命改変プログラム
星上の舞台
クリエの消失……だけど悲しんでる暇もない事が起ってる。崩れ出した階段。スキルを封じられてる僕達にはそれを回避する手段が無い。どうして腕の呪い部分が光ってるのかも謎だし、テトラの奴が光ってるのも謎。ついでに言うと鳥居も輝きを放ってる。
何が起きたか分からないまま、僕達は階段の崩落に巻き込まれてく--そう巻き込まれた筈だった。
「あれ?」
だけど何故か僕達の体は落下しちゃいなかった。逆に浮いてる? でも周りを見ると崩壊した階段の残骸も結構漂ってる。これって……そう思ったとたん、今度は残ってた瓦礫共々、一気に上昇が始まった。抗えない力。何かに引っ張られる様に上がってく僕達の目の前には強烈な光が待ち構えてた。
「っつ--------はへ!?」
あまりの眩しさに目を閉じたほんの数秒後、僕達の眼前に夜空よりも広大な宇宙が目の前に広がってた。一体いつの間に成層圏−−所か大気圏を飛び出したんだろう。一番近くに見えるのは大きな青い星。地上から見てるときは青くなんか見えないんだけど……やっぱりここまで近づくとその姿が鮮明になる。
それとも地上ではそう見せてるってだけなのかな? でもこうやって宇宙まで出て来ると分かるけど、どうやら道はあの星までは続いてない様だ。
(あれは本当に地球なのか……)
だとしたら一体どんな意味があるんだろう。すると今度は下の方に引っ張られる感覚が……
「スオウ君あれ!」
「瓦礫がくっついてる?」
一緒に成層圏を抜けて来たらしい瓦礫が円形状の足場に成って行ってる。そして周りには鳥居が沢山そのステージを囲む様に配されてる。僕達は全員そのステージへと誘われるよ。
「ここは一体?」
鍛冶屋の奴が警戒しながら誰もが思ってる事を口に出す。本当、一体なんなんだ? テトラの奴は最後の扉とかなんとか言ってたけど、ここが本当の意味での神の国への入り口なのか? それなら、金魂水を使う場面はここしかないって事になる。
「あれ?」
「どうしたんですかスオウ君?」
僕は錆び付いた機械みたいにぎこちなく首を動かしてシルクちゃんを見る。今気付いたんだけど……僕はどうやらとんでもないミスをおかしたらしい。
「どうしよう……」
「ん?」
訳が分からないみたいに首を傾げたシルクちゃんが可愛い。だけど幾ら可愛くてもこの気持ちは流石に上昇しない。いや、マジで……僕はとんでもない事をやらかした。口にするのも恐ろしいけど……言わない訳には行かないよね。
「金魂水……なくなっちゃってる」
「ええ!?」
まさに「ええ!?」だよ。でもあの時……クリエが消えたあの時、僕は金魂水を回収出来なかったんだ。
「んなにやってんのアンタは!!」
「ふげっ!」
後ろから思いっきり頭を引っぱたいて来たのはどうやらセラだ。いや、これは甘んじて受けるしか無い。どう考えても僕のミスだ。てかマジでどうする?
「アレがどれだけ大事か、アンタが一番分かってた筈でしょ! クリエの願いどうする気よ!」
くっそ……返す言葉も見つからない。正論過ぎて。言い訳をすると、まさか直後に崩壊するなんて思ってなくて--なんだけど、流石にそれを言ったらまた殴られるだろうな。言い訳に意味なんてない。
だって僕は大事な物ってちゃんと分かってた。悲しみに暮れてても、あれは絶対になくしちゃ行けない物だった。それをちゃんと理解してた筈なのに……本当にとんでもないミスをやらかした。これじゃあクリエの最後の願いを叶える事も出来ない。詰んでるじゃないか……悲しみに暮れる前にやる事があったんだ。
でもここまで場面が変わってしまうと……探すとかの問題でもない。あの階段はもう無いんだ。そして僕達にはあの場所に戻る術も無い。
「なんとかしてみ--」
「こればっかりはねスオウ。思いだけじゃどうにも出来ない事よ。私達が頑張れば良い……そんな問題じゃないわ!」
「セラちゃん……」
何一つ言い返せない。確かにこれは僕達が幾ら思いを積み重ねたってどうにも成らない事だ。それだけはハッキリしてる。シルクちゃんが庇ってくれてるけど、正直庇われる資格ない。
「ここまでか……」
おい、何がここまでだリルフィン? ぼそっと言うなよ。なんだかマジな感じに聞こえる。
「リルフィン……お前」
「金魂水が無いのにどうする? これで示せる道はもう無いぞ。邪神も俺達も諦めるしかない。ようは痛み分けだ」
痛み分けってそんな……その状況を作り出してしまった自分が言える事じゃないけどさ、そんなの認められるか。痛みの度合いが違うだろ。クリエはもう居ないんだ。僕達にサナの事を託して逝ってしまった。
ただの痛み分けなんて納得出来ない。こんな終わり方は……絶対に認められないだろ。だけどそれを言えないよ。原因は僕だから。誰かに当たるのは間違ってる。僕は拳を見つめて、信じれないミスを犯した自分を自分で殴る。
「おまっ、何やってる?」
「アホな自分に罰を与えてるんだよ。セラのだけじゃ足りないだろ」
本当になんで……悔やんでも悔やみきれないよ。こんなんでこのミスが消えるなんて思えないけど、気持ちを切り替える為にもにこの痛みは必要だ。
「罰を自ら与えて満足したか?」
「満足? なんかする訳ないだろ。クリエの奴はきっといつまでも悔やんでる姿なんか見たく無いだろうから、打開策を探る方向に頭を切り替えただけだ。クリエの願いを……サナの願いを叶える方法を……」
でもサナの願いは既に無理なのか……クリエは消えてしまったからな。くっそ……それを思い出すと目頭が熱くなる。あの時もしもこうしてたら……そんないろんな後悔が幾らだって押し寄せて来てしまう。
時間を巻き戻せたら……そんなスキルはどこかにないのか? 時間操作はローレとメノウの奴がやってたけど、そう言えば戻す事は見た事無い。やっぱり時間を巻き戻す……なんて事は不可能なのか?
