す事と、学校改革のマニフェストだったわけだ。
この瞬間からあれ? って俺は思い始めてた。だけどこれも時にある、慣れないことをやらせてしまった故の暴走なんだと俺は思うことにして目をそらした。実際みんなもポカンとしてたからな。だけど日鞠相手にその対応は完璧に間違いだったんだ。
何故なら日鞠は次の日にはどうやってか生徒会の『仮役員』になってた。そしてメガネで三つ編み、スカート長いのは変わらないけど、クラスの雑用も先生の手伝いも積極的にこなしてた。昨日と同じ人物とは思えなかったよ。
でもそれは喜ばしい事だって思えたのも事実。俺の一言がきっかけだったのかな? とかも思えたしな。けどそんな余裕は直ぐに……具体的には一週間で消え去った。こいつが普通じゃないとわかるのに、たった一週間で良かったわけだ。
授業は先生を打ちのめす程に博識だし、メガネの癖に体育も活躍、音楽では絶対音感とか披露して、ピアノをあっさり弾いてしまう始末。でもここまではまだ「生徒」という領域を出ない活躍だ。この位で俺の驚愕を理解してもらっちゃ困る。さっき授業では教師を打ち負かすって言ったけど、それでも教師の評判はすこぶる日鞠の奴はよかった。
てか中一の時のクラスではもう普通の光景だったしな。まあ日鞠とバトル教師も居たには居たけど、それはそれで授業が盛り上がるだけだったからな。日鞠の奴はどうやらアフターケアをしっかりやってたようだ。良く教師の手伝いもしてたし、向こうを立てるのも忘れちゃなかった。
そんな訳で教師にどんどん気に入られていって、そのオーバースペックでクラスでも人気者。凄い一年が居ると、そんな噂はあっという間に学校中に広がってた。もうこの入学三日後には最初の面影なかったかもしれない。
でも俺は無理してるんだ……とか無理矢理思って、クラスの仕事はなるべく引き受けるようにしてたよ。だってかなりの量の仕事をやってたからな日鞠のやつは。生徒会の手伝いに教師の手伝い。それに授業終わりに要点解説とか。それには他のクラスから人が押し寄せる程の好評ぶりだった。
そんな制度がいつの間にか導入された俺達の中学の進学先は、この二年後に大きく上昇する事になる。平凡な中学から有名高校への進学合格率が飛躍的にアップする。まあそれは後の話なんだが、そんなこんなで日鞠の奴は、着実に中学での地位って奴を確立して言ってた。
一週間で俺はクラスの副委員長として定着してたけど、日鞠の奴はたった一週間でこの学校でその存在を知らない奴がいない奴になってた。俺は完全に出遅れてた。そしてそんなある日言われたんだ。どうせ日鞠のやつは覚えてないだろうが……二人でクラスの雑用を放課後やってる時にこう言ってきた。
「ありがとう秋徒。君が最初に下についてくれたお陰でやりやすかったよ」
ドキンと一瞬下の名前でしかも呼び捨てで呼ばれた事に胸が高鳴った。だけどよく考えたら下についた覚えなんてない。確かに委員長よりも副委員長は役職的には下かも知れない。だけどこういうクラスでの役職に下も上も無いものだろ。
少なくとも俺は同等だと思ってたよ。けど日鞠は違ったようだ……しかも俺を下につけといて自分は人気取りに勤しんだと……今そう言いやがった。俺がいろんな真実から目を逸らしてる間に、こいつは俺を良いように使ってたのか? と思った。この時初めて女って怖いかも知れない……とか思ったんだよな。
でもこのまま舐められっぱなしは男としてのプライドを持ってた俺には出来ないことだった。だからここで宣戦布告でもしてやろうか……と思ったわけだ。どっちがこの学校を統べるに相応しいか––今思うと俺もかなり痛いことを考えてたと思うけど、俺だって小学生上がりのガキだった事をご了承ください。
でも結局そんな宣言がされる事はなかったんだけどな。俺が決意した時には目の前に日鞠いなかったし。ぽつんと放課後の真っ赤に燃える様な夕陽の中で俺だけが突っ立ってた。廊下から聞こえる声にハッとして、廊下に駆けて見たものはこれまた今までの日鞠の印象とは違う顔だった。
嬉しそうに楽しそうに、それこそ年相応の女の子みたいに話してる顔。あんなのはそれこそ入学初日の固まってた以来の衝撃。そして隣には見慣れない男の姿。それは勿論スオウのやつだった。勿論この時はスオウの事は知らなかったけどな。
俺はなんだか日鞠よりもスオウの方にライバル意識がこの時は行ってたかも知れない。てか、普通に腹立ったしな。そしてそれから色々と頑張ったけど、日鞠のやつはそんな俺を鼻にもかけなかった。
(まじで昔からえげつない奴だったなこいつ)
俺は大きくため息を吐く。そして手を差し出した。
「貸せ。いいや、返せ。元々俺のだしなそれ。俺自身がやった方が早いだろ」
「それもそうね。なんだかちょっと痒くなったかも。秋徒菌が移ったかも」
「そんな菌ねーよ!」
