命改変プログラム

ファーストなサイコロ

誘拐?

『私達は衝撃の事実を世間に晒さなければ行けません。私達ネットワークゲーム調査委員会の調査で、【ライフ・リヴァル・オンライン】通称LROの運営の実態が暴かれました。LROは昨年に発売された世界初のフルダイブシステムを利用したゲームで、その話題性からとても人気のあるゲームである事は多くの人が知っている事でしょう。
 国内だけで三百万以上の人々がプレイして、夢中になってた人々もとても多い。だがここで宣言します。そのゲームの特性上、LROは安全が確立されていません。あのゲームは明確に危険なのです。
 今日都内の病院から入院患者六十三人を政府の最先端施設に移動しました。彼等は全て、LROから帰って来れなくなった者達です。だが実はそれだけじゃない。全国の病院でも同じ様な患者は確認してます。彼等も随時我等が回収して、必ず救ってみせます。
 分かりますか? あのゲームで現実に目を覚まさなくなった者達がいる。そして運営はそれをひた隠しにし、プレイヤーを犠牲にし続けた。許される所行ではありません。今、あのゲームに夢中な者達は多いでしょう。ですが、私達は全てのプレイヤーの為にも、LROのこれ以上の運営を停止する事をここに宣言します】




 日鞠が泣きはらして、日も天辺を回った時位に、こんな放送が大々的に流れたそうだ。予想をしてた人も多いだろうが、寝耳に水だった人もきっと居ただろう。その日のネットは……いや、この日だけはネットだけじゃなく、リアルでも嘆きの声は聞こえたらしい。
 らしいってのは、そんなお祭りに俺達が参加出来なかったからだ。あの後誰も居なくなった病室に黒い服を着たエージェントみたいなのがやって来た。俺は当然警戒して、日鞠を守ろうとした。けど日鞠の奴はスオウを失った喪失感からか、そいつ等の登場に反応も何もしなかった。あれだけ輝いてた奴が、灰に成って消えてしまいそうな……そんな印象まで受けたよ。
 すると先頭で入って来た奴がこう言ったんだ。


「お二人はこの病室の彼のご友人ですね。貴重な情報を持ってらっしゃる……どうかご同行願いませんか?」


 細目で優男風のいかにも胡散臭い奴だった。そんな奴だったから、俺は必要以上に警戒してこう返す。


「なんだよそれ? ご同行だと? それならまずお前達が何者か名乗れ! それが先の筈だろ」
「ふむ……最もな意見ですね。これは失礼しました。我等は国家事業推進委員会の新部署の者ですよ。そうLROひいてはフルダイブシステム関連の諸々の情報が欲しいのです」
「国家事業推進委員会……か」


 それはあたかも日鞠の奴が予想した通りだった。やっぱり国がフルダイブシステムに目をつけたってのは間違いない様だな。


「スオウは……スオウに会わせてくれるの?」


 灰に成ってた日鞠が唐突にそんな事を言った。でも確かにこいつらならスオウの場所まで連れてってくれるかも知れないな。日鞠はそんな可能性を推測した訳か。


「我等に協力してくれるのなら……出来ない事はないかも知れないですね」
「会わせるのが先よ。協力するかどうかはその後決める」
「それを言える立場と?」


 ぐっ−−と日鞠は拳を握りしめる。こっちの方が立場が悪い。向こうは別に俺達に拘らなくても良いけど、こっちはこいつ等に拘るしか無いんだ。ハッキリいって情報だけでスオウの場所まで連れてってくれるのなら……飲まない手は無い様な気がする。
 どうせ運営の方はもう捕まってるんだ。俺達から提供出来る情報なんて運営に比べたらたかが知れてるだろう。それなら下手に引かれる前に飲んでしまった方が良いのでは? そう思ってた。


