命改変プログラム

ファーストなサイコロ

花と法のダンシング

 天に聳える城の屋根は、天蓋を突き破ろうとしてるかの様に尖ってた。思ってたよりも大地は大きく無いけど、城の敷地分だと考えるときっと十分なんだろう。一つの大きな地面を浮かしてその上に城を築いた訳じゃなく、どちらかと言えばどでかい岩が浮いてる様な……まあそれもなんか違うけど、でも大体そんな感じだな。だけどこれは……色んな驚きが確かにそこにはある。神秘さに心引惹かれたり、その大きさに圧倒されたり……それこそ色々となんだけど目の前の光景は神秘的で圧倒的で、だけど神々しくも不気味な感じがする。


「なんだあれは? どうなってる?」


 リルフィンの奴が身を乗り出しながらそう言う。けど、思わず身を乗り出してしまうその気持ちは分かるよ。普通に僕達花の城の事を言ってるけどさ、本当はあれ、見えない筈だったんだよな。それをどうしようか策をいくつか用意してた訳だけど……目の前の光景を見る限り、それは必要なくなった様だ。だって花の城は完全にそこにある。既に隠す気全くないって感じだ。寧ろ隠れるってよりも、輝いてるもん。その輝きが凄くて、ある意味不気味とさっき言ったんだ。リルフィンのどうなってる? って言葉もこの輝きのせいだろう。こいつはここに一度来た事あるんだしな。
 でも僕達にはその疑問に答える事は出来ない。だって誰も答えを持ってる訳ないんだからな。気になる事はいきなり出て来たけど……ある意味見えてる事に感謝するべきだろう。余計な手間が一個減ったんだからな。ありがたいと思う事にしておこう。


「どうなってるのかなんか知らないけど……多分良く無い事をしてるとは思うな」


 僕はまあ適当にそう返す。きっと誰もが同じ事を感じてると思うけど、口に出すと自然と喉が渇く気がした。何かは分からない……でも何やらヤバいのはきっと確実だ。


「綺麗だけど……何か嫌な感じがするね」
『どうする? このまま接近するか?』


 クリエも何か感じてる。通信機の向こう側もどうするべきか、迷ってるみたいだな。僕はテトラを見るよ。


「どう思う?」
「大規模な何かをやってるのはわかる。それもシステム干渉的な何か……ある意味今なら容易に近づけるかも知れないぞ」
「どういう事だよ?」
「だからコレだけの規模の事をやってるんだ。そこに集中してると見れる。まあ、完璧にそうだとは言えないがな」


 テトラの奴の言う事も分かる気はする。何をやってるかは分からないけど、確かに大規模な何かをやってるのは確か。だからこそ、シクラ達はそっちに掛っきりなのかも知れない。けど……あのシクラ達だからな。楽観的な考えはなるべく控えたいのが本音だ。あいつ等なら……そう思える所が恐ろしい。


「だが、ここで尻込みしてる訳にもいかないだろう。異変に怖じ気づいたか?」
「そう言う事じゃない。だけど、あいつ等の強さは知ってるだろ。見つかったらおしまいだ。これだけの光景だけど、奴等全員が掛かってるって保証は無い。あいつ等なら、一人でもやれそうだとは思わないか?」
「……否定はしないな」


 テトラの奴は少し貯めてそう言った。そう言う事だよ。ここでしめしめとか思って正面から突っ込んだら、打ち落とされる様な気がするだろ。もしかしたら、本当に上手く行くかも知れないけど……でもそれは余りにデカい賭けだ。ここで奴等に僕達の存在を感付かれた終わりだと思った方が良い。奴等に対抗出来るだけの力が僕達には無いんだからな。だからこそ、慎重にならざる得ないんだよ。