てかちょっとしか被ってなかったくせに痒いとか言うな。それに秋徒菌ってなんだ? まさかハゲる菌とか言わないよな。不満な目をしながら俺はリーフィアを受け取る。するとリーフィアからいつもと違う匂いが……具体的にはいつもの俺臭い物とは違う、フローラルな香りが漂ってきた。
日鞠の匂いってやつか……昔の事を思い出してたせいでなんだかちょっと胸がドキドキするな。でもそんな感情を悟られるわけにはいかないから、俺は平常心を保ってリーフィアを被る。目の前のゴーグル部分に光が走ってメニューが現れるよ。
この部分は普段はあんまり気にしないんだけど、今はここでしか表示できないからな。いつもなら自分のマイルームに入るんだけど、それも出来ない今はここでしか情報を確認する事は出来無い。
「取り敢えずアイテムを確認してみるか」
今まで忘れてたけど、あの破損アイテムが鍵かも知れないからな。俺はアイテムと頭に思い浮かべる。するとゴーグル部分の項目が勝手に移動して言って俺が持つアイテム一覧を表示する。いや、これもPCの画面と同じで、殆ど表示も出来てない。取り敢えず下の方にスクロールさせていって『???』を探す。するとあった。このアイテムだけは確かにただの棒線じゃなく、ちゃんと『???』として表示してある。
まあちゃんと……とは呼べないかもしれないけどさ。俺はそれを選択してみる。すると見慣れない言葉が表示されてた。それは『使用』ってやつだ。
(え? これ使えるのか?)
全然気づかなかったぞ。てか、LROのアイテムは向こうでしか使えなかったはず……だけどせっかく出てるんだ、押してみないわけにはいかない。俺はそれを選択してみる。すると中間のスマホと、接続先のPCの画面が異様な程に輝き始める。
「ちょ!? なんかヤバいわよ!」
確かに日鞠の言うとおりになんかヤバい。今にも爆発でもしてしまいそう……そう思ってるといきなりガシャン! とブレーカーが落ちて真っ暗になった。
「ぬがああああああああああああああああああ!!?」
変な奇声を上げたのはタンちゃんだ。まあブレーカーが落ちるってPC使う人にとっては怖いことだよな。なんせ中のデータがどうなってるか……真っ暗な中でバッテリーを搭載してるリーフィアだけは微かな光を放ってる。
そしてゴーグル部分にはこんな文字が表示されてた。
『このアイテムを実行することは出来ません。条件を満たしてください』
「条件?」
条件ってなんだ? 色々とこのアイテムの情報を探るけど、そんなの一切示されてないぞ。なんの手掛かりもなく、条件を満たせと? それは一体何だ? 破損してるんだから、直せってことだろうか?
けどどうやって……
「おいタンちゃん」
「なんだよ……今俺は息子たちの面倒で忙しいんだ」
ブレーカー上げて、パソコンの再起動を行ってるタンちゃんの声は不機嫌そうだった。まあわからんでもないけど、聞いて欲しい。大切なことだ。
「お前、このアイテム直せないのか? すげー力持ってるんだろ? なんだっけ? インフィニットアート? それでさ」
「ふん、どうだろうな? このプログラムは俺にでさえ理解できない部分が大半だ……」
「それじゃあやっぱ無理って事か……」
そうだよな。理解できない物を治すなんて出来ない事だろ。もしも直せたとしても、ちゃんと直せてるかはわからないしな。形だけを取り繕っただけ……なんて意味ない。
「無理など言ってない。我がインフィニットアートに不可能はない。ただもっと情報をやれ。それは特殊なアイテムなんだよな?」
「そうだな。特殊だとは思う」
「貴様しか持ってないのか?」
「いや、四つ出たからな……俺とテッケン、シルクそれにスオウの奴がそれぞれ一つずつ持ってるはずだ」
その言葉を聞いた時、タンちゃんがピクッと反応したのが分かった。
「スオウの奴も同じアイテムを持ってるのか?」
「ああ。それがどうした?」
「最初に言っただろ。向こうの世界に繋がるアイテムが必要だと。向こうにも同じ物があるのなら、それは好都合だ。しかもたった四つの特殊アイテム。何かしらの繋がりが結ばれてる可能性はある。
もしかしたら、こっちが行くよりも奴を連れ戻すなんてことも……」
「出来るの!?」
日鞠の奴が身を乗り出すようにタンちゃんに迫る。そりゃあ聞き流せない事だからな。しょうがない。
「可能性の問題だ。その可能性もあるかも知れないというだけだ。まだなんとも言えん。取り敢えずそうだな……残り二つの破損アイテムも揃えたい所だ。出来るか?」
「出来るか? なんて言われて出来ないなんて言えないだろ。やらなきゃいけないんだ!」
俺とセツリと愛は頷く。破損アイテム……それをこの場に集めるんだ。
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