命改変プログラム

ファーストなサイコロ

沸き立つ陽炎

 虚しく空を見上げてると、会社の目の前に次々と一列に止まる同じ型の車。そしてそこからなんだかお役所風の大人な方々が颯爽と登場して来た。


「なっ、なんだ? お前、何でもかんでも信者を増やせば良いって物じゃないぞ。どこに連れて行かれるんだよ?」
「私のお迎えじゃないわよ。それにもしも信者が私に居るとしても、そんな事させないわよ。それよりもあれって……」


 そう言って日鞠は鋭い目をして彼等を観察してる。会社に続く階段を先頭の一人を筆頭に登って来る彼等。なんだか鳥が隊列を組んで飛んでるみたいな綺麗な歩行だな。ザッザと聞こえてきそうだけど、軍隊程その行進に圧迫感がある訳じゃない。
 通りの注目を僅かながらに浴びてる彼等は俺達には見向きもくれずに通りすぎる。う~んなんだかインテリって感じだ。プライドの高さが溢れ出てるというかなんと言うか……俺が毛嫌いするタイプの人種が集まってるって感じ。


「どうした?」


 日鞠は会社の方に歩き去ってく彼等を黙って見つめてる。何か思い当たる節でもあるのか?


「今の、もしかした調査委員会かも」
「それってLROを審査してる?」
「他に何があるのよ?」
「でも……どうしてそう思うんだよ?」


 なんか確信めいた物があったか? 俺には見えなかったけどな。タスキでも肩から下げてたなら簡単に分かるんだけど、そうでもないし、まあ車は妙に黒光りしてるし高級っぽいけどな。


「一番前に歩いてた人……ネットのニュースで見た事ある。確か調査委員会の発足記事で、その中の写真に居たわ」
「マジか? 良くそんなの覚えてるな」


 俺なら一度見たら忘れるな。わざわざオッサンの顔なんて覚えてる記憶領域はない。それにそう言う記事って大抵、一番有名所をメインに紹介するじゃん。どっかの大学の教授も居ます--とか、何々の第一人者もメンバーに入ってます--だとか。お役所人のリーダーなんて写真の下に小さく描いてある、紹介文に名前でも乗ってれば良い程度だよな。
 だから普通は大きく取り上げられてる方に目がいくもので、記憶もそっちが優先される物だけど、日鞠はなんでもよく見て覚えてる奴だ。


「覚えてるわよ。てか、あの人有名な言葉確か言ってたわよ。記事にはその一文だけは乗ってた筈。ネット上ではそれが結構拡散してたからアンタも知ってると思うけど」
「そうなのか? まあLROを目の敵にしてる連中が躍起になって規制だ安全が--なんて吠えて立ち上げた組織だから、発足時にはそれなりに話題には確かになってたよな。ヒマな奴等のスレが乱立してたかも」
「そうでしょ。で、見た事無い? 確か『安全が確信出来ないゲームはゲームとは呼べない。ゲームの絶対条件は安心だ! 健康面、精神面、全てにおいてそれを逸脱させるゲームは規制の対象になるだろう』って結構過激な事を言ってたわよ。
 でも流石に精神面まで言い出すと、何だって問題ありになるわよね。人を殺すゲームは精神に悪影響があるとか、昔から散々言われてる訳だしね」
「女子を攻略するゲームもそれだけで心を満たしすぎて、人類の衰退に繋がるとかか? インテリの癖にリア充とか気に食わないな」
「それはただのやっかみでしょ」


 日鞠がなんだか呆れた目を俺を見てる。だってインテリってもっとこう根暗なイメージの筈だろ。それなのにギャルゲーまで規制の対象にする様な発言は敵だろ。どれだけのシャイボーイが彼女達の優しさに救われてると思ってるんだ。
 そんな彼等にとってはいつかその時の為の予行演習にもなってる、ある意味実用性があるゲームなんだよ。


「アンタ愛さんが居るのに未だにギャルゲーなんてやってるの? てかアンタって見た目や周りへの態度見てたらどう見てもリア充でしょ? なんで今までリアル女子とは付き合わなかったの? 告白とかされた事あるでしょ?」
「それはまあ……スオウには悪いけどないとは言わないな」