「日鞠……」
「焦らないで秋徒。スオウに会わせる事を確約なんてしてない。情報を得た後に簡単に捨てられるかも知れないわ」


 確かにそれは考えられるな。だけどそれでもこっちが不利なのは変わらない。そもそも一体どんな情報を求めてるか謎だしな。LROやリーフィアの事ならもっと別の奴に聞くだろう……そうなると、中の事……か? こっちはこいつらの目的も不明。向こうは明らかにこっちの目的を知ってる……どうするんだ? どうやって交渉をやる気だ?
 日鞠の奴はせめて絶対的にスオウに会わせる事を条件として飲ませたいんだろうけど……難しいぞそれは。


「おやおや、二人とも怖い目をなさる。私達は寧ろ、アナタ達を救った立場の筈ですがね?」
「救った? 余計な事をしなくても、スオウに任せておけば、全てを解決してくれたわ! それなのに……」
「それは希望的観測でしょう。彼がどうにか出来た保証は無い。それに一介の高校生に全てを背負わせるのは酷でしょう。というか、異常だ。責任というものは大人が負うものですよ。安心してください。私達は必ずスオウ君も救い出してみせます。
 ですからその為に心からの協力をお願いしたい所存です」


 なんだろう……胡散臭いと思ってたけど、案外良い奴なのか? そんな気がして来た。こんな子供な俺達にこんなに誠実な態度を示してるんだ。少しは心を許しても言いのかなって思っちゃうだろ。


「なあ日鞠、大丈夫なんじゃないか?」


 俺は日鞠に小声でそう伝える。すると日鞠の奴は泣きはらした赤い目で俺を睨んで来た。


「甘いわよ秋徒。お偉い役職で、ニコニコしてる大人程信用出来ない者は居ない。あれ見てよ、絶対に腹黒いわよ。真っ黒に違いないわ」
「言い過ぎだろ」


 どこにそんな根拠があるんだ。最初の印象だけで決めつけるなよ。こいついつだって人は見た目じゃないとか言ってなかったか? 今もの凄く見た目で偏見してるぞ。


「見た目だけじゃないわよ。アンタは気付かないの? あいつ、決定的な部分は全て曖昧に流してる。下手にでながら、実は何も妥協しないやり口よ。腹黒い証拠」


 なるほど……やっぱり色々と考えては居るんだな。確かにこの人は協力を仰ぐ事ばかり言うけど、こっちの提案に妥協は見せてない。やっぱり腹黒ってことなのか? くそ……俺はお前等程に頭使って生きてる訳じゃないんだよ。
 日鞠の言う事も最もだと思うけど、やっぱり大丈夫な様な気もする。そもそも会わせる事がそんなに不味い事か? っても思うしな。別に原因究明の為に脳を取り出す……とかする訳じゃないんだろうし……してないよな?


「そんなまさか。皆さんスヤスヤと安らかに眠れる場所に移動したまでです。どう考えても私達に協力をする方が、お二人の為になると思いますが違いますか? 我等は国家の力を後ろ盾に、犠牲者を救うのですよ。
 今までの様に一企業なんて規模じゃない。国家という力の方が何百倍も信頼出来る筈です」


 雄弁に語る糸目のおじさん。確かに国家−−なんて物が関わって来るとなんだか凄い事に巻き込まれてるんだって今まで以上には思えるな。一企業じゃ対抗出来ない物がきっと一杯あるんだろう。なんたって国家だし。
 もしかしたらスオウが全てを解決するっていうやり方以外にも、どうにか出来るやり方が見つかるかも知れないのか。一企業には限界があっても国家が予算をつぎ込んで研究するのなら……確かに他の方法が見つかる可能性だって……


「それで一体、何年後にスオウ達は帰って来れるの? 二学期に間に合わないじゃない! そんなの論外よ!」


 二学期に間に合わない……そう叫んで大人達の計画の全てを否定した日鞠。恐ろしいなホントこいつ。でもそうか……確かに国家が研究したってそんな直ぐに助かるって訳じゃ勿論ないんだ。俺は安易に国家スゲーで、あっという間にどうにか出来るイメージが勝手に膨らんでたけど、全然全く違うんだな。
 可能性は確かに上がるのかも知れないけど……それじゃああんまりこれまでと変わらない様な気がする。数年単位なんて待ってられる筈も無い。それにセツリの奴は今でもうギリギリの筈だ。これ以上長引いたらいつ死んだっておかしくないって言われてた筈だろ。
 やっぱり……頼るなんて無理かも知れないな。


