命改変プログラム

ファーストなサイコロ

近づく為の時間と距離の関係

 大空へと繰り出す僕達。教皇特権を駆使してバトルシップを一機拝借してもらい、港から記憶を取り戻した僧兵の指示の元、仲間内で操縦して出港した。まあセンサーや計器類とか下手に触らなければ、案外簡単な物だったよ。整備は万全らしかったからね。異常を検出したときのアラームにだけ気を付けてれば問題は無い。操縦は一番慣れてるであろう、僧兵に任せた。ようは艦長と操縦士の役割を一人でやってもらってる訳だ。


「流石はバトルシップ。飛び立つのも早いな」


 あっという間にサン・ジェルクが小さくなってく。これが普通の船型の飛空挺だと、こうは行かない。わざわざ水上を滑走して飛び立つし、結構ゆっくりだからな。あれはあれで好きだけど、今は時間が大切。ズルズルとやってると、この休みも終わるしな。せめて新学期が始まる前には戻りたい所だ。勿論全てを解決して。バトルシップは速攻で上昇を果たし、安定飛行に移行する。すると操縦桿を握る僧兵が聞いて来た。


「おい、本当にやる気なのか?」
「当然。いつまでも後手に回ってられないだろ。物は分かってるんだ。事態を好転させるためにもやってみる意義はある」
「そもそも俺はまだ混乱してるんだけどな……頭痛いし……思い出すと--」


 何を思い出したのか、いきなり全身が赤くなる僧兵。きっとキスだな。そうだろ絶対。


「どうしたおい?」


 ニヤニヤしながら聞いてみる。


「お前だろ……あんな……あんな事を提案したのは?」
「いや、なんか恋とか愛の感情は高ぶり易いっていうから。しかも強烈に刻まれてる物だろ? そこを刺激するのが一番だと思った訳。それにお礼にも成るかなってな」
「お礼?」
「そっ、色々と世話になったし、特別なお礼がしたかったんだ。良かっただろ?」
「そうだな。よかっ……ねーよ!」


 怒鳴られた。なんだよ。記憶が戻ったのが既に証拠だと思うけど、まだ否定するか? 往生際悪いぞ。


「なんでそんなに認めたく無いんだよ? もうネタは上がってるぞ」
「何がネタだ。キスなんて突然されたら誰だって爆発するわ!!」


 そうかな? 爆発まではしな……くもないかもね。よく考えたら自分にもそんな経験あったわ。確かに爆発するくらいのインパクトがある。でもそれだけじゃないんだよな。


「確かにそのインパクトがあるのは認めよう。だがな、それだけじゃ記憶はきっと戻らなかったんだ。お前があいつの事を特別視してたからこそ、そこには特別な何かが加算された訳だよ。だから上書きされてた偽りの記憶が剥がれたんだ」
「そ、そんなの推測でしかないな。特別だなんて……俺はそんな高望みなんてしないんだよ」
「教皇にいつかなるんだ! とか言ってなかったな?」


 そんな事を聞いた様な聞いた事無いような。でも似た様な事言ってたよな。憧れない奴なんていないし、高望みしない奴なんて居ないだろ。それは成長を望まないってことだろ。確かに人前では「そんなの無理無理。自分には出来ないよ」って言うのは社交辞令かもしれない。だけど、心根では少しは期待とかしてる物だろ。見返してやろうとか少しは思ったりする筈だ。確かにこいつとあの子じゃ立場が全然違う。むこうは元老院の長の孫娘。それはそれは地位や位が高い女性だ。それに対してこいつはやっとでバトルシップの機長になれる程度の僧兵。
 普通よりはちょっと偉いかなって感じだけど、エリートでもない自分には彼女が振り向くわけないっておもってるのかもね。てかこっちが見てる分には、そう必死に思おうとしてる様な……そんな感じなんだけどな。