 わざわざスオウの名前を出したのは、あいつの場合は絶対に告白とか受けた事ないだろうからだ。だって日鞠がいつでもいるからな。そのせいでスオウに言い寄って来る女子とか見た事無い。それに比べればまあ俺はあると言えるかな。
 小学生の頃も、中学生の頃も、そして高校に入ってからも告白された経験はある。こうやって考えると俺ってやっぱモテてるな。


「何でって言われれば、そりゃあ別に好きでもなかったし……明るく楽しく接するけどさ、だからって相手の事を好きだからやってる訳じゃないんだよ。沢山居るときは、明るい雰囲気が楽だからやってるだけで……そんな子達と二人で一緒に居たい……なんて思ってないんだよ。
 良く言うじゃん、今が楽しければ良いって奴。複数人の時の俺はそのノリなんだよ。一瞬一瞬を楽しんでるだけ。その延長は基本ないんだよな」
「だから特定の女子と付き合う……とかはしなかった訳ね。どうりでアンタには遊び人のイメージが付く筈よ。そんなのアンタのその外面に騙される子だって出るに決まってるじゃない」
「別に騙してないだろ。俺はその場を楽しくしてるんだ。それの何が悪いんだよ」


 言っとくけどな、結構疲れるんだぞ。どうやっても集団に馴染まない奴って居るし……それでもこっちはなんとか楽しくしようとしてるんだ。学年進級の際にはぎこちないクラスの雰囲気をなんど救った事か。
 俺みたいな奴はクラスに一人は必要だぞ。まあ全く同じ考えで--とは流石に言わんけど。


「まっ、確かに秋徒は教師受けは良いよね。でも今まで告白をばっさばっさ切って来た割には、女子達からの陰口って聞いた事無いわね。どうやって断って来た訳?」
「ああ、それな。別に普通だって。相手をなるべく傷つけない様に、でもこっちの気持ちはハッキリと言う。付き合えないってな」
「それだけ?」


 疑問を呈する日鞠に向かって俺は頷くよ。


「ちょっと信じれないな。本当は『こっそり付き合おう。誰にも内緒で』って誰にでも言ってたんじゃないの?」
「その理論だと、俺は何人の彼女が居る事に成るんだよ。それにそんなのバレないと思うか?」
「まあバレるでしょうね」
「それでお前が言った様に陰口が出ない奴になれるか?」
「上手くやってるんでしょ?」
「やってねーよ!」


 それにそれ認めたら今でも複数人の女の子と付き合ってるみたいじゃないか。そんな愛を裏切る様な真似する訳ないだろ。俺は言っちゃうと、愛と出会う為に今までの出会った子を切り捨てて来たと思ってる程だ。
 もう二度とアイツを裏切ったりしない。これは心に誓った誓約だ。


「おい、俺達なんの話してるんだよ。俺の女子受けとか今はどうでも良いだろ。それよりもどうするんだ? あれが調査委員会の奴等なら、一体なんでこんな場所に……」
「わざわざ敵陣に乗り込んで来た様な物だからね。勝てる確信でもあるのかも」
「それってヤバいよな?」
「ヤバいわね。もう一回中に行くわよ」


 俺達はついさっき出て来た会社に引き返す。だけどそこで思わぬ伏兵が! 僕と日鞠はそいつと入り口前で睨み合う羽目に……


「………………」
「「………………」」


 左右にワンステップ! 二人でクロスして突破を試みる! だけどそこは流石に普段から警備を生業にしてるからだろう。迷う事無く、その人は一歩も扉の前から動かない。撹乱も出来ないとは……


「ちょっと、退いてくださいよ」
「貴方方はさっき騒ぎを起こしてたでしょう。居れる訳には行きませんな」
「あ、あれはちょっとした勘違いって言うか……誤解なんですよ!」
「例えそうだったとしてもこんな早くに貴方の訪問を許す訳には行きませんな。どうか日を置いて出直して来てくだされ」


 くっ……正論ではあるな。この人の立場もあるだろうし、ここを通れば受付のお嬢様方の目に嫌でも止まるだろう。てか、あそこを通り過ぎないとエレベーターとか乗れないみたいだし……てか受付を通さないで会社に入ろうとするのは、それもう犯罪だろうしな。
 よくよく考えたらヤバい所を敵に回してしまった。なんて事を俺はやってしまったんだろうか……てか、俺のせいなのかな? そこら辺が納得出来ないんだよな。すると日鞠の奴がこう言った。


「今おじさん貴方って言ったわよね? じゃあ私だけ通しなさい。こいつは置き去りにするから。それなら良いでしょ?」
「おい………」


 こいつやっぱり酷いな。一人だけこんな炎天下の空の下に置き去りか?


