命改変プログラム

ファーストなサイコロ

電子の王

 インフィニットアート。そんな良くわからない中二病的ワードを連発してた無限の探索者ことタンちゃんは、今確実に夢の世界へ繋がる道を開けると、そう言った。それが本当なら、再びLROの世界へと舞い戻る事が出来る。俺は身を乗り出す様にして声を出す。


「おい! 今の本当なんだろう--あっ」


 勢い余ってタンちゃんの頭を肘でガツンとやってしまった。痺れてしまった腕よりも、問題なのはタンちゃんだ。彼は重力に逆らう事無くドッシャってな感じで前の席に首を打ち付けて、そして席の隙間にその体を埋めて行った。


「ええええええええええ!? おおおおい、大丈夫か!?」
『問題ない』
「問題ないって全然そうは見えないぞ!」
『人間的な物の見方で語ってもらってはダメなのだよ。我は時を駆け幾想もの時代を渡って来たインフィニットアートを収集する者だ。この程度、痛みすら感じんよ』
「はあ……」


 それなら別に……いや待てよ。俺は行儀悪いけど、後ろから前の席に乗り出して、通路に挟まってるタンちゃんを引っ張り上げてみる。すると案外ヒョイッと持ち上がる。これってやっぱり……


「人形か!?」
『ふははは、良く我の変わり身に気付いたな。まあ横の奴はずっと気付いてた様だが』
「まあ、これだけ近かったらね。幾ら薄暗くても気付くわよ」


 日鞠の奴はあっさりとしてる。でもこっちも疑ってたのは同じだけどな。だって殆ど微動打にしてなかったし、おかしいと思える節は沢山あった。すると後ろから愛がこう言って来る。


「タンちゃんさん、協力してくれるんですよね? それなら姿を見せてくれても良いと思いますけど」
『この世の権力者と接する事は危険だ。我の力を狙ってる組織の一員とも限らんしな。まだ警戒を解く事は出来ない。インフィニットアートの力は世界を変えるだけの力がある」
「はぁ……」


 愛はきっとこいつの言葉を理解出来てない。まあ俺も半分以上良くわからないけど、良くわからない部分はスルーしてけばいいんだ。深く考える必要は全くない。どうせ適当な設定だろ。中二病はカッコイイ台詞を言いたいだけだからな。


「所で、タンちゃんがLROの道を開けるのはそのインフィニットアートとかと関係あるの? 何だっていいけど、そこら辺はハッキリさせておきたいんだけど」
『ふむ、当然だな。確かにそれは俺のインフィニットアート【史上網羅の理】で実現可能に出来る事だ。まあ人には見せる方が早いだろう。我が力を確認させてやろう。我が人形に突起物があるだろう。取ってみろ』
「突起物?」


 日鞠の質問に示したタンちゃんの答え。俺は抱えてるタンちゃん人形を改めて見る。すると一部の部分がピラミッドみたいになってる事に気付いた。


「おい、時の探索者なんて大層な肩書きを抱えてる割に、どこを膨らませてるんだよ」


 そこ完全にあそこだろ。局部じゃねぇか! 変態か! やっぱただの中二病こじらせただけの奴だなこいつ。すると更にこんな言葉が聞こえて来た。


『ふふ、何を変に意識してる? 俺の物じゃないから安心しろ』
「当然だ!!」


 これがお前の物だったら、大問題だよ。冗談じゃすまない。ただの変態だ。


『あ、言っとくけど男は触るな。俺の力を宿したそれには条件をつけてある』
「条件?」
『それを取る時は女でないと、俺の力が発動して俺のヘソが曲がるのだ。そうなったらもう何もやる気が起きなくなる』


 なんじゃそりゃ! って言いたかった。それってただお前が女子のちょっと照れくさい表情を鑑賞したいだけだろ! やっぱりこいつ変態だな。二人が美少女だからってなんて事を要求して来る奴だ。まあこいつは日鞠の事を知ってた訳ないし、どう考えても愛にその役をして貰いたいんだろうな。だけど流石にそれは俺が許さん。別にヘソ曲がるだけなら……そう思って手を伸ばす。


「ダメよ秋徒。勝手に行動しないで」
「だけどお前、こんな物に触れるの--」
「なによこんな物」
「--あっ」


 その瞬間ズボッと日鞠の奴が局部を鷲掴みにして引っこ抜いた。なんの躊躇いも無い奴だな待ったく。俺の局部まで小さくなった気がしたわ。タンちゃんも「おふう!」とか言ってたし、予想外の反応だったんだろう。てかマジでもう少し躊躇えよ。一応そこは男に取って一番大事な部分なんだからな。