『どうする?』


 通信機の向こうでは僕の決定を待ってる。いつまでも手を拱いてる訳にはいかないな。取りあえずこの距離ならまだ大丈夫そうだしそうだな……


「取りあえずこの距離を保って一回りしてみよう。バトルシップにはかなり精度のいいカメラがあるんだろ? この距離からでも城の周囲は確認出来る筈だ」
『了解』


 そう言ってバトルシップはゆっくりと動き出す。なるべく音を立てない様に、静かに滑る様に一定の距離を保って、花の城を一周した。


「どうだ?」
『外には誰も居な--』
『待ちなさい。これをよく見て』
『これは……』


 おいおい何なんだよ。こっちにはその映像来てないから分からないぞ。通信の向こうでうんうん言ってないで、こっちにも状況を伝えてくれ。


『良く聞きなさい。あの光の中心が判明したわ。城からすこし離れた場所の一カ所が強い光を放ってるわ。多分そこが中心でしょう』
「それはわかったけど、どうなんだ? 何人いるかわかるか?」


 そこに全員が揃ってると確認出来るのなら、裏とかから回り込める。だけどそうじゃなかったら、どこかで警戒してる奴が居るって事だ。ミセス・アンダーソンの言葉を待つよ。


『そうね……残念だけど、人数を正確には確認出来ないわ。光が強過ぎるのよ。シルエット的に五・六人は確認出来るのだけど……』
「五・六人か……微妙だな」
「だけどまだ居るのかも知れない可能性もあるわ」


 それだといいんだけど……セツリ達全員で何人だっけ? セツリにサクヤにシクラに柊、そしてヒマワリに、最近しった百合に蘭で七人。そこにあの黒い奴で八人で、残り一人は確か居る筈だ……って事は九人。案外こうやって数えると大所帯だな。まああの城のデカさを考えると、狭いなんて事は無いんだろうけどな。半分はこの光の場所に居るとして……残り半分が居ないとなると怖い物がある。だけどまだ何も仕掛けられてない所から考えると、見つかっては無い筈だ。なんせ奴等が遠慮する必要なんか無い筈だからな。
 まあ僕はセツリ自身に倒させたいとシクラの奴は思ってるみたいだけど……別にそれも絶対じゃないだろう。


「スオウ……どうするの?」
「そうだな」


 クリエが僕の服を引っ張ってそう言うよ。取りあえず最大限の警戒態勢で少しずつ接近するしかないかな?


「バトルシップにはいろんなセンサーとかがついてるんだよな? それを最大限に活用して状況を知れないか? 結界があったり、トラップがあったりとかしたら不味いだろ」
『全く、しょうがないわね。あの場所をスキャンしてみるわ。でも過度な期待はしないでよね。向こうも相当の使い手なら、上手く隠されてるかも知れないからね』
「わかった。頼む」


 そう言うと今度はバトルシップの翼から何か出て来た。アンテナみたいな………そんな感じの奴。そして少ししてスキャン結果が伝えられる。


『妙ね……結界どころか、トラップの一つもないみたい。絶対とは言えないけど、仕込まれた魔法の術式は見えないわ』
「そうか」


 確かに意外だな。でも奴等の場合余裕の現れとも取れるよな。それともおびき寄せる為の罠……の線はどうだろうか? ちょっと微妙かも。僕は隣のテトラに「どう思う?」と聞いてみる。一応邪神だし、神なりの意見を聞かせてもらおうか。


「俺の見立てでもトラップらしい物はみえないし、警戒してる気配も感じない。術式は一つの大型が駆動してるだけ。これから考えられるのは、奴等の今やってる行為はかなりデリケートな事だと言う事だ」
「どういう事だ?」


 良くわからないんだけど。魔法の事とか疎いんだよこっちは。すると魔法に詳しいミセス・アンダーソンが詳しく言ってくれる。


『ようは干渉を恐れてる……と言う事かしら? 魔法の中には繊細な物もある。力は影響しあうと言う奴よ。殆どはそんなの感じられない物だけど、繊細な魔法には影響を及ぼしたりするわ。だから干渉を無くす為に他の魔法を使わない様にする事がある。そう言う事よ』
「なるほどな……それなら確かに結界もトラップも何一つ無いのも納得はできる」


