命改変プログラム

ファーストなサイコロ

神を越える姉妹

「くっそ」
「お前はシクラの方へ向かえ! テトラの方には俺が行く!」
「頼むリルフィン!」


 リルフィンが居てくれて助かったな。僕は方向転換してシクラを目指す。あのコードをこのまま渡しちゃ行けない。どうやら元々アレが目的だったみたいだし、ヤバい事に成るのは確実だろう。
 僕は二つのセラ・シルフィングを力を込めて握り。あの言葉を紡ごうとする。


「イクシ--」
「させないよスオウ!!」


 その瞬間目の前に現れたのは元気一杯ヒマワリ髪の少女だ。タンクトップに短パンというここがゲームとは思えない軽装。しかも腕も足も生だし……信じれない格好だけど、その細腕から繰り出されたパンチはガードした筈のセラ・シルフィングを容易く弾く。
 腕と共に体が後方に持ってかれる。勢いが削がれた。そして更に追撃をしてこようと「おりゃあああああ!!」とか叫んで向かって来ようとするヒマワリ。
 だけどそのとき、逆方向から雪まじりの突風が吹き荒れた。そんな風に軽そうなヒマワリは吹き飛ばされる。


「こら~ヒイヒイのアホ~~!」


 そんな言葉を叫びながら飛んでくヒマワリ。ヒイヒイ? それって確か柊だったよな。と、言う事はこの風は奴の仕業か。この冷たさ……納得だ。


「ん?」


 なんか体が動かないぞ。そう思って足下を見てみると、氷が床から足に掛けて出来てた。この雪まじりの風で対象の動きを封じるのが目的か。流石は柊。ヒマワリよりは頭使ってる。でもこの程度で止められるなんて思って欲しく無いな。


「「うおおおおおおおおおおおおああああああ!?」」
「ん? ----ぶぎゃああ!?」


 折角どうにかしようとした所に、テトラとリルフィンが一緒に吹き飛ばされて来た。何やってるんだよお前等は!


「っつ……あの野郎結構やるな。邪の癖に上位の存在の俺を吹き飛ばすとはな」
「いや、あの黒いのよりも刀持ってる方の加入が問題だろ。ただ暴走するだけの奴よりもよっぽど厄介だ」
「はっ、貴様はあのサラシが巻かれた胸にばかり目が行ってるからだろ。俺の足手まといなんだよ」
「ああ!? 神を名乗ってるくせにぼこぼこにされてる奴に言われたくないな!」
「ほう、神に楯突くか三下?」
「おいおい、良いからどけよ。争ってる場合じゃないだろ」
「「………ふん!」」


 もうなんなんだよこいつ等は。なんでこんな険悪なの? そんな仲悪かったか? いや、悪かったかな? 悪かった様な気がするかも。でもだからって今やるべき事じゃないだろ。時と場合を考えろよな。どっちもそれなりに思慮深い方だろ。頭に何が詰まってるんだお前達は。


「ふふ、神も案外骨がない。期待外れだな」
「なんだと貴様?」
「そうだよ蘭姐。幾ら今は雑魚って言っても一応神設定のラスボスなんだから、そんな事を言ったら小さなプライドを傷つけちゃう☆ ぷぷー」


 一番馬鹿にしてる奴がそこに居た。まったく持ってフォローに成ってねえよ。完全に小馬鹿にしてる。いや、あれは小馬鹿じゃないか。心から馬鹿にしてるよな。当人じゃなくてもムカつくわあの顔。


「クク……ハッハッハハハハハハハハハハ!!」
「おい、どうしたテトラ?」
「馬鹿にされすぎてトチ狂ったか?」


 リルフィンの言葉もあながち間違いじゃないんじゃないかと思う程に笑ってるテトラ。なんかちょっと狂気すら感じるんですけど。シクラ達は神の逆鱗に触れたんじゃないか? そう思ってると、いきなり笑い声が止まって空気が冷えた気がした。寒いんじゃない、冷たいって感じ。切れたか?