(って、全然打開策に成ってないなこれは。時間を巻き戻すとか、それに相当するスキルを今得るとか……そんなの希望でも何でもなくてただの現実逃避だろ)
嫌な事、後悔してる事から逃げようとしてる。もしもそんな手段があったからって、今ここで僕達に降り注ぐなんて事はあり得ないだろ。どうやらローレの奴はここには居ないみたいだし……時間操作に期待なんか出来ない。
ローレがいれば思わず期待しちゃう所だけど……ただでアイツが力を貸すとも思えないよな。
「打開策か……あれば良いがな。金魂水は他に代え様が無い代物だぞ。ほいほいと落ちてる様な物じゃない」
リルフィンの奴、さっきから結構辛辣じゃないか? 僕を絶望におとしたいの? 泣いちゃうぞ本当に。今は必死に我慢してるんだからな。
「だ、だけど! 何か、何かある筈です!」
シルクちゃんは必死に僕をフォローしてくれる。ありがたい。だけどそれは自分達の為でもあるだろう。だってもう願いを叶えてやる術がないのなら、本当に戦う理由がなくなってしまう。ここまで来たのに、最終決戦に相応わし場所まで到達して、戦う意味を無くしてるなんて……そんなの今までの全てを台無しにされてる様な物だもん。
皆本気だった……だからこそ、こんな所で中途半端に終わりたく無いんだ。終わらせていいなんて、本当は誰一人思っちゃいない。僕達はその何かを探す為にこの床と鳥居しかない空間を見回す。
てかよく見たらこれ……外周を囲む様に鳥居があるんじゃなく、無数の鳥居の中に、この床が出来てないか? なんか鳥居の外にも鳥居が見える。そう思ってると突如激しい音が鳴り響いた。僕達は驚きと共に、そちらに視線を向ける。
「愚かしいな貴様等は。探すだけ無駄だというのに」
「何?」
どうやら今の音はテトラが鳥居の一つをぶっ壊した音らしい。でも無駄って……お前にだって関係ある事だろ。金魂水はこいつも求めるアイテムだった筈だ。それを無駄って良く言えるな。
「金魂水がないとアンタの願いも叶わないのよ。余裕ある事言って、本当は鳥居に八つ当たりしてたんじゃないの?」
セラの奴がとんでもない事言ってる。でもそう言う見方も出来るか? 実は今の言葉は偽り。余裕ある様に見せて、実は内心あいつも困ってるのかも。でもそれならわざわざ鳥居に当たる必要ないよな。
普通にこっちに攻撃を繰り出してくればいい。だってあいつの敵は鳥居じゃない。僕達だ。そして遠慮する理由なんてないだろ。だけどテトラの奴は本当の余裕? を見せてこう言うよ。
「八つ当たりなど無意味だろ。何故なら金魂水はなくなってなど居ないからな」
「なんだと? それってどういう……」
するとその時キラキラと何かが上からこの円周場の丁度中心に降りて来る。あれは…間違いなく
金魂水。でもどうして? てか、どうやって? だって確実に落ちちゃった筈……誰がどうやって更に上から降らしてくれたんだよ。
そう思ってると、激しい音を立ててテトラの奴が床を吹き飛ばす勢いで蹴りやがった。アイツの狙い……そんなの決まってる、金魂水だ!!
「させるか!」
僕達も一斉に走り出す。目指すは中心部分の金魂水。僕達は同じ場所を目指してるから、次第にどんどん近づく事に--そしてそう成ると、潰そうとするのが宿命だ。僕達はそれぞれ反対側に居た訳じゃなく、少し位置的に違う場所にいただけだからね。
向かい合って接近してるんじゃない。次第に並走する形になる位置だ。これでぶつからない訳がないよ。
(そういえばスキルは使えないんだったっけ)
痛いな。でもそれはテトラだって一緒なんだ。恐れる必要は無いよな。こっちの方が数は多い。それなら十分に勝機はあ--
「退け。目障りだぞ貴様等」
--そん風に紡がれた言葉。だけど重要なのはそこじゃない。重要なのは、奴の振りかぶった腕には黒い力が沸き立ってる事だ。
「どうして?」
「どうしてだと? 貴様等は何を今までみてた?」
その言葉でハッとした。まさかさっき鳥居を壊したのは……くっそ、僕達が戸惑ってる中で、こいつは次の一手を打ってたって事か。やられたな。今こいつはその力を使える。
「固まってちゃダメだ! みんな距離を--」
「遅い!」
放たれ様とする黒い力。ヤバい……このままじゃ全員巻き込まれる。まだ動けてないノウイとかなら大丈夫だろうけど、金魂水を目指してた僕達は全員巻き込まれそう。そう成るとこいつの一人勝ち……
(そんな事……)
頭に浮かぶクリエの最後。そして託された願い。その希望がそこにあるんだ。みすみすこいつに渡す事なんかしちゃいけない!