 僕は再び前方の花の城を見据える。干渉か……色々とあるんだな。元から姿を見せてたのも、そういう事なのだろうか? 透明化するのも今の魔法に影響するから止めてるのか。だけど実際それで安心して突っ込めるか……というとそうじゃないよな。あの姉妹の場合、結界とかなくても自身の能力だけでこれだけの範囲ならカバー出来そうな気もする。それだけアホらしい力だからな。それに残り二人の能力は皆目検討もついてないし……だけど向こうが魔法を使えず、スキル仕様もあの術式で制限されてるってんなら、やりようはある。


「テトラ、仕掛けるぞ。お前の靄でバトルシップ全体を包めるか?」
「余裕だな。だがそれじゃあ逆に目立たないか? 俺の靄は闇にはとけ込むが、この空には消えれないぞ」
「別にそれでいいさ。確かめたいだけだしな。それに素で突っ込むよりは良いだろ?」
「そうだな」


 テトラは自身から出す靄を大きくして行って、それをバトルシップ全体に広げてく。だけど不思議な事に靄に包まれても、外側が見える。ちょっと暗くなったけど、その程度の変化だ。


「濃度を調整すれば簡単な事だ」
「ふ~ん、まあありがたい。よし、奴等の術式の中心から見えない位置に回り込んでくれ。そこから着陸を目指す」
『了解』


 バトルシップは靄に包まれたまま大きく旋回し出す。回り込んだのは城の反対部分。ここなら確かに死角だな。だけどあの術に参加してない奴が居るとすれば、こう言う所に居たりしそうな感じはする。でもだからってやっぱり正面からは行けないからな。こっち側から攻めてみるしか無い。


『これから接近する。準備は良いか?』
「ああ、慎重にな。音は静かに頼む。それとテトラ」


 僕はテトラに耳打ちするよ。保険は必要だろ。何も起こらずに無事に着陸出来ればいいけど……そんな楽観的な考えは奴等相手には出来ない。ゆっくりと花の城に近づき出すバトルシップ。鼓動が早くなってるのが分かる。誰も何も喋らないのはみんな一緒だからだろう。クリエもそんな雰囲気をきっと感じてる。僕の服を握りしめてる腕に力が籠ってるのを感じるよ。少しずつ近づいて来る地面。このまま行ければ……そう思ってると、空に昇ってた光がかなり強烈に輝いた。そして同時に衝撃波みたいなのが襲って来た。


「「「うあああああああああああああああああああああ!!」」」


 盛大に揺れるバトルシップ。僕達は必死に甲板で揺れに耐えるよ。怖がるクリエを僕は抱きしめる。するとさっきまでよりも強烈に光が届いて来る様な……眩しい中で瞳を細めて開けると、テトラの靄が消えて行ってるのが分かる。


「おい、テトラ!」
「この光、おかしな効果があるのかも知れないな。俺の力とは相性が悪いみたいだ」


 おいおい、そんな事を言ってる場合か? するとクリエの奴が無理してこう言って来る。


「そ、それじゃあクリエがやってみよっか?」
「やってみるって何をだよ? お前はテトラみたいに靄だせないだろ」
「そういえばそうだった!」


 クリエのアホな発言は速攻で流して僕は通信をするよ。このまま余波に晒され続けるのは不味いだろ。だからって逃げたら意味ない。衝撃波は確かにキツいけど、ここまで何もないのなら……


「取り舵一杯だ! 出力最大で花の城に着陸しろ!」
『だ、大丈夫なのか?』
「この衝撃波の中でなら気付かれないだろ。寧ろ、この余波が終わった時の方が危ない。急げ!!」