「邪神の名が伊達ではない事を教えてやる。貴様等前に出ろ」


 そう言って僕とリルフィンを放り投げるテトラ。どういう事だよ! 言ってる事とやってる事が違うんですけど!? 伊達じゃない所見せてくれるんじゃないの?


「奴等は手強い。それは素直に認めよう。そしてここでは俺の力も制限されてる。だが奴等はそうじゃない。協力位しろ。俺の今の使える力がどういう物かよくわかってるだろうが。だから貴様等は奴等を阻む盾になれ」
「そう言う事か」


 確かに今のテトラの力は後衛的だもんな。一人での戦闘は流石に厳しいか。それに相手は反則姉妹。一人でやるにはテトラでも厳しいのはわかる。それにあの気持ち悪い奴は、色々と未知数だしな。力的にはシクラ達に及んでない様に思うけど……わざわざアイツが生み出した存在だ。
 何か有るんだと思った方が良いよな。コードを回収する為だけに生み出した訳じゃなさそうだし。僕達は取りあえずテトラに期待してシクラ達と身構える。こっちは三人、向こうは五人……元々の力の差を考えると厳しいな。せめてテトラの力に制約が掛かってなければもう少し余裕も出るんだろうけど、今はそんな余裕は一切感じれない。
 どう考えてもヤバいよなって事だけはもの凄く感じる。まあだからこそ、三人で力を合わせる訳だよな。全員を警戒して、気を張ってる僕とリルフィン。すると蘭姐と呼ばれてた奴がこっちに厳しい顔して歩いて来る。


「誰も手を出すな。私がこいつ等に力の差を分からせてやる」
「ええ~なにそれ! 蘭姐ちゃんだけズルい! 僕だってスオウと遊びたいのに!」
「これだからヒマワリは……私は別にどうでもいい。早く帰れるのなら、一人でどうぞって感じ」
「むむ~ヒイヒイは楽しい事したく無いの? 体動かすの気持ちいいよ!」
「それはヒマが肉体派だからでしょ? 私は文学少女なのよ」


 面倒くさそうに柊はその扇子で自分を仰ぎながら呟いてる。なんだかこいつ日に日に無気力になってないか? まあそんなに知ってる訳でもないけど、前はまだやる気があったように感じられたんだけどな。今はとにかく面倒そうだ。
 姉妹が増えたから自分が動く必要も無くなった……って事か。


「柊の言う通り大人しくしてろ。ここは姉の顔を立たせてくれても良いだろ?」
「むう~じゃあお菓子ちょうだい」
「後でな」


 安っぽい対価でヒマワリは引いた。まあこっちとしてはありがたいけどな。たった一人で来てくれるのなら、それを拒む理由は無い。だけどそんな事を安易に--というか、絶対に認めない、聞く耳も持たない奴がここには一体居る。


「そんな事……勝手に決めてんじゃねーよ! 俺が……俺が奴等を殺す!!」


 黒い鎌を構えてそんな言葉と共に、こっちに向かってこようと床を勢い良く蹴る奴。黒い羽が生えて滑る様に迫り来る。だけど次の瞬間、その羽の片翼が一瞬で切り離される。バランスをとれなくなった奴は地面に激突して僕達の居る場所を通り過ぎて行く。
 どうやらかなりの勢いだったから止まれない様だ。そのまま端っこまで転がって鳥居にぶつかってようやく止まる。よくよく考えたら、なんか鳥居が元に戻ってるよな。テトラが派手に破壊した筈だけどあの暗くなってた間に修復されたのか? でもどうして? それとも自動で意味は無い?
 そこら辺はよくわからないな。


「ぐっ……きっさま!!」
「蛮行は許さん。邪神じゃないが、飼い犬は主の言葉にもっと従え」


 睨み合う二人。どうやら奴の翼を切り捨てたのは蘭のようだな。サラシ巻いて露に肉体美を表したその上半身と、昔の武士が吐いてた様な袴で足下は草履……時代錯誤も良い所の蘭はまさに武士の様な厳しい性格なのか。
 まあ一人位はこんな感じの奴がいないと纏まらないよな。何となく苦労人なイメージが付くよ。多分あながち間違ってもないと思うけどね。欄みたいなタイプは真面目だからこそ、苦労するんだよね。