「させるかあああああ!!」
僕は滑り込む様にテトラに接近する。そしてこちらに向かって振られてた腕に合わせて、セラ・シルフィングを下方向からぶつける。切り裂くなんて大胆な事はイクシードも発動出来てない今の僕には出来ない。
だけど僅かに軌道を逸らすくらいなら……そう思ったんだ。そしてそれはなんとか成功した。下からの攻撃で僅かにテトラの腕はブレた。放たれる前の力にはそれで十分。黒い光は皆の走る場所には炸裂せずに結構遠くに落ちる。
「ちっ、小賢しい奴だ」
「スオウ君、鳥居一回でスキル使用は一回だけっす! 邪神はもうスキルを使えないっす!」
「そうなのか?」
なるほど、それも重要な情報だな。それなら危険を犯してまで無茶した甲斐があったって物だ。一回切りならこれでテトラもスキルは使えない。条件は同じに成ったって事だ。僕は更に追撃をするつもりでセラ・シルフィングを向ける。
だけどその時テトラの奴がニヤッと口をつり上げたのが見えた。そして開いた左腕に集う黒い光。まさかこれって……
「残念だったな。ここはさっきまでの場所とは違んだよ」
「っつ!!」
一回切りじゃないスキル使用……今度は逆に僕の腕が奴の力で弾かれる。そして同時に頭に添えられたテトラの手。
(おい、いくら何でもこれは不味い……)
頭なんて……もっともダメージをくらっちゃいけない部分だ。クリティカルが出易い。しかもそれだけじゃすまないのがLROだ。頭なんかにダメージを受けちゃ目眩はするし、下手すれば意識が飛ぶ。それに何よりも、生きてられるかだろ。
こいつの攻撃力は相当だからな。瞳に映る黒い力。弾かれて態勢が崩れた所だから逃れる事も出来ない。すると直前で僕の体が急な衝撃で横に流れる。直後放たれる力が床に直撃した。その余波で僕達は地面を転がる羽目に……だけど助かった。
「一人で勝手に先走らないでよ。一番条件が厳しいのはアンタなんだから、もっと慎重にいきなさいよ!」
怒られた。全くセラは相変わらずだな。確かに条件は厳しいけど、だからって臆してる訳にはいかないだろ。そんな事してたらやられてたぞ。
「だからってアンタは突っ走り過ぎなのよ。最初に突っ込むのは誰かに任せたっていいの。それを任せるだけでも生存率は上がるわ」
「まあな……でも僕が誰よりも一番速い」
そうなんだよね。結局スキル無くてもここじゃ僕はかなり速い。もしかしてずっとイクシードとか使ってるから、筋力とかもそっちに特化して強化されてるのかも。素の状態でもみんなよりも速かったのは自分でも意外だよ。
「ふんそいつの死にたがりは今に始まった事でもないだろう。大人しくクリエの後を追わせてやれば良い物を」
誰が死にたがりだ。僕は別に死にたい訳じゃない。お前等みたいな化け物共が関わって来るから、命賭けなきゃいけない羽目に成ってるんだよ。誰の精だと思ってるんだ。ホント迷惑な神だよ。
テトラはそう良いながら背中を向ける。奴が見据えるのは金魂水。その金魂水は包んでた光がなくなると、コツンと危なっかしく地面に音を立てて落ちた。
「セラ、金魂水が!」
「分かってるわよ!」
そう言ってセラは細い針みたいなのをテトラに向かって飛ばす。だけど流石に全然効いてない。するとテトラは量の手に力を集めてそれらを連続して放ってく。狙いは勿論、金魂水に迫ってたシルクちゃん達だ。連続して放たれるテトラの力がこの空間を埋め尽くしてく。
響く断末魔の叫び。このままじゃヤバい! 僕はセラを押しのけてテトラに迫る。だけど奴は振り返りもせずに後ろに回した腕から力を放つ。
「ぐああああ!?」
触れる事すら叶わない。スキルを使えるのと使えないとじゃ、差がありすぎる。元々途方も無い差があったのに、今の状態じゃテトラを抑える事すら……かなり吹き飛ばされて鳥居にあたる。すると今度はセラも吹き飛ばされて僕と同じ様に鳥居にぶつかった。
「っつ……」
苦しい顔をするセラ。この様子だと他の皆も同じ様になってるかも知れないな。このままだと余裕でテトラが金魂水を手に入れる……それだけは阻みたい。でも……今の僕達にはまさに圧倒的に力が足りない。
折角弱体化してやがるのに……それでも十分強かったけどさ……今の僕達にはその強さを語る資格も無い段階にまで落ちてる。テトラが弱体化してるのなら、今の僕達はアイツにとっては本当に無力な存在にまで落ちてるんだ。
「たく……これじゃあ無理ゲー過ぎでしょ。どうしろって言うのよ」
愚痴を零すセラ。だけどこれは愚痴でも零さないとやってられないよな。けどボロボロになった床や僕達を余所に、テトラは余裕を見せて金魂水に迫ってる。くっそ……止めなきゃいけないのに、今の僕達には立ちはだかる力すらないのかよ。
「この鳥居……」
「何?」
「この鳥居にスキルを復活させる力があるんだよな?」
「この無数の中のどれかでしょ正確には。もしかしたら奇跡的に今触れてるのがそうかもね」
もの凄い低い確率だろうけど、確かにあり得なくは無い。もしもこの鳥居がそれなら……希望は繋がる……か。見上げる鳥居は痛んでる様子も無く奇麗な紅色をしてる。僕とセラはそれぞれ僅かな希望を胸にウインドウを開く。だけど階層を進めても色を取り戻したスキルはない。
「やっぱりそう奇跡なんか起きる物じゃないわね」
そう言いながらセラは立ち上がる。そしてその黄金色の武器を手に前を見据える。何やる気だ?