「ひ、日鞠ちゃんは凄いですね」
「そうですか? 本物な訳無いし、人形のを引っこ抜く位簡単ですよ。それにちょっと面白いし」


 引っこ抜いた物をスリスリしながら怪しく微笑む日鞠。やばい、更に縮こまりそうだ。


『ふっふ……はははは、流石だ。俺の目に敵っただけの奴だよ。さあ、その宝具を開け放ちたまえ!』


 なんだろう、もうヤケクソなのが伝わって来る。タンちゃん必死にそれっぽい事をいうので既に必死じゃないか。そしてそんな言葉は華麗にスルーしてとっくに中のタブレットを取り出してた日鞠。七インチくらいの奴を仕込んでたらしい。どこ製かも分からないタブレットだな。そしてその画面にはこんな文字が。


【今から我が力の片鱗を見せてやろう】


 そして『さあタップするのだ!』とか芝居口調で言って来る。しょうがないから日鞠がその指を乗っけてみる。するとその指で触った所に、静電気みたいな光が集まって来て、そこから宇宙みたいな海へと走り出す。沢山の大小の円がエフェクトされてる空間を走る光。隣では人形から『フハハハハハハハハハハハ!!』ってな声がハイテンションで聞こえて来てた。一体何をやってるんだろうか? そして暫く進むと、一つの球体の中に入り込む。さながらそれは授業で見せられた、精子と卵子が受精する様な動きをして入ってったよ。
 すると画面は暗転した。そして一・二秒待ってると、最初とは違う映像……というかトップ画面が現れた。


「あれ? これって……」


 なんだか見た事ある写真がオシャレに配置された画面だな。てか悉く俺が見切れてるのは何でなんだよ? そう思ってると、日鞠がガバッと画面に近づく。


「ちょ……これって、私のパソコンの画面じゃない?」
「だと、思った」


 だってスオウが一杯だもんな。お前以外にこんな画面にしてる奴考えられない。てか、ホントよくやるな。わざわざ俺の部分は重ねたりしやがって、友情を疑うわ! まあもう理解してるけどな。諦めてるよそこは。こいつにとって、俺とスオウの価値はかなりの隔たりがある。そりゃあ二人は幼い時からずっと一緒だったらしいし、同じ位置に居れるとは思わないけどさ、ホントこいつ等はどこかで世界と隔絶してるというか……絶対に踏み込ませない部分ってのがある気がする。まあ誰にでもそんな一面があるとは思うけど……こいつらの場合、もっと深いような……想像だけど。
 数年付き合っての印象だ。もしかしたら俺の嫉妬心が生み出してるだけの物かもしれない。けどまあ、今はそんなのは良いか。そもそも何で日鞠のPCの画面が出て来てるんだ? タンちゃんは何をする気なんだよ? そもそもどうやって日鞠のPCに外部から侵入してるんだ? まあネットワークに繋がってれば可能なのかも知れないけどさ、あっという間だったぞ。流石にこれだけ簡単にアクセスされると怖いんだが。日鞠じゃなくても。そして当の日鞠は、アワワと震えてたけど、直ぐに俺から人形のタンちゃんを取り上げてこう言った。


「ちょ、ちょっと……これはどういう事よ? い、今直ぐ出てって!」
『その慌てよう。見られては困るものでもあるのかな? ふっはは、残念だったな。電脳空間では我は最強無敵の存在よ。止まれぬな人の子よ』


 なんだその台詞……と思ってると、次々とファイルが開かれてく。その瞬間日鞠の奴が「イイイヤアアアアアアアアアア!!」とか叫び出した。まあ気持ちは分からなくも無いな。自分のPCに入ってるデータ決して他人に、いや、近しい人物にだって公開する事が阻まれる物だ。エロい画像とかエロい動画とか、自分が巡回してるサイトの履歴に……全てが詰まってる。PCを覗けばそいつの趣味趣向が分かると言われてる。つまり今、日鞠は丸裸にされつつあると言う事だ!! なんて恐ろしい。