「バッ! お前ここにはミセス・アンダーソン様も居るのになんて事を言ってるんだ! 言ってません。言ってませんよそんな大それた事!」
「ふふ、別に良いではないですか。若者は野心に燃える方が素敵ですよ。ノエインは規格外でしたから、そこら辺が少し欠けてると私は思ってます。元老院など排除しても良かったのに」


 おいおい、それには全面的に同意するけど、アンタが言ったらヤバいだろ。一応NO2なんだろ? 聞かれたら敵対関係に成るかも知れない言葉だ。


「聞いたわよアンダーソン。アンタの本音。まあ知ってたけど」


 ちょこんと登場したのは浴衣みたいなのに身を包んだモブリだ。まあ素直に浴衣って言わないのは、色々と付け足されてるから。浴衣なのにもこもこした物を首に巻いてるし、丈は短いし。その割に何故か帯が長いというか……結びがかなり特殊になってる。前に見たときは巫女服というか、そんな正装っぽくてもっと清純そうな感じだったんだけど、今は随分ギャルよりだ。でもミニスカになっても、モブリは元が足短いからな。それに大根足だし。足を出す魅力が無い。それともモブリの男はアレにも興奮出来るのだろうか?


「今の言葉、私が元老院の方々に伝えたらどうなるかしら?」
「私の考えがそうってだけじゃない。ノエインは絶対にしないから意味なんてないんじゃないかしら? 考えが浅いわねお嬢様は」
「ちょっと偉くなったからって随分と態度がデカくなったわね。シスカ教の位では私達の方が高いんだけど?」
「代々受け継がれてる位にいったい何の意味が? そろそろアンタもそう言うのやめた方がいいわよ」
「どういう意味よ?」
「だから……いつまでも子供の様に家の肩書きを振りかざしてるんじゃないわよって事よ」
「っつ!」


 一瞬毛が逆立って、猫みたいな反応した彼女。ぶち切れる! と思ったけど、彼女はプルプル震えて、入って来たばかりなのにまた出てった。あ〜あ、あれは泣いてるぞきっと。僕は僧兵を見てこう言うよ。


「行ってあげた方が良いんじゃないか?」
「ど……どうして俺が? 位が高いらしいからな、俺なんかが話しかけてもプライドを傷つけるだけだ」
「……はぁ」


 ホント、それで良いと思ってるのか? 分かってるだろうけど、あの子もキスで上書きされた記憶が剥がれてコレまでの事を思い出した。それって……つまりはそう言う事だぞ。だからこそ一緒に連れて来た訳だしな。完全に誘拐だよ。まああそこまでやってポイ捨てに出来る訳も無かった訳だけどな。騒がれても困るし。だけどホント、向こうまで記憶が戻るのは想定外だった訳だ。ようはそれだけ二人は……


「何だよその目は? 俺がここを離れたら操縦はどうするんだ?」
「舵持ってれば良いだけだろ? 僕でも何とかなる」
「そんな簡単な物じゃない。そもそもバトルシップは最高機密レベルの技術の宝庫なんだよ。そんなホイホイと他人に触らせられるか」


 いやいや、既に結構触ったぞ。まあバトルシップは優秀だから、殆ど黙って見てるだけだったけどな。本当はこの操縦する奴の周りに居る人達はもっと密に連携を取ってるんだろうけど、案外やらなくても飛び立つ事は出来るらしいって事が分かったよ。じゃあ何の為に? って思う所だけど、本当は外部と常に通信をしてる人や、計器に目を光らせてる人、空路の安全を確認する人−−とかが居て役割分してるんだろう。別に居なくても飛び立てるけど、危険を極力減らす為にも分担してるってだけ。


「そことここを一緒にするな。お前達、ほとんど何もしてなかっただろう。ここはそうじゃないぞ。操縦桿を握るってことは乗員全員の命を預かるって事なんだ」
「お前に握られてる命ってのもある意味怖いけどな。でも放って置いて良いのかよ? お前以外に誰も行けないぞ」


