命改変プログラム

ファーストなサイコロ

見えないゴール

「はぁはぁ……」


 どこまでもどこまでも昇っても見えないゴール。流石にこれは終わりなんか無いんじゃないかとさえ思えて来たっす。それか条件があるとか。道はもしかしたら、完全には開いてないんじゃ? そんな考えが頭をよぎるっす。


「だい……じょう……ぶ?」


 か細い声で背中の方からそんな声が聞こえてくるっす。うう、まさか守るべき少女から心配されるとは……でもしょうがないっすね。これだけ自分ゼィゼィいってるっすからね。いや、でもホント、幾ら仮想だからってそろそろ限界が……だけどクリエちゃんの手前、そんな事を言っちゃう訳にも行かないっすよね。


「だ……大丈夫っすよ。全然自分は平気っす!」


 無理に笑顔を作ってみるけど、何故か顔の筋肉まで引く付いてる感じがするっす。どうして顔面まで……それだけ疲れが全身を覆ってるってことっすかね? このままじゃ大丈夫じゃないのがバレそうなんでクリエちゃんにも話を振るっす。


「クリエちゃんどうっすか? 平気--っすか?」


 ペースを落としながらも地道に階段を上がってくっす。実はちょっと前から思ってたんすけど……後ろで支えてる筈のクリエちゃんの事が怖くなって来たっすよ。幽霊的な事じゃないっすけど、なんだかさっきから本当に居るのか分からなくなってきたって言うか……端的に言うと重さを感じなくなって来た感じがするんすよね。
 最初はちゃんと子供としての重さがあったっす。この世界に存在してるって重さ。でも今は、それすらも彼女は曖昧になってるっす。まだ声も届くから良いっすけど、もしかしたらもうすぐでこの声までも曖昧に成っていくんじゃ……そう思うと結構怖いんす。
 だから少しでも会話して、その存在を確かめていたいんす。


「えへへ……平気だよ。クリエも大丈夫。ズル……してるもんね。自分でやり遂げなきゃ……いけないのに……皆に……助けられてばっかりだよ」


 そう言ってから元気に笑う声が自分には痛々しいっす。こんな小さな子が自分一人で何か出来る訳も無いのに……それでも自分がやる事をやりたい事を見つめて一生懸命やって来たっす。自分の様な大人には眩しい姿っす。でもだからこそ、自分たちはこの子の願いを成就させたいと思うんす。この子の事を見限らないのは、クリエちゃんの姿勢だってある。ブレないんすよね……出会った時からひたむきで、真っ直ぐっす。
 社会や人間関係という周囲に直ぐに影響されて自分の信念さえもブレブレな大人とは違うっす。眩しいんすよねそう言うのが。子供は周りの大人が守ってあげるものっす。


「それで良いんすよクリエちゃん。助けられる事はズルなんていわないっす。それに自分たちは好きでやってるんすよ。クリエちゃんが好きだから助けたいと思えるんす。それはクリエちゃんの魅力なんすよ」
「ふふ……なんだかノウイが言ってもしまらないかも……」
「そ、それは酷いっすよクリエちゃん! 自分の何が締まんないっすか? 目っすか!? この胡麻みたいな目が悪いんっすか!?」


 いつもそうっすよ。ちょっと真面目な事を言うと笑われるんす。この目じゃ真面目な事を言っても聞いてる方からしたらギャグなんす。自分だって好きでこんな目をしてる訳じゃないのに……この目のせいで損ばっかりするっすよ! 