「これは……凄いですね」


 唾を飲み込みながらそう呟く愛。確かにこれは……流石に引くな。友達と思ってた俺でも引くわ。どれだけスオウの写真あるんだよ。微笑ましい写真もあるけど……結構な頻度で裸とかが出て来るんだけど……それに寝顔。どれだけ侵入してるんだよ。まあ侵入というか、こいつは合鍵持ってるしな。やり放題だな。ビックリする程の多彩な角度からの写真や動画! やっぱりスオウが見つけてたのは氷山の一角に過ぎなかった様だ。


「お前……流石に嫌われるぞ。ストーカーだろこれ。恐ろしいわ」
「なっ!? 何言ってるのよ秋徒。これは愛なの! お姉様なら分かってくれますよね」


 俺に引かれてるからって、愛にすり寄ってく日鞠。だけど愛は真剣な表情でこう言うよ。


「日鞠ちゃん……病院に行きましょう。良いお医者さんを紹介します。きっとこういう行動を取っちゃうのは病気だからなんです!」
「痛い! 本気で心配されてる顔で言われてる私の心が痛い!! 病人扱いなのは本当に効きます!!」


 いや、これは病人扱いするだろ。日鞠の奴が明るいからそうは思わないけど、こいつの正確がもっと暗かったら完璧にヤンデレ認定するわ。今まではまだ可愛気ある様に思ってたんだ。だけど……そうじゃないと今日分かってしまった。これは異常。


「日鞠良いか、人にはなプライバシーって物があるんだよ。それはスッゲー大切な物なんだ分かるか?」
「私だけがスオウのプライバシーを知ってる。公表なんてしない。どんなプレイしてても私はスオウを嫌いになったりしないもん。なんの問題があるのよ」


 ダメだこいつ……早くなんとかしないと。銀幕の中のヒロインが「どうして分かってくれないのよ!」と叫んでるけど、まさに同じ事を叫びたい心境だ。


「日鞠ちゃん。こう考えてみてください。日鞠ちゃんの事をスオウ君が三百六十五日毎日二十四時間欠かさずに見てたらどう思いますか? それってとっても--」
「--幸せですね! スオウは私の事なんでも知ってるって思ってるけど、私はまだ見せてない魅力が百四十はあります。それを見つけてくれる事を祈ってる!」
「ダメだこの子、早く病院に連れて行かないと」


 おおい! 愛にまでそう言わせるとは凄いな! 愛の冷めた目を始めてみたぞ。心配とか悲しみとかそんなの微塵も無くて、ただ単に冷めた目してた。


『はは、どうだどうだ! 周りの者達が自分の真実を知って去って行く様は!! これが……これこそが、我最強無敵の証!!』


 高笑いが薄暗い中に響く。だけど声だけで言われてもな。最強無敵って……言いたいだけだろ。確かに恐ろしい攻撃ではあるけどさ、当初の目的から少しズレて来てないか? 実力を見せるってことが、日鞠を貶めるみたいに成ってるだろ。いや、まあ実力も見せてくれては居るんだけど……流石にもう良いかなって。止めて上げた方が良い様な気がする。これ以上したら日鞠の心が壊れるぞ。


『まだだ! まだ! まだあるだろ! 隠しておきたい暗黒の領域が!』


 止める気ないなこいつ。完全にノリノリになってる。中二病患者はテンションが上がると暴走し始める……というアレか。すると大量の写真や動画から、今度は文章の比率が多くなって行く。なんだこれ? イタ恥ずかしい妄想日記とかそう言うのか? あり得そうだな。さっきの大量のストーキング映像から考えると……すでにこいつの頭の中では結婚生活が始まっててもおかしく無い。その日々を綴った新婚日記かも……なんて恐ろしい。見たく無い……けど、興味は尽きない。すると先に読んでたらしい愛がこう言った。てか、案外神経図太いよな。


「秋君、これ凄いですよ」
「凄いって一体どんな妄想が綴られてるんだよ」


 戦々恐々としながらも俺は画面を見る。


「ん? これって……妄想日記じゃない?」
「何よ妄想日記って。まああるけど」


 あるのかよ。でもここに今出て来てるのは違う。なんだこれ? 日記は日記だけど、その日にやった事が綴られてるのか。いや、日記ってそう言う物だけどさ、そこには悩み相談から、その解決の道筋とか手段とか、それにリンクして付け加えられてる予備知識とか……なんだか一日一日の文章量が日記ってレベルじゃない。お前は一日でどんな冒険をやってたんだ? って感じだ。それに悩み相談の解決だけじゃなく、学校問題の事や、街の人達の声とか……それに今日はどう対応したとか、色んな人達のちょっとした悩みまであるぞ。
 こんな細かい事まで、ずっと解決して来てたのか? こいつがなんであんなに人気なのか……分かった気がする。ただのカリスマ性で引っ張ってるだけじゃないんだな。こいつはやる事をやってて、やらなくても良い事までやってる。やってるっていうか……やって来た……のか。だから今の日鞠がここにある。絶対的な信頼と、引きつけて離さないそのカリスマ性で今の人気を作り上げてたとはな……