 なんてったって関わりがないからな。あの子との繫がりは僕もホント薄いし……唯一の濃い繫がりのアンダーソンはあの子を虐める側だしで、あの子側に立って上げれる奴が居ない。それに殆ど初対面だし、心許せるのはきっとこいつだけ……何も言わない僧兵に、僕は真面目なトーンで言葉を紡ぐ。


「本当にこれで良いと思ってるのならいいけど、あの子が頼れるのはここではお前だけだぞ。一人でこんな所に連れて来られて泣かされた……寂しいんじゃないか?」
「……」


 沈黙する僧兵。迷ってるみたいだ。てか、何かと葛藤してるのかも。いつまで意地張ってるつもりだよ。するとミセス・アンダーソンがこんな事を横から言って来た。


「甘い顔なんてする必要ないわよ。あれは甘やかされて育って来たんだから、自分の思い通りにならないからヘソ曲げただけ。アンタは正しい選択してるわ。行かなくて正解」
「おいおばさん。自分に縁がなくなった物だからって嫉妬するなよ」
「そんなんじゃないわよ! アンタもズバッと酷い事言うわね。アンタこそ慈愛の心を持ちなさい!」


 慈愛ってアンタに言われてもな。でも結構図星だったのかかなりミセス・アンダーソンは焦ってた。歳……気にしてたのか。てか、独り身って所も実は結構気にしてたのか。シスター的な存在なんだし、自分でそれを貫いたんじゃないのか?


「そもそもああいう何の苦労もしてなくて、わがまま傍若無人な奴が勝手に幸せになるって……ムカつくのよね」
「超嫉妬だよなそれ」
「ちゃんと諦めてるし、後悔だって私はしてないわ。自分の人生、全部自分で選んで来たのよ。恋とかもそれなりにしてきたわ。それで一人なのは、私が自分で選んだ道。嫉妬とかじゃないのよ。そう、これもある意味慈愛なの。あの世間知らずのお嬢様に人生の厳しさを教えるって慈愛の心よ」
「相当苦しい良い訳だと思うぞそれ」


 するとクリエの奴が僕の足下に来て、こんな事を言って来る。


「ねぇねぇ〜スオウ。クリエも操縦したい!」
「はっ? 今大切な話してるんだよ。少し静かにしとこうな」
「やだやだ! スオウが操縦しようとしてるのクリエ知ってるもん! ズルイズルイ! クリエも操縦したい!」


 なんなんだよこの大切な時に。最近はちょっと成長したかな〜とか思ってたのに、そんな事無かったのか? 


「懐かれてるわね」
「見てないでどうにかしろよ。アンタの教育の結果でもあるだろ」


 まあ一番はシスターだけど、あの人を責める事は出来ない。それにやっぱり子供はどこでもこんな物……とも思うしな。でもどこかに文句は言いたい。それならミセス・アンダーソンは丁度いい。一応昔から面倒見てた一人だしな。責任の一端は担えるだろ。でもそう思ってると、ミセス・アンダーソンはなんだかやけに−−それこそ慈愛に満ちた様な顔してクリエを見てる。


「おい?」
「まあ……最近はちょっと後悔してるかも知れないわね」


 そう言ってミセス・アンダーソンはクリエを抱きしめる。ビックリしたクリエは僕を見つめて来るよ。だけどこっちだって良くわからん。やっぱりこのおばさんはクリエの事を実の娘みたいに思ってるってことだろうか? 前はそうでも無かったんだろうけど、ここ何日かでかなり密に接したしな。考え方が変わって来たのかも。それか今まで必死に抑えてたとか。


「後悔? それはダメだよ。後悔するくらいなら動いた方が良いってシスターは言ってたよ。だからクリエはいつだって素直に動くの! それでシスターに怒られた事無いもん」
「ふふ、全くアレには敵わないわね。ホント嫉妬する位優秀だったわ」