「ごめんね……でも……ノウイらしいなってクリエは思うよ。ノウイはね……とっても近寄りやすくて……暖かいよ」
「うっ!」


 クリエちゃんの言葉に胸がキュっとしたっす。あ、あんまりそんな事言われ慣れてないから、慰みだとしても嬉しいっす。それに頼ってくれてるんすもんね。寧ろもっともっと頼ってくれても良いくらいっす。これは全然全く、ズルなんかじゃないっすからね。
 まあ自分は戦う事も出来ないっすから、頼りがいがあるとは思われてなさそうっすけど……でも今は自分しかこの子を守れないっすからね。
 この子の願いは今は自分の中にあるっす。自分の足に、掛かってる。みんなに託された思い……それがこんなに重いとは--って感じっすけど、ここで投げ出す訳には行かないっすからね。自分は純粋でもまっすぐでもなくて、信念なんて言える程、大層な物も夢も、持ち合わせてなんてないっす。ただ日々を生きてきて、ちょびっとの幸せで、きっと満足出来る……そんな小さな人間っす。
 LROに来ていろんな人達にあって、少しずつ変わろうとしてるっすけど、それも上手くなんて行ってない。憧れる人--凄いと思える人--心を奪われた人--そんな人達に直ぐ側で、リアルよりも身近に居れるって事だけで自分的には本当に満足っすからね。
 でもだからこそ失望とかもされたく無い訳で……自分はスオウ君のようにはきっとなれないっすけど、出来る事からはもう逃げないっす。


「どう……したの?」
「はは、なんでもないっす。クリエちゃんのおかげでまた元気が出て来ただけっすよ」
「そうなんだ……」


 そう言って少し目を閉じる彼女。ちょっとは安心してくれたって事っすかね。それなら良いんすけど……これ以上この小さな体に負担をかける訳にはいかないっすからね。ミラージュコロイドが使えればどこまでだって簡単に登れるのに……本当に悔しい所っす。
 自分は再び上を見つめるっす。だけど今まで一生懸命走っても、ゴールらしき場所は見えてないっす。けど高度は上がってるのは確実だと思うっす。空気はなんだか薄く感じるし、雲も既に下側に見える。
 でも……本当にこのまま月まで走れって……そう言う事なんすかね? それがちょっと考えられないっす。そもそも自分たちは月の姿を世界樹の傘で見たっす。あれは神の国……なんて物じゃなく、地球の姿そのものだったんす。まあもしかしたらこっちではあの地球こそが神の国? って事なのかもしれないっすけど……でもあそこまで走らせられるとは流石のLROでもないと思うんすよね。
 この道は確かに空の月に伸びてるっすけど、続く神の国ってのはあの月その物じゃないんじゃないかって事っす。まあ実際、月まで走りたく無い自分の願望っすけど……だって月まで走るとか、何時間かかるんだよって話っすよ。いや、何時間じゃきっと済まないっす。
 物理的な距離をちゃんと移動するのもLROの魅力っすけど、流石に限度って物があると思うっす。それにこのまま普通に、もしも本当にこの階段が月まであるとしたら、金魂水を使う場面ってのがないっす。
 邪神もこれを使う場面は他にあるとか言ってたっすから、何かがきっとある筈なんす。だけどここまで登って来て思った事は、もしかしたらただ登るだけじゃ、その場所へは辿り着けない様になってるんじゃないかって事っす。


(けど、この階段以外にあるものって行ったら鳥居しか……)


 ただの飾りかと思ってたっすけど、何か仕掛けでもあるんすかね? 十メートル間隔くらいであるんすけど……だけど全部同じにしか見えないっす。でも一応近づいてみる。ペタペタと触って気付いたのはこれ……なんか木じゃないって事っすね。
 でも鳥居ってよく考えたら木じゃないっすね。大きい所の鳥居って金属でドカーンって門構えしてる感じっす。ちっちゃくて古ぼけた所の鳥居は木のイメージもあるっすけど、どうやらこの続いてる道の鳥居も何かの金属? ぽいっす。


(クリエちゃんの力を使って開いた道……なんすよね)


 鳥居にはよく見たら光が内部を走ってる。でもだから何って事っすよね。それと更に気付いたのは、この道の周りで発生して落ちていってる光の粒の中にはどうやら黒い色のもあるみたいっす。やっぱり邪神と女神の力の残滓かなんかなんっすかね。
 ここでスキルを使えないのは、神の力に関係してる……とか? でも何か有益な物が手に入る訳じゃないっすね。


(やっぱりもうちょっと上へ行けば何かがある?)