「俺は貴様等の飼い犬になった覚えなどない。俺を貴様等が利用してる様に、俺も貴様等を利用してるだけだ」
「利用出来るだけの頭もない分際で何を。大人しく従え。でないと、アンタを消滅させるわよ。今私は戦いたくてウズウズしてるのよ。何だったらアンタでも良い位」


 蘭の方から嫌な風が吹いて来る。狂気と殺気を孕んだ寒気がする風だ。殺気とかはあの黒い奴も常時無差別に放ってるけど、それとはまた異質だな。奴のは本当に獲物を探す獣のそれだけど、蘭のは剣客? とでも言えば良いのか……研ぎすまされた何かって感じで思わず唾を飲み込む様な恐ろしさがある。


「それはそれは……なんとまあ……ありがたいなあああああああ!!」


 顎が落ちる位に口を広げた奴が、その鎌を振りかぶる。すると荒々しい風が吹き荒れて細長い竜巻が三つ位出来た。そして更に逆に鎌を振ると、前に向かってその竜巻が動き出す。--ってか、僕達は丁度間にいるせいでその竜巻が迫って来るんですけど。


「ふん、その程度の攻撃で私の剣が曇るとでも?」


 その瞬間、目にも止まらぬ速さで、三連撃を撃ち放つ蘭。すると何かがぶつかったのか、竜巻が弾け消える。たく、なんてデタラメな奴等だ。目的を見失ってるのは好都合だけど、このままじゃヤバいな。


「くそがあああああああああああああ!」
「ふん、シクラはお前に対して甘過ぎるな。私が躾直してやろう!!」


 二人は両サイドから勢い良くこちらに向かって来る。おいおい、なんでこっちに向かってくるんだよ。眼中になくなってるのか僕達は? するとその瞬間、後ろの方からテトラの声が響き渡る。


「二人ともそこを退け!!」


 僕達はその声に直ぐさま反応して両サイド後方に引いた。そしたら次の瞬間、大量の黒い球体が中央でぶつかり合おうとしてた蘭と奴に降り注ぐ。数多の爆発が連鎖的に続いてく。


「やったか?」
「いや、よく見てみろ」


 リルフィンの言葉に僕は爆発してる方を凝視する。いや、確かに爆発してるし、それって当たってるって事じゃ? そう思ってたけど、よく見るとどうやら違った様だ。


「うおあああああああああああああああああああああああああああ!!」
「あんがあああああああああああああああああああああああああああ!!」


 二人は絶叫を放ちながら無数に降り注ぐ球体をその武器で切ったり弾いたりしてる。そしてそれらが直前で爆発したり後方で爆発したりしてるから、あたかも攻撃が当たってる様に見えてたってだけの様だな。てか、あの数を全てさばける物か? 
 二人とも化け物だから出来るのかも……でもこれはある意味チャンス。


「テトラ、押し切れるかもしれないぞ!」
「分かってる。こんな程度で安心させはしない。俺の力は無限の闇だ!!」


 その言葉の瞬間、テトラの体から沸き立つ大量の靄。そして更にその靄からも球体が一斉に発射される。これで今までの倍……いや数倍だろ。捌ききれる量じゃない。更に激しく唸る爆発音。だけどまだ僅かに爆煙の中に奴等の姿が見えてた。
 しぶとい……けど、それも限界だ。蘭達の動きを圧倒する数。それを既にテトラは用意してる。空を覆い尽くす程の球体を背に、改めてテトラはこう紡ぐ。


