命改変プログラム

ファーストなサイコロ

思惑と考査

 俺が尋問を受けた部屋はイメージと全然違ってた。ドラマとかでよく見る、薄暗く、簡素なテーブルに二つの椅子……スタンドライトが一つで、角の隅っこには記録を取る人用のまたも簡素な机。そしてマジックミラーに成ってる大きな鏡−−とかは無くて、部屋は眩しい位に真っ白に光ってて、光源がどこからか分からない位だった。
 それにパソコンも設置されててハイテクで、無駄に何か広かった。広い部屋にぽつんと机とパソコンがあって、部屋の四隅の天井には監視カメラがあったなそう言えば。よくもまあ、こんな狭い国で無駄なスペースを取ったな……って感想がでて来る程に広かったよ。
 そこで俺は糸目のおっさんに色々と聞かれた訳だ。まあハッキリいうと、尋問って感じでもなかった。雑談みたいな。そう言う風に誘導されてたのかも知れないけどな。俺は日鞠程頭良く無いからそこら辺はちょっと分からない。
 最初は警戒してたんだけど、この糸目のおっさん上手いんだろう。気付いたら、友達とかと話してる感じになってた。年齢差とかも忘れさせられたと言うか……


「くっ……」


 不覚だった。敵なのに……ついつい−−と言うかもう殆ど上機嫌で喋ってしまった気がする。あんの糸目!! だって最後には−−


「なるほどなるほど、ああ、もうそこら辺で良いですよ。大変参考に成りました。貴方はとても扱い易い」


 −−とか言われた。先に糸目がでてって、ポツンと取り残された俺は暫く固まったっての。どうやらいらない事までベラベラと喋る奴と思われたに違いない。くっそ……ついつい人に気を使って自分の事を話してしまう癖が、悪い方向で働いたみたいだ。


「なあ、あの糸目のおっさんはどこに行ったんだ?」


 結局帰ってこなくて、俺は後から入って来た数人の黒服達に部屋まで案内されてる。ほんと、この施設どこ見ても白いから目が痛くなる。もしかしてこいつ等がサングラスかけてるのってちゃんとした意味があるのかも知れないな。
 貸してくれないかな? 俺も自分で言うのもなんだが、サングラスとか結構似合うと自負してるんだ。眼鏡はダメだが、サングラスはなかなか似合うぞ。


「あの方なら貴方のご友人の方に行きましたよ。なんせあのお嬢さんは手強いですから。我々では荷が重い」
「はぁ」


 手強いって、話し聞くだけだろ? 日鞠が素直に答える様に言ったんだし、何か隠すってことしそうに無いけどな。だけどそもそも日鞠に何を聞くのが疑問だけどな。アイツは俺と違ってLROへの関わりは薄いぞ。
 まだ一度も入った事無いし……そんな日鞠にLROでの質問なんて意味ない。って事は別の事を聞きたいって事かもな。アイツに聞く、LROと関係する別の事? 


(…………スオウか?)


 てかそれしか考えられない。でもスオウの何を? こいつ等って外側からどうにか出来ないかやるんじゃないのか? う〜ん分からん。


「ん?」


 考えながら歩いてると、遠くの部屋に人影が見えた。まあどこもかしこも透明なガラスで仕切られてるからな。どこだって丸見えだ。流石にトイレとかは磨りガラスだけどさ……まあこいつら職員が使うのは多分ちゃんと共同用のが別にあるんだろうけど、俺達みたいな監禁組は結構恥ずかしいよな。
 見えなくても入ってるってのは分かるんだ。長かったら大だと思われるじゃないか。トイレって落ち着く空間な筈なのに、それってキツい。俺の家ってホント普通で古いから、近未来的な家とか憧れてたけど、流石にここまで来ると嫌になるって事が分かったよ。
 高級な賃貸だと全部じゃないけど、同じ様にガラス張りとかあるけど、あれって後々嫌になるんだな。将来の為の経験が出来て良かった。てか、そんな事じゃないか。俺が気になったのは、向こうに見える人影。あれってまさか……


(遠目だけど、あの疲れきった感じの哀愁漂う姿は……まさか)