 そんな思いが強くなるっす。だけど……そう思ってここまで必死に登って来たんすよね。後少し行けばきっと……そう思って既にこんな高さっすよ。ここまで来て何もないんだから、別の何かを探しちゃうのはしょうがないっす。
 寧ろ疑わないと駄目っすよね。このまま馬鹿正直に登ってるだけじゃ駄目なのかも……そう思わないと無能っすよ。自分だってこのくらいの頭はあるっす。目が胡麻粒並みだからって頭までそうじゃないっすからね。
 でも……幾らまじまじ見ても別に鳥居にもこの階段にも何かがあるようには見えないっす。


(いや、まだ諦めるのは早いっす! きっと何か……きっと何かある筈なんす!)


 たまたまこの鳥居はハズレだっただけかもしれないっすからね。自分はもう一つ先の鳥居を目指すっす。


(どうっすか!?)


 キョロキョロとくまなく見回す。だけど別にさっきのと変わりはない。


(これだけあるっすからね。外れの方が多いのは当たり前っすよね)


  そう言い聞かせてもう一つ先の鳥居に向かうっす。無数にある鳥居のどれかにはきっとちょっと違う何かがある……そう自分は思ってるっすよ。だって他に仕込める場所なんてないっす。でもこの先のも、そしてその先のも駄目っす。
 別段他と変わりなんてない。これだけあるっすから一つ二つ先単位じゃないのかもしれないと思ってもいいんすかも。自分は取りあえず十個先くらいまで行ってみるっす。勿論それなりに途中の鳥居も確認するっすよ。
 百パーセント途中のに何か変化が無い……なんて言えないっすからね。


(う~ん……)


 結局ここまでで何か他とは違うって感じのは見受けられなかったっす。やっぱり上へ上がるしかないって事っすか? でもどう考えても走って月へは行けないっすよ。


(もしかしたらあとちょっと先の鳥居になら……結論を出すのは早いっすよね)


 そう思って自分は頑張って鳥居を注視しながらどんどん上へ登るっす。


(まだまだっす……)


 二十鳥居くらい進んだっす。


(まだまだ……)


 更にそこから二十鳥居くらいまた進んだっす。




(まだ……ってこれじゃ、ゴールがあると思って走ってた時と同じじゃないっすか!!)


 今更気付いたっす。自分のアホさ加減に一人バシバシ地団駄踏むっすよ。あんまり声を荒げて、瞳閉じてるクリエちゃんに気付かれたく無いっすから心で叫んで控えめな行動で自分のアホさを嘆くっすよ。


(う~ん結局、上へ進むしかないって事なんすかね?)


 分かんなくなって来たっす。自分にはセラ様みたいな優秀な頭ないっすからね。でもそれじゃあ金魂水はどこで? わかんない……わかんないっす。


(何か……何かあると思うんすけど……)