「スオウ、あんたはスキルを復活させなさい。私がそれまでやれる事はやってやるわ。フォローなんてしないでよね。HPがなくなってもそれはそれでいいわ。どうせ私は死ぬ訳じゃない」
「お前……」
「アンタは負ける訳にはいかないでしょ。自分の為にもクリエの為にもそしてサナの為にも。だからスキルを復活させなさい。みんなだってきっとそう言うわ」
その言葉の直後、大きな叫びを上げてテトラに迫る姿が見えた。それは鍛冶屋にリルフィンに五右衛門だ。そして空を飛ぶピク。だけど速攻でまずはリルフィンの奴がテトラの黒い球の餌食になった。そして二人と一匹の攻撃を楽々かわしてるテトラ。
スキルがないと当たりもしない。相手にさえなってない。ピクが今は唯一属性を持った攻撃をしてる。どうやら火を噴く事はデフォルトで出来るらしいから、今はピクの攻撃が一番強そうに見える。
「みんな……」
「ほら、アンタはさっさと鳥居を調べなさい。私達を助けたいのなら、さっさと風を纏って現れる事よ。期待なんか……ちょっとだけしといてやるわ」
そう言ってセラは走り出す。なんだよ……いつもみたいに毒舌でいくのかと思ったら最後にズルい事を言って行きやがって……これじゃあスキルを復活させるまで絶対に助けになんか入れない。いや、スキルを復活させないと助けに入る--って言う表現もおかしいんだけど。
スキルがないまま加勢しても結果はきっと何一つ変わらない。それをみんな分かってる。だから託してくれてるんだ。僕はセラ・シルフィングを鳥居に突き刺して上へ昇る。この床がどこまでも続いてる訳じゃないからな。
基本この床に一番近い所以外のは浮いてる状態だ。だから鳥居に昇って伝って行くのがいい。だけど上に上がって愕然とする。だってそれは信じれない量だ。まるでデブリかよと言いたくなるくらいに鳥居がそこら中に漂ってる。てかこれって鳥居がLROという世界を一周してるんじゃないか?
「流石にこれだけあれば当たりはあるんだろう。あるんだろうけど……」
ごめんみんな……どのくらい掛かるかわかんない。一体幾つあるんだよ。でも引いてる場合じゃない。取りあえず僕は近くの鳥居に飛び移る。ウインドウを表示したままに次々と渡ってく。
「くっそ……この数に闇雲にあたってて当たるのか? こんなの宝くじに当たるよりも難しいじゃ……」
しかも時間的制約もある。どう考えても宝くじに当たるよりも難しい。すると遠くで黒い光が強烈に弾けた。目を凝らすと皆が床に倒れてた。足りない……力も時間も情報も……全てが僕達には足りない!
こうなったら……僕は握るセラ・シルフィングに力を込める。だってこのまま当たるかもどうかも分からない鳥居を探してていいのか? テトラは既に金魂水に手を伸ばしてる。
「くっそ!」
僕は鳥居を蹴る。だけどここからじゃどう考えても間に合わない。結局全然ダメだったのか。クリエの願いもサナの願いも叶えられないのかよ!
するとその時、テトラの側に透明な鏡が現れる。そしてそこから腕が……というか一気にノウイの奴が現れる。
「させるかっす!!」
テトラにぶつかってそのまま反対側に用意してた鏡に無理矢理突入。そして次の瞬間、テトラとノウイはどこにも足場が無く、そして眼下の星に吸い込まれそうな位置に姿を現した。
(ノウイの奴……まさか今までずっと鳥居を事前に探してたのか? それにあの行動……まさか!)