 佐々木さん達か? でも彼等は警察の方に行ってると思ってたけど……違うのか? 確認したいな。確かにここにいてもおかしくは無いのかも知れないし、彼等とは話したい事がある。幸いにこの黒服共二人共前を歩いてるしイケそうな気がする。
 普通こう言う時は前と後ろを挟む物だろうに、失格だなこいつ等。好都合だがな。俺はそっと黒服共から離れようとする。するとガシッと肩を掴まれた。


「どこに行く気かな?」
「えっと……ちょっとトイレに」
「それなら部屋に戻ってからやってもらおうか。直ぐそこだよ」


 くっ……まさかこんな早くに看破されるとは。どう見ても見てなかったじゃないか。なんでこんな早く気付いた? こうなったら、正直に話してみるか? この人達もあの糸目と同じ立場だろうけど、あの糸目のオッサン程、腹の内側が黒いって印象は無い。俺は意を決して言ってみる。


「あ……あの! 向こうに居るのってもしかして……」


 すると俺の言葉を受けて彼等がそちらを見る。そして「ああ」と呟いた。


「気付いたか。まあ気になるのも無理無いな。あれは確かLROの運営メンバーらしいからな。空前の大犯罪者だ」
「大犯罪者って……」


 それはどういう意味だ?


「間違ってなど無いだろう。彼等が犯した罪は重い。なんせ既に百人以上の犠牲者は確認されてるんだ。そしてその人達を助ける術があるかも正直不明だろう。それを公表もせずに、新規プレイヤーを受け入れ続け、犠牲者を増やし続けた。
 このまま犠牲者が誰も戻って来る事が出来なくなれば、LROは史上空前のネット犯罪……と言えるか分からないが、その位の大犯罪と言う事だ。テロみたいな物だからな」


 テロか……そう言われるとかなり不味い気がするな。確かに公表しなかったのは不味いんだけど……出来なかったって思いも俺には分かる。まあ俺自身がスオウやセツリ側に立ってるから……なんだろうけどさ。それに事情も知ってるから、彼等に同情するような感情を向けれる。
 けど何も……本当に何も知らなかったらどうだろうか? 彼等の事を許しておけるか? それを考えたら頭をひねるよな。ゲームで意識不明になるかも知れない事が既に分かってた……それなのになんの警告も出さずに誘導されて、危険と隣り合わせての状況でプレーさせられてた。
 そして最悪、意識不明に陥ったとしたら……意識不明になったら自分ではどうにも出来ないだろうけど、家族とかは黙ってないと思う。それはきっと確実だろう。うん、やっぱり隠してたのは大問題だな。
 だけど発表したら確実にサービス停止は免れなかった。そう成ってたら、きっとサナやあの家族を救う事は出来なかっただろう。


(一体何が、正しい選択だったんだろうな……)


 分からない。一プレイヤーに過ぎない俺にはわからないよホント。だってスオウ達がモブリの国でドタバタやって、一つの家族を救ってる間に、それ以上の人間が犠牲に成ってたって事だろ? 佐々木さん達は、意識不明に陥ったプレイヤー達もセツリを救う過程で連れ戻せる−−って考えてたんだよな。
 だからリスクを取って、スオウに賭けてた。けど結局間に合わずこの有様……後悔してるのだろうか?


「なあ……いや、あのあの人達と話すことって……」


 俺は取りあえず下手に出ながらそう言ってみる。やっぱりこう言う時は下から行くのがデフォルトだろ。基本は守るものだ。


「話させてやりたいが、俺達にはその決定権がない。彼女が部屋に戻される時にでも聞いてみればいいさ。俺達は責任は取りたく無いからな。言われた事だけをやるんだ。ただそれだけ」


 考える事を放棄してるってことか。それって人としてどうなんだよ。確かに言われた事だけやってれば楽だろうけど……そう言えばここの奴等ってなんだかそんな機械的なところがある様な……見張ってる奴は見張る事しかしてないし−−ってかまだそんなに人が居ないからわからんな。
 機械的って思うのもただ単にこいつらがターミネーター的な格好をしてるからかも知れないしな。なんか管理されてるって気になる。ここに居るとさ。


「それなら別にちょっと位いいんじゃないか? バレないって」


 口裏を併せてやれば問題ない! そんな悪魔の囁きをしてみた。だけど返答は「NO」だった。


「ダメだ。その手には乗らない。ここは常に監視されてるからな。それはお前達だけじゃない。俺達もだ。前の部屋から出た時間も記録されてる。お前達の部屋まで戻る時間の平均値もある。それを越えると不審がられる。監視カメラの映像が洗われる。−−そうなると誤摩化しなんか聞かない。口裏を併せた所で、映像という証拠には勝てない」