 ホント、シスターの教育はきっと間違ってなんか無かったんだろう。クリエは何にでも興味を示す。それを抑える事を大概の親はやるかも知れない。だってそんなのいちいち取り合ってたら面倒だろうからな。勿論一生懸命伸ばそうとする親も居るんだろうけど、どこかで自分に甘くなるときはあるだろう。でも、こう言う時期はある意味希少なんだよな。好奇心なんて物は、次第に小さくなってく。無くなって行くとは思わないけど、成長してくと色んな物を吸収する代わりに足取りが少しずつ重くなる様な……それがいつか好奇心を殺すんだ。
 まあ高校生に成っても好奇心満々な奴を一人知ってるけど、アレはアレで希少な存在だ。普通はどんどん自制してく。いろんな物に常に好奇心を持ち続けられたら、もっと多彩な事をどんどんそれこそ無限に詰め込んで行けるのかも知れない。僕達は知らず知らずに、そんな大層な物を置き忘れてしまってるのかも。子供を羨ましく思うのも、そんな物を無邪気に見せびらかしてくるから……特に僕には見えない位と言うか……正直輝きすぎてる。これが普通の子供で、誰もが通って来た時代なんだと思うと、正直自己嫌悪が……こうもやもや〜っとな。


「ふふ、それよりも良いの? 私がクリエをこうやって黙らせたのにはちゃんとした理由があるわよ」
「何? はっ!」


 そうか、ミセス・アンダーソンの奴、僧兵を行かせない為にしやがったな。僧兵を追い詰めない為に、クリエを黙らせたのか。クリエが操縦したいって言い続けてれば、僧兵が折れるかも知れないしな。先手を打ったと言う事か。


「おい、行ってやれよ。きっと泣いてるぞ!」


 さっきも言ったけど、もう一度言うよ。こいつは押せば折れる奴だ。てか、自分では行き難いから背中を押されたがってるとかも考えられる。それならもっと、より強引にやるのも手かもな。


「だから……俺なんかが行ったって−−」
「ああ〜もう! 面倒な奴だな。そんな事行動してない時点でウダウダ考えたって意味ないだろ! あんまりウジウジしてると他の奴に取られるぞ。忘れるな! あいつは育ちだけは良いお嬢様なんだ。放って置いたらわらわらと男に囲まれるぞ。それで良いのか? 考える事も大切だけどな、考えずに行動したって良いだろ。当たって砕けろ!!」
「何言って、それじゃ意味な−−いっ!!?」


 僕はグダグダ言ってた僧兵の腕を掴んで操縦席から強制排除してやった。僧兵は床にドテッと落ちて丸い体を生かしてコロコロと転がる。猫みたいな種族だな。まあ猫はもっと華麗に着地するだろうけど……今はそんな事良いよ。


「テトラ、彼女はどこ行った?」
「何故に俺に聞く? 俺は興味ないんだがな」
「分かりそうだったから」


 僕はアッサリとそう言ってやった。なんの疑問も持たずにね。その速答にテトラの奴は少し惚けてた。意外だったのかも知れない。


「でもまっ、知らないんなら−−」
「待て待て、さっきの女だろ? 甲板の方に行ったんじゃないか?」
「−−だそうだ」


 僕の言葉を受けるのは勿論僧兵。丸まってた体を伸ばして、立ち上がってる。そしてこっちに鋭い視線を向けて来た。


「お前な…………絶対に変な所触るなよ。舵も絶対に動かすなよな! 直ぐに戻って来るからな!!」


 そう言って僧兵は走って行った。まったくようやく素直になったか。


「あ〜あ、行っちゃいましたか。あの僧兵はともかく、あの子があんな庶民がタイプだったなんて意外だわ」


 それはなかなか分かる意見だけど、言ってやるなよミセス・アンダーソン。可哀想じゃないか。それにいつの時代、どこの世界でも身分違いの恋って奴は燃えるものなんじゃないだろうか? まあ願わくば、どっかの物語みたいに悲劇に成らない事だな。最初からけしかけたのは僕だし、そうなったら幾らNPCだからって責任感じてしまう。