どこにも掴まれない自由だって効かない……しかもただの宇宙空間じゃなく、星に近い……僕達の場所はきっと不思議な力に守られてるんだろうけど……ノウイが飛んだ所は違うだろう。アイツの狙い……それはきっと。
「クリエちゃんの仇っす!! このまま流れ星に一緒になるっすよお前は!!」
星の引力に引かれてく二人。やっぱりノウイの奴は自分では倒せないテトラを大気圏突入の摩擦やらなんやらで燃え尽きさせる気だ。だからあんな場所に……
「ノウイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
僕は必死に叫ぶ。ノウイお前は逃げる事しか出来ないなんてとんでもない……お前は立派に戦ってる。誰も後ろ指なんか指さない。間違いない。赤く染まってく二人……その姿がどんどん小さくなってく。まるで流れ星の様に……
何が起きたか分からないまま、僕達は階段の崩落に巻き込まれてく--そう巻き込まれた筈だった。
「あれ?」
だけど何故か僕達の体は落下しちゃいなかった。逆に浮いてる? でも周りを見ると崩壊した階段の残骸も結構漂ってる。これって……そう思ったとたん、今度は残ってた瓦礫共々、一気に上昇が始まった。抗えない力。何かに引っ張られる様に上がってく僕達の目の前には強烈な光が待ち構えてた。
「っつ--------はへ!?」
あまりの眩しさに目を閉じたほんの数秒後、僕達の眼前に夜空よりも広大な宇宙が目の前に広がってた。一体いつの間に成層圏−−所か大気圏を飛び出したんだろう。一番近くに見えるのは大きな青い星。地上から見てるときは青くなんか見えないんだけど……やっぱりここまで近づくとその姿が鮮明になる。
それとも地上ではそう見せてるってだけなのかな? でもこうやって宇宙まで出て来ると分かるけど、どうやら道はあの星までは続いてない様だ。
(あれは本当に地球なのか……)
だとしたら一体どんな意味があるんだろう。すると今度は下の方に引っ張られる感覚が……
「スオウ君あれ!」
「瓦礫がくっついてる?」
一緒に成層圏を抜けて来たらしい瓦礫が円形状の足場に成って行ってる。そして周りには鳥居が沢山そのステージを囲む様に配されてる。僕達は全員そのステージへと誘われるよ。
「ここは一体?」
鍛冶屋の奴が警戒しながら誰もが思ってる事を口に出す。本当、一体なんなんだ? テトラの奴は最後の扉とかなんとか言ってたけど、ここが本当の意味での神の国への入り口なのか? それなら、金魂水を使う場面はここしかないって事になる。
「あれ?」
「どうしたんですかスオウ君?」
僕は錆び付いた機械みたいにぎこちなく首を動かしてシルクちゃんを見る。今気付いたんだけど……僕はどうやらとんでもないミスをおかしたらしい。
「どうしよう……」
「ん?」
訳が分からないみたいに首を傾げたシルクちゃんが可愛い。だけど幾ら可愛くてもこの気持ちは流石に上昇しない。いや、マジで……僕はとんでもない事をやらかした。口にするのも恐ろしいけど……言わない訳には行かないよね。
「金魂水……なくなっちゃってる」
「ええ!?」
まさに「ええ!?」だよ。でもあの時……クリエが消えたあの時、僕は金魂水を回収出来なかったんだ。
「んなにやってんのアンタは!!」
「ふげっ!」
後ろから思いっきり頭を引っぱたいて来たのはどうやらセラだ。いや、これは甘んじて受けるしか無い。どう考えても僕のミスだ。てかマジでどうする?
「アレがどれだけ大事か、アンタが一番分かってた筈でしょ! クリエの願いどうする気よ!」
くっそ……返す言葉も見つからない。正論過ぎて。言い訳をすると、まさか直後に崩壊するなんて思ってなくて--なんだけど、流石にそれを言ったらまた殴られるだろうな。言い訳に意味なんてない。
だって僕は大事な物ってちゃんと分かってた。悲しみに暮れてても、あれは絶対になくしちゃ行けない物だった。それをちゃんと理解してた筈なのに……本当にとんでもないミスをやらかした。これじゃあクリエの最後の願いを叶える事も出来ない。詰んでるじゃないか……悲しみに暮れる前にやる事があったんだ。
でもここまで場面が変わってしまうと……探すとかの問題でもない。あの階段はもう無いんだ。そして僕達にはあの場所に戻る術も無い。
「なんとかしてみ--」
「こればっかりはねスオウ。思いだけじゃどうにも出来ない事よ。私達が頑張れば良い……そんな問題じゃないわ!」
「セラちゃん……」
何一つ言い返せない。確かにこれは僕達が幾ら思いを積み重ねたってどうにも成らない事だ。それだけはハッキリしてる。シルクちゃんが庇ってくれてるけど、正直庇われる資格ない。
「ここまでか……」
おい、何がここまでだリルフィン? ぼそっと言うなよ。なんだかマジな感じに聞こえる。
「リルフィン……お前」
「金魂水が無いのにどうする? これで示せる道はもう無いぞ。邪神も俺達も諦めるしかない。ようは痛み分けだ」
痛み分けってそんな……その状況を作り出してしまった自分が言える事じゃないけどさ、そんなの認められるか。痛みの度合いが違うだろ。クリエはもう居ないんだ。僕達にサナの事を託して逝ってしまった。
ただの痛み分けなんて納得出来ない。こんな終わり方は……絶対に認められないだろ。だけどそれを言えないよ。原因は僕だから。誰かに当たるのは間違ってる。僕は拳を見つめて、信じれないミスを犯した自分を自分で殴る。
「おまっ、何やってる?」
「アホな自分に罰を与えてるんだよ。セラのだけじゃ足りないだろ」
本当になんで……悔やんでも悔やみきれないよ。こんなんでこのミスが消えるなんて思えないけど、気持ちを切り替える為にもにこの痛みは必要だ。
「罰を自ら与えて満足したか?」
「満足? なんかする訳ないだろ。クリエの奴はきっといつまでも悔やんでる姿なんか見たく無いだろうから、打開策を探る方向に頭を切り替えただけだ。クリエの願いを……サナの願いを叶える方法を……」
でもサナの願いは既に無理なのか……クリエは消えてしまったからな。くっそ……それを思い出すと目頭が熱くなる。あの時もしもこうしてたら……そんないろんな後悔が幾らだって押し寄せて来てしまう。
時間を巻き戻せたら……そんなスキルはどこかにないのか? 時間操作はローレとメノウの奴がやってたけど、そう言えば戻す事は見た事無い。やっぱり時間を巻き戻す……なんて事は不可能なのか?