 まさかそんな所まで管理されてようとは。確かにそれじゃあ無理だな。こうやってる間も足を止めないのは、その平均値の中であの部屋に辿り着かないと行けないからか。余計な行動はとれない様にしてあるって事の様だ。
 監視されてるのは俺達だけじゃない……お気楽そうに見えて案外気を張ってるのかも知れないなこいつらも。


「窮屈じゃないのか? てか、信頼されてないって事か?」
「窮屈は窮屈だが、信頼とかそう言う次元の事じゃないんだよ。機密性の高い研究機関や施設なんかはこの位やるだろう。どこだってな。今の時代情報はどこから漏れるか分からないんだから、真っ先に人は制限を受けるんだよ。
 結局の所、誰かが何かをしなければコンピューターは動かないだろ? LROなんて狂った機械はリアルの方にはまだ出回ってなどいないんだからな」


 狂った機械って言い方はどうだろうか? と思ったけど、この人達に取ってはこの程度の窮屈さってのは普通みたいだ。人が人を結局の所警戒するのは仕方ない……そう割り切ってるんだろう。確かにLROじゃないリアルの方では、AIもまだまだ貧弱だしな。心までも持ち出したLROと比較すると「マトモ」なのかも知れない。
 LROなら何でもシステムが勝手に出来そうだが、流石にこっちではそれはない。だから疑うってよりかは、疑うよりも前に制限を設ける事で抑止力にしてるって方が正しいのかも知れない。まあそれでも情報を漏らす事をしようとする奴はどこかには居そうだけどな。
 やり過ぎなんて事が無いと、この人達は知ってそうだ。だからこそ、窮屈だとしても、既にそんなの気にしてなんかない。だからこんなに肩の力抜いてる風に見える。やっぱプロか。


(暴れたりしたらこの人達は困るだろうか?)


 隙とか作って佐々木さん達の方へ走る……う〜ん現実的じゃないな。向こうにも監視の人は居るし……そもそも直ぐに取り押さえられるかも知れない。メリットとリスクを考えると、リスクの方がデカ過ぎる気がする。メリットも殆どない。
 実行は出来ないな。大人しくしてろって日鞠にも言われてるしな。でもこのまま大人しくしてて何か変わるとも思えないんだよ。いつまでここに監禁され続けるかも分からないしな……けどここで暴れてもなんの解決にもならないか。
 その位は俺でもわかる。こいつ等に勝てる自信が今の俺にはない。こんな事なら体育の柔道とかをもっと真面目にやっとくんだったか。まあそんなにわかがこのプロっぽい人達に勝てるなんてやっぱり思えないがな。
 LROなら……LROなら、渡り合える自信があるのに……リアルじゃ俺にはほんと何もない。体だってホントただデカいだけ。でくの坊って言葉が俺程しっくり来る奴は居ないだろうって自分で思える。


「はあ〜」
「どうした? 疲れたんなら、ゆっくり休むといい。学生はいい。幾らでも時間があるんだからな」


 この人達もそんな老けてる様には見えないけど……大人になると昔−−特に学生時代に懐古する人が多いな。あの頃は良かったって良く聞くよ。そんなに今の時代はダメなのか? 俺なんかは今の時代に生まれて良かったって思うけどな。戦時中なんか悲惨だろうし……この時代にこの国に生まれたから、どこよりも早く、夢を得られたんじゃないか。
 今は色々と残念になってるけどさ、LROにこの歳で触れれた事は、きっと無駄になんか成らないと思う。いろんな事をあの中では学んだしな。ずっと人が夢見て来た技術に最初に触れれる。それって歴史的な事の筈だ。
 問題は色々とあるだろうけど……このままLROが無くなるなんて事は無いと思いたい。その為にも俺達が解決しなきゃ−−と思うのは立場を弁えてなさ過ぎる事なのだろうか?