「終わらせてやるよ。これが神が与える天罰だ」


 掲げた手を振り下ろすと同時に、用意してた数百? 数千? 数万? の球体が蘭達目掛けて降り注ぐ。大きく揺れるこの場所。そして立ち上る煙がその威力を物語ってる。今のを捌ききれる筈が無い。それに防げるとも思えない。どっちも装備薄そうだったしな。
 もしかしたらあのサラシが今の攻撃で破れてしまってるかも知れないな。もしかしたらだけど、そんなアクシデントもあるかも知れない。そうなったらあの豊満な胸が全て露に……いや、でもそれじゃあ倒せてないな。
 どうせなら胸よりも存在消滅くらいの方が僕達にとってはありがたいか。さて、今の攻撃でどうなったのか見物だな。そう思ってると、晴れて行く爆煙。そして見えるのは大きな穴が空いた床だ。そこから真下にはLROと言う世界が広がってる。


「消滅した?」
「それか下に落ちた……か、だな」


 まあどっちかだよな。消滅してくれてれば一番だけど、流石にそれはどうだろうか。あのチートな奴等がそう易々と消え去るとは考え難い。なら、落ちてどっかに行っててくれた方が僕ら的にはありがたいよ。でもそのどちらも否定する言葉が聞こえて来た。


「ぶっぶ~残念。二人ともちゃんと無事だよ☆ 私が居る事も忘れないでよね」
「シクラ……」


 忘れてた訳じゃないけど、蘭の意思でも尊重してくれるかと期待してたんだよ。でも流石にピンチだと判断したって訳だな。シクラの奴は二人を抱えて床に降り立とうとしてる。するとその時だ。そんなシクラに向かって大量の黒い球体が向かってく。


「テトラ?」
「奴は両手が塞がってる。チャンスだろ! 誰一人逃がす気はない!」


 確かに。見逃す手は無いかも知れないな。向かう大量の球体。でもシクラの奴は避けようともしてない。するとその時、シクラ達を守る様に地面から沸き立つ氷の壁。それがテトラの攻撃を阻む。球体がぶつかると脆くもヒビが入って欠片が落ちる。だけども、氷だからか修復も速い。


「まったく、手間をとらせないでよね」
「ふふ、流石ヒイちゃん。愛してる☆」
「シクラの愛なんて要らない」


 あっさりと拒否されたシクラ。だけど都合の悪い所は聞こえてないのか、まだウインクとかやってる。でもあの氷の壁は厄介だな。柊は前衛じゃなく後衛タイプ……だからこそ守るとか補助とかの方が得意なんだ。
 実際、シクラの奴はバランスを考えてこの面子を連れて来たのかも知れない。前衛的な蘭にヒマワリ--オールラウンダーなシクラ--そして後衛の柊。黒い奴は、パーティーには入ってないと思うんだ。だから除外で。
 こうやってみたらホントバランス良く連れて来てるよ。


「あの壁ごと壊せば良いんだろ! 神を舐めた代償は高く付くと教えてやる!」


 後ろを振り返ると、巨大な球体を作り上げてるテトラが居る。流石神。力でねじ伏せる気か。テトラは収束させた球体を一度圧縮させて、解き放つ。手のひらサイズに収まってた力が氷の壁にぶつかる直前で大きく膨れ上がる。
 流石にこれは通るだろ。そう思ってると赤い鎧を来た何かが横からパンチ一発、かましやがった。


「でやあああああああああああああああああああああああああ!!」


 そんな叫びと共に、放たれる拳が膨れ上がった球体にめり込んでく。そして遂には球体がぐにゃりと曲がった様に見えて、横に弾かれる。まさか--まにさ「まさか」って光景だ。弾かれた球体はもう一つの球体にぶつかって宇宙の彼方に消えて行く。


「ふう、お姉ちゃんの事、見直したかなヒイちゃん?」
「別に、あんなの私の壁を強化すればどうとでもなったよ。ただ馬鹿なヒマにも花を持たせて上げただけ」
「なんだと~! ヒイちゃんはもっと素直になった方がいいと僕は思うな!」
「私はいつだって素直な感想しか言ってないけど?」
「天然!? 天然だからヒイちゃんはいろんな事を許されてるんだね。ズルい」