(って、全然打開策に成ってないなこれは。時間を巻き戻すとか、それに相当するスキルを今得るとか……そんなの希望でも何でもなくてただの現実逃避だろ)
嫌な事、後悔してる事から逃げようとしてる。もしもそんな手段があったからって、今ここで僕達に降り注ぐなんて事はあり得ないだろ。どうやらローレの奴はここには居ないみたいだし……時間操作に期待なんか出来ない。
ローレがいれば思わず期待しちゃう所だけど……ただでアイツが力を貸すとも思えないよな。
「打開策か……あれば良いがな。金魂水は他に代え様が無い代物だぞ。ほいほいと落ちてる様な物じゃない」
リルフィンの奴、さっきから結構辛辣じゃないか? 僕を絶望におとしたいの? 泣いちゃうぞ本当に。今は必死に我慢してるんだからな。
「だ、だけど! 何か、何かある筈です!」
シルクちゃんは必死に僕をフォローしてくれる。ありがたい。だけどそれは自分達の為でもあるだろう。だってもう願いを叶えてやる術がないのなら、本当に戦う理由がなくなってしまう。ここまで来たのに、最終決戦に相応わし場所まで到達して、戦う意味を無くしてるなんて……そんなの今までの全てを台無しにされてる様な物だもん。
皆本気だった……だからこそ、こんな所で中途半端に終わりたく無いんだ。終わらせていいなんて、本当は誰一人思っちゃいない。僕達はその何かを探す為にこの床と鳥居しかない空間を見回す。
てかよく見たらこれ……外周を囲む様に鳥居があるんじゃなく、無数の鳥居の中に、この床が出来てないか? なんか鳥居の外にも鳥居が見える。そう思ってると突如激しい音が鳴り響いた。僕達は驚きと共に、そちらに視線を向ける。
「愚かしいな貴様等は。探すだけ無駄だというのに」
「何?」
どうやら今の音はテトラが鳥居の一つをぶっ壊した音らしい。でも無駄って……お前にだって関係ある事だろ。金魂水はこいつも求めるアイテムだった筈だ。それを無駄って良く言えるな。
「金魂水がないとアンタの願いも叶わないのよ。余裕ある事言って、本当は鳥居に八つ当たりしてたんじゃないの?」
セラの奴がとんでもない事言ってる。でもそう言う見方も出来るか? 実は今の言葉は偽り。余裕ある様に見せて、実は内心あいつも困ってるのかも。でもそれならわざわざ鳥居に当たる必要ないよな。
普通にこっちに攻撃を繰り出してくればいい。だってあいつの敵は鳥居じゃない。僕達だ。そして遠慮する理由なんてないだろ。だけどテトラの奴は本当の余裕? を見せてこう言うよ。
「八つ当たりなど無意味だろ。何故なら金魂水はなくなってなど居ないからな」
「なんだと? それってどういう……」
するとその時キラキラと何かが上からこの円周場の丁度中心に降りて来る。あれは…間違いなく
金魂水。でもどうして? てか、どうやって? だって確実に落ちちゃった筈……誰がどうやって更に上から降らしてくれたんだよ。
そう思ってると、激しい音を立ててテトラの奴が床を吹き飛ばす勢いで蹴りやがった。アイツの狙い……そんなの決まってる、金魂水だ!!
「させるか!」
僕達も一斉に走り出す。目指すは中心部分の金魂水。僕達は同じ場所を目指してるから、次第にどんどん近づく事に--そしてそう成ると、潰そうとするのが宿命だ。僕達はそれぞれ反対側に居た訳じゃなく、少し位置的に違う場所にいただけだからね。
向かい合って接近してるんじゃない。次第に並走する形になる位置だ。これでぶつからない訳がないよ。
(そういえばスキルは使えないんだったっけ)
痛いな。でもそれはテトラだって一緒なんだ。恐れる必要は無いよな。こっちの方が数は多い。それなら十分に勝機はあ--
「退け。目障りだぞ貴様等」
--そん風に紡がれた言葉。だけど重要なのはそこじゃない。重要なのは、奴の振りかぶった腕には黒い力が沸き立ってる事だ。
「どうして?」
「どうしてだと? 貴様等は何を今までみてた?」
その言葉でハッとした。まさかさっき鳥居を壊したのは……くっそ、僕達が戸惑ってる中で、こいつは次の一手を打ってたって事か。やられたな。今こいつはその力を使える。
「固まってちゃダメだ! みんな距離を--」
「遅い!」
放たれ様とする黒い力。ヤバい……このままじゃ全員巻き込まれる。まだ動けてないノウイとかなら大丈夫だろうけど、金魂水を目指してた僕達は全員巻き込まれそう。そう成るとこいつの一人勝ち……
(そんな事……)
頭に浮かぶクリエの最後。そして託された願い。その希望がそこにあるんだ。みすみすこいつに渡す事なんかしちゃいけない!