 その言葉を受けて出力を上げ出すバトルシップ。大きな振動の中、更に大きな振動が加わって来る。だけどそれも少しの間で良い筈だ。バトルシップの早さなら、ものの数秒でつける。甲板にしがみついて激しさを増す振動に耐える僕達。なんだかバトルシップの船体がミシミシと言ってる様な……聞こえない事にしとこう。きっと大丈夫さ。バトルシップなら。そして最大船足からの急停止。それでもかなり気を使ってくれたみたいだけど、甲板の僕達はその瞬間バトルシップから放り出される羽目になった。


「うおおおおああああああああ!!」


 そんな声を出してると、テトラの奴の靄に包まれて、地面に降ろされた。ふさふさとした花と草。遠目から見たらもっとごつごつしてる様に見えたんだけど、下りてみるとそうでもないらしい。まあ花の城と言う位だからな。名前負けとかはしてないみたいだ。


「助かったよテトラ」
「まあこの程度はな」


 クリエも無事だし、リルフィンも……きっと大丈夫だろう。顔面から突っ伏してるけど、死にはしないよ。そう思ってると、バトルシップが地面に下りて来てハッチが開いた。


「大丈夫ですか?」
「なんとか」


 出て来たのはミセス・アンダーソン一人だけかよ。残りの二人は心配もしてないと言う事か? 全く薄情な奴等だな。まあ彼女の方はしょうがないけど、僧兵の奴はそれなりに関係ある筈なんだけどな。


「彼はいざという時の為にも操縦席から離れられないと言ってましたよ。心配してない訳ではないですよ」
「ああ~分かってたよ」


 ミセス・アンダーソンの言葉にそう返す僕。そうそう、いざって時の為にも僧兵には操縦席に居てもらわないと困るからな。しょうがないんだった。


「おい、どうやら悠長にやってる暇はない様だぞ」
「ん?」
「わあああああ!」


 テトラの言葉に僕達は空を見上げる。すると光がぶつかってる空の色がなんだかおかしい。周りは青なのに、そこだけ紫っぽくなってると言うか……しかも所々パズルのピースが崩れる様に落ちてないか? なんだろうか……この世界が作られた世界って改めて思う様な光景だな。クリエはその珍しい光景に興奮してるけど、こっちは不安しか無い。ほんと……マジで何をやってるんだ? 


「急ぐわよ。嫌な予感がするわ」
「だな。ここまで来たんだ。必ず法の書を奪還する」


 僕達の狙いはそれだ。シクラの奴に持ち去られた法の書の奪還。それがこのミッションの目的だ。コードとかは一度取られたら、僕達にはどうしようもないけど、アイテムは別だ。アイテムはそこにあるものだからな。それに法の書がマザーのアクセスに必要なのは分かってる。シクラの奴が言ってたしな。だからこそ、僕達がこの戦局を変える為に必要なアイテム……それこそが『法の書』だと言う訳だ。ずっと後手に回って来たけど、法の書があれば、関係性が変わるかも知れない。アレにはきっとそれだけの価値がある筈だ。


 僕達は慎重に移動して。開いてた窓から城の中へと侵入する。城の中は光に満ちてキラキラとしてる。なんだかセツリの奴が好きそうな内装だよ。まあそうしてるんだろうけどな。いきなりセンサーとかが反応するかな? とか思ったけど、別段そんな事は無いようだ。案外ザルな警備体制。いや、アレのせいなんだろうけどさ。


「法の書か……この城から本一札を見つけるのは相当骨が折れるぞ」


 リルフィンの奴が地面に突っ込んだ顔を擦りながらそう言う。確かにその通りなんだけど……でも今の僕達がシクラ達に一矢報いるとするなら、それしか方法が無い。正面からやりあって勝てる相手じゃないんだ。有利に出来るアイテムを手に入れるのは実力差をカバーする為にも必要だろう。僕はリルフィンに向かって力強くこう言うよ。


「それでも、見つけなくちゃダメなんだ。絶対」


 敵の本拠地で、命を掛けた捜索の始まりだ。

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