「まあなんとか成るだろ」


 根拠の無い自信でそう言ってみる。大丈夫だとは思うんだけどな。どっちも素直になれれば。だって二人とも意識してるのは確実なんだ。後は認め合うだけだろうに……


「大丈夫だよ」
「クリエ」


 お前が言ってもなんの説得力も無いなマジで。何を根拠に言ってるんだか。


「だってだって、シスターが言ってたもん。『走り出した恋は誰にも止められない』って! さっきあの人走ってったからもう大丈夫!」
「なんかちょっと違わなく無いかそれ?」


 走り出した恋は、実際に走る事とは別物だろ。変に合体させるな。


「そうかな〜?」


 そう言いながら既にクリエの興味はあの二人の行く末よりも目の前の操縦桿に移ってしまってる様だ。一生懸命よじ上って椅子に立つ。そして目の前に浮いてる舵に手を伸ばす。普通の飛空挺の舵はまさに船の舵って感じのハンドルなんだけど、バトルシップのは正直違う。舵と言ってもこっちはハイテク感がバリバリある。目の前の球体でどうやらこのバトルシップを操ってるみたいなんだよな。周りにもレバーとかあるけど、基本あの球体を僧兵は触ってた。まあハンドルが球体タイプになったと思えばいいのか……な?
 でも船の舵って結構大きくて、子供が触ってもそんな簡単に動かせそうなもないイメージだったけど、あれは結構小さい。普通にバレーボール位の大きさだ。流石のクリエも簡単に転がせそう。うん……良く考えたら不味いな。


「おい、クリエ無闇に触るな!」
「ええ〜もう遅いもんね。クリエが一番だよ」


 そう言って既に両手でホールドしてやがったクリエ。くそ遅かったか。なんかクリエがペタペタしてる部分に光が走ってる気がするんだけど……大丈夫なのかあれ? 僕はミセス・アンダーソンを見るよ。


「さあ、私はバトルシップの事は分からないわ。元老院が主導で開発してたからね」


 やっぱりおばさんが機械に弱いのは定番か。僕はリルフィンやテトラも見るけど、どいつもこいつもこれの操作方法を知ってるわけないよな。そう思ってると「わあ!」と言ってクリエが転んだ。無駄にベタベタ触ってたから、固定されてないあの球体が回った様だ。そしてそのせいで、突如おかしな動きを取り出すバトルシップ。一気に上昇し出しやがった。僕達はそのせいで一斉に後方の壁へと落ちて行く。


「がはっ!」


 背中を盛大に壁に叩き付けた。他のみんなも対応出来ずにそんな感じ。だけどテトラだけは余裕の身のこなしで涼しい顔してやがる。でもしまったな……全員舵から離されたぞ。このまま上昇を続けるのは不味いだろ。どうにかしないと。そう思ってると操縦席からひょっこり顔を出す奴が一人。


「スオウ〜〜グズグズズ……」


 鼻垂れて涙目のクリエだ。なるほど、アイツは椅子の所に居たから、落ちなくてすんだようだ。って、事はアイツが唯一の希望だな。


「クリエ、さっきお前が触ってた丸いのを反対に回せ。きっとそれで下に行くから」
「や……やってみる」


 そういった直後、今度は直滑降並みに船体が真下を向いて高度を落とし出した。


「限度って物があるだろ!!」


 そう言うけど、今度はクリエも落ちそうで、例の球体にしがみついてるのが精一杯の様子。ヤバいぞ、このままじゃ地面に激突だ。なんとかさせないと。


「クリエ、どうにかして元に戻すんだ!」
「むぅぅぅりぃぃぃぃ!」


 だろうな。流石にあの態勢では無理がある。こうなったら……


「テトラ! どうにか出来ないか?」
「余裕だな」


 そう言って小さな黒い靄を圧縮して放つ。それを球体に当ててクルクルと横方向の回転を加えた。するとその瞬間機体が格好良く回り出した(とおもう)。外の光景は見えないからそう成ってると思うしかないわけだけど、中が阿鼻叫喚の嵐に包まれてるからきっと間違ってないだろう。何しやがるこのあほ! 