 うう、与えられた命令しかやってこなかった弊害っす。潜入の時は色々と考えたりするっすけど、だいたいどうにかなったりする物っす。それに自分だけじゃない事も多いっすし、寄り道したって思わぬ情報が手に入る事もあって良い事もあったりするっす。
 だけど今はそんな潜入とは違うんすよね。見つからない様にしてる訳でもないし、既に自分の存在は最大の敵に知られてるっす。時間に追われるだけの恐怖じゃない、自分を完全に狙ってるって言う恐怖は焦りに成るっすよ。
 皆が頑張ってくれてるとは思うっすけど、それも自分を信じての事なんす。自分がクリエちゃんをちゃんと守って送ってくれるとみんな信じてくれてる……その責任。今までの自分の仕事は中継ぎみたいな物が殆どで、重要だけど、最後に決めるって事が無かったポジションっす。
 でも今は野球で言う抑えで、サッカーで言うストライカー的ポジションな感じっすよね。自分が打たれたら、今までの皆の努力が一瞬で泡に消える……自分が決めれなかったらもう負けみたいな場面。
 だからこそプレッシャーも半端ないっす。いきなり任されたのは失敗が許されないエースポジションっすからね。日の当たらない場所にずっと居た自分には重みが半端ないんす。でもだからこうやって無い頭を絞ってるのに、全然何も思い浮かばないのが悔しい。
 一体どうしたら頭って良くなるっすか!? 今直ぐに閃きって奴がほしいっす。こうやって考えてる間にもクリエちゃんの存在は薄まって来てる筈っす。消えちゃうかもしれないその恐怖もあるっす。


(何かを見つけないと自分はいけないんす!!)


 するとその時気付くっす。下の方から聞こえて来る足音に。タン……タンと一定の間隔で刻まれる足音。自分は螺旋状に成ってるこの階段を覗き込むっす。


「ひっ!?」


 思わず喉が鳴ってしまったっす。それだけの恐怖が一瞬で押し寄せて来た。だってあれは……あれは間違いなく邪神テトラっす。


(えっと……あれ? これってどういう事っすか?)


 邪神がこの階段を上って来てるってことは……その、えっとつまりは……ヤバい、焦りすぎて頭がまともに回らないっす。すると自分のおかしな声に反応したのか、クリエちゃんが目を開けたっす。


「う……ん、どうしたの?」
「な、なんでもないっすよ。きっともうすぐ一区切りくらいつくと思うっす。だからそれまでクリエちゃんは寝てて良いんす!」
「だい……丈夫?」
「何がっすか?」


 一瞬ドキンとしたっす。何かを感じ取ったんすかね? 子供は妙な所で鋭かったりするっすよね。だけどここは平常心を装うっす。だって邪神が追いかけて来てるなんて知られる訳にはいかないっす。だってそれは……それは……え~と、とにかくヤバいっすからね。
 教えない方が良いっす。


「ううん……ありがとノウイ」
「……いえいえっす」


 何かを感じてた筈っすけど、思い過ごしって思ってくれたんすかね? クリエちゃんは何も言わずにお礼だけくれたっす。そんなのまだ早いっすのにね。自分はまだ何もやり遂げてないっすから。でももしかしたら先にお礼を渡す事での使命感のアップを計ったとか……いやいや、そんな訳ないっすね。
 クリエちゃんはそんな打算的な子じゃないっす。きっと純粋にお礼を言いたくなっただけっすよね。再び目を閉じたクリエちゃんを見て自分はこう思うっす。


(この子を犠牲になんかさせないっす)


 守りたいと心から思うのはスオウ君だけじゃないっすよ。こういうのは父性とか言うんすかね? なんだか小さな子に頼られると、自分が守ってやらないとっておもうっす。


(取りあえず距離を取る事が大事っすよね)


 このまま上へ登り続ける事が正しいのか……それは分かんないっす。自分的には何か仕掛けがあるって思えてならないけど、追いつかれたら元も子もないっすからね。自分じゃ邪神には手も足も出せないっす。出せたとしてもきっと傷一つ負わせられない。
 逃げるしか自分には出来ないっす。幸いまだまだ距離はあるっす。そしてここではスキルは使えない。それならこのアドバンテージが埋まる事は無いかも知れないっす。幾ら邪神だからってスキルが使えないなら自分たちとそう変わらない筈っすからね。
 それに向こうはただ歩いてるだけ……追いつかれるなんてそんな----えっ!?


(なっ……一体どういう事っすか!?)


