命改変プログラム

ファーストなサイコロ

時限が見えない

 静かな場所だ。盛観で厳かなアルテミナス城を思い出させる城の中。まあもっと装飾が女の子っぽんだけど、それはある意味無理に置いてある感じで、この城自体はとても厳かな感じが伝わって来る。照り返す床に、白い石造りの柱や壁。もしも元からLROにあった物なら、きっとここはかなり重要な施設なんだろうなと思わせる雰囲気がプンプン漂ってる。だけど本当の所は僕達には分からない。もしかしたらやっぱりここはシクラ達が自分達のお姫様を迎える為だけに用意したお城なのかも知れない。そうなるとこの城は完全にLRO内での異物って事になる。
 まあそれを言ったらシクラ達は全員そうなんだけど……サクヤだけはそんな他の姉妹達とは違う様だけど、でもシクラ達はその異物である事で、この世界のルールの外に居る。それが奴等の最大の強みでチートであれる要因だ。僕達はLROというゲームを通してこの世界に来てるからシステムの呪縛から解き放たれる事は無いけど、シクラ達は繋がってた別の世界から目覚めてやって来た移民みたいな物だから、システムの縛りを一切受けてないってのがな……それを強みにやりたい放題。当夜さんはこう成るかも知れない事を予期してたのだろうか? 
 これだけの物を作った人が予期してなかったとは中々思い難い物があるんだよな。それにそもそも、このLROと医療用空間として作られたLROの前進である空間が深い所で繋がってたのも意味深だしな。いつからLROの構想を立ててたのかは分からないけど、ここを作ろうと思い立った時には、リンクさせようと思ってたのか……それともやっぱり同じ感覚で作ってたら偶々そう成ったのか……まあ今はどこに居るかも分からない人の考えなんて幾ら考えたって答えが無い問題だ。結局は他人の心の中を知る術なんて無いんだからな。
 もしもそんな力がここでなら手に入るのだとしても、僕は別に欲しくは無い。他人の心内なんて知っても知らなくても別に良い事だ。何を思われてようが、それを見極めるのは自分だ。友達か、仲間か、親友か……それは自分自身で決める事。


「誰も居ないわね」


 ミセス・アンダーソンがそんな事を良いながら別の部屋の扉をゆっくりと閉める。捜索開始してからまだ数分程度だけど、取りあえず見える範囲で開けた部屋には誰も居なかった。慎重をきしたけど、案外期待外れ……って訳じゃない。取りあえずちょと安心。


「誰も居ないが……妙でもある」


 そう言ったのはテトラだ。妙ってどういう事だ?


「部屋がおかしい」
「装飾の事か? それならまあ、センスを疑う部屋もチラホラあったな」


 どこの魔術結社だよって言う危ない部屋に、何故か植物が溢れ帰ってる部屋とか、おおよそ女の子の部屋じゃない様な物が混じってた。だけど案外マトモなのもあったんだけどな。ただ単に色違いってだけの部屋が幾つもあったけど……


「楽しそうなお部屋一杯でいいな〜ってクリエは思ったけどな〜。ねえピク!」


 クリエの頭の上に乗ってるピクは、そんな言葉を受けて可愛く頷いてる。マジでばんばん理解してるなこの小竜。てか、ピクは普通にクリエとなら会話出来るんだよな。真に恐ろしいのはこのちびっ子だな。この世界はセツリの為に作られた筈の物だけど、それは今や完全にそうって訳じゃない。今のままのLROに愛されてるのは寧ろクリエなんじゃないか? と思えるな。まあ二人の神の子供みたいな物なんだから、あながち間違っても無い様な気もするけどね。


「ふん、部屋が楽しいなどとは俺には分からん感覚だな。雨風を凌げれば十分だろう。屋根と壁があれば十分だ」
「ええ〜そんなのヤだよ!」


 クリエはリルフィンの言葉を物凄く突っぱねる。流石に屋根と壁だけは僕もイヤだな。そんなの部屋じゃない。小屋だろ。リルフィンの奴は実際狼みたいな姿してるから、部屋に愛着なんてないのかも。あるのは縄張り意識とか? こいつにとって大切なのは場所じゃなくて群れが集ってる範囲……みたいな感じなのかも。だから個人としての部屋にはそんなに興味は無い−−と結論づけてみる。


「けど、お前って結構立場上だったんだからそれなりの部屋が与えられてた筈だろ? 使ってなかったのか?」
「俺は常に主の傍に居る事を旨としてる。寝る時は一番主に近い場所で寝るだけだ。部屋など帰った事が無い」