 そしてそんな事が五分・十分続いた。ようやく水平飛行を取り戻した時には、僕達はボロボロの状態だった。そして中もボロボロ。まさに惨状だ。これは返す前に掃除しといた方が良いな。


「うう……気持ち悪い」


 そう言ってミセス・アンダーソンがトイレへと駆けて行く。それと入れ替わりで僧兵と長の孫娘が帰って来た。


「こらあああ! お前等何やってんだよ一体!」


 いきなりの怒鳴り声。まあ、ごめんだけど反論は出来ないな。どう考えても怒鳴っていい場面だ。取りあえず、怒られるのは仕方ないにしても、ただ怒られるってのは嫌だからな。何か話題を逸らす方法を−−


「ん?」


 −−気付いたけど、この二人ちゃっかりと手なんて握っちゃってるぞ。怪しい。何かあったな。


「いや、ホントごめん。ちょっと調子に乗って……何かそっちに不都合あったか?」
「うっ……不都合はありまくりだよ。当然だろ。あんな変な飛行されたらそりゃ……」


 なんだかモジモジとしてる僧兵。やっぱり何かあったな。一体どんなラッキースケベが? そう思ってると、彼女の方がこう言ったよ。


「私、貞操を奪われました」
「「「!!!」」」
「ていそう?」


 クリエだけ疑問系だけど、僕達男三人はあまりの衝撃に耳を疑った。まさかそこまでやるとは。


「あ、あれはだから事故で!」
「事故ね。確かにそうよ。だから気にしないでいい。私も忘れるから。そもそもアンタみたいな庶民に私の初め……初めて奪われた……なんて……そんな」


 おい、向こうも思い出してメッチャ動揺しだしたぞ。そんな激しい事をやったのか? 凄いな、これからは他の僧兵と区別する為にも先輩と呼ぶべきか? 


「そ……そうだな。お互い忘れよう。それがきっと一番良い方法……」
「おい、本当にそれで良いのかよ? それじゃあなんの為に慰めに行ったか−−」


 その時、僕の肩にテトラが手を置いた。そしてこう言うよ。


「やめろバカ。これ以上は野暮だろ。二人には二人の距離の縮まる時間がある。変に急ぐ必要なんて無いんだよ」
「テトラ……知った風な事を」


 ちょっと関心しちゃったぞ。少しだけ心に響いた。確かに他人の恋を急かしすぎたのかも知れないな。十分過ぎる程の収穫じゃないか、貞操を奪いさるなんてなかなか出来る事じゃないしな。周りの男共からはリードを確実に奪った筈だ。


「子供のお前よりは色々と分かってるさ」
「ふん。まあいいや、悪かったな。良くやった!」


 僕は親指を立てて僧兵にグッジョブを送るよ。何にも返してくれないけど、いそいそと操縦席に座る僧兵。すると今度は彼女の方からこっちに話しかけて来る。喋らないと貞操を奪われた事を思い出すのかも知れないな。


「アンタ達、何やる気なの? てか、バトルシップまで持ち出してどこ向かってるのよ?」
「ん、そう言えば言ってなかったっけ?」


 そうだったかも知れないな。中々連れ込むの大変だったから、寝ていてもらったんだった。何がなんだか分からない内にバトルシップに乗せられて、そして貞操まで……色々と衝撃な事が起こる一日だな。彼女にとっても。可哀想だから、ちゃんと話してあげよう。僕達の目的地を。


「目的地は『花の城』だ。天空に浮かぶ花の城」


 そう、そここそがあのシクラ達の拠点。つまり僕達は、敵の拠点に向かってるんだ。この大空のどこかに、それはある。

「命改変プログラム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く