「君たちはこのプロジェクトの重要性が分かってないんだ! これは沈みかけたこの国を再び持ち上げれるかもしれない……そんな全ての国民の未来までがかかったプロジェクト何だ。君たちの将来だって−−」
「そんな押しつけいらないわ。誰が頼んだのよ。国を傾けさせたのはアンタ達でしょ。大人は今の地盤だけ守って大人しく引退すればいい。私達の将来は、私達がなんとかするわ」
「−−そんな無茶苦茶な……」


 日鞠の言葉に糸目の人じゃない、その後ろの普通っぽい人が愕然としてる。まあ無理は無いかもな。この国の将来を自分達がなんとか出来る−−なんて誰が考える? 考えねーよ普通。子供達により良い未来を残そうとするのは大人の目的としては間違ってないと思うけどな。


「何がプロジェクトよ。結局はリーフィアとLROを解析して、フルダイブシステムを手に入れたいだけでしょ。スオウ達は体のいいモルモットじゃない!」


 日鞠が涙を飛ばしてそう叫ぶ。そうか……そうだな……さっきの別の黒服の言葉でそう言う見方が出来るのか。確かにプロジェクトが大事そうな言い方だった。モルモット……実験体……LROに囚われた人達にはその役割も当然の如くあるのか。
 なんてたって他の誰かを無闇に向こう側に送り込んで帰って来れなくなるかどうか試すなんて出来る訳ないしな。今意識が無い奴等を集めてその関連性とかから、原因を探るのかも。そしてフルダイブシステムの根幹を解明する気……か。
 それにはきっと普通のなんとも成ってないプレイヤーじゃ意味が無いんだろうな。異常が起こった奴等だからこそ、違うデータが取れる筈……みたいな。そんな考えなら、確かにスオウ達はモルモットだ。


「本当に君は色々と察しがいいね。優秀だよとても。きっと将来はおじさん達なんかを顎で使う立場になるに違いない」
「私は別に、進んで人の上に立ちたいなんて思った事はありません」
「そうだろうね。君は今なおあんな普通の学校に通ってる様な子だ。全く、優秀な人材には……いいえ、飛び抜けて優秀な人材には何かしらの役目がある物です。そしてそれを成す為に生まれて来てると思いませんか?」


 なんだ? どこから哲学の話になったのか俺にはわからない。まあこの糸目のおっさんの言いたいとしてる事はなんとなく分かるけどな。特別な物を持った人間にはその特別を与えられた理由があるって奴だろう。
 強さには責任が伴う……みたいな。確かに今の日鞠は、その才能を無駄にしてるのかも知れない。こいつは何だって出来る。そしてきっともっと何だって出来る筈だ。普通の高校に通う頭じゃない。
 高校に上がる前は、海外のどえらい大学から推薦が来てたしな。本当なら、こいつだって世の為の人の為になる様な事をしなきゃ行けない人間なのかも知れない。でも日鞠の奴は俺の納得しかけた思いも、糸目のオッサンの言葉も足蹴にしてこう言った。


「そんなの……思う訳ない。変な概念を勝手に押し付けないで。私はどこにでも居る普通の女子高生。そして願いはずっとスオウと一緒に居る事。私に役目があるとすれば……それだけよ」
「子供だな君は。自分の価値に気付いてない。君はきっと将来、こちら側に来るだろうに」
「将来とかそんなのどうでも良い! 意味ない方向に話を持って行かないで、スオウに会わせなて!」
「確かにそうだな。色々と言ったけど、そろそろ答えが欲しい」


 俺達は目の前の奴等を見つめる。色々と言ったけどさ、結局どうなんだって事だ。こいつは俺等をスオウに会わせる気があるのか?