「なんで……お前こんな事?」
「生徒会長だから」


 いやいや、待てよ。その解答はおかしいだろ! 生徒会長の範囲越えとるわ! こんな活動生徒会やってないだろ! どこの生徒会長なんだお前は! --っと叫びたかったけど、なんだか日鞠が遠い目をしてたから止めた。その視線は銀幕のスクリーンを向いてるけど、その中の映像を見てるのかは定かじゃない。ただ、なんだかもっと遠くを見てる様な……そんな気がした。


「もう一度聞くけど、なんだこれ?」
「言った通りなんだけど。私はね秋徒。小学生も中学生もそして高校生でも生徒会長なの。それってなんだかもうあの街の生徒会長だって思わない?」
「思わない」


 何か大層な理由があるのかも知れないと思った俺が馬鹿だった。いや、こいつがホント思った以上にバカだった。なんだその理由? 一ミリも共感出来ない。やっぱ飛び抜けて凄い奴ってどこかおかしいのだろうか? 常人にはホント理解出来ない。今の説明で俺は何を悟れば良かったんだ?


「日鞠ちゃんはどうしてこんな事が出来るんですか? とっても素晴らしい事ですけど、誰にでも出来る事じゃありません」
「どうして……ですか。そうですね。言うなれば挑戦状だから……かな?」
「挑戦状?」


 訳が分からない。どういう事なんだよ? その返しおかしく無いか? でも日鞠的にはきっとあってるんだろうな。挑戦状……意味深な言葉だな。誰に対する物なんだそれ? 挑戦状って言うからには叩き付ける奴が居る筈だ。それか、誰かにそれを叩き付けられたとか? 


「私は生徒会長として、出来得る限りの事をやります。そこに妥協は無い。だから生徒の家族の問題にも切り込むし、そうなったら親の問題も解決しなきゃ行けなくなるし、それが会社や地域の事だったら、それだってやらなきゃ根本の解決には成り得ない。生徒会長も総理大臣も大統領もやってる事は同じですよね。小さいか大きいかの、人がどれだけ動くかの違いですよ」


 なんだか話を大きくして曖昧にしようとしてないか? そこまでやる必要なんて全然全くない筈なんだけど……今までずっと、そんな所までおせっかい焼いてたのかよ。こいつといいスオウといい、他人に良くそこまで出来るな。まあスオウはまだ人を選んでる感はあるけど、日鞠の奴はコレを見る限り無差別だろ。理解出来ない。そこまで自分の時間を他人の為に費やせるものなのか? 


「日鞠ちゃん、凄いです! やっぱり日鞠ちゃんは小さな世界で留まってる人じゃない。スオウ君への思いも、コレを見てたら、真剣なだけなんじゃないかと思えて来ました」
「ええええ!? 愛、ちょっと毒されて来たんじゃないか?」


 いきなり態度変わってるぞ。いいのかそれで? あの大量のストーキング映像を真剣だからですませたら、行けないと思う。あれはどう考えても止めさせるべき。


「やっぱり、お姉様は分かってくれると思ってました」
「日鞠ちゃんはとっても立派な人です」


 確かにこれだけ見ればそうだけど……無かった事に出来ない事がある! するとどこかから震える声が……


『ま、まさか……全てを曝け出しても離れて行かないのか? そんな事が……くっ、まだある筈だ!! 我は最強無敵! 人の持つ闇は、こんな物ではない筈だ!!」


 現れては消えるウインドウの数々。するとその内その一つが異様にピンクピンクした彩色のサイトを拾い上げる。その瞬間だ。俺が持ってたタブレットが目にも止まらぬ早さで打ち落とされた。手刀で真っ二つになったんじゃないかと思ったが、実際はそんな事無く、席と席の隙間に落ちてた。