 凄い野生児発言だな。あっ、何となくローレの奴がリルフィンを外交官として色んな場所に飛ばしてたのが分かったかも。きっとアイツ煩わしいって思ってたに違いない。四六時中一緒に居られるとか、我慢ならなさそうなタイプだもんな。なんだか恋人とかにも、ローレって「ここからは貴方との時間じゃないから」とか良いそうじゃん。いや、勝手なイメージだけどさ。女子とも付き合った事無いから全然あてになんて成らないだろうけど、そんなイメージを勝手に持ってる。まあその時どうなるかなんて、わかんないものかも知れないけどさ。
 恋は人を変えるとも言うし、もしかしたらああいう奴の方がはまったり……そう言えばなんとなく男運悪そうなイメージもあるかも。いや、願望かも知れないけどさ……あいつに結構振り回されたから、実はそうあって欲しい……みたいな僕の心内かも。こっちでもリアルでも超勝ち組とか、なんかムカつく。


「ここがセツリって奴の為の場所なら、全てはそいつの為にあるんだろう。全てに部屋は彼女の気分に合わせた部屋とかかも知れないな」
「それ……一体何百あるんだよってなるぞ……」


 確かに絶対に使い切れないであろう、部屋が無駄に装飾されてるのは、あいつらの性格を鑑みた場合、来客用とは思えないからな。でもそれにしてもやり過ぎだろ。けどだからこそ、色違いが何部屋もあるってのは頷けるか。シクラ達の優先項目第一位は必ずセツリだ。セツリが全てなんだから、当然と言えば当然。模様替えだけじゃ飽き足らないから、城の至る所をセツリ好みにして、所々は色物まで配色する。なかなかやる奴等だな。テトラの奴は、僕の呆れた言葉に更にこう返す。


「何百あっても良いんだろ。そのセツリとやらが楽しく入れれば、それで良い筈だ。奴等の存在意義がそれだけなら、なんら不思議は無い」
「まあ……確かにな」


 全てはセツリの為なんだから、僕達がちょっと引く事も普通か。でもわざわざ部屋で引いてる訳にも行かないんだよな。そんな事は実際どうでも良い事だし……問題はこの膨大な部屋の中から、どうやって法の書を見つけ出すかって事。


「なあテトラ、このまま全部の部屋をしらみつぶして、それで見つかると思うか?」
「思うも何も見つけなくちゃだろ? まあ実際は奴等が今やってる儀式……それが怪しいと思うがな」
「それ言うか」


 いや、最初からその線は確かにあった。だけどさ、もしも既に法の書を使って何かしてるとしたら、奪取はかなり難しくなる。ましてやシクラ達姉妹が集ってる場所から物を奪い去るなんて、どう考えても無理ゲーだろ。だからどうにかその線は除外したかったんだけど……やっぱ無理だよな。誰だって今やってる儀式みたいなのと、法の書の重要性を合わせて考えない奴は居ない。コレだけの規模の建物だ。数百はありそうな部屋を一つ一つしらみつぶしてる時間もないのなら、危険でもやっぱりまずは見つける事を優先するべきだよな。
 確認だけでも、やるべき。


「私も、今彼女達がやってる儀式は興味深い。法の書が重要な物で、これだけの規模の儀式をやってるのなら、一番確立が高いのは儀式の中心だと思うわ」


 ミセス・アンダーソンの奴も、やっぱり儀式の場所が一番怪しいと思ってるか。そりゃあそうだな。危険だけど……どうあってもやるしかないか。あの光の中心を確かめてみるしか無い。別にむやみやたらに手を出さなければ……儀式の終わりで、奴等が油断してる時を突けば良いだけ。下手に接近はしない……それを心がければ……


「よし、分かった。奴等の儀式に接近しよう。でもあくまでも目的は法の書だからな。奴等には絶対に手を出すなよ。そしてもしもその場にあっても、まずは様子見だ。何をやってようが、下手に手出しは出来ないからな」
「わかってるさ」
「まあ、しょうがないわね」
「おっけー!」
「ふん」


 みんなそれぞれ納得してくれた所で、儀式の場所を目指す事に。城の中には別段、誰かの存在を感じる事は無いけど、チートな奴等の事だ。慎重を重ねるにこした事は無い。警戒は最大限にしながら、だけど素早く進んでく。さっきまでの衝撃はどこへやらだけど、逆に静かなのは緊張感をかき立てる物がある。どこであの姉妹に鉢会うかとかをちょっとでも想像したら、足がすくんでしまいそうだ。ここは奴等の本拠地なんだからな。もしも見つかったら、逃げられる確立は低い。戦って勝てる確率は更に低い……まさに背水の陣だ。
 このミッションを失敗したら、僕達に出来る事は何もなくなるし……ホント、緊張感が半端ないものに成って来る。先頭行ってくれてる、ピクは何故か堂々と進んでるけどさ、こっちはヒヤヒヤ物だよ。まあピクの危機察知能力は折り紙付きだから、ここまでなんの問題もなくこられてるんだろうけど……だからって気を緩める事は出来ないからな。少しずつシクラ達の居る場所に近づいてると思うと、腹が痛くなって来る。