「ふふふ、そうですね。色々と話し合った中で私達が妥協出来る点は無いと判断出来ました。つまりは友好的な交渉は決裂。どうしましょうかねぇ?」


 全く困った感じも出さずにそう言う糸目のおっさん。別に情報源は俺達だけじゃないからな。交渉決裂で主に困るのはこっち側……このままじゃスオウへ辿り着く道が……いや、昨日見つけたあの場所がアジトなら、別に良いという考え方も出来るかも。


「どうするのが一番良いんだ? このまま決裂で終わっていいのか?」
「それは……」


 日鞠も悩んでる? どこかで妥協点でも見つける気だったのかも知れないな。だけどその前に糸目のおっさんに終わりを告げられてしまった。ここで決裂を覆す様な発言をしたら、実質日和った事になるよな。それをしたら、こっち主導ってのはもう無理な気がする。
 でも決裂をそのままうけいれたら、本当にここで終わり。スオウの姿を確認する術がなくなる。それにもしも昨日の植物園の地下なら、別にスオウに会えなくても、確信に出来る。それは大きい筈だ。既にデータは盗んでるんだし、辺りくらい付けられるかも知れないしな。
 だけど全くの別の場所なら……それは最悪の展開。


「ふふ、何も悩む必要など無いですよ」
「何?」


 脇目のおっさんが平静のままそう言った。悩む必要ない……それって一体どういう事だ?


「交渉が決裂したからと言って誰が引くと言いましたか? 何も分かってない君たちには、自分達が無力な若者だと教える事だって出来ます。交渉などなくても、付き合って貰いますよ」


 その瞬間病室に投げ込まれる缶みたいな物? それから一気に煙が吹き出して来た。なんだ? 催眠ガスか何かか? でもこんな物を子供に!? その時ガララと扉が閉まる音が聞こえる。不味いこのままじゃ!


「秋徒! 窓!!」
「よし!」


 俺と日鞠は反対側の窓へ駆け寄る。元から開いてる窓もあった訳だけど、睡眠ガスの噴出が凄い。あっという間に部屋を白く満たす程だ。だから残りの窓も全開に開ける。だけどその時、僅かに開いたドアから追加で居れられる催眠ガス。反則だろそれ!


「秋徒、窓の外になるべく身を出して!」
「くっそおおおおおおおおお!」


 大人汚い。その力で子供を誘拐する気だこいつら!! 煙は更に増えて、窓の外に顔を出してる筈なのに、視界を覆って来た。息を止めるのも限界がある。どうしたら……頭がクラクラしてくる。足に力が入らなくなって、更に煙が充満して真っ白になってる部屋の中に。


(ダメだ……もう……抵抗も限界)


 意識がどこかに持ってかれそうだ。ドサッと床に倒れる。ヒンヤリとした床だ。すると何かゴソゴソと下半身をまさぐる感覚が。


(一体どこを触ってやがる……)


 そう思ってなんとか視線を向けると、そこには日鞠が居た。日鞠が俺の下半身をまさぐってる? え? どういう状況? そう思うけど、既に声を出す事も抵抗も出来ない俺は、意識が沈む直前までその行動を見てた。
 日鞠はどうやら俺のスマホを探してたらしい。それを探し当てて何か操作をしてる。そして自分のスマホも取り出して、自分のスマホをどこかに滑らせた。そして何故か俺のスマホを自分のポッケに……ホント一体何を? 


(分からない……分からない……わから……)




 気付いた時には質素な部屋の一室に寝かされてた。隣のベットには日鞠の姿。透明な壁の外には見張りが見える。どうやらあの植物園の地下と似た作りだが……確信は持てないな。なんせ寝てる間に運ばれたんだ、ここが都内かも実際怪しい。


「ん……秋徒?」


 日鞠も目を覚ましたらしい。てかこいつ、寝てるときも涙を流してたのか、目が赤い。くっそ……そんな姿を見せられたら、自分の不甲斐なさに死にたくなる。そう思ってると、糸目のオッサンが近くのモニターに映った。
 ムカつく顔の奴。だけど向こうは病院の時とかわらぬ感じで寝てた間の情勢を一方的に語った。そして面会の時間を告げてモニターの電源は強制的に切れる。今ここ。

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