「ちっ」


 舌打ちした日鞠は今度は足でガシガシと蹴り出す。なんだ? 一体何がそこに表示されてるというんだ。


『ふははは! そんな事をしようとも意味は無い!! 俺には全てが見えてるんだからな!!』


 確かにそうだな。俺達には見せない様に出来るけど、タンちゃんには筒抜けだろう。すると日鞠がボソッと呟く。


「アンタの存在を消す。この世から」
『え?』
「消えたく無かったら、今見た事は全て忘れなさい。どうする?」


 人形を見据えて視線を動かさない日鞠。まるでそこに居る誰かを本当に見つめてる様だ。するとガクガク震える声でタンちゃんが折れた。


『……忘れます』


 さっきまでの声が嘘のよう。すっかりしょぼんだ声だった。てか、俺達はどこに居るのかさえ分かってないんだから、折れる必要なんて無いんだけどな。なにか日鞠のヤバい感じが伝わったのかも知れない。






「さて、なんか脱線したけど、ようはアンタはハッキングが得意だって事か?」
『ハッキングなどと俗語で言わないで欲しいな。この力は先にも言ったが【史上網羅の理】だ!!』
「あ~はいはい」


 全く厄介な奴だな。離すだけで疲れて来る。でもハッキングね……役には立ちそうだ。色々と。


「でもハッキングでどうやってLROと繋がるのよ? あれは普通のネットワークじゃないんでしょ? それだとハッキングすら出来ないじゃない」
『ネットワークは広大だ。無限で悠久に広がってる。そこにない入り口などないんだ。とっかかりさえあれば、どこへだって行ける』
「とっかかりって何よ?」


 だな。そのとっかかりが無いから、誰も何も出来ないんだろ。凄腕のハッカーだとこいつがしても、今のままじゃ無力だよな。


『より、あの世界の事を知れる物が良いな。それとあちらとこちらを繋ぐ為の宝具も必要だろう』
「宝具ってなんだよ?」
『端的に言えば、あちらのアイテムだな』
「最初からそう言え」


 ややっこしいな。でも今、マイルームにも入れないからな……アイテムと言っても何も取り出せないぞ。それにLROを知れる物ってなんだよ? 皆目検討もつかない。そう思ってると日鞠の奴が神妙な面持ちでこう言った。


「世界を知れるものね……それならLROの設計データがあるわ。それでいい?」
『ぬお!? それはまさか超戦術的兵器の事か!?』


 意味が分からん。もう全然意味がわからん。突っ込むのも面倒だ。でもそう言えば、そんな事を言ってたな。こっちで自分に出来る事の為に、無理言ってコピーを貰ってたんだよな。なるほど……確かにそれなら、分かる奴がみればあの世界を知るには最高かも知れないな。


『よ、よし、それならばどうにか成るかも知れない。早速そのデータを抜き出して……』


 まだハッキング続けてたのか。だけどそこで日鞠は言うよ。


「無駄よ。PCには一切のデータを残してない。だってこれはそう易々と公開出来る物じゃないもの。そういう約束だしね。だからデータ転送もしない。このデータを扱う時は、私が傍に居る時だけ……そうじゃなきゃ渡せない」
『自分の立場が分かってるのか。 藁にも縋りたい筈だろう?』
「ええそうね。だけど、これは切り札なの。簡単には渡せない。顔も姿も見せない奴には特にね」


 沈黙が訪れる。だけどそこで何故か丁度銀幕の中は濡れ場だった。嫌らしい音と、喘ぎ声が大音響で響いてた。なんか……台無しだな。


『ふっ、しょうがない。だが俺は自陣の結界から外に出る事は出来ない。なんせ俺を狙う奴等は数多いからな。そんな危険は犯せんのだよ。なのでサーヴァントを送ろう』
「サーヴァント? ようは下僕みたいな物? どうやってアンタのサーヴァントを判断するのよ?」
『それには及ばん。そこの二人は既に面識がある筈だからな』


 そう言って名指しされた俺と愛。面識がある? どういう事だ? すると銀幕の向こうでは濡れ場が一転、そこに大量の敵が! BGMが一気にシリアスムードに。そんなBGMに会わせて、タンちゃんの奴は言うよ。


『教えてやろう。我がサーヴァントの名を。それは【メーカー・オブ・エデン】だ』


 一瞬俺達は考え込む。メーカー・オブ・エデン? メーカーオブエデン……メーカーオエデ……メーカオブエ……なんか違うな。頭文字とってメオエ? でもないな……なんだっけ? すると隣の愛がポツリと呟く。


「メカブ……」


 その瞬間その姿が頭に浮かぶ。メカブ--そう、それだ!!

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