 少し目を離しただけなのに、いつの間にかかなり登ってきてるっす。どう考えてもあの歩行ペースとこの短時間で登れる距離じゃない。なんなんすかあれは一体? 腹の底からジワジワと大きな不安が競り上がってるくるのを感じるっす。


「くっ!」


 自分は急いで階段を駆け上がるっす。余裕なんて無い……そう自分のシグナルが伝えてるっす。自分のこの感覚だけは外れた事が無いっすよ。自分は引く時は引くっす。この感覚が押し寄せたら、一人じゃ絶対に深追いはしないっす。潜入の心得っすよ。
 自分の生存率の高さもこの感覚で危険回避してるのも大きいっすからね。まあ最近はスオウ君とつき合いだしてこの感覚でも向かう事が多くなったっすけど、一人じゃ流石にこの感覚を覆せるなんて思えないっす。
 自分は自分の事を最も良く知ってるっすからね。自分には覆せる力は無いっす。そしてクリエちゃんもこの状態。自分が連れてってあげないと行けないんす!!


「はっはっはっは--」


 こっちは出来る限りスピードを維持してる筈なのに……どうして、ただ歩いてるだけの邪神が追いついて来るんすか!? 時々振り返る度にその差は縮まってるっす。スキルは使えない筈なのに……それとも邪神は例外なんすか? アイツはきっともうこっちを視界に捉えてる筈っす。
 自分は棒のような足にさらに鞭を打つっす。そしてアイテムを活用して、無理矢理スピードアップっす! だけど……


 タン……タン……タン……タン……タンと迫る足音は何故か鮮明に耳に届くっす。まるで何かのカウントダウンみたいっす。近づいて来る事がはっきりとわかる……


(なんで……どうして追いつけるっすか!?)


 おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかいしおかしい--そんな言葉が頭で回りまくるっすけどなんの解決にもなりはしないっす。逃げ足の速さだけが自分の取り柄なのに……それすらも邪神は易々と超えるっすか! 自分から全てを取り上げるっすか!
 すると遂に直ぐ後ろからその存在を感じたっす。


「ほら、どうした? 自慢の逃げ足はそんな物か?」


 伸ばされる手をかわす為に自分はジャンプするっす。そしてクリエちゃんを隠す為に、向かい合うっす。追いつかれてしまった……こんなに早く……内心、そんな事を思って泣きそうっす。でもそんなの見せる訳には行かないっす。
 ガクガクブルブル震えそうになってる足を必死に押さえつけながら、自分は邪神をにらむっす。


「なんで……どうして追いつけるっすか? ここじゃスキルは使えない筈っす!」
「貴様に教える必要などないな。さっさと金魂水を渡せ。死にたく無ければな」


 くっ……追いつかれてしまった以上、自分にはもうどうする事も出来ないっす。だけど素直に渡すなんて出来ない。でも向こうはスキルを使う術を知ってるみたいっす。スキルを一切使えない状態の自分じゃ、一瞬で葬られる事は目にみえてるっす。
 一歩を踏み出す邪神。それに合わせて自分は一歩階段を上って後ろに引くっす。するとテトラの声を聞いてクリエちゃんが目を覚ますっす。


「テトラ……スオウ達は……」


 やっぱりそれを聞いちゃうっすか。確かに気になる事っすけど……それは……


「分かるだろうクリエ。お前のその拙い頭でも。俺がここに居るんだ。スオウは死んだ。事実としてな」
「死……んだ?」


 自分は何も言わずに唇を噛み締めるっす。死んだ……そうそれなんす。こいつがここに居るってことはセラ様達は倒されたって事になるっす。それならスオウ君は……そう言う事になってしまうっす。やっとで頭が整理出来たっす。やりたくも無かった整理っすけど……クリエちゃんはその言葉を聞いて頭を何度も振るっす。