「何よ。しょうがないでしょ。アンタが下手打つからこう成ってるんだし、二人して通行止め受けるよりは良いわよ。犬は大人しく待ってなさい。待てよ。待て!」


 犬扱いか俺は。てか、全てを俺の責任にしてるけどさ……日鞠だって浅はかだったろ。俺の何に期待したってんだ! そこまで言うのなら~全部一人でやればよかったんだ~。不満タラタラなんですけど。


「日鞠がもうちょっとフォローを居れれば上手く行ったかもしれない」
「あれのどこにフォローを居れれば良かったのよ? まあ色々と誤算だったのは認めるわ」


 あれ? 珍しいな日鞠が自分の失敗を認めるなんて。


「私は反省する点は反省するわ。自分を完璧で綻びの無い人間なんて思ってないしね。そもそもは秋徒を使うのは予備だったのよ」
「それは分かってるよ。元はちゃんとアポ取りたかったんだろ?」


 でも出来なかったんだから、危惧してた通りに俺の出番と相成った訳だ。まあ完全に失敗だったけどな。けど日鞠はこう言うよ。


「アポが取れないだろう事は分かってた。だってこれだけ騒がれてるんだし、前に言った時に既にてんてこ舞いだったもの。アポなんかにそこまで期待なんてそもそもしてなかったわよ。でもいけるかな~って高を括ってたのが行けなかったわね」
「何を根拠にそう思ったんだ? お前らしく無いぞ」
「ちゃんと布石は打ってたのよ。前に来た時に受付のお姉さん達と仲良くなってたの。だからアポ無くてもいけるかな~って思ってたんだけどね」
「お前の事知ってた様子無かったけどな」


 全然知り合いって感じじゃなかったじゃん。それともあの人達は仕事とプライベートをきっちりと分けてるのか? するとため息を吐いてこう言うよ。


「それもそうよ。だって三人とも私が来た時とは違う人だもの。受付ってそんな頻繁に交代するもの?」
「う~ん……」


 そう問われても、俺には返せる答えが無い。だってそんなの企業の問題だろ。まだ社会に出た事もない俺が受付のお姉様方の交代頻度とか知ってる訳ない。てか知ってたら知ってたで問題だろ。変態言われそうだ。
 でもまあ……予想ならそんなに交代する訳ないと思うけどな。だって受付だし。そんないっぱい受け付けだけで人数確保してるとも思えないだろ。せめて三つの席があるから、一日三人必要で、いざって時の為に後三人。それで十分回せると思うんだよな。
 まあそれで考えられるのは班制なのかもって事だな。一日交代かどうか知んないけど、六人程度で回してる筈だろ。今日の三人と、日鞠が知り合ったという三人で確実にその人数は居る訳だしな。でも流石に一日交代とか楽過ぎね? って思うよな。
 だって普通の会社は週休二日の筈で、四日しか出勤しなくて良いのに、班制で一日交代とかだったら、たった二日しか仕事しなくて良い事になる……色々とおかしいよなそれ? もしかしたら受付嬢には俺達に見える部分だけじゃない、裏の仕事とかがあるのかも……うん、かもしれないな。


「前の人達なら私の事知っててくれてるから、すんなり行く筈だったのに……」
「でもそれなら俺を使わずに根気よく説得する手もあったんじゃね? 確認くらいしてくれるだろ?」
「だって、アンタが妙に自信ありげだったし……それにやっぱり女の扱いに慣れてる筈でしょ?」


 筈でしょ? って言われても。別に俺が本気で落としに掛かったの愛だけだから。しかもそれも途中失敗してるしな。今の関係を築けたのは俺の実績じゃないんだよ。だからもしかすると、俺は自分が思ってる以上に、実は女子との一定以上のコミュニケーションが上手く無いのかも知れない。