 あの朱色の鎧に身を包んでるのはどうやらヒマワリらしい。あいからわず頭の悪そうな応答してるな。でもやっぱりアイツの爆発力は凄い物がある。確かノンセルスでも見せてた筈だけど……あれがヒマワリの能力なんだよな。
 アイツは周りの物を何でも纏える。それを自身の鎧に変えて力を得るってシステムなんだろう。まさに前衛タイプ。真っ先に切り込むタイプの能力だよな。多分だけど、爆発力と耐久性ではヒマワリが姉妹の中で一番なんじゃ無いだろうか。蘭の方はあからさまに肌が露出してるし、防御力って面ではヒマの方が固そうだ。
 まああいつ等なら、肌を露出してようがチートな魔法とか掛けて防御力をみず増ししててもおかしくは無いけどな。でもヒマワリは馬鹿だからなのか、分かり易い能力だよな。でも分かりやすいからって攻略出来そう……って訳でもないけどね。
 ハッキリ言ってヒマワリの力は相当厄介。倒すのならああいう状態に成る前に決めないと、勝つ見込みが薄くなる。それだけ何かを纏ったヒマワリはデタラメだ。今のだって、柊は自分でもなんとか出来たって言ってたけど、正直どうだったかは分かんないしな。
 柊は意地っ張りそうだし、それにヒマの事見下してる一面もあるし、強がっただけかも。実際結構テトラの奴も今の攻撃が弾かれたのは驚いてた。それだけ気合いを込めたって事だろ。


「ヒマは色々と残念だからみんなから暖かく見守って貰ってるじゃない」
「やだ! なんかそれやだ! 愛され度が違う気がする! こうなったら、ここで僕の名誉挽回と行くかな?」


 そう言ってヒマワリの奴はこちらを向いて両の拳をかちあわせる。すると響き渡る甲高い音と朱色の波動。気付いたけどあの鎧……どうやら鳥居をぶっ壊して作り出してたみたいだな。だからあの色なのか。


「ヒマ、許してあげる。あんたの名誉、挽回していいわよ☆」
「ようし、シクラからお願いされちゃったし頑張ろうかな」


 やる気満々だな。でもお願いはしてないよな? 許可が出たって感じだろ。ああ、ヒマワリの中の辞書には許可なんて漢字はないのか。流石の馬鹿さだな。


「ちょ……と待ちなさいヒマワリ。そいつ等は私が……これは油断しただけよ」
「そうだ、そいつは俺が殺す!」


 うおっ、まだ結構元気だな蘭も黒い奴もさ。まあ見た目的には殆ど外傷がないからな。HPもそんなに減ってないし……さっきの大量の球体で受けたダメージは何処へ行ったんだ? いや、実は気付かない所で柊の奴が回復してたとか? 取りあえず三人はキツいな。


「二人とも今日はゲームオーバーで~す☆ 流石に神設定を舐め過ぎ。まあ私達の方が強いのは確かだけど、この場所を選んだのは制限付きだからだよ。その位してないとやっぱり厄介だから。まあ私の人選ミスでもあったかもね。
 今の神の力に二人は相性悪かったよ。それでもやっぱり今のは不甲斐ないと言わざる得ないけどね」
「シクラ! 貴様姉に向かって!」
「蘭姐の事はちゃんと姉としてみてるよ。でもね、私が姉妹の中心なの。二人とも今回は打ち止め。良いよね?」
「くっ……武士は自分の非は認める物だ。ここは引いてやる。だが今回は油断しただけだ」
「ふん、いつか貴様も食ってやる」


 二人はそれぞれ負け惜しみを呟きながら、不満たらたらに引いた。やっぱりなんだかんだ言ってシクラがリーダーなんだな。シクラを中心にしてるのが分かる。


「さて、じゃあ僕の舞台を始めても良いよねシクラ?」
「ええ、派手に行きなさい。邪神は厄介だからここで確実に殺しなさい。アンタの力ならそれが出来るでしょう」
「おーけー!!」