「違う……違う違う。スオウは死んでなんかないもん! 死ぬ筈無い!!」
「心配するな。直ぐにお前にもわかるさ。なんせ同じ場所に直ぐにいけるんだからな!!」


 そう言ってテトラは一気に自分に迫ってくるっす。幸いスキルを使った攻撃じゃない!? 自分は最初の一撃をかわっすっす。ただのパンチなら大丈夫。スキルを使った攻撃はどうしようないかもっすけど、この程度なら……そう思ってると連続で攻めて来たっす。しかも流石神だけあって、こう言う戦い方も出来るんすね。
 鋭いっす。それに階段って所がまた避けにくい。足下まで気にしないといけないんす。そんな矢先にやっぱりっすけど踏み外す。そこを狙って打ち込まれる右ストレート。


「なめるなっす!」


 自分の取り柄は逃げ足と回避能力の高さっす!! 例えスキルは使えなくたってしぶとく生きてやるっすよ! 踏み外した場所を更に蹴って体を移動させる。邪神の拳は鳥居に突き刺さるっす。そして自分は何段か転がり落ちるっす。
 だけど直接攻撃を受けるよりはずっとまし……だけど次の瞬間、自分の視界に黒い靄が見えたっす。そして一瞬で体が吹き飛ばされて今度は階段を跳ね上がってく羽目に……


「がっ……はっ……」


 何が……一体何が起きたっすか? だって邪神はあの時はまだ上に居た筈……スキルっすか。やっぱり使えるっすか?


「うう……」


 か弱い声……クリエちゃんを落としてしまってる。早く抱えてあげないと……そう思って立ち上がろうとすると再び黒い靄と共に、テトラの足が目の前に現れた。そしてその足が自分の顎を跳ね上げるっす。


「がっは……」
「ノウ--イ……」


 やっぱり自分じゃ……役不足だった様っす。今度は回転蹴りで更に上へ跳ね上がる。なんとか落ちなかったのは、鳥居が自分を受け止めてくれたからっす。離される自分とクリエちゃん。だけど邪神は既にクリエちゃんには目もくれないっす。HPがレッドゾーンに入ってしまってるっす。次の一撃で自分はきっと死ぬっすね。
 結局何にも期待に応えられてないっす……霞む視界はきっと脳を揺さぶられただけじゃない……悔し涙もきっと混じってるっす。霞む視界で見据える邪神は、真っ直ぐに自分に向かわずに何故か近くの鳥居に向かうっす。そして次の瞬間再び視界に黒い靄が。


(なんだろう……今……何をしたっすか?)


 自分は受け止めてくれてる鳥居を見るっす。


(今……何を……)


 頭が上手く働かない。そんな自分にテトラは腕を伸ばしながらこう言ってくる。


「さあ、死にたくなかったら金魂水を出せ」
(……スキルが使える筈なのにどうして……)


 どうして無理矢理に奪おうとしないっすか? そのくらい邪神なら出来そうなのに……自分は心の中でこの言葉を紡ぐっす。一か八か……もしかしたらやってみるっす。


(ミラージュコロイド発動してくれっす!)


 その瞬間自分はテトラの目の前から消えるっす。そしてクリエちゃんの場所まで飛ぶっすよ。


(出来た……)


 でも現れてた鏡は直ぐに消えていくっす。維持出来ない? でもまだ何かやりようはあるのかも知れないっす。


「ノウイ……もう……いいよ」


 抱えたクリエちゃんがそう泣きながら紡ぐっす。だけど自分はそんな言葉を聞かずに言うっすよ。
「いく無いっすよ。スオウ君達の事、信じ続けるっす!!」


 クリエちゃんに初めて大きな声で紡いだ言葉っす。そんな自分にきっと彼女はビックリしたに違いないっす。だけどクリエちゃんは涙を拭ってこう言ってくれたっす。


「うん……うん! 信じたいよ!」


 信じさせるっす。きっと皆来てくれるっす。根拠なんてない。だけどそう思うっす。そして自分は絶対にこの子を守って連れて行くんす……その場所まで!!

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