(何か……どうにか……いやでもやっぱり何か……何か……)
「付いたぞ。大人しくしてろ。直ぐに彼女も戻って来る」
「ぬあ!?」


 しまった、考え込んでる間に部屋まで付いてしまったぞ。結局何も出来なかったな。


「はぁ……ぶべっ!?」


 ゴン!! っと頭に響く衝撃と音。何が起きたか自分でも分からなくて、目の前がチカチカしてた。頭も後方にそれて、体もそっちに引っ張られた。何が何かわからないまま、俺は後ろの黒服の人にぶつかって一緒に床に倒れ込む。


「イテテ……す、すみません」
「いや、はは良いよ。ここはどこも透明なガラスだからね。気をつけないと良くそうなる」


 なんだか黒服のおじさん達は慣れてる感じだな。最初にこの施設に来た時はよく起こってた事なのかも知れない。どうやら俺は扉に直接ぶつかったって感じなのか? 取りあえず立ち上がるか。そう思って俺は腕を付いて力を込めようとした。
 すると手にガサッとあたる何か……そちらに視線を向けると、黒いサングラスがあった。ぶつかった時に外れたのか。って事はこの後ろの人は今、素顔を晒してるって事だ。どんな顔なのか興味が……別にないな。
 どうせ冴えないおじさんか、もう少し若い感じかって所だろう。男の顔をわざわざみたいなんて思わない。さっさと退くか……そう思って俺はサングラスを手に取って立ち上がる。立ち上がった後に返した方が良いかなと思って。
 だって傍にあったら踏むかも知れないしな。


「あのこれ……ん?」


 返そうとサングラスを差し出した訳だけど……このサングラスなんか変じゃね? 少しずっしりと感じるし、それに内側に何か映し出されてるみたいな……ただのサングラスじゃない? 俺は確かめる為に角度を変えて覗いてみようとした。
 でもその瞬間スパッと素早く取られたよ。


「すまんすまん。助かった。これは返して貰うぞ」


 そう言って素早く装着する黒服のおっさん。見られたら不味いのか? なんだか怪しい……だけどこれ以上追求も出来ずに、俺は部屋の中へ押し込まれた。その後は日鞠が帰って来るまで、暇してた。




「秋徒、ただいま」
「日鞠!」


 俺が戻ってから三十分以上経ってから戻って来た日鞠。良かった……いや、マジで。あまりにも遅いから実は取って食われたりしてるのかと……


「何よそれ?」
「いや、お前だって普通の女子だし、もしかしたらエロマンガみたいな展開に成ってたら不味いなっておもってさ」


 規格外だけど、体は女子高生だからな。男が狼になってもおかしく無い。それにこの糸目共は権力という後ろ盾がある。その気になれば日鞠を犯し尽くす事だって……


「しませんよ。そんな事は。我等はそんな犯罪集団では無いのですからね」
「どうだか……」


 そんな細い目で言われても信じれない。


「いっとくけど犯されてはないから。別に何もされてない」
「それにしては遅かったぞ。一体どんな話をしてたんだよ?」


 俺なんてものの十分で終わったぞ。実際この糸目のおっさんと日鞠で会話が弾むとも思えないし、三十分は長過ぎる。


「別に知恵競べをちょっとね」
「ははっ、私の完敗でしたよ」
「…………え?」


 なんだそれ? 冗談……だよな? わからん、判断出来ない。こいつら俺をからかって遊んでるのか? くっそ、こっちは本気で心配してるってのに……しょうがない用意してた事をこの糸目に伝えるか。


「おい、この施設に佐々木さん達もいるだろ。会わせろ」
「気付きましたか?」
「ああ」


 俺は真っ直ぐに糸目のおっさんを見つめる。すると日鞠の方も向いて尋ねる。


「貴女も会いたいですか?」
「そうね。ゲームでの勝利の権限をここで使おっかな。会わせてよ」
「そう来られると、義理深い私としては会わせない訳にはいきませんね。分かりました。五分だけ時間を上げましょう」


 五分……長い様な短い時間だな。でもあまり驚いた様子が無い日鞠をみると、知ってたのか? って思える。どのタイミングで使うかを思案してたのかも知れないな。まあ文句も言われなかったし、丁度良かったのかも知れない。


「では行きましょうか」


 そう言って扉が開く。この瞬間から、五分という猶予なのか? それって詐欺臭くない? でも流石にそこまでセコくは無いかな。出たり入ったりするのの時間まで計ってるらしいけど、こいつは普通の黒服よりも偉そうだし、融通も利くんだろう。
 俺達は糸目のオッサンに連れられて、佐々木さん達の監禁されてる部屋を目指す。LROの現状が少しでも分かれば良いんだけどな。そんな期待を込める。

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