 その瞬間ヒマワリは高く飛び立つ。中央に空いた穴を飛び越えてこっちに来る気だ。するとそれに直ぐさまテトラが球体を撃ち放つ。だけどヒマワリの奴はその防具で身を守り強引にこちらに降り立つ。地面入る亀裂と振動。僕達の態勢が僅かに崩れた所でテトラの奴に、一撃を叩き込む。


「僕は今日から『神殺し』っていうカッコイイ肩書きを手に入れるんだ!!」
「させるか!!」


 僕は後ろからヒマワリを斬る。だけどその刃がその朱色の鎧に阻まれる。てかさっき崩した床までも既にその身に取り入れてる? こいつ本当に無差別だな。


「スオウは殺しちゃ行けないんだって。だから簡単には死なないでよね」


 ヒマワリの無邪気な声。だけどそれを聞いた瞬間寒気がした。僕は咄嗟に後方に下がる。だけど直ぐさまヒマワリは追いかけて来る。でもこれだけ重量級な鎧だ。最初の軽装ならまだしも、スピードに自信のある僕が追いつかれるなんて事は無い--そう思ってた。


「逃がさないよスオウ! 僕はこんな事も出来るんだ!」


 その瞬間、ヒマワリは鎧をパージした。そして片腕にパージした鎧を集めて、今度は無骨な腕を作り上げる。それを振り抜いて来た。巨大な瓦礫の腕が僕に迫る。僕はセラ・シルフィングをクロスしてガードするけど、その衝撃は凄まじかった。
 骨がイカれる音と共に、僕の体は大きく吹き飛ぶ。


「がっ--ぐあっ--っづあああああああ!?」


 地面を滑って止まった時には、体がミシミシ言ってるようだった。なんて重い一撃だよ。霞む視界で前を向くと再び鎧を纏ったヒマワリがリルフィンをボコってた。そしてその白銀の髪を切りさいたと思ったら、それを操って朱色の鎧に白銀の刺をつけた。なんてダサいんだ。だけど当人は。


「うっひゃあああ超かっこいい!!」


 とか言ってはしゃいでる。あいつの精神年齢が心配だな。まあ心配されるのは今の僕達の状況かもだけど……相手に……成ってなく無いか? そう思ってると、靄とともにテトラが仕掛ける。二人のぶつかる衝撃がこの場所に何回も響く。


「くっそ……テトラだけに頼ってる訳にも行かないよな」


 僕はイクシードを3を宣言してその戦いに加わるよ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 二人で連撃を叩き込む。だけどその時、丸まったヒマワリが白銀の刺を周囲に放つ。まさか、ただの飾りじゃなかったのか? 爆発して視界を奪う刺。威力はそんなに無かったけど、煙の中からヒマワリの攻撃が襲う。片腕が変な方向に曲がってセラ・シルフィングの一本が飛ばされた。そして体も吹き飛んでまたまた床を転がる羽目に……ヤバいな--HPに余裕がない。


「くっ!」
「そんなんじゃ僕は止まらないよ!!」


 大量の球体を強引に突破してテトラに攻撃を叩き込むヒマワリ。流石に今の状態で接近戦は分が悪い。でも、僕達程度の壁じゃ、テトラが力を貯めるまで持たせる事も出来ない。ヒマワリの鎧を抜くにはかなりの攻撃力が必要だ。一撃で抜かないと直ぐに補強されてしまうしな。


「スオウ!!」


 戦場に響く場違いな声。それはクリエ。端っこで小さくなってれば良いのに……なんで……って僕達が余りに不甲斐ないからか。


「ん? シクラ~アレはどうするの?」
「潰していいわよ。どうせ世界はもうじきセッチャンの為に書き変わるんだからね☆ 今の奴等は殺しても問題無し」
「オッケー!」


 その言葉を受けてヒマワリはクリエに向かう。ヤバい……このままじゃ……クリエなんて一撃できっとやられる。折角復活出来たのに……二回も殺されるなんてだめだろ。僕は立ち上がろうとするけど、折れた片腕側から崩れる。