「確かに、あんたのさっきの対応を思い出すと…………ププ、笑えるわよね」
「笑うなよ。こっちは必死に頭捻ってやったんだぞ。脅しかける気だったのに、別の事を土壇場でさせるとかマジで無茶振りだぞ。あれが精一杯だったんだ」
「でも流石にあれは無いと思うけど? お腹がねじ切れるかと思ったもん」


 くっ……確かに今思い出したら顔から火が出る位には恥ずかしい気はする。よくよく考えると確かにあの台詞じゃ勘違いが起こってもおかしく無いしな。すると僕達の話を聞いてた道せんぼしてる警備の爺さんが言って来る。


「何をしたかは知らんが、誰も通せんよ。お前達も見たろうが、さっきの集団が来た時に一般開放は打ち止めじゃ。その知らせが来た」
「情報規制ね?」
「さあの、じゃがそれが上の意向なのだ。どの道二人ともここを通す訳にはいかぬ。子供は家に帰って勉強でもするんじゃな。長かった休みももう僅かじゃろ? 泣きを見る事になるぞ」


 そう言って嫌な笑顔を見せる爺さん。ちっ……嫌な事を思い出させるんじゃねーよ。課題なんて休み終わり三日前に位に思い出せば良いんだ。最悪間に合わなかったって、数日は待ってくれるし、運が良ければいつの間にかあやふやだ。
 まあ今年はちゃんとやる気だけどな。体裁だけじゃなく、中身だって整えるんだ。俺は愛に相応しい男に成るんだからな。だけどだからって親友を見捨てて課題を……ってのもやっぱり違う訳で、この長期休暇の最後には、毎年アイツと一緒に溜まった課題を消化するのが恒例なんだ。
 だからさ、アイツは絶対に居なきゃいけない。去年まではあの時間が嫌で嫌で仕方なかったし、絶望に包まれてたけど……今年は違う。今の俺はその時を三人で迎えれる事を望んでる。大変だし、休みが終わるのも寂しいと感じてた。暑かった夏も過ぎてく感じで少し哀しいけどさ……もっと哀しいのはこの恒例が終わってしまう事で、アイツが居なくなる事。


 本当の泣きってのはさ……そう言う事なんだよ。俺達にとってはそう言う事。課題の消化よりも重要なのは、この休みの最後に、あの空間に全員が揃って居れる事。だからここで引き下がるなんて……そう思ってたけど、意外にも先に日鞠の奴が引いた。


「え? おい!」
「あの子は聞き訳がいいのう。まあ儂を説得出来ても、先は無いとの判断かも知れんがの」


 なるほど、爺さんの言う通りなのかもな。確かにこの人を抜けても結局は今の俺達は受付を通る事は出来ない。どの道今日は運営までは辿り着けないのか。目と鼻の先……の筈なんだけどな。俺は巨大なビルを見上げる。
 強く激しい日光がビルに反射してる。デカいな。でもこの会社大丈夫なのかな? LROはかなりの収益源だった筈だけど、それが今まさに潰されようとしてるんだ。まあでも同時にかなりの費用を使って、戻って来れなくなったプレイヤーを隠してもいるか……あの大病院のワンフロア位は貸し切ってるみたいだしな。
 しかも去年までとは違って、今年からは一気に被害者が増えてる……限界は会社自体が感じててもおかしく無いかも。俺はしょうがないから日鞠の後を追うよ。


「良いのかよ? 確かにあの爺さんの言う通りかもしれないけど、お前が素直に引くなんて……しかもスオウ絡みで……」
「別に引いてないわよ。あんまり騒ぐと本当に警察沙汰になるじゃない。これは学校……学生の問題じゃないのよ。ちょっと準備が足りなかったわ。それに私達を入れたらあの人失業するかもしれないし、流石に他人の人生壊せないでしょ」
「まあ……それはそうだけどな……」


 けど流石に子供を入れた位でクビになるか? でも今はデリケートな時だしな……考えられなくもないか。そもそも居れるなって指令も出てる様だしな……それを破るってことは上への反逆と取られて解雇されたって、ただの警備員じゃ文句も言えないか。
 こういう仕事の代わりは言っちゃ悪いけど、幾らだっているんだろうし。