「させるかあああああ!!」
僕は滑り込む様にテトラに接近する。そしてこちらに向かって振られてた腕に合わせて、セラ・シルフィングを下方向からぶつける。切り裂くなんて大胆な事はイクシードも発動出来てない今の僕には出来ない。
だけど僅かに軌道を逸らすくらいなら……そう思ったんだ。そしてそれはなんとか成功した。下からの攻撃で僅かにテトラの腕はブレた。放たれる前の力にはそれで十分。黒い光は皆の走る場所には炸裂せずに結構遠くに落ちる。
「ちっ、小賢しい奴だ」
「スオウ君、鳥居一回でスキル使用は一回だけっす! 邪神はもうスキルを使えないっす!」
「そうなのか?」
なるほど、それも重要な情報だな。それなら危険を犯してまで無茶した甲斐があったって物だ。一回切りならこれでテトラもスキルは使えない。条件は同じに成ったって事だ。僕は更に追撃をするつもりでセラ・シルフィングを向ける。
だけどその時テトラの奴がニヤッと口をつり上げたのが見えた。そして開いた左腕に集う黒い光。まさかこれって……
「残念だったな。ここはさっきまでの場所とは違んだよ」
「っつ!!」
一回切りじゃないスキル使用……今度は逆に僕の腕が奴の力で弾かれる。そして同時に頭に添えられたテトラの手。
(おい、いくら何でもこれは不味い……)
頭なんて……もっともダメージをくらっちゃいけない部分だ。クリティカルが出易い。しかもそれだけじゃすまないのがLROだ。頭なんかにダメージを受けちゃ目眩はするし、下手すれば意識が飛ぶ。それに何よりも、生きてられるかだろ。
こいつの攻撃力は相当だからな。瞳に映る黒い力。弾かれて態勢が崩れた所だから逃れる事も出来ない。すると直前で僕の体が急な衝撃で横に流れる。直後放たれる力が床に直撃した。その余波で僕達は地面を転がる羽目に……だけど助かった。
「一人で勝手に先走らないでよ。一番条件が厳しいのはアンタなんだから、もっと慎重にいきなさいよ!」
怒られた。全くセラは相変わらずだな。確かに条件は厳しいけど、だからって臆してる訳にはいかないだろ。そんな事してたらやられてたぞ。
「だからってアンタは突っ走り過ぎなのよ。最初に突っ込むのは誰かに任せたっていいの。それを任せるだけでも生存率は上がるわ」
「まあな……でも僕が誰よりも一番速い」
そうなんだよね。結局スキル無くてもここじゃ僕はかなり速い。もしかしてずっとイクシードとか使ってるから、筋力とかもそっちに特化して強化されてるのかも。素の状態でもみんなよりも速かったのは自分でも意外だよ。
「ふんそいつの死にたがりは今に始まった事でもないだろう。大人しくクリエの後を追わせてやれば良い物を」
誰が死にたがりだ。僕は別に死にたい訳じゃない。お前等みたいな化け物共が関わって来るから、命賭けなきゃいけない羽目に成ってるんだよ。誰の精だと思ってるんだ。ホント迷惑な神だよ。
テトラはそう良いながら背中を向ける。奴が見据えるのは金魂水。その金魂水は包んでた光がなくなると、コツンと危なっかしく地面に音を立てて落ちた。
「セラ、金魂水が!」
「分かってるわよ!」
そう言ってセラは細い針みたいなのをテトラに向かって飛ばす。だけど流石に全然効いてない。するとテトラは量の手に力を集めてそれらを連続して放ってく。狙いは勿論、金魂水に迫ってたシルクちゃん達だ。連続して放たれるテトラの力がこの空間を埋め尽くしてく。
響く断末魔の叫び。このままじゃヤバい! 僕はセラを押しのけてテトラに迫る。だけど奴は振り返りもせずに後ろに回した腕から力を放つ。
「ぐああああ!?」
触れる事すら叶わない。スキルを使えるのと使えないとじゃ、差がありすぎる。元々途方も無い差があったのに、今の状態じゃテトラを抑える事すら……かなり吹き飛ばされて鳥居にあたる。すると今度はセラも吹き飛ばされて僕と同じ様に鳥居にぶつかった。
「っつ……」
苦しい顔をするセラ。この様子だと他の皆も同じ様になってるかも知れないな。このままだと余裕でテトラが金魂水を手に入れる……それだけは阻みたい。でも……今の僕達にはまさに圧倒的に力が足りない。
折角弱体化してやがるのに……それでも十分強かったけどさ……今の僕達にはその強さを語る資格も無い段階にまで落ちてる。テトラが弱体化してるのなら、今の僕達はアイツにとっては本当に無力な存在にまで落ちてるんだ。
「たく……これじゃあ無理ゲー過ぎでしょ。どうしろって言うのよ」
愚痴を零すセラ。だけどこれは愚痴でも零さないとやってられないよな。けどボロボロになった床や僕達を余所に、テトラは余裕を見せて金魂水に迫ってる。くっそ……止めなきゃいけないのに、今の僕達には立ちはだかる力すらないのかよ。
「この鳥居……」
「何?」
「この鳥居にスキルを復活させる力があるんだよな?」
「この無数の中のどれかでしょ正確には。もしかしたら奇跡的に今触れてるのがそうかもね」
もの凄い低い確率だろうけど、確かにあり得なくは無い。もしもこの鳥居がそれなら……希望は繋がる……か。見上げる鳥居は痛んでる様子も無く奇麗な紅色をしてる。僕とセラはそれぞれ僅かな希望を胸にウインドウを開く。だけど階層を進めても色を取り戻したスキルはない。
「やっぱりそう奇跡なんか起きる物じゃないわね」
そう言いながらセラは立ち上がる。そしてその黄金色の武器を手に前を見据える。何やる気だ?