「くそ……やめろおおおおおおおおおおおおおお!!」


 僕の声で気付いたんだろう、後ろを振り返るクリエ。そしてそこに迫るヒマワリ。振り抜いた凶悪な拳がクリエに迫る。間に合わない!! だけどその時、現れる黒い靄。


「うおああああああああああああああああ!」
「あれれ?」


 靄から現れたテトラが真っ正面からその拳を受け止める。


「なんで?」
「そんなのどうでも良い!! さっさと離れろ!!」
「でも……」


 クリエは床にお尻を付いて動けないみたいだ。まさか腰砕け? 一歩も動けない状態のクリエを守る為にテトラの奴はヒマワリの拳を受け続ける。


「あはは! 邪神なのにそんな子供を守るなんて変なの! このままじゃ死んじゃうよ!!」


 確かにテトラのHPはみるみる減ってる。このままじゃヤバいのは間違いない。テトラの奴があんなになってまで……くっそ、何やってるんだ僕は!


「リルフィン! セラ・シルフィングを!」


 離してしまった一本を、リルフィンに投げ返してもらう。だけど左腕は使えない。僕は風を操ってそれを受け取る。精密な操作も力を込める事も出来ないけど、セラ・シルフィングは二刀だ。二つあった方が気分的にいい。しっくり来る。
 どうにかしないと……でも今の僕達じゃヒマワリにも、いや、ここじゃ分が悪過ぎる。その気になればシクラ達だっていつでも参戦出来るんだ。なら狙うのは一つ……無事で済むか分からないけど、やるしか無い!


「クリエ! そのままでもいい、皆を助ける為にお前の風を貸してくれ!! そこまでやってくれてるテトラを見殺しになんかしたく無いだろ!」
「……………うん!」


 僕の声を受けて、少し迷ったけど、クリエは頷いてくれた。クリエは必死に拙い力で風をくれる。最初に掴んだ風はクリエの風だった。だから向こうも何となくだけどやり方は分かってるんだろう。
 僕は繋がった風を通じて、クリエに狙いを伝えるよ。


【荒っぽくなるけど、良いな?」
【うん、頑張る!!】


 僕は目一杯の風を吹かせてヒマワリに切り掛かる。だけどやっぱり一本じゃ今までよりも弱い。


「もう一息なんだから邪魔しないでよスオウ! 君まで殺したら怒られちゃうよ」
「心配するな。そんな事無いからな!」


 僕は風で掴んでたセラ・シルフィングで動けないクリエをこの場から弾き飛ばす。


「うわっひど!」
「うっせええええええ!!」


 僕は全力で剣線を煌めかせる。そしてそこに解放されたテトラも加わる。


「良くやった! これで!!」
「「吹き飛べええええええええええええええええええええ!!!」」
「うあっちょっっちょちょああああああああああああああああああ」


 風の煌めきと闇の力が無差別を振りまくヒマワリを吹き飛ばす。ようやく……ようやく一矢報いたな。だけどここまでだ。


「やってくれたな~。でも、おらあワクワクしてきたぞお--なんちって、ってええええええええええええええ!?」


 後ろから聞こえる叫び。どうやら僕達の行動が予想外だった様だな。でも……これ以上相手してられるか! 


「撤退は致し方ないが、どうする? どこから逃げるんだ?」
「穴だ。お前が開けた穴。どうなるか分かんないけど、それしか無い! リルフィン!!」
「クリエは確保した!」


 良くやった。まあそっちに飛ばしたんだけど。


「逃がさないよスオウ☆」


 ちっ、やっぱりシクラの奴は反応が速いな。だがな!


「リルフィン!」
「分かってる! 喰らえ!!」


 クリエの言葉でリルフィンがありったけの力を込めて狼の咆哮を響かせる。その効果はスキル解除に体の硬直。僕達はその隙にテトラが開けた大穴から飛び出した。眼下に広がる丸い星。僕はウネリで周囲を囲む。そしてその外にテトラが力の膜を作った。持つかどうかは分からない。でもあの世界に−−帰るんだ!!

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