「だけど気になるだろ? 調査委員会が本陣に乗り込んだって事はいよいよヤバそうなのは明白なんだろ? ここで引いたら結局俺達、何しに来たって事に成るんじゃないか? 明日の朝一のニュースでLROのサービス停止が発表されたって今の状況じゃおかしく無いよな? そうなったら……ここで何もしなかった事を後悔するぞ」


 俺の言葉に日鞠は再び足を止める。生暖かい風が吹いて日鞠の三つ編みの髪を揺らしてる。俺が考えつく様な事はとっくに考えてる筈だけど、何も言わないのは俺は止めて欲しいんだ。何か考えがあるのなら言って欲しい。
 突出して優秀な奴ってどこか孤独になりたがるよな。特定の奴しか理解出来ないって思ってるし、それが日鞠にとってはスオウなんだよな。だからこそ誰よりも失いたく無い。失ったら……この世界で独りぼっちにでもなるとか思ってるのか? 思ってそうだなこいつの場合。


 沢山の友達に信者が居るけど、スオウはやっぱり日鞠に取っては替えが効かない唯一無二の……唯一無二の……なんと言えば良いのだろう? 適切な言葉が俺の語録にはないかも。恋人っぽくはあるけど、通り越して夫婦っぽくもある。でも別に二人は付き合ってる訳じゃなく、自然と一緒に居る事が普通なんだ。
 じゃあ幼なじみ? でもそれじゃあ長い時を一緒に過ごしたってだけの関係性にしか思えない。それは確かに重要なんだけど、こいつ等の場合時間って概念じゃその絆が計れない様な気もする。実際付き合ってもいないし、恋人でも夫婦でも--親友って男女間ではそう使わないよな。幅広くいうなら友達……それは間違いじゃないけど、決定的に何かが足りない気がする。他の大多数の人から見ればそれで間違いないし、学校でなら一クラスメイトでだって括れるけど、それは周りの評価とはきっと一致しないだろう。


(言うなればそう……『特別』と『存在』--だな)


 スオウもそして日鞠もきっとそうお互いを評価してるだろう。自分に取って唯一無二で特別な存在……今はこれでしか言い表せない。そんな存在を救う術を持ってるのはこの会社の人達だけだ。LROが停止されるって事は会社の人達の手からもLROが離れるってことかも知れない。どこかに持ってかれて、研究とかに使われるかも。
 なんてたって世界初のフルダイブシステムを使ったゲームだったんだ。研究のしがいはあるだろう。そうなったらさ、どうやってスオウを救うんだよ。ここで去ったら……俺達も傍観者に成ってしまう様な……そんな気がしないか?
 すると日鞠はその日差しを受けて振り返る。その顔は必死に強気を保つ顔だった。眉を上げて、瞳に力をいれてさ……そして日鞠はこう言うよ。


「誰がこのまま引くって言った? 人様に迷惑かけない様に出来る事をやるのよ。会社に入るのが無理なら、対象を変えるだけよ」
「対象を変える? --ってお前まさか?!」


 俺は縦列駐車してる黒光ってる車に目を向ける。すると日鞠はにやりと口元をつり上げた。うっわ、これは楽しげで危なげな事を考えてる顔だ。きっと逃げた方が良い。でも今の俺はそれが出来ないんだよな……だって親友を助けたいのは俺も一緒だ。
 そしてその突破口はきっとこいつが作り出す……俺はそれを確信してる。日鞠は紡ぐ。その危なげな言葉を。


「そのまさかよ。まずは敵を知る事も大切でしょ? そして出来れば奴等の動向を調べる。国家権力が何よ。情報開示請求を個人でやってやるわ」


 色々と間違ってる言葉だらけだろうが、何を言わんとしてるのかはニュアンスで理解した。ようは奴等調査委員会を徹底的に調べ上げてやるってことだろう。敵を知り己を知れば百戦危うからず--とは有名だしな。
 そんな訳で俺にはまずタクシーを呼ぶ指令が下り、日鞠はせっせとコンビニに向かった。そして降ろして来た現金をタクシーの運転手に突きつけて良い放つ言葉は、リアルで聞くのは初めての物だった。


「これで私達の願いを聞いて。あそこに止まってる車が動き出すまで、これからの時間全てを私に預けなさい」


 流石日鞠--俺達に出来ない事を意図も容易くやってのける。そこに痺れる……いや、まあもういいか。取りあえず今日が無事に終われば良いなって俺は思う。

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