「スオウ、あんたはスキルを復活させなさい。私がそれまでやれる事はやってやるわ。フォローなんてしないでよね。HPがなくなってもそれはそれでいいわ。どうせ私は死ぬ訳じゃない」
「お前……」
「アンタは負ける訳にはいかないでしょ。自分の為にもクリエの為にもそしてサナの為にも。だからスキルを復活させなさい。みんなだってきっとそう言うわ」
その言葉の直後、大きな叫びを上げてテトラに迫る姿が見えた。それは鍛冶屋にリルフィンに五右衛門だ。そして空を飛ぶピク。だけど速攻でまずはリルフィンの奴がテトラの黒い球の餌食になった。そして二人と一匹の攻撃を楽々かわしてるテトラ。
スキルがないと当たりもしない。相手にさえなってない。ピクが今は唯一属性を持った攻撃をしてる。どうやら火を噴く事はデフォルトで出来るらしいから、今はピクの攻撃が一番強そうに見える。
「みんな……」
「ほら、アンタはさっさと鳥居を調べなさい。私達を助けたいのなら、さっさと風を纏って現れる事よ。期待なんか……ちょっとだけしといてやるわ」
そう言ってセラは走り出す。なんだよ……いつもみたいに毒舌でいくのかと思ったら最後にズルい事を言って行きやがって……これじゃあスキルを復活させるまで絶対に助けになんか入れない。いや、スキルを復活させないと助けに入る--って言う表現もおかしいんだけど。
スキルがないまま加勢しても結果はきっと何一つ変わらない。それをみんな分かってる。だから託してくれてるんだ。僕はセラ・シルフィングを鳥居に突き刺して上へ昇る。この床がどこまでも続いてる訳じゃないからな。
基本この床に一番近い所以外のは浮いてる状態だ。だから鳥居に昇って伝って行くのがいい。だけど上に上がって愕然とする。だってそれは信じれない量だ。まるでデブリかよと言いたくなるくらいに鳥居がそこら中に漂ってる。てかこれって鳥居がLROという世界を一周してるんじゃないか?
「流石にこれだけあれば当たりはあるんだろう。あるんだろうけど……」
ごめんみんな……どのくらい掛かるかわかんない。一体幾つあるんだよ。でも引いてる場合じゃない。取りあえず僕は近くの鳥居に飛び移る。ウインドウを表示したままに次々と渡ってく。
「くっそ……この数に闇雲にあたってて当たるのか? こんなの宝くじに当たるよりも難しいじゃ……」
しかも時間的制約もある。どう考えても宝くじに当たるよりも難しい。すると遠くで黒い光が強烈に弾けた。目を凝らすと皆が床に倒れてた。足りない……力も時間も情報も……全てが僕達には足りない!
こうなったら……僕は握るセラ・シルフィングに力を込める。だってこのまま当たるかもどうかも分からない鳥居を探してていいのか? テトラは既に金魂水に手を伸ばしてる。
「くっそ!」
僕は鳥居を蹴る。だけどここからじゃどう考えても間に合わない。結局全然ダメだったのか。クリエの願いもサナの願いも叶えられないのかよ!
するとその時、テトラの側に透明な鏡が現れる。そしてそこから腕が……というか一気にノウイの奴が現れる。
「させるかっす!!」
テトラにぶつかってそのまま反対側に用意してた鏡に無理矢理突入。そして次の瞬間、テトラとノウイはどこにも足場が無く、そして眼下の星に吸い込まれそうな位置に姿を現した。
(ノウイの奴……まさか今までずっと鳥居を事前に探してたのか? それにあの行動……まさか!)
どこにも掴まれない自由だって効かない……しかもただの宇宙空間じゃなく、星に近い……僕達の場所はきっと不思議な力に守られてるんだろうけど……ノウイが飛んだ所は違うだろう。アイツの狙い……それはきっと。
「クリエちゃんの仇っす!! このまま流れ星に一緒になるっすよお前は!!」
星の引力に引かれてく二人。やっぱりノウイの奴は自分では倒せないテトラを大気圏突入の摩擦やらなんやらで燃え尽きさせる気だ。だからあんな場所に……
「ノウイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
僕は必死に叫ぶ。ノウイお前は逃げる事しか出来ないなんてとんでもない……お前は立派に戦ってる。誰も後ろ指なんか指さない。間違いない。赤く染まってく二人……その姿がどんどん小さくなってく。まるで流れ星の様に……
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