「凄いわねあのドラゴン。まるで迷う気配がないわ」
「ピクには何か、僕達には分からない感知能力でもあるのかも知れないな」


 それならあの危機察知能力も納得いくしな。野生の感ってだけならビックリだけど……まあそれは無いだろう。ピクにはきっと特別な何かがあるんだろう。そう期待しとく。暫く進むと、ピクが僕の肩に乗って来た。近づいたか? 僕はクリエを見るよ。


「もうすぐそこだって」
「よし、ここからは更に慎重に行くぞ」


 僕達は壁際にそって進む。そしてより輝きが強い窓から外を見る。多分ここは正面玄関から少し入った程度の場所だろう。今までの通路よりも横幅広いし、なんだか吹き抜けの感じが見える。流石に正面扉の傍から外を伺うのはヤバそうだからこっちで。でもそっと外を覗いてみて「うわっ」って思った。あんなの見えるか! だってどれだけ眩しいんだよっていうね……サングラスが必要だ。そう思ってると「ほら」と何故かテトラの奴から差し出された。


「なんでお前こんなの持ってんの?」
「今作った」
「今!? はっ?」


 どういう事だ? それって「ええ!?」だろ。なんかおかしく無い。サングラスってそんな消しゴムのカスみたいな感覚で作り出せる物なの? すると突然差し出されたサングラスが揺らめき出す。更にビックリだよ! なんだこれ? 材質なんだよ。


「うるさい奴だな。声は小さいのにうるさいぞ。俺の力で作った。靄を高密度で圧縮したんだ。俺は神だぞ。なんだって出来る」
「お前の力が万能なのは分かってたけど……まさか物まで作り出すとはな」
「光を遮るとかは得意だからな。相性が悪い様で良いのが光なんだよ。取りあえず付けろ」


 そう言って無理矢理装着されたサングラスはすこぶる快適でした。全然眩しく無い。まあ当たり前だけどさ、重さも元が靄だから皆無に等しい。0.1ミリグラム位はあるかもしれないけど、この装着感はなんだ? 殆どサングラスとかした事無いけど、自然過ぎる。これでこの光の中でも奴等を確認出来るな。てかこんなの作れるんなら、もっと早くに作っとけよな。


「モニター越しの映像では意味なんてないだろ。ここまで近づいたからこそ、価値が出たんだ」
「なるほど……言われてみればそうだな」


 モニター越しでは流石にサングラスしても映ってない物はみえないもんな。


「クリエも見たいよ」


 そう言いながらクリエの奴は必死につま先立ちするけど、流石にそれくらいで届く距離じゃない。ミセス・アンダーソンだって見えてないだろうし、クリエが見える訳も無い。


「おいクリエ、あんまり騒ぐなよ。見つかったらどうする」
「だってだってだって……」


 折角サングラス付けてもらったから、自分でみたいって気持ちも分からなくは無いけどさ……ウルウルしたクリエの瞳が……見えないからあんまり情もわかないな。ある意味サングラスしてると生意気に見える不思議。


「わがまま言うな。ここからは遊びじゃないんだからな」
「うう〜」


 だからこんな風に突っぱねるのも簡単だ。余裕だね。てかある意味、クリエはもう少し離れた場所にでも置いておきたい位だからな。守れるかどうか……そんな余裕無いからな。まあ見つからなければいいんだけど……僕も視線を外の光へ向ける。


「どうだ? 何人居るか正確に分かるか?」


 サングラスのおかげで光の向こう側が見えるからな。今度こそは正確にその数が分かる筈だ。生暖かい風と不思議な光の圧力を感じながら、先に見てたリルフィンがこう言うよ。


「全員居るようだ。十人程度の姿が見える」
「そうか。どうりでここまで余裕だった訳だ」


 誰か一人でも監視についてたら、きっとこう簡単に接近出来なかっただろうしな。確かにリルフィンが言う様に十人程度の姿が見て取れる。逆に考えると、それだけ重要な事をやってるって事だよな。それなら益々、あの儀式のどこかに法の書がある可能性は高まるな。どうせなら儀式に集中してる最中にこっそりと持ち逃げ出来る感じでそこらに置いてあれば最高なんだけど……僕は視線を動かして法の書を探す。でもかなり遠目だからな、一応本の形をしてる物を探すよ。


「なんだか奴等等間隔で円を描いて立ってるな……あの儀式には奴等自身が媒体と成ってるってのかも知れない」


 テトラの奴が自身の考察を言ってくれる。なるほどね。シクラ質全員で行わなければ行けないから、僕達はここまで自由でいれるって訳か。でもそれならこの儀式が終わったら……それを考えると怖い物があるな。そもそもホント何をやってるのか気になる所だな。僕はこの空に伸びる光を追ってみる。


「あれは……」


 光はどこまでも続いてるんだと思ってたけど違う。空のある一定のラインで見えない板にでもぶつかったみたいに拡散して消えて行ってる。そんなに広い世界に影響を出してる訳じゃない様に見える。あくまでも限定的ななにか……でもその光がぶつかってる部分は異常だ。空の青が紫に変わって、何かが剥がれてる見たいにキラキラと落ちてる物が見える。世界に拡散じゃなく……寧ろこれは浸透でもしてるのかも……そっちの方がヤバいか。浸透って事は奥にしみ込むってことだ。奥って事は……そこはシステムの根幹なのかも……やっぱりやってるのはシステム干渉? 
 だけどどこをみても本なんてない……中央の一番光が強い所には二つの影が見える。そのどちらかが本を持ってると思ったけど、そうじゃない。どっちもそんな物を持ってないし、なんか一人の格好が変だ。空中に浮いて寝そべってる様にみえる。そしてもう一人がそいつに何かをしてる様な……あれはセツリか? 光が強いから完全にそうとうは言えないけど、何となくだけど、そう思う。そう感じる。でも一体あいつ何をやってるんだ? 鍵はセツリなのは分かる……でももう一人は? シクラ達姉妹が周りを構成する要素として必要なら、考えられる人物は二人だけ。
 それは『サクヤ』か『ガイエンモドキ』だ。ガイエンモドキはあの黒い奴ね。名前とか知らないから黒い奴かそう呼ぶしかない。サクヤは姉妹だけど、厳密にはシリーズが違うらしいから、周りの構成要素に入ってないという事もあり得る。でもやっぱりガイエンモドキの方が可能性的には高いかも。そもそも何の為にシクラが奴を生み出したのかって事を考えるとさ、そこには役目があるからなんだと思うんだ。あのいけ好かない女は、無駄なことばっかりしそうな飄々としたキャラだけど、実際は無駄な事をしてる様にみせて狙った物は確実に掠め取ってく奴だからな。
 そこに無駄が無いのなら、あの黒い奴にはそれ相応役割がある筈だ。それが今のこの謎の儀式だとしても……なんらおかしくは無い。


「どうする? 法の書の様な物は見当たらないぞ……」
「宛が外れたってだけだ。良かったのか悪かったのかは微妙だろ。ここに全員揃ってるのが分かったし、それぞれがこの儀式の構成に必要なら、これが終わるまでは少なくとも動く事は出来ない筈だ。それはわざわざ他の魔法を切ってまでこれに集中してるのが既に証明してる。かなりデリケートな事をやってるんだろう。止めた方が良いのかも知れないけど、それをしたら確実に僕達は終わる。ここでゲームオーバーだ。そんな事は出来ない」
「確実に終わるとは言ってくれるな」


 テトラの奴が邪神のプライドかそんな風に言って来る。でもそうだろ。今更強がっても意味ないぞ。


「確かにあの人数はキツいな。だが、一対一ならまだ俺だけでもどうにかはなるかも知れないぞ」
「一対一に持ち込めればだろ? 残念だけど、今は僕達の方が人数少ないんだよ」


 テッケンさん達が居れば同等数には届くかも知れないけど……ハッキリ言ってテトラ以外はみんなタイマンはキツいのが正直な所だ。そもそもこういうネットワーク型のRPGはパーティー戦が基本なんだ。みんなで協力して強大な敵を討ち滅ぼす。そこにオフラインでは味わえないいろんな連帯感とかがあるから良いんだろ? だからこそこういうゲームの敵は基本ソロは厳しく作られてる物だろ。しかもそれがチート集団ってなら更に話は別だ。シクラ達十人程度を相手にするのに、僕達プレイヤーはハッキリ言って軍隊位は必要だ。それでようやくどっこいだろ。
 ソロは無謀にも等しいと思う。邪神であるテトラだから取れる戦略だ。しかもやっぱり戦略とも呼べない無茶・無謀。やっぱ却下だな。


「まあ今無茶はしないさ。だが奴等の計画は潰す。この世界は俺とシスカの歴史でもある。それら全てを奴等の物に書き換えられてたまるか」
「そうだな。逆に考えようぜ。今奴等は動けない。それなら今法の書を求めて僕達は自由に探索を出来る。あとどの位で終わるか分からないけど、それまでに何としても法の書を見つけるんだ。あの場所に無いんなら、この城のどこかにきっとある筈だからな」


 僕は皆を見てそう言うよ。そしてその言葉に皆が頷いてくれる。タイムリミットは……分からない。だけどこのチャンスを生かさないと僕達に先はない。なんとしてでも見つけるんだ。法の書を!!

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